夢幻航路   作:旭日提督

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第五一話 Operation・Stardust (前)

 

 

 

 ~ゼーペンスト宙域・絶対防衛圏付近~

 

 

【イメージBGM:提督の決断Ⅳより「昼間砲雷撃戦BGM」】

 

 

「敵艦隊、移動を開始しました。γ任務部隊の追跡に入ったようです」

 

「かかったわね。β任務部隊は?」

 

「はい、予定ではもう間もなく到着の予定ですが・・・」

 

 隠密航行中の〈開陽〉艦橋内に、オペレーターの報告の声が響いた。

 ゼーペンスト侵攻作戦が発令されたいま、私達の艦隊はゼーペンスト絶対防衛圏にほど近い小惑星帯の中に身を潜めている。ここまで来るときには、敵に探知されないよう一定の距離を進んでからはi3エクシード航法を止めて慣性だけで移動してきたので、体感では3日ぐらいは掛かっただろうか。

 インフラトン機関の火を落として完全に潜航状態に入っているのでそうそう見つからないとは思うが、こうして実際に隠れているといつ見つからないかと冷や冷やするものだ。何せ、この小惑星帯に隠れている私達はゼーペンスト艦隊から見れば、その気になって執念深く探せば見つかるような位置にいるからだ。

 

 だが、今のところは此方が気付かれた兆候はない。γ任務部隊―――マリサの艦が前線で派手に暴れて注意を引き付けたからだろう。作戦では、主力であるユーリ君とメイリンさん、そして私達の艦隊からなるα任務部隊がこの小惑星帯に潜んでいる間に、囮であるマリサのγ任務部隊が敵の注意を引き付けて敵艦隊主力を絶対防衛圏から引き剥がす手筈となっていたが、それは上手くいきそうな感じだ。この後は、充分に敵艦隊を絶対防衛圏から引き離して、その隙に主力である私達α任務部隊がゼーペンスト本星に侵攻する予定だ。ギリアスともマリサとも共闘したことはないし、艦隊を組んでも足手まといになるだろうという判断から、彼等は単艦で任務部隊を構成している。

 

 私が画面に写し出される敵艦隊の状態を注視していると、画面左側にぽつん、と新たな矢尻型の表示が現れた。

 

「・・・来たわね」

 

「はい、そのようです」

 

 その表示は、別行動を取っていたβ任務部隊―――ギリアスの艦を表すものだ。ここに現れたということは、目的の"獲物"を釣り上げたということだろう。

 

 γ任務部隊―――マリサの艦隊を示すアイコンは、クェス宙域方面から高速で接近するギリアスの艦を示すアイコンに接近、というよりそこに向かって後退していく。

 

「しかし、艦隊全部釣れるとはな。いくら強力とはいえ囮は一隻だ。せいぜい三分の一でも釣れれば上々と思っていたが・・・」

 

「恐らくですが、上位の指揮系統より全艦隊での追撃命令が出たのでは?」

 

「・・・確かに、それも有り得る話か」

 

 コーディは敵が呆気なく全部囮に釣られたのが不思議だったのか、そんな疑問を口にした。だけど、ノエルさんが言うように全艦隊での追撃が命令されたなら辻褄が合う。本来なら残った敵艦隊を私達の艦隊の長距離対艦ミサイルで殲滅してから進撃する予定だったのだが、これなら本星まで一直線に進めるかもしれない。

 

「・・・そろそろ頃合いかな」

 

「そのようで」

 

 時刻を示す時計に目を落として、そう呟いた。もうすぐギリアスが釣り上げた"獲物"がゼーペンスト艦隊に接触する頃だろう。

 

 

 《はっはー!待たせちまったな!気分はすっかりマタドールだぜ!》

 

 

 オープンにしていた通信回線から、ギリアスの大声が響く。

 彼が乗る巡洋艦〈バウンゼイ〉の後ろからは、漆黒の巨大戦艦―――〈グランヘイム〉がこれを追っていた。

 

「艦長、〈グランヘイム〉の反応を確認!ゼーペンスト艦隊との接触コースです!」

 

「全艦に通達、只今を以て〈オペレーション・スターダスト〉は第二段階に移行!全艦隊は直ちに本宙域を離脱、そのままゼーペンスト本星を目指すわよ!」

 

「了解です!機関、始動!最大戦速」

 

「火器管制、異常無し。いつでもぶっ放せるぜ」

 

「ユーリ君とメイリンさんの艦隊は?」

 

「はっ、此方も加速を開始、ゼーペンスト本星宙域に向けて進軍を開始しました」

 

 ゼーペンスト艦隊が絶対防衛圏から引き剥がされ、〈グランヘイム〉が居る方角へ誘引されるのを確認し、私達α任務部隊の艦船のインフラトン・インヴァイダーに、一斉に火が入る。もうこの距離なら、〈グランヘイム〉を無視して反転してこられてもそうそう追い付けまい。

 

 さて、このマリサが立てた作戦―――〈オペレーション・スターダスト〉の全容はこの通りだ。

 

 まず私達α任務部隊は敵に悟られぬようインフラトン機関を切って慣性航行で絶対防衛圏に接近、小惑星帯に身を潜めて光学での発見も防ぐ。

 その間にβ任務部隊―――ギリアスの〈バウンゼイ〉はクェス宙域の向こう側にあるサハラ小惑星帯に向かい〈グランヘイム〉を挑発、これを引き摺り出して絶対防衛圏へ向かう。

 一方でγ任務部隊―――マリサはそれに先立って絶対防衛圏近くに進出して敵の警備艦隊を襲って派手に暴れて注意を引き付け、敵主力の誘引に成功後はクェス宙域に向かって後退、〈グランヘイム〉とゼーペンスト艦隊がぶつかるように仕向ける。

