夢幻航路   作:旭日提督

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第六章――博麗幻想
第五五話 崩れた大樹


 

 ~惑星ゼーペンスト・低軌道上~

 

 

 

【イメージBGM:ガンダムOOより「TRANS-AM RAISER」】

 

 

 ゼーペンストの軌道エレベーターが破壊されてすぐに、私は惑星の低軌道上に停泊していた〈開陽〉に戻って艦隊を預けていたコーディに事態の状況を尋ねた。

 

「コーディ、状況を知らせてくれる?」

 

「はい。現在不明艦は友軍の艦船を攻撃しつつ、星系外に向けて離脱する航路を取っています。なお不明艦は惑星の重力場に隠れていたので発見が遅れてしまいました」

 

「釈明はいいわ。それで、さっきの攻撃でどれだけ被害が出ている?」

 

「軌道エレベーターの倒壊により、地上では民間人にも被害が出ているようです。また付近に展開していた機動歩兵と海兵隊員数名との連絡も取れません」

 

「―――チッ、やられたわね。コーディ、今すぐ簡易キャンプキットに医薬品を地上に搬送して。出せるだけ出しなさい」

 

「―――成程、地上の民間人を救助することで我々の仕業でないと広報する訳か。確かに、俺達がアンリトゥンルールに反したと勘違いされるのは厄介だ。了解した、すぐに手配させます」

 

 コーディは関係部署との折衝のためか、一時席を離れた。

 突然現れたあの巨大不明艦は何をとち狂ったのか地上の軌道エレベーターに向けて砲撃をぶちかまして、あろうことか破壊してしまった。軌道エレベーターの崩壊に伴って、周囲の市街地にはその破片が降り注いで甚大な被害をもたらしているという観測結果が出ている。破片とは言っても 平均数十メートルの大きさもあり、さらにそれが遥か上空から降ってくるのだ、地上の被害はとんでもないことになるのは目に見えている。

 

「早苗、降下艦隊の展開状態は?」

 

「はい!えっと・・・〈叢雲〉と〈コーバック〉は既に市街地上空でデフレクターの展開態勢に入りました!重巡〈ケーニヒスベルク〉〈ピッツバーグ〉も間もなく到着予定です」

 

 ・・・このまま軌道エレベーターの倒壊を放っておけば、付近の住民は全滅しかねない。そこで、艦隊の一部を破片からの盾にしようと市街地上空に降下させている訳だが、如何せん崩壊速度の方が速すぎて艦隊の展開が追い付かない。これでは折角艦隊を盾にできてもその頃には最早焼け石に水となってしまう。

 

「不味いわね、このままだと間に合わないわ・・・早苗っ、降下艦隊に砲撃命令を出しなさい。とにかくデカイ破片は砕いて、ちっちゃい奴も蒸発させてしまえば少しは被害も軽減するでしょ!それと出せる艦載機は全部出しなさい!破片を迎撃させて!」

 

「りょ、了解ですっ!」

 

 このまま何も手を打たなければ地上の被害は加速してしまう。なら出来る手は全て打たせてもらう。艦隊のレーザー砲撃で破片を蒸発させてしまえば、地上への被害は押さえられる筈だ。

 

「いい、軌道エレベーターは絶対に射線には入れないで。崩壊を助長させることになるわ。迎撃位置についた艦から順次発砲!」

 

「艦載機隊各機、緊急発進して下さい!軌道エレベーター破片の迎撃に当たれ!」

 

《了解ッ、アルファルド1、出撃する!地上で暴れられない分だけぶつけてやる》

 

《こちらディアーチェ、RF/A-171出るぞ!航空隊各機、我に続け!》

 

 惑星ゼーペンストの大気圏内に降下した艦から、順次落下する軌道エレベーターの破片に向けて砲撃が開始される。だがマッド共謹製の高性能演算装置が積まれているとはいえ、高速で地上に向かう破片を迎撃しきるのは難しく、まだまだ多くの破片が地上に向けて落下していく。

