夢幻航路   作:旭日提督

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第九○話 再会と新拠点

 ~始祖移民船・宇宙港~

 

 とりあえずは移民船の破綻AIとフネの利用権に関する契約を終えて宇宙船用エアロックに向かった私達の前に、小型の内火艇が着陸する。―――私の艦隊で使われていたタイプの艇だ。

 

「無事だったか、艦長」

 

「ええ、何とかね。この通り五体満足よ」

 

「私も大丈夫ですよー」

 

 内火艇から降りてきたサナダさんは開口一番、私の無事を確かめるように問い掛けた。

 

「ふむ、それは良かった。…………で、この船は一体何だ?見たところ移民船の類と見たが」

 

「ああ、それなら………」

 

「此処は始祖の方舟、―――第五世代型長距離撒種移民船、MAYA2655号船団一番船。この時代では、"始祖移民船"とも呼ばれているモノです」

 

 サナダさんの質問に答えようとした私を遮って、このフネの統括AIを自称するブロッサムがそれに応える。私達に見せたようなおちゃらけた態度ではなく、至って真面目な口調だ。サナダさんはその自己紹介でこのフネの凄さに気付いたみたいで、いつもは半開きの両眼が驚きのせいか大きく見開かれた。

 

「始祖移民船………だと………!?」

 

「はい。そして私はこのフネの総合統括AI、BBちゃんです♪今は故あってブロッサムと名乗らせてもらってます♪以後お見知りおきを~」

 

「あ、ああ………」

 

 真面目な口調から一転して、私達に対するのと同じような挑発的な口調で自己紹介するブロッサム。その変貌ぶりにサナダさんも面食らってるみたいだ。

 だけどそこは流石のマッド、すぐさま思考を切り替えたようで冷静に彼女に対して質問する。

 

「………大体の事情は分かった。早速だが、このフネはどの程度使える?統括AIの君が生きているということは主要なシステムは無事なのだろう?」

 

「あ、はい。大体その通りですよー。循環型バイオプラントも密閉型ケミカルプラントも全て無事です。電力さえ融通すれば造船所や部品工場も動かせます。あなたの求めているモノなら、殆ど手に入ると思いますよ?」

 

「そうか………有難う。全く、とんでもないものを引っかけたな艦長。君の強運には滅入るよ本当」

 

「ふふん、私を拾ったこと、感謝しなさいサナダさん」

 

「あらあら、自慢ぶっちゃって。そこの紅白次第では交渉決裂してたんですけどね~」

 

「なっ―――!?」

 

 唐突に、これ見よがしにとブロッサムが煽ってくる。

 いきなりの攻撃に戸惑って言い澱んだ私をよそに、サナダさんは淡々と話を続けた。

 

「M33銀河での遺跡に続いて稼働状態の始祖移民船まで引き当てるとは、ここまで来ると最早偶然とは言いきれないのかもしれないな。少々非科学的なことかもしれないが、艦長には何かしらの"加護"のようなものがあるのかもしれん。まぁそれはさておいて、先ずはこのフネの仕様を知りたい。何よりも我々には水と空気に食糧が必要だ。その生産の為にも君の力が必要なのだが、協力してくれるかな」

 

「え?あ、はい………一応そこの艦長さんとは契約しちゃいましたから元々そのつもりでしたし、いいでしょう」

 

「うむ、協力感謝する」

 

 一応最高責任者の私を頭ごなしに、サナダさんとブロッサムの間で淡々と今後の予定が組まれていく。

 ………まぁ今まで残存艦隊を率いてきたのはサナダさんな訳だし、そっちでやってくれるなら私は何も言うことは無いけど………

 

 ―――それにしても、"加護"かぁ………割と当たってるって言えば当たってるのよねぇ………

 

 サナダさんが何気なく溢した独白に、いつの間にか居着いていた守矢の祭神二柱のことを思い出す。確かにあいつら、というか神奈子は"戦い"に関しては何かしらの加護を与えていたとか言っていたような気がするけど、もしかしたら純粋な"運"に関してもそういったものがあったのかもしれない。

 

 ―――にしては、タイミングが少々不自然な気もするけど………

 

 だけど神奈子達が私の神社に住み着いたのは少なくとも早苗が統括AIに取り憑いた後の筈だ。即ちどんなに早く遡っても〈高天原〉建造のタイミングになるんだけど、その頃の早苗はまだ純粋な「統括AI・サナエ」だった筈だ。あの頃は声以外、何一つとして早苗の要素を感じなかったし、不自然な挙動や気配も全く無かった。彼女の挙動を見るに「AIサナエ」が「東風谷早苗」に置換されたのは小マゼラン銀河に入ってから、と考えるのが一番自然だ。

