「少しいいか?艦長」
アイルラーゼン側との会談が終わり、私が応接室から出たタイミングで、待ち構えたようにサナダさんが話し掛けてきた。
「何?サナダさん」
この人がわざわざ私を訪ねてくるということは、敵についてまた新たな情報が分かったということなのだろう。それなら耳を傾けない訳にはいかない。
「艦長がアイルラーゼンの指揮官と会談している間、私の権限であの航行不能になった敵のヴェネター級に調査用の機動歩兵部隊を送り込んでおいた」
「あら、準備がいいわね。私もここを去る前にせめて調査ぐらいはさせようと思ってたんだけど、もう始めてるの」
サナダさんは、早速先程の戦闘で航行不能になった敵のヴェネター級の調査を始めていたみたいだ。いつも好奇心の赴くままに独断専行しているこの人だけど、今回ばかりは私にも都合がいい。敵を知るためにも、あのヴェネター級はそのうち調べるつもりだったんだし。前もって調査に着手してくれているというのなら、それだけ調査を早く終わらせられる。
「それで、何か分かったことはあるの?」
「ああ、まずはこいつを見てくれ」
サナダさんは一枚のデータプレートを取り出すと、それを起動して敵のヴェネター級と思われるホログラムの図面を表示した。
「敵艦内に送り込んだ機動歩兵隊に、敵艦の構成素材のサンプルを入手させた。それを分析にかけたところ、艦の如何なる場所で採取したサンプルも、使用されている金属はごく最近に製錬されたものであるという結論を下している。つまり、敵はこのクラスを発掘によって得たのではなく、図面を入手して独自に建造したということだな」
「つまりそれって・・・敵はヴェネター級を生産できる体制を確立しているってこと?」
「そうなるな。敵は発掘戦艦をそのまま使用するだけではなく、図面から自陣営での量産に適している形に改設計して生産する能力も有しているということだ。これは厄介だぞ」
サナダさんの調査結果が示しているように、もし敵がヴェネター級の生産体制を確立しているとすれば、あの巨大艦―――リサージェント級戦艦もまた一隻だけではなく、同型艦が建造されている可能性もあるということか。高々一自治領にあのクラスの戦艦をそう何隻も保有できる国力があるとは思えないけど、最低2隻はいるものと考えるべきか―――
「チッ、本当に厄介な連中ね・・・ヴェネターが量産体制にあるならリサージェント級も同型艦が存在する可能性がある、か・・・サナダさん、調査で敵の弱点とかは分かったの?」
敵がヴェネタークラスやリサージェントクラスを複数投入してくるとなれば、せめて弱点ぐらいは知っておきたい。そんな期待を込めてサナダさんに訊いてみたが、答えは芳しくないものだった。
「いや・・・敵艦の強度は全体的に我々の運用するヴェネターより一歩劣るものの、現時点では致命的な欠陥などは見られない。恐らく敵の技術力は総合的に見れば大マゼランより劣るだろうが、それも纏まった数を用意されれば何の気休めにもならん」
「そう・・・」
サナダさんによれば敵の技術力はこの艦隊や大マゼラン諸国よりは低いらしい。だけどそれも数を用意されればすぐに埋められるレベルの差だ。今までみたいに圧倒的な技術格差があるわけではないから、純粋に数がものを言う。それで敵艦に狙うべき欠陥がないって話になると、これは困ったものだ。
「困ったわねぇ~、これじゃあ艦隊戦でどうすればいいものやら・・・取れる奇策にも限界があるし」
「ふむ・・・艦長、敵がヴェネターなら、上面の艦載機発艦デッキのハッチを狙ったらどうだ?」
「上面のハッチ・・・なるほどね、そこを突破すれば艦載機格納庫だから、上手くいけば誘爆を発生させられる、と・・・」
「そうだ。これは我々のヴェネターにも共通する弱点だがな」