 〈グランヘイム〉とゼーペンスト艦隊が接触すれば、その隙にα任務部隊は前進を開始、真っ直ぐゼーペンスト本星を目指す、という手筈になっている。

 

 最初これを聞いたときは殆ど博打のようなものかと思ったし、ギリアスが上手く〈グランヘイム〉を誘引できるかどうかも心配だった。だって前見たときは木っ端微塵にやられてたんだし、一つ間違えばギリアスが〈グランヘイム〉を誘引する前に撃沈されることだってあったかもしれない。だが、その心配は杞憂に終わったようで何よりだ。

 

 それに、いくらこっちが性能で勝っているとは言ってもやはり数の利はあちらにあるのだ。まともにぶつかれば、勝てなくはないがそれなりの代償を支払うことになっただろう。そんな中で、此方の被害を最小限にしつつゼーペンスト艦隊を撃滅するためには、この作戦が一番手っ取り早かったのだ。戦力が無ければ他所から借りてくればいい、なんて言うのは簡単だが、それを具体的に策定したマリサの奴の頭脳も中々に侮れないものだ。これは警戒した方が良さそうね。あいつは今でこそ私達に手を貸してるけど、元々いきなり襲い掛かってくるような奴なんだし。

 

「ゼーペンスト艦隊、〈グランヘイム〉と交戦!」

 

「おおっ、すげぇなありゃ。ゼーペンストの連中がどんどん沈められてる」

 

「霊沙・・・今は作戦中よ。格納庫で待機してなさい」

 

「まぁ細かいことは気にするな。直ぐに戻るからさ」

 

 ―――全く、霊沙のやつは戦闘配備が掛かってるのに何故か艦橋に居座ってるし・・・

 

 私は内心であいつに向けて悪態を吐きながら、モニターに転送されたゼーペンスト艦隊と〈グランヘイム〉の戦闘映像を眺めた。

 突然の〈グランヘイム〉出現に慌てふためいたのか、ゼーペンスト艦隊の一部が〈グランヘイム〉に向かって砲撃を開始してしまった。だが、それがいけなかった。

 〈グランヘイム〉の危険性はこの宇宙では一際高いものだが、実のところ航路上に立ち塞がったり攻撃でもしない限りは素通りされることも多く、対応さえ誤らなければ以外と安全だったりするらしい。無論奴らは海賊なので、腹を空かせれば(艦の運営費が厳しくなれば)商船団を襲うこともあるらしいが。だったら何故私達は襲われたのだという話になるが、あれは多分、私が見つけたエピタフなんてお宝に引き寄せられたのかな。あのときのヴァランタインの台詞もそんな感じだったし。

 

 だが、一度攻撃を仕掛けられれば〈グランヘイム〉に容赦はない。〈グランヘイム〉の顰蹙を買ってしまえばこの〈開陽〉のそれを遥かに上回る威力を持ったレーザー主砲の洗礼を浴びせられ、瞬く間にその艦はダークマターに還元されてしまうことになる。

 実際にゼーペンスト艦隊は〈グランヘイム〉に攻撃を仕掛けてしまったことにより完全にあちらさんの怒りを買ったみたいで、攻撃したかしてない関係なく、ゼーペンストと名の付く艦は片っ端から沈められている。その光景は、まさに蒸発とも言うべきだろうか。100隻近くあったゼーペンスト本国艦隊はあっという間にその半数近くを失い、もはや軍事上は壊滅したも同然だ。

 

 さて、実のところ、この〈グランヘイム〉を捕捉するのは正規軍はおろか、一級の0Gドッグでも中々難しい。それをたかだか軽巡風情が捕捉できたのはこんなからくりがあったりする。

 ギリアスの〈バウンゼイ〉には特殊なセンサーが積んであるらしいのだが、これは空間に残された僅かなインフラトン反応を辿って航跡を特定できるものらしい。詳しくは知らないけど、以前彼をうちの会議室に呼んだときにそんな話をしていたから、多分それで〈グランヘイム〉なんて大物を探り当てて戦えたんだろう。一応インフラトン反応を探知する機能は既成艦にもあるんだけど、彼のそれは既成品よりも一層優れた精度を誇っているらしい。あとインフラトン機関はカスタマイズされたものほど独特の波長を発するので、既成品のデータは除外してそういったカスタム機関を積んだフネ―――ようは実力者である〈グランヘイム〉のような艦だけど戦うようにできるのかもしれない。だったらなんで私達の反応には食い付かなかったのかしら。自前のワープ機関なんて積んでるんだから、インフラトン反応も結構独特だと思うんだけどなぁ。

 

「艦長、前方に敵拠点を確認。見たところただの宇宙港のようですが」

 

「そうねぇ~、面倒だし、敵の武装とレーダーだけぶっ壊しといて」

 

「イエッサー。主砲照準、目標敵基地。弾種は榴弾を装填」

 

 〈グランヘイム〉とゼーペンスト本国艦隊がドンパチやってる間に抜け出して一直線に首都星目指して進撃していると、目の前に敵の宇宙基地が立ち塞がった。だけど見たところただの後方拠点みたいだし、大した戦闘能力も無さそうだ。だけど通り道に居座られると邪魔なのよねぇ。という訳で、さようなら。

 

「〈ケーニヒスベルク〉〈ピッツバーグ〉とのデータリンク開始。射撃準備完了です」

 

 早苗から僚艦の砲撃準備完了の報せが届く。あとは一発、ぶちかましてやるだけね。

 

「敵宇宙基地、エネルギー反応増大。戦闘態勢を整えているものかと思われます」

 

「面倒になる前に叩くわよ。砲撃開始、目障りな基地を黙らせなさい」

 

「イエッサー。主砲発射!」

 

