夢幻航路   作:旭日提督

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第五三話 ゼーペンスト上陸

 

 

 ~ゼーペンスト宙域、首都惑星ゼーペンスト~

 

 

【イメージBGM:機動戦士ガンダム外伝 宇宙、閃光の果てに...より「雷光の第16独立戦隊」】

 

 

「首都惑星ゼーペンストを補足しました。間もなく大気圏突入態勢に移行します」

 

 ゼーペンスト親衛隊との艦隊決戦になんとか勝利した私達の艦隊は無視し得ない損害を負った訳だが、後ろからはあのおっかない〈グランヘイム〉が迫っている。それに本来の目的も惑星に上陸しないと果たせないので、これから私達は首都惑星ゼーペンストに強襲をかけるところだ。

 

 艦隊には別行動を取っていたギリアスの〈バウンゼイ〉やマリサの艦も合流し、ユーリ君やメイリンさんの艦隊と共にゼーペンストに向けて進撃している。

 

「・・・じゃあ予定通り、私達はいの一番に乗り込んで地上を制圧するわ。ユーリ君とメイリンさんは宇宙港を武装解除した後、軌道エレベーターで地上を目指すという方針でいいかしら」

 

《分かりました。では、僕達は宇宙港に向かいます》

 

《それで構いません。私達には直接大気圏に突入できる降下艇がありませんから・・・お嬢様を見つけられたときは私まで連絡して下さい》

 

「分かったわ。それじゃ、また地上で会いましょう」

 

《ええ、ご武運を》

 

 上陸前に、ユーリ君とメイリンさんの艦に通信を入れて今一度攻略作戦の方針を確認する。

 今回の作戦では、直接大気圏に突入できる私の〈開陽〉がいつも通り大気圏内に降下して強襲艇を吐き出し、そのまま敵中枢を目指す。ユーリ君とメイリンさんは宇宙港を制圧した後に軌道エレベーターで地上に向かい、そこで私達と合流して奪還対象の捜索を行う予定だ。

 

 ただ、今回気を付けなきゃいけないことは、ここが一般の人達が暮らす居住惑星だということだ。いくらアウトローの0Gドッグといえど最低限のルールというものがあり、それは一般には"アンリトゥンルール"として知られている。この中の一つには争いは宇宙で決着をつけ、地上の民間人を巻き込まないというものがあり、これは国同士の戦争においてすら適用される、いわば慣習国際法とすらなっているようなものだ。これを破れば唾棄すべき存在として軽蔑されるという。

 

 いくら悪徳領主の本拠地とはいえど、惑星ゼーペンストには勿論多くの民間人が暮らしているので、今までのように爆撃だODSTだと好き勝手できないのは辛いところだけど、ルールであるならば仕方ないし、私もあまり関係ない一般人を巻き込みたくはない。なので今回は航空支援はないし、軌道上からの爆撃もしない。

 

《おーい、靈夢、聞こえる?》

 

「・・・何?」

 

 そこに、マリサからの通信が届く。

 

 嫌々ながらも、私はその声に耳を傾けた。

 

《私は外で見張りでもやってるよ。いつヴァランタインが来るか分からないからね。だから好きに暴れてきな。ギリアスの野郎も外に残るらしいよ》

 

「了解。ならそっちは任せたわ」

 

《任された♪》

 

 そう言ってマリサは通信を切断する。

 ・・・なんだかよく分かんない奴だけど、外で見張をしてくれるというのなら止める理由はない。少なくとも一緒に来られるよりはましだ。

 

《―――ちょっと失礼するぞ。俺も宇宙港に向かうけどいいかな?こっちも借りってのがあるんでね・・・》

 

 続いて別の艦からも通信が入る。発信元はユーリ君を助けたバゥズ級重巡―――バリオさんの艦からだ。声の主は、勿論バリオさんだ。

 

「別に構わないわ。それに、元々これはあんたらの管轄でしょ」

 

《ハハッ、そう言われると返す言葉もないね・・・まぁ、"元"保安局員としてせいぜい頑張らせてもらうとするよ》

 

「ええ、期待してるわ」

 

 バリオさんとの通信が切れると、彼の艦は真っ直ぐ宇宙港に向かって加速を始め、ユーリ君とメイリンさんの艦隊に続いた。

 そもそもなんでバリオさんがここにいるのかって話だけど、どうやらシーバット宙佐の扱いに我慢できず、宙佐の敵討ちを志す同士と一緒に保安局を抜け出してきたらしい。赤穂浪士かよあんたら。

