夢幻航路   作:旭日提督

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この小説も三年目に突入です。今後ともよろしくお願いします。


第七七話 マゼラニック・ストリーム

 

 

 ~惑星バルバウス宇宙港~

 

 

 

「おお艦長、ここに居たか」

 

「あ、サナダさんとにとり…どうしたの?」

 

 出港まであと数時間を切ったので、宴会の片付けを早苗に丸投げして、これから乗艦してくるスカーレット姉妹を出迎えるためにエアロックに向かっていた私の下に、科学班主任のサナダさんと整備班班長のにとりの二人が現れた。

 なんだか二人とも、新しい玩具を自慢したさそうな顔をしているように見えるのは決して気のせいではないだろう。

 

「うむ。以前の資金を元に艦隊の強化と新装備の開発が終了したのでな。その報告だ」

 

「ああ、成程」

 

 道理でウズウズした様子な訳だ。二人とも、ポーカーフェイスを装っているように見えるけど、その表情ではとても興奮を隠しきれているようには見えない。

 

 ……ところで、サナダさんの後ろにある鉄の処女(アイアン・メイデン)は何なのかしら。………気になる。きっと碌なモノじゃないだろう。

 

「まずは私からいかせてもらうよ。前から開発していた機動兵器だけどさ、漸く完成の目処が立ったんだ。えっと、これが資料になるんだけど……」

 

 にとりはそう言うと、一枚のデータプレートを取り出す。

 

「先ずはこの〈サイサリス〉だけど、遂にこいつに搭載可能な量子弾頭を実用化出来たんだ!SFS(サブフライトシステム)と併用すれば、敵艦隊に大きな打撃を与えることが出来る筈さ!」

 

 自慢気に語るにとりの手には、データプレートから表示されたごつごつした、大柄な人型機動兵器のホログラムがあった。頭には二本のセンサーアンテナと目のようにも見えるデュアルアイセンサーを搭載し、機体そのものには右手に駆逐艦の魚雷発射管ほどの太さがあるバズーカを、左手には機体そのものを覆えるほどの巨大なシールドを装備している。よく見ると、シールドの裏側には先端部にバーニアのようなものが付いているのも見えた。そして背中には、これまた巨大なミサイルコンテナを背負っているのが見て取れる。全体的に、打撃力重視の機体という印象を受けた。

 

「……素人目に見ても、強そうな造形ね」

 

「フフッ、そうだろそうだろ!こいつは対艦攻撃力を極力まで高めた機体だからな!バズーカには艦艇用のMサイズ量子魚雷を、そしてミサイルコンテナにはSサイズの量子魚雷に相当する量子弾頭ミサイルを積んでいる!全弾発射時の威力は駆逐艦一隻を廃艦にする程のものさ!」

 

 成程、量子弾頭か……ならにとりの謳い文句に偽りはないのだろう。元々艦艇用の装備に量子魚雷というものがあるのだが、これは単体で十数発分のミサイルに匹敵するぐらいの高威力を秘めた魚雷だ。これを食らえば、戦艦クラスといえど無視し得ない損害を負うことになるだろう。ただし、この兵器は誘導性が極めて悪いことが欠点だ。そして一発あたりのコストも高い。なので通常の0Gドックからは敬遠されている装備なのだが、にとりはこれを機動兵器に搭載させることで、その問題点の解決を図ったようだ。

 艦載機サイズの機動兵器なら小回りが効くし、通常のミサイルなんかより格段に迎撃は困難だ。加えてにとりは量子弾頭のキャリアーともなるこの機体に重装甲と大出力のバーニアを組み合わせ、さらにVOBを流用した高速SFSを装備させることにより、高速で敵艦隊にこの機体を吶喊させることで迎撃時間を奪い、至近距離で大威力の量子弾頭をお見舞いするという戦術を想定しているらしい。

 中々えげつない機体を考えるものだ。

 

「まだまだあるぞ!今度はこいつらだ!」

 

 にとりは続いて、現行の主力機動兵器ジムとその発展型、ペイルライダーのホログラムを呼び出す。彼女が何やら操作すると、その度に機体の装備が変わっていく。

 

