夢幻航路   作:旭日提督

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ヤマト2202の公開も近づいてきましたね。この小説の主役艦もアンドロメダ級なので、2202での彼女達の活躍が楽しみです。アンドロメダ級が5隻か、胸が熱いな。


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第三七話 サマラを探して

 

 ~惑星ブラッサム宇宙港~

 

 

 ブラッサムに帰還してからもう3日が経つが、私達はまだ宇宙港に留まっている。とはいっても、もう暫くすれば出港する予定だけど。

 ちなみにユーリ君の艦隊はもう出港したみたい。恐らくザザン方面に向かったのでしょう。あっちは旗艦をエルメッツァのグロスター級戦艦に乗り換えてるみたいだったわ。あと、メイリンさんの〈レーヴァテイン〉は主砲の改良工事があるからということで、今後は作戦発動まで別行動になった。向こうもグアッシュとの戦いに向けて戦力を強化したいのでしょう。

 

 

 

「新造艦?」

 

「ええ。今後を考えても戦力強化は必要でしょ。それで、幾らまでなら出せるの?」

 

 そして今私はブクレシュティと話しているのだが、彼女は艦隊を増やして戦力を強化することを提案してきた。私もグアッシュとの対決には戦力強化は必須だと感じていたし、それ自体には賛成だ。早苗の演算リソースを考えても彼女がいればあと数隻は余裕で運用できると思うが、すぐに作れと言われても出せる費用には限りがある。工作艦はどうしたかというと、今ある資源で新たに艦船を建造できなくはないんだけど、たぶんグアッシュとの戦いで修理に必要になるだろうから今その資源は使いたくない。

 私は端末から艦隊の財政状況を確認して、どれほどの額なら艦隊運用に差し支えないかを計算する。

 

「そうね~、駆逐艦1隻あたり20000Gだとしたら、3隻で精一杯かな」

 

 艦隊の資金は現状で凡そ10万Gほどある。これだけ聞くとかなり潤っているように感じるが、建造だけでなく今後の維持費や諸経費、そして予想されるグアッシュとの決戦を考えればかなりの出費が予想される。その中で建造費を捻出するとなると、やはり駆逐艦3隻が限度だろう。

 

「それなら、駆逐艦を諦めてフランコの大量生産でも・・・いや、数が多くてもあの性能じゃあ駄目か」

 

 そこで私は戦力強化なら安いスカーバレルのフランコ級水雷艇を生産する手も考えたのだが、あれはまだマッドの改良設計図が無かった筈だし、そんな状態の艦を投入しても結局撃沈されて費用の無駄になるだけだ。どうせ作るなら、マッド共が改良した打たれ強い艦船を建造したい。

 ちなみにフランコの元になったさらに安価なレベッカ級警備艇という艦種もあるのだが、こいつは論外だ。はっきり言って艦載機一個小隊より非力な艦船に用はない。

 

 なぜそんな艦の設計図があるかって?一応エルメッツァの設計社にあったから買っておいただけ。価格もたったの10Gだったし。

 

「やっぱり大規模な拡張となると無理そうね。なら建造するなら駆逐艦の方が良いかしら」

 

「私も同感よ。それじゃあさっさと何を作るか決めてしまいましょう」

 

 現状を確認してもやはり建造するなら駆逐艦で精一杯なので、ブクレシュティの提案に乗って建造する艦種を策定してしまおう。

 

「一応これ、サナダさんから渡された改良設計図よ」

 

 彼女がデータプレートを差し出したので、私はそれを受けとる。そこには彼女が言った通り、複数の艦船設計図があった。

 

 うちの艦隊が保有している駆逐艦設計図は全部で6種類ある。

 まずは遺跡で見つけたものを改良したヘイロー級駆逐艦だ。性能も他の艦が小マゼラン艦船なこともあってダントツなのだが、その分価格がかなり割高だ。改善小マゼラン艦で一番高いアーメスタ改が9800Gなのに対してこちらの建造費は13000G。差額は約3000Gだがこれを3隻作るとなると他の艦なら4隻も作れてしまうのが難点だ。ちなみに、今の財政を考えればこれを作るなら2隻が限度だ。