 

「では霊夢さん、私達も参りましょう!」

 

「・・・そうね。あんまり待たせるわけにはいかないし。それじゃあコーディ、留守の間は任せたわ」

 

「イエッサー」

 

 さて、上陸のために、私達も強襲艇の発着ポートに向かわないといけない。留守の間の艦隊指揮はコーディに任せて、早く保安隊の皆のところに向かおう。

 

 ちなみにゼーペンスト親衛隊との艦隊決戦で捕虜にしたヴルゴさん以下数名だけど、今は来賓待遇で監視させている。変な気を起こすことはないと思うけど、一応監視も続けさせておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《ロングソード3、スタンバイ完了。いつでも行けるぜ》

 

《ロングソード2、こちらも準備完了だ》

 

《ロングソード1、発進準備完了!》

 

 私達が発着ポートについた頃には強襲艇には既に上陸部隊が乗り込んでおり、あとは私と早苗が乗り込むだけ、というところまで準備が進んでいた。

 強襲艇の機内には、発進準備完了を知らせるパイロット達の通信音声が響く。

 

《ロングソード隊各機、発進を許可します》

 

《了解!ロングソード隊各機、発進!》

 

 艦載機の管制を担当するノエルさん合図と共に、カタパルトから強襲艇の機体が切り離される。その際の衝撃が機内に伝わり、少ししてから飛行場独特の浮遊感が感じられた。

 

 保安隊員―――改め海兵隊員が操縦する強襲艇はさしたる妨害を受けることなく、目的とする上陸ポイントに到着した。

 

 そういえば保安隊のことだけど、任務内容が艦内警備だけじゃなくてこんな風に惑星上陸の先鋒も務めていたりするので海兵隊に改名されている。まぁ、あまり関係ないことだけどね。

 

「よし、行くぞ野郎共!GO、GO!!」

 

 上陸ポイントに到着すると強襲艇の側面のハッチが開き、日中の陽光が眩しく差し込んだ。

 海兵隊員達はそれに怯むことなく即座に強襲艇から降りると、隊長のエコーとファイブスに従って前進を始める。

 

 私達が上陸したすぐ後に、上空を別の強襲艇が通り過ぎる。

 その強襲艇が地面にアプローチすると積んでいた車両―――M61重戦車が切り離され、積み荷を下ろした強襲艇はすぐにまた上空へ離脱する。

 

 海兵隊員達はすぐさまそれに乗り込むと、重戦車を先頭にして再び前進を開始した。

 

「―――隊長、見えました、バハシュール城です!」

 

「あの気色悪い建物か・・・よし野郎共、気を引き締めろ!そろそろ敵のお出迎えだ」

 

 しばらく前進したところで、噂のバハシュール城が見えてくる。領主バハシュールが大金を注いで作ったという私邸―――というか城なんだけど、見るからに装飾過多だ。ギラギラしすぎて目に悪い。

 

「うわぁ、悪趣味ですね―――」

 

「・・・出来れば爆撃で吹っ飛ばしたいわ」

 

 私の隣にいる早苗も、あまりの悪趣味さに顔をしかめている。あんな目障りな建物、本来なら木っ端微塵に吹き飛ばしてやりたいところだけど、アンリトゥンルールがあるからそれはできない。そもそもそんなことしたら奪還対象を吹き飛ばしちゃうかもしれないし・・・

 

「隊長、敵のバリケードです!」

 

「よし、キャニスター装填、バリケードごと纏めてひっ捕らえろ!」

 

「了解、キャニスター装填、発射!」

 

 目の前に敵のバリケードを発見すると、エコーがこれを砲撃で吹き飛ばさせる。

 M61重戦車から放たれた弾頭は暴徒鎮圧用の粘着弾で、バリケードの影に隠れていた敵兵はそれに捕まってバリケードごと身体を固定された。

 

「っ、残った敵が撃ってきたぞ!」

 

「反撃だ!ブラスターをパラライザーモードにしろ!」

 

「イエッサー、反撃開始!」

 

