夢幻航路   作:旭日提督

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事業連絡です。前話の狐霊夢を着色verに差し替えました。

予告として、挿絵で「改ドーゴ級戦艦〈レーヴァテイン〉」を公開中です。


第二九話 両舷全速

【イメージBGM:東方風神録より「フォールオブフォール ~秋めく滝」】

 

 

 

 

 ――〈開陽〉自然ドーム――

 

 

 

 

 

 艦内時刻は正午を回り、自然ドームには人工の光が燦々と降り注いでいる。秋の程よく涼しい風が心地いい。

 

「ふぅ、これで終わり、かな・・・。」

 

 ついさっきまで私は昨日の宴会を片付けていたが、それも粗方終わった。

 何時もなら宴会の片付けにはもう少しかかるのだが、昨日の騒動のせいで満足にお酒を飲めなかったから、宴会の翌日としては珍しく早起きだったのでついでに片付けておいた。そのお陰で早めに片付けを終えることができた。

 ああ、ちなみに獣耳は一晩寝たらちゃんと元に戻ったわ。

 

「さてと―――それじゃあ出勤するとしますかな・・・?」

 

 片付けも終わったことだし、艦橋に顔を出そうとした私は、茂みの向こうに何か居るような気配を感じた。

 

 ―――ここは妖怪連中は居ないんだし、何かの動物かしら?

 

 一瞬癖で身構えたが、そういえばここは宇宙船の艦内なのよね。幻想郷にいたような獣じみた妖怪は居ないんだし、普通に考えれば音の主は動物か何かだろう。

 茂みの向こうに何が居るか気になった私は、正体を確かめようとその方向に向かう。

 

「おーい、そこ。何か居るの・・・」

 

「ひ、ひゃうっ!」

 

 ―――声?一体誰かしら?

 

 茂みの向こうから女の人の声が返ってくる。予想に反して、音の正体は人間らしい。どうせ昨日の宴会で酔い潰れて変な所で寝てたんでしょう。

 

「ほら、早く起きなさ・・・い!?」

 

「あっ・・・!」

 

 その人を起こそうと茂みを掻き分けると、そこには白髪の女の人がいた。しかし、その人の頭には白い犬耳と赤い頭襟がついていて、さらに狼みたいな尻尾まである。

 

 ―――ちょっと、こ、これ―――

 

「はっ、白狼天狗っ!!?」

 

「ひゃうんッ!!」

 

 ―――なななな、何で白狼天狗がここに居るのよ!此所は妖怪の類は居ない筈・・・って、ああ、そういえば、あの機械って線もあるか。

 

 予想外の存在に一瞬驚いた私だけど、よく考えたらあの機械の犠牲者が私と霊沙だけとは限らないのよね・・・

 私が大声を出して驚いたのか、白狼天狗みたいな子は犬耳を真っ直ぐ立ててガチガチに固まっている様子だ。

 

「えっと・・・あ、あの・・・か、艦長さんですか?」

 

「?、そうだけど・・・」

 

 どうも初対面のようで、私が艦長か確認してきたのでそれを肯定すると、突然彼女は頭を下げた。

 

「あっ、あの時はどうも有難うございますっ!!」

 

 ―――え・・・私、この子に何かしたっけ?

 

 いきなり礼を告げられたんだけど、どうも思い当たる節がない。前世でも白狼天狗の連中に特に便宜を図ったこともないし、こっちに来てから彼女みたいな格好の人を助けたようなことは無いので、意図が分からず茫然とする。

 

「やっぱり気付いてませんか?私、あの時のモフジなんです・・・。」

 

 ―――モフジ・・・ああ、あの時のね―――って・・・

 

「ええっ!モフジって、前に海賊から助けたあの・・・?」

 

 彼女は私の言葉を肯定するように頷いた。

 モフジは確か、私達がまだヤッハバッハから逃げている間に密猟やってた海賊から保護した動物だった筈。でも何であれが白狼天狗の姿になってるのよ。もしかして成長したら妖怪になるとかじゃ無いでしょうね?