 そこの穴を埋めるように、発艦した艦載機隊が細かい破片を迎撃した。飛行機型の機やVF部隊は艦隊と共に展開してマイクロミサイルで破片を砕き、市街地直上には〈開陽〉と〈レナウン〉〈オリオン〉から発進した機動兵器〈ジム〉の部隊がシールドを構えて展開し文字通り盾となると同時に、ガンマウントに装備したマシンガンで破片を粉砕していく。

 

「破片の地上到達率、41%にまで低下!」

 

「その調子よ。上空の奴は出来るだけ細かく砕きなさい。そうすれば大気圏での摩擦で蒸発するわ」

 

 急拵えではあるものの、迎撃網を構築したことで地上に到達する破片の数はだいぶ減らせたみたいだ。軌道エレベーターも崩壊は止まりつつあり、じきに降り注ぐ破片の数も減ってくるだろう。

 

《ザーッ―――・・・む、靈夢・・・聞こえる?》

 

「マリサ―――?」

 

 私が軌道エレベーターの状況を注視していると、再びマリサから通信が入った。あちらでは未だに不明艦と交戦しているのか、絶えず発砲音や着弾で艦体が砕け散る音に爆発音なんかが響いてくる。

 

《ハハッ、あのデカブツ、手に負えないわ。悪いけど、こりゃ一回コンティニューだね・・・》

 

「え・・・ちょっと、あんた何言って―――」

 

《馬鹿―――オマエと決着つけるまでは死なないよ・・・ただ艦は持ちそうにないから、上手く拾ってくれると嬉しいな。私は逃げるなり何なりするから、とりあえず宇宙港で会おう―――》

 

 プツン、とそこで通信は途絶える。

 直後、不明艦の方角で大きな爆発があった。

 

 ―――チッ、散々好き勝手暴れておいて、勝手な奴・・・

 

 ・・・正直、あのマリサとかいう奴のことは好きではないけど、名前の響きと声で、否応なしにあの娘のことを思い出してしまう。

 

 ―――勝手に死んでたりしたら、許さないんだから・・・

 

 あいつは決着付けるまでは死なないって抜かしていたんだし、こっちもあの時の借りを返させてもらわないといけないんだから、言葉通り生きてもらわなきゃ困る。―――あいつは宇宙港で会おうって言っていたから、後で拾ってやりに行こう。

 

「艦長、敵大型艦が離脱していきます」

 

「・・・邪魔な奴を排除したら気が済んだんでしょう。手負いのこっちに噛みついてくるよりはマシよ。アレがこっちに来ないんだったら破片の迎撃に集中できるわ」

 

 どこの誰かは知らないけど、マリサの奴が沈められて、しかもアンリトゥンルールを破って地上の民に危害を加えたあの艦を許しておくつもりはない。だけど今は地上の人間を救うことが先だ。悔しいけど、今の艦隊の損害度からいってもまともにやり合うだけの余裕はない。素直に離脱してくれるというなら有難い。

 

「・・・了解しました。監視のため、不明艦の航路をトレースしておきます」

 

「任せたわ」

 

 レーダー手のこころがアイツの航路を監視してくれるみたいだし、この件は一旦後回しだ。奴の航路さえ分かれば本拠地にでも殴り込める。

 

「破片の迎撃状況はどうなっている?」

 

「はい、現在破片の地上落着率は22%まで低下!しかし我が方もそろそろ限界です!降下させた駆逐艦のシールドがもう持ちません。摩擦熱で装甲の耐熱限界も近づきつつあります!」

 

「チッ、流石に駆逐艦じゃあ絶えず大気摩擦に耐えるのは厳しかったか・・・限界が近い駆逐艦から順次、宇宙空間に退避させなさい」

 

「了解です」

 

 現在艦隊は、軌道エレベーターの破片を迎撃するために大気圏内に降下しているのだが、降り注ぐ破片の他に、絶えず上空に陣取って大気摩擦にも耐えなければいけないので、瞬く間に損害が蓄積していく。駆逐艦のシールドなんかは、そろそろレッドランプの警告が発せられる頃だろう。この〈開陽〉のシールド発生装置やデフレクターユニットも、ダメージレポートで黄色信号が出ている。

 

「艦載機隊はもう活動限界です、一度帰投命令を出します。それと、地上に降りた迎撃用の機動兵器部隊にも損害が出ています。破片の直撃により、ジムが3機大破した模様です」

