夢幻航路   作:旭日提督

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第八五話 ブービートラップ!

 ボロボロになった〈開陽〉のエアロックから滑り出した小型船は、引き込まれるように巨大船へと接近していく。

 

 近付いたことでよく見えるようになった巨大船の外壁は、思った以上に破損していた。

 遠目ではフネがあまりにも巨大なこともあって綺麗な状態で残っているように見えたものが、近くで見ると微惑星やデブリと衝突した痕のようなクレーター状の傷が至るところについていた。

 またフネ自体の意匠もどこか生物的なものを思わせる曲線や直線を組み合わせたようなデザインだと思ったが、至近で見て外壁の詳細が分かった今では寧ろ異星人のものを思わせる機械的な意匠で構成されているように感じた。

 現代のフネのような印象ではなく、大昔に作られた遺跡か、或いは別の文明から漂流してきた移民船か……とにかく、このフネが現代の文明とは違った技術体系に属していることは、サナダさんでなくとも何となく感じられた。

 

「うわぁ………改めて近くで見てみると凄いですねぇ」

 

「まさか、外の文明がこんなものを作れるぐらいに成長していたとはねぇ。これは素直に驚いたわ」

 

 仮にこのフネが始祖移民船だとしたら、私が生きていた時代からほんの数百年しか経っていない時期に建造されたものだ。たった数百年、という言い方も随分大袈裟なようにも思えるが、そこから一万年以上後だという今の時代から見れば、そんなの大した差ではないのだろう。………こんな考えが浮かぶあたり、私もだいぶこの時代に毒されてきたわねぇ。

 

 小型船は巨大船の前半分にあった装甲の露出した部位を通りすぎて、船首のドッキングポートらしき部位へと向かう。

 

 一度向きを変えるために巨大船から離れては、サイドスラスターを吹かして方向転換し、小型船は再び目的地に向かう。

 

 目の前に、六角形状の船首のドッキングポートが見えてきた。

 

「……どう?着艦できそう?」

 

「ん~っと、ちょっと待ってください………あ、見つけました。船首中央に発着ポートみたいな部分がありますね。そこから中に入れそうです。」

 

 小型船は、真っ直ぐ巨大船の中央に向かっていく。

 ドッキングポート周辺の意匠は例外的に、人類文明らしい機械的な雰囲気だった。何度か見た宇宙港の外壁やドック内の様子に、なんだか似ている気がする。

 

「この部分だけ、なんか外に比べて印象が違うわね」

 

「そうですねぇ~。外壁の意匠は芸術的なものだったのかもしれないですね。きっと当時の高名なデザイナーさんなんかが設計したんじゃないでしょうか!」

 

 ここだけ宇宙港と同じような雰囲気なのだから、早苗の話もさもありなん、という気がしてくる。何世代にも渡って宇宙を旅するために造られたフネなのだ、贅沢して外装を凝って作ったとしても不思議ではない。

 

「洗練された曲線美のなかに生物的な意匠を取り込みつつ、全体を見ると明らかに人工物と分かるデザイン………う~ん、やっぱり改めてみると格好いいですねぇ」

 

「私には学がないから分からないわねぇ。とりあえず、大事なのは中よ中。外が凝ってても中身がなけりゃ

 話にならないわ」

 

 早苗と違って私は、残念ながら機械の格好良さとかその辺りはあまりうまく理解できない。私からしてみれば、単に使えればそれでいいという感じだからねぇ。あの娘はまたテンション昂ってるみたいだけど。………ま、私もお宝という点に関しては期待していることも間違いない。

 

 さて………コイツが何千年も隠し持っていたお宝を、白日の下に晒してやりましょう。

 

「おっと、もう少しで着艦ですね」

 

「いよいよね。期待が高まるわ」

 

 小型船は綺麗に巨大船の中央に向けて滑り込み、減速用バーニアを吹かしながらドッキングポートにあるランプに着艦する。

 

