夢幻航路   作:旭日提督

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第五六話 作戦会議

 

 

 

「艦長、全艦出港準備完了です」

 

「・・・機関微速全身。進路をカタルーザに向けろ」

 

 ゼーペンスト本星の攻略から三日、修理を終えた私達の艦隊はあの大型艦を追撃すべく、惑星ゼーペンスト軌道を離れた。サクヤさん達はまだ目が覚めてないけど、あと数日もすれば意識が戻るだろう。だがそれを待っている余裕はない。

 

「りょーかい。そんじゃあ出しますよ」

 

 ショーフクさんに代わって操舵を任せた、オレンジがかった金髪で緑色の空間服を着たイケメンの新しい操舵手―――確か、ロビンさんだったかな。彼の返事が響き、〈開陽〉の艦体がゆっくりと動き出す。

 実はゼーペンストで収容所を襲撃した際に、使えそうな人材を見繕っておいたのだけど、彼はそこで確保したクルーの一人だ。彼は元々輸送艦の航海士をやっていたらしいんだけど、酒場で元領主バハシュール2世の悪口を溢したところ捕まってしまっていたらしい。

 ロビンさんは初めて動かすフネながら、慣れたような手つきで〈開陽〉を航路に乗せていく。彼の話ではどうやらビヤット級などの大型輸送船もけっこう操縦していたらしいから、でかいフネの扱いに慣れているのだろう。

 

《第二巡航艦隊全艦、発進準備完了しました。旗艦に続きます》

 

 それで前まで操舵手をやっていたショーフクさんだけど、操舵手に新しくロビンさんが収まったので一個艦隊の指揮官に出世してもらった。彼は十数名のクルーと共に、今は第二巡航艦隊旗艦〈高天原〉にいる。

 ゼーペンスト攻略後に艦隊編成を少し見直したんだけど、第二巡航艦隊には新たに重フリゲート〈スタルワート・ドー〉と〈イージス・フェイト〉を加えて、旗艦として第一機動艦隊から〈高天原〉を移している。それで艦が減った第一機動艦隊には護衛艦としてリーリス級駆逐艦4隻を加えている。

 

《第三打撃艦隊旗艦〈ブクレシュティ〉より、全艦発進したわ。現在異常は無しよ》

 

《・・・こちら〈レーヴァテイン〉、我々も貴艦に続きます。・・・また助力を頼んでしまう事態になり申し訳ない》

 

 アリスの第三艦隊と、ご令嬢と艦長を奪われた〈レーヴァテイン〉を始めとするスカーレット社艦隊もその後に続いてゼーペンスト軌道を離れ、〈開陽〉に並んだ。

 

 私は艦橋の窓越しに、艦隊が並ぶ様子を眺める。

 〈開陽〉の左舷側には、もう一隻の大型戦艦が同航した。

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 ―――改アンドロメダ級前衛航宙戦艦〈ネメシス〉だ。

 

 あれはサナダさんが強引に2隻目の戦艦建造を推してくるから、彼が改設計した設計図で建造した戦艦だ。艦隊資金の半分以上を使って建造したんだから、今後はそれに見合うだけの活躍を示してもらわないとね。なまじ図体が他の艦よりでかいだけに、見る分には頼もしい限りなんだけど。この〈開陽〉も、外から見たらあんな風に見えるのかな。

 

「そういえば艦長さん、なんでも珍しいことにこの艦隊には自力ワープ機能があるって聞いたんだが、そいつは使わないのかい?」

 

 航海士として早めに慣れておきたいんだがね、とロビンさんが続けた。

 確かに彼の役割を考えれば、不馴れな機能に慣れておきたいという気持ちも分からなくはない。

 

「そうねぇ・・・とりあえずカタルーザまでは通常航行でやって頂戴。私達だけならまだいいんだけど、今はスカーレット社の艦隊もいるからね。こっちだけワープすれば彼等を置いていく事になってしまうわ」

 

「ああ、そうかい・・・なら仕方ないねぇ。ここは我慢するとしますか」

 

 しかし、あの巨大艦がワープで逃げた以上、このまま通常のi3エクシード航法を続けていても追い付けないばかりか、むしろ差が開いてしまう。打開策はないかサナダさんにお願いしてみたんだけど、カタルーザに着く頃までにはなにか名案でも浮かんでいないかなぁ。

