夢幻航路   作:旭日提督

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第四四話 リム・タナー天文台

 

 ~ネージリンス・ジャンクション宙域、惑星ティロア宇宙港~

 

 

 

「ねぇ、エピタフの有料展示会でもやれば人も金も集まるんじゃない?」

 

「えっ、いきなりどうしたんです?」

 

「最近は獲物が減って資金源に困っていたんだけど、こうすれば楽に稼げるかな~とか思ってね。どう?」

 

「どうって言われましても・・・」

 

 そうよ、元々エピタフなんて伝説級の代物なんだし、それを展示すれば一攫千金間違いなし!ついでにクルーも集められて万々歳ね!

 

 あー私ったらなんでこんなことに気付かなかったのだろう、と内心で自画自賛していたのだが、早苗の一言で脆くもそれは崩れ去った。

 

「・・・でも、この世界は基本世紀末なアウトローがデフォルトですし、それをやるにはちょっと危険かなって思いますね。それに、エピタフを目玉に人集めなんかしたら変な連中もごまんとやって来るのでは?」

 

「あ、そっか・・・ちぇっ、せっかく良い方法だと思ったのに・・・」

 

 希望を打ち砕かれて肩を落とす私の頭を、早苗は「なら他の方法を探しましょう!」と言って撫でてくる。今は早苗の優しさが有り難いわ・・・

 

 

「んっ・・・あれ、ユーリ君達じゃない?」

 

「へ――――あ、本当ね」

 

 宇宙港の一角を歩いていると、ふと早苗が立ち止まって宇宙船ドックに続く通路の方角を指す。それにつられて目線を向けてみると、確かにそこにはユーリ君達の姿があった。

 エルメッツァのときから彼等とは何度か顔を合わせているけど、まさかここでも会うことになるなんてね。

 

「おい、あれ、霊夢さんじゃないか?」

 

「本当だ・・・あの、お久しぶりですね」

 

 向こうも此方に気づいたようで、軽く手を振って挨拶してくる。

 

「そうね。カルバライヤの保安局以来かしら。あんた達もこの宙域に来ていたのね」

 

「ええ、この星にある研究所に用事があるので。霊夢さんも旅の途中とかですか?」

 

「まぁ、そんなところよ。でも研究所なんかに行って、何の用事があるの?」

 

「はい、実は僕達、ジェロウ教授の研究を手伝っているところで、ここにはサンプルを届けに来たんです」

 

「へぇ~、研究の手伝いなんて、あんたも物好きなことするのね」

 

「あはは・・・まぁ、旅の目的の為にも必要なことなので」

 

 軽く世間話のような感じで、ユーリ君と会話を交わす。どうやら、向こうはこの星に用事があって来たみたいだ。しかし、その研究って、一体何の研究なのかしら。

 

「ふむ・・・君が霊夢君か。中々面白い艦を使っていると噂のネ」

 

「あの・・・そちらは?」

 

 するとユーリ君達の後ろから、白衣を着た白髪の老人が歩み出る。あ、なんかニュースとかで見たような・・・

 

「あっ・・・!確かこの人、ジェロウっていう教授だわ。どっかの番組に出てたような」

 

「ええっ、本当ですか!?」

 

 記憶を探ってこの人の正体を当ててみると、早苗は驚いたような表情をして目をぱちくりさせている。何せ彼は小マゼラン一名の知れた研究者らしい。ここにあのマッド連中なんかが居たら、さぞ大変なことになるのが想像できるわ。

 

「如何にも、儂がジェロウ・ガンだヨ」

 

「初めまして、私は博麗霊夢よ」

 

「副官の東風谷早苗ですっ!」

 

 教授が自己紹介したので、私と早苗も名乗りを返す。しかし教授はそんな私達にはお構い無しに、早苗の様子をジロジロと見回すだけだ。

 

「あ、あの・・・?」

 

「ふむ―――君、アンドロイドだネ。ここまで人間に近いものは初めて見たヨ。随分と出来が良い。是非とも開発者に会ってみたいものだネ」

 

「へ!?・・・あ、有難うございます?」

 

