夢幻航路   作:旭日提督

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第四九話 ゼーペンスト侵攻

 

 ~ゼーペンスト宙域、ボイドゲート・国境周辺~

 

 

 

「艦長、ゼーペンスト艦隊のエネルギー反応増大中です。戦闘態勢に入ったものと思われます」

 

 敵艦隊を監視していたこころから報告が届く。

 回答期限まではあと30分ほどある筈だが、敵さんはどうやら先に仕掛けるつもりらしい。ならば、こちらもそれに応えるまでだ。

 

 改めて、現在の私達の戦力を確認しておこう。

 

 まず本隊にはこの旗艦である戦艦〈開陽〉に主力の重巡洋艦〈ピッツバーグ〉〈ケーニヒスベルク〉、それに護衛のノヴィーク級駆逐艦が2隻。

 第一機動艦隊には空母〈ラングレー〉と航空巡洋艦〈高天原〉、護衛のサウザーン級2隻にノヴィーク級駆逐艦が4隻。

 

 第二巡航艦隊には巡洋戦艦〈オリオン〉〈レナウン〉にサチワヌ/ルヴェンゾリ級軽巡〈ユイリン〉〈ナッシュビル〉〈モンブラン〉〈サチワヌ〉〈ブルネイ〉〈ボスニア〉の6隻とグネフヌイ級駆逐艦5隻。

 

 第三打撃艦隊は巡洋艦〈ブクレシュティ〉にアーメスタ級駆逐艦〈ブレイジングスター〉とヘイロー級駆逐艦3隻にアリアストア級駆逐艦が2隻。

 

 合計で、戦力として使えるのは戦艦1、巡洋戦艦2、空母1、航空巡洋艦1、重巡洋艦2、巡洋艦9、駆逐艦17隻だ。これに加えて後方支援艦隊が随伴しているが、これの護衛戦力は万が一に備えて支援部隊を守るためのものだから、積極的には投入できない。

 

 続いて友軍であるスカーレット社私設艦隊の陣容だが、こちらはカルバライヤでも共に戦った改ドーゴ級戦艦〈レーヴァテイン〉に改ゾロ級駆逐艦とアリアストア級駆逐艦が2隻ずつ、改レベッカ級警備艇が6隻だ。レベッカ級は各部に大規模な改装が施されているとの事らしく、水雷艇として運用できるそうだ。しかし、技術の水準が小マゼランベースであることを考えると、〈レーヴァテイン〉以外はあまり当てにできないだろう。つまり、主力艦隊は私達の艦隊だということだ。

 

 まぁ...ユーリ君達もここにいるみたいだし、最低限の戦力としては数えられるかな。

 

「敵艦隊の前方に多数の小型のエネルギー反応を感知、艦載機を発信させた模様です!」

 

「敵艦隊の規模は?」

 

「はい、現在確認できるのは空母3隻、軽巡4、駆逐艦6隻です。解析の結果、空母はドゥガーチ級、巡洋艦はフリエラ級、駆逐艦はリーリス級の改造艦と判明。何れもネージリンス製艦艇です」

 

 ミユさんから敵艦隊の詳細なデータが届けられる。ネージリンスは一般に小マゼランでは空母や艦載機の技術に秀でており、艦載機を瞬時に展開できる重力カタパルトを有しているのもこの銀河ではネージリンスだけだ。そのネージリンス製艦艇を主力に置いているということは、敵艦隊の陣容を見ての通り、ゼーペンスト軍は機動部隊を中核とした編成を行っていると見て間違いない。

 

「成程、敵は機動部隊ね・・・早苗、第一機動艦隊の艦載機はいつ出せる?」

 

「はい、現在発進準備中とのことですから、あと10分は・・・」

 

 対するこちらも機動部隊を保有してはいるが、連中と違って重力カタパルトを有していない私達は幾ら性能で勝る艦載機を持っていても、展開速度の差で先制を許してしまう。小マゼラン艦載機の性能を考えれば致命傷を受ける艦は出ないと思うが、開戦早々鬱陶しい蠅に集られるのは癪に障る。さて、どうしたものか・・・

 

「―――迎撃機だけでいいわ、すぐに発進させて。ノエルさん、航空隊にも直ちに発進命令を」

 

「了解です」

 

「了解っ!、〈ラングレー〉、〈高天原〉戦闘機隊を直ちに発進させます」

 