「ふぅ、とりあえずはクリアですね。一応この奥に空間が続いているみたいなんですけど、このフネでは行けそうにないので降りましょう」

 

「そうね。じゃあ荷物を準備して………っとわぁ!?」

 

 小型船がランプに着艦すると、フネの後ろに何かが降りてきてガチャン!!と盛大に閉められる音が聞こえてきた。

 扉のようなものが下ろされたみたいで、外の光が全く届かなくなって真っ暗になる。

 

「扉………ですか。なんだか興奮しますねぇ」

 

「そうじゃなくて!外、真っ暗だからライトつけて!」

 

「了解ですっ。サーチライトをつけますね」

 

 カチャッ、と船のライトが点く音がした。

 ライトは目の前の内壁を照らしている。これといって、扉が閉まる前と変わりはないように見えた。

 

 ガチッ、と今度はロックされるような音が響き、シュー、と空気が充填されていく音が聞こえるようになる。それに伴って、メーターは室内の気圧が上昇していくのを示した。

 

「減圧室、でしょうか。空気が充填されてきますね。もう少しで1気圧に達します」

 

「………これ、侵入者撃退の毒ガスとかじゃないでしょうね………。ちょっと不安なんだけど」

 

「大丈夫です。センサーには何も引っ掛かってませんし、ただの空気みたいです。そんなに心配なら私が確かめてきますけど………」

 

「いや、いいわ。ただの空気なら問題ないし。さ、船から降りましょう。早く先に進みたいわ」

 

 空気が充填される音を聞いて、もしかしたら防衛機構が作動しているのではと勘繰ったが、それは無いみたいなので安心した。早苗が言うなら、多分大丈夫なのだろう。

 

 ―――だけど、フネの機能が生きているということが証明されたからには油断できないわね。もしかしたら何かの防衛装置も生きているのかもしれないんだし。

 

 荷物を持って、小型船から降りる。

 船から降りた私達は、目の前の壁に奥への通路の入り口がないかと目を凝らして探した。

 

「あ、霊夢さん、あそこ………」

 

 早苗がなにかを見つけたようで、私は早苗の指が示した方向に目を向けた。

 

「………扉、みたいね」

 

「はい。どうやらそうみたいですね。ちょっと行ってきます」

 

 早苗は見つけたドアの方向に向かって駆け出した。私も歩きながら、その後を追う。

 

「う~ん、やっぱり閉まってるみたいですねぇ。びくともしません」

 

「破壊はできそう?」

 

「ちょっと待ってください………いえ、隣に操作パネルみたいなのがありますね。これを弄れば………」

 

 早苗はドアの周囲を見回して、左隣にあった操作パネルのコンソールに手を突っ込んだ。

 

 また腕をケーブル状に分岐させて、何本も触手をコンソールに差し挿れている。早苗の乱暴な行為に反応して、コンソールがバチバチと火花を吹き始めた。

 

「ちょ………あんた、何やってんのよ!?」

 

「え………?いやぁ、この身体、ヒトが造ったものなら大抵はハッキングできるように作られてるので、ちょ~っとシステムの中を弄らせてもらおうかと………」

 

「ちょっと弄らせてもらおうかと………じゃないわよ!只でさえフネのシステムが生きてるのにそんな乱暴なやり方でしたら………」

 

「………あ」

 

 唐突に、早苗の口から声が漏れた。

 

 何かにしくじったことに気づいたとき出るような、そんな声が……

 

「"あ"、って何よ早苗!もしかしてあんた………」

 

「―――てへっ♪失敗しちゃいました♡」

 

「失敗しちゃいました♡、じゃないでしょ!?ちょっとどうすんのよこれ………」

 

 《#∥〇*@#|※?》

 

 突如、背後で怪しげな機械音声が響く。

 何かに気付いたドロイドが発するような、そんな音だ。

 