 

 次に、海賊が運用していたガラーナ級とゼラーナ級の改良艦であるノヴィーク級駆逐艦とグネフヌイ級航宙駆逐艦だ。こちらはお値段8000Gほどでかなりお手頃だ。現状でもうちで運用されているだけあって信頼性も充分。さらにグネフヌイは艦載機運用能力も持ち合わせている。ただ、問題点を挙げるとするならば元が海賊の設計だし性能が改善小マゼラン艦船の中で一番低いことだろう。元設計ではエルメッツァ正規軍艦船の性能よりも部分的に勝るところはあったと聞くが、拡張性に関しては完全に正規軍に軍配が上がるので、改善仕様だと逆に正規軍艦船より性能で劣ってしまう。

 

 他はエルメッツァ正規軍の主力駆逐艦、アリアストア級とテフィアン級の改善タイプだ。こちらは価格がアリアストア改が9000G、テフィアン改が8200Gとスカーバレル艦とそれほど違いはない。ただ耐久性能ならこちらが上だ。テフィアン改は武装面ではガラーナと大差ないが、アリアストア改はミサイルランチャーを独自仕様の対艦ミサイル〈SSM-716「ヘルダート」〉に換装しているので打撃力が非常に高い。その分センサー機能では劣るが、対艦攻撃には有力な駆逐艦だ。

 

 最後にエルメッツァ正規軍の最新鋭駆逐艦を改良したアーメスタ改級だ。価格は9800Gと小マゼラン艦船のなかで一番高いが、その分性能も高く、バランスよく纏まっている。機動力も元のアーメスタ級の時点で複数の突撃砲艦を相手にしてもその火線を容易に躱せるほどで、火力もアリアストア改ほどではないが対艦攻撃には不足はないほどには高い。耐久性能も小マゼラン艦船の中では一番優れている。作るとしたら、かなり魅力的な艦だ。

 

「そうねぇ~性能でいえばヘイロー級が一番なんだけど、価格が高いのが難点ね。それならアーメスタを3隻作った方が良いかしら」

 

「信頼性という観点ではスカーバレル艦ね。だけどあれは攻撃力不足が指摘されているし、さらに作る必要があるかどうかは微妙なところね。その分アリアストア改なら打撃力の高いミサイルがあるし、対艦攻撃では捨てたものではないわ」

 

 私はブクレシュティと建造する駆逐艦について議論を交わす。ノヴィークとグネフヌイは彼女が言うとおり信頼性はあるが攻撃力が低い。攻撃力の点ではテフィアン改でも同じ問題が言えるだろう。

 性能ならやはりヘイロー級なのだが、これを作るとなるとどうしても価格が枷になってしまう。

 

「アーメスタ1隻とアリアストア2隻で駆逐戦隊を構成するのはどう?それなら価格と対艦攻撃力という点で均衡が取れているんじゃない?」

 

 そこでブクレシュティが提案する。成程、確かにそれなら価格も抑えて打撃力の高い部隊を編成できるのではないだろうか。

 

「良いんじゃないかしら、その案。それで採用にしましょう」

 

「あら、随分と早いこと。せめてもう少し検討したら?」

 

「別に、これ以上考えたって変わらないわ。うちの懐事情と艦隊の状況を考えたらそれがベストよ。それじゃ、私は造船区画に行ってくるからあんたは戻っていいわよ」

 

「・・・分かったわ。それじゃあ、私は休ませて貰うわね」

 

 さて、作るものも決まったところだしさっさと用事を済ませてしまおう。私はブクレシュティと別れて造船区画に赴いて、担当のAIドロイドに用件を伝えて艦船を建造してもらう。駆逐艦クラスなので1日もあれば出来るだろう。

