夢幻航路   作:旭日提督

42 / 109
いつの間にかお気に入りが100件を越えたみたいです。今後とも「夢幻航路」をよろしくお願いします。

今回で海賊騒動も一段落です。カルバライヤ編も終わりが見えてきました。


第四○話 グアッシュ海賊団の最期

 

 ~監獄惑星ザクロウ~

 

 

 トスカさん達を無事に救出することには成功したが、肝心の依頼を達成することは出来なかったのは残念だ。

 所長の隠し通路から戻った私達は、西館を攻めているというシーバットさんと合流した。西館は私達が一度攻めていたのだが、目的を果たして撤退した後に敵の生き残りが最後の抵抗とばかりに拠点にして立て籠ったらしい。

 

 そこでシーバットさん達にトスカさんが事の顛末を伝えると、ウィンネルさんから所長は既に逃げたとの情報が伝えられた。自分達はまだ動けないから、暗に追撃してくれと言ってるのだろうか。タダ働きさせようっていうのは気に食わないけど、こっちも所長とやらを殴ってやらんと気がすまないところだ。そうと決まれば転進あるのみ。

 

 サマラさんも艦が迎えに来たらそれに乗り込んで足早にザクロウを後にしていた。グアッシュの壊滅は果たしたからこれ以上付き合う道理はないってことか。それより、あれがエリエロンドだったのね。

 頭上を見上げると、赤く塗装された細長い艦が大気圏を抜けて上昇していき、じきにその姿は見えなくなる。

 

「ううっ・・・サナダさんの話は本当だったみたいですね。艦隊のレーダーにも捉えられませんでした」

 

「別に気にしなくていいわ。あっちのステルス性が常識はずれなだけだから」

 

 確かエリエロンド級の外壁はブラックラピュラスとかいう黒体で出来ていると聞く。それは高いステルス性を誇るという話だから、エリエロンドがザクロウに近付いてもうちの艦隊には映らなかったという訳か。

 

「それじゃ行くわよ。シーバットさん、私達は所長を追うわ。一応生け捕りにしてくるつもりだから心配無用よ」

 

「僕達も行きます。グアッシュ海賊団を壊滅させなければムーレアには向かえないので」

 

「・・・そうか。武運を祈る。報告ではザクロウからくもの巣に向けて隠し航路が延びていたらしい。これがその航路図だ」

 

 私とユーリ君がシーバット宙佐に所長を追撃することを告げると、宙佐はそれを承諾する。それと海賊団が使っていたであろう隠し航路の情報が入ったデータプレートを手渡してくれた。

 所長の追撃も本来はあっちがやるべき仕事なんだろうけど、宙佐達がまだ動けない以上、私達に任せるしかないと思ったのか。

 

 

「んじゃ俺も行きます。俺の艦は無事でしたよね?」

 

「ああ、バリオ、二人の面倒は頼んだ」

 

「了解っ」

 

 どうやらバリオさんもついてくるみたいだ。今まで閉じ込められてたんだから休んでいればいいのに、仕事熱心なことだ。それとも、やっぱり所長に嫌味の一つでも言ってやりたいのかもね。

 

 という訳で私達はザクロウからの出港準備を進め、所長追撃戦に移った。地上戦力を一番展開していた私達が最後になったけど、船脚は速い方なので途中でユーリ君達に追い付くことができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~グアッシュ海賊団拠点"くもの巣"周辺宙域~

 

 

 

「艦長、前方にエリエロンドの反応を探知。ステルスモードは解除しているようです」

 

 シーバットさんが教えてくれた隠し航路を進むと、レーダーを監視していたこころがサマラのエリエロンドを捉えたみたいだ。あっちは機関を止めているみたいだし、わざわざ待っていたのだろうか。

 

《ユーリ君、霊夢君、此方のレーダーにエリエロンドの反応を捉えた。見えるか?》

 

「ええ。捕捉したわ」

 

《此方でも捉えました》

 

 そこに、バリオさんが回線を繋いで確認してくる。

 

「映像入りました。メインパネルに出力します」

 

 光学映像による解析も終わったらしく、ミユさんがその映像を天井のメインパネルに表示した。

 

 そこには、ぽつんと浮かぶ小惑星のような物体と、それに寄り添うエリエロンドの様子が見てとれる。だが、小惑星のような物体は自然に出来たものとしては少し不自然な形だ。なんかパイプとかノズルみたいなものまで見えるし。

 

「エリエロンドの左側にある小惑星からインフラトン反応が検出されています。どうやら人工物のようです」

 

 ミユさんが分析の結果を報告する。形からやはりとは思ったが、あれは人工物で間違いなかったみたいだ。エリエロンドはどうやらあれに細工をしていたらしい。だからこの宙域に留まっていたのか。

 

《―――そう、これが私の航行基地、コクーンだ》

 

 そこに、突然回線に割り込んできたサマラさんの声が響く。

 

「ほう、移動機能を持った基地か・・・これは使えそうだな」

 

「止めなさい、サナダさん。今はそんな金も資源もないわよ」

 

「いつかの話だ。今すぐにとは言ってないぞ」

 

 案の定と言うべきか、やはりサナダさんは反応してしまったようだ。お願いだから、これ以上は暴走しないで・・・

 