 だがその一撃だけでは敵を全て無力化することはできず、一部の敵がブラスターで攻撃してくる。

 海兵隊員達は敵兵に応戦してそれを無力化し、戦車から降りてバリケードを素早く撤去する。

 

 戦車が通れるようバリケードに穴を開けた後は、同じように進撃を続けて立ち塞がる敵兵を圧倒していく。敵が弱すぎるのか、はたまたそれともうちの海兵隊員が強すぎるのかは知らないけど、目につく敵兵は粗方海兵隊員だけで片付けてしまった。

 

「あー、なんだかつまんないですね・・・」

 

「こら、暴れ足りないからってそんなこと言わないの。私は楽な方がいいわ」

 

 全部海兵隊員だけで済んでしまったのが物足りないのか、早苗がそんな愚痴を溢す。

 折角光刀も用意して張り切っていたみたいだけど、楽に進撃できるならそれで充分だ。ほら、もう戦車を使えるのはここまでみたいだし、これから好きに暴れたらいいでしょ。

 

「艦長、進路はどうします?」

 

「そうね・・・まずは奪還対象の確保が最優先だから・・・ここの収容施設なんか怪しいんじゃない?」

 

 私はヴルゴさんから入手したデータを元に製作された地図を広げて、収容施設の場所を探す。案外、その施設はバハシュール城の近くで見つけられた。

 

「では、先ずはその収容施設に向かうと」

 

「ええ。そうしましょう」

 

 私が行き先を指示すると、戦車隊は向きを変えて、その収容施設を目指す。途中でいくらか敵兵と遭遇したけど、全て海兵隊員が片付けてしまった。

 

「・・・戦車はここまでみたいだな。全員降車!クリムゾン6と7はここに残って退路を確保しろ!」

 

「イエッサー!」

 

「・・・じゃあ、私達は中に入りましょう」

 

「よぅし、今度こそは活躍してみせますよ!」

 

 収容施設まで辿り着いた私達は戦車から降りて、徒歩で進撃する。

 今のところ敵兵の姿は見えないけど、どうせ中で待ち構えているでしょうから油断は出来ない。

 

「おい、エコー。あれを見ろよ」

 

「どうしたファイブス・・・あれは、出入口か?にしては随分とおざなりだが・・・」

 

 しばらく施設の外周を進んでいると、エコーが入り口らしきものを見つけた。だけど入り口にしては小さめで、周りに警備の兵もいない。

 

「・・・裏口か?ロックが掛かってるみたいだが、どうする?」

 

「ここは進みましょう!私が扉をこじ開けますから、エコーさん達は敵の襲撃に注意して下さい」

 

「了解した。野郎共、左右に伏せろ」

 

「・・・良いの、早苗?」

 

「いいも何も、罠なら正面から食い破るだけですよ!それでは、行きます!」

 

 どうやら、エコーが見つけたこの裏口らしき場所から侵入することになるようだ。というか早苗は入る気満々らしい。早苗は光刀を片面だけ起動して、それを扉に押し当てる。扉のロックは熱で徐々に溶かされていき、人が入れるだけの隙間が作り上げられた。

 私も一応、敵襲に備えてスペルを用意しておく。

 

 光刀で扉をこじ開けると、早苗はそこを思いっきり蹴り飛ばす。

 

 ガラン、という鈍い音が周囲に響いた。

 

「御用改めです!覚悟ッ!」

 

「野郎共、突撃!撃て!」

 

 その直後、早苗の頬をブラスターの熱線が掠める。

 

 しかし早苗はそんなものなど意に介さずに、光刀を両面起動させて勇んでバハシュール城内部へと突入する。エコーとファイブス以下海兵隊員達もそれに続いてブラスターを発砲し、敵兵の制圧を図る。狭い裏口の通路内は、収容施設守備隊と海兵隊との間で激しい戦闘が展開された。

 

「ッ、伏せなさい!」

 

「チッ、了解―――」

 

 ファイブスが敵兵を倒したところで、その後ろから黒いなにかが飛んでくる。

 不穏なものを感じた私はすぐさまファイブスに伏せるよう伝えて、そこに向かって弾幕を放った。

 

 直後、閃光と共に爆風が押し寄せる。

 

「クッ―――」

 

「手榴弾か・・・助かった!」

 

「礼には及ばないわ。早く片付けてしまいましょう」

 

 どうもあれは敵が投げた手榴弾だったらしい。幸い無事に迎撃できたので、此方に被害はない。

 