 

「はい。その・・・今までは他のモフジと同じ姿だったんですけど、昨日変な人達に捕まって機械に入れられたら、気がついたらこの姿に・・・。」

 

 ああ、成程ね。サナダさん達の仕業か。

 

「その、それで、折角人の姿になったので、この際艦長さんにお礼を・・・と思いまして。」

 

「う~ん、私もあれは気紛れだったし、そこまでしなくても・・・」

 

 あの海賊を襲ったのは偶々だし、別にお礼とかは考えてなかったんだけどね・・・・それにしても、この子、なかなか素直でいい子そうじゃない。

 

「それと、この際ですから、何かお手伝い出来ることとか無いでしょうか!?」

 

 すると、白狼天狗みたいな子は緊張しているのか、ぎこちない仕草で手伝いを申し出てきた。

 

「え、そうね・・・・なら、ついでだし艦の雑用でも手伝って貰えるかしら?」

 

「あ、有難うございますっ!」

 

 私がそれを了承すると、彼女の顔がぱあっと明るくなって、萎れ気味だった耳が再びピンと立ち上がった。

 

「そういえば、あんた名前ってあるの?」

 

「名前・・・ですか?特にありませんが・・・」

 

 どうも彼女には名前は無いらしい。まぁ、元が動物だし、それもそうか。

 

「そう―――此処で働くなら名前はあった方が良いわよね・・・ついでだから、あんたの名前も考えておく?」

 

「そこまでして頂いても良いんですか!?」

 

 私が名前を考えると言うと、彼女は嬉しそうに尻尾を振っている。・・・あのもふもふ、ちょっと触りたいわね。駄目かしら?

 

「なら、(もみじ)なんてどうかしら?」

 

 名前を考えると言っても、知り合いの白狼天狗から持ってきただけなんだけどね。まぁ、姿も結構似てるし、違和感はないんじゃないかしら?

 

「椛・・・ですか?―――はい、有難うございます!」

 

「気に入って貰えたなら何よりだわ。じゃあ早速だけど、貴女に何か出来ることとかない?」

 

 うちは未だに人手不足なんだし、折角働きたいって言ってるんだから、早速何処かの部署に手伝いに入って貰おう。

 

「出来ることですか――――えっと、見廻りに力仕事に・・・あっ、なんか文字も読めそうです!」

 

 文字・・・ああ、元々獣だから分からなかったのね。大方、あの機械で何かされた影響なんでしょうね。しかしまぁ、獣を入れるだけで人語を解するようにさせられるなんて、あの機械も中々凄い機能ついてるのね。だからと言って安易な再稼働は許さないけど。

 

「見廻りかぁ・・・じゃあ、先ずは保安隊でも試してみるとしましょう。雰囲気が合わなかったら他も試してみた方が良いかもね。」

 

「は、はいっ。了解です!」

 

 でも、獣から人になったばかりだから流石に高度な技術とかは無いわよね。主計課や調理とかも難しそうだし、見廻りや力仕事なら先ずは保安隊で試してみた方が良いかな。

 

「それじゃ、着いてきてくれるかしら?」

 

「はいっ!」

 

 その後は、椛を保安隊の待機室まで案内した。

 

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 

 

「で、こいつの面倒を俺達に任せると・・・」

 

 保安隊長のエコーは、霊夢の突然の来訪に困惑していた。普段ブリッジにいる霊夢は滅多に保安隊の待機室に顔を出さないというのもあるが、それよりも突然連れてこられた狼娘の面倒を任されたためだ。

 

「まぁね。じゃあ、そんなとこだから宜しく。」

 

 霊夢は用件を済ませると立ち去ってしまう。そこに残されたエコーは、狼娘――椛の扱いをどうしようかと思案していた。

 