《航行機能を持つ基地とは、成程な。どうりで今まで本拠地の所在が掴めなかったわけだ。しかし、いいのかい?あんたの大事な秘密基地を見せちまって。ここには宙域保安局の俺もいるんだぜ?》

 

《構わんさ。じきに廃棄する代物だ》

 

 回線では、サマラの航行基地についてバリオさんが尋ねる。一応彼は保安局の人間なんだし秘密基地なんて見せて良いものかと思ったのだけれど、もう要らないものだから別に見せても構わないということらしい。

 

《廃棄?棄てるんですか?》

 

《いや、違うな。奴等の本拠地にぶつけるのだ》

 

《ぶつける!?この基地をか?》

 

 話を聞く限り、サマラはあれを"くもの巣"にぶつけるつもりらしい。これはまた、随分と大きな花火大会になりそうだ。

 

「―――そっちは大丈夫なの?なんか女海賊サマが仕出かそうとしてるんだけど?」

 

《―――ええ。もうザクロウにも"くもの巣"にも居ないことは分かりきっていますから、此方は何も言いません》

 

 一応メイリンさんにも連絡を取ってみたが、どうやらあちらさんは"くもの巣"での花火大会は別に構わないらしい。もう奪還対象は居ないと分かりきってるからグアッシュがどうなろうと知ったことではない、ってことね。

 

《―――そうだ、連中の艦隊が潜む小惑星帯"くもの巣"・・・そこにこいつを突っ込ませれば・・・》

 

「一網打尽、って訳ね」

 

 私はサマラの後に続けて付け加える。確かにあれだけの大質量物をぶつけたりなんかしたら、あの小惑星基地は持たないだろう。

 

《・・・お前は?》

 

「―――博麗霊夢よ。あんたとは事を構えるつもりはないから安心しなさい」

 

《博麗――――ほぅ、お前があの"紅白の海賊狩り"か。まさかこんな娘だったとはな》

 

「―――何よ、失礼ね」

 

 そういえば、サマラにはまだ名乗ってなかったわね、私。というか"紅白の海賊狩り"なんてまた、いつの間にか知らない二つ名が付いてるし・・・

 

「ああそうだ、連中大マゼラン製の艦船まで持ってるみたいだから、撃ち漏らしにはせいぜい気を付けなさいよ」

 

《ほぅ、連中はそんなものまで揃えていたのか。だが、このエリエロンドが所詮劣化モデルに過ぎん連中の艦に遅れを取るとでも?》

 

 一応サマラにもグアッシュが大マゼラン製の艦を持っているとは伝えたのだが、彼女はそれがどうしたと言わんばかりの態度だ。これから行われる花火大会とエリエロンドの性能を考えれば、そうなるわよね。

 

《・・・・まぁいい。では"くもの巣"へと向かうぞ》

 

 そこでサマラは一方的に通信を切断する。接続も切断も一方的なタイミングだ。他人のペースに合わせる気はないようだ。まあ名の知れた大海賊なんだし。

 

「通信、切断されました」

 

《きりやがったか・・・しかしそうか、これなら一人で連中を壊滅させられる自信も分かるぜ》

 

《ですね。今は大人しく、サマラさんの言うとおりにしましょう》

 

《了解だ》

 

 ユーリ君とバリオさんの二人も、今はサマラの策に乗ってみることにするようだ。私もその点は同意かな。連中とまともにやり合えば30隻近い大マゼラン艦と戦う羽目になるんだし、わざわざあっちの土俵に付き合ってやる道理はない、か。

 

 

 程なくするとサマラの航行基地〈コクーン〉乗ってみることにメインノズルに火が入り、加速を開始する。それに合わせて、私達も"くもの巣"へと進路を向けた。

 

 

 

 

 そのまま私達はくもの巣外縁宙域まで進撃してきたのだが、以前進攻した時と同じように、まだ連中の迎撃はない。だが、ここから"くもの巣"までは光の速さでも3分はかかる距離だ。まだ見えないだけで、既にあっちは此方を見つけて迎撃準備を進めているかもしれない。だが、小惑星帯の中ではi3エクシード航法は使えないので、そのタイムラグを考慮しても戦闘までの時間には余裕がある。

 

「まだ敵艦隊の反応は見られませんね・・・」

 

「そのようね。だけど警戒は怠らないで」

 

 レーダーには移っていなくとも、既にここは敵地なのだ。いつグアッシュの襲撃があるか分からない。レーダーの影からいきなり奇襲されても対応できるよう、戦闘配備のままで進撃を命じる。

 

《"くもの巣"は密度の高い小惑星帯だ。レーダーも効かないから隠れるにはもってこいだが、不意討ちする側にとっても都合が良いという訳さ》

 

 再びサマラが回線に割り込んできたかと思うと、ご丁寧なことに解説までしてくれる。ということは、前回のあれも私達の艦隊を誘引した訳ではなくてあそこまで近付かれないと分からなかったってことか・・・以外とその辺りはおざなりなのね。所詮海賊、いくら正面戦力が充実していようと警戒監視は二流三流、ってことか。私なら小惑星帯全域にセンサーをばら蒔くぐらいのことはやるんだけど、敵さんそこまでの余裕はないみたい。単に攻撃される訳がないという驕りなのかもしれないけど。