 今から攻撃隊を出すとしたら、時間的に間に合わない。ならここは迎撃機だけでもできるだけ上げて艦隊上空の制空権を確保しておくべきだ。敵の主力が空母である以上、艦載機さえ無力化すれば敵は最大の攻撃手段を失う。フリエラ級とリーリス級の護衛艦は元設計があまり対艦に特化した艦ではないし、砲雷撃戦に持ち込めばこちらが有利な筈だ。

 

「旗艦〈開陽〉より〈ブクレシュティ〉へ、聞こえてる?今から敵攻撃隊を迎え撃つから、あんたの打撃艦隊は敵攻撃隊撃退後にすぐ敵艦隊に肉薄して。ユーリ君の艦隊を援護しつつ雷撃戦で止めを刺すわよ」

 

《了解。蠅を追い払ったあとに突っ込めばいいのね》

 

 そこで私は第三打撃艦隊を率いる〈ブクレシュティ〉に連絡を入れて、作戦内容を伝える。あの攻撃隊が真っ直ぐこちらに向かってくるなら迎え撃ち、然るのちに砲雷撃戦に移行する。あれがそのままユーリ艦隊に向かうようなら、そのときは数の有利で叩き潰せばいい。

 

「敵攻撃隊160機、わが艦隊に向け接近!」

 

「迎撃隊、発進します」

 

 どうやら、敵艦隊は先に此方に矛先を向けたようだ。あんな明白な宣戦布告文章を送りつけた以上、最優先で叩くべき適と判断したのか。

 

 此方からも、発進準備を終えた迎撃隊が続々とカタパルトから射出されていく。主に前衛を張る第二巡航艦隊各艦から無人戦闘機〈スーパーゴースト〉の部隊が発進しているが、そこに〈開陽〉から発進した機動兵器〈ジム〉や可変戦闘機〈VF-19〉〈VF-22〉が混ざって迎撃網を構築する。全体の数は、第一機動艦隊から発進したのと第二巡航艦隊から発進したのを合わせてスーパーゴースト戦闘機隊が70機前後、それに〈開陽〉艦載機隊約20機が加わっている。数の上ではゼーペンスト攻撃隊にかなり差をつけられたが、相手の使う艦載機が小マゼランのモデルである以上、此方が航空優勢を取れる筈だ。

 

「迎撃隊、敵攻撃隊と接触します!」

 

 艦隊の前に広がる宇宙空間に、両軍の激突を示す火花が散った。

 

《――霊夢さん、此方も迎撃隊を向かわせました。今からそちらに加わります!》

 

「どうも、有り難いわ。このまま前線で敵攻撃隊を押し止めるわよ」

 

《分かりましたっ、敵攻撃隊を排除した後、長距離砲戦に移行します》

 

 〈レーヴァテイン〉から通信が入ってきたと思ったら、どうやらあちらも迎撃機を出してくれたらしい。数は少ないけど、こっちの負担はこれで減った筈だ。

 

 

《こちらガーゴイル1、戦況は有利だが、何せ敵の数が多くて処理しきれん!――くそっ、レーザーガンの放熱限界かっ!》

 

《チィッ―――おいレヴィ、左翼の守りが薄い!抜かれるぞ!遊撃に回れ!》

 

《りょーかい隊長!》

 

《右はまだ押さえ込めてるようだが・・・っと、背後を取られたかっ―――ッ!》

 

《―――一機撃墜・・・隊長、お怪我はありませんか?》

 

《あ、ああ―――大丈夫だ》

 

《こちらグリフィス1、畜生、ガンポットがイカれた!一度帰投する!》

 

「了解。グリフィス1、誘導に従い直ちに着艦せよ」

 

 

 ・・・迎撃隊の状況は、確かに有利には立てているものの未だ決定的な差とはなっていないようだ。画面上のデータを見れば確かに敵機の数は減っているが、何分元の数が多いだけあって敵を押し止めるので精一杯といったとこだろう。だが、時間と共に敵機の数は減っていき、それが一定に達すると今度は此方が有利に戦えるようになっていく。

 

《援軍が!?こいつは有難い!》

 

《アルファルド1、これで10機め・・・っ、撃墜!》

 

《この、墜ちろ・・・ッ、よし、こっちは9機めだ!》

 