敵のヴェネターに対してなら、サナダさんが指摘したように上面のハッチを狙えばいいが、リサージェント級はどうだろうか・・・あの艦のことは詳しく分からないし、あれはそもそも図体がでかいから特定の箇所を狙っただけではそう簡単には壊れなさそうね・・・
「あ、そうだ・・・そういえば、敵のヴェネター級に積まれてた艦載機って、どんな奴だった?」
ヴェネターの艦載機ハッチの話で思い出したんだけど、そもそもあれは戦闘空母のようなものだ。艦自体の能力もさることながら、アレの主力は搭載する艦載機になる。ならば今後の対策を考える上でも、敵がどのような艦載機を使っているのかは知っておかなければならない。
「敵艦の艦載機か・・・実はだな、これがよく分からないんだ。一応機動歩兵隊が撮った写真がこれなんだが・・・」
サナダさんはそう答えると、一枚の写真を表示する。
そこにあったのは、円盤形の胴体を持つ複数の航宙機―――俗に言うUFOだ。
「なにこれ?UFO?」
「ああ、形状は一般的に言われているUFOだな―――ところで、艦長はUFOを知っているのか?」
「ええ。宇宙人の乗り物だっけ?」
確かこんな形のUFO、いつぞやの異変でも見たような気がする。確かこれ、エイリアンが乗っているんだっけ?噂ではそんなことを聞いたけど・・・
「むぅ、UFOは本来そんな意味ではないんだがな・・・それはさておき、この円盤形の艦載機は俗に言われているUFO形、それもテラ文明の頃から存在する伝統的なアダムスキー形と呼ばれるタイプに酷似している。一般的な航宙機は機体後部のメインスラスターで推力を得て機体各部のサブスラスターで方向や機動を調整する設計なんだが、どうもこの機体は飛行原理が分からん。実際に飛んでいる様子を見た訳ではないからな。UFOの形状から想定すると、普通に考えれば機体底部に推進装置があるとは思うが・・・」
「つまり、敵の艦載機について現状では全くの未知数ってこと?」
「ああ、そうなるな。これから鹵獲した機体を搬入して調べないことには、何も分からん」
敵の艦載機―――あのUFOについてはサナダさんでもまだ分からないらしい。性能が低めなら助かるんだけど、これが此方の艦載機を上回る性能だったら厄介ね・・・
「鹵獲した機体の搬入作業はこれから行うとしてだな・・・それと艦長、もう一つ報告がある。艦内に調査部隊を派遣した際のことなんだが・・・」
「何か不味いことでもあったの?」
サナダさんが何やら深刻そうな表情をするものだから、何か重大な情報を掴んだのかと勘繰ってしまう。だが、サナダさんの口から飛び出した情報は、私の予想の斜め上をいくものだった・・・
「艦内に侵入した機動歩兵部隊が敵兵の生き残りと遭遇した際、敵は一人の例外なく自爆攻撃を仕掛けてきたんだ・・・」
―――え、自爆・・・!?
「ちょっと、自爆って、それはどういう・・・」
「幸い機動歩兵部隊は無人だから、我々に人的被害は出ていない。だが、敵兵に対しては何度も投降勧告を発しておいたんだが、誰一人と投降することを選ばなかった。地上軍も同様に自爆攻撃を仕掛けてくるのだとすれば、人質の奪還には相当な苦労が伴うぞ」
「全員が自爆攻撃―――ねぇサナダさん、機動歩兵を通してでもいいから、敵兵に何かおかしな様子とかはなかった?」
「そうだな・・・確か、敵兵の何人かは"教祖様に栄光あれ"といった言葉を発しながら突撃してきたな。教祖、ということは、ヴィダクチオ自治領は領主そのものが宗教指導者と化した宗教国家の可能性も出てきた訳だな」
「・・・チッ、よりによって相手はカルトか・・・この様子だと、まともに話をするのは難しそうね」
