夢幻航路   作:旭日提督

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第二六話 スカーバレル、壊滅す

 〜ファズ・マティ回廊宙域・〈高天原〉艦橋〜

 

 

 

 

「だいぶ片付いたようです。」

 

「そのようだな。」

 

 敵艦隊に混乱を引き起こし、その隙に反転攻勢に出たショーフク率いる霊夢艦隊別動隊の働きによって、今やスカーバレル艦隊は散り散りになり、残存艦は思い思いの方角へ我先にと逃亡している。

 

「む、どうやら、まだ向かってくる奴がいるようだな。」

 

 艦橋に佇むショーフクはモニターを一瞥し、未だ戦闘を継続せんとするスカーバレル小艦隊の姿を認めた。

 

「どうやら敵の増援みたいですが、間に合わなかったようだな。一隻ライブラリにいない艦がいるが、大した問題じゃないな。」

 

 その艦隊は、本隊にやや遅れて出航した元ラッツィオ宙域のスカーバレル頭領だったバルフォスの艦隊だ。

 その戦力は、旗艦と思われる、高い攻撃力と装甲に軽空母並の艦載機搭載量を誇るカルバライヤ製の重航空巡洋艦バゥズ級が1隻と、ガラーナ級、ゼラーナ級の駆逐艦が各2隻、ジャンゴ級水雷艇が3隻、フランコ級水雷艇が5隻だ。霊夢達が有するデータにはバゥズはスカーバレル艦として登録されていないため、不明艦として表示されている。

 これがサウザーン級巡洋艦1隻とアーメスタ級駆逐艦2隻のみを有するユーリの艦隊だけなら大苦戦は免れないだろうが、此処に居るのは小マゼラン銀河も五指に入るほどの性能を誇る艦船を複数有する霊夢艦隊の主力である。幾らバゥズ級が優れた艦であろうと、逆立ちしても叶わないほどの戦力差があった。

 

「ユーリ君、聞こえるかね?あれの相手は我々が行う。君はファズ・マティに急ぎたまえ。」

 

《了解です・・・そちらは任せます!》

 

 ショーフクは通信機を手に取り、ユーリ艦隊を先行するように促す。

 その後、ユーリ艦隊がバルフォス艦隊の進路から外れていくのを確認すると、ショーフクは艦隊のうち旗艦〈高天原〉と重巡洋艦〈ケーニヒスベルク〉、〈ピッツバーグ〉の3隻と、その右側に駆逐艦〈ヘイロー〉、〈春風〉、〈雪風〉を配置して複縦陣を組み、右舷前方から迫るバルフォス艦隊に対して反航戦を挑む。

 

「重巡2隻に命令、砲雷撃戦開始だ。一気に畳み掛けよ。」

 

 ショーフクが命じると、〈高天原〉のコントロールユニットが命令を受諾して2隻の重巡に送信、それを受けた〈ケーニヒスベルク〉、〈ピッツバーグ〉の2隻は上甲板の3連装砲塔を敵に向け、射程距離の差を生かしたアウトレンジ砲撃を開始する。

 

 2隻の重巡洋艦はまずは交互撃ち方から始め、弾着をより確実なものとしていく。第一斉射では早速〈ケーニヒスベルク〉の主砲弾がフランコ級水雷艇を直撃、同艦のAPFシールドを消失させた。第二斉射からは敵も回避機動を開始し、全弾不発となったが、重巡2隻は直ちに射撃諸元を修正し、予測された敵の未来位置にレーザーを撃ち込む。ここで重巡のレーザーはガラーナ級1隻、フランス級1隻に命中し、中破の損害を負わせた。

 弾道が良好と見た〈ケーニヒスベルク〉、〈ピッツバーグ〉の2隻は直ちに一斉撃ち方に移行し、その重圧な艦体からは18本のレーザー光が放たれた。そのレーザーのうち〈ケーニヒスベルク〉のものはガラーナ級1隻を捉えてこれに降り注ぎ、同艦を撃沈した。〈ピッツバーグ〉はジャンゴ級、フランコ級各1隻を撃沈し、ゼラーナ級に損傷を負わせる。