 

《では始めるぞ、ショータイムだ》

 

 

 

 

 

【イメージBGM:無限航路より「Contraataque(反撃)」】

 

 

 

 サマラが指を鳴らすと、〈エリエロンド〉の隣に浮かんでいた小惑星基地〈コクーン〉のエネルギー反応が跳ね上がり、一気に加速を開始する。

 

 大質量を動かせるほどの出力なだけあって、なかなかに迫力がある風景だ。〈コクーン〉に備え付けられた6基の大直径ノズルが全力で噴射を続け、その巨体を"くもの巣"へと進めていく。

 

「エンジン出力、15秒後に臨界点へ。遠隔コントロール異常なし」

 

 〈エリエロンド〉の艦橋内で、〈コクーン〉の遠隔操作を担当していた長身の副長、ガティ・ハドがサマラに報告する。

 

「ふふ・・・さて、どうなるかな」

 

 〈コクーン〉が"くもの巣"に近づくにつれ、映像にはタイムラグが入り僅かに遅れが生じるようになる。

 加速を開始してから凡そ5分後、遂に〈コクーン〉は"くもの巣"を間近に捉えた。

 

 ここにきてグアッシュ海賊団の側も事態を悟り、出港が間に合った艦や拠点周囲の砲台で迎撃を試みる。しかし、十分な加速を与えられた大質量物である〈コクーン〉はその程度で止まることはなく、無慈悲に小惑星を押し潰して進む。

 

 もう衝突は避けられないと悟ったのか、出港が間に合った艦は散り散りになって"くもの巣"からの脱出を試みる。しかし〈コクーン〉に押し潰された小惑星や"くもの巣"の破片が超高速を維持しながら小惑星帯を飛び回り、それが別の小惑星と衝突することでさらに細かくなった破片が別々の方角へと飛び散る。いくら細かくなったとは言っても元が小さくても全長数kmはある小惑星だ。その破片は大きなものでは重巡洋艦サイズもあり、そんなものに触れた艦など只では済まない。グアッシュ海賊団の大半を閉めるバクゥ級やタタワ級といった中~小型艦艇では破片の衝突に耐えきれず、次々と爆散していく。数の少ない大マゼラン製のシャンクヤード級やマハムント級巡洋艦は流石に頑丈だったが、自身の身の丈ほどもある破片の衝突には流石に耐えきれなかったようで、こちらもその殆どが轟沈するか、大破した状態で漂流していた。

 

 一方、"くもの巣"の内部はさらに悲惨だった。

 

 艦船が出港する入り江に当たる箇所では我先にと逃げようとした艦が渋滞を起こし、その後ろからも別の艦が押し合うことで衝突事故が度重なり発生し、終いには身動きが取れなくなる。そこに小惑星の破片と〈コクーン〉の本体が迫り、動けなくなった艦は基地としていた小惑星の間に挟まれ、潰されるようにして次々と轟沈していく。"くもの巣"そのものも〈コクーン〉に押し潰され、個々の小惑星を繋いでいたパイプラインが切断され、無惨なまでに引きちぎられていった。

 

 

 

《ふ、ふふっ・・・アハ・・・・・・アハっ・・・アハ―――アハハハハハハハハハッ!!》

 

 

 

 生き残っていた"くもの巣"とその場にいた艦船の通信回線には、凍りつくほどに冷酷なサマラの冷笑が響き渡っていた―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《アハ、アハっ・・・アハハハハハハッ―――》

 

 通信回線には、未だにサマラの冷酷な笑い声が響いたままだ。なんだか聞いてるそばから背筋が凍る思いだ。無慈悲な夜の女王なんて二つ名に相応しいほどに冷たい。

 

「・・・これ、いつまで続くんですか?」

 

「さぁ?私には分からないわ。なんならサマラにでも聞いてみなさい」

 

「うげっ、それは無理ですよぉ―――」

 

 ノエルさんはあまりの大音量にヘッドフォンを切って、涙目になって縋りついてくる。・・・これは普通の人にはちょっと厳しいわね・・・

 艦橋を見回してみると、他のクルーもサマラの笑い声に引き気味だ。皆、目を反らすように顔を背けて冷笑を誤魔化そうとしている。

 

「ううっ・・・なんで女の人なのにあんな声が出るんですかぁ~」

 

 早苗もあまりの冷笑と音量の前に耳を塞いでいるみたいだ。表情も苦いものを口に入れたような感じで涙目だ。

 

 ここで平然としているのはせいぜい私ぐらいではないだろうか。鬱陶しいのには変わりないけど、顔を歪めるほどのものではない。

 

 しかし、彼女が"無慈悲な夜の女王"なんて名前で呼ばれているのにも納得だ。逃げる隙なんて与えずに、相手を土俵に上らせる前に殲滅する。さらに残党には冷笑を響かせて残った士気まで根こそぎに奪っていく。これじゃあ抵抗する気なんて起きないわよ。

 

 私が内心でそんな感想を抱いていると、そこに警報の音が響く。

 