 

 

 ―――そういえば、艦名を考えてなかったわね。

 

 さっきはどれを造るかに頭が向いていたから、艦名のことまでは考えていなかった。まぁ、後で付ければいいでしょう。

 

 

 

 ちなみに艦名についてだが、アーメスタ改級は〈ブレイジングスター〉、アリアストア改級は〈東雲〉〈有明〉と命名した。艦体の配色は、アーメスタ改はオリジナルで赤く塗装されていた部分が鮮やかな黄色となって、艦体色の銀色も黒みが強くなっている。アリアストア改は黄色と茶色の所謂地方軍カラーだが、オリジナルより黄色が淡い。

 

 〈東雲〉と〈有明〉はそれらしい言葉を適当に選んだだけだが、〈ブレイジングスター〉は親友のスペルから貰った名だ。こっちの世界にもだいぶ慣れてきたけど、こんな名前を付けるあたり、やっぱりあの頃を懐かしく思う感情もあるのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~〈開陽〉艦橋~

 

 新たな戦力も加えたところで、もうブラッサムには滞在する用がなくなったので艦隊を出港させた。新造された駆逐艦3隻はサナダさんがブクレシュティの指揮能力を試したいと申し出てきたので、今は彼女に預けてある。

 

「ところで艦長、今後の予定はどうします?」

 

 操舵席に座るショーフクさんが尋ねる。そういえば、まだ予定らしい予定は立ててなかった。一応今はバリオさんが前払い報酬の一部として提示した艦船設計社を見に行こうとバハロスに向かっている所だが、その後はどうしようか。

 

「そうねぇ~、取り敢えず、サマラって女海賊を探してみましょうか。そうしないと保安局の作戦も発動されないみたいだし」

 

「ならザザン方面に?」

 

「そうなるわね」

 

 こっちはメイリンさんの依頼もあるし、できるだけ早くサマラ見つけ出した方が良いだろう。そのときにはトスカさんに連絡を入れれば良い。

 しかし、説得すると言っても何をするのだろうか。正直、保安局が提示した条件では不安だ。トスカさんは宛があると言っていたから何とかなるでしょうけど。でも、その宛ってのが一体何なのかってことは少し気になるわね。

 

「では、バハロス出港後はシドウ経由でザザン方面に向かう進路を取ります」

 

「それで良いわ。詳しい進路はそっちに任せるから、航海計画が出来たら後で提出してくれるかしら?」

 

「了解です」

 

 後は、詳しいことはショーフクさん以下の航海班が何とかしてくれるだろう。ちなみにさっきショーフクさんがシドウ経由と言ったのは、惑星ザザンへ向かう経路には惑星シドウから惑星ドゥボルクを経路してそこからザザン方面に向かう航路と、惑星ガゼオンを経路してドゥボルク方面に向かう航路の二通りがあるのだが、後者は先日あった通り宙域保安局に封鎖されているからだろう。

 

「・・・で、いつから早苗は(スークリフ・ブレード)なんて持ってたのかしら?」

 

「ぎくっ、――――あっ、はい・・・これですか?」

 

 私が尋ねると、早苗はちょっと驚いたという仕草を見せて、手に持っていた刀を差し出して見せた。

 

 ―――それ、さっきから私の後ろで振り回してみたり、構えてみたりするものだから否応なしに気になるのよ・・・

 

 早苗は大人しくスークリフ・ブレードと思われる刀を見せたが、見た目からしてなんだか邪悪な感じだ。柄には白い蛇の飾りがが巻き付いてるし、刀身も血のように赤黒い。もしかしてこの子、こういうのが趣味なのかしら?