 

 ―――そもそもこのだだっ広くて世紀末な宇宙でサナダさんとコーディみたいに比較的まともな人達に拾われて、強力な宇宙船を造れる遺跡を立て続けに二回も見つけるなんて、よくよく考えたら凄まじい強運じゃない。おまけにこの宇宙じゃ超貴重なアーティファクトのエピタフまで見つけてるし………確かにサナダさんがあんな表現を使うのも頷けるわね。

 

 改めてこの世界に来てからの私を振り返ってみると、我ながら凄まじい強運だ。昔から賭け事にはそこそこ自信はあったけど、これはそんな比じゃない。サナダさんの言うとおり何かしらの"加護"があったと見るべきだろう。―――でも、誰が?少なくとも神奈子達では加護の性質もタイミングも合わない。………じゃあ、もしかして紫?………でもあいつそもそも神様なんてものじゃないし、暗躍はできてもこんな芸当できるなんて思えないし………

 

「―――さん?」

 

「っ!」

 

「霊夢さん、どうかしましたか?」

 

「うん、あ、いや………何でもないわ。ちょっと考えごとしてただけ」

 

「それならいいんですけど………ちょっと怖い顔してましたよ霊夢さん。本当に大丈夫なんですか?」

 

「大丈夫って言ったら大丈夫。………ところで早苗、ちょっと訊くけど―――」

 

「はい、何ですか?」

 

 ………どうやら早苗の呼び掛けにも気付かないぐらい考え込んでいたらしい。これで余計な心配をかけても悪いし大丈夫だとは答えるけど、内心はそれどころではない。

 どうしてもこれだけは確認したくて、私の様子を訝しむ早苗に尋ねる。

 

「………あんた、こっちに来たのっていつぐらい?」

 

 まだ私は先程までの思考に引き摺られているみたいで、ついそんなことを訊いてしまった。

 

「え?――――っと、その………大体小マゼラン銀河に入る前ぐらいですねぇ。フネがゴンゴン揺れてたのは覚えてます」

 

 艦がゴンゴン………多分戦闘してたときね。だとしたら七色星団のヴァランタイン戦か、一度目のあのクソアマ………偽魔理沙との戦闘ね。

 

 ―――確定、か。

 

 私に働いている加護は、守矢の力以外にももう一つ存在する。

 それが何なのかは分からないけど、少なくとも今まで私にはプラスに働いていたことだけは感謝しよう。

 

 ………誰のかも分からない後押しなんて、却って不気味なところもあるんだけれど。

 

「艦長、何をしている?一度旗艦に戻るぞ?」

 

「霊夢さん、さっきから考えごとばかりして、このままじゃ置いてかれちゃいますよ?ほら早く早く!」

 

「え?………あ、今行くわ!」

 

 立ち止まっていた私達に、早苗と内火艇の乗降ハッチまで戻っていたサナダさんから声を掛けられる。何故か知らんがブロッサムもサナダと一緒だ。その声で再び現実に引き戻された私は、早苗に手を握られて半ば引っ張られるような形で内火艇に乗せられた。

 

 

 ......................................

 

 ..................................

 

 ..............................

 

 ..........................

 

 

 

 

 ~『紅き鋼鉄』臨時旗艦〈ネメシス〉艦内~

 

 

 内火艇から降りた私達は、そのままサナダさんに付いていく形で会議室に向かう。

 ヤッハバッハとの決戦中に〈開陽〉の残っていた全クルーを収容した筈の〈ネメシス〉だけど、通路には人一人見当たらない。代わりに居るのは無機質な整備用ドロイドだけだ。そもそも決戦前に半分以上のクルーをショーフクさんに預けてレミリア達と一緒に大マゼランへと向かわせたのだから、人が居ないのも当たり前か。

 

「さて、着いたぞ。話の続きはここでしよう」

 

 サナダさんは一枚の扉の前に立ち止まり、脇にあったコンソールを操作する。するとロックが外れた扉は両開きに動いて薄暗い会議室への道を開けた。

 

 私達全員が入室すると同時に扉も閉まり、かわりに会議室の照明が点灯する。

 

「お久しぶりです、艦長。よくぞご無事で」

 