 

《―――ザザ・・・ザーッ、ガーゴイル1より、状況を報告する・・・破片の迎撃は何とかなりそうなんだが、一つ問題が発生した》

 

「ガーゴイル1?、具体的に何が発生したんですか?」

 

《ああ―――エレベーターの近くでスカーレット社のご令嬢様とメイドさんを助けたんだが、なにやら怪我に加えて意識もないみたいでね―――急を要するんで、一度帰還の許可を願いたい》

 

「了解しました。こちらの誘導に従って帰艦してください―――とのことですが、艦長、如何されますか?」

 

 ノエルさんが振り向いて、私に指示を仰ぐ。

 令嬢とメイド―――といったら、レミリアとフランに、サクヤさんのことだろう。あの二人は大切な奪還対象なんだし、傷物にされては依頼の報酬に関わる。しかしメイリンさんがいないのは気がかりだ。もしかしたら、まだまだ地上に残されているのかもしれない・・・

 

「医療班にすぐ受け入れ態勢を整えるように言っておくわ。地上それと残余の地上部隊は破片の迎撃が終わり次第、負傷した住民への治療と共に行方不明者の捜索に当たらせて」

 

「了解しました」

 

 幸い、迎撃の方はなんとかなりそうだ。軌道エレベーターも崩壊が止まって、新たに吐き出される破片はもう殆どない。

 

「さて、ここが正念場ね。恐らく墜ちてくる破片はこれで全部よ。一片たりとも地上に落とさない覚悟で迎え撃て!」

 

「「「了解っ!」」」

 

 

 

 

 .......................

 

 ................

 

 ............

 

 ........

 

 

 

 

 

 迎撃の方はなんとか一段落ついて、私達はその事後処理に当たった。

 まずは医薬品を運べるだけ地上に運んで負傷した民間人の治療、そして海兵隊と機動歩兵改の人海戦術で行方不明者の捜索を行った。ガーゴイル1―――航空隊のマークさんが運んできたのはフランとサクヤの二人だけだったので、軌道エレベーター付近を中心にレミリアとメイリンさんを探させたんだけど、結局この二人は見つからなかった。その代わり、崩壊を免れた軌道エレベーター基部の駅では銃撃戦の跡にスカーレット社社員の遺体が複数発見されたという報告が入っている。加えて、運ばれてきた二人を治療したシオンさんの話では、サクヤさんにはブラスターのエネルギー弾が掠めたような傷跡が複数あったという事だ。ここまでくれば、何が起こったかは大体想像出来てしまう。―――レミリアとメイリンさんは、あの不明艦に拐われたのだ。

 漸く依頼も終わりかと思ったのに、また厄介事だ。どこの誰かは知らんが、あの艦が属してる組織は徹底的にぶちのめしてやる。うちの海兵隊員も何人か軌道エレベーターの破片に下敷きにされたんだし、艦長としてケジメつけてやらないとね。

 これについては一度ドック内の〈レーヴァテイン〉に伝えておいたが、どうやら向こう側も事態を把握していたらしく、随分と慌てた様子だった。何が地上で起こったか、詳しいことはサクヤさんが目覚めてから聞かないと分からないけど、次の厄介事もただでは済まなさそうな気配がする。

 ちなみにユーリ君達だけど、あっちは地上の援助に医薬品を下ろせるだけ下ろした後は急かされたようにヴァランタインの後を追っていった。―――遺跡での出来事を考えれば、それも仕方ないわよね・・・

 

 治療と捜索が一段落ついた後は、戦争処理のため残されたゼーペンスト官僚団の上層部と会談した。一応私達は自治領に宣戦布告して、実際これに勝利した立場な訳だから色々あるのだ。普通なら勝利した自治領への挑戦者はそのまま統治権を握るのだが、私達の目的はあくまで人身売買で売り飛ばされたご令嬢の身柄確保、自治領の統治には興味がない。勝利宣言をして正当に自治領との戦いを制したことを告知してしまえば、後は現場の官僚に任せればいい。これから民主化するなり、新たな独裁者を戴くなりかは彼等次第だ。