 

「―――やっぱり、紅いわね・・・」

 

 私が呆れ気味に呟くと、早苗は得意気な表情で刀を掲げた。

 

「ええ、赤いですとも!霊夢さんの刀も赤いですよね!?」

 

 私の内心などお構いなしに、早苗は自慢気な表情で刀を見せびらかす。ちなみに早苗は私の刀も赤いと言ったが、あんな邪悪な色と一緒にされるなんて言語道断だ。彼女のスークリフ・ブレードはただひたすら鮮血のように赤いが、私のそれは言うなれば皆既月食だ。赤いことは赤いのだが、刀本来の鋼色もちゃんと残っている。

 

「そんな色と一緒にしないでくれるかしら。あと、それ何処で手に入れたのよ」

 

 私としてはそんなことよりも、刀の出所の方が断然気になる。あんな妖刀じみた刀、一体どこで手に入れたのだろうか。それに、万が一艦隊内で本物の妖刀が蔓延る事態にでもなれば目も当てられない。久々に巫女業をやる羽目になるだろう。余計な仕事を増やさないでほしいわ、ほんと。

 ちなみに、目の前の刀からは外見に反して邪悪な妖気は感じない。ただ見た目がそうなだけだろう。

 

「これですか?にとりさんから強だ・・・貰ってきました!」

 

 早苗は途中まで言いかけたところで訂正した。まぁ、予想通りといえば予想通りだろう。やはりマッドが出所らしい。彼女は続けて「見た目と機能が格好よかったので!」と言っている辺り、やはりあんなのが趣味なんだろうか。

 

「実はですね、これは只のスークリフ・ブレードではないんですよ!?」

 

 早苗は刀を構え直すと、なにやら集中するような素振りを見せる。

 

 

「―――裏妖奇「風屠」!!」

 

 

 すると、普通の形状だった刀身が早苗の声と共に変形し、ノコギリのような扁平な形状となり、先端もなんだかギザギザしている。というかそれ、どんな造りしてるのよ。なんで形変わる訳?ここ幻想郷じゃないわよ?

 

「えへへ、上手くいったみたいです。にとりさんの話では、なんでも刀身にナノマシンを使ってある程度形状を変化させる機能を付けているみたいなんです!それと今の解号は私のオリジナルですよ?」

 

 格好いいでしょう!、と早苗は決め顔で迫ってくるが、そんなこと私に言われても分からない。それより、早苗がなんだか痛い子に見えて仕方がない。一応これでも高性能AIの筈なんだけど、バグでも起こしたのだろうか。でもサナダさんの話だとどこにも異常はないって言うし・・・一体どうしたのだろう。

 

「はいはい、新しい玩具を見つけてはしゃぐのはいいけど、振り回すのも大概にしなさいよ?」

 

「むうっ、それぐらい分かってます!人や機械に当てるなんてことは万が一にもありません!」

 

 これでも高性能ですから!と謳う早苗だが、やはり不安は拭えないわね・・・

 

 

 

 

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 そのあとバハロスには1日ほど寄港して、目当ての設計図を入手してさっさと出港した。休息はブラッサムで充分取っているし、そこからの距離も近いからそこまで休む必要はないでしょう。

 という訳で、サマラ探しに出発だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~カルバライヤ・ジャンクション宙域、惑星ザザン周辺宙域~

 

 

 バハロスを出港してから沸いて出る海賊に対して海賊行為を働いて、艦隊は目的地である惑星ザザン付近まで進んできた。途中のドゥボルクで一度寄港してからここに来るまで前衛の駆逐艦と艦載機を分散させて件の女海賊サマラを探しているのだが、未だに見つかる気配がない。

 ただ獲物となるグアッシュの連中は腐るほど湧いてくるので、金稼ぎには苦労しなさそうだ。

 

「しかし、どこに行ってもグアッシュだらけだな。本当にいるのか?そのサマラって奴。」

 

「サマラは単艦で活動すると聞いている。集団で活動して尚且つ数の多いグアッシュと比べれば、そりゃ見つけるのは難しいだろう」

 