 

 それと今の艦隊が向かっている先だけど、あの巨大艦が向かった先の方角とほぼ一致する方角、マリサとギリアスがヴァランタインの〈グランヘイム〉を誘き出したクェス宙域とサハラ小惑星帯がある方角とほぼ一致しているんだけど、宙域図ではその先にカタルーザという惑星があるのを確認しているので、戦に備えた補給のためにそこに向かっているという訳だ。ちなみにこの惑星、ゼーペンスト宙域からけっこう近い位置にあるけど他の自治領が管轄する惑星らしい。それとこの星からは2本の航路が延びているんだけど、一方がデットゲートに続いてて、もう一方がマゼラニックストリーム方面に繋がるボイドゲートに続いている。カタルーザを出た後の目的地は後者のボイドゲートだ。

 

「そんじゃあ、カタルーザに向けて出発、っと」

 

 ロビンさんが舵を切り、〈開陽〉は目的の星への航路に乗る。それに合わせて、他の僚艦はその周りに展開して警戒陣形を構築した。

 

「機関、最大巡航速度を維持して。念のため警戒も厳としなさい」

 

「了解です」

 

「了解っと、機関、最大巡航速度」

 

 メイリンさんとレミリアが誘拐された以上、ここでもたもたしている訳にはいかない。なので私は艦隊を最大速度で進めさせるように指示する。敵対勢力はゼーペンスト艦隊が壊滅したからいないとは思うけど、もしかしたらあの巨大艦の仲間が潜んでいるかもしれない。なので一応警戒レベルも上げさせておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~〈開陽〉会議室~

 

 

 あのあと艦隊は何事もなく惑星カタルーザに到着し、補給品などの事務処理を済ませた私は旗艦の会議室に足を運んだ。

 

「・・・集まったわね」

 

 会議室に着いたら室内を一瞥し、これから行われる会議に出席する者が全員揃っていることを確認する。

 

「・・・じゃあ、作戦会議を始めましょうか。サナダさん、お願い」

 

「了解した」

 

 この会議では、サナダさん率いる科学班が解析した情報の発表と、これから行われるであろうヴィダクチオ自治領侵攻に関する事項について議論する予定だ。

 

 サナダさんが操作を行うと、中央の机からホログラムの宙域図が映し出される。

 

「では我々科学班から説明を行わさせていただく。まずあの巨大艦についてだが、ワープ先の航路計算、そして識別信号のパターンを解析した結果、ヴィダクチオ自治領所属であることはほぼ確実だと考えている」

 

「ヴィダクチオ・・・確か数年前に、隣の自治領や宙域に軍事侵攻して併合したと聞いていますが」

 

 サナダさんの言葉を受けて、ショーフクさんが補足するように言葉を付け足した。

 あの巨大艦を抜きにしても、隣国に攻め込むぐらいだから相当の戦力を有すると見た方がいいかもしれない。

 

「隣国を併合・・・か。相変わらず野蛮人の所業だな。で、連中の戦力は如何程のものなのだ?」

 

 続いて航空隊指揮官のディアーチェさんが口を開いた。私を含めて、この場にいる大多数の人が疑問に思っていることだろう。侵攻するにしても、まずは敵戦力がどれほどのものか知る必要がある。

 

「・・・それについては私から説明させて貰うわ」

 

 その質問を受けて、サナダさんの隣に控えていたアリスが一歩前に出て説明を始めた。

 

「―――まず敵の戦力だけど、隣国制圧に連中が用いた戦力は巡洋艦クラスが15隻、駆逐艦クラスが20隻程度と見積もっているわ。スペースネットに流れている映像を解析した結果、巡洋艦はシャンクヤード級とマハムント級、駆逐艦は大マゼランの海賊が使用するナハブロンコ級水雷艇を使用しているものと見られます」

 

「数はそれほどでもないが、質は大マゼランクラスか・・・厄介だな」

 

「ええ。連中の艦はグアッシュのそれと同じようにモンキーモデルでしょうけど、脅威であることに変わりはないわね。多分だけど、グアッシュに大マゼラン艦艇を供給したところはこいつらね。それで連中の全軍についてだけど、こっちは厳重な情報規制が敷かれているらしくて精度の高い情報は入手できなかった。でも、侵攻軍から逆算して大マゼランクラスの艦艇が80隻程度、そして戦艦クラスが7~8隻は存在しているものと考えている」