「―――っ、敵艦隊です。数は25」

 

「艦種識別・・・出ました!バクゥ級11、タタワ級2、シャンクヤード級6、マハムント級3、それに―――ザクロウの装甲空母が1隻と戦艦クラスが2隻です!」

 

 警報で正気に戻ったこころが報告し、ミユさんが敵戦力の分析を始める。艦隊の編成を見る限り、どうやら脱出してきた所長の艦隊と鉢合わせたってところかしら。

 

「敵戦艦の詳細判明。敵戦艦2隻のうち1隻はファンクス級、もう1隻はカッシュ・オーネ級の模様!」

 

 ミユさんの分析が終了すると、メインパネルにその戦艦の要目が記される。

 ファンクス級戦艦は以前交戦したシャンクヤード級をそのまま拡大したような艦型で、翼を広げたような前部から艦尾に向かって尾のように艦体が延びている。

 もう一方のカッシュ・オーネ級という戦艦は初見だ。これはファンクス級とは対照的に重圧な艦型で、中央の艦体から三菱をひっくり返したような状態で別の胴体が接続された形をしている。

 

「艦長、気を付けろ。あの2クラスは大マゼランの海賊が運用しているタイプの戦艦だ。性能は本場より劣化しているかもしれないが、今までの連中とは攻撃力が桁違いだそ!」

 

「分かってるわ、サナダさん。全艦、戦闘配備!装甲空母以外は沈めなさい!」

 

「了解、全艦戦闘配備!火器管制システム立ち上げだ!」

 

 私が戦闘配備を命じると、クルーは素早く態勢を切り替えて配置につく。

 

《―――霊夢君、前方の艦を見たか?》

 

「ええ。逃亡した所長の艦でしょ」

 

《そうだ。ヤツは生かして捕らえたい。色々聞きたいことがあるんでね》

 

「分かったわ。任せておきなさい」

 

 そこでバリオさんから通信が入る。所長は生かして捕らえたいとのことだが、それは元より承知だ。面倒を作った責任は取って貰おう。

 

《霊夢さん、私の艦は取り巻きの護衛艦を排除します!中央は任せました》

 

「了解・・・って言っても、少し骨が折れそうね。まぁいいわ。小マゼラン艦の連中はそっちに任せるわ厄介なのはこっちで片付けるから」

 

《はい。ご武運を》

 

 メイリンさんとも簡素な打ち合わせを終えて、艦隊はグアッシュの生き残りを捕捉するために加速する。

 ユーリ君の艦隊とメイリンさんの〈レーヴァテイン〉は前衛のバクゥ級とタタワ級をやるみたいだ。必然的に、此方は大マゼラン艦の連中を相手取ることになる。

 

「特務艦隊と〈ラングレー〉は砲戦距離外へ退避。非戦闘艦は〈サチワヌ〉〈青葉〉、〈ラングレー〉にはヘイロー級3隻を護衛につけなさい」

 

「了解です」

 

 砲撃戦になる前に、工作艦と輸送艦、空母は退避させる。これらの艦を大マゼラン戦艦の砲撃に晒す訳にはいかない。

 

「先ずは航空戦よ。〈ラングレー〉から攻撃隊を出して」

 

「本艦の艦載機隊は如何いたしますか?」

 

「まだ出さなくていいわ。ザクロウ戦で消耗しているでしょうし、敵の装甲空母を制圧する段階になってから出しなさい」

 

「了解」

 

 ノエルさんが尋ねてきたが、〈開陽〉の艦載機隊はザクロウを攻めるときにだいぶ働かせている。連戦では疲弊もあるだろうし、しばらくは休ませておこう。敵の装甲空母も1隻だけだから、〈ラングレー〉の艦載機だけで充分だ。

 

「攻撃隊発進後、敵の巡洋艦に向けてミサイル攻撃に入るわよ。フォックス、準備しておいて」

 

「イエッサー。グラニートミサイル装填。位置座標指定するぜ」

 

 本当ならあいつらも鹵獲して売っぱらってやりたいところだけど、モタモタしていると友軍のユーリ君やメイリンさんが危険だ。あっちは小マゼランの艦船だし、下手に大マゼラン艦とぶつかると危ない。

 

「〈ラングレー〉より第一次攻撃隊66機、発進しました。敵艦隊に向かいます。敵装甲空母からは戦闘機16機が発進した模様です」

 

 レーダーで戦況を監視していたこころが装甲空母からの艦載機反応を捉える。たかだかその程度の戦闘機なら焼け石に水だ。うちの艦載機隊と装甲空母の艦載機隊が激突すると、敵艦載機の反応は溶けるように消えていった。性能の低いビトンで2倍にあたる数のスーパーゴーストを相手にしたのだ、当然の結果と言えるだろう。

 

「各艦のデータリンク完了。対艦ミサイルによる長距離雷撃戦に移行します」

 

「了解っ、グラニートミサイルVLS、一番から四番まで解放、発射!」

 

 続いて、〈開陽〉〈ピッツバーグ〉〈ケーニヒスベルク〉〈東雲〉〈有明〉の5隻から長距離対艦ミサイル〈グラニート〉及び〈ヘルダート〉が発射され、艦載機隊の攻撃前に敵艦隊に到達する。