《残余の敵機、反転。よし、迎撃成功だ。各機帰投するぞ!》

 

《了解!》

 

 敵編隊の数が30を切ったあたりで、ついに敵も撤退を開始する。これを見て、前線で迎撃隊の指揮に当たっていたディアーチェさんが即座に帰投を命令し、迎撃隊は最低限のインターセプターを除いて各母艦に帰投した。未帰艦機はスーパーゴースト18機にVF-19が2機・・・少し多いわね。だけど敵攻撃隊の迎撃自体は成功だ。なら、作戦を次の段階に移そう。

 

 迎撃が成功したあとは作戦手順に従って、他の艦隊が迎撃機の収容に追われている間に今度は〈ブクレシュティ〉率いる第三打撃艦隊の艦が一斉にスラスターを吹かせて増速する。それを見たゼーペンスト艦隊が砲撃を向けてくるが、第三打撃艦隊にはかすり傷一つ負わせることはできない。

 

《〈レーヴァテイン〉より〈開陽〉へ、此方も攻勢に出ます!》

 

「了解。そっちは取り巻きをお願いできる?」

 

《承知しました!》

 

 第三打撃艦隊の突撃と同時に、前衛に出た〈レーヴァテイン〉からも長距離砲の射撃が開始される。

 長距離砲は初弾から敵のリーリス級駆逐艦に着弾し、同艦を一瞬で轟沈せしめた。

 

《こちら〈ブクレシュティ〉、今から雷撃戦に移るわ。先ずは護衛の巡洋艦から排除する》

 

 続いて〈ブクレシュティ〉と駆逐艦〈有明〉〈東雲〉から長距離対艦ミサイル〈SSM-716「ヘルダート」〉が発射され、退避行動に移ろうと側面を晒していたフリエラ級2隻に着弾してこれをインフラトンの火球に変えた。

 

 護衛艦の数が減らされたことで、今までこっちが敵攻撃隊に忙殺されている間に護衛艦隊から攻撃を受けていたユーリ君の艦隊も盛り返したようで、こちらは巡洋艦と駆逐艦を各1隻、撃沈している。

 

《敵艦隊、撤退を開始・・・どうする提督さん、追撃する?》

 

 どうやら敵は、形勢不利を悟って撤退に移るつもりらしい。そこで〈ブクレシュティ〉―――アリスから追撃の意見具申が届く。深追いは禁物とも言うけど、速力では恐らくこちらが上、それに、開けたこの宙域では目の前の敵艦隊以外に伏兵の存在は考えられない。事前の空間スキャニングでも機雷の反応は無かったみたいだし(極小機雷なら話は別だけど)、これは各個撃破のチャンスと見るべきだろう。数の上では相変わらず不利なんだし、叩けるうちに叩いておくべきだ。

 

「許可するわ―――ただ、敵空母は後で調べるから、無力化に留めて」

 

《了解―――じゃあ遠慮なく、蹂躙させて貰うわ》

 

 そこで通信は切れ、第三打撃艦隊の各艦は水を得た魚のようにゼーペンスト艦隊に肉薄して護衛艦の装甲をプラズマとビームでズタズタに引き裂いていく。敵艦隊も空母を逃がそうと反撃してくるが、その全てが悉く回避されてはお返しとばかりにレーザーの雨が降り注ぎ、次々と残存の護衛艦は撃沈または無力化されていく。旗艦と思われる敵空母を捕らえることにしたのは、敵の技術水準を知ると同時に保管されているであろうデータからゼーペンストの情報を引き出すためだ。調査自体は今までもやってきたがこれといった収穫は無かったので、目の前の敵空母は其を得るための格好の情報源なのだ。戦いにはまず何より情報が必須、これが無ければ作戦の一つも立てられない。

 

 全ての護衛艦が撃沈され、空母も1隻が大破して他の艦もカタパルトと武装を潰され、とうとう観念したのか敵旗艦は降伏を申し出てきた。

 

 降伏勧告を受諾したあとは増援を呼ばれないよう保安隊と機動歩兵を送り込んで監視させて、残った空母を曳航しつつ、私達はこの宙域から離脱した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~ゼーペンスト宙域・首都惑星ゼーペンスト~

 

 

【イメージBGM:無限航路より「Hombre febril(feverish man)」】

 

 

 