 

「戦艦クラスが10隻近くか。厄介だな・・・こいつらは抑えきれるのか、艦長?」

 

 予測では、敵戦力は大マゼラン級の艦艇が80隻程度、という話らしい。こっちの数が40隻ぐらいだから、ざっと数にして2倍といったところか。実際には地の利は向こう側にあるんだし、何を置いてもあの巨大艦の存在もある。ここは敵戦力は3倍程度と見積もった方がいいだろう。海兵隊のエコーが疑問を呈したように、正攻法ではとてもではないが相手にしていられない。

 

「そこは如何ともし難いわね・・・〈開陽〉と〈ネメシス〉はあの巨大艦にぶつけるから他に構ってる暇はないだろうし、ここは重巡洋艦部隊に頼るしかないわね。それかハイストリームブラスターで凪ぎ払うなりすれば楽なんだけど」

 

 敵戦力を考えると、ハイストリームブラスターの本格使用も考慮に入れるべきだろう。幸いにしてうちの艦隊にはハイストリームブラスター搭載艦が2隻いるんだし、艦隊という一つの単位で運用することもできるので発射時の援護なども得られやすい。

 それが駄目なら重巡洋艦と艦載機に出張ってもらうしかないが、敵の航空戦力が未知数な以上艦載機隊を対艦攻撃だけには集中できないし、敵戦艦がグアッシュ同様モンキーモデルであるという希望的観測に頼るのもいただけない。確かにクレイモア級重巡は打たれ強い艦だけど、一度に複数の敵戦艦を相手取るのは流石に厳しいだろう。

 

「・・・こうなったら、直接ぶつかってみる以外には方法はないか。現状で敵戦力が不明ってのは不安だけどね」

 

「ああ。俺達は情報戦で敵に一歩先を行かれている訳だからな。敵領域侵入後の行動には一層の慎重さが求められるぞ、霊夢」

 

 コーディの言うとおり、情報戦では敵の全容を掴めきれていない私達の方が劣勢な状況下にある。戦いにおいて情報というものは最も重要な要素の一つではあるけど、それが不足している現状では、私達は侵攻側ながらも大胆な行動に打って出にくい。そのため充分に戦いの主導権を握れない恐れもある。対して敵はあの巨大艦が私達の艦隊規模を見ているだろうから、私達が連中の領域に侵攻すれば即座にデータベースから照合されて分析されてしまうだろう。そうなったら敵は有効な戦力配分を行うことができてしまう。私達にとって一層不利な状況だ。

 だけど、折角奪還したレミリアが誘拐されて、しかも私のクルーまで被害に遭ったんだから、ここで艦隊の面子というものも示してやらんと0Gドッグとしての沽券に関わる。退くに引けないというのが辛いところね。

 

「・・・敵戦力の分析については、連中の宙域に侵入次第何とかすることにしましょう。それでサナダさん、敵領域の地形については何か分かっていることはないの?」

 

「うむ。敵戦力については不明な点が多いが、敵領域についての情報なら空間通商管理局のチャートがある。データは150年前のものだが、星や星雲の並びはそこまで変化していないだろう。宙域図を出すぞ」

 

 サナダさんは一度話を止めると、中央の机から今度は敵領域の宙域図と思われる星図のホログラムを表示させた。

 

「まずこの宙域は、ここカタルーザを越えた先にある宙域のさらに先にあるものだ。一般にウイスキー宙域と呼ばれている場所だな。ここからがヴィダクチオ自治領の領域となる。」

 

 宙域図のホログラムの横に航路図が表示され、艦隊が停泊している惑星カタルーザからの航路が示される。ここからボイドゲートを二つ越えた先に、サナダさんが示したウイスキー宙域があるらしい。

 