「ジムとペイルライダー用の増加装備にも開発して、もう生産ラインに乗せてある。装備は大きく分けて3つだ!まず最初はこのスターク装備!こいつはバックパックをより大出力のバーニアユニットに換装して、さらに装甲化されたプロペラントタンクにより稼働時間を延長してある。脚部にもバーニアと一体化した追加装甲を装備して、機動力と防御力を上げている。そして肩に装備するミサイルポッドだけど、これはオプションで通常のミサイルコンテナに加えて、多弾頭ミサイルを四発増設することも可能だ!さらにこのミサイルポッドと選択式で、Lサイズの大型対艦弾頭4発を装備することも出来るぞ!」

 

 にとりが語るのに合わせて、ホログラムの機体の装備がどんどん移り変わっていく。……早苗に見せたら、興奮しそうな光景だ。

 

「そして武装は通常のジム、ペイルライダーのものに加えて、シールドと2基のガトリングガンが一体化したガトリングシールドを新たに用意してある!このスターク装備は、武装を変えることで様々な任務に対応可能だ。純粋に機動力を強化したエース向け仕様にも出来るし、大型対艦弾頭を装備して対艦任務にも充当出来るぞ。ちなみにこいつを装備した状態の機体名は、スタークジムにスタークスライダーだ!!」

 

「……へー、凄いわね……」

 

 自慢気に言い切ったにとりだけど、私は別にメカオタクでも何でもないので彼女のノリに付いていくことができない。

 にとりはそれを知ってか知らずか、構わずに説明を続ける。

 

「さらにジムとペイルライダーの新装備として、スナイパー装備とストライカー装備の開発も完了した。スナイパー装備は専用の追加ゴーグルセンサーとライフルを装備することで、艦載機でありながら戦艦主砲並の射程を実現した!ライフルの威力も、小型艦砲並は確保してあるぞ。艦載機相手なら一撃で撃墜だ!そしてこのストライカー装備は近接戦闘用の装備だ。専用のウェラブル・アーマーで防御力の向上はさることながら、大出力バックパックとスターク装備と共用の脚部追加バーニアで高い機動力を実現。さらにこの機体の真価とも言えるツインビームスピアで高い格闘戦能力を実現した!これでもし敵が機動兵器を実用化してきても、問題なく対抗できる筈だ!そして勿論、これらの装備はパイロット次第で自由にカスタマイズできるように設計されているぞ!」

 

 どうだ、と言わんばかりににとりはそのでかい胸を張る。私より背が低い癖に生意気……とまでは言わないけど。少し羨ましいかも……じゃなくて!この装備群の開発で、機動兵器の汎用性と打撃力もさらに高まることだろう。これは期待出来そうだ。

 

「そして新型機動兵器、シャイアンの開発も完了した。コイツは対宙機銃のターレットを換装することで、そこに砲台として配置することが出来る。装備は左右の腕にある30mmガトリングレーザーと、肩の対空ミサイルランチャーだ。コイツは主に、パルスレーザーの交換用さ」

 

 最後ににとりは、また別の機動兵器のホログラムを表示する。……あ、コイツ………最近〈開陽〉のパルスレーザー砲塔群と交換されていた奴か。なんでも対空兵装とセンサーシステムが一体化した機体のようで、他の機動兵器とは違って艦の砲座として運用するものみたいだ。……なら単に新型対空兵装だけでも良いんじゃないかとは思ったけど、そこを突っ込むとにとりのロマン蘊蓄が始まりそうなので触れないでおこう。うん………

 

「さて、続いては我ら科学班からの報告だ。まずは艦のシールドジェネレータを改良することでエネルギー効率を改善し、平均10%の出力向上に成功した。さらにデフレクターユニットにも同様の改良を施し、此方は7%の出力向上を果たしている」

 

 うん、純粋に艦の防御力強化という点では有り難いんだけど、どうしても、にとりの後だと、ねぇ………

 

「フフフッ、にとりの奴が目立ちすぎて地味だと思っているな?艦長。そんなことはない。我ら科学班とてインパクトのある発明を求めているのだ。さて、では御覧に入れるとしよう!」

 

 そんな私の考えもお見通しだったみたいで、サナダさんはどや顔で背後にあった鉄の処女(アイアン・メイデン)に手を掛けた。

 

 ―――あ、なんかとんでもなく嫌な予感が………

 

「これが我々科学班が開発した――――艦長専用の新型空間服だ!!」

 

 そういえば、なんかサナダさんが私の空間服を改良するとか言ってたから預けてたんだっけ。(なので今は、普通の巫女服で過ごしている)そのお披露目みたいだけど、やはり悪寒は拭いきれない。

 