 目前の宇宙基地は此方を捕捉していたためか、戦闘準備を整えているようだ。だが先手必勝、こんな場所でむざむざ足止めを食らうつもりはない。

 私が主砲発射を命じると、どぉんと激しい衝撃が艦内に伝わる。この実弾射撃独特の衝撃、少し癖になりそうね。

 〈開陽〉の前を往く〈ケーニヒスベルク〉〈ピッツバーグ〉の2隻からも、同じように実弾射撃が繰り出される。

 フォックスが装填したのは榴弾で、これは爆発の衝撃で広範囲に砲弾の破片が飛び散って被害を拡大させるものだ。宇宙空間ではろくな抵抗が無いわけだし、一度飛び散った破片は慣性に従ってどこまでも進んでいく。要するに、あの宇宙基地はスペースデブリの雨に襲われたような状態になっていることだろう。宇宙基地のレーダーや武装は基本外付けだし、今の斉射でその大半は破壊された筈だ。

 

「敵宇宙基地、沈黙しました。エネルギー反応低下中」

 

「浮かんでるだけの鉄屑に用はないわ。無力化したなら無視してそのまま進みましょう」

 

「了解です。進路をゼーペンスト首都星に固定」

 

 一撃で宇宙基地を沈黙させた私達の艦隊は、悠々とその横を通り過ぎていく。ふふっ、何もできずにただ賊が通過するのを眺めるだけしかできないゼーペンスト宇宙基地の皆さん、今どんな気持ちかしら?

 

「敵宇宙基地よりミサイル3、向かってきます」

 

「あら、まだ生き残ってたんですか。今ので沈黙させたと思ったのですが」

 

 ・・・どうやら、まだ生きていた防衛装置があったらしい。最後の悪足掻きって奴ね。だけどそんな攻撃じゃあ、私達を止めることは出来ないわよ?

 

「今度こそ沈黙させなさい。主砲、第二射放て。護衛艦は対空戦闘よ。ミサイルを撃ち落として」

 

「ったく、一撃でくたばればいいものを。主砲一番から五番、榴弾装填。撃てっ!」

 

「駆逐隊はミサイルの迎撃に移行、〈ズールー〉は目標α、〈叢雲〉は目標β、〈夕月〉は目標γを担当。対空ミサイルの射程に入り次第迎撃を開始します」

 

 〈開陽〉の3連装主砲5基15門から、再び榴弾の雨が敵宇宙基地に叩きつけられる。それと同時に、向かってくるミサイルは駆逐艦により全て迎撃された。

 

「・・・敵宇宙基地、完全に沈黙しました」

 

「ミサイルも全弾撃墜を確認。迎撃成功です」

 

 今度こそ、敵宇宙基地を完全に黙らせたようだ。無駄な足掻きだったわね。さて、あの領主にはここまで苦労させられたのだ。これからどうやってシメてやろうかしら。

 

「―――ふふっ、分かりますよ霊夢さん・・・悪人は叩き落とすときが一番楽しいんだって」

 

「ええ。このツケはちゃんと払ってもらわないとねぇ。私をここまで手こずらせてくれたんだから」

 

 珍しく、早苗と意見が合うようだ。あの領主をシメるのが楽しみでならない。罰は何がいいかしら。身ぐるみ剥いでどっかの星に放置か、それともゲイの群れに放り込むか・・・いや、この辺りは早苗に任せた方がいいかしら。

 

 私がそんな邪な考えを浮かべているうちに、艦隊は絶対防衛圏の内側にある惑星アイナス軌道に差し掛かる。この星を越えたら、あとは首都星ゼーペンストまで一直線だ。

 

 だけど、現実はそんなに甘くはなかったらしい。

 

 

 私の耳に、敵発見を告げる報告が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【イメージBGM:提督の決断Ⅳより「海空戦BGM」】

 

 

「っ、て、敵艦隊捕捉です!アイナス方面より急速接近中!」

 

「数は―――33隻です!うち3隻は未確認の大型艦!」

 

「その他判明している範囲では、敵艦隊の戦力はドゥガーチ級空母4、フリエラ級及び改フリエラ級巡洋艦10、リーリス級駆逐艦16です!」

 

 このタイミングで敵艦隊―――あれだけ纏まった数が待機していたとなると、恐らくは最終防衛線といったところね。見たところ艦船の種類は小マゼラン艦中心みたいだけど、最終防衛ラインを任されるぐらいなら練度も相当高い筈だ。ここは気を引き締めていかないと・・・

 

「ミユさん、私達は中央の艦隊を引き受けるわ。ユーリ君は右、メイリンさんは左側の艦隊を相手にして貰えるように頼んでくれる?」

 

「了解です。通信繋ぎます―――」

 

 敵艦隊の陣形は、左右に6隻ずつの艦隊と中央には未確認の大型艦3隻を含む20隻程度の中規模艦隊といったところだ。左右の艦隊にはそれぞれドゥガーチ級空母、フリエラ級巡洋艦、リーリス級駆逐艦が2隻ずつ、だが、敵航空戦力のことを考えるとユーリ君の艦隊だけでは少し厳しいかもしれない。ここは多少の航空支援を検討しておくべきか。

 

《―――霊夢さん、話は分かりました。では、我々スカーレット社艦隊は左翼艦隊を相手にします》

 

《こちらユーリです・・・僕は右の艦隊を引き受けます!》

 

「了解よ。恐らくはこれが最後の敵艦隊だと思うわ。一気に突破するわ」

 

《任せて下さい!それでは、ご武運を》

 

《霊夢さん、そちらも気を付けて》

 

 メイリンさんとユーリ君からの通信が切れると、二人の艦隊は左右それぞれの敵に向かって舵を切る。双方とも敵の航空隊を警戒して、早速艦載機の発進準備に取り掛かっているようだ。

 

「―――私達も負けてられないわね。全艦第一種戦闘配備!第一次攻撃隊の発進準備を急いで」

 