「このウイスキー宙域は4つの星系からなる宙域だ。まず一つめの星系だが、ボイドゲートはこの星系の外縁部、氷準惑星の軌道近くに存在している。星系内に続く航路付近には一つの巨大ガス惑星が存在しているな。内惑星系には二つの岩石惑星が存在するが、これらは小型のため居住には適さない。そのため航路は内惑星系には続かず、次の星系に続いている。そして二つ目の星系だが、これは一つめと三つめの星系を結ぶ航路上にある惑星状星雲だ。この星系には死んだ主星が残した惑星が3つほど存在し、うち一つはガス惑星だ。空間通商管理局のデータによるとこの惑星は資源価値が高く、付近の衛星と共に資源採掘の対象になっているらしいな。残り2つは岩石惑星だが、当然ながら居住やテラフォーミングには適さず放置されている。主星が死んだ以上、生命活動の維持に必要な熱エネルギーを得ることができないからな。だが、惑星内部や表面に人工的に人類の生存空間を再現できれば、少数の都市を建設することはできるだろう。しかしそのような開発が行われたという資料がない以上、現在も放置されていると考えた方がいいだろうな。そして三つめの星系だが、ここは単独で存在するG型主系列星の星系だ。ガス惑星が二つに岩石惑星が4つ存在し、うち2、3番惑星はハビタブルゾーン内に存在し、テラフォーミングの後入植が行われている。この二つの居住惑星は以前は他の自治領として登録されていたが、現在はヴィダクチオ自治領の統治下に置かれている。恐らくこの二つの居住惑星は、この宙域におけるヴィダクチオ側の拠点として機能しているだろうな。そして最後の星系についてだが、この星系を抜けた先にヴィダクチオ自治領の本国宙域に繋がるボイドゲートが存在している。そして星系の特徴だが、ここは中々に過酷な場所だ。まず主星はG型主系列星2つからなる連星系で、さらにその外側に赤色矮星が一つ存在する三重連星系だ。存在する惑星についてだが、主星Aの近くには巨大なホット・ジュピターが存在し、主星Bには極端な楕円軌道を描く典型的なエキセントリック・プラネットが存在する。この惑星は重力が3Gもある巨大岩石惑星だ。そして主星Bのごく近くにはもう1つ岩石惑星が存在するが、この惑星は主星に近すぎるが故に公転と自転が同期して常に同じ面を恒星に向けているため、恒星側の面はドロドロに溶けたマグマの海になっている。とてもではないが、人類の居住に適した空間ではないな。さらにこの星系内を横切る航路帯には濃密な暗黒ガスが充満している。重度のレーダー障害が予想されるだろう」

 

 ・・・サナダさんは一つめの宙域の解説を終えると、一息ついて用意した水を飲み干した。

 

「サナダ、一ついいか?」

 

「・・・フォックスか。なんだ?」

 

「この宙域の二つめの惑星状星雲だが、ここに惑星が存在する以上、そこがヴィダクチオの軍事拠点になっている可能性は?それに一つめの星系についても、航路近くにあるガス惑星に艦隊が駐留している可能性はないか」

 

「むぅ、確かに技術的には基地建設は可能だろうな。君の言うとおり、艦隊が駐留していなくとも一つめの惑星系には何らかの防衛、監視機構は最低限置かれているだろう」

 

 サナダさんは宙域図から一つめの惑星系を拡大して、ボイドゲート近くの準惑星と航路付近にあるガス惑星が目立つ形でマーカーをつける。

 確かに彼の言うとおり、この惑星系はヴィダクチオ側の国境に位置する訳だから、何らかの防衛ラインは存在するとみていいだろう。

 

「・・・だとしたら、まずはその防衛ラインを突破しなくてはいけない訳ですか」

 

「そうね。ボイドゲートの近くに罠がない保証はないんだし、通常空間に出てすぐ空間スキャンを実行して安全を確保する必要がありそうね」

 

 早苗が言ったとおり、この星系にあるであろう防衛機構が第一の障害だ。いきなりここで躓いてしまえば、侵攻どころの話ではなくなってしまう。

 

「艦長さんよ、一ついいかい?」

 

「ロビンさん?何かしら」

 

 話に割り込むように、ロビンさんが挙手して発言を求めてきた。私がそれを許可すると、彼は一つめのボイドゲート付近の宙域を拡大させる。

 

「ここで敵さんの立場になって考えてみたんだが、ボイドゲートを出てすぐに機雷源があるって可能性はないかい?連中の艦にはワープできる奴もいるんだし、それに機雷源を仕掛けていれば当然危険な航路と安全な航路の位置も知っている訳だ。だが外野はそんなこと分かるわけないんだし、何よりゲート付近は法律によって公宙と定められている。普段航海者の連中はそれを信用してゲート付近を航海している訳だから、心理的にもそこに機雷があるなんざ考えないだろうよ。どうだい、艦長?」

