夢幻航路   作:旭日提督

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第二七話 マッド達の談合会議

 〜〈開陽〉技術研修室〜

 

 

 

 霊夢がアルゴンの爆弾で重症を負ってから2日後、〈開陽〉艦内に設置されたこの技術研修室には、会議用のテーブルを囲むように座る科学班長のサナダと整備班長のにとりが、真剣そうな表情をしながら、データの列を眺めていた。

 そこにエアロックが開く音が響き、船医のシオンが入室する。

 

「すみません、遅れました。」

 

 シオンは遅刻を詫びると、2人の近くの席に腰掛けた。

 

「・・・これで全員か。では始めるとしよう。それでシオン君、艦長の容態は?」

 

「今は安定しています。あと3日もすれば回復して、目を覚ますかと」

 

 サナダの問いにシオンが答える。

 

「まぁ、あのリジェネレーションポッドの性能からすればそんなところか。事を進めるには今しかないな」

 

 この〈開陽〉の医務室はそれなりに性能が良いものが搭載されており、火傷程度なら数日リジェネレーションポッドに入れておけば治るほどだ。霊夢が負傷した当初は惑星にある本格的な病院に移送することも考えられたが、それでは遠く、尚且つ艦内の医務室で充分という判断が下されたため、霊夢はそこで治療を受けていた。

 

「では本題に入ろう。にとり君、先ずは物資の消費状況から頼む」

 

「ああ、じゃあ物資の状況だけど、艦隊の修理と補給は完了、艦載機や消耗品の補充も終えて工作艦の腹も一杯だね。残りの量は、改造と建造分を差し引くと、駆逐艦30隻分ってとこかな」

 

「ふむ・・・で、〈ムスペルヘイム〉の建造状況はどうだ?」

 

「あれか?それなら進捗状況70%ってところかな。あと1日もすれば完成すると思うよ」

 

 サナダ達がいるこのファズ・マティは元々スカーバレル海賊団の本拠地であり、豊富な物資やある程度の造船機能を有していた。サナダ達は、霊夢が目覚めない間に、これらを使って自分達の計画を実行しようと考え、ファズ・マティにある物資、ドックを根こそぎ接収していた。

 

 野望実現の第一弾として建造されているのが、先程会話に出ていた〈ムスペルヘイム〉という艦である。

 この艦は、計画上は特大型工作艦と呼ばれ、ビヤット級貨物船を横に2隻並べてその中央に造船ドックを設置した艦だ。この造船ドックはエルメッツァのグロスター級戦艦がギリギリ入れる大きさで、巡洋艦クラスなら1~3隻、駆逐艦クラスなら3~5隻を同時建造できる。

 

「そうか。なら出航予定には間に合いそうだな。そして改造の状況は?」

 

「そっちならもうとっくに終わってるよ。何せエンジンを増設するだけだからね」

 

 ここでサナダ達が言う"改造"とは、ファズ・マティに残されたビヤット級やボイエン級といった貨物船にエンジンを増設する作業のことを指している。

 これらの艦は元々スカーバレルが海賊行為の結果奪取したり、麻薬などの密輸に使われていた艦だ。サナダ達はこれにエンジンを増設し、艦隊に随伴できる速力を与えた上で、ファズ・マティに残された物資を根こそぎ積み込むという計画を立てていた。

 

「そうですか。なら中央軍が来る前には出航できそうね」

 

 にとりの報告を聞いて、シオンは安堵した。

 実は、ファズ・マティを陥落させた際に、友軍のユーリ艦隊は雇い主であるオムス中佐に攻略完了の報告を送っていたため、悠長にファズ・マティで軍拡を行う暇がなくなったのだ。なので、サナダ達は計画していた特大型工作艦の建造を最優先で進め、貨物船にもそのような改造を施していた。

 ちなみにファズ・マティに残された貨物船はビヤット級が10隻、ボイエン級が21隻だ。

 

