夢幻航路   作:旭日提督

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第五二話 Operation・Stardust (後)

 ~ゼーペンスト親衛隊旗艦〈アルマドリエルⅡ〉艦橋~

 

 

「・・・将軍、攻撃隊が帰還しました」

 

「うむ、ご苦労だった。して、戦果の程は?」

 

 ゼーペンスト軍親衛隊旗艦〈アルマドリエルⅡ〉の艦橋にて指揮を執るヴルゴの元に、部下が報告のため駆け寄る。

 親衛艦隊には先程、攻撃に出していた航空機部隊が帰還したところで、各空母はその収容作業を急いでいるところだ。その間に攻撃隊の戦果分析を終えた部下は、予想よりも少ない戦果と損害に落胆したが、ヴルゴの前では平静な態度を努めていた。

 

「はっ、我が攻撃隊の戦果は巡洋艦1、駆逐艦2隻撃沈、巡洋艦1隻撃沈確実、事前に展開させていたステルス機部隊の奇襲攻撃により空母1隻と巡洋艦1隻を撃沈したとのことです」

 

 ヴルゴの部下は淡々と戦果の分析結果を伝える。撃沈数には幾らか誤りがあるが、宇宙空間では一見すると撃沈されてデブリと化したのか大破したがまだ戦闘力を残しているのかは判断しにくい面もあるので、そこは仕方がないのだろう。また敵艦の撃沈判断には轟沈時に放出されるインフラトン反応の拡散も一つの指標として用いられているが、『紅き鋼鉄』の空母〈ラングレー〉は大破炎上したことで右舷側機関室が破壊されて周囲の空間にインフラトン反応が拡散している状況のため、ゼーペンスト側はこれを撃沈と誤認してしまっていた。

 

「ふむ、やはりそう上手くはいかんか。少なくとも敵前衛艦隊の3分の一は撃破しておきたいところだったが・・・だが、空母を落とせたのはせめての救いだな」

 

「はい。ですが敵の直掩機は巡洋艦と駆逐艦に着艦しているようです。まだまだ敵の航空戦力壊滅には至っていないでしょう」

 

「そこは貴官の言うとおりだな。攻撃隊の未帰還機の数も無視し得るものではない。次はかなり厳しいぞ」

 

 ヴルゴは部下の報告と自軍の損害を鑑みて、戦況を分析する。

 現状では霊夢艦隊にそれなりの損害を与えたゼーペンスト側が勝っているようにも見えるが、その実態はかなり厳しいものだ。

 まずヴルゴは『紅き鋼鉄』の巡洋艦を中心とする前衛艦隊(第二巡航艦隊、第三打撃艦隊)に凡そ380機の攻撃隊を差し向けたのだが、直掩機約200機の妨害を受けてかなりの損害を出していた。直掩機を押し止めた戦闘機180機のうち70機ほどが撃墜され、攻撃隊も敵直掩機や対空砲火により50近くが撃墜されていた。敵戦闘機の数も40機ほど墜とせたとはいえ、この一戦で戦闘機の性能差を思い知らされた以上、数が70機も減った次ではより大きな損害が出てしまうのは明らかだ。

 それに加えて敵艦の防御力も予想以上に高く、対空砲火は尚のこと艦船のシールドやデフレクター等の直接防御もヴルゴの予想を大きく上回っていた。

 事前に捉えた光学観測データの分析によれば、『紅き鋼鉄』が主力とする駆逐艦はスカーバレル海賊団が使用するガラーナ級、ゼラーナ級の改造艦であることが判明しており、ゼーペンスト親衛隊からすればこれらの艦船は自分達のそれより劣ったものであったため、性能もそれほど高くはないと思われていた。だが実際に交戦してみれば、敵の駆逐艦はスカーバレルのそれとは次元の違う強さを見せつけた。元の艦にはなかった対空火器が大幅に追加されているばかりか、艦そのものの生存性も段違いだった。駆逐艦でさえそれなのだから、巡洋艦や戦艦の戦力もまた、ヴルゴ達の予想を越えたものであることは容易に想像できた。

 そのような相手に第二次攻撃隊を送り出したところで、次は戦果よりも損害が大きくなるのは目に見えていた。

 

 そして敵艦隊は会戦が始まって以来ゼーペンスト艦隊に向かって全力での突撃を続けており、ヴルゴは距離を取ろうと自らの艦隊を後退させ続けているのだが、徐々に両者の距離は縮まりつつある。それだけの速度の差が両者の間にはあった。ゼーペンスト艦隊は空母とその護衛に特化した巡洋艦と駆逐艦が主戦力であるので、もし敵艦隊に捕捉されてしまった場合は戦艦複数を擁する敵艦隊が有利なのは言うまでもない。