 あ、そういえば早苗ってコントロールユニットの義体だったのよね。最近忘れかけてたけど。にしても、うちの早苗は殆ど人間と見分けがつかないっていうのに、よく見分けられたものね。これが科学者の目ってやつなのかしら。

 

「して人格AIもかなり成長が進んでいるようだ。いや、これは元々の出来かな?ふむ、興味深いネ」

 

「あの・・・ジェロウ教授?」

 

「おっと、これは失礼。AIとはいえ、レディには失礼だったかな」

 

「いえ・・・そこまで誉めていただけるなら、開発者も喜ぶのではないかと・・・」

 

 ようやく教授は早苗から離れたけど、早苗はまだ困惑気味だ。機械とはいってもあそこまで人間じみた性格なんだし、いきなりジロジロ見られて困惑しない方がおかしい。

 

「これは・・・もしやジェロウ・ガン教授で?」

 

「ふわぁっ・・・さ、サナダさん・・・?」

 

 するといきなり背後から声がしたものだから、思わず情けない声を出してしまった。サナダさん、いつからそこに居たのよ・・・私の勘でも気付かないなんて。

 

「君は?」

 

「お初にお目にかかります、霊夢艦長の下で科学主任をやっているサナダです」

 

「ほぅ、もしやこの個体の開発者かネ?」

 

「ええ、彼女の義体は私の作品です。見た目と感触は限りなく人間を再現しました」

 

「成る程、ところで、表面はやはりナノスキン構造か―――」

 

「はい、思考回路の方は・・・」

 

 サナダさんはジェロウ教授に自己紹介したかと思うと、回りの人達そっちのけで教授と科学雑談を始める。そのペースに私達はすっかり置いてけぼりを喰らってしまった。

 

「それはそれは、エピタフの研究ですか。実は我々の艦隊は検体の入手に成功しまして、非破壊調査なら既に行っているのです。よろしければ、そのデータを提供しましょうか?」

 

「なんと!アレの検体を手に入れたのかネ。それは驚きだ。検体があるのなら出来れば破壊検査もしたいところだが・・・」

 

「ははっ、一応アレは艦長の財産なので、下手したら私の首が飛んでしまいますよ。もう一つ検体があれば苦労しないのですが」

 

「元々エピタフは見付かるのが希なモノだからネ。仕方ないネ。検体が手に入れば是非とも分解して内部組成を残さず分析したいものだヨ」

 

「仰る通りです。ああ、こちらがそのデータになります」

 

「ほぅ、これは・・・」

 

 あ、これは駄目なやつね。完全に自分達の世界に入ってるし。

 

 

「・・・そうですか。では我々も向かうとしましょう。艦長!」

 

「ひゃいっ、な、何よ!?」

 

「我々もリム・タナー天文台に向かうぞ。解析データを手土産に研究情報の観閲が認められた」

 

「なに勝手に決めてるのよ!艦長は私なんだけど!!」

 

「まぁ、そう熱くなるな。小マゼラン一の権威様の研究データに触れられる機会など一生に一度あるかないかというほどだ。ここは講義を聞いてみたらどうかな?」

 

「・・・分かったわよ。どうせやること済んだら暇なわけだし、暇潰しには丁度良いわ」

 

「私は・・・ちょっと興味あるかも・・・」

 

 どうやらサナダさんは勝手にジェロウ教授に同行の許可を取り付けてきたみたい。勝手についていけばいいのに、何で私まで巻き込んでくるのよ・・・

 まぁ、暇だから別にいいんだけど。やることが無いよりはましね。

 

「ふむ、ならアルピナ君には連絡しておこうか。サナダ君だったね。同行者はどうするかネ?」

 

「そうですね・・・取り敢えず、5人ほどで行きましょう」

 

 ああ、また勝手に話進めてるし・・・もうサナダさんを押さえるのは無理みたい・・・疲れるわ。

 

 

 

 

 

 ~惑星ティロア、リム・タナー天文台~

 

 

 という訳で、その天文台前まで連れてこられました。

 最初は私と早苗、サナダさんの3人だったんだけど、何処からか騒ぎを聞き付けたのか霊沙のやつとシオンさんが合流して5人で向かうことになった。シオンさんはまだ分かるんだけど、何で霊沙までついてきたのよ。