「これは問題なく進展しているようだな。では、早速お楽しみといこうじゃないか」

 

 サナダは現状確認を済ませると、にやっと笑い、他のメンバーも口元を綻ばせた。

 

「先ずは建造する艦船の選定から行こう。ではシオン君から案を出して頂きたい」

 

 この部屋に集まるマッド3人衆にとって、この会議一番の"お楽しみ"が始まる。それは、今後建造、開発される艦船や装備の決定だ。これから霊夢艦隊の建艦行政を裏で取り仕切ることになるマッド談合の、記念すべき第一回目がここに開催された。

 

「では私から提案させて頂きます。現在の艦隊に不足しているのは、護衛艦たる駆逐艦の数であるという点に、皆さんの疑いはないでしょう。そこで、私はガラーナ級及びゼラーナ級駆逐艦の改良案を作成しました」

 

 シオンがそこで言葉を切ると、2隻の駆逐艦のホログラムがテーブルの上に表示された。同時に、要目も表示される。要目は設計図単体のもので、モジュールによる上昇分は含まれていない。

 

 

 ノヴィーク(改ガラーナ)級 突撃駆逐艦

 

 耐久:1440

 装甲:40

 機動力:35

 対空補正:28

 対艦補正:35

 巡航速度:134

 戦闘速度:150

 索敵距離:13700

 

 

 グネフヌイ(改ゼラーナ級) 航宙駆逐艦

 

 耐久:1280

 装甲:35

 機動力:33

 対空補正:29

 対艦補正:26

 巡航速度:130

 戦闘速度:148

 索敵距離:14000

 艦載機:12~16機

 

 

 シオンが提案したノヴィーク級突撃駆逐艦(ガラーナの改造案)は、用途を対艦攻撃と防空に限定した方針で設計されている。

 元設計のガラーナ級は、ゼラーナから改造する際に、海賊の中途半端な技術故かカタパルト関連の設備が一部残されたままとなっていたが、それを全て撤去し、海賊行為を働く訳でもないので接舷用エアロックも大幅に削減(そもそも無人運用が前提である)して装甲を強化、主砲は対空戦闘も想定して旋回速度、仰角、発射速度の引き上げを行い、艦首レーザー砲はアンテナに換装されて新たに4門の量子魚雷発射管が設置されている。対空兵装は元設計では全く設置されていなかったが、これを問題視したシオンは新たにパルスレーザを艦橋付近に設置し、対空戦闘にも対応できるように設計している。

 これらの改設計により、元々エルメッツァ正規軍の駆逐艦よりやや低めの性能だったガラーナ級は、小マゼランはおろか、一部の大マゼラン製駆逐艦に並ぶまでの性能を獲得するに至っていた。

 

 一方グネフヌイ級航宙駆逐艦(ゼラーナ級の改造案)は、装甲の強化はノヴィーク級に比べると控えめだが、一番の特徴である艦載機搭載能力を強化され、機体の大きさにもよるが、元設計では9機だったものを12~16機にまで拡大した。しかしこの設計で兵装を増設する余裕がなくなり、対艦兵装は両舷の単装レーザー砲搭4基のみと変わらない。しかし、その砲もガラーナ級同様の改良が施されており、連射性能の改善によって攻撃力は上昇している。またパルスレーザの増設やレーダーの換装等も行われ、汎用性の高い小型巡洋艦とでも呼べるような性能を獲得していた。

 

「両艦とも無人運用を前提として装甲を強化し、いずれも対空能力を引き上げて汎用艦として設計しています。そして本艦隊での運用に必要無い海賊行為用の設備は全て撤去(カット)。派手さはありませんが、護衛艦としては適した性能だと考えます。如何でしょうか?」

 

 

「ふむ・・・確かに良さそうな艦だな。一から新しく設計するより、コストの上昇も抑えられている。問題点を上げるとすれば、元設計の性能が低いせいか、性能も控えめなところか。だが、量産するとなれば、この案は中々だろう」