「艦長の強運は伊達ではなかったか………エコー以下保安隊三名並びに元〈開陽〉クルーは全員無事です」

 

「エコーと、ファイブズか………。久しぶりね、二人とも。この通り私は五体満足よ」

 

 会議室に入るや否や、私達を待っていたらしい保安隊の二人が立ち上がって敬礼する。私もそれに挨拶を以て応えた。

 

「よう艦長、見ての通り私らも全員無事さ。そこのサナダの他にも、ここには居ないけどユウバリとシオンの奴もね」

 

 エコー達に続いて、整備班長のにとりが報告する。彼女の台詞からすると、他のマッド達も無事らしい。

 

「それは何よりね。これからあんた達には色々動いてもらうつもりだから、そのときはよろしく頼むわよ」

 

「おう、任せといてくれよ艦長。あんな"お宝"が目の前にあるんだから、技術者の血が騒いで仕方ないよ」

 

 早速興味の対象を始祖移民船に向けて目をぎらつかせているにとり。彼女がマッドたる所以だ。

 

 再会の喜びもよそに欲望に気を取られてるにとりとは対照的に、保安隊の二人は本来ならこの場に居ない筈の人物に気付いたようだ。彼等から、彼女の素性に関する質問が飛ぶ。

 

「ところで艦長、そちらの御仁は?」

 

「ああ、彼女なら―――「はーい♪この私こそが、あの巨大移民船を統べる総合統括AI、BBちゃんでーす!今は故あってブロッサムと名乗っていますので、呼ぶときは"先生"をちゃんと付けて下さいね?」

 

「……………」

 

「………あの、艦長?」

 

「………ごめん、堪えて」

 

 私を遮ってハイテンションな自己紹介を始めたブロッサムに、保安隊の二人は引き気味だ。それが普通の反応だろう。一方のマッドサイエンティストが片割れはというと―――

 

「あの巨大船の統括AIだって!?まさかシステムまで生きてるのかい!?」

 

「当然です♪この時代の軟弱なコンピューターなんかとと同列にされたら困ります」

 

「ま、ま、マジか!!おいサナダ!こいつを上手く取り込めば………」

 

「うむ。彼女の協力は艦長が取り付けている。今後は色々と世話になるだろう」

 

「あ、それと一つ付け加えておきますけど、基本私、誰かの制御下に入るのは趣味じゃないんで、"協力"はしますけど"隷属"はしませんよ?」

 

「うん、それでもいいよ!君は私達にとって良き盟友に成れる筈さ!!」

 

 興奮のあまり、ブロッサムの両手を掴んだままぶんぶんと振り回すにとり。あの紫色も「同士発見♪」とでも思っているのか、はたまた使いやすそうな駒だと見なしているのか、ハイテンションで邪な澄んだ笑みを纏ったままだ。最早この時点で先が思いやられる。―――何事もなければいいんだけど………

 

「そういう訳ですから、これからお世話になりますね♪水、食糧、そして兵器―――アナタ達が望むものは大抵のモノならパーっと作っちゃいますのでよろしくです♪」

 

「あ、ああ……」

 

「……よろしく」

 

 にとりと違って、保安隊の二人は彼女のテンションに付いていけない様子だ。それでも礼を忘れないあたり、彼等の元一流軍人としての矜持が窺える。

 

「茶番はその程度にしてもらおう。さて、ここに集まってもらったのは他でもない、今後の艦隊運航指針を決める為だ」

 

 マイペースなブロッサムを半ば無視するような形で、サナダさんが会議の口火を切る。

 その一言で、会議室に集合していた全員が佇まいを正した。

 

「まず現状の報告からいこう。特に艦長はよく聞いてくれ」

 

「分かったわ」

 

 しばらく仲間達と別行動だった私達の為か、サナダさんはまず決戦参加組の現状から話し始めた。

 

「我々は艦長の退艦命令後、この〈ネメシス〉他数隻の艦艇を従えて大マゼラン方面に離脱した。我々には二つの選択肢があったが、クルーの人数に対して食糧と水に余裕があったこともあって艦長の捜索を決断した。その結果がこれでよかった。いや、物資の余裕が無くなる前で本当に良かったよ。数日前に〈開陽〉の微弱な反応を探知していなかったら、今頃我々は大マゼランに転進していただろうからな」

 

 サナダさんの口から、彼等がここに至るまでの経緯が淡々と説明される。

 彼の説明では何事もなかったかのような口振りだけど、実際には色々と揉めた末の決断だろう。―――本当に頭が下がる。

 

