「ううっ・・・ここ、は・・・?」
「―――漸く、お目覚めみたいね」
旗艦〈開陽〉の医務室で、彼女は目を覚ました。
未だに意識が朦朧としているのか、意識はここに有らずといった雰囲気だ。
「っ―――まり、さ・・・?」
「―――艦医のシオンよ。それより貴女、当面はここで休んでいてもらうわ」
「う――――ッ・・・し、シオン・・・か。失礼――」
彼女―――霊沙は胸を抑えて起き上がり、シオンを視界に捉える。
「や、休む、だって・・・?」
「ええ。廊下で倒れていたあんたを艦長が運んできてくれたのよ。感謝しておきなさい」
シオンはそう告げると霊沙から視線を外し、机の書類に目を落とす。
霊沙は「艦長―――あいつが・・・?」と呟くが、そこで自身のベッドに身を預けて寝ている少女の存在に気付いた。
「おまえ―――フランか?何で私なんかに―――」
「――――う~ん・・・あ、お姉ちゃん、起きたのね!」
霊沙が目覚めたと気付いたフランは、うたた寝から覚めるや否やぱあっと表情を明るくする。が、霊沙はそんな状況が飲み込めず、書類整理に耽っているマッドな藪医者に問い質した。
「おいシオン。こいつ、何で私なんかのところに―――」
「ああ、その娘、ここを通り掛かったときにあんたを見つけてからずっとそんな調子でね。―――まぁ、見舞ってくれたんだから礼の一言でも言っておきなさい」
「そうだな・・・フラン、有難う」
「うん!お姉ちゃん元気になったみたいで良かったわ!」
フランは子供特有の無邪気な笑みで、霊沙の礼に応える。
一方の霊沙は、「なんで懐かれたかな・・・」と困惑していた様子だが。
「あ、妹様。こんな処においででしたか。さぁ、早く部屋に戻りましょう。これから戦闘が始まりますから、早く安全な場所へ―――」
フランを探しに来たのだろうか、彼女のメイドであるサクヤが医務室に足を踏み入れる。
「おい、サクヤ、だっけ?戦闘が始まるって、本当か?」
「霊沙様でしたね。はい、もうすぐ敵主力との決戦だと、霊夢様が仰っていましたが・・・」
「チッ、だったらこんな場所で寝ている暇は―――「おっと、そこまで」グハっ・・・」
サクヤの言葉を聞いた霊沙は、戦闘が始まるならこうしてはいられないと飛び起きようとするが、額にシオンが投げた物体が命中し、そのまま再びベッドに倒れ伏した。
「全く・・・貴女は病人なんだから大人しくしていなさい」
「お、お姉ちゃん・・・」
「さぁ、妹様。早くお部屋へ―――」
「――――――う、うん・・・お姉ちゃん、ゆっくり休んでいてね!」
突然の事態に頭がついてこれなかったのか、フランはサクヤの呼び掛けにも関わらず暫く呆然としていたが、意識が戻ると霊沙にそう言い残し、彼女と共に医務室を後にした。
その様子を見送ったシオンは、再び机の書類に目を落とす。
―――あの娘、よくもまぁ、こんな身体で戦闘機なんかに乗れていたものですね・・・艦長には、何と言うべきか・・・
彼女が思案しながら眺めている書類、それは、霊沙の身体を検査した際の資料だった。
~『紅き鋼鉄』旗艦〈開陽〉艦橋内~
「―――三重連星系の熱圏を突破しました」
「ふぅ―――ここは無事に切り抜けられたか・・・排熱機構に異常はない?」
「はい。現状では多少排熱のペースが追い付いていない程度です。機構そのものに異常はありません」
艦橋に戻った私は、戦闘に備えて艦内システムのチェックを指示した。先程まで通ってきた三重連星系は、航路がメテオストームを避けるために恒星に近い位置に引かれていたので、恒星からの太陽風なんかで何処かのシステムに異常が発生するかもしれなかったからだ。
「あー、特に機関室の排熱が追い付いていないみたいですね。艦長、予備の冷却システムを稼働させておきます」
「任せたわ、ユウバリさん。機関室は艦の生命線なんだから、異常が起きないようお願いするわ」