 それに、前領主が享楽のために散々浪費していた影響でこの自治領の経済は火の車、貧困率もとんでもない。そんな宙域貰ったところではただ面倒くさいだけだ。

 

 ついでにその会談では、ヴルゴさんに降伏条件で伝えた艦の他に、親衛隊の残存艦や建造中/ドック内に留置されていた艦船も賠償艦として得ることができた。これで賠償として獲得した艦船の数は、ペテルシアン級空母2隻、アルマドリエルⅠ級空母1隻、ドゥガーチ/ZNS級空母1隻、ドゥガーチ/Z級空母2隻、フリエラ/ZNS級巡洋艦3隻、フリエラ/Z級巡洋艦2隻、リーリス/ZNS級駆逐艦6隻、リーリス/Z級駆逐艦7隻の合計23隻だ。このうちアルマドリエルⅠ級とドゥガーチ/ZNS、Z級空母各一隻にフリエラ/ZNS級巡洋艦1隻と全てのフリエラ/Z級巡洋艦、それとリーリス/Z級駆逐艦6隻はスカーレット社への賠償艦として引き渡された。 これでゼーペンストに残された艦は難を逃れた警備艦隊だけになるが、私にとってはどうでもいいことだ。恨むなら犯罪に手を染めた前領主を恨みなさい。

 そして私達は結果として、

 ペテルシアン級空母:2隻

 ドゥガーチ/Z級空母:1隻

 フリエラ/ZNS級巡洋艦:3隻

 リーリス/ZNS級駆逐艦:6隻

 リーリス/Z級駆逐艦:1隻

 の賠償艦を得た訳だが、このうちフリエラ級、リーリス/Z級各1隻とリーリス/ZNS級駆逐艦2隻は解体又は売却処分として資源や艦隊資金の足しとした。ペテルシアン級もまだうちの艦隊では持て余してしまうので、勿体ないが売却処分だ。残りの艦はそのまま新たな戦力として艦隊に編入されるが、早速マッド共が改造工事を奮発しているらしく、獲得したフリエラ級が早速〈ムスペルヘイム〉にドック入りしている。

 そして編入艦の艦名だが、ドゥガーチ/Z級は〈ロング・アイランド〉と改名され、艦載機搭載量も元の36機から48機まで拡大された。絶賛改造中のフリエラ/ZNS級は〈スタルワート・ドーン〉、〈イージス・フェイト〉の艦名をそれぞれ与えられ、リーリス/ZNS級駆逐艦は〈フレッチャー〉〈スコーリィ〉〈アーデント〉〈ドーントレス〉と命名された。

 

 そして既存艦にも改修が加えられ、大破した空母〈ラングレー〉は修理のついでに中段の第二、第三飛行甲板のスペースを利用して格納庫の拡大が行われ、これによって搭載機の最大数は70機から120機まで拡大した。またサチワヌ級巡洋艦〈ユイリン〉〈ナッシュビル〉の2隻は戦訓を基に、対空に特化した仕様へと改装されるらしい。

 

「艦長、ここにいたか」

 

「あら、サナダさん・・・解析作業は終わったの?」

 

「ああ―――まずはこいつを見てくれ」

 

 私が今回の戦いでの戦果と被害のデータを確認していると、サナダさんが訪ねてきた。彼には例の不明艦の解析を頼んでいたんだけど、この様子だと、何か分かったみたいだ。

 

「これは―――航路?」

 

「ああ。例の巨大戦艦が撤退時に使用した航路を解析した結果、途中で空間歪曲波の発生を観測した。そこから先は、反応が途絶えている」

 

「途絶えているって、向かった先が分からないってこと?」

 

 サナダさんの話からすると、あの不明艦の航路を辿ることには失敗したということなのだろうか?だとしたら、一からあいつを探さないといけなくなる訳で、とんでもなく手間がかかる作業になるんだけど・・・

 

「いや、落胆するのはまだ早い。艦長、私は空間歪曲波を観測したと言っただろう?これの意味が分かるかな」

 

「空間歪曲波?―――いや、分からないわ」

 