「……探してくれたことには感謝してるわ。ありがと、みんな」

 

「出来る範囲でも、艦の修理を進めておいた甲斐がありましたねぇ」

 

 微弱な反応、というぐらいなのだからもし早苗が艦の修理をしていなかったらと思うとぞっとする。それだと私達は永遠に仲間と合流出来なかったかもしれない。ここは私が眠っていた間にも艦の修理を進めてくれていた早苗にも感謝ね。

 

「では具体的な現状の説明に移ろう。艦隊戦力そのものについては概ねヤッハバッハ戦終了時と変わりない。だが無補給の状態が長引いたこともあってあちこちにガタがきているのが現状だ。現有戦力はこの戦艦〈ネメシス〉の他に空母〈ラングレー〉と巡洋艦〈ブクレシュティ〉〈ガーララ〉〈伊吹〉〈ブルネイ〉、重フリゲート〈イージス・フェイト〉、駆逐艦〈叢雲〉〈霧雨〉〈ブレイジングスター〉の計10隻、それに工作艦〈サクラメント〉〈プロメテウス〉〈ムスペルヘイム〉の支援部隊3隻が加わる」

 

「………随分と減ったものね。前は50隻以上は持ってたのに」

 

「幸い失った艦は無人艦だ、人的被害は少ない。艦隊の概観はこんなものだが、内情となるとさらに悲惨だ。最低でもこの〈ネメシス〉が大マゼランに辿り着けるぐらいの食糧と予備部品の備蓄はあるが、工作艦の在庫は心許ない。特に駆逐艦は長期間の酷使が祟って大規模なオーバーホールが必要なレベルの艦もある。軽巡洋艦も同様だ。それを実施した場合、工作艦の資材は殆ど底をつくことになるだろう。ちなみに現状では〈叢雲〉が推力60%低下、〈ブレイジングスター〉が55%、〈霧雨〉でも47%まで低下している。巡洋艦以上の艦艇についても〈ブルネイ〉は中破状態、〈ガーララ〉も機関に不調が発生している」

 

「うわぁ、まさかここまで酷いなんて………出港前はあれだけ物資積んでったのに」

 

「カシュケントを出た時点では〈開陽〉の喪失は想定外だったからな。あのときはアイルラーゼンを盾にして艦長も一緒に離脱する予定だったのだが………とまぁ、艦船の状況はこんなところだ。食糧と水については、今のところ心配はない」

 

「うん、状況説明ありがと」

 

 サナダさんから話を聞く限りでは、特に艦船の状態悪化が深刻らしい。クルーの方は元々人数が少ないから何とかなっている面もあるけど、艦船はそうもいかないらしい。無理が祟ってあちこちガタがきているようだ。

 

 ―――フネにガタがくるほど探し回っていたなんて、一体私はどれぐらい眠っていたのだろうか………

 

 あのときの早苗の反応といいサナダさんの話といい、数日数週間の範囲では済まない、数ヶ月単位で意識が飛んでいたのではなかろうか。………目覚めたら歩くことすらままならなかったぐらいなのだから、その線が濃厚だろう。

 

「―――では本題に移ろう。艦長達も状況の把握はできたようだからな」

 

 そうだ、この会議の目的はそれだった。

 

 あまりにも艦艇の状態が酷すぎて忘れていたが、本来の目的は艦隊の方針を決めることだったはず。

 

「知っての通り、艦隊の状態はお世辞にも良いとは言えない。寧ろ損失艦が無いだけで他の状態は最悪に近い。食糧こそまだ余裕があるが、それもいずれ底をつく。この〈ネメシス〉に食糧生産機能は無いし、限定的ながら食糧生産が可能だった〈開陽〉は恐らく修理不能だろう。そうなると、最早取れる手は一つしかない」

 

 会合に集まったクルー達は皆、サナダさんの方向を凝視して集中する。

 

 彼は強い口調で、次に続く言葉を紡いだ。

 

「―――大マゼランに向かった別動隊との合流を諦め、この移民船団を我々の移動拠点として改装する」

 

 

「………あれを、改装するのか」

 

「面白くなってきたじゃないか」

 

 その答えは、予想できた通りのものだった。

 私があのフネのAIの協力を取り付けられた時点で、サナダさんは恐らくそれを最善の策と見ていたのだろう。わざわざ新しく見つけた自給可能な拠点をみすみす放棄して過酷な旅に乗り出す理由はない。