「れ、霊夢さん、大丈夫ですか!」

 

「・・・ちょっと埃が入ったぐらいよ。何ともないわ」

 

「そうですか・・・でも、良く気づけましたね。私より早いんじゃないですか?」

 

「勘よ、勘。それより早く進みましょう」

 

「了解です。残敵掃討、お任せ下さい!」

 

 さっきの手榴弾で一瞬ペースを乱されたけど、そこからは早苗の無双と海兵隊員のブラスターで敵兵を制圧し、私達は収容施設内部へと足を踏み入れた。

 

《―――ッ、聞こえますか、霊夢さん・・・》

 

「その声は・・・メイリンさん?」

 

《はい、今軌道エレベーターを突破したところですが・・・そちらは現在何処に―――》

 

「今は収容施設にいるわ。座標を送るわね」

 

《成程―――了解しました。では私達もそちらに向かいます!》

 

 メイリンさん達は無事に宇宙港を制圧できたらしい。施設の位置座標は送っておいたので、暫くすればここに来るでしょう。

 

「エコー、ファイブス、二手に別れて捜索するわよ。対象は10代ぐらいの子供らしいから、それらしき人物がいたら私に報告して頂戴」

 

「イエッサー。しかし、この収容施設自体、かなり広い建物です。捜索には時間が掛かるかと」

 

「おまけに収容人数もかなり多そうですし・・・ここってこんなに犯罪が多いんですか?」

 

「・・・多分、政治犯や思想犯ですね。ここの領主は堕落しきった小心者という噂ですし、その性格を考えれば、自分に楯突く連中は弾圧するでしょうから」

 

 捜索とは言っても、エコーが言うように施設自体がかなり大きい。それに加えて収容人数も多いときた。椛が早苗に答えたように、バハシュールって奴はよほどの小心者のようね。見たところ、とても犯罪者には見えない、むしろ善人のような連中もなんぼか見掛けたし。ほんと、面倒臭いことをしてくれる。お陰でバハシュールをボコるのは後になりそうだわ。

 

「成程ね、バハシュールに逆らう者は皆、犯罪者って訳か。気に食わねぇぜ」

 

「・・・どうします、艦長。彼等を解放しますか?」

 

「―――いや、その必要はないでしょう。今解放すれば捜索の邪魔だし、どうせ体制は滅びるんだからじきに出られるわ」

 

「了解です。では、我々クリムゾン分隊は西側から捜索します」

 

「じゃあ俺達スパルタン分隊は東側の棟から探そう」

 

 エコーとファイブスは二人で打ち合わせると、即座に分隊を率いて左右に散っていった。

 

「霊夢さん、私達はどうします?」

 

「うーん、そうね・・・ここ、管制棟みたいな場所ってあるのかしら」

 

「管制棟ですか・・・はい、有るみたいですね」

 

「じゃあそこに行きましょう。もしかしたら囚人のデータとかが保管されているかもしれないし」

 

「成程、ハッキングですね!お任せ下さい!」

 

「そういう訳だから、早く行きましょう」

 

「了解ですっ」

 

 エコーとファイブスに少し遅れて、私達も行動を開始する。囚人を一人一人見て回っていたら日が暮れてしまいそうだし、ちょっと近道させて貰おう。データがあるかどうかは怪しいけど、やってみる価値はあるでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~ゼーペンスト・収容施設管制棟~

 

【イメージBGM:無限航路より「contraataque」】

 

 

「ひ、ひぃーっ、な、何なんだお前達!」

 

 私の目の前で、男が尻餅をついて引き下がる。

 男は畏れるような目付きで私達を見上げ、そんな情けない叫び声を上げた。

 

「何なんだ、ではありませんよ?先ずは私の質問に答えてくれますか?」

 

「ひーっ、ど、どうか勘弁を・・・」

 

 男の周りには、幾つかの屍が転がっている。―――言うまでもなく、私と早苗の拷問に昇天した役立たず共だ。

 

「はぁ・・・これではまるで使えませんね。最後の一人なんですから、もう少し根性を見せて欲しかったのですが・・・では、暫く眠っていてくださいね」

 

 男の首に、早苗がストンと光刀の刃を下ろす。

 光刀の刃が接触した男は雷に打たれたように白目を剥いて痙攣すると、糸が切れたように地面に突っ伏した。

 こうなってしまったら、暫くは目を覚まさないだろう。

 