「了解しました」
さっきのユウバリさんの報告では機関室の排熱が追い付いていないということだったが、多分艦内の排熱自体が追い付いていないので、システムに懸かる負荷が大きくなったせいだろう。今頃装甲外板の温度は100℃近くなっていてもおかしくないし、バイタルパート内こそ通常の温度で保たれているが、その温度に保つにも普段以上のエネルギーを消費している筈だ。
まあ、こういう事態に備えて重要区画には予備システムが備えられているから、大事には至らないだろう。
「ああそうだ。早苗、他の艦の様子はどう?」
「はい・・・どの艦も似たり寄ったりですねぇ―――少なくとも、システムに異常を来している艦はないみたいですよ」
「艦長、友軍艦からも、システムに異常なしとの連絡がきています」
早苗と通信担当のリアさんからの報告では、他の艦や友軍艦も無事にこの熱圏を突破できたみたいだ。これは素直に喜ばしい。敵との決戦前にシステムに異常が出て戦線離脱なんて事態になれば目も当てられないだけに、戦力が低下しなかったのは嬉しいことだ。
「了解したわ。一応しばらくシステムチェックはさせておきなさい。もう大丈夫だとは思うけど、万が一ってことがあるからね。それと戦闘に備えて、今のうちに陣形を整えておくわよ。いつも通り、主力艦隊を前へ、空母と工作艦部隊は艦隊の後方に配置しておいて」
「分かりました♪」
三重連星系を抜けた艦隊は、陣形を整えながら目の前に広がる蒼い空間へと突き進む。先程までの三重連星系が暑苦しい赤い世界なのに対して、目の前の宙域―――サファイア宙域は凪いだ夜の湖のようだ。しかし実際には、サファイア宙域もここに劣らず厳しい宙域だ。特徴的な蒼い空間も、見た目とは裏腹に超高熱の青色超巨星が作り上げた景色だ。どっちの宙域も暑苦しいことに変わりはない。それに青色超巨星の太陽風や暗黒ガスの影響でレーダーが使えないだけに、この先は一層警戒して進まなければならない。
「ミユさん、あの宙域に入る前に、一応空間スキャンをしておいて。それとノエルさん、宙域に入り次第、偵察機部隊と通信中継機を発進させて」
「了解しました」
「了解です」
いよいよあの宙域に入ったら、敵主力艦隊との決戦だ。今までのように格下の相手ではないだけに、嫌が応にも緊張する。
艦隊は静かに、決戦の地へと進んでいく―――。
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「サファイア宙域に侵入しました。偵察機隊を発進させます」
いよいよ艦隊は、決戦場に足を踏み入れた。
ノエルさんの報告の後に、艦隊からは多数の偵察機と、遠方に進出する偵察機との通信を中継するための連絡機が発進する。改造ゼラーナ級からは新型偵察機のアーウィンが発進し、巡洋艦からは連絡機のスーパーゴーストが発進する。
「全艦、敵襲に備えて警戒を厳にして。光学観測も怠らないで」
「了解」
戦闘を前にして、警戒態勢を指示してクルーの気を引き締めさせる。
この宙域ではレーダーがあまり当てにできないので、それだけ奇襲を受ける確率も高くなる。なのでこの宙域では、光学による観測も今まで以上に重要だ。優秀な見張り員こそ居ないけど、システムが敵の艦影やメインノズルの噴射炎をレーダーに先んじて捉えることができれば、それだけ此方に備えの時間ができることを意味するからだ。
「偵察機隊、扇状に展開します。半径250光時の空間を調査開始」
艦隊を離れた偵察機部隊は、一機ずつ散開して、面を塗りつぶすような形で索敵を開始する。後方に続く中継機部隊は、一定の距離まで進むと使い捨ての通信中継衛星を設置していく。
そこからは、時間との戦いだった。
いつ来るか分からない敵艦隊発見の報せに備えて、準戦闘態勢を維持しながら前進していく。