 

「ほえー、これがリム・タナー天文台ですか。なんかシンプルな見た目ですね」

 

「小マゼラン最高の天文施設って謳い文句の割りにゃ、ずいぶんと地味な建物だなぁ。てっきりレーダーとかアンテナとかがドカドカ付いてんかと思ってたんだが」

 

 目の前にある天文台の施設を眺めて、早苗とトーロ君が感想を漏らす。うーん、天文台って聞いたからそれこそでっかい望遠鏡でもついてんのかと思ったけど、建物自体も意外と小さいのね。

 

「地上からの天体観測はもう役割を終えているもの。情報の収集機能と計算能力がここの売りなのよ。その分野で小マゼラン一という訳」

 

 私達が天文台の前に立ち止まっていると、建物の扉から特徴的な形の白衣を纏った女性が出てくる。けっこう若そうな女の人だけど、ここの研究員かな?

 

「ん?」

 

「おお、アルピナ君、久しぶりじゃネ!」

 

 その女性に対して、トーロ君は誰だといった感じの目線で見ていたけど、ジェロウ教授が声を掛けたことで彼の知り合いだと悟ったようだ。教授もユーリ君のフネにお世話になってたみたいだし、なにか聞かされていたんでしょう。

 

「ええ、お久しぶりです、ジェロウ・ガン先生」

 

「教授、この人が―――」

 

「うん、かつての教え子のアルピナ君だヨ」

 

「リム・タナー天文台所長のアルピナ・ムーシーです。よろしく。ところで、貴女方が教授が話していた、実物の解析データを差し出してくれたという方達ですか?」

 

 ジェロウ教授の紹介に合わせて、目の前の女性―――アルピナさんはこの天文台の所長だと名乗る。こんなに若そうなのに小マゼラン一の天文台を任されるなんて、大したものね。

 

「あ、はい・・・まぁ、うちの科学主任が勝手に話を進めただけなんだけど・・・」

 

「初めまして、博麗艦隊科学主任のサナダと申します。こちらは艦長の―――」

 

「・・・どうも、艦長の霊夢よ」

 

「へぇ、貴女がエピタフを・・・検体があるというのなら本来は此方でも解析してみたいものですが、他人の所有物に手を出すわけにはいきませんからね。データの提供とはいえ、協力に感謝します」

 

「いえ、礼には及びません。ところで、ジェロウ教授が持ち込んだサンプルの解析が終了したら―――」

 

「はい、承知していますよ」

 

 サナダさんは、アルピナさんと示し会わせたかのように話を進めていく。なんでもジェロウ教授がここにエピタフ遺跡のサンプルを持ち込んだとかで、その解析を依頼しているらしい。サナダさんはそれに加えてエピタフの解析データを提供することで研究に協力して、遺跡サンプルの解析データを観閲させてもらうという約束を取り付けたらしいのだ。まったく、マッド共は趣味のことになるとすぐに突っ走るんだから・・・常々そういう話は私を通してほしい、って言ってるんだけど、この様子だとこれからも独走するんでしょうね・・・

 

「ふむん・・・」

 

「・・・なんですの、先生。そんなにジロジロと」

 

「いや、相変わらず独り身のようだが、キミもいい加減身を固めるべきじゃないかネ?言ってくれれば、いつでもいい男を紹介しようじゃないか。私の顔は広いからネ。弟子の中でも、キミに憧れや尊敬の念を抱いている連中からいい男でも選んでおこうかネ?」

 

「せ、セクハラだ・・・」

 

「セクハラだぜ・・・」

 

 ジェロウ教授の発言に、早苗と霊沙は呆れ気味だ。かくいう私も、流石にさっきの発言はないんじゃないかって思うわ・・・お見合いの強制とか、私なら絶対蹴っ飛ばしてたからね。

 

「ハァ―――先生ったら、会う度にそればっかり。今日はそんなことをわざわざ言いにいらした訳ではないでしょう?」

 

「ああ、いやいや、それは挨拶みたいなもんだ。話は聞いてると思うが、今日はキミにお土産があってネ・・・」

 