 

「確かに、対艦攻撃力はちと足りないかな・・・だけど、それ以外はかなり高いバランスで纏まっていると思うよ」

 

 サナダとにとりは、その案を眺めて評価を下す。二人ともシオンの案に対しては、概ね好意的な評価だった。

 

「では最終的な評価は後にして、次はにとり君の案を聞こうか」

 

「おう、任された!んで、私の案はこいつだ。」

 

 にとりがコンソールを操作すると、シオンの駆逐艦案に代わって、今度は2種類の中形艦の設計図が表示された。両艦とも直線的な艦容で、デザインも大部分は共通しており、〈開陽〉やクレイモア級のような搭型艦橋を艦体の後方に備え、両舷には艦橋と同じ位置に小型の艦橋を設け、それを挟むように連装主砲が設置されている。艦尾は4基のエンジンノズルに隙間なく占められており、速力が遅いという印象は与えない。

 主砲は艦橋の前にも1基設置されているが、一方の艦は艦首部にも2基の主砲を板を挟むような配置で設置されているのに対して、もう一方の艦は艦首部は3段の飛行甲板になっており、前者よりも箱形の艦容をしていた。

 

「艦隊の護衛艦が不足しているってとこには同意するが、1、2隻はそれなりにデカい艦も作った方が良いんじゃないかって思うんだ。それでこいつの出番だ!」

 

 にとりの言葉と同時に、それらの艦の要目も表示される。

 

 

 マゼラン級 巡洋戦艦

 

 耐久:5100

 装甲:62

 機動力:25

 対空補正:25

 対艦補正:70

 巡航速度:126

 戦闘速度:140

 索敵距離:13000

 

 

 オリオン級 航宙巡洋戦艦

 

 耐久:5220

 装甲:65

 機動力:25

 対空補正:30

 対艦補正:65

 巡航速度:127

 戦闘速度:140

 索敵距離:15000

 艦載機:24機

 

 

「こいつらは〈ムスペルヘイム〉のドックぎりぎりの大きさで設計してある。一応戦艦クラスとの戦闘も想定しているから、主砲の口径は120cmだ。オリオン級の方は艦載機運用能力も付与してある。主砲は3面に配置して死角をなくしている。戦艦がこの〈開陽〉1隻って状況も心許ないし、検討する価値はあるんじゃないかな?」

 

「ふむ・・・このサイズで戦艦並の火力は魅力的だが、マゼラン級の方は艦体サイズに対して主砲の占める面積が大きいな。同航戦時の被弾危険箇所の増大が懸念される。それと艦首砲搭の設置方法も問題が有りそうだ。この艦首の薄さだと、バーベット部の構造上、被弾にはかなり脆い。敵艦との砲戦を考えるなら欠陥が多いな。採用するならオリオン級だろうが、私なら純粋な巡洋艦として設計し直すだろう」

 

「そうですね、ここはオリオン級の主砲を80cmとして、クレイモア級との部品共通化を図った方がコストパフォーマンスの上でも良さそうですね。クレイモア級は一応重巡洋艦ですが、小マゼランの戦艦なら圧倒できるほどの性能を有しています。それと後部主砲を撤去すれば、機関部の装甲厚も増やせるのでは?」

 

 にとりの自身とは裏腹に、サナダの評価は辛辣だ。防御上の欠点が露呈したマゼラン級は、ここで廃案となる。

 

「そうかぁ・・・じゃあ、こいつは流れかな・・・取り敢えず、オリオン級はそれで改設計してみるよ」

 

「それで頼む。採用するかどうかは、その改設計案が出てからにしよう。では、次は私だな」

 

 にとり案の中型艦は評価を終えたサナダは、テーブル上に自案の設計図を表示する。

 