 

 さらに、ヴルゴが予めこの宙域に待機させていたステルス機による奇襲部隊の戦果も不十分なものだった。敵の艦載機発進の隙を突いて空母を撃破したのは良いものの、『紅き鋼鉄』の旗艦と思われる巨大戦艦(開陽)には殆ど損傷を与えることができず、これも未だに健在だった。ここで旗艦に重大な損傷を負わせることができれば敵の指揮系統を混乱させることができるのではと考えていたヴルゴであったが、その試みは失敗に終わってしまった。

 

「・・・だが、諦める訳にはいかんな。艦隊は後退しつつ、対艦戦闘の準備を整えろ」

 

「はっ、了解です!」

 

 しかし、ヴルゴは一国の防衛を任された軍の長である。この自治領を築いた先代当主の代から仕え続けてきたヴルゴには、敵にここをみすみす通してやる真似など言語道断、最後までその務めを果たす所存だった。

 

 ヴルゴは敵艦隊の接近に備えて隷下の艦隊の戦闘準備を整えさせ、『紅き鋼鉄』本隊の迎撃準備を進めた――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~『紅き鋼鉄』第三打撃艦隊旗艦〈ブクレシュティ〉艦橋~

 

 

【イメージBGM:東方妖々夢より「ブクレシュティの人形師」】

 

 

 〈ブクレシュティ〉を旗艦とする第二巡航艦隊、第三打撃艦隊はゼーペンスト攻撃隊により多少の損害こそ出したものの、まだ充分に許容範囲である。なので艦長席の独立戦術指揮ユニット―――アリスは、既定の作戦に従って艦隊を突撃させる。既に直掩機の再展開も完了しつつあり、また敵攻撃隊が襲来したとしても、直掩機部隊にはこれを撃退できるだけの余力は充分にあると彼女は計算していた。

 

《敵艦隊、間モナク当方ノ最大射程二入リマス》

 

「・・・そろそろね。先ずは長距離対艦ミサイルで仕掛けましょう。邪魔な取り巻きを蹴散らしなさい」

 

《了解。SSM-716〈ヘルダート〉大型対艦ミサイルVLS、発射準備。目標、敵護衛艦》

 

 静まり返った無人の艦橋に、システムボイスの報告音声が響く。

 アリスはその報告を受け取り、現在の戦況を分析した。

 敵艦隊は開戦以来後退を続けているが、機関の性能差から第二、第三艦隊はこれに追い付きつつある。そしてつい先程、この艦隊が装備するなかで最大の射程を持つミサイルの射程圏内に捉えた。彼女は即座にこれで敵艦隊を攻撃するように指示したが、狙う対象は主力の空母ではなく護衛艦だ。その理由だが、後衛に位置する敵空母を狙うには前衛の護衛艦が障害となり、ミサイルの誘導性能ががこれらの護衛艦が発する熱反応や妨害措置により低下してしまうためだ。

 

《SSM-716〈ヘルダート〉ミサイルVLS、1番カラ14番マデ発射準備完了》

 

「1番から8番まで順次撃ちなさい。9番から14番は待機よ」

 

「了解、1番カラ8番マデ順次発射。目標、敵前衛ノ駆逐艦ニ固定」

 

 後退を続ける敵艦隊に打撃を与えるべく、アリスはミサイルの発射を指示する。

 〈ブクレシュティ〉の艦尾にあるVLSが解放され、そこから8発の大型対艦ミサイルが発射された。

 

「艦隊陣形を輪形陣から立体縦陣に移行。砲雷撃戦用意よ」

 

 続いてアリスは、敵艦隊との本格的な交戦に備えて艦隊の陣形を変更する。

 それまでは敵艦載機隊を警戒して輪形陣で進んできたものを、砲撃戦を考慮した複数の縦陣に変更し、それを立体的に配置して、艦隊全体で直方体のような陣形を構成した。

 

 ―――拡張艦隊戦闘指揮システム、起動―――

 

 アリスの周囲に、データが羅列された蒼いホログラムのリングが展開する。

 ミサイルやレーザーの装填状況や各部の損害情報、僚艦の機関状態や損傷状況などのデータが〈ブクレシュティ〉のコントロールユニットに一度に流れ込むが、アリスはそれを分割思考で瞬時に処理し、艦隊のデータリンクを通して即座に司令を発信する。