 同時に、背後から強力なサーチライトを浴びせられたのか、視界が一気に眩しくなった。

 

 ぎぎぎ………と首を後ろに回してみると、そこにはトゲトゲした艦載機のような姿をしたロボットが、私達にライトを浴びせながら浮遊していた。

 

 それは私達を見定めるかのように、青いモノアイを点滅させながら不規則に私達の回りを飛んでいる。

 

「あの………早苗、さん?」

 

「これは………所謂衛士(センチネル)というやつですねぇ。ようは警備ドローンです」

 

「それって、ヤバいんじゃないの?」

 

「はい、ヤバいです」

 

 警備ドローン………センチネルは暫く私達の周囲を浮遊していたが、突如モノアイが青から赤に変わって甲高い音を鳴り響かせた。

 

「~~っ、ちょっと、なにこの音………」

 

「霊夢さん、攻撃が来ます!」

 

 

【イメージBGM:東方風神録より「厄神様の通り道」】

 

 

 《Д##―>###!!》

 

「チッ………!!」

 

 センチネルの目玉が蒼く発光し、レーザーが降り注ぐ。

 私は空中に飛んで、早苗は地面を跳んで、それぞれ攻撃を回避した。

 

 《゜Д――――####!!##!?》

 

 奴等は私達が無事なのを察知したのか、ゆっくりと機体を反転させて再びレーザーの充填に入った。

 

「チッ、しつこいわね。―――これでも喰らいなさいッ!」

 

 レーザーが発射される前に、奴等のうちの一機に霊弾を食らわせた。が、通常弾幕では効果がないのか、ガコッという音とともに霊弾は弾き返された。

 

「嘘っ………効かないの!?」

 

「霊夢さん、もっと強力な攻撃をしてみてください!」

 

「もっと強力………といったらこれね!」

 

 ビシュン、と次々に放たれるレーザーを飛びながら躱しつつ、私は巫女服の襟からカードを取り出した。

 

「霊符『夢想封印』!!」

 

 先程の霊弾とは比べ物にならないくらい巨大な霊弾が、それも複数浮かび、一気に敵へと殺到する。

 

 夢想封印の弾幕を敵一機に集中させて、ようやく落とすことができた。

 

「っと………。全く、どんだけ硬いのよこいつら……!」

 

「センチネルですからねぇ。生半可な攻撃は通用しないかと」

 

「元はといえばあんたが悪いんでしょ!変に弄くるからこうなるのよ!」

 

「うっ………まぁ、それは置いといて、さっさとこいつら片付けますよ!」

 

「話を逸らすな!」

 

 地上で敵の攻撃を捌いていた早苗は、大きく後ろに飛び退くと体勢を安定させて、ナノマシンで出来たレーザーガトリングを召喚した。

 

「これで………どうですッ!」

 

 ガトリングが回転を始めると、雨霰のようにレーザーが飛び出してセンチネルの群を呑み込んでいく。一発一発の威力は低いので最初はガン、ガンと弾き返されているが、次第にダメージが蓄積していきレーザーに抜かれる個体が出始める。そこからは一方的な蹂躙劇で、次々とレーザーの雨を浴びて摩耗した機体が内部を貫かれて爆発していった。

 

 そして遂に最後の一機が爆発して、その破片がパラパラと床に墜ちる。

 

「ふぅ………こんなもんですね」

 

「そんなのがあるなら、最初からそれやってなさいよ」

 

「いやぁ、最初は逃げるので精一杯でしたから。霊夢さんが上手く引き付けてくれたお陰ですよ」

 

「ま、まぁ………そう言うのなら………」

 

 そう言いながら、早苗の隣にふわりと着地する。

 

 《Д#「>>#〇∥♪@##!?》

 

 センチネルも片付いたので改めて扉を開けようと地面に降りたところ、何故かまたあの音が盛大に響いた。

 

「「!?ッ―――」」

 