「・・・さて、ここの人達は使い物になりませんでしたし、私達で探すとしましょう」

 

「あんた、相変わらずやることがえげつないわね・・・」

 

「はい?何か言いました霊夢さん」

 

「いや、何でもないわ・・・」

 

 ―――前から知っていたけど、この娘、けっこう容赦ない性格なのよね・・・私もあまり人のこと言えないけど。

 

「それじゃあ、ハッキングといきますよ♪」

 

 早苗は右腕から何本か触手のようなケーブルを伸ばして、それを機械の中に挿れていく。

 ああ、そういえばその義体、ハッキング機能なんかもあったんだっけ。そうやって使うのね。

 

「くっつ・・・中々充実した防御システムのようで・・・ふふっ、いいですよ―――私が蹂躙してあげます・・・!」

 

 ―――あの早苗さん?なんでそんなに恍惚な表情をしていらっしゃるのかな・・・?

 

「あッ、ちょっ、激し・・・ふふっ、ですが―――それでこそ蹂躙のし甲斐があるというものですッ!」

 

 あの、なんか機械からバチバチ火花まで飛んでるんだけど、大丈夫なのよね?もしもし、早苗さーん?

 

「ふッ―――はぁッ―――これで、何とか・・・」

 

 息を荒くした早苗が、漸く機械から触手を離す。

 なんか心配なんだけど、ちゃんと情報は手に入れてるのよね?

 

「はい、霊夢さん・・・目的の情報は手に入れました。どうやら、一人は西棟、もう一人は地下に閉じ込められているようです・・・スカーレット社のご令嬢は、地下牢にいるみたいですよ」

 

「上出来ね。地下牢だったら・・・ここが一番近いわね。早苗、メイリンさん達はどう?」

 

「メイリンさん達ですか・・・ああ、ユーリ君は西棟の方に向かっているみたいですね。メイリンさんはこの近くにいるみたいです」

 

「了解、じゃあ、先ずはメイリンさんと合流するわよ」

 

「畏まりましたっ」

 

 管制棟で目当ての情報を手に入れた私達は、一度部屋を出てメイリンさん達との合流を目指した。

 早苗が入手した監視センサーの情報を元に探していると、すぐに彼女達と合流することができた。

 ここまでかなり焦ってきたのか、メイリンさんの息は荒い。

 

「あ、霊夢さん―――お嬢様は!?」

 

「メイリンさん・・・いや、まだ見つけてはいないけど、おおよその目星はつけたわ。管制棟の情報を漁ってきたけど、どうも地下牢に閉じ込められてるみたい」

 

「地下牢か・・・情報提供感謝します。メイリン、急ぎましょう」

 

「はい。ところでサクヤ、施設の構造とか、大丈夫なんですから?」

 

「それはハッキングで手に入れたから大丈夫よ。地下牢は・・・こっちね」

 

 施設の見取り図を手に入れたらしいサクヤさんが先導して、私達四人は地下牢を目指す。

 

 途中で看守らしき人達が何度か襲ってきたけど、早苗とサクヤさんが手早く制圧したので地下牢までは問題なく進むことができた。

 

「ここが地下牢・・・ちょっと不気味ね」

 

「牢も殆ど空みたいだし・・・ねぇ、本当にここで合ってるの?」

 

「はい、手に入れた情報では、確かにここに収監されているとありましたが・・・」

 

 だが地下牢に着いてみると、そこには殆ど人の気配が感じられない。牢も殆ど空の状態だ。

 

 ―――の声・・・クヤ・・・?

 

 そこに、微かに声が響く。

 

「この声は・・・お嬢様!?」

 

「お嬢様ッ、今向かいますッ!」

 

 ―――っぱり、・・・イリンに・・・クヤなのね!