 サナダさんが、鉄の処女の扉を思いっきり引っ張った。

 

 バーンッ!!!、と勢いよく開かれた鉄の処女の扉から、莫大な量の煙が溢れだす。……というかそれ、ロッカーだったんだ………という突っ込みはさておき、ご自慢の新型空間服とやらは………

 

 煙が晴れていくに従って、その姿が次第に露になる。

 

 マネキンに着せさせられた空間服は、特に華美な装飾は見られず、黒っぽい光沢のある色で統一されている。そして、肝心の形だけど………

 

「フフッ、この新型空間服は機能的なデザインは勿論、性能面には特に気を使っている。見た目は()()()()()()と大差ないが、防御力は強力なレーザーライフルの着弾にも耐えられるほどにまで強化し、そして真空中でも長時間生存可能なよう極力まで小型化された生命維持装置に艦長専用バトルアーマとのドッキング機能まで付与された、正に艦長の為の唯一無二の空間服だ!!」

 

 そう、形だ……何で……なんでよりによって()()()()()()の形にするんだこんの野郎!!

 

 か、身体のラインが完全に浮き上がるような………あ、あんな恥ずかしい形なんて………あれが嫌だからわざわざ改造して昔の巫女服みたいな形にしていたのに!!

 

「どうだ艦長?これぞ艦長の蛮行に耐えうる最強の空か………ゴフッ!?」

 

「ファ◯ク……じゃなかった。チェンジ!チェンジよこんなの!!こんな恥ずかしいモン着れる訳なんてないでしょうがぁぁぁ!!!?」

 

「な………なん、でさ…………」

 

 

 ―――乙女の恥じらいが分からぬ変態は粛清した。サナダさんは理不尽だと訴えていたが自業自得である。慈悲はない。イイネ?

 

 

 

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「久し振りね、霊夢!って、そんなに久し振りでもないか。それはともかく、また世話になるわね!」

 

「よ、よろしくお願いします……!」

 

「こちらこそ。歓迎するわ」

 

 約束通り、レミリアとフランの二人が、いつものお付き(サクヤさん)と一緒に乗艦してくる。メイリンさんは、バリオさんのバゥズ級重巡〈イサリビ〉のようにフル改装された〈レーヴァテイン〉に再び乗り込み、一緒に護衛してくれるのだという。

 

 元気に挨拶してくれた二人だけど、その後から訝しげに私を見つめてくる視線は何なのだろうか。サクヤさんも、なんか視線に警戒の色が混ざっているような……

 

「あの………霊夢さん?」

 

「なに?」

 

「その………ふ、服が………真っ赤……」

 

 レミリアが恐る恐る、私を見上げる。

 

「ああ、これね?ここに来る直前に血糊を溢してしまってね。迎える立場なのに、御免なさいね」

 

「いや、どう見ても本物………」

 

「偽 物 で す 。い い ね?」

 

「アッハイ」

 

 レミリアとフランの二人は、それで大人しくなった。

 

 ちなみにサナダさんだけど、数時間後には普通に生き返っていたわ。妖怪か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~ネージリンス領、マゼラニック・ストリーム宙域~

 

 

【イメージBGM:無限航路より「青年編通常宙域BGM」】

 

「ゲートアウト完了。マゼラニックストリーム宙域に到達しました」

 

「赤色超巨星ヴァナージの太陽嵐影響圏に入ります。シールド出力を35%上昇」

 

 アーヴェスト宙域にいる間は幸いにヤッハバッハ艦隊に遭遇することはなく、無事に大マゼラン銀河との中間点であるこのマゼラニックストリーム宙域まで来ることができた。

 今はまだヤッハバッハ艦隊の姿は見えないが、ゲートを出て早々に、私達の目の前に赤色超巨星ヴァナージが立ち塞がる。

 この星は別に航路上に位置……進路を物理的に塞いでいるという訳ではないのだが、11年周期の恒星活動が極大期を迎えているこの星の周囲は、凄まじい太陽嵐と熱圏の影響を受けてまるで"時化た海"のような様相を呈している。

 

 その影響は大マゼラン並の技術力で造られたこの艦隊とて例外なく逃れることはできず、熱圏の影響範囲に入ってからというもの、艦内温度の上昇が止まらない。

 

「艦内平均温度、約2℃上昇。シールド発生装置、出力85%まで上げます」

 