 《(゜Д(゜Д(゜Д(゜Д(゜Д゜#)!!》

 

 驚いて振り返ると、先程と同じセンチネルの群が今度は天井から10匹20匹とわらわらと沸き出していた。

 

「ちょっ………何よこの数!?やっぱりあんたのせいじゃないの!!」

 

「ふぇぇ……私だってこんなの聞いてませんよ霊夢さん!」

 

「ああもう、こうなったら殲滅あるのみよ!」

 

 呆れて物もいえないぐらいの数に増殖したセンチネルの群に向かって、地面を蹴って空中に飛び出す。

 何体かはこちらに反応したが、残りの個体は私達が乗ってきた小型船を見つめていた。

 

「げぇっ、まさか………」

 

 《(゜∀゜)∀°)∀°)∀°)#####д!!》

 

 もしやと思って急いで弾幕を奴等の群に叩き込んだが、落とされたのは数機のみ。大半の機体は、小型船を取り囲んで一気にレーザーの照射を浴びせた。

 

 元々装甲もシールドもない脆い船だ。流石にそんな数のレーザーを浴びて無事な訳がなく、レーザー照射を浴びた小型船はバゴォンと盛大な音を立てて大爆発を起こして沈められた。

 

「ぐぅっ………!?」

 

 狭い減圧室の中での爆発だったので、閉じ込められた爆風が四方八方から浴びせられてバランスを崩してしまう。そのまま気流に呑まれるように、きりもみになって墜落していく。

 

 だが、墜落して硬い床の感触が伝わってくる前に、なにか柔らかいものに抱き留められた。

 

「っ、霊夢さん、大丈夫ですか!?」

 

「ぁ………早苗?――うん、ありがと。大丈夫よ」

 

 私を受け止めてくれたのは早苗だった。早苗はバランスを崩さないように慎重に着地すると、労るように優しく私を床に下ろしてくれた。

 

「あー、フネ、壊れちゃいましたねぇ」

 

「物資もクルマもこれでおじゃんね。………だけど、これで奴等が見やすくなったわ」

 

 乗ってきた小型船は破壊されて、残骸がめらめらと燃えている。だけどその光のお陰で、センチネルの群がよく見える。十、二十……いや三十以上は居るわね。

 フネが破壊されたのは癪に障るが、この際もう仕方ない。どうせこの規模の移民船だ、何処かに使えそうなフネでもあるでしょう。帰路はそれに任せるとして、今は目の前のセンチネル共だ。

 

 不敵な笑みを浮かべて、奴等に向かって翔び出す。

 

「早苗っ、援護は任せたわ!」

 

「はいっ!」

 

 背後は早苗に任せて、私は真っ直ぐ奴等を睨む。

 

 さて………私達の足を壊してくれた報いを受けさせてやるとしましょう。

 

 一旦空中に静止した私が手を奮って合図をすると、ビュン、と私の周りに4基の陰陽玉が現れる。

 

「行けっ!」

 

 手始めに、極限まで霊力を込めた札を妖怪バスターに乗せて飛ばす。………相手は妖怪じゃないけど。

 

 続いて敵集団中央に吶喊し、陰陽玉からホーミングアミュレットを撃ち出しながら敵を一体一体着実に落としていく。

 敵からもレーザーの雨が降り注ぐが、こんな弾幕何のその。妖精の遊戯にも等しいわ。

 

 私を落としたくば霧雨でも連れてきなさい。こんなスカスカの降り始めの雨みたいな弾幕じゃあ、この私は墜とせないわ。

 

「潰せっ!!」

 

 敵集団中央まで突撃して一度止まり、四方八方を奴等に囲まれた形になる。………だが、これでいい。

 

 私が手を突き出すと、オプション装備の4基の陰陽玉が勢いよく敵機目掛けて飛んでいく。陰陽玉と衝突したセンチネルはぐしゃりと潰れて、火を吹きながら床に向かって墜落していった。そしてセンチネルを潰した陰陽玉は、また別のセンチネルへと向かってバウンドして飛んでいく。