 

 ロビンさんは話を続けながら、ゲート付近に予想される機雷源を表示して、そこに突っ込む艦隊の様子も矢印で示す。

 

「・・・最悪ね、それ。で、もし機雷源があるとしたら、どうやって対処する?」

 

 ゲートを抜けてすぐ機雷なんて、悪夢以外の何物でもない。確かロビンさんが言ったとおりボイドゲートの近くは公宙、すなわち国の主権が及ばない領域だから、ふつうは機雷なんて仕掛けられない筈だ。普通の航海者なら、ゲートアウトしてすぐ機雷源なんて想像もしていないだろう。

 

「そうだねぇ、・・・ボイドゲートには、確か攻撃を無力化するボイドフィールドがあったよな。ゲートアウト直後に、そのボイドフィールドの影響圏内で一気に減速して、機雷源の有無を確かめるしかないんじゃないですか?」

 

 ロビンさんは、私の問いに対してそんな答えを返してきた。

 ボイドゲートには、彼が言ったとおり質量弾やビームを無効化するボイドフィールドという、デフレクターとAPFSを足して割らずに効果を倍増させたような強力なシールドが貼られている。このシールドの存在によって、ボイドゲートはデブリや攻撃による破壊を免れている訳なんだけど―――成程、そういう手もあったか。ゲートアウトしてすぐエクシード航法を切ってボイドフィールドの影響圏内に留まれば、機雷源があったとしても爆発の影響を受けずに済むし、空間スキャンで機雷源の有無も確認できる。

 

「いいわね、それ。じゃあロビンさん、その作戦でいくわ。あんた操舵手なんだから、ちゃんと有言実行しなさいよ」

 

「へいへい、了解了解っと」

 

 さて、機雷源の可能性についてはこれで問題なしだろう。だけどサナダさんの宙域解説を聞く限りでは、まだまだ危なそうな宙域はあったよね・・・

 

「では私からも一つ、いいかな?」

 

 つぎに発言したのは、第二巡航艦隊指揮官のショーフクさんだ。

 

「サナダ君は、敵の拠点はこの居住惑星ではないかと言ったが、その点については私も同意する。しかし、敵の宙域防衛軍主力はこの四つめの星系―――特に暗黒ガス帯を抜けた先に展開しているのではないだろうか」

 

 ショーフクさんの言葉に合わせて、宙域図のうち四つめ星系―――自治領本国宙域に繋がるボイドゲートの航路上にある星系が拡大された。

 

「ふむ・・・敵の巨大艦がどう動いたかは分からんが、恐らく奴は本国へ向かったと考えるのが妥当だろうな。奴は連中が持つ艦のなかでも旗艦クラスだと考えた方がいい。だとすれば、敵は我々がじきに本国へ侵攻すると想定しているだろう。ならそこに続く航路に罠を張って待ち構える、という訳か」

 

「その通りだ。それに加えて、この星系は待ち伏せには丁度いい地形だからな。ここに敵艦隊が隠れている可能性は大いにあるだろう」

 

 ショーフクさんの意見に補足するように、ディアーチェさんが言葉を続けた。ショーフクさんも、それを認めるように説明を続ける。

 

「艦長、この宙域で敵の待ち伏せが予想される以上、暗黒ガス帯に入る前に偵察機を出した方がいいだろうな。偵察範囲を広げるためにも、一定の機数が必要だ。新型のアーウィン偵察機の増備を頼みたい」

 

「そうね、せめてゼラーナに積んでる分のゴーストは早く代替したいところだけど・・・資源量は大丈夫かしら」

 

「はい・・・たった今確認しましたが、10機程度なら生産に問題はないかと」

 

「・・・だそうよ。それで大丈夫かしら?ディアーチェさん」

 

「ふむ、それだけあれば足りるだろう」

 

 早苗からの報告を伝えたところ、ディアーチェさんは承諾してくれた。これで偵察戦力は問題ないかな。見知らぬ敵地に乗り込む訳だから、偵察機は多いに越したことはない。

 

「敵の基地と艦隊が何処にあるかは、行って確かめてみないと分からない訳か。索敵航宙も面白そうだけど、まあそう呑気にはしてられないよな・・・そういえばよ、敵がご令嬢をそこの居住惑星に置いていく可能性ってないのか?」