 とは言っても、エネルギーを冷房に回す訳にはいかない。シールドに最優先でエネルギーを供給しなければ、艦体の外壁は忽ち凄まじい恒星風の影響を受けて溶解し、艦内の電子機器も太陽嵐の影響を受けて異常が続出してしまうことになるだろう。

 

「了解。艦体外郭と電子機器の防護を最優先に。ただし乗員の疲労を考えて、敵艦隊との会敵までは三交代制を維持して」

 

「了解です」

 

 私の命令に、オペレーターのノエルさんが応える。

 

 状況を考えるともっと人がいてもいい艦橋内だけど、今はヴァナージの太陽嵐影響圏通過に伴う疲労を考えて監視以外は平時のシフトを取っているので人影はまばらだ。

 

 ノエルさんに命じた私は続いて、貴賓室に連絡を入れた。

 

 "来賓"を乗せている以上、艦長たるもの彼女達の体調には気を遣わなければならない。

 

「もしもし、サクヤさん?二人の様子はどう?」

 

《ああ、霊夢さんでしたか。……はい、今のところは大丈夫ですよ。温度が上がったと多少文句を垂れてはいますが、体調には影響ありません》

 

 応対したサクヤさん――スカーレット社の令嬢二人のお付きを務める彼女によれば、レミリアとフランはまだ大丈夫なようだ。

 一応彼女達には宇宙放射線に関する疾患はないと聞いているが、一時的にせよ艦内温度が上がるのでもしかしたら体調を崩してしまうかもしれない。今はまだ大丈夫らしいけど、万が一に備えて気には掛けておこう。

 

「そう。なら良かった。もし二人に何かあったらすぐに連絡して頂戴。すぐに医者を向かわせるわ」

 

《有難うございます》

 

 ま、派遣できるのはマッドサイエンスな薮医者だけどね………という点には目を瞑ってもらうしかない。……如何に変態科学者なシオンさんと言えど、流石に10歳前後の幼女に手を上げることはないだろう。……ないと信じたい。

 それにもし戦闘が始まったらそうは言っても派遣できないかもしれないし……応急処置なら白兵戦の予定はないので海兵隊員に任せることもできるけど、本格的な処置となったら専門器具に熟知している人の力も必要だしなぁ………

 

 本当、弊艦隊の医師不足は深刻です………

 

 

「それにしても……敵の姿、見えませんねぇ」

 

 いつもと変わらず、私の隣に侍っている早苗が言った。

 

「今は居ない方が助かるわ。只でさえこんな酷い場所を航海してるんだから」

 

 こんな場所でヤッハバッハなんて出てきて堪るもんですか。只でさえ暑さでダウンしてるクルーも居るのに(そのための敢えての平時シフトなんだし)その上敵襲なんて事態にでもなったら目も当てられない。………願わくば、何事もなく大マゼランまで逃げ果せたいものだ。

 

「それもそうですね。あ"ぁ"……それはともかく暑いですぅ霊夢さん……」

 

「我慢しなさい。今のあんたは他人より身体が頑丈なんだし」

 

「ふぇぇ、そんな殺生な……暑いのは苦手なんですよぅ………」

 

 そうは言われても、ねぇ………

 

 こいつが昔から暑いのは苦手だってことは……まぁ同郷だから知ってはいるんだけど、それを差し置いても今のあんた、曲がりなりにも身体は機械みたいなもんなんでしょう?それぐらい、耐えられないのかしら。

 

「あ……いま霊夢さん、私の身体がナノマシン製ドロイドなんだからこれぐらい耐えなさいとか考えましたね!」

 

「なによ……事実でしょう?」

 

 何だこいつは……前々から思っていたけど、読心術でも持っているのか。

 

「私の読心術は霊夢さん限定です!」

 

 ほらまた……というか、そっちの方がよっぽどが質が悪いと思うんだけど……

 

「それはともかくとして……少しは耐えられるでしょ?こんなときなんだから、しっかりして貰わないと困るんだけど……」

 

「ううっ、それはそうなんですけど……私が暑さに弱いのは昔からで……いわば魂に刻み込まれたようなものなんです。だから多少身体が変わっても、そればっかりは変わらないというか何というか……まぁ、そういう事情なので納得して下さい☆」

 

「ハァ………そういうことにしといてあげるわ」

 

 早苗とやり取りを交わすのもなんだか億劫になってきたので、適当なところで無理矢理納得して切り上げることにした。

 

 にしても、機械のナカに転生したことが多少とは……全く以て、この子の感性は読みにくい……。

 