「航空戦力を有する駆逐艦というゼラーナ級のコンプセントを受け継ぎ、それを400m級まで大型化させたのがこいつだ。任務に応じた小規模分艦隊の旗艦としての使用も考慮している」

 

 サナダ案の艦は、サウザーン級巡洋艦よりも一回りほど小さく、巡洋艦と駆逐艦の中間的なサイズだ。

 艦容は全体的に箱形で、艦首にはカタパルトを2基備え、その下にはセンサー類とミサイル発射管が設置されている。カタパルトの後方にはゼラーナ級の単装副砲を連装に改造したものが2基、背負い式に配置され、搭型艦橋がそれに続く。艦橋側面にはキャビンカーゴブロックが設置され、艦底部には2基の放熱板があり、中心線上にはガラーナ級と同形状の主砲が2基装備されている。艦尾には円形のメインノズルと、それをX字上に取り囲むように配置されたサブエンジンがあり、速度性能に秀でた印象を与えている。

 

「兵装はシオン君が改設計したスカーバレル艦のものを使用し、部品共通化を図ることもできるだろう。直線主体の艦体も量産性を考慮している。次は性能だな」

 

 サナダは一度解説を中断し、艦の性能を表示した。

 

 

 サチワヌ級 航宙護衛艦

 

 耐久:2750

 装甲:51

 機動力:28

 対空補正:52

 対艦補正:39

 巡航速度:133

 戦闘速度:148

 索敵距離:16000

 艦載機:18機

 

 

「性能は汎用性を意識し、このクラスとしては高い索敵能力とサウザーン級並の艦載機運用能力を与え、旗艦用としてコントロールユニットも性能が高いものを搭載予定だ。将来の拡張性を考慮し、有人運用も考慮している。側面のカーゴブロックには大型機も搭載可能だ。攻撃力は平凡だが、小マゼランの巡洋艦クラスは確実に上回るだろう。駆逐艦戦隊の旗艦として運用するのも悪くないと思うぞ」

 

 サナダが自信満々に解説し、シオンとにとりも、その設計案の詳細に真剣に目を通した。

 

「成程、駆逐艦のボスとして運用するのも悪くないな。前衛の哨戒部隊には適していると思うね」

 

「そうですね。サナダ主任の案とあって、完成度は高めです。しかし、艦の立ち位置としては先日の改サウザーン級と被るのでは?」

 

 シオンが指摘したのは、運用コンプセント上で既に開発されているサウザーン級改造設計と被っている点だ。

 改サウザーン級も、艦載機搭載能力を有する軽巡クラスという点が、サチワヌ級と共通している。

 

「ああ、あれか。改サウザーン級は対スカーバレルの急造艦という性格が高かったから、拡張性を潰してモジュールごと設計に組み込んで性能を上げていたが、こいつは一からの新規設計なだけあって本体性能はそれを上回る。さらにこいつは将来の拡張性も意識しているから、長期の運用も可能だ」

 

「つまり、急造サウザーン級の代替、という解釈で良いのですか?」

 

「そんなところだな」

 

 サナダの説明を聞いて、シオンは納得したような表示を浮かべた。

 

「では、次は建造数だな。私が各々の設計案を拝見させて頂いた結果、この数が適していると考える」

 

 サナダがコンソールを操作すると、各艦の艦型が表示され、その横に×〇〇といったように、何隻建造するかという数が表示された。

 

 

 マゼラン級 ×0

 オリオン級 ×1

 サチワヌ級 ×6

 ノヴィーク級 ×10

 グネフヌイ級 ×5

 

 

 サナダは残された資材状況を確認しながら、建造案を提案する。

 

「今後、艦隊規模が大きくなれば餌さとなる海賊が寄り付かなくなる可能性がある。そこで、今後は前衛に少数の分艦隊を先行させる艦隊運用になるだろう。この案は、それを見越したものだ」

 