 アリスがシステムを本格的に起動してから、艦隊の動きは水を得た魚のように活発なものとなり、今までのような敵の攻撃からの防御を前提とした艦隊ではなく、敵艦隊を切り裂く"刃"としての艦隊に変貌する。

 

「さぁて、"狩り"を始めましょう―――」

 

 誰もいない艦橋の中で、アリスは一人呟く。

 

 その瞳は、獲物を前にした猛獣のようだった―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~『紅き鋼鉄』旗艦〈開陽〉艦橋~

 

 

「第二・第三艦隊、敵艦隊を最大射程に捉えました。現在長距離対艦ミサイルによる遠距離戦闘を敢行していますが、突撃速度を緩める気配はありません」

 

「あいつ、そのまま近距離での砲雷撃戦に持ち込むつもりね。勇ましいこと」

 

 メインパネルに表示される戦術データマップ上には、アリスが率いる前衛艦隊が敵の機動部隊と交戦したことが表示された。今までは敵の攻撃隊に好き勝手されてきた私達だけど、ここからが反撃のターンだ。

 

「此方も最大射程に敵を捉え次第、主砲で援護射撃をやるわよ。フォックス、準備は出来てる?」

 

「ああ、射撃諸元のデータ入力なら万全だ。何せあっちのお嬢さんが正確なデータを送ってくれるからな。あとは射程に入り次第ブッ放すだけだぜ」

 

「・・・敵艦隊との距離、あと27000です。主砲の最大射程まであと9000」

 

 ご丁寧なことに、アリスの奴は自分が交戦している片手間に射撃データまで送ってくれた。しかも補正値付きで。ようはさっさとぶっ放してくれって合図なのかしら。元々射程に入り次第そうするつもりなんだけど。

 

「霊夢さん、〈ラングレー〉を後退させておきました。護衛には駆逐艦〈タシュケント〉と〈ズールー〉を付けてあります」

 

「ご苦労。それで損傷具合の方はどう?」

 

「ああ、それがですね・・・右舷側のエンジンが完全にイッちゃったみたいで・・・艦速の大幅な低下は避けられないですね。一応消火活動は完了したみたいなので、下層の飛行甲板なら使用できると思いますけど」

 

 早苗からは敵の奇襲攻撃で大破した空母〈ラングレー〉の状態が伝えられる。撃沈という最悪の事態は免れたんだけど、大破したようじゃ戦力としては使い物にならないし、今は艦隊の後方に後退させて工作艦部隊に合流させる予定だ。

 

「う~ん、それじゃあユーリ君の援護は厳しそうね・・・彼には頑張って貰うしかないかぁ―――」

 

「そうですねぇ・・・ってあれ?こんな場所に不明なバゥズ級重巡がいますね・・・何でしょうか?」

 

「バゥズ級?どれ、ちょっと見せてみなさい」

 

 早苗が言うとおり、宙域図に目を通してみると確かにバゥズ級重巡洋艦が単艦で動いている。ユーリ君の艦隊の方に向かってるみたいだけど、一体何なのかしら、こいつ。

 

「あ・・・バゥズ級がユーリ君と交戦中のゼーペンスト艦隊に向けて砲撃し始めたみたいですね」

 

「ゼーペンストに砲撃・・・ってことは、一応助太刀って解釈していいのかしら。まぁこっちに害はないみたいだし、ユーリ君の援護はそいつに任せておきましょう」

 

 どうもそのバゥズ級は此方を援護するつもりらしく、ユーリ君と戦ってるゼーペンスト艦隊に向けて砲撃を始めたようだ。どこの誰かは知らないけど、勝手に助太刀してくれるというのなら敵ではないでしょう。今はこいつのことは放っておいて、自分の艦隊の戦況を把握しなくては。

 

「ミユさん、前衛艦隊の戦況は?」

 

「はい、〈ブクレシュティ〉の対艦ミサイルは敵艦隊前衛に着弾したようです。最低でもリーリス級駆逐艦2隻の撃沈を確認しました。現在、駆逐艦〈有明〉〈夕暮〉を加えた3隻で第二射を敢行、間もなく戦果報告が入ります」

 

「どうやら順調みたいね。こころ、レーダーに不審な反応とかは無い?」

 

「・・・はい、観測機器に異常なしです。敵艦隊がまた艦載機を展開していますが、艦隊上空に留まっているので直掩機かと思われます」

 

「了解。さっきみたいなステルス機の奇襲がないとは限らないし、少しでも異常があったらすぐに報告して」

 

「分かりました。警戒を続けます」

 