 わざわざサナダさんが強調するぐらいだし、きっと重要な単語なのだと思うんだけど、生憎科学には詳しくないんでね―――あんたみたいに科学的なことは分からないのよ、私。ああ、でもその単語、どっかで聞いたような気が―――う~ん、どこで聞いたかなぁ・・・

 

「そうか・・・では仕方ない、説明するぞ。いいか、空間歪曲波とは文字通り空間を歪める波のことだ。我々が用いるワープのように、空間に直接働き掛けて状態変化を引き起こす際に発生する。つまりこの波が検出されたということは―――」

 

「もしかして、アイツもワープ航法を使ったってこと!?」

 

「ああ、そうだ。超光速航法でも、広く一般に用いられているi3エクシード航法では残存インフラトンの反応が検出されるが、我々が用いるようなワープではそれが途絶える。さらにその直前に空間歪曲波を感知したとなれば、敵も我々と同様のワープ航法を使えると見て間違いない。そしてもう一つ肝心なことだが、空間歪曲波の方向から推測される敵艦の予想航路を解析した結果、マゼラニックストリーム方面、それもヴィダクチオ星系の方角に続いていると判明した」

 

「ヴィダクチオ?確かどっかで聞いた覚えが・・・ああ!、確か保安局のウィンネルさんが、ザクロウの人身売買先の一つだって言ってた宙域がそんな名前だったわ・・・」

 

「ふむ、ザクロウの取引先か・・・だとしたらゼーペンスト、いやバハシュールとも何らかの繋がりがあったのだろう。だからこそ戦艦をこの宙域に派遣していた訳か・・・しかし、にしても目的が見えんな。軌道エレベーターの破壊は恐らく誘拐した証拠の隠滅でも図ったのだろうが・・・その誘拐の理由は何だ? あのご令嬢さん達は人身売買でゼーペンストに来た筈だ。連中があの令嬢を確保しなければならない理由とは――――むぅ、こればかりは私にも解らんな・・・」

 

 ヴィダクチオって、確かウィンネルさんの話だと膨張志向で絶えず揉め事を起こしている厄介児だって話だった気がするけど、わざわざレミリアを拐わないといけない理由は一体何なのだろうか。

 ただ証拠もなく考えても答えなど出る筈もなく、徒に時間だけが過ぎる。

 

「・・・これは後にした方が良さそうだな。そしてもう一つ、奴について分かったことがある」

 

 連中の目的が見えないことはサナダさんにも分かっていたようで、サナダさは話題を別なものに切り替えてきた。

 サナダさんが持ってるデータプレートからホログラムの図面―――あの不明艦が映し出された。

 

「こいつについて、解析データに加えて艦隊やスペースネットに存在する、あらゆる情報を当たってみた。その結果、次のことが分かった。まず一点目、奴の底部に装備されたこの歪曲レーザーについてだが、こいつはどうもデフレクターユニットの重力制御技術を応用しているようだな。恐らく砲門に、ビームに干渉するよう重力場レンズを形成して一定の方角に粒子ビームを曲げているのだろう。これだけの芸当を可能にするだけのデフレクター出力には相当な量が要求される。あの図体だからこそ、それだけの性能を持ったデフレクターを搭載できるのだろう」

 

「大体の原理は分かったけど・・・でもあのビーム、もっと極端に曲がってなかった?こう、なんか反射するみたいに」

 

 サナダさんの説明だと、あの軌道エレベーターを破壊した大出力レーザービームは艦のデフレクターユニットからの干渉で曲げられているみたいな説明だったけど、実際の映像だと、何ヵ所かで反射されたように曲がっていた気がするんだけど・・・

 

「ああ、艦長の言うとおり、こいつだけでは説明としては不完全だ。これを見てくれ」

 

 サナダさんはそこで一旦説明を打ち切ると、あの戦艦が歪曲ビームを発射している様子と、そのビームの射線のデータを表示した。

 

「いまこの画像で拡大した位置を詳しく解析してみると、ここに小型のエネルギー反応が観測されているのが分かるな?レーダーに映っていないところを見ると、恐らくステルスなのだろう。だが肝心なのはここだ。このエネルギー反応の位置でレーザーがほぼ反射されているのが見えるな。これは推測だが、こいつはレーザーを反射させる特殊な鏡面装甲を搭載したリフレクターユニットの役割を果たす航空機だ。こんなものが元からこの宙域にあったとは考えにくい。衛星の類いではなく、直接あの艦から発進してきたのだろう」