「了解です。総員、第一種戦闘配備!航空隊は直ちに発艦せよ!」

 

 恐らく脅威となるのは敵の航空機部隊だろう。国境警備隊が持っていたやつでもそれなりに硬かったのだ、最終防衛ラインともなれば敵の新型機が配備されている可能性もある。

 対艦戦闘ならば敵には戦艦の姿は見えず、巡洋艦と駆逐艦も対空を重視した設計でそれほど打撃力は無かった筈だ。なら敵の護衛艦は中~遠距離砲戦と打撃艦隊の水雷戦で何とかなる。問題は例の未確認艦だが・・・

 

「敵未確認艦の詳細判明!光学映像から推測した結果、敵大型艦3隻は全てネージリッドのペテルシアン級空母の可能性大です!」

 

「ネージリッド?ネージリンスじゃなくて?」

 

 ノエルさんの報告にあったネージリッドとやら、ネージリンスと語感がなんか似ているけど、何か関係があるのかしら。

 

「はい、ネージリッドは大マゼランにある国家の一つで、そこから小マゼランに移民してきた人達が作った国がネージリンスになりますね。元々国が同じなので、艦船の部品もある程度の互換性が効くようです。連中がペテルシアン級を手に入れた経緯は不明ですが、恐らくはそういった意図があったものかと」

 

「成る程ね、ありがと早苗。それで、そのペテルシアン級とやらはどれぐらい強いの?」

 

「それはですね・・・《そこは私が説明しよう》ひゃっ!、な、何ですか!?」

 

「さ、サナダさん!?」

 

 早苗に説明を頼んだところ、突然通信回線にサナダさんが割り込んできた。いきなりどうしたのよ、サナダさん。

 

《ふむ、話は聞いた。それでペテルシアン級空母についてだが、アレはネージリッド国防宇宙軍が保有する空母の中でも最大級のもので、格納庫容積もダントツに広い。搭載機数は、一隻あたり120~150機程度といったところだな。ただ、艦自体の兵装は極めて貧弱だ。》

 

「120機・・・ってことは、全艦合わせて400機近く艦載機があるってこと!?」

 

 《ふむ、そうなるな。後は敵艦載機の性能が如何程かといったところだが・・・まぁ頑張ってくれ》

 

「・・・通信、切れました」

 

 艦長隻に、通信が切断された音が虚しく響く。

 

「ああもう、何が頑張ってくれよ!早苗、こっちの戦闘機は何機あった!?」

 

「えっと、機動兵器を合わせたら確か全部で160~170機程度だったかと・・・」

 

 160機・・・仮に敵が全艦載機を向かわせてきたとしたら、幾ら性能差があっても押さえきれるかは厳しいわね・・・

 

「っ、ミユさん、〈ブクレシュティ〉に通信を繋いで」

 

「了解です」

 

 こうなったら、何とかして敵艦隊を此方の土俵に乗せなくてはならない。航空戦では分が悪すぎる。

 程なくして、ホログラムに〈ブクレシュティ〉の独立戦術指揮ユニット―――アリスの姿が現れる。

 

《戦術は決まったのかしら、提督さん》

 

「ええ、何とかね。〈ブクレシュティ〉を含む第三打撃艦隊は直ちに前進、敵空母に肉薄して」

 

《―――それ、本気で言ってるの?》

 

 アリスはそれを聞くと、本当にそれでいいのかと確認するような感じで尋ねてくる。彼女からしてみれば、その疑問も尤もだろう。

 敵航空機部隊の襲来が予想される中での艦隊突撃なんて、常識的に考えれば自殺行為に他ならない。仮に援護無しで対空能力がそれほど高くない第三打撃艦隊を突撃させてしまえば、それこそ敵に生贄を差し出すようなものだ。

 

「ええ、本気よ。だけど貴女だけでの突撃はさせないわ。第三打撃艦隊の上空には戦闘機隊を布陣、突撃を援護させる。それと第二巡航艦隊も貴女に預けるわ。グネフヌイ級とオリオン級なら艦載機運用能力があるでしょ」

 

 そこで、第三打撃艦隊の突撃を援護すべく、戦闘機隊と対空能力に優れた第二巡航艦隊もこれに同伴させる。

 足が比較的遅い戦艦と重巡に空母は除外して、高速艦のみで襲撃艦隊を抽出、航空援護の下敵艦隊に肉薄させ無理矢理砲雷撃戦に持ち込む。作戦の概要はこんなところだ。第二巡航艦隊なら艦載機の補給整備も可能だし、航空隊の支援もできるだろう。

 

《・・・成る程ね。了解したわ。第二艦隊、借りるわね》

 

「任せたわ。上手くやりなさいよ」

 

《ええ。任された。結構乱暴な作戦だけど、そういうの、好きよ》

 

 そこで、アリスとの通信が切れる。最後に見せた彼女の眼は、正に狩人のそれだった。

 

「アリスさん、なんだか乗り気でしたねぇ・・・」

 

「あいつはもっと慎重な奴かと思ってたけど、以外とあんな面もあるのね。それで、艦隊の状況はどう?」

 

 アリスがあんな眼をしたのも意外ではあるけど、今は戦況に集中するべきだ。敵に目立った動きはないとはいえ、敵が機動部隊である以上、直ぐに艦載機を飛ばしてくるだろう。

 

「はい、現在霊夢さんの作戦方針に従って陣形の変更中です。あと10分もすれば突撃準備が完了します。艦載機隊の方は、最低限のインターセプターは既に発艦していますね」

 

「ありがと。そのまま準備を進めて」

 

「了解です」

 

 今のところ、戦闘準備は順調のようだ。だが、敵の奇襲があるかもしれない以上、警戒は怠るべきではない。何せここは敵地の最深部だ。罠の一つや2つはあるかもしれない。

 