 

「霊夢さん、こっちも準備万端です!」

 

 後ろから、早苗の声が響いた。

 

 彼女はまたあの巨大なレーザーガトリングを持って、その銃身を私の方角へ向けている。

 

 早苗の意図を察した私は、陰陽玉を伴って素早く上昇してその場から離脱した。

 

「行きますよ………ッ!!」

 

 ヴヴー、という破壊的な重低音を響かせながら、銃身が回転を始める。

 そして再び、破壊をもたらすレーザーの弾幕が奴等に向かって降り注いだ。

 そこからはもう、消化試合だ。先程と同じように、レーザーの弾幕に耐えきれなくなった個体から貫かれて、火を吹きながら墜落していく。さっきより数が多かったので時間こそかかったけど、ものの数十秒であれだけいたセンチネルは一体残さず叩き落とされていた。

 

「ふぅ………今度こそ、これで片付きましたね」

 

「だと良いけどねぇ……。さ、先に進みましょう。また奴等が沸き出してくる前に」

 

 センチネルを全部片付け終えて、早苗の隣に着地する。

 

 陰陽玉は………今はいいか。一度仕舞っておこう。

 

「そうですねぇ。ではでは、ハッキングに戻りますよ!」

 

「アレはもう止めなさい。また奴等が沸き出してくるわ」

 

「え~、今度は上手くやりますからぁ~~。ね♪」

 

「………猫なで声で言っても駄目よ。大人しく破壊して」

 

「ちぇっ、霊夢さんのけち」

 

「元はといえば、ハッキングに失敗したあんたが悪いの」

 

 早苗と軽口を叩き合いながら、内部への入口へと向かう。

 

 入口の扉を叩き割ろうと刀に手をかけて引き抜こうとしたところ、右隣でなにかが開いた。

 

「ありゃ、霊夢さん、なんか開いたみたいですけど……」

 

「おっ、ラッキーじゃん。ならそこから中に入れ………」

 

 扉の右にあった、貨物リフトの出口のようなシャッターが白い煙を吐きながら開いていく。

 

 最初は、単に運がいいと思った。わざわざ扉を壊さなくても、そこから入ることができると思ったから。

 

 だけど、実情は違った。

 

 ガシャッ、ガシャッ、と、規則正しく整然と行進する音が聞こえる。

 

 そこから出てきたのは、武装したドロイドの大隊だった……。

 

「え"っ………!?」

 

「あ―――、霊夢さん、また敵みたいです」

 

「………」

 

 ドロイドの群は一斉に立ち止まると、これまた一斉に私達の方向に向き直る。

 

 そして………腕部に内蔵された銃口を向けた。

 

「………こうなったら押し通るのみよ!早苗ッ!」

 

「畏まりぃっ♪」

 

 再び陰陽玉を侍らせて刀を抜いて、そして早苗はいつぞやの大尋問官(笑)服に早着替えして紅く光る光刀を手に持った。

 

「突っ込め~~ッ!!!」

 

「ふふっ、燃えてきましたねぇ!!」

 

 私と早苗が足を踏み出すと同時に、ドロイド軍も一斉に火蓋を切った。

 

 赤いレーザーのなか身を捻りながら弾幕と刀で応戦し、一体一体、確実に息の根を止める。

 

 第二ラウンドが、いま始まる……………。

 

 

 

 

 

 ............................................

 

 

 ........................................

 

 

 ....................................

 

 

 ...............................