「アーハァー?領内に侵入してきた艦隊がいるって?」

 

 相変わらず退廃的な音楽が流れ、妖しいネオンの光に満たされているバハシュール城。その中央で、部下からの報告を受けたゼーペンスト領領主、バハシュールは、さして深刻そうな顔など一切見せずに敵襲の報告を聞いていた。

 

「だったらさっさと所属国家に抗議すればいいじゃないか、ウルゴ将軍」

 

 バハシュールはさも当たり前のように、自治領の守護を任せている部下の大柄な艦隊指揮官―――ウルゴ・ベズンに言った。しかし、ウルゴはばつの悪そうな顔をして、バハシュールに報告の続きを伝える。

 

「それが・・・その、侵入者は民間人のようなのです。ですから警戒のため、本国艦隊の出動許可をいただきたいのですが・・・」

 

「ハァーン?そーんなことしたらここの警備が手薄になっちゃうじゃないかぁ」

 

「しかし―――」

 

 バハシュールに要請を拒絶されても、ウルゴは自身の勘に従ってここは食い下がろうとする。

 警備のためにボイドゲートに派遣した機動部隊が鎧袖一触で撃破されたのだ。それだけでも、今までの海賊風情とは明らかに格が違う敵だと思い知らされた。だからこそウルゴはいつもなら報告など馬耳東風と聞き流してしまう目の前の領主に首を縦に振って貰おうと考えたのだが、既に頭が享楽にしか向かないバハシュールに耳を傾けさせるなど、最早無理な話であった。

 そんなウルゴに鬱陶しさを感じたバハシュールは、彼を制するように面倒臭げに告げた。

 

「わかったわかった。とりあえず警備隊には気をつけるように言っておくよ。さぁ、行った、行った」

 

「は・・・」

 

 バハシュールはシッシッ、と邪魔な虫を追い出すような仕草をして、言外にウルゴに対してさっさと立ち去ってくれと伝える。

 ウルゴもこれ以上何を言っても無駄だと悟り、バハシュールの居室を後にする。

 どこで先代の息子の教育を誤ってしまったのだろうと内心で自問するウルゴだが、既にそれはもう遅いことだった・・・

 

 もしここで、ウルゴが『紅き鋼鉄』の正体と宣戦布告を知っていたのなら、また違った対応になっていただろう。しかしゼーペンスト政府に向けられた宣戦布告文章は、それが癪に障ったバハシュールの手により既に握りつぶされた後であり、ウルゴがその存在を知るのはもうしばらく後のことだった。

 

 バハシュールの怠惰とその適当さが、後にこの自治領を崩壊へと導く引き金となることも知らず、ウルゴを追い出した彼はまた、享楽に溺れる生活に戻ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~ゼーペンスト宙域、小惑星帯~

 

 

「ふぅ~ん、成程ね・・・国相手に喧嘩を売る動機にしちゃ弱いけど、まぁいいわ。とにかく今は策を考えましょう」

 

《はい・・・それにしても、まさか霊夢さんも知っていたとは思いませんでしたよ》

 

「私達は被害者から直接依頼を受けてたからね。ま、あんたが知らないのも無理はないか」

 

 ゼーペンストの警備隊を蹴散らした後、ユーリ君の艦隊と合流した私達は、敵の目から逃れるためにあの宙域から移動した。時間的に考えて、ボイドゲート前に展開していた艦隊は既に本国に私達のことは通報してあるだろうから、増援が来る前になるべく早く離脱したかったのだ。

 

 そして鹵獲した2隻の敵空母を調査した結果だが、一部のデータが破棄されていたとはいえかなりの情報を得ることができた。

 連中の戦力についてだが、主に領内を警戒する警備隊が全部で70隻程度、主力の本国艦隊が150隻、親衛隊が40隻程度、合わせて260隻程度だと判明した。ファズ・マティ戦のスカーバレル艦隊より多少多めといった所だが、海賊と違ってフネの整備は行き届いているし、何より敵は実戦を想定した訓練を積んでいる。脅威度からすれば、ゼーペンスト艦隊の方が遥かに強敵だ。さらに艦載機についてだけど、空母に残されていたものを調査した結果、今まで遭遇した小マゼラン艦載機に比べて質の高い部品が使われていたという。成程、それが航空隊が苦戦した原因の一つか。