サナダさんの言うことが正しければ、敵は宗教によって規律されたカルトみたいな集団だ。敵兵全員が自爆攻撃を仕掛けてきたことを考えると、敵兵かなり高度な洗脳を施されているのだろう。そんな兵が相手だというのなら、ゼーペンストのヴルゴさんみたいにまともに話が通じる見込みは低い―――。
「ああ。だが逆に言えば、トップさえ討ち取ってしまえば上下関係の指揮系統が極めて強いと考えられるヴィダクチオ側の動きは著しく鈍化することが期待できる。個々の兵こそは教祖を討ち取られた仕返しとばかりに"聖戦"に乗り出すだろうが、寧ろ個々の部隊がそうやって暴走することは、統一的な指揮の下で効率的な作戦を遂行することを困難にする。それに乗じて、我々は迅速に人質を救出し、速やかに宙域を離脱することも可能になるだろう」
「・・・つまり、方針は現状のままってことね。私達の艦隊は敵の硬直した指揮系統の打破を最優先に動く、と―――」
「うむ、そうだな」
サナダさんの話を要約すると、指揮系統の上下関係が強い宗教集団なら、トップを討ち取ってしまえばあとは暴走する敵を各個撃破するなり回避するなりして目的を果たせばいい、という話だ。それに、トップが居なくなれば敵の上層部では確実に権力争いが起こるだろう。それがトップのカリスマに支えられた組織であれば尚更だ。だったら末端の敵兵は、ますます統率された動きが出来なくなる。そうなれば私達にとっては極めて都合がいい。
「大体のことは分かったわ。それで、他に何か分かったことはある?」
「そうだな・・・他にはまだ、撃沈した敵旗艦のサンプルを解析していたところなんだが、そろそろ結果が・・・」
「ああ主任、ここに居ましたか」
私とサナダさんしか居なかった廊下に、第三者の声が響く。
「む、ライ君か。その様子だと、サンプルの解析は終わったようだな」
「はい、こちらがそのデータです」
新たに現れたのは、ザクロウで救出した科学者のライさんだ。確か彼は、救出したあとは本人の希望を聞いて科学班に配属していたと思うんだけど、この様子だと相変わらず研究三昧の日々を過ごしているみたい。少しはリアさんのことも気にしてあげなさいよ。
「ふむ・・・旗艦の装甲材に使われている金属は極めて古いと・・・成程、あの旗艦はヴェネターとは違って発掘戦艦だったのか」
「サナダさん?」
「ああ、済まんな。艦長、このデータによると、最後まで残っていたあの敵旗艦を構成する金属材質は極めて古い時期に製錬されたもののようだ。・・・つまり、あの艦は発掘戦艦だったようだ」
「旗艦が発掘戦艦―――ってことは、敵は発掘した艦もそのまま使っているのね」
「これは推測だが、ヴェネタークラスは図面を元にした量産艦、旗艦クラスは遺跡から発掘してきた古代軍艦で替えは効かない、ということも考えられるな。だとすれば、リサージェント級艦も現時点では敵は量産できないという可能性も考えられる」
「成程―――でも、ここは悪い方向に想定しておくべきでしょうね・・・」
「それは同感だ。敵が旗艦クラスを量産できないということはまだ裏付けられた訳ではないからな」
サナダさんは、私の言葉に同意するように頷く。
仮にサナダさんの推測通りだったら幾分かは楽なんだけど、想定は常に悪い方向にしておくべきだ。敵に関する情報はまだまだ少ないんだし、過度に楽観視するのも危険だ。
「それじゃあ、俺はそろそろ研究室に戻ります」
「ああ、よくやった。今後も頼むぞ」
サナダさんにデータを渡したライさんは、用件が済んだとばかりに研究室の方角に姿を消した。
「へぇ~貴女達、なかなかやるじゃない」
「ひゃうっ!!って、あんた、何でまだここにいるのよ!」
突然女の声がしたかと思って振り返ってみたら、そこにはニコニコとした笑みを浮かべたピンク髪の女―――ユリシア中佐の姿があった。
というか、あんたもう帰ったんじゃなかったの!?