「成程ね。だけど、分艦隊が小型艦中心だと、火力的に心許ないんじゃないか?ここは改設計後のオリオン級を増やして、分艦隊旗艦にするってのはどうだい?」

 

 にとりが提案すると、建造案の数も訂正される。

 

 

 マゼラン級 ×0

 オリオン級 ×4

 サチワヌ級 ×4

 ノヴィーク級 ×6

 グネフヌイ級 ×4

 

 

「分艦隊はオリオン、サチワヌ、グネフヌイを各1隻で4隊を想定した。全艦艦載機搭載能力もあるし、小規模分艦隊としてはそれなりの戦力になるんじゃないか?」

 

「悪い流れだ、切断(カット)切断(カット)。分艦隊4隊では新規建造分は殆どそちらに取られてしまうのでは?工作艦も増えたことですし、分艦隊は2、3隊を想定して駆逐艦を増やした方が良いと考えます」

 

 シオンの言葉で、建造数がさらに改訂された。

 

 

 マゼラン級 ×0

 オリオン級 ×2

 サチワヌ級 ×4

 ノヴィーク級 ×10

 グネフヌイ級 ×6

 

「分艦隊旗艦はオリオンかサチワヌが担当し、グネフヌイは分艦隊に、ノヴィークの大部分を本隊の護衛に回すという方向性で検討するべきかと」

 

「そうだな。最終的な艦隊編成は艦長の決定による。霊夢艦長はまだ経験は浅いが、護衛戦力が足りないことは恐らく分かっているだろう。なら、この案が最も柔軟性に富んだ艦隊編成が可能だと考える」

 

「う~ん、オリオンはやっぱり少数建造か。まぁ、仕方ないかな」

 

「では、建造数はこの案で行こうか。後で艦長代理のコーディには掛け合っておこう」

 

 シオンとサナダが艦隊編成の方向性を話し合い、にとりも最終的には賛意を示すと、サナダが建造数を確定させた。

 因みに霊夢不在の今はコーディが艦隊の指揮を執り行っているが、彼は霊夢に出会う以前からサナダと共に旅をしていたため、サナダの言葉なら承認は得られやすい。ファズ・マティの資源略奪もサナダが提案し、承認させたものである。

 

 

「では次は新型艦載機の開発状況だな」

 

 艦船の選定と建造という議題が終了すると、サナダは次の議題に入った。

 

「分艦隊の運用を想定した新型偵察機と戦闘機、だっけ?」

 

「ああ。管理局が提供するQF-4000ゴーストでは航続力が低いという問題が指摘されている。元々未探査領域の偵察用として開発されただけあって、小惑星帯でも運用できるよう、機動力は抜群なのだが」

 

 ここで偵察機の運用について解説する。一般に艦船は通常、i3エクシード航法で光速の約200倍の速度を上限として航行している。航宙機はその速度には到底追い付けないのでその際には使用できないが、i3エクシード航法は敵と遭遇した際や隠密航行を試みる際などには使用できない。そこで、一部では偵察機を使用して周辺の警戒をしたり、弾着観測をさせて運用されている。

 

「そういえば、F/A-17改造の偵察機がありましたが、あれでは問題があるのですか?」

 

「いや、問題がある訳ではないが、将来を見越して、今から新型機の開発が必要だと判断した。我々の艦隊は、何より"ウォーホーク"だからな」

 

 サナダの発言で、あとの二人も笑いを溢した。

 ふつう0Gドックは運送業などを主な収入源としている場合が多いが、霊夢は海賊狩りを主な資金源として考えていた。その為、霊夢艦隊では海賊に対しては見敵必殺が基本となっている。サナダのウォーホーク(タカ派)という発言は、それを意味している。

 

「確かに、より効率的な戦いには技術進歩は欠かせないし、新型機とあればロマンも追求できるな」

 

「それでは、各々開発した新型機の御披露目といきますか」

 

 シオンが先陣を切って、自身の案をホログラムに表示する。

 