 さて、戦況の方だけど、此方の前衛艦隊が敵に追い付きつつあることで次第に私達が有利になりつつある。艦載機の数では負けても艦船の数と性能差なら私達の方が上だ。できればこのまま畳み掛けたいところだけど・・・

 

「敵の護衛駆逐艦、わが前衛艦隊に対しミサイル攻撃を敢行した模様です。数192。前衛艦隊は迎撃に移ります」

 

 敵さんも、そう簡単にはやられてくれないらしい。

 敵艦隊はお礼とばかりにミサイルの雨を〈ブクレシュティ〉率いる前衛艦隊にお見舞いしてくれる。敵駆逐艦が放ったミサイルは小マゼラン製だし、単体ではそれほど脅威にはならない。だけど数があれば話は別だ。

 敵艦隊が使うリーリス級駆逐艦は箱形の艦体構造をした比較的簡単な造りの駆逐艦なのだが、こいつは艦の前半分がミサイルVLSで占められたミサイル駆逐艦だ。VLSには通常対空ミサイルが納められているらしいのだが、ゼーペンスト軍の中にはこれを標準的な対艦ミサイルを発射できるように改造したやつがいたらしい。そいつらが一斉に対艦ミサイルを発射したため、前衛艦隊は192発という膨大な数のミサイルに対処せざるを得なくなってしまった。通常の艦船なら迎撃能力を軽く上回るだけの数だ。普通なら、これだけのミサイルを撃たれてしまえばそれなりの被害は覚悟しなければならないだろう。

 

 だけど、ゼーペンストには分が悪いことに、〈ブクレシュティ〉に搭載されているシステムはそこらの雑魚とは段違いの性能だ。その程度の数なら、何とか迎撃しきれないことはない。

 まずは電子妨害やデコイによる誘導妨害が始まり、それを潜り抜けたミサイル群に対しては〈ブクレシュティ〉が瞬時に迎撃担当艦を割り当てて、艦隊各艦はそれに従ってミサイルのハードキルを試みる。敵攻撃隊に対して相当の出血を強いた防空システムが、今度は敵ミサイルに対して牙を剥いた。

 航宙機とは違って真っ直ぐにしか飛ばないミサイルは、正確に照準された対空火器からすれば格好の的だ。飛行機とは違って面白いようにバタバタと墜とされていく。艦隊上空で直掩についていた艦載機隊も、腕に覚えのある猛者共は直接レーザーでミサイルを撃墜するという芸当を披露して、迎撃に貢献した。

 

 だけど、やはりというべきか少量のミサイルは迎撃しきれずに通してしまったらしい。その数、凡そ20発。

 だが所詮は小マゼラン製のミサイルだったらしく、分散して着弾したために艦隊の被害は少ないものに留まった。

 

「敵ミサイルの一部が前衛艦隊に到達。巡洋艦〈ボスニア〉、〈ナッシュビル〉に着弾しましたが戦闘続行に支障ありません。巡洋戦艦〈レナウン〉はデフレクターによる防御に成功。駆逐艦〈ヘイロー〉〈春風〉〈ソヴレメンヌイ〉〈コーバック〉に各1~2発が被弾しましたが何れも小破以下です」

 

 〈ブクレシュティ〉から届けられた被害報告をミユさんが読み上げたけど、見る限りでは損害は少ない。これなら充分に許容範囲だ。

 そして先程の攻撃を受けたことで〈ブクレシュティ〉は脅威判定を変更したようだ。対艦ミサイルを撃ってきた駆逐艦を特定すると、それ以外の残弾を有する可能性がある駆逐艦に向けて大型対艦ミサイルの洗礼を浴びせた。

 それを見たときは、最初こそ何故撃ってきた艦を狙わなかったのか疑問に思ったけど、VLSは一度撃ち尽くすと再装填にはそれなりに時間がかかる。だからさっき撃たなかった奴の方が脅威度という面では高いとアリスは判断したらしい。そう考えると、成程合理的な判断だと感心する。

 

 アリアストア改級ミサイル駆逐艦の〈有明〉〈夕暮〉から放たれた大型対艦ミサイルは、先程の攻撃に参加しなかった4隻のリーリス級駆逐艦に寸分の違いなく着弾し、弾薬庫誘爆を引き起こして轟沈させる。敵のミサイル攻撃を受けてから即座に反撃に転じたそのスピードには、目を見張るものがある。アリスはサナダさん謹製の高性能AIなんだし、人間に比べると思考と反射の速度が段違いだ。

 

「敵駆逐艦4隻のインフラトン反応拡散中。撃沈した模様です」

 