 それに、目的地の首都星ゼーペンストはこの本国艦隊と親衛隊に守られていて、迂闊に接近することができない。本星周辺の宙域もあまり遮蔽物がない開けた空間なので、攻めようとすれば直ぐに敵に見つかってしまう。

 

 さて、これをどうやって落とせばいいものか・・・

 

 私がユーリ君と話をしながら今後の方針について考えていると、レーダー担当のこころから報告が入った。

 

「艦長、前方に交戦反応・・・かなり大きいです」

 

「交戦反応?誰が戦ってるの?」

 

 報告では何者かがこの先で交戦しているらしいが、この宙域に侵入したのは私達だけではなかったのか?

 

「そこまでは分かりませんが・・・かなり大きな反応です・・・」

 

「妙ね・・・ゼーペンスト艦隊は、さっき得たデータを信用すれば大型戦艦クラスは運用してないんでしょ?それに主力艦隊が進撃するには早すぎる・・・一体何が戦ってるのかしら」

 

 私が件の交戦反応を示すデータを眺めて唸っていると、ユーリ君からもその話題が持ち出される。

 

《霊夢さん、此方でも交戦反応を捉えたんですが、確認のため接近してみますか?》

 

「そうねぇ、何が居るのか気になるし、そうしてみましょう。ただ、相手がゼーペンストの大艦隊だったら即座に離脱するわよ?」

 

《分かりました、確認してみます》

 

 そこで通信が切れると、ユーリ君の艦隊は反応があった宙域に向けて増速していく。私達も続いて、その宙域へと舵を切った。

 

 

 

 

「艦長、あれは・・・」

 

「・・・・っ、全艦、警戒態勢を維持して――!」

 

「りょ、了解です!」

 

 向かった先にあった反応、それは、私にとって忘れられないものだった。

 

 反応は三者あり、そのうち二つはカルバライヤでやり合ってた巡洋艦クラスと小型戦艦クラスの反応だ。以前砲撃戦をやってたあの連中が軒先を揃えて戦ってることに多少の疑問を覚えない訳ではないが、それ以上に問題なのが、三つめの反応の正体だ。

 

 

 ―――グラン、ヘイム・・・

 

 

 そう、何を隠そう、最後の反応はあの大海賊として名高いヴァランタインの乗艦、グランヘイムの反応だったのだ・・・

 観測機器の計器が振りきれるほどのエネルギー反応と、その特徴的なエネルギー放出パターンを記憶していた〈開陽〉の各種観測機器が、まるでパニックを起こしたかのように『DANGER!』と警告を鳴らしている。

 

「グランヘイム・・・何故こんな宙域に?」

 

「考察なんて今はいいわ。とにかく、ここをどう切り抜けるか考えないと・・・」

 

 今はまだ距離が離れているためかこっちに砲を向けてこないグランヘイムだけど、以前あれと戦ったときはこの〈開陽〉でさえあれに歯が立たなかったのだ。こんなところでアレに捕まって艦隊壊滅なんて悪夢は絶対に避けなければならない。

 

 画面上では、グランヘイムは他の二者の攻撃をものともせずに、適当に牽制砲撃を放っているように見える。

 

 相対する二者の艦もこのクラスの艦としてはエネルギー反応から見ても中々の高性能艦らしいが、グランヘイムの前ではそのようなことも全く意味を成さない。他の2艦が放った砲撃は当たらないか、当たってもグランヘイムの強固なシールドの前に弾かれてしまっている。

 

 加えて両者ともかなりの間戦っていたのか、よく見ると装甲外板なんかがボロボロだ。特に巡洋艦―――赤と黒のラーヴィチェ級の方はまるで穴空きチーズのようになるまで損傷させられている。シールドも既に磨耗しきっているのか、グランヘイムの砲撃が擦っただけでバチバチと火花を立てて消滅し装甲の構成素材が気化して煙のようになり、宇宙空間にデブリとしてばら蒔かれていく。

 

「あ・・・艦長!ユーリ艦隊が両者の間に向けて牽制砲撃を開始っ!」

 

「はぁ!?ちょっと、何やってるのよあいつ!」

 

 すると何を血迷ったのか、少し前に出ていたユーリ君の艦からグランヘイムと他の二者の間に向けて、牽制と思しきレーザーが発射された。・・・それでグランヘイムの気がこっちに向いたらどうなるか、分かってやっているのだろうか。