「ふむふむ、そこの貴方は技術参謀か何かね。さっきの話、参考にさせて貰うわ」
「それは光栄ですが―――しかし、どうやって我々に感付かれずに聞いていたのですか?」
サナダさんはサナダさんで、いきなり中佐が現れたというのに冷静な様子だし。
「どうするも何も、そこの角で聞いていたわよ?最初はそのうち気づかれると思ってたんだけど、貴方達、ずっと話に集中してたみたいだから、最後はこうやって私から出てきてあげたのよ」
―――これは不覚だ。まさか私が、近くでずっと聞き耳を立てていた中佐に気付けないなんて・・・
それはともかく、確か中佐って、案内をつけて帰した筈よね?確か椛に早苗がその役を引き受けていた筈だけど・・・
「・・・ちょっとあんた、私が付けさせた案内はどうしたの?」
「え、あの娘達?ふふっ、ちょっとじゃれ合ったらすぐに寝ちゃったわ」
「じゃれ合った・・・って、まさか、あんた・・・」
中佐の台詞に、私の警戒心が最大まで跳ね上がる。私は中佐を睨んで相対したが、中佐は飄々とした態度のまま、扇子で口元を覆い隠した。
しばらく中佐と私の間に緊張した空気が漂ったが、それは誰かの足音で一度途絶えた。
「っ、れ、れいむ、さん――――あの人、何処に・・・」
「早苗っ!?」
「あ、ここに、居たんですか・・・突然いなくなったと思って探し回ったんですけど・・・よかった・・・」
中佐の案内役を任せた筈の早苗は、息を荒げた様子で立ち止まる。見たところ彼女の様子に変わった点がないのは安心だけど―――
「早苗、そいつに何かされなかった?」
「え、何かって―――いえ、気付いたら中佐が居なくなっていたので、椛さんと手分けして探していたんですけど、艦内のセンサーにもなかなか引っ掛からなくて・・・その、中佐は何か仕掛けでも使ったんですか?」
「仕掛けもなにも、私はただちょ~っと探検してみただけよ~。別にこの艦に細工とかはしてないわ」
―――怪しい。
この女、表面上は友好的に見えてもその実何を考えているか分かったものではない。正直言って、私の苦手なタイプだ。
艦のコントロールユニットに繋がっているあの早苗を出し抜いたんだから、きっと何か仕掛けがある筈だ。それがさっき中佐が言った"じゃれ合った"の意味なんだろうけども・・・
「ああそうだ。これからの方針だけれども、私達も首都星までご一緒するわ」
「それはどうも」
「航路は・・・そうねぇ、できるだけ暗黒ガスの中を進んだ方がいいかしら」
「はいはい、分かったわよ。どうせあんたら、このまま私の艦隊と一緒にいるつもりなんでしょ?一応予定航路は後で伝えておいてやるから、さっさと退艦しなさいよ」
「んもう、もう少し見て回りたかったのに、せっかちねぇ~、分かったわよ、今日はこれで帰ることにするわ」
「さっさと帰れ、このピンク頭。ついでに早く大マゼランに帰れ」
「そこまで言うことはないでしょ~、ちょっと傷付いちゃうわ」
「まずは自分の行いを振り返ってから言いなさい」
ほんとマイペースな奴だ・・・ああ、この中佐の相手をしていると疲れるわ・・・
「・・・それでは、シャトルまでご案内します」
「よろしく頼むわね~」
・・・早苗に連れられて、今度こそあのピンク頭は退艦するようだ。ああもう、心臓に悪いったらありゃしない・・・
「・・・サナダさん、後でにとりと一緒に艦内を総点検しなさい」
「了解した―――やれやれ、仕事が増えそうだな」
~ウイスキー宙域・第三恒星系、第四惑星軌道~
ヴィダクチオ自治領・ウイスキー宙域第三恒星系にある収容施設を抜けた一隻のアルク級駆逐艦は、収容施設があった惑星の隣に位置する第四惑星に向かっていた。
「あの・・・貴女達は、こんな場所で一体何を・・・」
収容施設から二人組の女に連れ出され、アルク級駆逐艦に同乗する運びとなったメイリンは、改めて自分を連れ出した相手―――蓮子とメリーにこの宙域で活動する理由を問い掛けた。
「ん、そのことかい?ああ、さっき言った通り私達は一応トレジャーハンターやってる訳なんだけど、この宙域・・・というかここの政府から依頼だかで呼ばれてね、なんでも遺跡の発掘に強力して欲しいだかでさ」
「それでは・・・」
蓮子は艦橋の中央に立って舵を握りながら、メイリンの質問に応えた。