「それと早苗、〈ラングレー〉の攻撃隊はユーリ君の援護に向かわせて。あっちは多分艦載機の数も負けてるし、艦の数でも不利だからけっこう厳しいと思うからね」

 

「畏まりましたっ、命令伝達しておきます」

 

 今回の作戦方針では〈ラングレー〉の攻撃機は遊兵と化してしまう。なら、最低限の護衛を付けてユーリ君の援護に抽出した方が有効活用できるだろう。〈ラングレー〉のスーパーゴースト隊は飛び立った後は第二巡航艦隊が世話する予定なんだし、戦闘機隊を飛ばした後に並べさせておこう

 

「艦長、空間スキャニングの詳細が出ました。当宙域に機雷の類いは見られません。少数のデブリがあるのみです」

 

「そう。だけど気は抜かないで、こころ。レーダーは常に注視しているように」

 

「はい、了解しました」

 

 こころから報告があった通り、空間スキャニングでは罠の兆候は見つからなかったようだ。だけどもしかしたらまだ極小サイズの機雷がばら蒔かれてるかもしれないし、ステルス機の奇襲もあるかもしれない。油断は禁物だ。

 

 

 

 程なくして、艦隊の戦闘準備は整った。命じた通り第二、第三艦隊は合流してその周囲は迎撃機が固めている。一方の本隊と第一機動艦隊も合流して輪形陣を組み、第二、第三艦隊の後に続く予定だ。支援艦隊はいつもの通り、最後尾に配置している。

 

「迎撃機隊、全機発進しました。所定の位置に付きます」

 

「第二、第三艦隊は加速を開始。突撃戦に移行します」

 

「敵艦隊の前方に多数の小型エネルギー反応確認。敵艦載機隊と思われます。迎撃隊各機は戦闘準備をお願いします」

 

《こちら艦載機隊、了解した!全機戦闘配備だ!》

 

《了解、ガーゴイル隊、迎撃位置に付く》

 

《グリフィス1了解。全機突撃!》

 

《アルファルド1了解、いつも通り、殲滅だな!》

 

 第二、第三艦隊の突撃と同時に、艦載機隊も敵編隊に向かって加速していく。いよいよ、ゼーペンスト軍との決戦だ。

 

「〈開陽〉、機関全速!目標敵艦隊!突撃するわよ」

 

「了解、機関全速!」

 

 それに続いて、私が率いる本隊と第一艦隊も加速を開始した。目指すは敵艦隊、それを打ち破れば、後は首都星で事を果たすだけだ。

 

 ―――でも、なんかモヤモヤするわね・・・何も起きなきゃいいんだけど・・・

 

 だが、〈開陽〉の周囲を囲む勇ましい艨艟達の姿とは裏腹に、私はどこか漠然とした不安を拭えないでいた―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~ゼーペンスト軍親衛隊旗艦〈アルマドリエルⅡ〉艦橋~

 

 

 刻は霊夢達が宇宙基地を沈黙させていた頃、ゼーペンスト宇宙軍指揮官のヴルゴは、ゼーペンスト軍艦隊旗艦である改ペテルシアン級空母〈アルマドリエルⅡ〉の艦橋内で、部下からの報告を険しい表情で聞いていた。

 

「主力艦隊は・・・やられたか」

 

「はい、残念ながら・・・」

 

 領主命令を受けて不審な艦の追撃に向かわせた本国艦隊主力は、〈グランヘイム〉と交戦したとの報せを受けて以来、すっかり通信が途絶えてしまっていた。

 

「奴等の狙いは、どうやらそれだったか・・・こうなってしまえば、最早生還は絶望的か・・・」

 

 相手は宇宙で最も恐れられている海賊戦艦〈グランヘイム〉である。これでは本国艦隊主力との合流はおろか、主力の生還も絶望的だろうとヴルゴは考えた。幾ら兵の練度を上げたとしても、この自治領の戦力では、〈グランヘイム〉に掠り傷を負わせられれば万々歳といった程度だ。それほどまでに、〈グランヘイム〉という存在は強大なものであった。

 

 やはり、あのときにもっと領主に反論しておけば、もしかしたら無駄に部下の命を散らさずに済んだかもしれない。そんな思いがヴルゴの胸を駆け巡ったが、最早後悔しても遅いことだと割りきった彼は、侵入者への対策を練ろうと努める。

 

「親衛隊だけでも残しておいて、正解だったな」

 

 本国艦隊主力が壊滅した今、ゼーペンストの護りを担うのは彼が率いる親衛隊33隻のみである。増強されて新鋭艦も受領した親衛隊といえど、戦力はまだ未知数、しかも新鋭艦に至っては、まだまだ訓練は充分ではない。不安要素など挙げればきりがないが、それでも彼は、勝利のために策を巡らせる。

 

 程なくして、宇宙基地からの通信が途絶した。遂に侵入者が、首都星ゼーペンストに迫る。

 

「・・・親衛隊全艦に告げる。只今より本艦隊はこのアイナス軌道を絶対防衛線として敵艦隊に決戦を挑む。我らがゼーペンストの命運は、この一戦に掛かっている!今こそゼーペンスト親衛隊の力を示す刻だ。絶対に侵入者を通すな!諸君らの健闘に期待する」

 

 通信チャンネルをオープンにして、ヴルゴは親衛隊全艦に呼び掛けた。

 

 全ては先代の築いたこの自治領を護るため、ヴルゴは迫る戦いを前に、不退転の覚悟を決めた―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~〈開陽〉艦橋~

 

 

【イメージBGM:艦橋これくしょんより「シズメシズメ」】

 

 

「敵攻撃隊360機、間もなくわが迎撃機隊と接触します!」

 

 敵機動部隊の攻撃隊は、予想通り前衛を努める第二、第三艦隊に矛先を定めたようだ。それと同時に、敵艦隊は此方から距離を取るような仕草を見せ始めている。

 