 

「チッ、小僧を逃がしたか・・・ならば目の前の小癪な連中を叩くだけだ。砲撃開始!」

 

 バゥズの艦橋に佇むバルフォスが、怒気を含んだ声で命じた。

 バルフォスの命令で彼の艦隊も重巡洋艦を射程に捉え、艦首を霊夢艦隊の側に向けて砲撃を開始した。バルフォス艦隊のバゥズは先頭を行く〈高天原〉にレーザー1発を直撃させるが、同艦のシールドをやや削った程度で終わった。それに対して、お返しとばかりに〈高天原〉からもレーザー光が撃ち返され、3本がバゥズに直撃し、バゥズの艦体は大きく揺れる。

 

 そうしている間に〈ケーニヒスベルク〉、〈ピッツバーグ〉は第五斉射を敢行し、ゼラーナとフランコ1隻を撃沈する。

 バルフォス艦隊の側は健在な駆逐艦からもレーザー砲による砲撃を開始するが、その火線は霊夢艦隊に比べるとひどく薄い。

 その砲撃をシールドで受け止めつつ、〈高天原〉、〈ケーニヒスベルク〉、〈ピッツバーグ〉の3隻は右舷に指向できる全砲塔を以て全砲斉射を行う。

 それを見たバルフォス艦隊は回避を試みるが、既に損傷していた艦の多くは加速が追い付かず、ガラーナ級、ジャンゴ級、フランス級各1隻が撃沈され、残りのゼラーナと水雷艇にも少なからず損傷を与える。バルフォスのバゥズも無傷ではなく、シールド出力が大幅に低下し、艦のあちこちにはレーザーの直撃により破孔ができている。

 

 霊夢艦隊の側はこのバゥズに止めを刺すべく、更に斉射を敢行し、重巡洋艦は実弾射撃を行う。

 先の砲撃で甚大な損傷を負ったバゥズはそれを避けきれず、レーザー5発と実弾8発を受けて爆沈、ダークマターへと還った。

 

「く、くそっ・・・・・だがまだ終わらん!」

 

 しかし、バルフォスは中々しぶとく、彼は形勢不利と見ると自艦が沈む前に脱出艇に乗り込み、ファズ・マティへと逃亡した。

 

 旗艦の轟沈によって残存スカーバレル艦も降伏し、バルフォス艦隊を下したショーフク率いる艦隊は、ファズ・マティで戦う霊夢の下へ駆けつけるべく、同方面に舵を切って加速した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【イメージBGM:宇宙戦艦ヤマト完結編より「ヤマト飛翔」】

 

 

 

 

 

 〜ファズ・マティ周辺宙域・小惑星帯〜

 

 

 

 

 

 

  ファズ・マティ回廊から離れた小惑星帯の中を、2隻の宇宙船が巧みな操舵で小惑星を避けながら航行を続けている。

 戦闘を行く艦は艦種に大口径の軸線砲を備え、上甲板に計5基の3連装砲塔を備えた重圧な艦容を持った戦艦、博麗霊夢の旗艦である〈開陽〉だ。その後方には、楔形の艦形をした、銀色に赤いラインが入った中型艦、工作艦〈サクラメント〉が続く。

 

「艦長、〈高天原〉より暗号通信です!『"プレゼント"は炸裂した』!!」

 

 オペレーターのノエルが、別動隊として艦隊の大半を率いている巡洋艦〈高天原〉からの通信を受けて、艦長である霊夢に報告する。

 それを聞いた霊夢はニヤリと笑い、一呼吸置いてから号令を発した。

 

「メインノズル出力落とせ、逆噴射スラスター点火!ハイストリームブラスター、充填開始しなさい!!」

 

《了解です。艦の位置を固定します!》

 

「ハイストリームブラスター、エネルギー充填開始!」

 

 霊夢の命令に、早苗とユウバリが応える。

 〈開陽〉は艦首の逆噴射スラスターを点火し、その場に静止する。〈サクラメント〉もそれに続いて、〈開陽〉の真後ろで停止した。

 