メイリンは蓮子の言葉を聞いて、ひょっとしてこの二人はヴィダクチオ側の人間なのではという懸念を浮かべる。だが、蓮子はそれを否定した。
「ああ、安心して。別に私達があいつらの仲間って訳じゃないから。それで続きなんだけど、この自治領の評判は君も知っているだろう?だから前もっていざというときときには逃げられるように色々準備してからこの宙域に飛んだ訳さ。この艦だって、元こそひ弱なアルク級だけど、大マゼランなんかで仕入れたパーツも使って徹底的に弄り倒したからね。加速力ならそこらの雑魚には負けないさ―――っと、話が外れたね」
「ふふっ、蓮子ったら、いつも自慢話を始めると止まらないからね。高性能な改造パーツを仕入れてきたときだって―――」
蓮子の話の途中で、レーダー管制席に座るマエリベリー―――メリーが話の内容に茶々を入れる。
話を遮られた蓮子はメリーの言葉に赤くなるものの、それを掻き消すように彼女に抗議して話を続けた。
「こらメリー!レーダーに集中して!・・・っと、ごめんごめん。それで続きだけど、いざ乗り込んで依頼通り発掘を手伝ったまでは良かったんだ。契約内容では発掘品の1割と相応の報酬も貰えるって話だったから、さっさと報酬を受け取ってオサラバするつもりだったんだけどね・・・それが連中ときたら、私達を用済みとばかりに始末しようとしやがった!これで怒らない訳がないでしょ!?だからこうやって連中の目を出し抜いて色々小細工してる訳さ」
「はぁ、色々大変なんですね・・・」
「そうさ。連中ったら、契約違反はあっちの癖に、私達が逃げただけで血眼になって追い回してくるんだからさ~、ほんと嫌になっちゃうよ。こんな自治領、さっさと滅べばいいのにね。それに領主もさっさとご臨終しろっての」
ヴィダクチオ側の人間がいないことをいいことに、蓮子はヴィダクチオへの罵詈雑言を並べて愚痴る。そんな様子の蓮子にメイリンは、若干の苦笑いを浮かべながら付き合った。
「そうですか・・・そういえば、なぜ私のことを?」
「君を助けた理由かい?ああ、ちょっとメリーが連中の通信をハッキングしたら、偶然君達の情報が手に入ってさ。君達を助ければあのにっくい領主野郎の邪魔になるし、折角だから一緒に連れ出してしまおうって話になった訳さ。それに加えて、大企業の令嬢様を助けたとなれば報酬だって期待できるじゃん?」
「は、はぁ・・・」
「蓮子はいつもこんな調子ですから、あまり気にしなくても大丈夫ですよ」
「そ、そうですか・・・」
蓮子の行動原理があまりに無茶だったためか、助けられた身ではあるのだが、メイリンは苦笑を溢した。
「ちょっとメリー、それはどういうことよ?」
「貴女はいつも無茶振りばかりって話よ。まったく、付き合わされるこっちの身にもなってみなさいよ」
「それはゴメン。でもなんだかんだ言ってる癖に、メリーだって楽しんでるだろ?」
「ぐっ・・・!」
蓮子の指摘に、メリーは苦虫を噛み潰したような表情をする。こうは言った彼女ではあるが、実際のところ蓮子の無茶振りに付き合うのを楽しんでいる節もあるので、彼女は正面から反論することができなかった。
「こないだのハッキングだって、だいぶ危ないところまでやってたじゃん?なんだかんだ言って、メリーも危ない橋を渡ることに慣れてきて「ちょっと、五月蝿いわよ!」」
蓮子に続けて指摘されたメリーが、今度は顔を真っ赤にして蓮子の言葉を遮った。
「ふふっ、二人とも、仲がよろしいんですね」
「ああ、勿論!十年来のパートナーだからね」
「ジュニアハイスクールからの腐れ縁でしょ?」
「そうだっけ?」
メイリンの言葉を切っ掛けにして、蓮子とメリーは他愛もない言葉を交わし合う。メイリンは二人がじゃれ合っている様子を、微かな笑みを浮かべて眺めていた。
「っと、そろそろ到着だね。」
惑星が間近に迫ったのを見て、蓮子は舵を切って艦の姿勢を整える。同時にエンジン出力も落とし、慣性航行に移行させた。
「メリー、相手に怪しい動きはない?」
「今のところはないわね・・・って言っても今見てる映像は2分前のものなんだけど。一応こっちの光学迷彩は機能している筈よ」
先程までとは打って変わって、二人は真剣な表情で情報をやり取りする。その様子を目にしたメイリンは、自分や軍人にも劣らぬ切り替えの速さだと関心した。
「・・・惑星の収容施設にアクセスするわ」