当直こそ三交代制を維持しているが、普段にはない緊張感を伴って航海を続けているために、あまりこれを続けすぎるとクルー達の疲労が溜まってしまう。それではいざ戦闘となったときにミスの原因になるからだ。
だからといってここは既に敵本星の目前、それだけ敵との遭遇が予想される宙域だ。気を抜かない訳にはいかない。
この緊張感の微妙な匙加減を維持させることが、中々に難しい。
艦隊が宙域の半分ほどに差し掛かった頃には、少しずつクルー達の間に疲労の色が見え始めていた。ここまで来るのに1日近くが経過しているだけに、流石に疲労は避けられないのだろう。あまり敵発見が遅れてしまうと、それだけ此方に疲労が溜まって、ヒューマンエラーが多発する事態になり兼ねない。そろそろ見つかって欲しいものだけど・・・
そのとき、怠そうにコンソールに向かっていたリアさんが、慌てて姿勢を直して画面を食い入るように眺めた。
「っ―――艦長!偵察機γ9より通信です!"我敵艦隊見ユ"!!」
「来たわね―――全艦、戦闘態勢!所定の行動に入れ!」
「了解、全艦戦闘配備!」
「アイアイサー。戦闘速度に移行しますよ・・・っと!」
「全艦、近距離用メインレーダーに切り替えます。暗黒ガスの影響で索敵範囲が15%低下・・・」
敵発見の報せを受けて、艦内ではけたたましくサイレンの音が鳴り響き、クルー達は慌ただしく配置につく。
「リアさん、敵艦隊の規模は?」
「はい・・・今のところ、ナハブロンコ級が14隻、シャンクヤード級巡洋艦が5、マハムント級巡洋艦が7、ファンクス級戦艦が2隻、ネビュラス級戦艦が4隻、ヴェネター級航宙巡洋艦が6、ペレオン級戦艦が3、未確認の1000m級戦艦が8隻、1500m級戦艦を1隻、2000m級戦艦を2隻確認!。敵は大マゼラン宙域海賊艦を前衛に、主力艦と空母を後衛に置いて前進中とのことです!」
「・・・ミユさん、未確認艦の照合を急いで頂戴」
偵察機からの報告を受けたリアさんから、敵艦隊の詳細な情報が届けられる。この期に及んで未確認艦とは、敵もいよいよ全力で来たということだろうか。それに、例のリサージェント級戦艦の姿が見えないのが気になるわね・・・
「っ―――出ました!データ照合完了!敵1000m級戦艦はヴィクトリーⅡ級戦艦と判明。情報では高速戦艦タイプとのことです。1500m級の敵艦はテクター級戦艦、ペレオン級同様、艦隊決戦を想定したタイプの敵艦です。2000m級はセキューター級空母と判明、搭載機150機の大型空母です!」
「友軍艦艇にも敵発見の報告を行います。偵察機からのデータを送信―――」
ミユさんが遺跡船のデータ解析で得られた敵艦のデータベースに照合して、未確認艦の詳細を割り出す。リアさんは偵察機から得られた情報を、僚艦や友軍艦艇にも伝えていく。
「アイルラーゼン艦艇、スカーレット艦艇、ブクレシュティ特務艦隊、本隊より離脱します」
事前の打ち合わせに従って、長距離レーザー砲を搭載した艦艇が本隊から離れていく。複数方向から同時に遠距離射撃を実施するためだ。
いよいよ、敵艦隊との決戦が始まる。
【イメージBGM:「アーベルジュの戦い」】
「〈ステッドファスト〉より発光信号!」
「・・・読み上げなさい」
「ハッ、"貴艦隊ノ健闘ヲ祈ル"・・・です!」
本隊から離脱していくアイルラーゼン艦隊旗艦〈ステッドファスト〉から、探照灯で光信号が送られてくる―――あのピンク髪、中々いいことしてくれるじゃない。士気が上がるというものだ。
「ククッ―――あいつも粋なことしてくれるわね・・・此方からも返信しなさい"敵本星で会おう"ってね」
「了解しました!」
あのピンク髪の粋な計らいで皆も士気が上がったようで、戦闘を前にしながらさっきよりも生き生きとしているように見える。―――この様子ならば、戦闘行動に支障はなさそうね。