 

 声がした方向に向かって、メイリンさんとサクヤさんが走り出す。私達もそれに続いて声がする方角に向かったが、一瞬、私の勘が今すぐ止まれと告げる

 

「ッ、二人とも、避けなさい!」

 

「えっ・・・」

 

「メイリンっ、捕まって―――!」

 

「ちょ、サクヤっ・・・きゃあッ!」

 

 メイリンさんは私の声に反応しきれなかったのか、その場に立ち止まる。だけどサクヤさんがメイリンさんを抱き寄せて、即座に後方へと跳んだ。

 

 その直後、二人がいた場所に向かって天井が落下し、盛大に土煙を巻き上げた。

 

「ケホッ、ケホッ―――霊夢さん、これは・・・」

 

「―――古典的な罠ね。天井を落として下にいる奴を潰すってやつ。まさかこんなものまであるなんて、ちょっと予想外だわ」

 

「・・・やっぱり凄いですね、霊夢さん。あのタイミングで罠に気づけるなんて」

 

「・・・別に、大したことじゃないわ。それより―――」

 

 私は視線を早苗から移して、罠を避けたメイリンさんとサクヤさんに向ける。見たところ、怪我はなさそうだ。

 

「霊夢さん・・・有難うございます。貴女の警告がなかったら、今頃私達は―――」

 

「礼はいいわ。それよりも、早く立ったら?さっきからお嬢様が呼んでるわよ」

 

 私はそう言って、二人に立つように促した。通路の向こうからは、必死に二人の名前を呼ぶ幼い声が響いている。

 

「そうだ、お嬢様―――!」

 

「お嬢様、直ぐに向かいます!」

 

「っ、ああもう、少しは学習しなさいよ・・・」

 

 立ち上がった二人は、さっきと同じように駆け出してしまう。あんな罠があったんだから少しは慎重になって欲しいものだけど、それだけお嬢様が心配なんでしょう。幸いもう罠は見当たらないし、大丈夫でしょう。

 

 私と早苗は、歩いて声が響く方角に向かった。

 

 

 声の主は既に二人が牢から救出していたようで、メイリンさんとサクヤさんに抱きついている。よく見ると、抱きついている頭は二つ見えた。

 

「ああ、よくぞご無事でした。このサクヤ、感慨の極みです―――」

 

「ううっ、さくやぁ・・・怖かったよぅ・・・」

 

「ひっく・・・メイリン―――助けに来てくれたのね―――」

 

「はい。もう大丈夫ですよ、妹様。お嬢様も、無事で何よりです」

 

「ううっ・・・うわーん!メイリンっ―――」

 

 水色の髪の子と金髪の子が、サクヤさんとメイリンさんに抱きついていた。抱きつかれている二人の方も、お嬢様達が無事なことがよほど嬉しいのだろう、涙を流して抱き返している。

 

 前からもしやとは思っていたけど、お嬢様達ってこの二人だったのね。だとしたら、名前もあの二人と一緒かな。

 

「あの、霊夢さん―――あの二人って・・・」

 

「例の奪還対象でしょ。邪魔するのも野暮だし、暫く放っておきましょう」

 

 ここは暫く、あの4人の時間にするべきだ。感動の再会なんだから、好きにさせてあげましょう。

 

「ひっく・・・ふぅ・・・さ、サクヤ?あっちの人達は誰?」

 

「あちらの方々ですか?ええ、彼女達はお嬢様の救出に力を貸して下さった人達です」

 

「私達の・・・?なら、お礼を言わないといけないわね。フラン、こっち」

 

「ふぇ、お姉様―――?」

 

 抱きついていた二人が泣き止むと、彼女達はサクヤさんとメイリンさんから離れて私の方へと向かってくる。

 

「・・・サクヤから話は聞いたわ。私達の救出に力を貸してくれたって。貴女達、名前は?」

 

「―――博麗霊夢。しがない艦長よ」

 

「東風谷早苗、霊夢さんの右腕です!」

 

「えっと、赤いのがレイムで、緑のがサナエね。私はレミリア、レミリア・スカーレットだ。礼を言うぞ。ほらフラン、お前もだ」

 

「えっと、た、助けてくれてありがとう!私はフランドール・スカーレット。レミリアお姉様の妹よ」

 

 二人―――レミリアとフランドールは、私の前まで来るとぺこりとお辞儀をして礼を述べる。姉の態度こそ少し生意気な気がしなくはないが、あの吸血鬼に比べれば可愛いものだ。

 

「レミリアに、そっちがフランドールね。まぁ、二人とも無事で良かったわ。これで漸く、依頼からも解放されそうね。メイリンさん、報酬期待してるわよ」

 

「あ、あはは・・・出来るだけ良い報酬になるように、社長には掛け合っておきますね・・・」

 