「任せたよ」
メリーは一度瞼を閉じると、両腕のインプラント機器をコンソールに接続してハッキングを試みる。
時折、若干表情を歪めるメリーの姿を蓮子は心配の混じった瞳で眺めていたが、程なくしてハッキングが成功したのか、メリーはインプラント機器を引き抜いて汗を拭った。
「・・・どうだった?メリー」
「―――ここの星にスカーレット社のお嬢様は居ないみたいね・・・残念だけど、次を当たりましょう」
「そうですか―――」
レミリアが眼前の星に居ないと分かると、メイリンは肩を落とした。この星にレミリアが居ないとなれば、残す目的地はヴィダクチオ自治領本星宙域となる。
「この星には居なかったか・・・。ま、予想はしてたんだけどね。しかし、わざわざ逃げてきたのにまた敵本星へとんぼ返りかぁ・・・」
「先にご令嬢を救出するって言い出したのは貴女でしょ?」
「うん、それは分かってるけど・・・はいはい分かったよ。了解。それじゃあ進路転進―――」
メリーからの結果報告を受けて艦を転進させようとした蓮子だが、それとは別にメリーが放った言葉が元で、その動作を中断した。
「蓮子、ちょっと待って・・・敵の惑星大気圏内に小型のエネルギー反応多数・・・!?」
「小型のエネルギー反応、ってことは航空機か。メリー、そいつらの動きは?」
「―――――こっちには飛んでこないわね・・・惑星の大気圏内を徘徊しているだけみたい。迎撃部隊ではなさそうだけど、なんだが様子がおかしいわ」
「様子がおかしいって言ったって、迎撃部隊じゃないんだろ?どれ、ちょっと見せて」
蓮子はメリーの横から割り込むと、惑星大気圏内を徘徊する航空機集団の映像を呼び出した。
「見たところ、都市の上を飛び回っているだけみたいだけど・・・」
「・・・っ、蓮子さん、この部分―――」
「ん、どうかしたかい、メイリンさ―――って、これは―――!?」
蓮子の目には、当初は敵の航空機―――円盤形の飛行機が都市上空を飛び回ったり、ホバリングしている様子しか見られなかったが、何かに気づいたメイリンが映像を拡大させると、俄に他二人の表情が厳しくなる。
「メリー、これって・・・」
「そんな・・・酷い・・・」
三人が目にしたものは、地上に向けて何らかの兵器を射出し、都市の住人を殺害して回る円盤形航空機の群れだった―――
「・・・見た限りでは銃撃や爆弾ではありませんね・・・この即効性を考えると、極めて危険度の高い毒ガス兵器を散布しているのかと―――」
メイリンもその映像に心を打たれながらも、冷静に敵の分析を試みた。
「なんで、こんな事・・・」
「―――このウイスキー宙域は、ヴィダクチオに併合された宙域です。恐らくは、当局による弾圧活動かと・・・」
メイリンは、今自分達のいるウイスキー宙域がヴィダクチオ側に併合された宙域であることから考えて、自分達が目にしている光景は住民の抗議活動などに対する当局側の弾圧なのではないかと推察した。
「―――せない」
「・・・蓮子?」
そこで、今まで口を噤んでいた蓮子がぼそりと声を漏らした。
「―――こんなの、許せないわ―――!メリー、光学迷彩解除!全艦戦闘配備に移行!工作母艦には直ぐに戦闘艇を発進させるように伝えて!」
「ちょっと蓮子、いくらなんでも・・・」
突然の戦闘命令にメリーは抗議する。ここで光学迷彩を解除して敵に自らの身を晒してしまえば、数に勝る敵艦隊の来襲を招く恐れがあるからだ。しかし、それを蓮子は聞き入れない。
幾ら言っても無駄だと悟ったメリーは、蓮子が言う通りに艦の光学迷彩を解除して、自分達の乗るアルク級駆逐艦〈スターライト〉と惑星の影に隠しておいた僚艦の工作母艦〈アルゴル〉に係留されていた2隻の改フランコ級戦闘艇が発進し、〈スターライト〉に合流して大気圏内を突き進む。
「ぐっ・・・!蓮子、操艦乱暴なんだけど・・・!」
「っ、ごめんメリー、だけどちょっと我慢して―――よし、捉えた!」
急激な加速と大気圏突入により駆逐艦〈スターライト〉の艦体は大きく揺れる。しかし舵を握る蓮子はそれを意に介することなく、未だに都市の市民に対して毒ガス散布を続ける円盤形航空機の群を主砲の射程に捉えると、躊躇いなくその発射ボタンを押した。