「敵艦隊前方に小型のエネルギー反応が多数展開しています。恐らく、敵艦載機隊がわが前衛艦隊の攻撃を妨害するものと思われますが」

 

「そっちは直掩隊に任せておきなさい。それより、敵との距離はどうなったの?」

 

「はい、現在敵艦隊との距離、18200です。間もなく主砲の最大射程に到達します」

 

「了解。フォックス、出番よ」

 

「イエッサー。主砲、1番から3番まで発射準備だ」

 

 さて、敵艦隊がアリスの前衛艦隊と遊んでいるうちに、私達の本隊も敵を主砲の最大射程に捉えた。〈開陽〉の160cm砲とクレイモア級重巡が装備する80cm砲レーザーの最大射程は共に距離18000で、これは一般に販売されているLサイズのレーザー砲に比べるとやや短めの距離だ(ざっと調べた限りでは、Lサイズのレーザー砲の射程は18000から21000が相場らしい)。だけど此方の近距離用メインレーダーの探知圏内に余裕で入る距離だし、最大射程といっても命中率はそこそこ期待できる。さらに今回は〈ブクレシュティ〉の観測データもあるし、より正確な射撃ができるだろう。

 

「主砲、敵艦隊中央の空母群に照準しなさい。アリスが盛大に前衛を吹き飛ばしてくれたんだから、少しは楽になってるでしょ」

 

「了解、目標敵空母。まずは右側の奴を狙うぞ。主砲、弾種レーザーでスタンバイ・・・発射!」

 

 敵を射程に捉えると、〈開陽〉の前甲板にある3基の3連装砲塔が稼働して敵空母を指向する。そこから1門ずつ、計3門の主砲から蒼いレーザー光が放たれて、敵のペテルシアン級空母に向かって飛翔する。

 

「第一射、一発の着弾を確認!」

 

「その調子ね。次は重巡も加えて撃ちなさい」

 

 いくら最大射程とはいえ、あれだけのバックアップがあるんだし、初弾命中ぐらいはやってくれないと困る。弾が当たってるなら此方の照準は正確なんだし、後は発射速度に任せて敵を圧倒するだけだ。

 

「主砲、第二射発射!」

 

 今度は重巡〈ケーニヒスベルク〉〈ピッツバーグ〉も加えた3隻で、敵空母のうち一隻に集中砲火をお見舞いしてやる。こっちが主砲の照準をしている間に前衛艦隊の攻撃で敵のフリエラ級巡洋艦2隻が爆散したので、さっきより照準はやり易くなってるだろう。

 その予測通り、敵空母に向かって放たれた9発のレーザービームのうち7発が着弾し、敵空母を判定小破に追い込んだ。

 だけど小破かぁ・・・空母だったら、もう少し損傷すると思ったんだけど、案外硬いのね。

 

「チッ、流石は大マゼラン製の空母だ。APFSの出力もそこらの雑魚とは段違いだぜ」

 

 ああ成程、シールド出力の差か。そういえばペテルシアン級空母は大マゼラン製なんだし、当然シールドの出力もそこらの海賊船やゼーペンスト護衛艦とは桁違いのようね。

 

「主砲は当たってるんでしょ?ならそのまま撃ち続けなさい。幾らシールドが硬くともエネルギーは無限ではない筈よ!」

 

「アイアイサー。このまま敵空母を攻撃するぜ」

 

 だからといって、敵空母の防御が抜けない訳ではない。幾らシールドが強固でも損害は受けてるんだし、このまま撃ち続ければシールドを破ることもできる筈だ。

 

「前衛艦隊、敵護衛艦をさらに撃沈した模様。敵本隊の戦力、残り空母3、巡洋艦3、駆逐艦4です」

 

 〈開陽〉が敵空母に遠距離砲戦を挑んでいる間にも、敵前でアリスの前衛艦隊が暴れているお陰でこっちは悠々と腰を据えて射撃することができる。中~近距離戦では火力不足のネージリンス艦主体のゼーペンスト艦隊より此方の第二、第三艦隊の優位は明白だ。特に駆逐艦は対艦攻撃に長けたスカーバレルとエルメッツァの改造艦が多いし、巡洋艦も400m級としては高火力のルヴェンゾリ級が主力だ。多少の損害は出しても撃ち負けることはないでしょう。

 

「〈ブクレシュティ〉〈ブレイジングスター〉が敵旗艦への攻撃を開始した模様です。敵旗艦に中破の損害判定」

 