 未だにサマラが見つからないことに痺れを切らしたのか霊沙が発言したが、それにコーディが答える。

 そういえば、話ではサマラは一隻でグアッシュの大群と渡り合ってるらしい。あれほどの規模の海賊団と単艦で渡り合うとなると、やはりフネの性能も相当高いのだろう。最低でも大マゼランの主力艦以上の能力はあるだろう。

 

「ちっ、仕方ないな。あー暇だ。グアッシュ相手だと張り合いがねぇ。そいつとなら楽しめるかと思ったのに」

 

「こら霊沙、サマラとは交渉に来たんだから、別に戦うって訳じゃないわ」

 

「分かってるよそんなの。少し興味があるだけだ」

 

 霊沙も中々物騒なことを言ってくれる。私はグアッシュと単独でやり合うような化物戦艦と交戦するなんてのはまっぴら御免だ。そんなことになればワープでさっさと逃げてしまおう。駆逐艦一隻破壊されるだけでも金額にして20000G分の資産が吹き飛ぶのだ。この〈開陽〉ならそんな戦艦ともやり合えるかもしれないが、小マゼラン艦をマイナーチェンジしただけの駆逐艦なら一体何隻が吹き飛ばされることか。考えただけでも恐ろしい。

 

「あ、艦長―――前方に交戦反応。距離、およそ50000です」

 

 そこに、レーダー哨戒を担当していたこころの報告が入った。長距離レーダーでなにか捉えたらしい。距離が50000ということは、まだ戦闘用メインレーダーでは捉えられない距離だ。

 

「交戦反応?光学映像は出せるかしら。それとショーフクさん、念を入れて一度慣性航行に移行してくれる?少し様子が見たいわ」

 

「了解」

 

「映像ですか?少し解像度が粗いですが、やってみます」

 

 どうも警戒中のこころが進路上に交戦反応を捉えたらしい。ここで無策に突っ込んで火傷するよりは、一度慎重に動いた方が良いだろう。

 ショーフクさんが艦を慣性航行に移行させると、僚艦もそれに従ってエンジンを停止する。早苗が指示したのだろう。

 一方メインパネルには2隻の宇宙船が交戦している様子が映し出される。画像が粗くてよく見えないが、手前で戦っている葉巻型の艦体にウイングの付いた赤黒のツートンカラーの艦は巡洋艦クラスだろう。

 奥にはそれより大型の、尖った艦首を持った棒状の胴体を左右上下にぴったりとくっつけた艦体を持つ宇宙船が居るのが見てとれる。その艦の両舷にはシールドを兼ねたような大型のスタビライザーを3つずつ装備し、艦体後部には上下対象になるような位置に艦橋とレーダーアンテナを持ち、その後方には4つに別れたエンジンブロックが平行に並んでいる。

 

「あれのどっちかがサマラかしら?」

 

「いや、違うな。どちらもエリエロンド級ではない。サマラとは別の勢力だろう」

 

 少なくとも今までのグアッシュには見たことがない艦影なので、順当に考えてどちらかはサマラの艦なのかと思ったが、どうやら違ったらしい。珍しく艦橋にいたサナダさんがそれを指摘する。

 

「エリエロンド?」

 

「ああ、サマラの乗艦の名だ」

 

 私が尋ねると、サナダさんはメインパネルにそのエリエロンドと思われるフネの画像を表示した。

 

「サマラの戦艦エリエロンドはこのように鋭く尖った紡錘型の主船体の底部後方に別の艦体ブロックを備えたような形状だ。さらに、艦体を覆うブラック・ラピュラス装甲に鏡面処理を施した影響で艦の表面は鮮やかな赤色となって見える。ブラック・ラピュラスは高いステルス性を有する黒体鉱物だから、この距離ではレーダーには捉えられんだろう。だが、あの2隻はきっちりレーダーに捉えられている訳だ。そうだな?」

 

「――――はい、メインレーダーではないので精度は落ちますが、艦の反応は確認できます」

 

 サナダさんが話題をこころに振ると、こころはそれを肯定する。

 