 ジェロウ教授は指を鳴らして合図をすると、ユーリ君のクルーらしき人がこれまた随分と厳重そうなロックが施されたアタッシュケースを差し出す。教授はそれのロックを外して中身を取り出すと、アルピナさんに差し出して見せた。

 

「これがサンプルの一部だヨ。本体は後で彼のクルーに運ばせておく。楽しみにしてくれ」

 

「ほぅー、これがサンプルですか・・・話には聞いていましたが、確かに見たことのない素材ですね・・・」

 

 アルピナさんはジェロウ教授が手にしたサンプルを取って眺め、色々な角度から観察している。やはりこの人も学者さんなだけあって、興味を惹かれるものがあるとそれに飛びつく質らしい。あ・・・サナダさんとシオンさんもなんか混ざって観察してるし・・・

 

「・・・コホン、では、そろそろ天文台の中に案内することにします。こちらです」

 

「では、失礼します」

 

「ホラホラ、早く行かんかネ」

 

 一通り観察を終えたアルピナさんは一度咳払いをすると、引率の人みたいに一行を天文台の中へと案内する。

 私達はその言葉に従って、天文台の施設内に足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 案内された部屋の中は、天井一面に星が散りばめられた解析室のような場所だった。確かこういうの、プラネタリウムっていうんだっけ。いつぞやに河童共がそんなものを作ってた気がするわ。あれは本当よく出来た見せ物だったわね・・・

 

「星がいっぱい・・・」

 

「・・・きれい、だな」

 

「そうですね~、あ、あそこに見えるの、大マゼラン雲ですね!」

 

 霊沙と早苗も、ユーリ君のところのチェルシーさんとかと一緒になって一面のモニターに映し出された星空に見惚れている。星空なんていつも眺めてるようなものだけど、こうして落ち着いて見ると、やっぱり綺麗なものだ。

 

 ―――私は、この光に惹かれたのかも・・・なんてね。

 

 宇宙に出た理由なんてただ何となく、みたいな感じだったけど、この光景を見ると、私は星空の光に惹かれて宇宙に出るのを決めたのかもしれない。初めてこの世界に放り出されたあの時のことが、随分昔のことのように感じられる。

 

 

「ここの天球パネルはね、空間通商管理局から航路上のガイド衛生からの映像データを送ってもらっているの。管理局の開示制限が多いから全ての航路とは言わないけど、小マゼランを含む局部銀河のほぼ全域をリアルタイムで観測できるわ」

 

 私達がパネルに映される星々の様子に集中していると、アルピナさんがこのプラネタリウムのような設備仕様を解説してくれた。

 曰く、この部屋―――全周天球観測室は空間通商管理局から受け取った映像データをそのまま投影しているものらしい。普通の星空では遥か昔に発せられた光を見ているのだけど、この部屋のそれは今この瞬間に発せられた光だ。そう考えると、この施設って凄いのね。

 見たときからただのプラネタリウムなんかじゃないよねって思ってたけど、やっぱりこれも観測機器だったみたい。それと所々に惑星や恒星の拡大映像やデータなんかも流れてるし。でも、何故かそれも邪魔とは感じないのよね。その映像やデータも含めて、一つの景色のように感じられる。

 

「リアルタイム!?、それは凄いです!こんなに広い宙域を一度に観測できるなんて・・・」

 

「おっ、ユーリ見てみろよ、こっちにロウズ宙域が映ってるぜ」

 

「本当だ・・・なんだか懐かしいな」

 

「ははっ、ほんの数ヶ月前のことなのにな」

 

 早苗も装置の仕様に関心している横で、ユーリ君とトーロ君の二人は懐かしいものでも見たのか、昔を思い出すようにたそがれた雰囲気でいる。私には彼等の話は分からないんだけど、あっちはあっちで思い出深い場所でもあるみたい。まぁ、興味ないし訊かなくてもいいか。

 

「それでアルピナ君、これがさっき話したサンプルの種類全てだネ」

 

「ムーレアの遺跡から採取したものですね」

 