 ―――此方の意図を察したのだろう。そう簡単に、土俵は明け渡さないということか・・・

 

 敵は機動部隊である以上、接近戦では不利だと理解しているようだ。此方の打撃艦隊に捕まってしまえば一気に形成は不利になることは容易に分かることだし、私だって敵の立場ならそうするだろう。

 

「第二巡航艦隊、対空ミサイルによる迎撃を開始。同時に迎撃隊も交戦を開始しました」

 

 輪形陣外輪に位置する第二巡航艦隊の巡洋戦艦と軽巡洋艦群が、一斉に敵編隊に向かって迎撃の対空ミサイルを放った。だが長距離用の対空迎撃ミサイルは数が少ないので、これは牽制程度の攻撃だ。ここでの迎撃の主力は、艦隊上空から攻撃隊阻止のために移動してきた此方の迎撃戦闘機隊168機になる。

 〈スーパーゴースト〉と〈ジム〉を主力とする迎撃隊は敵編隊を捕捉すると、先ずは中距離AAM(対空ミサイル)を装備する機体が警戒管制機〈RF/A-17S〉から送られたデータに従って目標にミサイルを撃ち込む。

 

《グリフィス1交戦(エンゲージ)!これでも喰らえ!》

 

《グリフィス2、敵編隊を捕捉。交戦します!》

 

《ガルーダ1、交戦!FOX2!》

 

 だが、此方はレーザーと短距離用マイクロミサイルを主兵装とするスーパーゴースト隊が主力だ。中距離AAMを搭載している機体は全体の半分以下―――なので、今の攻撃でも敵の数はあまり減っていない。せいぜい20機ぐらいが落ちたところか。

 

《チッ、数が多いな・・・次、狙うか?》

 

《いや、敵の戦闘機隊が食いついてきた。各機回避運動!》

 

 だが撃ったら撃ち返されるのは言うまでもなく、今度は敵戦闘機隊凡そ180機が迎撃機隊に向けてミサイルを放つ。

 此方の迎撃機隊は大半が機動性に優れた無人戦闘機スーパーゴーストで、さらにRF/A-17S警戒管制機の電子妨害もあるので中距離AAM程度なら問題なく無力化できるのだが、それでも被害は出る。さっきの交戦でこっちの戦闘機が10機ほど落とされた。その大半は、他機種に比べて動きが鈍いT-65B重戦闘機だ。この機体は大口径レーザーを主兵装にしている重戦闘機で速度性能は良好なのだが、如何せん旧式なためか他の機体に比べたら旋回性能や搭載力が低い―――この機体、そろそろ引退させるべきかな。

 

 敵味方の戦闘機がミサイルを撃ち合ったあと、両者は近距離のドッグファイトに突入する。こうなってしまえば、後は此方のスーパーゴースト隊がその本領を発揮して空戦を有利に進められるだろう。あれは近距離戦に特化した機体だし、ドッグファイトは得意中の得意な領域だし。スーパーゴースト隊は無人機ならではのGを無視した非常識なマニューバで敵機の背面や後ろについてはレーザー機銃を浴びせて着実に敵の数を減らしていく。一方では新兵器である機動兵器〈RGM-79 ジム〉の部隊も負けてはおらず、逃げる敵機の背後を取ってマシンガンを連射しながら、自分の背後についた敵機も銃のジョイントアームを後ろに向けて敵機に予想外の攻撃を浴びせ、隙を突いて撃墜している。

 だがやはり敵の数が多い。しかも敵艦載機隊は練度も高く、互いをサポートしながら攻撃しか頭のない無人機部隊を翻弄して撃墜する猛者の姿もある。これは長丁場になりそうだ。

 

 そして一番の問題が、敵の攻撃隊を阻止する戦力があまりに少ないことだ。

 此方の迎撃機の殆どが敵戦闘機隊とのドッグファイトに明け暮れているこのタイミングでは、艦隊上空の守りは僅かな無人機とスーパーゴースト隊だけだ。

 

《迎撃隊が抜かれたか・・・ガーゴイル1交戦》

 

《ガーゴイル2、交戦します》

 

《アルファルド1、FOX2!この、墜ちろっ!》

 

 艦隊上空の直掩隊も頑張ってはいるが、たかだか30機程度では200機近い敵攻撃機を押し止めるのは難しい。敵の対空能力が低いのでそうそう撃墜されることはないが、敵の護衛戦闘機に追い回されて上手く攻撃位置につけない機もいるようだ。

 

「第二、第三艦隊、対空戦闘を開始しました」

 

 だが敵攻撃隊が艦載対空火器の有効射程に達したため、今度は艦隊からの攻撃も加わる。

 先ずは巡洋戦艦〈オリオン〉〈レナウン〉の対空VLSから放たれた対空ミサイルが敵編隊を襲い、続いてルヴェンゾリ級巡洋艦とグネフヌイ級駆逐艦のレーザー主砲とパルスレーザーによる弾幕が敵編隊の行く手を阻む。輪形陣内側の第三打撃艦隊からも対空クラスターミサイルやレーザー主砲の砲撃が降り注ぎ、濃密な対空弾幕を形成する。

 その火線に絡めとられた敵機は一機、また一機と撃墜されていくが、敵機が対艦ミサイルを発射すると、今度はそちらの迎撃に忙殺される。その隙に突入してきた敵攻撃隊がまた対艦ミサイルを放っての繰り返しで、なかなか敵の攻撃を阻止できずにいる。

 

 最初こそミサイルの迎撃に成功していたが、次第に攻撃機に手が回らなくなり次々とミサイル発射を許してしまうと、次第に迎撃しきれないミサイルも出てきてしまう。それらは輪形陣外側にいたルヴェンゾリ級とグネフヌイ級に突き刺さり、艦隊に無視し得ない損害を与えた。