「――艦長、当該艦船の艦種識別が完了しました。前方の艦は大マゼラン、エンデミオン大公国製の軽巡洋艦ラーヴィチェ級と判明。奥の大型艦は該当データ無し、不明艦です」

 

 映像から艦種の解析が完了させたノエルさんがそれに続けて報告した。

 手前で戦っている巡洋艦クラスの艦はラーヴィチェ級と言うらしい。大マゼラン製の艦船を駆るとなると、その巡洋艦の乗り手も中々の手練れなのだろう。ちなみに現状安定している小マゼランに比べて大国が群雄割拠する大マゼランの方が軍事的対立が激しく、その技術進歩の速度も小マゼランの比ではない。なので必然的に艦船の性能も、小マゼラン製に比べて大マゼラン製の方が遥かに高いことが多い。

 さらに、観測されるエネルギー反応を見ても目の前のラーヴィチェ級のそれは通常のこのクラスの艦と比べて桁違いに大きいらしい。恐らく相当改造されていると見た。しかし、それでも尚、前方のラーヴィチェ級は奥の不明艦に対して劣性に見える。

 

 ラーヴィチェ級は奥の不明艦に対して全砲を向ける形で横腹を晒しているが、それは火力を高める代償に被弾面積を増すことになる。艦隊戦では〈開陽〉のように艦橋を挟んで前後に有力な砲を持つ艦や舷側に強力な武器を持つ艦にとっては、正面から殴り合うより片舷を敵に向けて主砲を指向した方が火力が出る。特に複数の艦で艦隊を組んでいる場合は、正面を向けて突撃する敵艦隊に対して此方の艦隊が側面を見せて敵の進路を塞ぐように展開し、全火力を以て敵の先頭艦を叩く戦術は非常に有効だ。これを一般にT字戦法と呼ぶ。

 ただ、これは速度で相手の懐に飛び込むような駆逐艦やり軽巡の戦い方というよりは重巡や戦艦の戦い方だ。なのに目の前の軽巡はそんな戦い方を続けている。確かにあの艦の砲撃は解析では戦艦並に強力なのだそうだが、元々装甲の薄い軽巡ではいくらカスタムしようとその耐久度には限界が・・・って言わんこっちゃない、また太いの喰らってるし。

 

 一方、敵に正面を向ける場合は側面を向けるより当然被弾面積が小さくなり、損害を減らしながら戦うことができる。特に突撃戦を想定された駆逐艦なんかはこの考え方に基づいて設計されることが多い。艦首方向の火力が強大な艦にとっては有用な戦術だ。奥で戦う不明艦はその形状から、側面にはシールドがあるので兵装は前方に指向する形で配置されているのだろう。

 奥の不明艦はラーヴィチェ級と比べてもまだ被弾らしい被弾は見られず、ラーヴィチェ級の主砲による攻撃を察知すると素早く回避機動を取ってそれを躱してしまう。これではあの軽巡の強力な砲撃も役に立たない。こちらが観測を初めてから何度か主砲を斉射しているようだが、まだ一度も当たった試しがない。

 それに対して対して不明艦は弄ぶようにラーヴィチェ級のバイタルパート外を的確に狙って、地味だが着実な損害を与え続けている。いたぶってなぶり殺しにしようという辺り、あの不明艦の艦長は相当気が悪そうだ。

 

「あ、不明艦の主砲がラーヴィチェ級の艦橋付近に着弾しました。ラーヴィチェ級は一時的に機能を停止した模様。砲撃が止んでいます」

 

 すると、不明艦の放った一撃がラーヴィチェ級の艦橋付近に着弾する。シールドで防がれはしたが、艦橋付近の装甲が抜かれて火災が発生しているようにも見える。艦橋自体には外傷は見られないが、さっきの一撃で管制機能に傷害がでたのか、ラーヴィチェ級の航宙機動はひどく緩慢なものになり、砲撃も止んでいる。

 