「重力井戸(グラヴィティ・ウェル)の調整完了!重力アンカー起動します!」

 

 もう一人のオペレーターであるミユは、ハイストリームブラスター発射の衝撃に備えて艦の人工重力を調整する。

 

「ハイストリームブラスター、エネルギー充填40%!」

 

「60%で発射するわ。主機はワープの準備にかかって。ハイストリームブラスター発射後、直ちにファズ・マティを強襲するわよ!」

 

「了解です。主機、出力上げます!ハイパードライブにエネルギー注入開始!」

 

 機関長のユウバリは、続くワープに備えて主機のインフラトン・インヴァイダーの出力を上昇させ、ワープ装置であるハイパードライブに接続する。

 

 〈開陽〉の艦体が、主機とハイストリームブラスター用、2基のインフラトン・インヴァイダーの出力上昇のために小刻みに振動する。それは、〈開陽〉があたかも武者震いしているように、霊夢やクルー達には感じられた。

 

《艦の位置調整、完了しました。》

 

「ハイストリームブラスター、出力55%!発射まであと20秒!」

 

「ターゲットスコープ、開放!」

 

 操舵手不在の〈開陽〉の艦体を、統轄AIである早苗が調整し、ファズ・マティをハイストリームブラスターの射線からずらす位置に艦を回頭させた。

 続いてユウバリの報告を受けて、発射カウントダウンが始まる。

 艦長席に座る霊夢の前に、ハイストリームブラスターの発射トリガーがせり出す。霊夢はそのトリガーを掴み、ユウバリのカウントダウンに耳を傾けた。

 

「最終安全装置、解除!発射まであと5―――4―――3―――2―――1―――!」

 

 

「ハイストリームブラスター、発射!!」

 

 

 霊夢がトリガーを引き、〈開陽〉の艦首から莫大なエネルギーを持った赤いレーザー光が発射された。

 

 ハイストリームブラスターは〈開陽〉の前面に位置していた小惑星群を吹き飛ばし、丁度大型戦艦が通れそうな"回廊"を新たに形成した。

 

《回廊の形成確認。本艦及び〈サクラメント〉の通行に支障なしと判断します!》

 

 

「よし、ワープに突入、ファズ・マティを強襲するわよ!」

 

 

「「「「了解ッ!」」」」

 

 

 霊夢の号令に、ブリッジクルーが応え、その声が響いた。

 

 

《ワープに突入します!通常空間再突入は1分後です!》

 

 早苗がワープへの突入を告知し、不在の操舵手に代わって彼女自身が〈開陽〉をワープに突入させ、艦は蒼白い超空間(ハイパースペース)に突入した。〈サクラメント〉も彼女の後を追うようにワープに突入し、2隻の宇宙艦は狭い"回廊"をファズ・マティに向かって一直線に駆け抜けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 〜人工惑星ファズ・マティ近傍宙域〜

 

 

 

 

【イメージBGM:艦隊これくしょんより 「艦隊決戦(渾作戦アレンジ)」】

 

 

 

 

 

 

《通常宙域を確認、予定航路との誤差は0,005以内。ファズ・マティ近傍宙域にワープ成功です!》

 

 

 〈開陽〉の艦体が超空間離脱と同時に、付近の物体との衝突を回避するために逆噴射スラスターで急制をかけた。その衝撃で、艦内は大きく揺られる。

 

 

 ――――っ、けっこう厳しいわね、これ。

 

 

 ワープ終了時、〈開陽〉は急激に速度を落としたので、慣性制御がついて行かず、衝撃で私は艦長席から振り落とされそうになった。

 

「本艦前方、距離9500の位置にスカーバレル巡洋艦3隻!」

 

 他のブリッジクルーはもう衝撃から立ち直り、各々の役目を果たしているようだ。早速レーダー管制士のこころから、敵艦隊発見の報告が入る。

 

「巡洋艦3隻か。その程度の戦力なら鎧袖一触ね。一気に叩き潰しなさい!」

 