 何れも大型の対艦ミサイルなので幾つかは迎撃されたが、グラニート2発が直撃した敵マハムント級は轟沈、シャンクヤード級も3隻が大破または轟沈して戦列を離れていく。

 

「敵2隻のインフラトン反応拡散!撃沈しました」

 

「第一次攻撃隊、敵艦隊に接触!」

 

 初戦は上場、といったところか。画面外では、此方の艦載機隊が敵の巡洋艦へ攻撃を開始しているところが映されている。

 スヌーカ爆撃隊は敵艦表面に爆弾とロケットをばら蒔いて武装を潰し、そこに生じた穴へドルシーラ雷撃隊が突入、その腹に抱えた魚雷を撃ち離す。通常の空対艦ミサイルを越える威力を持つ宇宙魚雷を受けては流石の大マゼラン艦も耐えきれなかったのか、シャンクヤードを中心に撃沈艦が出ている。

 

「攻撃隊、帰投します。戦果はシャンクヤード級撃沈2、撃沈確実1、マハムント級撃沈確実1隻、ファンクス級に命中弾3です。此方の被害は撃墜11機。攻撃機を中心に被害が発生しています」

 

「その意気ね。このまま砲雷撃戦に移行するわ。全艦三列縦陣!」

 

 攻撃隊は先程のミサイル攻撃で傷付いた艦を中心に攻撃したため、敵巡洋艦部隊の半数を沈めるに至った。しかし敵の対空砲火も中々のもので、率先して敵の陣形内側に飛び込んだスヌーカ隊と鈍足のドルシーラ隊に被害が多発している。

 

「了解か・・・あっ、敵艦隊の一部が分離!ファンクス級とシャンクヤード級が左舷前方より急速接近中!」

 

「迎撃しなさい!」

 

 ここで敵の動きに変化が見られた。グアッシュのファンクス級とシャンクヤード級が艦首を此方に向けて突撃を開始したのだ。あのクラスは巡航性能に優れたタイプで足が速い。そして艦首方向に武装が多く指向できる艦だ。

 対して此方は砲撃戦に移行するために陣形を変更している最中であり、敵の主砲はそんな私達の横腹を捉えた。

 

「敵艦隊、距離15000に到達、攻撃を開始しました。駆逐艦〈タシュケント〉〈ソヴレメンヌイ〉に命中弾!」

 

「クッ・・・巡洋戦艦に応戦させて!」

 

 敵艦3隻は陣形の左側に位置していた第一分艦隊に食いつくと、手頃な目標に向かって主砲を斉射する。此方も回避機動を試みるが、パターン入力が中途半端なためか十分な加速を得られず、幾つか命中弾を貰ってしまった。

 巡洋戦艦〈オリオン〉は向かってくる敵に向けて連装主砲を向けたが、角度の都合で指向できる門数が2門に留まる。これではまともな戦果など望めない。

 

「敵艦隊、さらに斉射!〈グネフヌイ〉のシールド消失!」

 

「こっちからは撃てないの!?」

 

「本艦と敵艦隊の射線上に味方艦がいます!」

 

 チッ、やるわね・・・

 此方が撃とうとすれば味方の第一分艦隊に命中し、敵はこっちに向かって撃ち放題か。敵が大マゼラン艦なこともあり、一撃あたりの威力が重い。

 

「艦長、ブクレシュティより意見具申です!」

 

「!っ、すぐに繋いで頂戴!」

 

 私が敵を攻めあぐねていると、ブクレシュティから通信が届けられた。ノエルさんが回線を繋ぐと、メインパネル上に彼女の姿が現れる。

 

《手間取っているみたいね、提督さん》

 

「他人事じゃないでしょ。んで、どんな策があるのかしら」

 

 彼女はこの期に及んでも眉一つ動かさない。それだけ冷静なのだろうが、他人事みたいなその態度は少しイラッとくる。

 

 《相手は恐らく監獄所長を逃がすための殿よ。敵の装甲空母は戦艦に護衛されて離脱を図っているでしょ?》

 

「―――確かにそのようね」

 

 ブクレシュティに指摘されてレーダー画面を確認してみると、装甲空母と護衛のカッシュ・オーネにマハムントは此方に向かうわけでもなく、離れるような進路を取っている。

 

《そして此方の武器は上甲板に集中しているわ。ここは一度に回頭して敵の下に潜り込んで、通過射撃を仕掛けたのちそのまま装甲空母に突撃してみたらどう?》

 

 彼女の考えはこうだ。此方の艦隊が一斉に向きを変え、敵に艦首を向けながら敵艦隊の下に潜り込む。敵は慣性もあっていきなり進路を変えることはできないでしょうから直進を続ける。そこを此方の主砲で攻撃して戦闘能力を奪い、そのまま逃げようとする所長の艦隊を狙う。タイミングは難しそうだが、やれない手ではない。

 

「―――分かったわ。あんたの案でいきましょう。全艦、30秒後に一斉回頭の後下げ舵10度!敵の腹に潜り込むわよ!」

 

「了解した」

 

「了解ですっ!」

 