 

「なるほど・・・つまりそいつと曲がるビームが組み合わさると、事実上死角のない無敵砲台になり得る―――ってことね」

 

「ああそうだ。全くこんなものまで配備しているとは―――連中の技術力は相当なものだぞ。喧嘩を売るにしても、今までのようにはいかないな」

 

 サナダさんの解説を聞く限りでは、あの戦艦の主砲に死角はない。レーザー自体が曲がってくるし、それに反射ユニットを持った航空機が加わると例え天体の裏側に隠れていたとしても攻撃されてしまうだろう。巨大建造物である軌道エレベーターを破壊したことを見ても、威力自体も相当高い筈だ。

 

「チッ、野蛮な連中の癖に良いもん持ってるのね。それで、まだあるんでしょ?」

 

 私はサナダさんに続きを促す。サナダさんの台詞からいって、分かったことはまだあったような口振りだったし。

 

「ああ。二点目だが、あの艦の正体が判明した。艦長、イベリオ星系の遺跡は覚えているな?」

 

「ええ―――、それがどうしたの?」

 

「この〈開陽〉の設計図のように、そこで複数の艦船データを得ただろう?その中には、我々が使うヴェネター級とアクラメーター級のデータも"古代遺跡の解析結果"として残されていたんだ。その中に、あの巨大艦に非常に類似したシルエットを持つ艦のデータも発見した」

 

 サナダさんは、今まで表示されていた巨大戦艦のホログラムの横に、もう一つホログラムを表示した。

 その艦は、大きさこそ僅かにあの巨大艦に劣るけど、全体的なデザインはほぼ同一だ。

 

「こいつは"リサージェント級バトルクルーザー"と言うらしい。全長は約3000m、あの巨大艦より僅かに小さい。そして艦体のデザインはほぼ共通している。あの艦の所有者は、我々と同じように何らかの手段で古代遺跡から艦のデータを抜き出したか、漂流していた残骸そのものを流用して建造したのだろう」

 

「・・・ってことは、艦の性能自体も私達の艦に近いか、上回るってこと?」

 

「ああ。それにあの図体だ、耐久性能では我々の戦艦を上回るだろうな」

 

 ―――想像してはいたけど、あの巨大戦艦、相当な強敵になりそうだ。にしても、私達の他に遺跡船を使う連中がいたなんてのはちょっと驚きだ。私みたいに、相当運に恵まれた奴なんだろう。

 

「それで艦長、これは私からの提案なのだが―――」

 

「・・・なに?サナダさん」

 

 サナダさんが、畏まった態度でもう一枚のデータプレートを取り出した。あ、この流れはもしかして・・・

 

 

 

「売り払ったペテルシアン級2隻の資金、まだ浮いているだろう?ならその資金を使ってこいつを作ってみてはどうだ?」

 

 サナダさんが、データプレートを起動してホログラムを映し出す。そこにあったのは、案の定と言うべきか新型戦艦と思われる設計図だ。

 艦首には〈開陽〉と同型の2連装ハイストリームブラスターの砲口が大口を開けており、そこから円筒型の直胴艦体が続き、上甲板には〈開陽〉と同型の主砲が2基並んでその後ろには艦橋がそびえ立っている。そして艦橋頂部から艦尾にかけて、幾つもの発進口のようなものが開いた板状のユニットが延びていた。

 

「改アンドロメダ級、前衛武装航宙戦艦。この〈開陽〉と同様にあの遺跡から発掘したデータを基に設計した戦闘空母だ。艦首には〈開陽〉と同じようにハイストリームブラスターを装備、そして主砲は〈開陽〉の160cm3連装レーザー砲を改良した160cm3連装収束圧縮型レーザー砲を2基搭載、艦後部の艦載機発着区画には航空機、機動兵器合わせて96機の搭載が可能だ。あの巨大艦に対抗するには、我々の巡洋艦と駆逐艦中心の艦隊ではやや力不足だからな。これを機に、2隻目の戦艦保有を考えてもいい頃ではないか?」