 ―――艦長の話だと人語を解するようだが、文字はどうなんだ?そこで対応が違ってくるな・・・

 

「おい、椛とか言ったな。これを読めるか?」

 

「え?あ、はい。何でしょうか?」

 

 エコーに呼ばれた椛は、彼の元に駆け寄る。

 椛が近くに来ると、エコーはブラスターを突き出して、そこに書かれた文字を椛に読ませた。

 

「え~っと、火気、厳禁・・・ですか?」

 

「正解だ。どうやら、文字も問題ないらしいな。それでは早速だが、見回りの方法を教えよう。ファイブス、今日の当直はお前だったな。今日はこいつと一緒に行ってやれ。」

 

 椛が文字を読めることを確認したエコーは、早速仕事の話に移る。彼女は見回りや雑用を志望しているという話だったので、彼は先ずは見回りの話からすることにした。

 

「分かったよ。よう、モフジのお嬢さん。俺が今日の見回り担当のファイブスだ。この艦隊では、定時になると保安隊の誰かが艦内を巡回するようになっている。アウトローの0Gドックとは言っても、艦内にはある程度の風紀が求められるからな。今は人手不足だから、相棒は2体の機動歩兵で巡回している。」

 

「機動歩兵って、あそこにあるごっついのですか?」

 

「ああ、そうだ。」

 

 椛が部屋の片隅に置かれている10体ほどの人形機動兵器を指すと、ファイブスはそれを肯定した。

 

「それで見回りだが、先ずは機関室から巡回する。この部屋から一番近い主要部署だからな。その次は自然ドームだ。」

 

「自然ドームって、確か私が居た所ですよね。」

 

「ああ、そうだ。クルーの採用は慎重にやっているが、あそこで麻薬を育てようとする連中が出ないとは言い切れないからな。その次は・・・ああ、研究開発区画か・・・」

 

 ファイブスは端末でその部署の文字を確認すると、頭を抱えて困ったような仕草を見せた。

 

「確か、艦長からのお達しだったな。"マッド共がやらかさないように見張れ"か・・・。」

 

「ああ。あまり関わりたくはないがな・・・」

 

 エコーもその部署の名前を聞いて、呆れたような表情を浮かべた。

 

「兎に角、そこを巡回したら次は格納庫、乗員船室の順で回る。そうしたらここに戻ってくる、という感じだな。その時になったら俺が声を掛けるから、この部屋で休んでいると良い。」

 

「はいっ、分かりました!」

 

 説明を聞いていた椛は、ファイブスの指示に元気良く応えた。

 だが、指示に従おうとして部屋に入った椛は、何処で休めば良いか分からず、困惑して立ち竦んだ。

 保安隊の待機室には、所狭しと装甲服や武器が並んでおり、休めそうな場所は少なかったからだ。

 

「えっと、何処で休めば良いのでしょうか・・・?」

 

「おっと、そうだったな。じゃあ、あそこの溜まり場で休んどけ。おい、お前ら。聞いていたとは思うが、こいつは新入隊員の椛だ。仲良くしてやれよ!」

 

 エコーは部屋の中にいる部下達に声を掛けて、椛の面倒を任せた。

 

 その日、保安隊の新入隊員となった椛は、見廻りに出るまで部隊の女性隊員にたいそう可愛がられたという。主にもふもふされて。その様子を、除け者にされた男性隊員は血涙を流して見ていたとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【イメージBGM:蓬莱人形より「空飛ぶ巫女の不思議な毎日」】

 

 

 

 

 私は今、艦の廊下を歩いているの。この広い艦内を歩いて移動するのはなかなか疲れるわ。飛ぶにしても狭くてうまく飛べなさそうだ。艦内には一応トロッコのようなものはあるのだが、まだ使ったことがない。

 

 ―――さて、次は何処に行きましょうかね・・・

 

 このエルメッツァも粗方見て回ったし、収入源のスカーバレルも潰しちゃったから、そろそろ違う宇宙島に行くのも良いかもね。

 とはいっても、小マゼランの名所とかいまいち分からないし、具体的にどこの宙域に向かおうかという案は出てこない。

 

「―――――」

 

 ?、今、なんか声が聞こえたような気がしたけど、気のせいかしら。

 

「―――――さーん・・・」

 

 この声は・・・早苗?