 

 

 

 

 

 

「ふぅ………、はぁ………、これで、全部かしら……」

 

「みたいですね………もう後続は居ないようです」

 

 一体どれだけ倒したのか分からなくなるほど、ドロイドの軍勢と戦っていた。倒しても倒しても奥からどんどんおかわりが追加されていくので、流石に私でもこれは堪えた。

 

 腹いせに、近くにあったドロイドの残骸を蹴っ飛ばす。

 

「ざっと1000体以上は倒しましたねぇ。私も、これ以上は勘弁です……」

 

「まぁ、とりあえずは奴等の攻勢が止んだみたいだし、先に進みましょう」

 

「了解ですぅ………でも、これだけ広い艦内を生身で探索するのは応えますよ?それに私、昔と違って飛べませんし――」

 

「あ、そうだった……う~ん、これは困ったわねぇ。私一人ならいざ知らず、早苗が飛べないとなると歩いていくしか……」

 

 さっきまで私が普通に飛んでいたせいで、つい失念してしまっていた。そういえば早苗、今は力がないから昔のように飛べないんだった。サナダ印の強化外骨格でもあれば別でしょうけど、生憎そんな便利なものはない。

 

 探索に使う車もVFも、フネと一緒に焼けちゃったし………

 

 ―――ん?あれって………

 

「………ねぇ、早苗?」

 

「はい、何ですか?」

 

 早苗を呼んで、小型船の焼け跡の方向を指す。

 

 黒く焦げて所々は未だに燃えている小型船の残骸のなかに、比較的形がよく残っている物体があった。

 

 それは見事にひっくり返ってはいるものの、ほぼ原型を留めており使えそうな雰囲気だった。

 

「………あのVF、もしかしたら使えるんじゃない?」

 

「持ってきたやつですか?そうですねぇ、形はよく残ってますし、特に部品が脱落しているという訳でもないので……ちょっと試してみます」

 

 早苗の周囲に、ホログラムのリングが浮かび上がる。

 VFのコンピューターとの接続を試みているのだろう、集中した様子で瞳を閉じている。

 

 程なくしてVFのエンジンに火が灯り、機体は上昇を始めた。

 ある程度上昇したところでVFはガウォーク形態に変形して、私達の目の前に着地した。

 

「………見ての通り、使えそうです」

 

「ふぅ、これは運が良かったわ。流石はサナダさんの作った機体ね、あんな爆発に巻き込まれて無事だなんて」

 

「宇宙戦闘機ですからね。頑丈な部分は頑丈なんです。それに小型船の燃料も不燃性の固形燃料でしたから、爆発規模が大きくならなかったのも救いでしたね」

 

「ま、使えるんならそれで良し。んじゃ早速乗ってくわよ」

 

「あ、操縦なら私にお任せ下さい!霊夢さん、コックピットには触ったことないですよね?」

 

「そうねぇ……でもこの機体って確か、自分がイメージしたらその通りに飛んでくんでしょ?ならちょっと触らせてもらっても………」

 

 私達が持ってきたこの機体、VF-22にはBDI (Brain Direct Image)システムとかいう操縦システムが付いていて、なんでもパイロットの脳波を検知して勝手にイメージ通りに飛んでくれるらしい。サナダさんがそんなことを言っていたような気がする。だったら私でも操縦できるんじゃないかと勘ぐったのだけれど、早苗にはそれがご不満だったらしい。

 

「むー、駄目です!操縦席は私のものです!」

 

「え、そこまで言うんなら……」

 

 私が操縦する、と言い出したら予想以上に早苗が反発してきたので、ここは素直に譲ることにした。………そうよね、幾らイメージ通りに飛んでくれるといっても訓練とか全然してないし、それで失敗して私が怪我したりするのを心配してのことなんだろう。………と思ったのだけど、早苗はコックピットに座るとルンルン気分でシステムの調整を始めている。―――こいつ、最初からロボットの操縦がしたかっただけなのかもしれない。

 

 ちなみに私は一旦空を飛んで後部座席に入ったのに対して、早苗は操縦席から下ろされたワイヤーにわざわざ掴まって乗り込んでる。やっぱり飛べるってのは便利ねぇ~。

 