「イェッサー!、主砲、徹甲弾装填。目標スカーバレル巡洋艦!」

 

 敵艦を補足すると同時に、〈開陽〉の160cm3連装砲塔はスカーバレル巡洋艦―――オル・ドーネ/A級3隻を指向する。

 装填された砲弾は実弾だが、これはハイストリームブラスターの発射に続いてワープとエネルギーを消耗する行動が続いたため、エネルギーの回復までは時間がかかるのでレーザー出力が落ちるために取られた措置だ。

 

 一応インフラトン機関には燃料切れといった事態が起こることはなく、実質エネルギーは無限と言ってもいいんだけど、それでも一度に産み出せるエネルギー量やプールできるエネルギー量は限られている。なので、実戦ではこのエネルギー残量に気を使わないといけないけど、うちは実弾もけっこう豊富だからある程度の無理は効くのよね。実弾なら主砲を動かす分のエネルギーだけで済むし。

 

「射撃諸元入力完了、1番2番主砲、発射!」

 

 〈開陽〉の1、2番主砲は各砲身ごとに独立して目標を指向、敵1隻につき2発の主砲弾を撃ち込んだ。

 敵艦は突然の敵襲に戸惑っているのか、碌に回避もせずにその場に留まっていたため、全弾命中の憂き目に会った。1隻は砲弾が機関部を撃ち抜いたのか、命中してすぐに轟沈、他の2隻も戦艦クラスの主砲弾が炸裂したことによって艦体の半分が吹き飛び、大破した。あの様子では、満足な抵抗は出来ないだろう。

 

「敵3隻のインフラトン反応拡散、撃沈です!」

 

「他に敵影は?」

 

「今のところ、周囲に敵影はありません。宇宙港より敵巡洋艦3、駆逐艦8が向かってきますが、会敵までしばらく時間がかかります。」

 

 こころの報告によれば、敵艦は今ので全てらしい。

 どうも敵はショーフクさんの別動隊に殆どの戦力を振り向けたみたいだ。

 

「よし、なら今のうちに作戦を進めるわよ!早苗、〈サクラメント〉の状態は?」

 

 《はい・・・・どうやら突入準備は完了しているようです。》

 

「じゃあ、〈サクラメント〉には所定の行動を実行するように言っておいて。フォックス、私達も降りるわよ!」

 

「イェッサー!」

 

 私は作戦の第二段階の発動を命じて、〈サクラメント〉をファズ・マティに降下させるように命じた。同時に〈開陽〉からも地上戦部隊を編制しており、私も彼等に同行する予定だ。

 このファズ・マティ奇襲作戦は、最初は浚われた酒場の娘を救出するために始まったことなので、敵の艦隊戦力だけでなく、ファズ・マティ内部に侵入して救出作戦も展開する必要がある。なので地上戦部隊を展開し、拠点ごと落とさなければならない。

 

《RF/A-17の発進準備、完了しました。偵察を開始します。》

 

 どうやら偵察機の発進準備が終わったらしく、〈開陽〉の艦底部にある艦載機格納庫のハッチから、背面にレドームを載せたF/A-17を改良した偵察機が飛び立っていく。数は8機だ。

 勝手の分からない場所にいきなり強襲上陸しても空振りに終わるってこともあるから、こうやって事前に偵察機を送り込んで、通信が集中している箇所を強襲する予定だ。

 偵察が完了するまで約10分の間に、私を含めた上陸部隊は強襲艇が格納されているハンガーに向かい、準備を済ませなければならない。と言っても、主たる白兵戦要員の保安隊と他の有志諸君は乗り込んでいる筈なので、あとは私が強襲艇に乗り込むだけだ。

 

「早苗、艦の操作は任せたわよ。何かあったらすぐに連絡して。」

 

《了解です!》

 

 私は〈開陽〉を早苗に一任し、フォックスを伴ってハンガーに向かった。

 

 

 

 

 

 〜〈開陽〉強襲艇格納庫〜

 

 

 

 

 

 ―――さて、私が艦橋を離れてからしばらく経ったけど、報告はまだかしら・・・

 