 

 その声は早苗のものに聞こえたので、自分の端末を見てみるが、何も新しい連絡事項とかはない。

 

「――――れいむさーん・・・」

 

 後ろから?

 

 どうも、声は後ろからしているようなので、取り敢えず私は振り向いてみると・・・

 

「れ・い・む・さ ー ん っ !!」

 

 え、早苗・・・!?

 

「グハッ!」

 

 振り向いたら緑髪の子が見えたかと思うと、その子はそのまま私に突撃してきて、衝撃で一緒に倒れてしまう。

 

「霊夢さん、探しましたよー!」

 

「ちょっと、いきなり何なのよ!それより、その身体・・・」

 

「はい、遂に完成したんです!」

 

 早苗は起き上がると、その身体を披露するかのように、私の前でくるっと一回転してみせた。

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

「えへへ・・・どうですか?」

 

 早苗はそう言うと微笑んでみせる。もう雰囲気からも嬉しそうな感じが犇々(ひしひし)と伝わってくる。そもそも、その身体は一体どうしたのかしら?声だけじゃなくて、姿まであっちの早苗そっくりなのにも驚いたけど。

 

「サナダさんが前々から私の義体を作ってくれていたんですけど、それが完成したんです!だから最初は霊夢さんに見せようと思って―――」

 

「へぇ~、成程ね。これ、感触まで人間そっくりなのね。驚いたわ。」

 

 早苗が話す姿がもう人間のそれと殆ど変わらないので、直接腕にも触ってみたが、肌の感触も人間そっくりなんだ。ほんと、あの人の技術力には感心するわ。変な方向に向かうと有害なんだけど。

 

「はい!これで霊夢さんともスキンシップができそうです!」

 

 すると早苗は私の両手を掴んで顔を近づけた。随分と興奮しているようで、顔が赤い。そこまでされたら、こっちまで気恥ずかしくなってしまうわ。

 

「あ、うん。次の宴会からはあんたも堂々と参加できるわね。」

 

 私の言葉に、早苗は嬉しそうにこくこくと頷いて、「そうですね、楽しみです!」と言ってみせた。それは良いんだけど、こっちの早苗はお酒飲めるのかしら?あっちの早苗は下戸だったんだけど・・・

 

「ところでこれ、どうやって出来てるの?」

 

 早苗の身体が殆ど人間同然なことに、私はそれがどうやって出来ているのか気になってくる。まぁ、私には科学とかあまり分からないから聞くだけ無駄かもしれないけど。

 

「はい、表面は基本的にナノスキンで構成されていますから、人間同様に新陳代謝もしてますし、多少の傷なら自動で修復してくれます。元々医療用だったものを流用したらしいですよ。ただ、見えない部分にはけっこう機械とか使われていますね。」

 

「成程ねぇ~、差詰め、表面が人間の感触をしたドロイドってとこかしら。こういうの、アンドロイドって言うんだっけ?」

 

「そんなところですね。ついでに言うと、アンドロイドは人形のロボット全般を指すんですよ。」

 

 へぇ、そーなのかー。

 

「あと、中枢部分は人造蛋白のニューロチップで構成されています。人間の脳を模して作られているので、それと同様の機能を有しているんです。」

 

「・・・詳しくは分からないけど、兎に角凄いものだってことは分かったわ。」

 

 もうここまで来ると素材が違う人間って感じすらしてくるわね。もうあの人に作れないものなんて無いんじゃないかしら?