 ブリッジクルーもそれを了承したようだ。早苗はタイミングを合わせるために各艦へと指示を伝達するため、眼を閉じて集中するような仕草を見せる。

 

《採用どうも。私は自分の仕事に戻るわ》

 

 自分の意見が採用されると、ブクレシュティはそのまま通信を切断する。

 

「駆逐艦〈グネフヌイ〉にさらに命中弾!インフラトン反応消失!」

 

「怯むなっ、今は転舵の時期に集中しなさい」

 

 だがその間も敵の砲撃は止まず、遂に駆逐艦の1隻が喰われた。此方もちらほら命中弾は与えているのだが、流石は大マゼラン艦、シールド出力が今までの連中とは違う。海賊艦改造の駆逐艦ではまともに装甲を抜けない。

 

「核パルスモータースタンバイ、転舵まであと5秒!」

 

「3・・・2・・1・・・今!」

 

 

 

 

【イメージBGM:艦隊これくしょんより「決戦!鉄底海峡を抜けて!」】

 

 

 

 

「全速回頭ッ!」

 

 残り時間を示すタイマーが0になったところで、〈開陽〉の右舷艦首と左舷艦尾にあった核パルスモーターが一度に最大出力で噴射され、艦は急激に角度を変えていく。慣性制御が追い付かず艦長席から降り下ろされそうになるが、コンソールにしがみついて画面を睨みながらそれを防いだ。

 

「―――回頭完了。下げ舵10、最大戦速!」

 

 回頭が終了したところで、ショーフクさんが艦首を下に向ける。艦隊全体が下方に向かったことで、敵艦隊との間に遮蔽物はなくなった。

 

「全艦砲撃始め、撃てーッ!」

 

「イエッサー、主砲発射!」

 

 此方の動きを見て、敵もそれに合わせようと転舵する。しかし、それよりも早く〈開陽〉の160cm砲を始め重巡洋艦、駆逐艦のレーザービームが降り注ぎ、敵艦のシールドを穴だらけにした。

 だが敵も撃たれるばかりではなく即座に反撃を開始する。敵は目標を変えると無事な砲で砲撃を再開し、脆い駆逐艦は命中弾が発生すると忽ちシールドが失われてバイタルが火を吹く。

 

「駆逐艦〈パーシヴァル〉轟沈っ!〈早梅〉大破!」

 

「敵シャンクヤード級1隻のインフラトン反応拡散しました!撃沈です」

 

 お互いが超高速で通り過ぎる間、両者の間では激しくレーザービームの応酬が交わされる。此方は駆逐艦1隻を失ったが、敵はシャンクヤード級1隻を失い、残ったシャンクヤードも制御を失いながらクルクルと回転して離れていく。ファンクス級は戦艦なだけあって中々にタフだったが、〈開陽〉と重巡2隻に底部を滅多撃ちにされた挙げ句、メインノズルに被弾して転舵できぬまま私達の背後にあった小惑星に激突して果てた。

 

「敵前衛艦隊全滅!」

 

「そのまま装甲空母に向かうわよ。距離を詰めて同航戦に移行、戦艦と巡洋艦で縦陣を組みなさい」

 

「了解です」

 

 殿を下した私達は、未だに逃げようとする所長の艦隊を捉えた。此方は最大戦速で敵に迫りつつ、駆逐艦を分離して縦陣を組む。先頭から〈開陽〉〈ピッツバーグ〉〈ケーニヒスベルク〉〈ブクレシュティ〉〈オリオン〉〈レナウン〉の順だ。

 

「敵艦隊、転舵します。このまま同航戦に移行する模様!」

 

 ここでまた敵艦隊に変化が起こる。今まで装甲空母と共に離脱を図っていたカッシュ・オーネとマハムントが縦陣を組んで此方に向かってきたのだ。見上げた忠誠心だが、流石にこれは多勢に無勢だろう。だけど、容赦はしてやるつもりはない。

 

「本艦と〈ピッツバーグ〉〈ケーニヒスベルク〉は先頭の敵戦艦を、〈ブクレシュティ〉〈オリオン〉〈レナウン〉は敵2番艦を狙いなさい」

 

「イエッサー。主砲1番から5番、右舷側に指向。目標敵戦艦!」

 

《了解よ》

 

 二つの縦陣が向かい合い、互いの主砲を向ける。

 暫しの沈黙の後、号砲の咆哮が響き渡る。

 

「全主砲、斉射!」

 

 〈開陽〉の3連装砲塔5基から蒼白い砲火が放たれたのと、敵のカッシュ・オーネ級の連装砲塔2基から砲火が上がったのはほぼ同時だ。互いのレーザーは目標へ向け直進し、その先にある鋼鉄の巨体を揺らす。

 

「敵艦の砲撃が第11区画に命中。隔壁閉鎖します」

 

「此方の命中弾は2発だ、修正射撃つぜ」

 

 敵の砲撃は〈開陽〉のシールドを超え装甲表面を焼く。しかし装甲を抜くには至らず、損害は軽微だ。対して此方は敵に命中弾2発を与えたが、戦艦を戦闘不能にさせるにはまだまだ足りない。よって位置座標を修正した第2射がすかさず放たれる。此方は各砲塔一門ずつの交互撃ち方で砲撃を行っているので、戦艦としては発射速度は速い。以前のファズ・マティ戦時のように各砲身の冷却と発射を同時に行えるからだ。また一門ずつの発射なのでプールしているエネルギーの消耗も抑えられる。