「霊夢さん、作戦の方はどうされてますか?あの巨大戦艦が居ないなら、多少想定を変えても良さそうですけど―――」
「そうねぇ・・・先ずはあの前衛艦隊を始末するわよ。大マゼラン海賊の高速艦ばかりで編成されているし、此方が見付かったら真っ先に突撃してきそうだもの」
「了解しましたっ。艦載機隊はどうします?一応巨大艦対策に下駄履きのジムを残して、通常の航空戦力を差し向けますか?」
「う~ん、そこは難しいわね・・・敵の後衛には大型空母クラスが8隻も陣取っている訳だし―――そうねぇ、早苗、発光信号で別働隊に攻撃目標の指示を。"別働隊は敵空母を狙え"ってね」
「敵空母ですか―――了解です!」
早苗に指示を与えると、彼女は嬉々としてそれを実行する。あの様子だと、私の狙いが分かったのだろうか。
「ほう、敵空母から潰すか―――確かに此方の航空戦力は数の上では大きく差を付けられているからな。妥当な判断だ」
「ありがと、コーディ。どうも敵さんの陣形を見ると、後衛にはあまり護衛艦が付いていないみたいだからね。この様子なら、直接空母を狙えそうだし、いい機会だから先に叩いておこうと思ってね」
「成程な。カルバライヤ戦法か」
「ええ」
戦闘を前にして、私はコーディと言葉を交わす。
彼が口にしたカルバライヤ戦法とは、そのまんまカルバライヤ宇宙軍の対ネージリンス戦法を指している。
カルバライヤ宇宙軍の戦艦は殆どの例外なく超遠距離レーザーを主砲として搭載しているんだけど、それはネージリンスの主力である航空戦力を先んじて空母ごと叩くために装備されている。航空戦力で劣る彼等からしてみれば、ネージリンスの艦載機に自分達の上空を舞われることは即ち敗北を意味するからだ。だから彼等は、先制して空母を叩き潰すこのドクトリンを採用している。
今の私達も、まさに彼等と同じような状況だ。航空技術こそ連中より勝っているけど、此方の艦載機400機程度に対して空母の搭載量から考えると敵は約1200と3倍の差を付けられている。加えてこちらの艦載機は索敵に少なくない数を割いているので、迎撃に使える飛行機はもっと少ない。ならば先んじて敵空母を叩き潰しておかないと、酷いことになるのは間違いない。
「別働隊より、了解との返答あり」
「長距離用索敵レーダー沈黙。敵のジャミングが開始されました。此方も気付かれた模様です。敵前衛艦隊、真っ直ぐ本隊に向けて加速を開始!」
「・・・いよいよ来たわね。敵前衛艦隊との距離は?」
「はい―――敵前衛艦隊との距離、凡そ87000です!」
「まだ遠いわね―――フォックス、グラニートミサイルの発射準備を。目標は敵前衛艦隊よ」
「イエッサー。グラニートミサイル発射用意。VLS一番から4番まで解放」
「それと付近の哨戒を厳にして。もしかしたら敵機が潜んでいるかもしれないわ」
「了解」
こころが報告してきた距離ならば、まだ艦船用のレーダーでは捉えきれない距離だ。暗黒ガスが充満しているこの宙域なら尚更に。恐らく、敵も偵察機や偵察衛星を配置しているのかもしれない。今のところ、別働隊が気付かれた兆候がないのは良い調子だ。このまま私に食らい付いて来い。
「ロビンさん、艦隊を加速させるわよ。敵艦隊との距離48000の位置まで最大戦速」
「アイアイサー。最大戦速了解っと」
グラニートミサイルの射程まで、まだかなり距離がある。あのミサイルの射程は45000だったから、その近くまで距離を詰めておいた方が良さそうだ。仮にもし敵が別働隊を見つけてそっちに方向転換したとしても、この艦隊を加速させればまだ救援も間に合う筈だし、戦術の幅も広がる。
「・・・距離、60000を切りました」
「グラニートミサイル、射撃諸元入力開始。発射準備に入るぜ」
―――敵との距離もだいぶ縮まってきたけど、敵は依然としてこの艦隊に向けて加速している。もうこの距離に入れば、交戦は避けられない。