 

「はい、凄いんです!」

 

 早苗は自慢気な表情でえっへん、と胸を張ってみせた。仕草まで似ていると、本当にあっちの早苗と勘違いしてしまいそうだ。

 

「伊達に機動歩兵100体分のコストが掛かっている訳ではありませんからね!」

 

 

 ―――は?機動歩兵100体分・・・?

 

 

 早苗から製作に要したコストを聞いて、ちょっと目眩がしそうだわ・・・

 

「はい。此処ではちょっと出来ないんですけど、ちゃんと戦闘も出来ますよ!斬撃から弾幕まで、何でもOKです!」

 

 早苗はそう言うと、左手を銃剣の形に変形させてみせた。

 ・・・手から直接生えてるのは、見方によってはちょっと不気味ね・・・。

 

「そ、それ・・・どんな造りになってるのよ。」

 

「これですか?ナノマシンの自己増殖を制御して、私が考えたように変形させることが出来るんです!」

 

 凄いでしょ!、と、早苗に迫られる。だから、顔が近いわよ、もう・・・

 

「はい!此があれば、どんなアブノーマルプレイだってお手のものです!」

 

 ああもう、どうしてこう変なことまで言い出すのよ・・・。これ、実は中身まであっちの早苗とか言い出さないわよね・・・・AIのときは、もっと大人しかったと思うんだけどな~。

 

「はいはい、あんたの凄さは分かったわよ、もう・・・。」

 

「分かって頂けたようで何よりです!あ、それとですね、少し真面目な話なんですけど、これから私は霊夢さんの副官として働かせて頂きます。具体的な仕事は書類整理の補佐とかですね。他には、今までみたいに指揮の代行なんかもお任せください!」

 

「それは有り難いわね。頼りにさせてもらうわ。」

 

 実は言うと、書類整理とかは今まで碌にやった試しがなかったか、らちゃんとできてるか不安だったのよね。早苗の本体はあのサナダさん製コントロールユニットだから、ある程度は事務仕事を投げても捌いてくれそうだ。

 

「はい、今後とも宜しくお願いします!」

 

 

 

 

 こうして、早苗が義体を得て、クルーとしても艦隊に加わった。何かやらかさないか、マッド共と同じ意味で不安だわ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~エルメッツァ主星・ツィーズロンド、軍司令部~

 

 

 私は今、ツィーズロンドのエルメッツァ軍司令部に来ている。あの中佐に依頼の報告に行くためだ。

 本当ならこの星に着いた昨日のうちに済ませたかったんだけど、どうせならユーリ君と時間を会わせてほしいという事なので、私達は丸一日時間を無駄に過ごす羽目になった。まぁ、乗員の休暇には丁度いいからそこまで怒ってはいないわ。いくら0Gドックとは言っても、休暇で重力下に降りるのも欠かせないのよ。福利厚生は充実させておかないとね。

 

 司令部の受付で手続きを済ませて中に入ると、早速オムス中佐が出迎えてくれた。

 

「おお、待っていたよ、霊夢さん。」

 

「あ、霊夢さん。大丈夫だったんですね。あの時は申し訳ありません・・・」

 

 それと、先に入室していたらしいユーリ君とそのクルーの姿もある。

 どうもユーリ君は私が自分のせいで怪我をしたと思っているみたいで、顔を俯けた。

 

「あの程度で私がくたばる訳ないでしょ。それより、報酬の方は?」

 

 私はそう言うとオムス中佐と向かい合った。此処に来て惚けるなんて許さないわよ?

 

「ああ、用意してあるよ。これが成功報酬の4000Gだ。それと・・・」

 

 中佐は先ず4000Gが入ったマネーカードを手渡す。中身を確認したが、きっちり4000G入っているようだ。でも、確か最初の約束はこれだけだったわよね。中佐はまだ用意しているみたいだけど、他に何かあるのかしら?