 敵の護衛艦を蹴散らしたアリスは、さらに大将首を狙うつもりらしい。通信量から旗艦と推察されていた空母に向けて、雨霰のようにプラズマ砲とレーザーをお見舞いしている。

 

「こっちも負けてられないわね。フォックス、あの空母をさっさと片付けてしまいなさい!」

 

「イエッサー!主砲、この際だ、全砲斉射でいくぜ」

 

 あいつが前線で暴れるなら、此方も負けてはいられない。

 今度は主砲全門での射撃で、次こそはあの空母を仕留める。

 

「主砲、全門斉射!」

 

 〈開陽〉〈ケーニヒスベルク〉〈ピッツバーグ〉の3隻から、合計27門のレーザービームが放たれる。その火線はほぼ正確に敵空母を射抜き、既に2回の斉射でシールドが磨耗していた敵空母はそのエネルギーを抑えきることができずにレーザーに焼かれた。

 

「敵空母、インフラトン反応拡散を確認しました。撃沈です!」

 

「よし、次は左舷側の敵空母ね」

 

「あ・・・艦長、敵旗艦より通信です!」

 

 敵空母のうち一隻を撃沈し、次の目標に移ろうとしたそのときに、敵の旗艦から通信が入った。

 ははぁ、さては命乞いかしら?

 

「こんなときに通信ですか・・・一体何の用でしょうか?」

 

「さぁ?もしかしたら我が身が可愛くなったのかもね。とりあえず繋いでみなさい」

 

「了解です」

 

 私は通信担当のリアさんに頼んで、敵旗艦からの通信に応えることにした。暫くすると、天井のメインパネルに敵の指揮官らしき屈強な男の姿が映し出される。その男は攻撃で負傷しているのか、所々服が傷ついていたり、額からは血が流れていたりした。

 

 さて、敵の指揮官とのご対面なんだし、私も艦長席にどっと構えてその男を見据える。

 

「―――あんたがゼーペンスト艦隊の指揮官ね?」

 

《如何にも。私はゼーペンスト守備隊司令、ヴルゴ・ベズンだ。我々を撃ち破った貴艦隊の戦いぶりに感服し、その指揮官を一目見ようと通信を申し入れさせて頂いた》

 

 ヴルゴと名乗った敵の指揮官は、負傷しているにも関わらず一切姿勢を崩すことなく私と相対してみせた。

 そんな姿勢を見せられては、此方も相応の礼儀を示さねばなるまい。

 

「・・・『紅き鋼鉄』艦隊司令の博麗霊夢よ。こんな成りでも、一応この艦隊のトップだからね」

 

《ほぅ、まさかこのような少女が相手だったとは・・・だが、我々を破った貴官の技量は見事なものだ。我々の弱点を正確に看破し、自らの土俵に引き入れようという発想とそれを可能にする艦隊機動・・・誠に素晴らしいものであった。幾ら少女といえど、あれだけのものを見せられては認めざるを得まい》

 

「―――いや、もしあんたと同等の戦力で戦っていたなら、負けていたのはこっちの方よ。性能でゴリ押ししただけの私に感服されたところで・・・」

 

《いや、それだけの戦力を用意できたのも貴官の実力のうちだ。確実に勝てる戦力で挑むのは兵法の基本、少なくとも侵攻軍としてその姿勢は正しいものだ。防人たる我々がそれを押さえきれなかった以上、我々の負けに違いない》

 

「・・・よく言うわ。私の艦隊にあれだけの被害を出しておいて。」

 

 ヴルゴさんは私のことを誉めてくれたみたいだけど、今回もいつも通り、性能差に任せて蹂躙しようとしただけだ。敵は小マゼラン艦中心の機動部隊だったし被害なんて出すつもりも無かったんだけど、撃沈2隻に加えて空母をほとんど撃沈のような状態にまで持っていかれた私の指揮もまだまだ拙いものだ。それでいえば、ただ蹂躙して通過する予定だった私達をここまで足止めしてくれたヴルゴさんの指揮の方こそ上手ではないだろうか。

 

「・・・んで、それだけじゃないでしょ?まだ用があるんじゃない?」

 

 私はそう言って、ヴルゴさんを真っ直ぐ見据える。

 こんなタイミングでわざわざ通信を寄越してきたのだ。用事がただ"相手の顔が見たかった"だけではないでしょう。

 

《ふむ、流石に分かっておったか―――率直に申し上げる。我が艦隊は『紅き鋼鉄』に降伏する。どうか、部下達には寛大な処置を頼みたい》

 

「―――降伏?まあいいけど、なんで?」

 