「ウン、それとこちらは遺跡の壁に書かれていた言語を書き写したものだヨ。それをデータディスクに入れたものだ。酷く言語体系が原始的だが、解析の方、期待しているヨ」

 

 ジェロウ教授はアルピナさんに端末から何かのリストみたいなデータを見せて、同時にデータディスクを彼女に渡す。多分、サンプルのリストと言語データとかだろう。

 

「それではサンプルの本体は此方に届き次第、お預かりさせて頂きますわ。言語メモのデータの方も預からせていただきますが、どちらも解析には少し時間がかかるかもしれません・・・」

 

「フム、・・・では解析が完了したら、ユーリ君の艦へ連絡を入れてもらおうか。サナダ君には此方から通信で伝える形でいいかネ?」

 

「ですね。アルピナさん、こちらが僕の艦のナショナリティコードです」

 

「ふむ・・・それでも支障はないか。では艦長、それで宜しいかね?」

 

「・・・別にどうでもいいわ」

 

 この話はサナダさんが勝手に始めたものだし、はっきり言って直接連絡してくれようが、ユーリ君経由でもどっちでも構わない。ユーリ君が連絡してくれるっていうのなら、そっちに任せましょう。

 

「分かったわ。では何か分かったらこちらに連絡します」

 

「よろしくお願いします。アルピナさんから連絡があったら、霊夢さんの方にも連絡を入れておきますね」

 

「了解よ」

 

 用事もこれで終わりと一挨拶して艦に戻ろうと思っていたところ、ふいにアルピナさんに声を掛けられた。

 

 

「ねぇ、霊夢さんだっけ。ユーリ君はエピタフに興味があるって聞いたけど、貴女はどうなのかしら?」

 

「え、私?・・・う~ん、エピタフの価値とか信仰とか、そういうのには興味があるけど、伝説そのものにはあまり興味がないわ」

 

「なんだ、ロマンのない奴だな」

 

 横で霊沙が小言を挟むが、アルピナさんはそれに構わず話を続ける。ていうか霊沙も失礼な奴ね。私だって、時には浪漫を感じたりもするわ。

 

「そうなの。でも、エピタフには世界を変えるという伝説があるわ。その伝説を子供騙しだという人もいるけど、私はそうは思っていないわ」

 

 アルピナさんは私だけでなく、ユーリ君にも聞かせるように話を続ける。

 それにしても、エピタフの伝説かぁ。手にするものは莫大な財を得るとか、そんなやつだったかしら。何て言うんだろう、私って、そういうのはただ聞かされただけじゃあんまり浪漫とか感じないのよね・・・

 もっとこう、面白い演出とか、物語とか―――そういうのがあると共感しやすいんだけど。

 

「―――実はね、私は、エピタフはデッドゲートを復活させる力を持っているという仮説を立てているの。デッドゲートが復活すれば人類の活動できる宇宙が広がる・・・そう考えれば、宇宙を変えるという伝説も、あながち間違いじゃないわ」

 

「なるほど・・・」

 

 ・・・・・・

 

 アルピナさんの仮説を聞いて、言葉が詰まる。

 ユーリ君は授業を聞くような感じでアルピナさんの話を聞いているけど、私はアルピナさんの話をそんな軽い感じで聞き流すことは出来なかった。

 

「それって・・・」

 

「失礼、そのことで話が―――」

 

 私が口を開いた矢先に、サナダさんが割って入ってくる。

 

「まさかその仮説に辿り着いている方がいるとは、これは驚きです。・・・実はですね、我々が入手したエピタフの検体についてですが、アレはその際に一度起動している。此方が記録映像になりますが、エピタフの起動と同時に付近にあったデッドゲートに向けてレーザー光の発射が確認され、その直後からデッドゲートが機能していることが確認されています。女史の仮説は、恐らく間違いないものかと」

 

「えっ・・・まさか、本当だったなんて・・・」

 

「これは・・・面白いネ!」

 

「す、凄い―――」

 

 サナダさんが端末からそのときの記録映像を呼び出し、それを覗き見るアルピナさんやジェロウ教授、それにチェルシーさんを始めユーリ君のところのクルーは皆口を開けて、食い入るように映像の様子を観察している。