「〈ブクレシュティ〉より暗号通信です。"我狙撃位置二到着"」
「―――随分と足が速くなったわね、あの艦。他の艦隊はどう?」
「はい―――射撃位置につくまでには、あと15分ほどかかりそうです」
「15分か・・・その時間だと、ちょうどグラニートミサイルが敵艦隊に到達する頃かしら。よし、別働隊の攻撃はグラニートミサイルの着弾を以て開始するわよ。通信中継衛星を介してそう伝えておきなさい」
「了解です」
これで戦端を開く合図を轟かせるのは、この艦隊の役目となった。
ククッ、今まで散々この私を煩わせてきたツケ、存分に返させてもらうわ。
「敵艦隊との距離、あと50000!」
「ようし、全艦、減速用意。距離45000でミサイル攻撃を始めるわよ!」
「了解!!」
いよいよ、敵前衛が此方の射程に入りそうだ。この宇宙に戦闘の花が咲く刻も近い。
「グラニートミサイル、射撃諸元入力完了だぜ」
「―――敵艦隊との距離、45000です!」
フォックスとこころの報告が重なり、戦闘距離に入ったことが告げられる。
私は迷わず、その命令を下した。
【イメージBGM:宇宙戦艦ヤマトⅢより「ボラー艦隊の奇襲」】
「―――始めるわよ。グラニートミサイル発射!目標、敵前衛艦隊!」
「イエッサー!グラニートミサイルVLS、1番から4番まで解放!発射ァ!」
「〈ケーニヒスベルク〉〈ピッツバーグ〉、ミサイル攻撃を開始します!」
艦隊の中央に陣取る3隻の大型艦から、盛大に噴射炎を吹かしながら巨大なミサイルが力強くVLSを蹴って頭を出す。
放たれたミサイルは、敵前衛艦隊に進路を合わせると、獲物を見定めた猟犬の如く真っ直ぐに飛翔していく。
「グラニートミサイル、着弾まであと20」
敵艦隊はミサイルの発射に気づいたのか、俄に騒がしくなる。主砲の射程に捉えた艦は、狂ったようにミサイルに向けて砲撃を始めた。しかし、その行動はお世辞にも統率の取れたものとはいえない。
それもその筈、普通こんな距離でミサイルが飛んでくるなんてことは有り得ないからだ。
通常の交戦距離は遠くて凡そ20000―――まだ2倍以上の距離がある。そのため、敵はこんな距離で攻撃されるなんて考えていなかったのだろう。
だがそんな事情など知らぬとばかりに、太くておっきい私のミサイルは寸分の違いなく敵艦隊に着弾した。
このミサイルはそれ自体が多少の攻撃では落とされないほど頑丈なだけでなく、敵艦に第一弾頭が着弾した後、内部に第二弾頭を送り込んで内側から確実に破壊するという二重弾頭構造になっている。何という鬼畜仕様、おお怖い怖い(主にマッドが)。
そんな鬼ミサイルの洗礼を受けた敵艦がただで済む筈がなく、着弾した艦は例外なく大爆発を起こして吹き飛ばされた。今ので何隻沈んだかしら。
「・・・戦果報告」
「ハッ―――此方が発射したミサイル22発のうち19発が命中しました。敵艦隊のうちファンクス級戦艦、ヴィクトリーⅡ級戦艦各1隻を中破、シャンクヤード級巡洋艦3隻、ナハブロンコ級水雷艇7隻の撃沈を確認」
「上々ね。さて、次は別働隊の攻撃だけど・・・」
この次は、別働隊が敵空母に向けて長距離射撃を行う手筈になっている。前衛艦隊が常識外の距離から攻撃を受けたのに続いてこの攻撃だ。成功すれば、さぞ敵は混乱するだろう。
「―――〈ブクレシュティ〉及びアイルラーゼン軍艦隊の戦艦〈ステッドファスト〉〈リレントレス〉〈ドミニオン〉の4艦、敵空母に対し砲撃を開始しました」
―――よし、ここまでは作戦通り。あとは戦果の程だけど・・・
「別働隊の砲撃により、敵ヴェネター級1隻の上部甲板に重大な損害を確認。空母機能を喪失したものと思われます。さらに別のヴェネター級2隻にも着弾を確認!」
初弾にしては、中々の戦果じゃない。敵艦隊の近くに張り付かせている偵察機とのデータリンクが効いたかな?