 と、私が敵本部特定の報告を強襲艇の中で待っていると、端末が鳴り響き、待望の報告が寄せられた。

 

《艦長、敵本部の特定完了しました。位置は軌道エレベーター付近です!座標をそちらに転送します!》

 

「良くやったわ。引き続き管制を頼むわね。」

 

《了解です!》

 

 ノエルさんから端末にデータが転送される。軌道エレベーターの付近なら、艦隊の現在位置からそこまで距離は離れてはいないが、素直に強襲艇で飛んでいった方が早く着く距離だ。

 

「早苗、強襲艇発進よ!」

 

《了解しました!衝撃に備えて下さい!》

 

 ハンガーのハッチが開き、早苗が強襲艇を〈開陽〉から発進させる。その衝撃で、強襲艇が少し揺れた。強襲艇の窓からは、同時に発進した事前爆撃を担当する戦闘機隊の姿も見える。

 強襲艇の群は機体上部に搭載した2基のエンジンを全開にして、ファズ・マティへ向けて降下していく。

 

《〈サクラメント〉より、上陸部隊の発進を確認!合流します!》

 

 私の指示で先んじて降下していた〈サクラメント〉からも、〈開陽〉から発進したものと同型の強襲艇と、重装備を輸送する輸送機が発進した。

 〈開陽〉の上陸部隊は〈サクラメント〉から発進した編隊と合流し、一路スカーバレル本部を目指す。

 

《こちらアルファルド1、よう霊夢、"掃除"は私達に任せな!》

 

 霊沙から挑発的な通信が入ったかと思うと、あいつのYF-21が私が乗る強襲艇の横を通り抜けていく。強襲艇と戦闘機では速度が違うので当然のことなんだけど、わざわざこっちからよく見える位置でやる辺り腹立つわね。

 

「っさいわね。さっさと行きなさい!」

 

《はいよ。露払いとは聞いたけど、別に、敵さんは全部倒しても構わないだろ?》

 

「やれるもんならね!ま、あんた程度で出来るとは思わないけど。」

 

《チッ、後で獲物がないとか泣きつくなよ!》

 

 霊沙のYF-21がアフターバーナーを吹かせて加速し、敵の陣地に向かっていく。

 

《ま、そんな事だから、露払いは俺達に任せな。》

 

「期待してるわよ。存分に暴れてきなさい。」

 

 それに続いて、タリズマンとバーガーのYF-19と随伴機のSu-37、10機が続いて敵地に飛翔していった。

 

 

 それからしばらくすると、無線に戦闘機隊パイロットの声が届き始める。どうやら、事前爆撃を開始したらしい。

 

《ふははっ、喰らえ海賊!アルファルド1、マグナム!》

 

《ガルーダ1交戦。》

 

《グリフィス1交戦!野郎共、落とされるなよ!?》

 

《グリフィス2了解!》

 

《グリフィス3、了解。交戦する!》

 

《ガーゴイル1、了解!ここで死んじゃあ元も子もねぇぜ!》

 

 エルメッツァに来てからもクルーの募集はやっていたので、以前より航空隊も人数が増えている。無線も前と比べたら賑やかだ。

 

《〈開陽〉よりガルーダ1、ポイントA-8に敵対空ミサイルです。》

 

《了解、ガルーダ1、マグナム!》

 

《ひゃっほー、急降下爆撃だ!》

 

《ガーゴイル1、ポイントD-12の敵レーザー陣地に爆撃して下さい!》

 

《了解した。ガーゴイル1交戦!》

 

 無線の中には何度も爆発音が入り混じっていて、爆撃の激しさを感じさせる。相変わらず霊沙は調子に乗っているみたいだけど、あいつの事だから、落とされてもなんとかなるでしょう。

 

 

《艦長、間もなく上陸ポイントです!》

 

「分かったわ。総員、白兵戦用意よ!」

 

 粗方爆撃も終了し、戦闘機隊の援護の下、強襲艇部隊が着地し、両側ハッチからは上陸部隊のクルーや機動歩兵改が続々と降りていく。

 