 

「霊夢さん・・・それ、本当なんですが?」

 

「―――ええ。私の目の前で起動したんだもの。忘れるわけないわ」

 

 あんな光景、忘れるわけない。

 エピタフを手に取ったかと思うと、いきなり眩い閃光を発して起動したエピタフ。あのときのサナダさんっていったらイカれた狂信者みたいな顔してたぐらいだから、本当に凄いことなんでしょう。

 ああ、そういえばあのエピタフ、ずっとサナダさんの管理下なのよね・・・見つけたのは私なのに、ぐぬぬ・・・

 

「ま、マジかよ・・・」

 

「ええ、本当。ああ、でもあまり口外はしないでくれる?私がエピタフを持ってるなんて知られちゃ面倒な連中に絡まれそうだし」

 

「・・・分かりました。霊夢さんには借りもありますし、エピタフを持っているということは心の中に留めておきます」

 

「懸命な判断ね」

 

 ユーリ君のことだからおおっぴらに口外しないだろうけど、実際ヴァランタインの野郎は嗅ぎ付けて襲ってきた訳だし、雑魚ならともかくあんな大海賊に付け狙われるのは御免だ。アレは撒き餌としては効果がありすぎる。

 

「・・・では、映像データの方もそちらに提供させて頂きます。お力になれたようで何よりです」

 

「有難うございます、これで研究も進展することでしょう」

 

「フム・・・しかしエピタフの起動条件は全く不明ときたか・・・是非ともこの手で解析してみたいものだネ」

 

「エピタフの組成は確か・・・」

 

「ええ、それに加えて・・・」

 

「成程、エピタフってそんな構造だったんですか―――」

 

 科学者軍団の方はすっかりエピタフの起動についての話題に熱中している。こっちにもその話が聞こえてくるけど、話があまりにも専門的すぎて理解できない・・・早苗は興味津々といった感じで聞き耳を立てているけど、理解できてるのかしら。

 

 それから小一時間、科学者共のエピタフ談義は続いた。ジェロウ教授とアルピナさん、それにサナダさんとシオンさんは心底楽しい時間だったでしょうけど、横で待たされていた私達にとっては拷問に近かったわ・・・下手に話の内容を理解しようとしたら、専門用語のオンパレードで頭が沸騰しそう・・・

 霊沙なんか勝手についてきた癖に寝てやがるし、ユーリ君とトーロ君もなんだかぐったりした様子だった。唯一早苗だけがキラキラした様子だったけど、よくアレが分かったわね・・・

 ようやく科学者共の話が終わると、私達はそこで解散となった。ああ、一度神社に戻りたいわ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~惑星ティロア宇宙港、〈開陽〉艦橋内~

 

 

「あ、艦長。戻られましたか」

 

「なに、ミユさん」

 

 艦橋に戻るや否や、ミユさんが真剣な表情で私を呼んだ。

 なにかあったのかな?

 

「はい、実は先程エルメッツァのオムス中佐からIP通信で連絡が入りまして...『至急見せたいものがあるから、急いでツィーズロンドの司令部まで来てほしい』とのことです」

 

「オムス中佐?、ああ、スカーバレルの退治を依頼してきた軍人ね。それで、他に何か言ってなかった?」

 

「後は、この通信はユーリ君の艦隊にも入れているから、できれば一緒に来てほしい、と。話はそれだけです」

 

 肝心の内容については会って話す、という訳か。多分通信に乗せられないような内容なんでしょう。盗聴が怖いから直接会って見せたいって訳ね・・・ああもう、なんでこう面倒なことが続くのよ・・・

 

「―――分かったわ。早苗、出せる艦はある?」

 

「えっと、はい・・・現在出港可能なのは〈ブクレシュティ〉と〈モンブラン〉の2隻になりますね」

 

 出せるフネは2隻か・・・万が一のことを考えたら心許ないけど、至急らしいので仕方ないか。まあ、付近一帯の海賊は一掃されてるし、ワープで突っ切れば問題ないわね。

 

「・・・ミユさん、ユーリ君のフネに連絡して、こっちに来てもらうように言ってくれる?」

 