蓮子が射撃ボタンを押すと、〈スターライト〉の艦首下部に搭載されたレーザー主砲塔ユニットが発光し、光の速さで円盤に迫る。少し遅れて、艦尾上部に搭載された2基の小口径レーザータレットも射撃を開始した。
突然のレーザー攻撃を受けた円盤形航空機は、なす術なくレーザーの蒼い光線に焼かれて蒸発し、微細な燃えカスのような破片となって地上に墜落していく。
〈スターライト〉の両舷を固める、スカーバレルのフランコ級水雷艇を改造した改フランコ級戦闘艇も、艦首に搭載された主砲を高速で旋回させて次々と円盤形航空機を撃墜していった。
「蓮子っ、地上から新たなエネルギー反応多数出現!追加の円盤よ!」
「対空VLS、ハッチ解放!マルチロックで一気に墜とす!」
「了解っ、射撃管制レーダー、マルチロックモード!」
〈スターライト〉の襲撃を受けてか、地上施設から続々と新たな円盤形航空機が出撃する。
大気圏内を高速で飛行する〈スターライト〉は、マルチロックモードでその円盤の群を捕捉し、艦尾底部に搭載した2基のミサイルコンテナから一斉に対空ミサイルを発射した。その数、合計24発。
ミサイルコンテナから飛び出したミサイルの群は標的の円盤群に近づくと分裂し、一発あたり4発の子弾を射出する。
発進した円盤群は突然目の前で分裂した対空ミサイルに対応することができず、その全てが物言わぬ鉄屑へと強制的に変貌させられた。
「円盤、全機沈黙・・・」
「ふぅ、目障りな連中は全部叩き落としたね・・・このまま星系を離脱するよ。工作母艦も呼び戻しておいて」
「了解・・・っと、その前に蓮子、工作母艦のレーダー範囲に敵艦の存在を捉えたわ。数は―――3隻ね。シャンクヤード級が一隻にナハブロンコ級が2隻。多分、気付かれたわね」
「チッ、仕事が早いんだから・・・メリー、工作母艦はステルスモードに移行してこっちと合流させて。私達も大気圏を抜けたら光学迷彩を起動してエクシード航法に移行、連中を振り切るよ」
「また無茶ですか・・・はいはい分かったよ」
「・・・って訳だから、もう少し波瀾万丈は続きそうだね。メイリンさんは大丈夫かな?」
「はい、私は大丈夫ですが・・・とにかくお嬢様が心配ですから、何とか振り切って下さいよ?」
地上で非人道行為を働いていた円盤を一機残さず撃墜した蓮子は、今後の方針についてメリーと軽く打ち合わせると、確認の意味も込めてメイリンに尋ねる。
だがメイリンにしてみれば、この程度の修羅場は既に想定済みだ。なので彼女は、余裕を見せて蓮子の問いに応えた。
「うん、任せておきな。またちょっと飛ばすから、振り回されないよう何かに捕まっといて!」
メイリンの承諾を受けた蓮子は、舵をぐんと押し込んで〈スターライト〉を一気に加速させる。
蓮子が操る小艦隊は、ヴィダクチオの哨戒部隊を振り切るべく苛烈な機動を開始した。
今回は敵の正体について、幾つかヒントとなる描写を挿入しました。保有する艦船は銀河帝国色が強いヴィダクチオ自治領軍ですが、そのモデルについては別の組織を参考にしているつもりです。ちなみに本小説では、SWについてはフォース等の世界観に関わる描写までクロスさせる予定はありません。あくまでメカ等のクロスに留まります。
それと蓮子の艦隊は、サルベージ屋としての能力に特化した編成となっています。アルク級駆逐艦は中身に解析機器や簡単な採掘機器を備えていたり、各種部品は高性能なパーツに換装されています。底部のコンテナもミサイルVLSになっていたりするので、原作序盤の非力なアルク級とは雲泥の差です。イメージとしては、ゲーム中盤~終盤の高性能モジュールでフル改装したアルク級です。護衛艦のフランコ級もそれほどではありませんが、かなりの改装を受けています。こちらは護衛艦ということで、戦闘に特化させた仕様です。工作母艦は彼女達の本拠地というイメージで、艦艇への簡単な補給、修復設備の他に休養設備、本格的な採掘機器なんかが搭載されています。頭の中でイメージしている工作母艦の形はディンギル水雷母艦ですが、形にするに当たってはかなりアレンジを加える予定です。
実際に書いてみると、蓮子達も霊夢ちゃんほどではありませんが原作ユーリ艦隊並に充実してますね・・・それだけ危ない橋を渡ってきたということでw
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