 対して敵は全砲門を一度に開いたようで、此方に比べれば主砲発射間隔は大きく開いている。だがそれだけではなく舷側ミサイルで抵抗してくるので、此方は対空迎撃も強いられた。

 

「敵ミサイル接近!近接防御システム起動します」

 

「〈ピッツバーグ〉に命中弾1、戦闘続行に支障なし」

 

 だが、敵のミサイルは此方が使用する大威力のものではなく、数発では堅牢な戦艦と重巡を戦闘不能にするまでのものではない。

 

「第3射、発射!」

 

 お返しとばかりに、3隻の戦艦と重巡から砲撃が放たれる。11発中5発が命中だ。

 

「次は一斉撃ち方で行くわよ。全主砲、斉射準備!」

 

「了解、エネルギー蓄積開始。20秒後に全砲斉射!」

 

 命中率も上がってきたので、ここで一気に畳み掛ける。

 後方の巡洋艦同士の戦いでもプラズマ砲の応酬が行われていたが、今は手数で勝るブクレシュティが巡洋戦艦2隻と共に敵のマハムント級を圧倒しているようだ。

 

「砲撃準備完了!」

 

「よし、全主砲、一斉射!ここで仕留めなさい!」

 

「アイアイサー、全主砲斉射!!」

 

 〈開陽〉の3連装砲塔全てから、3条の光が敵艦に向かって延びる。〈ピッツバーグ〉〈ケーニヒスベルク〉からも全力の砲撃が放たれ、それは敵のカッシュ・オーネ級の艦体の至るところを貫いた。

 全砲斉射をもろに喰らったカッシュ・オーネは小さな爆発を生じながら、機関に爆発が及んだのか蒼白い閃光と共に爆散し、艦体がいくつもの破片に千切られる。

 

「敵1番艦、撃沈!」

 

 敵戦艦を仕留めたことで、艦橋内に歓声が響く。

 

「後続のマハムント級も撃沈した模様!敵護衛艦は全て沈黙しました!」

 

 少し遅れて、火達磨となっていたグアッシュのマハムント級にも止めが刺された。〈オリオン〉〈レナウン〉の砲撃でシールドをズタボロに引き裂かれた上に〈ブクレシュティ〉のプラズマとレーザーが降り注ぎ、表面を焼き付くされた上にプラズマが装甲を貫通してバイタルを破壊、敵艦を轟沈せしめた。

 

《・・・こっちも片付けたわ。敵のプラズマが少し痛かったけど、航行には問題なしよ》

 

 ブクレシュティからも敵艦撃沈の報告が届けられる。こっちの被害は〈ブクレシュティ〉が中破、〈開陽〉〈ピッツバーグ〉〈オリオン〉が小破といったところだ。

 

「・・・さて、厄介なのも片付いたところだし、所長とやらを捕まえましょう」

 

 戦況を見てみても、ユーリ君達に向かったバクゥ級の艦隊もその殆どが撃沈されている。グロスター級とメイリンさんの〈レーヴァテイン〉に撃ち減らされて、そこにユーリ君のアーメスタが突撃して混乱するグアッシュ艦隊を切り裂き、着実に敵の数を減らしていた。

 

 あっちには加勢する必要もなさそうだったので、私は艦を装甲空母に向けるよう命じる。こっちの船脚に比べて装甲空母はかなりの鈍足だったのですぐに追い付くことができた。後はまたエコーとファイブス率いる保安隊が突撃して、所長を捕らえるだけだ。

 

 あれ、そういえば、早苗は何処に行ったのかしら?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~装甲空母艦内・ブリッジ~

 

 

【イメージBGM:無限航路より「The Great Evil」】

 

 

「ふふっ、ここまでですねぇ~。どうですか?今まで散々ふんぞり返っていたのにこうしてお縄にかけられる気分は?」

 

 装甲空母のブリッジでは監獄所長―――ドエスバンが連れてきた部下達は白い装甲服に青いラインを入れた屈強な歩兵の集団―――エコー率いる霊夢艦隊保安隊クリムゾン分隊の面々に占拠され、ドエスバンに至っては黒い空間服を着た緑髪の少女の前で尻餅をついている有様である。

 

 緑髪の少女―――早苗は両刀の光刀を片面だけ起動し、その紅い刀身をドエスバンに突きつける。

 

 これでも容姿は充分美少女と言える早苗ではある。普段ならドエスバンは舐め回すような視線で堪能するのだろうが、彼女が光刀を手に、嬉々として保安隊員と共に配下を制圧していく様を見せつけられた後では欲望よりも恐怖の方が勝ってしまい、彼は早苗の前に屈することになっていたのだ。

 

「ま、待てっ、金ならある!だからここはどうか見逃してはくれないか!?」

 

「駄目ですよぉ~。海賊から追い剥ぎはしますけど、そんな露骨な賄賂なんて受けとるわけないじゃないですか~。貰えるものは頂きますけど、貴方の身柄も一緒ですよ☆」

 