 ホログラムに表示された機体は鋭角的なデザインで、四角錘を潰したような機体の後方には細長い三角形の翼があり、その付け根には4基のサブノズルが装備されている。その外見は、全体的にゴーストをより滑らかにしたような形状をという印象を与えていた。。機体の上には、〈XQF-01 A-wing〉と、機体名が表示されている。

 

「私は他の方のように開発チームを持っていないので設計案だけですが、この際に提案させて頂きます。この"アーウィン"はゴーストの発展機として検討させて頂いたものです。主翼の付け根に装備した姿勢制御用のサブノズルでゴースト並の機動性を確保し、機体はステルス性を意識しています。用途は偵察機を想定しているので武装は控えめですが、機体サイズは20m級なので、ウェポンベイにはそれなりの量のミサイルを搭載可能です。ゴーストより大型化させたため、問題として指摘されている航続力も改善しています。」

 

「ふむ、中々魅力的な機体だな。にとり君、整備班の人員に余裕はあるか?」

 

「ああ、何人かは手が空いていた筈だよ。って、開発させる気かい?」

 

 シオンの設計案を眺めたサナダは実際に開発しようと思い立って、整備班に人員の余裕を尋ねた。にとりは逆に質問で返すが、サナダはそれに頷き、その通りだとにとりの言葉を肯定する。

 

「まぁ、うちの連中は機械弄りが好きな連中ばっかだからね、頼めば開発してくれると思うよ」

 

「では、試作機の開発は頼みます」

 

「任された。待っておきな」

 

 にとりはシオンの設計した機体の製作を、自身ありげに承諾した。

 

「今度はうちの機体の御披露目といこうか」

 

 にとりは続いて、一枚の写真と設計図を表示する。

 ホログラムに表示された機体は、シオンのような航空機型ではなく、人型のロボットだった。

 写真ではまだ開発中なのか、機体のフレームが剥き出しになっている。設計図では、装甲服を纏った保安隊員のような機体の外観が確認でき、特にバイザーを有する頭部は装甲服に近い。設計図の上には、〈RRF-06 ZANNY〉という機体名が見える。

 

「こいつは実験的に作業用の人形重機に装甲を貼り付けた機体だ。今のところ開発は順調。まだ試作段階だから詳しくは言えないけど、要塞攻略なんかには丁度いいと思うぞ。マニピュレーターの部分はサナダの可変戦闘機と共通の仕様にすれば、そっちの武器も使えるようになると思うぞ」

 

 にとりが提案した機体は、作業用として宇宙港や地上で使用されている18m級重機を改造したもので、説明にあるように要塞攻略などを主な用途として想定されている。

 

「ふむ、人形という形状故に戦闘機のような運用は期待できなさそうだが、小惑星帯などでは機動性を生かした戦闘が期待できそうだな。にとり君の言う通り、海賊本拠地の制圧にも使えそうだ。元が作業用なだけに性能は低いが、今後の発展性には充分期待できるだろう。」

 

「そういえば、人形の機体というのもあまり見掛けませんね。中々斬新だと思います。これは今後が楽しみです。」

 

「偵察機って要望には応えられないが、こっちは好きに開発させてもらったよ。中々好評なようで何よりだ。整備班の連中も張り切るだろうな」

 

 にとりは好意的な評価に口元を綻ばせた。

 

「二人とも、中々のものを見させてもらった。私も対抗心を刺激されるというものだ。我々の可変戦闘機の開発状況だが、2機とも実戦データの収集は順調だ。そのうち、どちらか一方を主力として、現行機の一部を置き換える予定だ。今後は派生型も計画していく予定でいる。」

 

 サナダはまず、2機の可変戦闘機から話す。YF-19とYF-21の2機種は、サナダが現行の主力機Su-37Cの代替として開発を始めた機体であり、データ収集の後にどちらかを主力として採用する予定でいる。

 

「そっちは相変わらずペースが早いね。先達故の特権ってところか」

 