 

 サナダさんは艦の仕様を説明しながら、ホログラムの横に要目データと性能値を表示した。

 

 

 

 改アンドロメダ級 前衛武装航宙戦艦(AAA-BBVS)

 

 全長:1456m

 全幅:342m

 全高:430m

 価格:69500G

 艦載機:96機(+分解状態の予備機×12機搭載可能)

 武装:艦首ハイストリームブラスター×2、160cm65口径3連装収束圧縮型レーザー砲×2、、艦首対艦ミサイルランチャー×4、4連装対艦グレネード投射装置×2、3連装高角パルスレーザー砲×4、格納式パルスレーザーCIWS×24

 

 性能値

 

 耐久:10400

 装甲:102

 機動力:27

 対空補正:42

 対艦補正:75

 巡航速度:131

 戦闘速度:125

 索敵距離:22000

 

 

 

「はは・・・いつの間にかこんなものまで設計しやがって・・・なにこの造船価格70000Gって。〈開陽〉より高いじゃない!こんなもん造れるか!」

 

「まぁまぁ、そう熱くなるな艦長。これは巨大戦艦撃破の為の必要経費だと思ってくれ。ざっと計算してみたが、賠償艦の売却で我々は現在25万Gほどの資金がある。小マゼランでは滅多に手に入らないペテルシアン級に色がついたお陰だな。それでだが、無人運用するというなら搭載するモジュールは戦闘モジュールだけで事が済む。居住モジュールは不要だ。それに艦載機か、あるいは艦載機製造の為の資源購入費用を加えれば、艦体価格と合わせてざっと18万Gあれば足りる。艦載機を管理局が格安販売するゴースト偵察機を改良したスーパーゴースト無人戦闘機で揃えれば・・・15万G近くで建造できるな」

 

「15万って・・・それでも現資金の半分以上使うじゃない!冗談じゃないわ」

 

「戦艦とはそういうものだよ、艦長。これでもモジュール設計図の改良で価格も押さえているんだが」

 

「知るか!」

 

「ふむ、仕方ないでは私の独断と偏見で建造するとしよう。あの巨大戦艦に対抗するにはアンドロメダ級が2隻は必要だ―――分かってくれるかね、艦長?」

 

「―――チッ、ああもう、そこまで言うなら造ればいいんでしょ!ああ、お金が・・・」

 

「理解してもらえたようで何よりだな」

 

 お財布から、お金に羽が生えて飛んでいく光景が見える・・・この世界、お金はデータの中の存在なんだけどね。

 戦艦って、普通に造ればこんなにするんだ―――今まで管理局のドックで作ってきたのは巡洋艦と駆逐艦ばかりだったから、少し甘く見ていたわ・・・

 

 にしても、あのサナダさんがここまで乱暴に2隻目の戦艦を推すってことは、余程あの巨大戦艦が強力な証拠よね―――

 

「では続いて、賠償艦艇の改造状況でも解説しよう。我々がゼーペンストから賠償として得たフリエラ/ZNS級巡洋艦についてだが、こいつは大口径レーザー砲塔を搭載した重巡洋艦として改造している。艦首軸線上にレーザー砲を搭載する関係から、原型艦では艦首にあったエンジンブロックと下部の艦体ブロックは艦後部に移動させている。主艦体そのものも、ミサイルVLSを多数搭載する関係上、直胴型に改造して直接防御力を高めている。この改造の結果、全長は100mほど拡大している。それと陸戦支援用に少数の戦闘機と新型の強襲降下艇に軌道歩兵改の搭載能力を付与している」

 

 話は賠償艦艇の改造へとサナダさんが勝手に移して、また別のホログラムとデータ値が表示された。

 うん、いつもの魔改造ね。これぐらいで驚かなくなってきたのが何だか怖い・・・

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 スタルワート(改フリエラ)級重フリゲート(FFGN)

 

 全長:778m

 全幅:380m

 全高:248m

 価格:12400G

 武装:艦首大型対艦レーザー砲塔×2、連装レーザー砲塔×2、小型連装レーザー砲塔×2、アーチャー多目的ミサイルVLS×56セル、対空パルスレーザー

 艦載機:スーパーゴースト無人戦闘機16機、ペリカン強襲降下艇×10機、機動歩兵改×120体

 