偵察機の存在に気付かれる前に、できるだけ多くの弾を送り込んで欲しいところね。
「アイルラーゼン艦艇、リフレクションレーザーによる第二射を敢行!敵ヴェネター級1隻に致命的破壊を確認!」
さらにアイルラーゼン艦隊は、第一射目で損傷を負わせた別のヴェネター級を砲撃し、集中砲火で確実に戦闘力を奪っていく。セキューター級は図体がでかいだけにしぶといと判断したのか狙われていない様子だ。―――あの中佐、ピンクの頭してる癖に賢いわね。
「さて、こっちも負けていられないわね。グラニートミサイル、第二射用意!目標は敵ファンクス級及びヴィクトリー級高速戦艦!一艦あたり5発は叩き込みなさい!」
「イエッサー!グラニートミサイル第二射用意、射撃諸元入力開始!」
別働隊の働きを眺めてばかりではいられない。第一射目が成功したとはいえ、敵はまだまだ数が残っているのだ。
次の攻撃は、特に驚異度が高い高速戦艦を狙わせる。撃沈まで持っていかずとも、あのミサイルを2、3発も受ければ唯では済まない筈だ。
「第二射は残り全てのVLSで行う。発射用意急げ!」
「了解―――全弾発射準備完了。5番から8番までのVLS解放、発射!!」
続いてグラニートミサイルの第二射が放たれ、勢いよく敵艦隊に向けて飛翔していく。第一射目で取り巻きの巡洋艦と駆逐艦に大損害を与えたので、次は脅威となる敵戦艦に狙いを定めている。
VLSから放たれた30発の大型対艦ミサイルは指示された通りに敵大型艦に食らい付くが、敵戦艦の砲撃により6発が撃墜された。敵の大型艦は中~小口径砲を多く積んでいるので、それだけミサイルに命中するレーザーが多くなって落とされたみたいだ。しかし、此方のミサイルは頑丈なので二、三発の被弾で落ちることはない。まぐれ当たり程度では、進むのを止めることはできない。
そして程なくして、敵艦隊の奮戦虚しく22発のミサイルが敵艦に着弾した。一艦あたり4~5発の被弾を受けたので、幾ら戦艦といえども唯では済まず、着弾した艦の大半は轟沈するか、運が良くても大破状態で漂流する運命に追いやられた。これで敵の前衛艦隊は、戦わずしてその戦力の半数を喪失した・・・やっぱりあのミサイル、えげつないわねぇ・・・
「ミサイル攻撃第二射、着弾を確認!敵ファンクス級戦艦2隻、ヴィクトリー級戦艦3隻の撃沈を確認!またヴィクトリー級2隻を大破させました!」
「これでまともに戦える前衛の戦艦は5隻ね。いい調子だわ。別働隊の様子はどう?」
「ハッ・・・スカーレット社艦隊の〈レーヴァテイン〉も砲撃位置についたようです!遠距離からの精密射撃により、現在までに敵ヴェネター級2隻を撃沈、2隻を大破状態に追い込んでいます!さらに空母機能は残しているものの、敵ヴェネター級及びセキューター級各1隻に小~中破程度の損害を与えました!」
ミユさんからの報告を聞く限りでは、別働隊もかなりの働きをしているようだ。開戦してから僅かな間に、敵空母の半数を無力化している。
だけど、敵も馬鹿ではない。そろそろ迎撃のための艦載機隊がうじゃうじゃと沸き出してくる頃だろう。
―――だけどこれ、緒戦にしてはかなりの大戦果よね・・・ちなみにこの図が交戦時に表示されていた敵艦隊のデータで・・・
んでこっちが先制攻撃成功後の敵艦隊のデータと・・・