 

「それは・・・確かにあるかもしれないけど、いちいち立ち寄って確かめていては敵に反撃の機会を与えるだけじゃないの?」

 

 今度は霊沙が、その可能性を指摘する。確かに彼が提示した可能性もない訳ではないと思う。私達が本国に侵攻するのを見越して、敢えて人質を前線の惑星に置いていくという手段もありだろう。けど、普通人質ってのは自分の手元に置きたがるものだし、何より戦力で劣る私達は出来る限り速攻で事を片付けなければじり貧になってしまう。敵の中枢を粉砕できれば、一度戻って探すぐらいの時間は確保できるだろう。

 

「確かにな・・・敵の方が戦力あるって話だし、一度中央まで一気にいった方が得策か・・・」

 

「そういう訳だから、居住惑星にはあまり立ち寄らない方がいいわね。それで、他に何かある?」

 

 最初の宙域に関しては、粗方話し終えただろう。私は一度意見を求めたが、出ないようなので次に行くことにした。

 

「じゃあサナダさん、今度は敵の本土宙域の説明をお願いできる?」

 

「ああ、分かった」

 

 私がサナダさんにそう促すと、今まで表示されていたウイスキー宙域の宙図が縮小されて、今度は別の宙域、ヴィダクチオ本土宙域のホログラムが表示された。

 

「では説明するぞ。敵の本土宙域―――ヴィダクチオ宙域はかなり過酷な宙域だ。この宙域には2つの星系と一つの宙域が存在するが、まずゲートを抜けた先にある星系はM型スペクトルの赤色巨星二つと一つのウォルフ・ライエ星からなる三重連星系だ。この星系内では互いの恒星の引力によって大規模なメテオストームが発生しており、そのため航路はそれを避けるために恒星近くを通らなければならない形で引かれている。この航路だが、恒星にかなり近い位置を通るために恒星風の熱線による艦体外殻へのダメージが予想される。この星系に入る前には一度排熱機構を点検した方が良さそうだな。そして次の星系だが・・・ここは星系というよりも暗礁地帯といった方がいいだろうな。俗にサファイア宙域と呼ばれている場所だが、この付近一帯には多数の青色超巨星と褐色矮星、そして原始惑星系円盤が存在する場所だ。青色巨星の熱線もさることながら、充満する暗黒ガスの量も多く、加えて多数の小惑星や恒星が吹き出すガスが存在している。この宙域内では常にレーダー障害が発生すると見ていいだろう。このサファイア宙域を抜けた先に敵の本拠地、ヴィダクチオ星系が存在する。この星系内にも暗黒ガスが存在するが、それ以外にも星系を構成する惑星によって非常に不安定な系となっている。主星はG型スペクトルの主系列星だが、第一惑星は主星にきわめて近い位置にあるホット・ジュピターだ。第二惑星の巨大ガス惑星も恒星に近い位置にありハビタブルゾーン内に存在している。この第二惑星には2つの大きな岩石衛星が存在するが、その一つがテラフォーミングされて入植の対象となっている。この衛星が奴等の本拠地、衛星ヴィダクチオEだ。この衛星の外側を周る衛星もテラフォーミングされており、恐らくは主星の防衛ラインとして機能しているだろう。そして他の惑星についてだが、第三、第四惑星は共に巨大ガス惑星で極端な楕円軌道を描いている。第五惑星は巨大氷惑星だが、この惑星も内惑星の重力によって軌道を著しく乱されているな。これで宙域の説明は以上だ」

 

「・・・話には聞いていたが、随分と過酷な宙域だな、奴等の本土ってのは―――なんでこんな場所に入植したんだ?奴等は」

 

 コーディが疑問を呈したとおり、説明を聞く限りではこの宙域は人間が住むのにはかなり過酷な宙域だ。外界との接触を行うにしても、暗黒ガスが充満する危険な航路や赤色巨星の熱線を潜り抜けなければ小マゼランの他宙域と交流できない訳だし・・・ほんと、なんでこんな場所に拠点作ったのよ。

 

「さぁ?それは私には分からんことだ。ただ噂では、近隣の巨大ガス惑星や恒星系の資源価値が高いという話も聞いている。それに、ヴィダクチオの先にあるボイドゲートを抜ければマゼラニックストリーム方面に続いているからな。奴等はこの立地を生かして、大マゼランの海賊との取引を経て連中が使う艦の設計図を入手し、自国宙域の豊富な資源を生かしてそれらの艦艇を量産しているのかもしれんな」