 すると、中佐は2枚のマネーカードを懐から取り出して、私とユーリ君に手渡した。

 

「中佐、これは?」

 

「・・・アルゴンに掛けられていた懸賞金10000Gだ。君達の活躍を考えて、半額ずつ渡してある。」

 

 ああ、成程。あの腐れジジイの懸賞金か。生け捕りにしたから、その追加報酬って訳ね。有り難く頂戴しておこう。それより、討伐自体の成功報酬より高いって、一体どれだけ悪事を重ねてきたのよ、あのジジイ。

 

「え、良いんですか?その、僕達に比べたら霊夢さんの方が・・・」

 

 一方で、ユーリ君は戸惑っているみたいだ。大方、私の方が派手に暴れたからそれと同額なのに戸惑っているって所かしら。

 

「別に私は気にしないわ。こういう物は有り難く頂戴しておくものよ。あんたのクルーだって命懸けで戦ったんだから。」

 

「そこのお嬢さんの言う通りだ。大人しく貰っときな。」

 

「はい・・・有難うございます・・・。」

 

 私に続いて彼の副官らしいトスカさんの言葉で、ユーリ君も納得したみたいだ。

 

「それと此れは私からの個人的な礼だ。隣の惑星ジェロンには我が軍の艦船設計社があるのだが、そこの紹介状だ。今後の航海に役立てると良い。」

 

 さらに、中佐は私達にデータチップを手渡す。これがその艦船設計社への紹介状なのだろう。中佐には悪いけど、その設計図が有効利用されるかどうかはうちのマッド次第ね。

 

「有難うございます。」

 

 まぁ、受け取れるものは受け取っておきましょう。ここの艦船設計図でも、何かしらの利用法が見つかるかも知れないし。

 

「それとユーリ君、君達が回収したエピタフ探査船のヴォヤージ・メモライザーの事だが・・・」

 

 エピタフ探査船?

 

 いきなり話が変わって私が戸惑っていると、ユーリ君はあの後自分達が追加で行方不明になったエピタフ探査船の探索も行っていた事を話してくれた。あれだけ危険を冒した後なのに、律儀よね。

 それにしても、ヴォヤージ・メモライザーとは穏やかじゃないわね。確かあれはフェノメナ・ログとは違ってフネの航行に関する艦内装着の稼働状況と航海情報を記録する航行記録装置だった筈・・・それが回収されているって事は、その探査船とやらは沈没したって事だ。

 

「それで、解析は終わったのかい!?」

 

「いや、損傷が激しくて難航中だ。申し訳ない。頼んでおいたのに難だが、あまり期待はしない方が良いかもしれないな。」

 

「・・・そうかい。取り乱して悪いね・・・。」

 

 トスカさんがいきなり声を張り上げたかと思うと、中佐の言葉に彼女は意気消沈する。一体何なのかしら?どうも何時もと違った様子だったけど。

 

「それとユーリ君、例のエピタフの情報だが、君はデットゲートを知っているかね?」

 

「デットゲート?」

 

 また話が変わって。どうもユーリ君はエピタフに関する情報も報酬に頼んでいたみたい。

 

「機能停止したボイドゲートの事ね。」

 

「ああ、霊夢さんの言った通り、ボイドゲートに良く似た構造物の事だが、その機能は完全に停止している。エルメッツァではあまり見掛けないが、辺境ではたまに見つかるらしい。」

 

 私に続いて、イネス君が解説する。

 

「うむ。軍に残された古いデータでは、デットゲートの周辺でエピタフが発見された事例が2件ほど確認されている。更に、ジェロウ・ガン教授の研究に因れば、エピタフとデットゲートの間にはその組成に近い点が見受けられるという話だ。」

 

 へぇ~、面白い話ね。それにしても、古いデータって事は、だいぶ昔のデータまで遡って調べたんでしょうね。それで事例が2件なんて、随分と大変な作業だったんじゃないかしら?私にはそこまでやる根気は無いわね・・・