 

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 ヴァナージの太陽嵐影響圏に入って暫くは、幸いにもこれといって目立った動きはなかった。強いて上げるとしたら、太陽嵐で機械に異常が起きていないか調べるために整備班連中の仕事が増えたくらいか。まぁ、あのにとりが居るんだから大丈夫でしょう。それに、大マゼランへの脱出行を控えている以上、ここで機械トラブルなんて起こされたら困るんだから、暫く整備班には働いてもらわなければ。

 

 それは別にいいんだけど、ここにきて、いま最も出会いたくない奴等の尻尾が見えてしまった………

 

「っ!?……か、艦長……!」

 

「……こころ?何かあったの?」

 

 レーダー手の席に座っていたこころが、ナニカ不味いものを見つけたような顔で振り返る。

 

 ……その表情で、何があったのか悟ってしまった。

 

「ぜ、前方……距離53000に交戦反応……!」

 

「交戦反応!?ノエルさん、艦種の照合を!」

 

「了解ッ!……出ました。ッ、こ、これは……」

 

 こころの報告で、其がヤッハバッハ艦隊だと直感する。

 

 その直感を確認するため、私はノエルさんに件の交戦反応に見られる艦種の照合を指示した。

 

「艦種照合……完了!艦種は……ヤッハバッハのダウグルフ級戦艦にダルダベル級重巡洋艦、そしてブランジ級突撃駆逐艦が複数!数が多過ぎて捕捉しきれません!」

 

 ……やはり、勘は当たってしまったか。面倒なことになった。

 

 だけど、交戦反応というからには戦ってる相手もいる筈……それは何処の艦隊なのだろうか。

 

「ノエルさん、もう一方の艦隊が何処の所属かは分かる?」

 

「はい、やってみます……ッ、………出ました!ヤッハバッハ艦隊の前方に、別の艦隊を発見。これは………アイルラーゼン艦隊です!」

 

「アイルラーゼンですって!?」

 

 予想外の交戦相手の存在に、思わずそんな声を上げてしまった。

 ここがネージリンス領なのを考えるとヤッハバッハと戦ってる相手はその持ち主のネージリンス艦隊か、友好国のネージリッドが相場だろうと思っていたのだけれど、何故こんなところにアイルラーゼン艦隊が………

 

「………艦隊の規模は?」

 

「確認します………ヤッハバッハには及びませんが、多数の戦艦を含む大規模艦隊のようです」

 

 続いて私は、こころにアイルラーゼン艦隊の規模を確認させた。………こんな場所で活動しているアイルラーゼン艦隊といえば最近共闘したあの胡散臭いピンク頭の艦隊が頭に浮かんだのだが、艦隊の規模を見ると、どうやらそれとは違う艦隊のようだった。………何故アイルラーゼン艦隊がこんな場所に居るのかという疑問は残るのだけど。

 

 しかし、いま重要なのは此所をどうやって突破するのかという一点に限る。………アイルラーゼン艦隊に関する考察は後だ。

 

 敵中突破は………問答無用で却下だ。あまりにも馬鹿馬鹿しい。当方と彼方の戦力差を考えると、何もできず全滅させられるのがオチだ。

 続いて迂回路を探すという選択だが………これも却下。今から在るかどうかすら分からない迂回路を探している余裕はない。

 ともすれば……選択肢は一つしか残されていない。私達だからこそ取り得る選択が………

 

「ロビンさん、直ちにかカシュケントまでの航路を計算して!!………ワープ準備に入るわよ!」

 

「マジっスか!?」

 

 私は直ちに、ワープ航行に入ることを指示する。

 

 ワープならば、一気にヤッハバッハ艦隊を越えてその奥にある惑星カシュケントにまで辿り着くことができる。

 問題は………ワープ中に想定外の障害物に遭遇した場合だけど、この辺りまで来たら流石にワープを中断させるような強い重力を持った天体はそうそう浮かんでいない筈だ。………ならば、行ける。

 

「ユウバリさん、機関出力120%!」

 

「了解っ!機関最大!ワープ準備!」

 

「ッ………ああそうですかい!こうなったらやってやりますよ!俺もこんな場所では死にたくないんでね!!」

 

 機関長のユウバリさんに命じて、直ちにエンジンをワープ準備に入らせる。ワープするにはそれなりにリスクが高い場所だと分かっているロビンさんは最初こそ幾らか小言を言っていたけれど、決心がついたのかやけくそなのか、舵を握る手に力を入れ直したように見えた。