 

「まぁいいですよ、私は。寧ろ腕が錆び付く前に本領発揮できるんですから望むところです」

 

 と、サナダさんの言葉に応えるブロッサム。彼女からしても、ただただ宇宙を彷徨うよりは自分の権能を存分に振るいたいのかもしれない。だからわざわざ私に接触してきたのだろうし。

 

「だが………それは良いとしてもだ、先に大マゼランへ行った連中のことはどうする?放っておくという訳にもいかないだろう」

 

 そう発言したのは保安隊のファイブスだ。確かにサナダさんの言うことは理にかなってはいるのだけれど、それでもやはりレミリア達の動向は気がかりだ。―――ちゃんと大マゼランに着けているだろうか。

 

「その心配は恐らくないだろう。彼等にはゼオスベルトへ向かうよう伝えてある。ゼオスベルトユニオンは国家から独立した0Gドックの集団と聞く。それに護衛戦力も大マゼラン艦艇に対抗できるだけのものが揃っている。ゼオスベルトに巣食う海賊共と一悶着あるかもしれないが、基本的には安全な筈だ」

 

「そうか………それなら良いんだけどな……」

 

 ファイブスはまだ浮かない顔をしていたが、渋々納得したといった雰囲気を醸し出しなが引き下がった。

 

 サナダさんが言うなら大丈夫なんでしょうけど―――何もなければいいんだけどね………。

 

 彼の言葉が切っ掛けになったのか、彼女達の安否について言い様のない悪寒に襲われる。昔から、こういうときの私の勘はよく当たるのだ。サナダさんの言う通り、杞憂であればいいんだけど………

 

「ではまず、あの船の拠点化に伴って聞きたいことがある。いいかね?ブロッサム君」

 

「え?あ、はい………何でもどうぞ」

 

(やけに大人しいですね、アイツ)

 

(ええ、私達とはまるっきり態度違うし………なんなのよあれ。何か企んでるんじゃないでしょうね)

 

 早速とばかりにサナダさんは本題に移ろうとしているのだが、ブロッサムの奴がサナダさんに対してだけやけに大人しい。その動きが私達へのふざけた態度と比較されて、余計に怪しく見えてしまう。隣の早苗と耳打ちで話ながら、私達はそんなことを考えていた。

 

「君が掌握しているあの移民船についてだが、機能はどれほど使える?それとできれば、残っている物資の量についても知りたい」

 

「分かりました。機能については特に問題ありません。母船の設備は概ね稼働可能状態にありますから。食糧生産、工業共に問題無しです。物資についてもしばらくは大丈夫です。レアメタルの類いもこれだけ備蓄があった筈ですから」

 

 ブロッサムはそう言うとグラフが表示されたホログラムモニターをサナダさんの方に飛ばし、それを受け取ったサナダさんも何やら満足気に頷いている。

 

「ふむ………どうやらその点は問題ないようだな。では決まりだ。あの移民船を我々の新たな拠点として活用し、艦艇の修理を行う。文句はないな?艦長」

 

「え?あ、うん………元々そのつもりだったし、アイツも協力するって言ってるからいいんじゃない?」

 

 サナダさんに突然同意を求められて驚いたが、適当にそれっぽい答えを返して取り繕う。

 レミリア達のことはあるが、今はそれが最善だと判断した。

 

「では決まりだな。これからの協力に期待するぞ、ブロッサム君。各員はこの方針に従って動いてくれ。特に私の科学班と整備班、そして保安隊はアレを拠点化する前に一度調査を行うつもりだ。そのつもりで頼む。調査の件についてもよろしいかね?ブロッサム君」

 

「あ、はい。確かに貴方達が使うためには色々と把握しておかないといけないでしょうし、それに私も調べて欲しい部分とかありますから、それについては全然大丈夫です」

 

「うむ、了解した。では本日はこれで解散としよう。各員は事後の行動にかかってくれ」

 

「イエッサー!」

 

「ふふっ、始祖移民船の調査かぁ………楽しみだねぇ」

 

 会議を取り仕切っていたサナダさんが閉会を告げて、参加者達はそれぞれの持ち場へと戻っていく。私がいない間艦隊を指揮していただけはあって、その動きは板についたもののように感じた。

 

 ―――ところで今更だけど、一応トップは今でも私のままなのよね?

 




九○話完全版になります。欠けていた後半部分を追加しました。

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