 性能値

 

 耐久:1840

 装甲:41

 機動力:32

 対空補正:38

 対艦補正:27

 巡航速度:125

 戦闘速度:135

 索敵距離:16000

 

 

「フリエラ級の改造はこんなところだな。続いてリーリス級駆逐艦だが、これは主に耐久性能の改良と機関の交換、無人化改装にVLSの規格統一工事を行っている。外見上の変化はあまりないな。そしてドゥガーチ/Z級空母だが、こいつも同様に耐久性能の改良に機関換装と無人化工事を行っている。それに付け加えて、居住区を潰して艦載機の搭載数も10機ほど増加させた」

 

 続いて空母と駆逐艦のホログラムと要目も表示されるが、戦艦と魔改造巡洋艦の影響なのか、ほとんど驚かなかった。普通に考えればこれでもかなり高性能化してるんだけど...

 

 

 

「・・・へぇ~、こいつは凄いね。あんたら、こんな良いもん作る気なのねぇ~」

 

 私がサナダさん達の暴走の結果を前にしてに半ば呆れ気味にしていると、懐かしいような、忌々しいような少女の声が響いた。

 

「・・・何の用?マリサ―――」

 

「どーも、お邪魔するよ。ふむふむなるほど、これ、あんたが作ったのかい?」

 

「いや、基は別にある。ただ、改設計は主に私の仕事だな。」

 

「へぇ~、それでもこればかりは凄いねぇ。あの非力な小マゼラン艦をここまで使えるようにするなんてさ。それにこの戦艦、性能でいえば大マゼランの旗艦級じゃないか」

 

「随分とお気に召されたようで、光栄だな」

 

 マリサの奴は私を無視して、サナダさんの設計図データをまじまじと見つめている。

 ああ、何でこいつがここにいるかって?約束通り、宇宙港で回収してやったのよ。こいつの艦があのザマだからけっこう怪我してるのかと思って来てみれば、ご覧の通りピンピンしてやがる。お前の生命力はゴキブリ並か。

 

「・・・早苗、来なさい」

 

「はいはいっ!、呼ばれて参上、貴女の東風谷早苗でございますっ!!」

 

 私が早苗の名前を呼ぶと、何処から出てきたのか、数秒で早苗が私の背後に現れた。

 どうせ近くに居るでしょうと思ってみたら、やはりその通りだったみたいだ。

 

「―――こいつ、応接室に放り込みなさい」

 

「マリサさんですか?了解しました!」

 

「あっ、ちょっと離せ!この緑色!」

 

「駄目です!霊夢さんのお願いですから!」

 

「病人は労るもんだろ!?」

 

「病人って、あの状況でも貴女外傷一つ無かったじゃないですか。嘘はいけませんよ!」

 

 ・・・これでもあいつは要監視対象なのよ。容易くうちの艦の設計図データなんて見られてたまるか。という訳だから、あんたは早苗と遊んでなさい。

 

「ちょっ、おまっ・・・待っ・・・そ、そんなとこ触るなぁ!」

 

「ふふふ・・・この早苗の手からは逃げられませんよ!気安く霊夢さんに近づいた報いを受けなさい!」

 

「あっ・・・そこ、駄目・・・いやぁぁぁ!?」

 

 

 ―――さて、これで少しは平和になったわね。艦長業務に戻りましょう。

 

 




予告していた通り、第六章はオリジナルストーリーになります。

巨大艦の正体についてですが、コメント欄であった通りリサージェント級バトルクルーザーでした。大きさは一割増しなので、全長は3300m程度まで拡大されています。
アンドロメダ級のサイズは、2202の約3倍ですw
フリエラ級の改造ですが、全体のデザインはHALOのパリ級重フリゲートをイメージしています。艦のレイアウトはかなり変わっていますが、艦後部の両舷にあるエンジンブロックや艦橋直下の張り出した艦体部分などは形そのものはフリエラ級のままです。

そろそろ第四章でちらっとだけ出てきたあの人達も登場する頃です。

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