「そうだな。で、先の話だが、必用とあらばYF-19のマニピュレーターをそちらに提供しよう。人型形態時の運用データも用意するが?」

 

「おっ、そりゃ嬉しいね。なら頼むよ」

 

 サナダは開発データをにとりの整備班に引き渡す意向を示す。彼はにとりの人型機動兵器には可能性を見出だしているため、その開発を後押ししようと意図していた。

 

「成程、それは採用が楽しみですね。ところで、"アレ"の開発状況はどうなっていますか?」

 

 三者がそれぞれの開発状況を話し終えたのを見計らって、シオンが話題を振る。

 

「"拡散ハイストリームブラスター"か・・・アレは中々の難物だ。まだ実用化の目処は立っていない。」

 

「そうだね、まずどうやって拡散させるかが課題だね」

 

 サナダ達は、霊夢には極秘でハイストリームブラスターの改良を試みていた。拡散ハイストリームブラスターもその一つであり、これはファズ・マティ攻略時のような敵の大艦隊を打ち破る決戦兵器の一つとして計画されていた。しかし、ハイストリームブラスターを複数の子弾に分裂させるという点で難航し、開発は暗礁に乗り上げているのが現状だ。

 

「そうですか・・・やはり、被害直径の拡大に切り替えた方が良いのでは?」

 

「普通に考えればそうなんだが、ここはロマンを追求する。我々に不可能はないと証明してみせるよ」

 

 シオンは計画の変更を提案するが、にとりはあくまで現行の計画に拘るつもりのようだ。

 

「私も同意見だ。我々に不可能などない。必ず実用化してみせよう」

 

 サナダも力強く頷き、拡散ハイストリームブラスターへの決意を新たにする。

 

 

「・・・それで、質問等はないだろうか。なら、今回の会議はこれで終了としよう」

 

 この場に終結したマッド3人は、建造艦船の決定と技術交流という主目的を達成し、第一回目のマッド談合は、ここに幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〈開陽〉医務室〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――ここは・・・?」

 

 私は目を開けて、自分の居場所を確認する。白い天井が、私の目に入った。どうやらここは、開陽の医務室らしい。

 

 確かアルゴンの奴をぶっ飛ばした記憶はあるのだが、その後のことは思い出せない。どうも、その間は寝込んでいたみたいだ。

 

「あら、目が覚めましたか?艦長」

 

 隣から、女の人の声がする。船医のシオンさんだ。

 

「・・・ええ。何日くらい、寝ていたのかしら?」

 

「今日で約5日、ってところですね。艦隊は既にファズ・マティを出航して、ツィーズロンドに向かっています」

 

 シオンさんが現状を説明してくれる。どうやら私が寝ている間は、誰かが上手く艦隊を回していたらしい。

 

「そう。で、今回は赤字なのかしら?」

 

「いえ、連中から奪えるものは根こそぎ接収しましたから、全体的には黒字かと。その心配は杞憂ですよ。再演(リピート)して欲しい程には利益ガッポガポです」

 

 シオンさんが上機嫌に話す様を見て、それならと安心した。スカーバレルの本拠地潰してなんて厄介な依頼を受けたのだから、それだけ黒字でないと困る。まぁ、海賊から色々ともの奪ったみたいだけど、中央軍ができなかったことをやってあげたんだから、それくらいは大目に見てほしいわね。特にオムスとかいう軍人。

 

「それと、先にツィーズロンドに向けて出航したユーリ君から伝言です。"この恩はいつか必ず返します"らしいです」

 

「…別に、そこまで気にしなくてもいいんだけどなぁ~」

 

 ユーリ君の伝言にあった恩とは、恐らくアルゴンの爆弾から庇ったことを指しているのだろうが、あれは私が勝手にやったことだ。現に私の体も治ってるみたいだし、あまり私は気にしていない。

 

「ところで艦長、――少し、宜しいですか?」

 

「え、何かしら―――っ!?」

 

 シオンさんに呼ばれて彼女のほうを振り向くと、何故かシオンさんは私に馬乗りになって―――って、なんで顔なんか赤くしてるのよ!この変態女医!