 ・・・ともあれ、これで一応は解決だ。あとは気に食わないバハシュールの野郎を吹っ飛ばすだけなんだけど―――

 

《―――霊夢さん、聞こえるか?》

 

「バリオさん?どうかしたの?」

 

 端末の着信音が響いたので応えてみると、バリオさんから通信が入っていた。一体何の用事かしら

 

《キャロ・ランバース嬢は此方で確保した。これから俺はネージリンスにキャロ嬢を届けに行く。ってことで、お先に失礼させて貰うぜ。バハシュールのヤロウを吹っ飛ばしたいのは山々なんだが、こればかりは遅らせる訳にはいかないんでね》

 

「了解したわ。お疲れ様。ついでに言うと、こっちもスカーレット社のご令嬢は確保したわ。そういう訳だから、こっちは任せてもらっても大丈夫よ」

 

《そうか、スカーレット社の令嬢も見付かったか・・・それなら安心だな。じゃあ、俺はそろそろ行くんで》

 

「ええ。気を付けて」

 

 通信は、そこで終了した。

 そういえば拐われていたのはスカーレット社の二人だけじゃなくて、確かネージリンスの会社の令嬢も一緒だったのよね・・・そっちの件も解決したみたいだし、これで心置きなくバハシュールを吹っ飛ばしに行けるわ。

 

「さてと・・・後はバハシュールね。早苗、海兵隊の皆を集めて頂戴。バハシュール城とやらに向かうわよ」

 

「了解です」

 

 その前に、施設内に散らばっている海兵隊員達を召集しないとね。集合場所は・・・施設に入った場所でいいでしょう。

 

「では霊夢さん、我々はそろそろ・・・」

 

「あら、もういくの?」

 

「はい。お嬢様達の身の安全もありますし、一度私の乗艦に戻ろうかと思います。報酬の件は、私の方から話しておきますね」

 

「そう・・・まぁ仕方ないわよね。こんな不衛生な場所に閉じ込められてた訳だし」

 

「ご理解いただけたようで何よりです。それでは、一度私達は失礼させていただきます」

 

「霊夢と言ったな、縁があればまた会おう!このレミリアを助け出したその報酬、お父様にきっちり保証させておこう!」

 

「えっと・・・ありがとう、お姉さん達!この恩は忘れないわ!」

 

 レミリアとフランは、サクヤさんにメイリンさんと一緒に、一足先に収容施設を後にした。

 こっちのあの姉妹は普通の人間みたいだし、歳も見た目相応なのか、幻想郷のあの姉妹よりは幼く感じられた。というか、普通にこっちの方が素直で可愛いんじゃないかしら。

 

「・・・では霊夢さん、私達はバハシュール城に向かいましょう」

 

「ええ。こんだけ手こずらせてくれたんだから、しっかり補償して貰わないとね・・・」

 

 囚われのご令嬢も救出したし、残すは悪党のボスだけだ。

 

 私達が施設に侵入した裏口にもう一度海兵隊員の皆を集めると、一直線にバハシュール城目指して進撃する。

 

 覚悟してなさい、バハシュール!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~首都惑星ゼーペンスト・軌道エレベーター基部~

 

 

 ゼーペンスト宇宙港に繋がるこの軌道エレベーター基部は、メイリンが引き連れてきたスカーレット社の武装隊員によって占拠、警備されていた。

 そこに、つい先程社長令嬢のレミリアとフランドールの救出に成功したメイリン達が到着する。

 

「艦長!お嬢様方は・・・」

 

「見ての通り、取り戻したわ」

 

「おお、よくぞご無事に・・・では、早速ですが、艦内の医療班に診察の準備をさせておきます」

 

 メイリンのいるレミリアとフランドールの姿を確認した隊員達は、即座にである母艦〈レーヴァテイン〉に通信で報告し、医療班の受け入れ体制を整えさせた。

 

「むぅ・・・私は大丈夫だぞ、メイリン」

 

「いえ、ですがお嬢様、万が一ということもあります。あの悪徳領主に何もされていないのは喜ばしいことですが、あんな不衛生な環境下で軟禁されていたのです、簡単な健康診断程度は受けて頂かなければ困ります」

 

「サクヤも堅い奴だな・・・そこまで言うなら仕方ないか」

 

「ご理解いただけたようで何よりです」

 