 

「成程、つまり連中は自宙域で資源が豊富に手に入る故に他宙域との繋がりが薄くても構わない、という訳か。成程、だとすればこの宙域は非常に防御に向いている。だが、それなら何で奴等は膨張指向を見せたんだ?」

 

「それは連中の指導者に聞かなければ分からんな。資源が足りなくなったのかもしれんし、あるいは領主の個人的な自己満足か・・・まあ、我々にとってはどうでもいいことだ。」

 

「それは考えても仕方ないわね―――、侵攻するんだったら、まずはこの三重連星系の熱圏を抜けなきゃいけない訳か。整備班の準備は大丈夫かしら」

 

 意識を宙域攻略に移してみると、まず障害となるのはこの三重連星系だ。ここで艦にダメージを受けたまはまでは、敵との戦いで不利になるのは容易に予想できることだ。

 私は整備班長のにとりに、ここを突破可能かどうか訊いてみる。

 

「う~ん、サナダのデータ通りの熱線を浴びるなら、艦の外殻に何らかのダメージを受けるだろうね。だけど、その程度なら排熱機構がちゃんと生きていれば大丈夫だと思うよ。それに予備部品の備蓄もある。ここで仕掛けられると少し厄介だけど、まあ戦闘前には何とかしてみせるよ」

 

「それは頼もしいわね。じゃあ任せたわよ、にとり」

 

「ああ。ご期待には応えられるよう努力するよ」

 

 にとりの話によれば、この三重連星系を突破するのは何とか問題なくいけそうだ。次はこの暗黒ガス帯になる訳だけど―――

 

「提督さん、このサファイア宙域だけど・・・多分ここ、敵の主力艦隊が待ち構えていると見るべきね」

 

「私も同意見ですな。先程のウイスキー宙域深部星系と同様に、暗黒ガスが多いということは待ち伏せに適しているということです。さらに言えば、ここは敵の本土、監視センサーの類いでこちらの位置は捕捉されると考えた方がいい。いかに早く敵主力を捉えられるかが、戦いの趨勢を握る鍵になるでしょう」

 

「・・・やっぱりそう思う?そうよねぇ、敵がいるとすれば、一番考えられるのはこの宙域よね・・・」

 

 アリスとショーフクさんの言うとおり、やはりこのサファイア宙域が敵との決戦場所になりそうだと見て間違いない。

 

「―――敵戦力が不明な以上は、現段階では作戦の立てようもありませんな」

 

「そうね・・・それはぶつかった時に考えるしかないわね・・・んで首尾よく敵の主力艦隊を排除できれば、そのまま本星に侵攻って方向でいきましょう。じゃあ、今回はこんなところかしら」

 

「そうだな。我々が持てる情報ではこの程度が限界か」

 

「異論はない。もういい頃合いだろう」

 

「―――意見はないみたいね。それじゃあ、今日の会議はここまで。解散よ」

 

 敵宙域の地形を確認できただけでも、今後の航海方針を決める材料にはなるだろう。具体的な戦術は、ショーフクさんの言うとおり敵の戦力が判明してからでないと立てようがない。これ以上話し合いを続けても推論のみに基づかなくてはならなくなるし、それは不毛な議論になるだけだ。今日のところはこれで切り上げて、戦いに備えることにしよう。

 

 皆から異論がないことを確認して、そこで私は会議を切り上げた。

 

 

 




今回はほとんど会議だけで終わってしまいましたw 原作から離れた話になると、けっこう宙域の解説が詳しくなりますね。wikiをいろいろ漁って調べるのが楽しいですwこの辺りの雰囲気は、PS2ヤマトで真田さんが解説している場面なんかがイメージとして浮かんでいます。
そういえば無限航海本編の宙域って、平均どれぐらいの惑星系から成り立っているんでしょうか。

そして今回から登場した新クルーの操舵手ロビンさんですが、彼の外見はFate/EXTRAのロビンフットがモデルです。ようやく本格的な操舵手キャラが加入したので、ショーフクさんは艦隊指揮官に昇進していただきました。

次回からは、いよいよ敵地に突入していく予定です。新キャラも出ます

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