・・・うん、やっぱりあのミサイルの威力、かなりエグいわねぇ―――戦艦5隻に巡洋艦3隻、駆逐艦7隻を瞬く間に宇宙の藻屑なんて・・・。
だけど、もうグラニートミサイルは全弾発射してしまったので、ここからは地道に減らしていくしかない。それに敵艦隊にもまだ戦艦が15隻も残っているんだし、半壊したとはいえ油断は禁物だ。
「戦果は上々、か。だけどそろそろ危ないわね。アイルラーゼン艦隊とスカーレット艦隊には、此方に合流するよう伝えておいて」
「了解しました」
「それとロビンさん、取り舵10度、艦隊を別働隊に寄せて」
「了解、取り舵10度!」
旗艦〈開陽〉の旋回に合わせて、本隊の他の艦も舵を切って追随する。敵も当然こちらを目指して進んでいるのだから、必然的に敵艦隊とは丁字戦に近い形に位置することになる。だけど敵艦隊は横に広がっていることに加えて前方火力が強力なため、気を抜くことはできない。
「敵艦隊の動きに変化はある?」
あれだけの損害を敵は受けたのだから、普通はここで態勢を建て直すなり、何らかの行動を取るところなんだけど・・・
「いえ・・・依然として、本艦隊目指して直進してきます!」
「チッ、刺し違えてでもこの艦隊を止めるつもりか―――その闘志に応えてやろうじゃないの。―――全艦、砲雷撃戦用意!目標、右舷前方の敵艦隊!!最大射程で仕掛ける。観測機飛ばせ!」
「イエッサー。主砲、砲撃用意!目標、敵艦隊前衛艦」
「観測機、発進します!」
〈開陽〉以下『紅き鋼鉄』の全戦闘艦艇の主砲塔が旋回し、その砲口を敵に向けた。
敵艦隊を右前方に捉えた艦隊は、主砲発射命令を待つ。
「敵本隊より、小型のエネルギー反応を多数感知。艦載機隊と思われます」
「敵本隊に接触していた観測機との連絡、途絶しました!撃墜された模様です!」
―――このタイミングで来るか・・・
別働隊が撃ち漏らした敵空母から、艦載機が我先にと発進していく。
「敵艦載機隊の標的は?」
「はい―――出ました!敵艦載機隊は、アイルラーゼン艦隊とスカーレット艦隊に真っ直ぐ向かっています!」
「成程ねぇ―――流石にあれだけ撃てば自ずと潜んでいる場所も分かるか・・・よし、此方も艦載機隊を出すわよ。対艦装備のジム以外は全機発進!別働隊の援護に回りなさい!」
「了解。―――全艦載機隊に告ぐ!対艦攻撃部隊以外の機隊は直ちに発進せよ!別働隊の援護に回れ!」
《こちらヴァルキュリアリーダー、―――了解した!全艦載機隊発進する!》
艦載機隊の発艦命令が下され、本隊の戦艦と空母から続々と艦載機部隊がカタパルトから押し出され、あるいは甲板を蹴って発進していく。
艦載機部隊約270機は隊長のディアーチェさんの指揮の下集合し、敵艦載機部隊目掛けて飛翔していく。
「敵艦隊との距離、あと22000!」
「距離20000で戦艦主砲による砲撃を仕掛ける。目標は前列の敵艦よ。操舵、敵艦隊との距離は18000以上を保て」
「了解。主砲、散布界パターン入力。照準固定。目標、敵艦隊前列のナハブロンコ級」
「了解っと。距離18000で転進用意」
艦の主砲にエネルギーが込められ、発射の刻を待つ。
敵艦隊のエネルギー反応も上昇した。恐らく、向こうも戦闘態勢に入ったのだろう。