 

「巡洋艦〈ユイリン〉大破、機関室で火災発生!駆逐艦〈ヴェールヌイ〉、カタパルト喪失、中破です!駆逐艦〈アナイティス〉、格納庫内で誘爆発生!緊急消化ユニット作動中」

 

「駆逐艦〈コヴェントリー〉、バイタルパート内に損害発生。装甲を抜けた敵ミサイルがコントロールユニット付近で炸裂した模様です。一切の操作不可能!」

 

「チィッ、やるわね・・・〈コヴェントリー〉のコントロールを〈ブクレシュティ〉に委譲させて。そうすれば解決する筈よ」

 

「了か・・・いえ、既にコントロールは〈ブクレシュティ〉が掌握したようです」

 

 流石はアリス、動きが早い。無人艦はコントロールユニットを喪えば後はただの案山子だが、〈ブクレシュティ〉の 拡張艦隊戦闘指揮システムに接続すれば、彼女からのコントロールで艦を動かすことは可能だ。ただ、これは演算容量をそれなりに必要とするらしいから、あまりこれに頼りすぎる訳にもいかない。彼女は機動部隊襲撃の先鋒を務めるのだから、損傷艦のコントロールまで一手に引き受けさせるのも不味いわね。・・・次に作る艦艇は、予備のコントロールユニットも載せた方が良さそうね。

 

「っ、巡洋艦〈モンブラン〉、弾薬庫爆発!艦首区画喪失!」

 

「直ちに〈モンブラン〉を後退させて。本隊と合流させるわ。それと〈ユイリン〉、〈ヴェールヌイ〉も同時に後退させなさい」

 

「りょ、了解っ!」

 

「―――巡洋戦艦〈オリオン〉、巡洋艦〈サチワヌ〉〈ボスニア〉中破、戦闘能力が低下します」

 

 ・・・今のところ沈没こそは出ていないが、一気に巡洋艦と駆逐艦2隻を戦列から落伍させられてしまった。敵もなかなか侮れない実力を持っているようね。

 

「敵攻撃隊、撤退していきます」

 

「・・・一度迎撃隊と直掩隊を第二艦隊に戻して。整備と補給が済み次第順次発進よ。第二、第三艦隊は予定通り突撃を続行しなさい。次が来る前に距離を詰めるわよ!」

 

 先程の敵攻撃隊は凡そ380機。敵艦隊の搭載量を考えれば、直掩を除いて殆ど差し向けてきた感じだろう。なら次の攻撃隊発進まではまだ間がある筈だ。その隙に一気に距離を詰めて、できれば敵艦隊を最大射程には捉えたい。

 それに、さっきの攻撃では敵機をそれなりに墜としているし、再出撃に耐えられない機体もあるだろう。第二次攻撃があったとしても、先程のような大編隊ではない筈だ。

 

 敵編隊が去り、直掩隊もグネフヌイ級とオリオン級、ルヴェンゾリ級などの母艦に戻りつつある中、前衛部隊輪形陣の外側で、少し遅れて一際大きな閃光が輝いた。

 

「ッ、駆逐艦〈アナイティス〉、轟沈!」

 

 ―――この会戦で、初の戦没艦だ。

 〈アナイティス〉は確か、先程の攻撃で格納庫に誘爆していた艦だった。どうやら消化が追い付かなかったようで、遂に火が艦載機用の推進材辺りにでも回ってしまったのだろう。・・・やはり耐久力の低い駆逐艦サイズだと、艦載機用の推進材やミサイル類への誘爆対策を充分に施すことが難しいのかもしれないわね。元になったゼラーナ級ではあまりこんな話は聞かなかったけど、単にこうした事例がなかっただけだろう。元々あれ、海賊船だし。

 

 ―――この戦いの後には、色々改善しないと不味そうね・・・

 

 図らずも、先程の戦いでは此方が保有する艦船の弱点が露呈した形になっている。特に無人艦と艦載機を多用するうちの艦隊だと、〈コヴェントリー〉と〈アナイティス〉の件は貴重な戦訓になった。ここは高い授業料を払わされたと思って耐えるしかないわね。

 

「そういえば、〈ラングレー〉の方はどうなってる?」

 

「はい、ユーリ君の援護に向かわせる攻撃隊の準備は完了しました。現在発艦中ですから、もう間もなくすれば敵艦隊右翼に向かう予定です」

 

 私は一度、意識を前衛から空母〈ラングレー〉に移す。

 艦隊戦力が劣勢なユーリ君の援護にと、今は遊んでる攻撃隊の半分を送り出してやろうと思って、スーパーゴーストと爆撃機スヌーカ、雷撃機ドルシーラを各10機ずつ差し向ける手筈だが、今まさに発艦して目標に向かうといったところだ。

 

 

 

 

「え・・・か、艦長ッ!敵機直上ですッ!」

 

「な・・・一体何処から!?ッ、とにかく迎撃を急いで!対空ミサイルは!?」

 

「くっ、対空ミサイルは既に射程外だ!パルスレーザーで迎撃する!って何だ!全然照準できねぇぞ!?」

 

 

 突然、艦隊の上空に敵機の反応が表れた。

 はっきり言って、まともな迎撃機がいない私達本隊は超やばい。しかも照準できないって何なのよ!?