「不明艦のエネルギー量増大。止めを刺すものと思われます」

 

 先程から戦況をモニターしていたミユさんが報告した。

 ラーヴィチェ級が機能障害を起こしたと見たのか、不明艦は全砲斉射の素振りを見せる。まるで鬱陶しい虫を仕留めるかのような仕草だ。あのまま放置すればラーヴィチェ級は轟沈までいかなくとも大破は確実だろう。さて、どうしたものか。

 

「霊夢さん、どうします?」

 

 早苗は、ラーヴィチェ級をここで助けるのか、それとも見殺しにするのかと尋ねる。別にあれを放っておいても構わないのだが、この辺りの手練れとなるともしかしたらサマラの居場所を知っているかもしれない。ここで乱入して、それを訊いてみるという選択肢もある。あっちは両方とも単艦だし、こっちの戦力に対して無策に突っ込んでくるような真似はしないだろう。

 

「そうねぇ、知り合いでもないんだし別に助けなくてもいいんだけど、もしかしたらサマラの居場所について何か知っているかもしれないわね。早苗、前衛艦隊をあの2隻の間に乱入させられる?」

 

「了解しました!前衛艦隊に指示伝達します!」

 

 早苗がそれを承諾すると、艦隊の前方で警戒に当たっていた駆逐艦郡が急加速を始め、2隻の間に割り込む。

 

 それに続けて前衛艦隊を纏める巡洋戦艦〈オリオン〉〈レナウン〉の2隻も駆逐艦の後から両者の間に入った。それを見た不明艦は発射態勢を解き、エンジンノズルを全開にして宙域から離脱していく。流石にこの数相手には不利だと悟ったのだろうか。なにせ駆逐艦8隻と巡洋戦艦2隻が乱入してきたのだ。幾ら艦が高性能でもそれだけの数は相手にしたくないのだろう。しかし、意外と引き際は鮮やかなのね。戦い方を見た限りでは、てっきり嫌味の一つ二つ言ってくるかと思ったのに。

 

 一方のラーヴィチェ級は相変わらず漂流したままだ。まだ機能不全から回復していないらしい。話をするならあっちの艦が良さそうだ。不明艦はさっさと退却しちゃったからね。

 

「ノエルさん、あの軽巡に通信を繋げる?」

 

「やってみます」

 

 取り敢えず、あのラーヴィチェ級にサマラの居場所を尋ねてみることにしよう。上手くいけば、ここで貸しを一つ作れるかもしれない。

 だが、帰ってきたのは期待とは裏腹に、怒気を含んだ罵声だった。

 

《おいっ、そこの艦隊!!いきなり何しやがるんだ!もうちょっとであのふざけた野郎をぶっ潰せるところだったのによっ!!》

 

 艦橋に響いたのは、血気溢れる若い男の声だ。

 ノエルさんはあまりの音量に顔をしかめて、反射的にヘッドフォンを外した。

 

「ちょっと、いきなり何なのよ!」

 

 一応音量は通常設定の筈なんだけど、まるで最大音量で聞かされたみたいに耳が痛い。

 なによ、せっかく助けてやったのに。だいたい仕留められそうになってたのはそっちじゃない、この野蛮人め。

 

「此方は0Gドックの博麗―――《五月蝿い!お前らみたいに海賊駆逐艦なんて低レベルのフネ使ってるような連中に構ってる暇なんてねぇんだよ!次は邪魔するんじゃねぇぞ!!》」

 

 ガチャリ、と強引に通信が切られ、プー、という接続が切断された音だけが響く。

 

「・・・・・通信、切断されました」

 

「―――何なのよアイツ。折角ピンチを救ってやったっていうのに」

 

「まあ落ち着け艦長。世の中にはああいう連中もいる。大方勝負を邪魔されて頭にきたんだろう」

 

 私が相手方の態度にキレて頭に血を上らせていると思ったのか、コーディがそれを窘める。

 