 レミリアはこれから待っている健康診断に愚痴を溢すが、サクヤの説明で渋々それを納得する。

 

(しかし、あの霊夢という奴・・・こう、なんだ?運命めいたものを感じるな・・・)

 

 その一方で、レミリアは内心で、自分を助けたという霊夢のことが気になっていた。

 見た目こそは華やかな少女の姿だが、年季を感じるその立ち振舞い、ぶっきらぼうで面倒臭そうな物言いに対して、どこか触れられない所にありそうなその雰囲気に、レミリアは自然と惹かれていた。一言で言うのなら、霊夢は"浮いている"のだ。幼い彼女にはそれが何なのか分からないのだが、霊夢の持つその空気が、彼女には特別なものに感じられた。

 

「―――はい、了解です。艦長、間もなく軌道エレベーターの列車が到着します。ご乗車の用意を」

 

「分かりました。ではお嬢様、妹様、私の艦にご案内しますので・・・ってあれ、お嬢様は?」

 

「お嬢様?確かここにいらっしゃった筈ですが・・・いない・・・!?」

 

 軌道エレベーターを往復する列車の到着時刻が近づいてきたので、レミリアとフランドールを案内しようとしたメイリンだが、そこでレミリアの姿がないことに気づく。

 

「あ、本当だ。お姉様が居ない・・・」

 

「これは困りましたね・・・総員、一度レミリアお姉様を捜索しなさい!」

 

 レミリアが居ないことに気づいたメイリンは、部下達に彼女を探させようと号令を下す。

 

「了か・・・グワーッ!」

 

 しかし、そこで部下の一人から、何かに撃たれたような叫び声が上がった。

 

「な、何事ッ!」

 

「クソッ、誰だ―――ッ」

 

 その直後、再び武装隊員の一人が倒れ伏す。

 

「チッ、総員戦闘態勢だ!サクヤ、妹様を頼みます!」

 

 メイリンは瞬時にこれが敵襲であると看破し、部下達に戦闘態勢を命じて自らも拳銃を手に取る。

 

「分かったわ。妹様、こちらに―――」

 

「さ、サクヤ・・・?お姉様は?何が起こっているの?」

 

「―――ご安心下さい、すぐに終わります!」

 

 フランドールを任されたサクヤは彼女を抱き抱え、その場からの脱出を図る。

 姿を表した襲撃者―――黒ずくめのジャンパーとヘルメットを着用した襲撃者達は、サクヤとフランドールが居る場所に狙いを定めた。

 だがその一瞬前にサクヤは地面を蹴り、辛くもブラスターの銃撃を躱して駆け出した。

 

 姿を表した襲撃者に向かって、メイリンが拳銃の引き金を引く。一人は仕留めたのか無言で後ろに倒れたが、他の襲撃者から絶え間ない射撃の返礼を浴びせられた。

 それをメイリンは何とか躱しつつも、部下の統制を図らんと命令を出しながら応戦する。

 

「畜生、一体何なんだこいつら―――グワッ」

 

「ヨーゼフ!ってめぇ、やりあがったな!」

 

「ッ、態勢を崩すな!集団で敵に当たれ!」

 

「りょ、了解!」

 

 

 

 ―――ッ、この襲撃者、一体何処の回し者だ・・・お嬢様、せめてご無事で・・・

 

「サクヤ・・・怖いよ・・・」

 

「妹様―――大丈夫です。私が安全な所までお届けします。もう暫く辛抱下さい」

 

 後ろからメイリン達と謎の襲撃者が奏でるブラスターの銃声が聞こえる中、姿を消したレミリアの無事を祈りつつも、ただ彼女は腕にあるフランドールをせめて安全な所までと、振り返らずに駆け続けた。

 

 




ゼーペンスト編も完結が見えてきました。多分次回で完結です。次の第六章は久々のオリジナルストーリーで原作ルートから少し離れます。

今回から保安隊が海兵隊に名前変わりましたが、ぶっちゃけHALOの影響ですw エコーとファイブスその他一般保安隊員のイメージがスパルタンですし、任務も艦内の巡回のみならず惑星への強襲上陸とかも含まれるので、規模拡大のついでに部署も改名したという設定です。早苗さんのさでずむは変わりませんw

最後にメイリンさん達が襲われていますが、襲撃者のビジュアルはFGOの雀蜂です。

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