 

「霊夢さんっ、敵はステルス機ですよ!パルスレーザーをレーダー連動から赤外線シーカーによる個別照準に切り替えます!」

 

 ステルス機・・・って、確かレーダーに映らない戦闘機のことよね・・・どうりで発見が遅れた訳だ。しかも、敵機はご丁寧なことに暗色迷彩とステルス塗料まで塗ってあるらしく、光学センサーもまともに役に立っていない。

 

 やっとパルスレーザーによる迎撃が始まったが、既に懐深くに飛び込まれていたせいで効果的な対空弾幕が張れていない。〈ラングレー〉を飛び立ったスーパーゴーストと2機のスヌーカが迎撃機に向かうが、スヌーカは誘導爆弾を落とす前に敵の対空ミサイルに墜とされた。この役立たず。

 一方のスーパーゴーストも敵が徹底したステルスを施しているためか、敵を中々捕捉できずにいる。敵機を追撃しているのは僅か3機だ。

 

「敵機、ミサイル発射!迎撃間に合いませんっ!?」

 

「総員、衝撃に備えて・・・ッ!!」

 

 私がそう叫んだ瞬間、〈開陽〉の艦橋が大きく揺らされ爆発音が響き渡った。

 

「ひ、被害報告!」

 

「ハッ、艦橋頂部の左舷側フェイズドアレイレーダーが敵ミサイルでもぎ取られたようです!索敵機能が低下しますが、航行に支障はありません」

 

 艦橋頂部のレーダー、といったらあの部分か。けっこう際どいところに当たったのね。もう少しずれていたら艦橋本体がおじゃんにされていたところだ。

 

「ああっ、艦長、〈ラングレー〉が・・・!」

 

「えっ・・・ッ!」

 

 しかし、敵の攻撃はそれだけでは終わらなかった。〈開陽〉に続いて狙われたのは右隣にいた空母〈ラングレー〉で、直上から接近した敵ステルス機は今まさに攻撃隊を急速発進させていた〈ラングレー〉に向かってミサイルを撃ち放ち、迎撃空しく全弾飛行甲板後部に命中してしまう。

 敵機が〈ラングレー〉とすれ違った後、〈ラングレー〉の飛行甲板後部はものすごい爆発に包まれ、その閃光に私も一瞬怯んでしまった。

 

「ら、〈ラングレー〉、大破!飛行甲板炎上!」

 

「クソッ、誘爆は何としてでも防げ!全力で艦内スプリンクラーを作動させろ!」

 

「や、やってますよ!」

 

 ・・・あの様子だと、飛行甲板にあった攻撃隊の魚雷と爆弾に引火して大爆発を起こした感じだろうか。爆発の閃光が落ち着いた〈ラングレー〉の後部飛行甲板はごっそり抉れていて、さらによく見ると右のエンジンノズルからも怪しげな火を吹いている。

 艦隊唯一の空母を失うまいとコーディが指揮を執るが、この艦橋でいくら騒いでも〈ラングレー〉を直接操作できる訳ではない。〈ラングレー〉のAIとダメコンロボが上手く動いてくれるのを祈るだけだ。

 

「〈ラングレー〉の右舷機関室、壊滅!速力大幅に低下!」

 

「くっ・・・隔壁と艦内スプリンクラーは・・・何とか正常に動作しているみたいね。他に艦隊に損害はない?」

 

「はい・・・〈ラングレー〉が攻撃を受けた隙に、護衛艦にも攻撃が仕掛けられていたようです。先程の一撃で巡洋艦〈エムデン〉がインフラトン反応消失、撃沈された模様です。駆逐艦〈霧雨〉も大破しました」

 

「―――派手にやられたわね。敵機の反応は?」

 

「・・・現在は確認できません。恐らくはミサイルを撃ち尽くしたのかと」

 

「―――第二、第三艦隊にも連絡して。敵機がまだ弾を持ってるなら、そっちに行ったかもしれないわ。それに同種のステルスがまだ潜んでるかもしれないんだし」

 

「・・・了解しました」

 

 レーダー担当のこころは、沈んだ声で報告した。ステルスの発見が遅れてしまったためだろう。だが、こればかりは敵が一枚上手だったと認めざるを得ない。

 此方は罠を警戒した上で進んでいたのだ。その警戒網を突いて艦隊に大損害を与えるとは、敵ながら天晴だ。

 ・・・受けた被害を考えると、あまり笑えないんだけどね。

 幸い船体の主要部品や機関なんかは空間通商管理局が無償提供してくれるから何とかなりそうなんだけど、ワンオフの航空機とそれ用の弾薬を大量に喪ったのは痛い。地味に数を揃えると高くつくのよあれ。それに巡洋艦も一隻沈められたし。いくらうちの巡洋艦で最弱のサウザーン級とは言っても、巡洋艦は巡洋艦だ。失って惜しくない訳がない。本当は駆逐艦1隻失うだけでも惜しいのに。

 

 くそっ、こうなったら殲滅あるのみよ。見てなさい、ゼーペンスト!

 

 

 

 

 




本来ならこの話で艦隊決戦は決着だったのですが、予想以上に延びたので前後に分けます。

ゼーペンスト艦隊は本来だったら11隻で、空母は旗艦のドゥガーチ級を改良したアルマドリエル級1隻だけなのですが、本作では大幅な強化が入っています。数は3倍、そして本来このタイミングでは出現しないペテルシアン級空母を追加しました。ヴルゴさんの乗艦は、アルマドリエル級からペテルシアン級に変更されています。ユーリ君とメイリンさんが戦っている艦隊は、原作ゲームでユーリが戦った艦隊にアルマドリエルを1隻追加した編成になっています。
ちなみにペテルシアン級の搭載機数はゲームの上限値を軽く天元突破しています。ゲーム上での空母の搭載機数上限は60機ですが、この小説では搭載機数に関しては大幅な上方修正が入ることが多いです。1000m越えの船体に60機って、幾ら色々必要な宇宙船といえど少なすぎるような気がするので。

やはり艦隊決戦になると文字数が増える増える・・・

そして本話は1万5千字ほどありますが、最近は1万字を越えたら重くて書けたものじゃないので、そこを越えたら別に書いて最後にくっつけるという強引な手段を取りました。昔は2万でもすらすら書けたんですがねぇ・・・

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