「敵艦発砲!ファンクス級戦艦からの砲撃です」
「あの数じゃあそうそう当たらないわ。ファンクスが撃ってきてヴィクトリーが撃ってこないってことは、あれも中口径レーザー主体の艦なんでしょう。敵の間合いに入ったらこっちが滅多撃ちにされるから、一定以上の距離は保って頂戴」
「んなこと言われなくてもわかってますわ!」
「敵艦隊との距離、20000を切りました!」
「よし、主砲、砲撃開始!」
「イエッサー!主砲発射!!」
敵艦隊との距離が一定以下にまで縮まったので、主砲の発射を指示する。本当は厄介なファンクスとヴィクトリーを先に始末したいところだけど、それを狙うには取り巻きのナハブロンコが邪魔なので、先ずはそいつらから片付けさせてもらう。
艦隊から放たれた蒼白いビームの奔流は敵艦隊に容赦なく降り注ぎ、所詮は華奢な水雷艇でしかないナハブロンコを纏めて何隻か吹き飛ばした。ついでに奥にいた戦艦にも二、三発当たったようだ。
「敵ナハブロンコ級3隻のインフラトン反応拡散を確認。撃沈です!」
「よし、その調子よ。続けて第二射は敵戦艦を狙え!」
「了解、次弾装填、目標敵戦艦に変更。撃てぇー!!」
第一射を放った主砲砲身が上に傾けられ、代わって中央砲身が敵艦隊を真っ直ぐ捉え、レーザービームの奔流を放つ。
レーザーの群は餓えた猟犬のように敵戦艦に殺到し、先頭を進んでいたヴィクトリー級戦艦に降り注ぎ、これを大破させた。
「敵戦艦1隻、大破しました!」
「続けて第三射用意ッ!?―――ぐぅっ、な、何!?」
「きゃあァッ!?」
私が次の斉射を命じようとしたその瞬間、猛烈な衝撃と共に艦が大きく揺らされる。
「し、シールド出力47%まで低下!第11から23区画までが貫通されました!」
「該当区画の隔壁閉鎖!整備班はダメージコントロール急げ!」
「〈高天原〉のショーフク提督より発光信号・・・"貴冠ハ無事ナリヤ?"」
一撃で12区画も抜かれるなんて・・・一体、何の攻撃―――っ。
「霊夢さん―――これ、もしかして・・・」
「ええ―――アイツね。間違いないわ―――偵察機隊、周囲に散開しろ!レーダー感度最大!敵艦を炙り出しなさい!それと〈高天原〉には心配無用と返信しなさい」
「りょ・・・了解です!」
此方に察知されずあれほどの砲撃を放ってくる敵艦なんて、思い当たる奴は一隻しかいない。
おまえが居るのは分かっているんだ、さぁ、早く姿を見せろ―――!
「っ、居ました!本艦隊の左舷後方7時の方向に敵戦艦発見・・・リサージェント級です!」
―――案の定、敵艦は例の巨大戦艦のようだ。
アレは何としてでも叩かなければならない敵だ。ここでこの〈開陽〉に食い止めさせる―――!
「やはり居たか・・・左反転160度、本隊の指揮を〈高天原〉に委譲!本艦はこれより、敵巨大戦艦の撃破に向かう!対艦攻撃隊、発進急げ!」
本作の何処に興味がありますか
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戦闘
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メカ
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百合