「了解しました」

 

 しかし、ユーリ君と同じ星にいるときにこの通信とは、有難いタイミングね。船脚はこっちの方が速いし、あっちも急げって言ってるんだから、ここは一緒に向かった方が良さそうだ。

 

 《―――こちらユーリです。霊夢さん、どうかされましたか?》

 

「ねぇ、そっちにオムス中佐からの通信は届いてる?」

 

 《ええ、届いてますが、確か見せたいものがあるから霊夢さんと司令部に来てほしい、との事でしたよね。ですから出港準備を急ごうと思ったのですが・・・》

 

「そのことなんだけど、何人かクルーを連れてこっちの艦に来てくれない?私の艦隊なら今すぐ出せるフネもあるし、ついでに足も速いわ。とりあえず艦隊はこの星の周りにでも置いといて、さっさと行きましょう。一緒になって行動した方が、色々と都合がいいわ」

 

 《・・・確かにそっちの方が早く着きそうですね。分かりました。トスカさん達を連れてそっちに向かおうと思います》

 

「了解、待ってるわ」

 

 ユーリ君がこちらの提案を了承すると、そこで通信は終了した。

 さて、そんじゃあこっちも、さっさと準備を済ませてしまおうか。

 

「という訳だから、〈ブクレシュティ〉と〈モンブラン〉で臨時編成の特務艦隊を組ませるわ。コーディはその間本隊の指揮を執って頂戴。それと、クルーの上陸休暇はそのままでいいわ。この艦を出す訳ではないからね」

 

「イエッサー」

 

「了解しました。〈ブクレシュティ〉に通信を入れておきます」

 

「クルーの皆さんには、端末の方から送信しておきますね」

 

 私が方針を決定すると、ブリッジクルーの皆はてきぱきと行動に移る。

 ミユさんが通信でブクレシュティに話を伝えると、艦長席のデスクに「了解」と、一言メッセージが彼女から届いた。相変わらず淡白な奴ね。

 

「出港はユーリ君達が来てからでいいわ。早苗、彼等が来たら〈ブクレシュティ〉に移るわよ。それと、一応エコーとサナダさんも連れていくわ。端末からでいいから、同行するように言っておいて」

 

「了解しました!メッセージ送信、っと」

 

 早苗はホロモニターを呼び出すと、そこから二人にメッセージを送る。私と早苗だけじゃ何かあったときには足りないし、科学者と軍人の二人には同行してもらおう。

 

「あ、霊夢さん。タラップにユーリ君達が見えているようですよ」

 

「以外と早いのね。それじゃ早苗、全員集合次第、ツィーズロンドに向かうわよ」

 

 そういえば、さっき確認したけどユーリ君の艦隊って私の艦隊の近くに停泊していたのね。それは来るのが早いわけだ。

 ユーリ君はトスカさんにトーロ君を伴って私達に出迎えられたあと〈ブクレシュティ〉に乗艦した。客人を乗せた〈ブクレシュティ〉は、そのままティロアの宇宙港を後にする。ああ、ちなみに向こうに行くメンバーだけど、エコー率いる保安隊から護衛の名目で一個小隊が同乗している。いつもとは違って賑やかになった艦橋にアリスはなんだか居心地悪そうだったけど、そのうち慣れてくれるでしょう。

 

 でもまぁ、オムスさんの話って一体何なのかしら。なんか嫌な予感がするし、絶対面倒事よねぇ。こういう時なんかだいたい勘が当たるんだから、考えただけでも憂鬱だわ・・・

 

 

 

 




最近は一万字ほぼ丁度に収まる話が多いです。やはり戦闘がないと短くなってしまいます。

ジェロウ教授とサナダさんの初顔合わせです。本当はもっと早くに会わせたかったのですが、中々いい機会を見つけられずにここまで延びてしまいました・・・

霊夢達は一三話の時点でエピタフの起動に遭遇しています。アルピナさんは図らずも仮説を証明された形になりますね。原作ではもっと後のことになるのですが。

ちなみに一部イベントの順番を入れ替えています。保安局と絡むのは少し先になりますね。

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