「システムに異常無しです!さぁ、行きますよ霊夢さん!」

 

 装甲キャノピーが降りて、内壁に外の風景が投影される。

 ゆっくりとエンジンの出力が上がっていき、徐々に機体は動き出した。

 

 機首のサーチライトも点灯して、狭い範囲ながらも前方を照らしている。

 

 出発とあって、私はシートベルトを握る力を強めた。

 

「じゃあ、よろしく頼んだわよ、早苗」

 

「了解ですっ。……離陸しますよ!」

 

 エンジンの振動が一層大きくなって、機体が地面から離れた。

 ふわりと宙に浮かんだ機体は、そのままホバリングしながらドロイドの軍勢が沸いて出てきた通路に向かって進んでいく。

 

 シャッターを抜けて減圧室から出た後も、特にこれといって変わり映えはしない景色が続いていた。狭い通路のなかを、無機質な鉄の壁が覆っている。

 

「……特に変わった雰囲気はしないわねぇ」

 

「まだ港部分なんでしょう。この先に広い空間があったと思うので、とりあえずそこまで進んでみますね」

 

 暗闇に包まれた移民船の中を、サーチライトを灯しながら淡々と進んでいく。

 早苗の言った通り、数十秒でなにやら広そうな空間に出たようだ。先程まで上下左右を圧迫していた鉄の壁が消え失せて、床から天井に向けて何本もの巨大な柱が貫いている空間に変わっている。深さは相当あるみたいで、サーチライトで照らされた先は塵しかなく、底まで見通せないほどだった。

 

「ここは………」

 

「何でしょう?たぶん港関連の施設だと思うんですけど……」

 

 暗い空間のなかを地から天に向けて何本もの機械の柱が貫いていて、僅かな光に照らされているその光景は、どこか神秘的な雰囲気すらも醸し出していた。

 それは、全て鉄の機械で出来ていながら、さながら神殿のような雰囲気だった。

 しばらく私と早苗の二人とも景色に見入ってしまい、静かな時間が続く。

 

 ……だが、その時間は長くは続かなかった。

 

 突如、ヴィー、ヴィーと警告音がコックピットのなかに鳴り響く。

 

 

 

【イメージBGM:マクロスプラスより「INFOMATION HIGH」】

 

 

 

「な、何ッ!?」

 

「これは………所謂ミサイル警報という奴ですねぇ。―――しっかり捕まってて下さいね!」

 

 早苗が思いっきり操縦悍を引いたようで、一気に機体が左に傾く。機体もガウォークからファイターに変形したようで、スピードが一気に増すと共に身体にかかる重力が何倍も重くなった気がした。

 そしてさっきまで機体が飛んでいた空間を、ビュン、と細長い物体が通り過ぎていった。―――ミサイルだ。

 

 行き場を失ったミサイルは、そのまま背後にあった機械の柱に衝突して爆発する。―――爆炎が醸し出すオレンジ色の閃光で、一瞬空間内が僅かに明るくなった。

 

 ……ちなみにミサイルが命中した柱には、傷ひとつついていない。まったくどんな強度してるのよ。

 

「………避けられたの?」

 

「いえ、まだ来ますね。―――ちょっと激しくなりそうですから、注意して下さい……!」

 

 早苗の言葉と共に、ホログラム上に幾重にも重なったカラフルなミサイルの予測線と、それを潜り抜けていく機体の図が表示される。

 

「なにこれ………ぅわっ!?」

 

「霊夢さん、あんまり喋ってると舌噛みますよ!」

 

 一瞬の浮遊感の後、機体は一気に下降していく。そして不規則的なマニューバを繰り返して、言葉通り再び現れたミサイルの雨を潜り抜けていく。

 

「う"っ………よ、酔いそう……」

 

「っ、センチネルも登場ですか………破壊します!」

 