 

「つまり、デットゲートについても調査すればエピタフの謎も解けるという事ですか!?」

 

「私も専門ではないからそこまでは分からないが、ジェロウ・ガン教授に話を伺ってみれば何か分かることがあるだろう。私から教授に紹介状を送っておいたから後日訪ねてみると良い。カルバライヤのガゼオンという星に彼はいるよ。」

 

 ユーリ君は、少し興奮した様子で中佐から渡された紹介状を受け取った。

 

「協力に感謝します、オムス中佐。」

 

「いや、君達はあれだけの事を成し遂げたんだ。報酬を用意するのは当たり前だ。では私からの話は以上だ。良い航海を祈っているよ。」

 

 これで中佐の話は終わったみたいだ。

 私達は中佐に一礼して、軍司令部を後にする。

 

 

「カルバライヤのガゼオンか・・・」

 

 ユーリ君は、まだ興奮が覚めぬ様子で呟く。彼の行動原理には、エピタフの謎を解き明かすみたいな事があるようだ。そういえば、エピタフって色々伝説があったわね。手にした者は莫大な財を得る、とか。

 

「行くんだろ、ユーリ。」

 

「ああ。その為に宇宙に出たんだ。」

 

 彼は隣に居たトーロ君に促されて、決意を新たにしたみたいだ。さて、私も次の行き先を考えないとね。ここに留まっていても収入源を潰しちゃったから、あまり収入は期待できない。

 

「そういえば、あんたは何処に行くんだい?」

 

「う~ん、まだあまり考えてないわ。小マゼランに来たのも最近だし、あまり名所とか知らないのよ。」

 

「成程ねぇ~。差し当たり別の銀河からの放浪者ってとこかい。若いのにやるねぇ。なら、見たこともないあの艦にも納得だ。」

 

「ええ。色々大変だったわよ。」

 

 トスカさんに言われて航海を振り返ってみると、本当に色々あったわね・・・。ああ、グランヘイムとは二度と戦いたくはないわ。次現れたら直接乗り込んで大将首を取るしか勝ち目が無さそうだわ・・・。あ、そういえば、私がエピタフを見つけた遺跡の近くにもデットゲートがあったわね。これはちょっと興味深いかも。

 

「なら、あんたもカルバライヤに来るかい?あそこなら、まだグアッシュ海賊団が跳梁跋扈している筈さ。"海賊狩り"のあんたには、都合が良い話じゃないか?」

 

「海賊狩りって・・・何処で聞いたのよ。」

 

「いや、中々有名な話だよ?突如現れた海賊を標的にする謎の艦隊って。まさかその指揮官があんたみたいな若いのだとは思わなかったけどね。」

 

 トスカさんはハハハッ、と笑いを溢した。・・・私もそれなりに暴れた自覚はあったけど、そこまで有名だとは思わなかったわ。

 

「そりゃどうも。あと、情報ありがと。参考にさせて貰うわ。」

 

 グアッシュ海賊団か。そんなれんちゅうが居るなら、当面収入は確保できそうね。イナゴが稲を食い潰して移動するように、スカーバレルを食い潰した私達も、次なる餌を求めて飛び立つのよ~。取り敢えず、グアッシュは首洗って待ってなさい、ふははははーっ。

 

 

 その後はユーリ君達と別れて、自分の艦隊に戻った。

 

 

 

 

 

 ~〈開陽〉艦橋~

 

 

 

「って事だから、次はカルバライヤに向かうわ。」

 

「成程な。確かに収入源の問題はある。この宙域を離れるって事には賛成だな。」

 

 艦隊に戻った私はブリッジクルーの皆に次の行き先を話した。結果、コーディを含めた全員が賛成してくれたので、目的地は決定したも同然だ。

 

「では、カルバライヤまでの航路を設定しておきます。」

 