《―――我々は自治領の守護を預かる防人である以上、簡単に降伏することはそう易々とは受け入れられん。だが、あの二世領主の為にむざむざ部下を無駄死にさせる真似もする訳にはいかん・・・先代への恩義に忠を誓った私といえど、最早あれの為に部下を死なせることは出来ん―――》

 

 ヴルゴさんにはそれが苦渋の決断だったのか、苦虫を噛み潰したような表情で降伏を申し入れてきた。彼の言いなりからすれば、相当思い悩んだ末での決断なのだろう。心なしか、彼がそれを後悔しているのではないかとも思えてくる。

 

「了解したわ。但し、いくらか条件を付けさせて頂戴」

 

《・・・聞こう。部下の命が救えるのなら、如何なる処分も甘んじて受ける覚悟だ》

 

 ただ降伏とはいっても、はいそうですかで見逃す訳にはいくまい。勝者は私、それは彼も認めたのだ。なら敗者は敗者らしく、勝者に従ってもらうことにしよう。

 なぁに、この博麗霊夢、そう非人道的な扱いはしないから安心なさい。別に敵は妖怪じゃないんだし、無用な殺生はしないわ。

 

「まず、あんたらの身体の安全は保証するわ。こっちにこれ以上楯突かないってなら見逃してあげるわ。そこは安心なさい。んで、その条件だけど―――」

 

 ヴルゴさんは、これから私が繰り出す条件が如何なものかと、真摯に耳を傾けているみたいだ。命は保証するとは言ったけど、まだその条件が明らかでない以上安心できないのだろう。

 

「第一に、あんたが私の旗艦に来ること。私はゼーペンスト領主の交渉能力には期待してない。だから、降伏に関する諸手続の相手としてあんたを指名するわ。それはいいわね?」

 

《・・・了解した》

 

「ああ、ちなみに私の旗艦に来て自爆とかしたら・・・分かってるわね?それじゃあ次。あんたの艦隊のうち空母2隻、巡洋艦2隻と駆逐艦4隻を引き渡すこと。そしてこれらの艦には機密書類の廃棄を除いた如何なる処置もしないこと。引き渡し場所は・・・首都星の宇宙港よ。そこで総員退艦の後に、私達への引き渡しに同意しなさい。こっちも変な小細工は無用よ」

 

《―――分かった。部下には私から説明しておこう》

 

「素直でよろしい。んじゃ最後だけど、あんたの艦隊は乗組員含めてこれから私達が行う拉致被害者の奪還作業を一切妨害しないこと。宣戦布告文章の通り、あの3人は大人しく引き渡してもらうわ。以上、これが条件よ」

 

《――――――その条件を飲もう。貴官の寛大な処置に感謝する》

 

「物分かりが良くて何よりね。それじゃあ、次はこの〈開陽〉で会いましょう。誠実な履行に期待するわ」

 

《―――ゼーペンストの名にかけて、条件の誠実な履行を約束する。我等の名誉にかけて、約束は違えない。では、失礼した》

 

 ヴルゴさんはあっさりと私が提示した条件を引き受けて、その履行を約束した。あそこまで素直だとちょっと疑う気もしないではないが、少なくとも何か企んでいる様子はなかったし、武人のような見た目通りに誠実な人のようだ。まあ、何かあったときは無慈悲な艦砲射撃が火を吹くだけだ。部下のことを気にしているなら、無闇にそんな行動には出ないだろう。

 

 本星を守る最後の砦が崩れた以上、私達の前を遮るものはいない。後ろからはおっかないヴァランタインが挑発してきたギリアスを追ってきている筈なんだし、ここはさっさと目的を果たしてしまおう。

 

 ゼーペンスト親衛艦隊を下した私達は、交渉相手兼人質としてヴルゴさんを迎え入れたあと、一直線にゼーペンスト本星に向けて舵を切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~ゼーペンスト軍親衛隊旗艦〈アルマドリエルⅡ〉艦橋~

 

 

 ヴルゴが『紅き鋼鉄』に降伏し、旗艦〈開陽〉に移る前、〈アルマドリエルⅡ〉の艦橋では、黙々と降伏条件の履行に向けて作業が進められていた。

『紅き鋼鉄』の指揮官、霊夢との会談を終えたヴルゴは、糸が切れたように指揮官席に座り込み、作業の進展を見守る。

 生き残った艦は武装のエネルギーを落として、破壊された友軍艦から生存者の救助にあたる。これらの艦も、降伏条件に従って、ゼーペンスト宇宙港でクルー達を降ろした後は賠償艦として引き渡されることになっていた。