 

「艦長の戦闘能力は見させて貰いましたが、普通人間にはあんな動きはできません。艦長の弾幕(レーザー)にも、非常に興味があります。なので、貴女の身体がどのようになっているのか、この際是非調べさせていただきます!」

 

 調べさせて頂きますって、この人の中ではもう決定事項なのね。私が許可した覚えは無いんだけど。

 シオンさんはそう言うと、私の手首をがっちり押さえて、その間にベットから伸びたアームが私の身体を固定する。

 

 ―――ああ、こいつもマッドの一人だっけ・・・ってコレ、ちょっとヤバいわね・・・

 

 たまに忘れてしまうのだが、シオンさんもマッドの仲間だった筈。なら、この対応も納得だ。というか、本気で脱出しないと怪しげな人体実験に付き合わされそうだ。それだけは勘弁なので、私は腕に力を入れて、脱出を試みるが、腕はおろか、身体を固定するアームも動く気配がない。

 

「大丈夫ですよ、艦長。なにも人体実験をする訳ではありません。非破壊検査で済ませます」

 

 シオンさんはそう言うのだが、マッドなだけあって信用できない。何としてでも脱出せねば。

 私はベットの上でなんとか脱出しようと試みるが、結果は変わらない。

 

「そんなに嫌ですか?なら………」

 

 シオンさんは私の腕から手を話すと、制服のボタンを外し始めて、胸元が露に―――

 

「………ちょっと、何やってるのよ!」

 

「え?嫌がるなら身体で対価を、と思いまして」

 

「対価………って、なんでそんな冷静なのよ貴女は!それと私、そっちの気は無いんだけど!?」

 

「―――チッ………」

 

 私にその気がないと分かると、舌打ちで返してくるこの変態女医マッド。というか、何で私がそれで納得すると思ったのか不思議だわ。確かにシオンさんは美人なんだけど。

 あと、その部分が小さい私に対して喧嘩でも売ってるのかしら?なら余計に悪趣味ね。

 

「そうですか………ならば仕方ありませんね。ヘルメス!」

 

 シオンさんがなにかを叫ぶと、私の身体は突如現れた謎の機械に拘束される。医務室にあるまじき刺々しい見た目の機械だ。

 

「少々強引ですが、検査を始めさせて頂きます。覚悟!」

 

 

「あっ、ちょ――ちょっと待って!何でもするか…………いやぁぁぁぁあっ!?」

 

 

 

 

 この後、数時間に渡って謎の検査を受けさせられた。一応人体実験の類いがなかったのはせめてものの救いだが………もう医務室の世話にならないよう、これからは注意しよう。

 




艦船についてですが、マゼラン級は1/1200プラモデルの見た目です。今回は流れてしまいましたが、にとりはまだ諦めていません。今後はorigin版を改造したものを出すかもしれません。オリオン級はセンチネルでのマゼラン改ですが、主砲サイズのダウングレードでIGLOO版のマゼランをセンチネルのマゼラン改にした外見になります。。艦首は三段の飛行甲板になっています。

サチワヌ級はZガンダムのサラミス改の船体にフジ級のカーゴブロックをくっつけて主砲を艦底に移設し、艦尾を0083のサラミス改にしたような外見で、各作品のサラミスのキメラですwサイズは400m級に拡大しているので、カタパルトは2本に増えています。

艦載機は、シオンが提案したものはスターフォックスのアーウィンですが、まだ性能は控えめに設定しています。にとり提案の人型機動兵器はガンダムのザニーまんまです。

次回は艦隊の編成表などを公開したいと思います。(本当は今回の予定でしたがマッド談合に持ってかれましたw)

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