「5時間後の出航に備えて、主機の最終点検を行っておきます。」

 

 それを受けて、操舵手のショーフクさんと機関長のユウバリさんが着々と出航の準備を進めていく。

 

「霊夢さん、ネットワークからグアッシュ海賊団の情報を入手しました。後でご覧になられますか?」

 

「ありがと、早苗。」

 

 早苗が入手してきてというデータに目を通す。そこにはグアッシュやカルバライヤの主要な艦船のデータが表示されていた。

 

 ―――それより、早苗もブリッジに馴染めてきたようで何よりね。

 

 最初、他のクルーに早苗を紹介したときは上手く馴染めるか分からなかったけど、元から艦のAIとして関わってきただけあって、彼女は他のクルーとは直ぐに馴染めたようだ。

 

「ノエルさん、これ、ライブラリに追加しといてくれる?」

 

「了解です。」

 

 データを受け取った私は、そのままそれをノエルさんの席に転送して、艦船データを艦隊のライブラリに追加してもらった。これでグアッシュに遭遇しても、ちゃんと識別できる筈だ。

 

「ふむ、カルバライヤか・・・是非ともジェロウ教授には会いたい所だな。」

 

 サナダさんは同じ科学者としてシンパシーを感じるのか、ジェロウ教授のことを気に掛けているみたい。その教授って、どんな人なのかしら?ユーリ君が会いに行くみたいだけど。

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 

「主機点火完了。出力安定しました。」

 

「艦内各部、異常無し。」

 

 あれから出航準備を進めて、しました予定時刻が近づいてくる。インフラトン・インヴァイダーが起動し、〈開陽〉艦内には機関の起動音が響き出した。

 

「全乗員の乗艦を確認しました。」

 

 端末を通して、早苗が全クルーの搭乗を確認する。

 

「よし、出航よ!機関微速前進!」

 

「ガントリーロック、解除。」

 

「了解、機関微速!」

 

 出航準備が整ったようなので、私は時間を確認し、出航は命じる。

 

 宇宙港のガントリーロックが外れ、〈開陽〉は滑り出すように動きだした。

 

「全艦の出航完了後、艦隊陣形を調節。それが終わり次第i3エクシード航法に移行して。」

 

「了解。」

 

 〈開陽〉に続いて、駆逐艦や巡洋艦、工作艦が出航し、ツィーズロンド郊外で艦隊陣形を整える。

 

 前方に3個分艦隊を配置し、それに本体、特務艦隊が続く形となり、陣形調節が完了した。

 

「艦隊陣形の調節完了!」

 

「艦隊全艦、i3エクシード航法に移行!」

 

 私の命令で、艦隊各艦はi3エクシード航法に移行し、一気に200光速まで加速する。

 

 

 

 次の目的地は、カルバライヤ・ジャンクション宙域だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「追跡者ノコントロール受動ニ継続的破調ヲ確認・・・早急ナ対処ノ要アリト認メマス。」

 

 

「思考コントロール、及ビ認知的協和ヘノ調整ヲ次回観測機通過時ニ実施スルヨウ、設定・・・」

 

 

 

 




これでエルメッツァ編は終了です。次回からはカルバライヤ編になります。

椛を保安隊にぶっ込んだのは、単純に原作の椛が哨戒天狗だからです。今後は保安隊のアイドルになるでしょう。
尚、本文中にはありませんが、霊沙は共同正犯で一日懲罰房に入れられました(笑)。減給と懲罰房行きの二択で、彼女は後者を選んだようです。ちなみにマッドは減給処分に処されています。


早苗さんについては、服装は原作の早苗さんをミニスカにして金剛型の服を着せています。本文中にもありましたが、某ター〇ネータのように腕を武器に変形させたりすることが出来ます。(ただし、此方は容姿までは変更出来ませんw)
あと、ここの早苗さんは「自己改造:EX」と「さでずむ:A」のスキルがありますw




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