「―――ちぇっ、分かったわよ。あ~あ、上手くいけばサマラの居場所も聞けて貸し一つで一石二鳥だと思ったのになー。」

 

「どうやら、世の中そんな上手くはいかないみたいですねー」

 

 私の独り言に、早苗が苦笑いを返す。彼女の言うとおり、何事も上手くいくとは限らないものだ。

 

「・・・さて、こうなったらまた地道に探すしかないわね。総員警戒態勢を維持、サマラを探すわよ」

 

「「「了解!」」」

 

 あの野蛮人のことは一度忘れて、今はサマラ捜索に精を出すとしよう。私がクルーに今一度命じ直すと、張りのいい声が艦橋に木霊した。

 

 

 ―――なお、その一時間後に、トスカさんからサマラとの接触に成功したという通信を受けたことはあまり聞かないでほしい・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~ ??? ~

 

 

 或る戦艦の薄暗いブリッジの中、複数のパイプに繋がれた椅子に腰掛けた少女は安堵の溜息をついた。

 

 この艦は、先程の改造されたラーヴィチェ級軽巡洋艦〈バウンゼィ〉と交戦していた宇宙戦艦だ。

 

「ふぅ、危ない危ない。この〈ファフニール〉がいくら高性能でも、流石にあれだけの数に単艦じゃあ心許ないからね。仕方ないけどここは撤退かな」

 

 椅子に座る少女は、その長い赤髪を整えると艦長帽を被り直した。

 

「折角ちょうどいい獲物がいたからいたぶってやろうと思ったのに邪魔してくれちゃって。もっと空気を読んで欲しいわ」

 

 少女の言葉は棘を含んだものへと変わる。少女にとってあの軽巡洋艦は、彼女が乗るこの〈ファフニール〉の性能を試すための丁度良い標的だったのだ。獲物をあと少しで追い詰められたところで邪魔されたことに、少女は不満を露にする。

 

「しっかしアイツ、いつの間にあんなに数増やしてたのか。こっちの目も最近緩んでいるし、一体どうしてやろうか。まぁ、そっちの方が面白くていいんだけど。次は数揃えていかないとね」

 

 誰もいない艦橋の中で、少女は独白する。その言葉を聞くものは他にいないが、少女は言葉を続けた。

 

 

 

「さて、今度はいつ踊りましょうか、霊夢――――」

 

 

 少女―――マリサはにやりと口角を歪め、嗤う。

 

 

 

 彼女が見つめる先には、銀と赤で彩られた戦艦、〈開陽〉の姿があった――――




いよいよグアッシュとの決戦も迫ってきました。サマラとの接触は、大方原作通りの展開です。霊夢艦隊はユーリ達よりも後に出港したので間が悪かった形になりますね。

書くネタに困ってまた早苗さんをねじ込んでしまいました(笑)。彼女がにとりから強奪した刀の元ネタは不思議の幻想郷シリーズに登場する"裏妖奇「風屠」"という武器がモデルです。実際邪魔な見た目してます。
ただ、ここの早苗さんはそういう見た目なのが趣味なだけで、暗◯面に堕ちることはないのでご安心下さい。早苗さん曰く「悪役っぽい武器とか格好いいじゃないですか!」とのことです。
ちなみに時々さでずむを炸裂させる模様。

最後の艦隊戦ですが、ラーヴィチェ級に乗っているのは原作通りギリアスです。サマラを探していたら絡まれまたみたいです。そしてギリアスと戦っていた艦ですが、これは「天空のクラフトフリート」に登場するファフニールという戦艦の見た目です。SF的で格好いいので出してみました。
そしてファフニールに乗っていたマリサ(東方旧作の魔梨沙に似ていますが違います)は久々の登場です。第十九話参照。別に放置していた訳ではなく、単に出番まで間があっただけです。本来ならもっと後の予定でしたが、このままフェードアウトしそうだったので前倒しで登場させました。今後もしばしば登場しますので忘れないであげてください。

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