 

「ッ、全艦、回避機動の用意―――」

 

「あ―――グランヘイム、後退していきます!」

 

 私は万が一に備えて回避を命じ、ユーリ君に一言入れようと思ったのだが、その前に予想に反してグランヘイムはスラスターを吹かせて転進してしまった。

 

「・・・ふぅ、奴さんなんとか立ち去ってくれたか」

 

「グランヘイムの反応、ロスト―――何らかの潜航航行に移行したものと思われます」

 

 グランヘイムの反応が遠ざかっていき、遂にはこちらの探知範囲でも捉えられなくなる。肉眼でも、グランヘイムのスラスター光が遠ざかっていくのが確認できた。

 

「・・・あれは単に鬱陶しくなっただけだと思う。こっちに砲撃が飛んでこなかっただけでも僥倖ね」

 

「はい・・・素直に離脱してくれて助かりました」

 

 私の横で、早苗もほっと溜め息を漏らす。それだけグランヘイムを前にして緊張していたのだろう。以前あれと戦ったときは義体は無かったけど、彼女が〈開陽〉の統括AIである以上、あのときの戦闘は記憶している筈だ。

 

「あ、艦長―――前方の軽巡洋艦より通信回線に向けて何度もコールがされていますが、どうします?」

 

 軽巡洋艦といったら、あの赤黒のラーヴィチェ級の方か。確かあれ、前にすれ違ったときにも文句をぶつけてきたような気がするんだけど。

 

 私がそんな懸念を抱くなか通信回線が開かれたが、案の定、相手から飛んできたのは大声での抗議だった。

 

《おぃぃッ!!てめぇら何ジャマしてくれてるんだ!・・・ってまたお前らか!しかも今度は一緒ときた!》

 

「・・・『紅き鋼鉄』の霊夢よ。あんた、その艦でヴァランタインと戦おうなんて、大層な無茶をするものね」

 

《なんだとぉ、この小娘が!?分かったようなこと言ってくれるじゃねぇか!あんたにヤツと戦ったことがあるとでも言うのかよ!》

 

 ―――いちいち耳に響くのよ、あんたの大声・・・

 

 私が内心でそんな悪態をついても、相手の艦長と思しき若い男は抗議を止めない。大体なんであんな軽巡でヴァランタインと戦おうなんて気になるわけ?もしかして自殺志願者の類なのかしら。

 

「ええ。あんたと同じく、手も足も出なかったけどね」

 

 私なんて、目の前のこいつより多くの戦力を持っているだろう。〈開陽〉1隻の性能でも、エネルギー反応から推測されるこいつの巡洋艦よりは遥かに上だ。でも、ヴァランタインに艦隊戦では大敗北を喫した。私でさえそうなんだから、こいつごときがヴァランタインに勝てる道理なんてない。

 ・・・まぁ、白兵戦なら負ける気はしないんだけど。

 

《ちょっと、二人とも落ち着いて下さいよ!》

 

《ああ!?何だてめえ!そういえばお前、サマラのときも邪魔しやがった奴だよな!》

 

 そこにユーリ君が介入してくるが、どうやら彼には火に油だったらしい。相手の罵倒の対象が、私からユーリ君へと移る。

 

《〈ミーティア〉艦長のユーリだ。確かに、さっきのことは霊夢さんに一理ある。僕もあいつと戦ったけど、同じように手も足も出なかったさ》

 

《・・・ッ》

 

 ユーリ君にまで言われたのが堪えたのか、相手は悔しそうに歯軋りをする。ただの馬鹿かと思ってたけど、どうやらその程度の状況認識能力はあったらしい。

 

「それで、あんたはこれからどうする訳?見たとこかなりやられてるみたいだけど。何ならこっちが応急修理でもしてあげましょうか?」

 

《はぁ!?何で俺がてめえなんかに・・・・・・ッ、ああ、そうだったな、チッ。悪いがこっちは船体に加えてメインエンジンも調子が悪いみたいだ。手伝ってやるってなら応じてやるよ》

 

 私の提案に相手は乗り気ではなさそうだったが、横で誰かに耳打ちされると一転してそれに応じるような反応を見せる。あっちの副長かなんかに促されたのだとは思うが、それにしても、あの態度はどうにかならないものだろうか。