 

「将軍・・・本当に、宜しかったのですか?」

 

「ああ―――両翼の艦隊も残存艦は僅かだ。我々も、あのまま戦っても到底勝ち目などあるまい。ならば、ゼーペンスト再興の為にも、ここで貴官らを失う訳にはいかんのだ」

 

 ヴルゴは静かに、自らの副官に向かってそう告げた。

 元々武人気質の彼は、最後まで降伏という考えを拒み続けていた。しかし、彼はまたこれ以上部下の命を散らせまいと心の中で叫んでいた。ここで有能な人材を大量に失うことは自治領再建の道を閉ざすことにもなり、また未来ある兵達の可能性を潰してしまう行為に等しかったからだ。

 

 そして、彼の忠臣としての性格も、降伏を決断する自分に強硬に反対していた。

 ヴルゴは先代のゼーペンスト領主がまだ宇宙航海者だった頃に彼に救われて、それ以来忠誠を誓い続けてきた。領主が先代の息子に変わっても尚、いや、寧ろ先代の息子だからこそ、あの堕落したバハシュールにも先代の恩を返すべく忠臣の立場に甘んじてきたのだ。幾ら堕落したとはいえ先代の息子、いつかは先代のような頭角を表して立派に自治領を導くかもしれないと、そんな幻想を抱いていたのもまた事実であった。

 しかし、ヴルゴが心の片隅に抱いていた期待とは裏腹に、バハシュールは堕落を重ね、民からは搾取するばかりか海賊を通じた犯罪行為にも手を染めた。領民からの搾取では労働力が足りなくなった為だ。終いには、大企業の要人にまで手を出す始末、結果として、その大企業が自力救済に乗り出すばかりか、強力な傭兵まで引き連れてくる始末だ。その傭兵―――『紅き鋼鉄』は、スカーバレルやグアッシュなどといった名たる海賊を滅ぼしてきた相手、ゼーペンストが相手にするには荷が重すぎた。誰が見ても、バハシュールの自業自得である。さらにヴァランタインによって主力艦隊を蹴散らされた以上、有能な部下達をバハシュールの為に死なせる訳にはいかないと、ついにヴルゴは降伏を決断するに至った。

 

「将軍・・・」

 

 部下達もまた、今のバハシュールに思うところが無いわけではない。だが、敗北とはやはり悔しいものである。艦橋クルー達の間には、敗北という現実を前に脱力感が漂っていた。ヴルゴが降伏を伝えた際には、悔しさのあまりすすり泣く将兵もいたほどだ。

 

「先代に受けた恩を、ボンクラの2代目に返す・・・我ながら、思えば詰まらん人生よ」

 

 ヴルゴは誰にも聞こえないほどの小声で、ぼそりとそう呟いた。

 

 

 

 




という訳で、艦隊決戦は終結です。ゼーペンスト親衛隊は、終戦後の日本軍みたいな心理状況になってますね。ヴルゴさんも忠義に篤いところがあるみたいなので、降伏という決断はなかなか厳しいものだったと思います。霊夢ちゃんはいつも通りの平常運転ですが。
ちなみにリーリス級駆逐艦の性能ですが、原作ではレーザー兵装しかありませんが、設定資料にあるVLS状のモールドを考えてミサイル駆逐艦にしています。基本は空母の護衛艦なので対空クラスターミサイルを搭載していますが、一部には対艦ミサイルを積んだアーセナルシップみたいな奴もいます。フリエラ級にもこのようなモールドがありますが、こちらは純粋な対空巡洋艦なので対艦攻撃力は低めです。

他の艦隊の状況は、ギリアス君とマリサの艦は霊夢とユーリ君の後に続いてヴァランタインから逃げている段階で、メイリンさんのスカーレット社艦隊はレベッカ級2隻を失いつつも〈レーヴァテイン〉の長距離レーザー(スターボウブレイク)で空母を沈めて勝利、ユーリ君は空母2隻に苦戦しつつも、バリオさんのバゥズの援護で何とか勝利した感じです。この二人と戦っていた艦隊にも残存艦が幾らかいますが、こちらもヴルゴさんが降伏したのと同時に霊夢からユーリ君とメイリンさんには連絡がいったので停戦している状況です。賠償艦に指定されたのは霊夢艦隊と戦っていた艦なので、こちらの残存艦はその後も生存者の救助に当たっています。

さて、賠償艦の使い道ですが、フリエラ級はちょっと魔改造したいと思います。マッド共には平常運転ですねw

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