「ひぃっ・・・ならせめて命だけは・・・」

 

 早苗はドエスバンの提案はまるで興味がないとばかりに一蹴し、光刀をさらにドエスバンの首筋に近付けてにやりと嗤う。

 

「その程度で、私が貴方を見逃すとでも思ってるんですかぁ~?まだ"誠意"が足りませんねぇ~。悪人は悪人らしくちゃんと"誠意"をみせていただかないと・・・」

 

「せ、誠意・・・分かった!私が悪かった!だから命だけは―――」

 

 ドエスバンは早苗の一言にすがり付くように頭を下げる。しかし、早苗は邪な笑みを浮かべたままだ。

 

「そうですかぁ・・・本当に悪いと思っているなら、他にやるべきことがあるんじゃないですか~?」

 

「な、何をすればいいというのだ・・・?」

 

 ドエスバンは頭を上げて早苗の表情を覗き込む。早苗はそんな彼を見下しながら、さも当然のように言い放った。

 

「決まってるじゃないですか!焼き土下座ですよ、焼・き・土・下・座!」

 

「焼き・・・土下座?」

 

 意味がわからないとばかりにそれを口にするドエスバンだが、続く早苗の説明を聞いて、彼は身を震わせる。

 

「そんなことも分からないんですかぁ~、焼いた鉄板の上でする土下座のことですよ!?」

 

「何じゃそりゃあ!?」

 

「―――ちなみに、最低でも10秒は続けないと"誠意"を実行したことにはならないので、そこんところよろしくお願いしますね☆」

 

「むっ、無理だぁーッ!そんなことしたら死んでしまうじゃないか!?」

 

 早苗は弾んだ口調でドエスバンの反応を楽しむように"焼き土下座"について説明する。無論本気で実行する気はない・・・多分ないのだろうが、悪人を追い詰めて醜態を晒させることに、彼女は一種の愉しさを覚えていた。

 

「いえ、出来る筈ですよ。本当に"誠意"があるというのならば、たとえ焼けた鉄板の上であっても・・・土下座はできる筈なんです!!」

 

「・・・ほ、本気で言っているのか?」

 

 ドエスバンはそれが冗談だという可能性に懸けて、懇願するように恐る恐る訊ねる。しかし、回答は非常だった。

 

「当たり前じゃないですかぁ~♪いやぁ~、楽しみだなぁ~。あの肉が焼ける音と匂い・・・堪らないですよねぇ~!」

 

 早苗は語尾を強め、恍惚の表情を浮かべて告げる。そこに狂気を感じたドエスバンは、自分がとんでもない連中に捕まってしまったと悟ると共に、死の危険を感じていた。

 

(こ、殺される・・・)

 

 早苗の真意はともかく、その仕草はドエスバンに彼女が本気だと納得させるに充分な威力を有していた。さらに、今まで眺めているだけだった〈開陽〉の保安隊員達も、面白がって早苗に加勢し始めた。

 

「へっ、肥え太った罪人の丸焼きか。不味そうなことこの上ないな」

 

「・・・こいつの肉は食べたくないですね。あ、でも悪人が酷い目に合うのは因果応報です。実に愉快ですね」

 

 エコーと椛も死体蹴りの如くドエスバンを罵倒する。味方が一人もいないと悟ったドエスバンは、いよいよ恐怖で漏らしそうなほどだ。

 

「・・・という訳で、執行ですね。覚悟しやがれです☆」

 

「ひっ、ひぃぃぃいいぃぃぃぃっ!!!――――」

 

 早苗が満面の笑みで死刑宣告を告げると、悲鳴を上げたドエスバンの意識はそこで途切れた。

 

「・・・死んだな」

 

「―――気絶してますね」

 

 意識の絶えたドエスバンをエコーは軽く蹴って揺さぶり、早苗は光刀で腹をつっついてみたりする。

 

「・・・とにかく、こいつ運んでおきましょう」

 

 完全にドエスバンが気絶したのを確認すると、保安隊員達は素早く彼を拘束し、〈開陽〉へと運び込んだ。

 

 

 

 後日、宙域保安局で取り調べを受けたドエスバンは、終始生気の抜けた顔で受け答えに終始していたという。ついでに女性恐怖症にも陥ったとか。

 残念ながら、彼に同情するものは一人も現れることはなかった。

 

 




絶対☆許早苗

さでずむ炸裂回でございます。某ゲームの早苗さんに感銘を受けまして焼き土下座ネタです。誠意があれば、焼いた鉄板の上でも土下座ができる筈。

でも根は真面目な早苗さんなので、脅して反応を楽しんでいるだけです。多分本気で実行する気はないでしょう。めいびー。
無限航路は基本雑魚海賊には人権がない世界なので、命があるだけでもドエスバンはましな方と言えるでしょう。

ちなみに保安隊員の装甲服カラーは501大隊リスペクトです。501カラーの保安隊+赤いサーベルの早苗さん・・・あとは解りますね?

多分次回でカルバライヤ編も最終回です。ただ依頼は続くので、保安局との絡みももうしばらくは続きます。

本作の何処に興味がありますか

  • 戦闘
  • メカ
  • キャラ
  • 百合

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。