 

 そうして粛々と、ワープの準備は進んでいく。

 

「〈高天原〉〈ブクレシュティ〉〈イサリビ〉の三艦より、了解との返答あり!」

 

「艦隊全艦、ワープ準備完了!」

 

「機関出力、最大まで上昇!いつでもいけます!」

 

「航路計算完了……っと。いきますぜ、艦長!」

 

 準備完了の報告に、私は静かに頷く。

 

「よし………ワープ!!」

 

 私の号令に合わせて、艦隊は蒼白い超空間のなかに消えた。

 

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「………ワープ、完了。間もなく通常空間に出るぞ」

 

 数時間の間超空間を漂った後に、艦隊は再び、通常の宇宙空間に姿を現す。

 

 艦橋の窓を通して、前方の遠くに青い水の惑星………惑星カシュケントの姿が見えた。どうやら、ワープは成功したみたいだ。

 

「ふぅ………何とか上手くいったみたいね」

 

 ヤッハバッハ艦隊を無事に迂回できたことで、クルー達の間には束の間の安堵の雰囲気が漂う。

 

 

「ま、半分博打みたいなもんですけどねぇ」

 

「私は霊夢さんの勘を信じてしましたとも!」

 

 早苗はいつもの調子で、そんなことを言った。

 

 ともあれ、これで一度補給が出来そうだ。カシュケントに寄って、今一度必需品の補充を済ませておこう。

 

 

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 惑星カシュケントの宇宙港からは、ひっきりなしに民間船が慌ただしく出港していく。

 元々大マゼランとの中間地点なので交易で発展している星だとは聞いていたが、目の前のそれはどちらかというと、慌てて逃げ出すようなものに見えた。証拠に、港から出ていくフネの姿は数えていられないほどあるが、逆に入港するフネの量はそれと比べてひどく少ない。

 

「……なんだか、忙しそうですねぇ」

 

「ヤッハバッハの情報が伝わってるんでしょう。大方、私達と同じように大マゼランに逃げようって連中なんじゃない?」

 

 ここカシュケントは交易で発展している惑星だと聞く。ならばこの星を根城にする貿易商なんかはかなりの財を蓄えているのだろう。この星が侵略者の手に渡ったとき、その財産が保証されるという確証がない以上、逃げるというのは全うな選択肢だ。

 ………逃げ出すフネの大半が大型貨物船のビヤット級ということは…………まぁ、そういうことなのだろう。

 

「管制塔より連絡です。11番ステーションに入港許可が降りました」

 

「了解。じゃあ、そこに艦を向かわせて」

 

「アイアイサー」

 

 沈み行くフネから逃げ出す鼠のように慌ただしく出港する貨物船の群を掻い潜って、〈開陽〉はカシュケントのステーションに入港した。

 

 

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 ~マゼラニック・ストリーム宙域、惑星カシュケント宇宙港~

 

「入港手続、完了しました」

 

「乗員は現状のまま待機。いつでも出られるようにしておいて」

 

「了解です」

 

 クルーには待機を命令して、私は早苗を伴って宇宙港に降り立つ。

 

 なんだか、見覚えのある艦が並んでいるように見えるのは気のせいだろうか。

 

「気のせいじゃなくて、これ、ユーリさん達のフネですよね。なんでこんな場所にあるんでしょうか?」

 

 そのフネは、何度か舳先を合わせて共に戦った馴染みの0Gドック、ユーリ率いる艦隊のフネ達だった。

 

「さぁ?私に聞かれてもねぇ……大方、私達と同じで大マゼランに逃げようって魂胆なのかもねぇ」

 

「ああ成程、そういう可能性もありましたね」

 

 遇々偶々、逃げる途中で遭遇したようなものだろう。これもなにかの縁だし、声ぐらいは掛けておこうと私は思っていたのだけれど…………

 

 

 彼等を会うことで、私は事態がそこまで、私達を素直に逃がしてくれるほど優しいものではないと、思い知ることになった……

 




本章に入ってから、霊夢ちゃんの服装がしばらく変わります。以前はwin版巫女服ベースの空間服でしたが、いまは普通の巫女服です。個人的にぴっちりスーツはあまり性癖にヒットしないので霊夢ちゃんには着せません。サナダさん製のぴっちり空間服はクーリングオフされました。

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