 

 ちなみに私がこんな提案をした訳であるが、どうも相手はフリーの0Gドッグみたいだったなので自治領潰しの頭数に加えられないものかと思ったためだ。確かに態度には問題があるんだけど、負けん気が強そうなあの性格なら自治領潰しにも応じるのではと考えたのだ。それに相手が応じる素振りを見せたということは、どうにか第一関門はクリアといったところか。

 

「なら一度色々と話し合う必要がありそうね。悪いけど、一度こっちの艦に来てもらえるかしら?それとだけど、黙ったままのもう1隻にも伝えてくれる?あんたら一緒戦ってたんだから、それぐらいは出来るでしょ?」

 

《ああ!?俺があいつに?・・・ッチ、仕方ねぇな。やっといてやるよ。まぁ待ってな。そんじゃあ準備できたらそっちに向かうぞ》

 

 告げるべき用件を告げ終えると、相手は一方的に通信を切る。ここでもやはり礼儀がなってないようだけど、単にそういう性格の奴なんだと納得して通すことにした。思惑はあるとはいえ折角こっちが修理を手伝ってやろうかと申し出たんだから感謝の一言ぐらいあって然るべきだとは思うんだけど、あれは自信過剰なのか単にそういう配慮が出来ないだけなのか・・・・まぁ、あの手の輩も今まで散々相手にしてきたのだから今更という感じもするけど。

 

「にとり?そういう訳だから物資の見積りしといてくれる?確か工作艦には多めに積み込んできた筈だから、まだ余裕は残ってるでしょ?」

 

《ああ、了解だ。直ぐに済ませておくよ》

 

 やはり先程のやり取りを聞いていたのか、整備班長のにとりは私がそう頼むと直ぐに作業に取り掛かってくれた。ここで物質を消耗するのは損失ではあるけれど、フネ1隻応急修理するだけの資源で強力な巡洋艦1隻が戦力になるというのであれば儲けものだ。

 

「まぁ、そういう訳だからユーリ君も後でこっちに来てくれる?色々と話があると思うから」

 

《了解です。では後ほど向かいます》

 

 ユーリ君も私の話を承諾したみたいで、相手の来艦と同じときにこっちに来てもらうことにした。

 あとはメイリンさん達にもこれを伝えて、しばらくここで待っててもらおう。

 

 

 ................................

 

 ........................

 

 ................

 

 ........

 

 

 あれから暫くして、あの巡洋艦の艦長からこちらに向かうとの連絡が入った。どうやらもう1隻の艦長にも話をつけてくれたみたいだ。

 同時にユーリ君達も来るみたいなので、私は出迎えのために〈開陽〉のハンガーデッキへと赴く。

 

 ヴァランタインと戦っていた2隻からそれぞれ内火艇が来航し、まずはあの巡洋艦の艦長が降り立った。

 

「よう、来てやったぜ。俺は〈バウンゼイ〉艦長のギリアスだ。よろしくな」

 

「『紅き鋼鉄』の博麗霊夢よ。それじゃあこれから会議室に・・・」

 

 私が来航した巡洋艦の艦長―――ギリアスを会議室に案内しようと控えの保安隊員に声を掛けようとしたところで、もう1隻の内火艇からも人が降り立つ。

 私はそれを迎えようと、その方角に振り向いたのだが―――

 

 

「よう、久しぶりだね、霊夢―――」

 

 

「あ、あんたは・・・」

 

 内火艇から降りてきた人影を見て、私は目を見開いた。

 

 そこにいたのは―――

 

 

「何で―――アンタがここにいるのよ・・・!!」

 

 

 赤い髪に紫の艦長服、そして何より魔理沙のようなその声と顔―――

 

 忘れるものか、謎の艦隊を率いて勝負を挑んできたあの少女・・・

 

 

 

 

 

 この手で吹き飛ばした筈の、マリサがそこに立っていた―――

 

 

 




最近8000字を越えた辺りで明らかに重くなって執筆がつらい・・・これどうにかならんものですかねぇ。妨害以外の何者でもないです。もうパソコンに変えようかな?

久々に謎の少女艦長マリサちゃんがログインしました。重ね重ね申しますが、彼女は魔理沙とは関係ありません。容姿は旧作魔理沙を意識してはいますが一応別人です。

本作の何処に興味がありますか

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