 私が気持ち悪さに悶々としている間にも、早苗はそんなことはお構い無しとばかりに複雑な機動を繰り返してはミサイルを躱し、そして空中に浮遊するセンチネルをレーザーガンで焼き払っていく。

 時にはミサイルの発射口を見つけては、そこにマイクロミサイルを叩き込んで破壊している。

 ガガガガ、とセンチネルの装甲をレーザーが削る音がしたかと思うと、今度は上から降ってくるミサイルサイロの残骸を潜り抜けて追ってくるミサイルを幾つか撒いたりする。……本当に忙しい時間ね。目まぐるしく刻々と状況が変化していく。

 

「これで………6基目です!!」

 

 今まで早苗が破壊したミサイルサイロは6基。だが此方に向かってくるミサイルは留まることを知らず、むしろ増えてるような印象さえ抱かせた。

 加えてマイクロミサイルの残弾も心許なくなってきたようで、残弾低下の警告が表示されている。

 

「まだ来ますか………今度は柱からも!?」

 

「ちょっと、これじゃあキリがないわよ!何処かに出口とか無いの!?」

 

 案の定、ミサイルサイロはまだあったようで、今度は柱に埋め込まれた発射機からも何本ものミサイルが飛び出してくる。

 このままこの空間内を飛んでいたとしても、これじゃあ本当にキリがない。

 

「いま探してます………っ、ありました!2時の方向に奥へと続くシャフトを発見!」

 

「ようし、そこに突っ込んで!」

 

「隔壁が降りてるみたいですけど………」

 

「破壊しなさい!」

 

「了解――ッ!」

 

 早苗に出口を探すよう指示したけど、彼女はとっくにそれをやっていたようだ。あっという間に出口らしき反応が見つかる。そこからの行動は早かった。

 機体はぐるりと向きを変えて、つい先程早苗が見つけたこの空間の出口らしき場所へと向けて飛翔していく。

 扉?そんなの壊してしまえばいいわ!

 

「でも霊夢さん、この機体の火力で扉を破壊できるかどうかは分かりませんよ?この空間、相当頑丈みたいですから半分賭けみたいなものになるかもしれませんが……」

 

「なぁに、心配ないわ。私、昔から賭けには強いんだから……!」

 

「………そうでしたね。では、一斉射撃!!」

 

 早苗がトリガーを押し、残りのマイクロミサイルが吐き出されてレーザー機銃と共に出口の扉へと殺到する。

 それで生じた爆炎の中へ、機体は何の躊躇いもなく突っ込んだ。

 

 暫く煙のなかを突き進むと、再び見覚えのある狭い鉄の通路を飛んでいた。

 

「……どうやら、成功したようね」

 

「まだですよ霊夢さん。幾つかミサイルが追ってきます。―――前に見えてる光の位置まで一気に飛ばしますよ!!」

 

 早苗に言われて後ろを振り返ってみると、煙の中から突きだしてくる数発のミサイルが見えた。ミサイルはそのまま、此方に向かって追っかけてきている。

 

「……っ!?」

 

 突如、ぐん、と身体がシートに押し付けられた。

 

 機体が加速したのだろう。アフターバーナーの音が響きながら、身体にかかる重力がどんどん重くなっていく。機体は目の前に見える出口らしき光点に向かって一直線に狭いシャフトの中を駆け抜けていく。

 

「もう少しで、出口です……!」

 

 出口が間近まで迫り、前方が明るく照される。

 

 そして次の瞬間には、ひゅん、と何処か広い空間に出たような浮遊感と共に、全周身体眩い光が浴びせられた。

 

「うっ、つ………ここ、は………?」

 

「外、に出たみたいですね………」

 

 まるで惑星の大気圏内を飛んでいるかような、そんな錯覚に襲われる。

 

 目が光に慣れてきて、恐る恐る周りの様子を窺ってみる。

 

 天井からは、陽光のような眩しい光………そして地上は、緑と碧に彩られた空間が続いていた――。

 

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