 ちなみにこの強襲艇は一度ににつき通常のクルーなら30人、機動歩兵なら16機を搭載できる。ここにはこれを7機投入し、クルーは約60人、機動歩兵改は80体が参加している。

 他には4機の輸送型強襲艇が重装備としてサナダさんが〈サクラメント〉の艦内工場で勝手に作っていた、155mm連装砲を搭載した重戦車M61を4台を運んでおり、その戦車もクルー達の盾として前線に展開済みだ。

 まぁ、この強襲艇もサナダさんが私に断りなく勝手に作ってやがったものだけど、役に立ちそうだからある程度は見逃してあげるわ。

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

「野郎共、行くぞ!前進だ!」

 

 強襲艇から降りた部隊は、保安隊長のエコーを先頭にして、岩石の影などに隠れながら前進を続ける。

 このファズ・マティは、人工的に作られた天体だが、その材料には近くの小惑星等も使われているようで、地面には岩がごろごろしていた。

 

「前方に敵陣地!」

 

 しばらく進んだところで、バリケードを築いていた海賊の一団と衝突し、銃撃戦が展開される。

 

「戦車隊、援護しろ!」

 

 エコーとファイブスは、戦車に支援砲撃を要請し、敵陣に向かって保安隊員を引き連れながら突撃する。

 海賊の陣地には先ずM61重戦車の砲撃が加えられ、バリケードが吹き飛ぶ。そこに保安隊員が躍り込んで、海賊と白兵戦を展開するが、海賊も数は減ったとはいえ、白兵戦ではしぶとく粘るようで、制圧には幾らか時間がかかるようだ。

 

「衛生兵―――っ!」

 

「くそっ、敵が多い!」

 

「左側に新たな海賊陣地を発見!」

 

「機動歩兵をこっちに回してくれ!」

 

「エネルギー切れだ!追加パックを寄越せ!」

 

 保安隊も善戦しているが、海賊も負けてはおらず、此方の被害も増える。

 だが、機動歩兵改の部隊も前線に加わり始めると、その攻撃力を遺憾なく発揮し、今度は海賊の側が押され始める。

 

「艦長、前方から新たな海賊が!」

 

 保安隊クルーの報告で前方を見ると、海賊の増援らしき集団が向かってくるのが見える。

 

 ―――今はこちらが優勢とはいえ、あまり敵が増えるのも良くないわね・・・

 

「あそこの連中は私に任せなさい。貴方達は海賊陣地の方を何とかしておいて頂戴。」

 

「了解です!」

 

 その後、私は海賊陣地で戦う保安隊の上を飛び越えて(援護にいくらか弾幕をばら撒いておく)、敵本部の方角から迫る海賊の一団と対峙する。

 

「なんだぁ、女一人か?」

 

「やっちまえ、ヒャッハー!!」

 

 耳にはなんか雑音が入るけど、それは無視して、海賊達が撃つブラスターの弾幕を回避し、スペルを唱える。

 

 

「霊符―――「夢想封印」っ!」

 

 

 放たれた光弾は海賊達の下に飛んでいき、宇宙服を纏った海賊が何人か吹き飛んだ。

 

「くそっ、女一人相手に何やってるんだ、早く落とせ!」

 

 海賊の側もブラスターを撃つ手を緩めないが、そんな弾幕では、私は捉えられない。

 

 

「チッ、まだ数が多いか・・・回霊「夢想封印 侘 」!」

 

 

 今度は札で海賊共を絡めとり、連中を纏めて処理する。

 

「畜生、何だあいつ!」

 

「構わん、撃ち続けろ!」

 

 海賊の数もだいぶ減ったようで、向こうからの火線も穴だらけだ。

 

「居たぞ!生き残りだ!」

 

「戦車隊、前へ!」

 

「ヒャッハー!、艦長には負けられないぜ!」

 

 そこに、どうやら後方の陣地を制圧し終えた保安隊が到着し、戦車砲や迫撃砲の嵐が海賊を襲った。

 

「ギャァァァァア!」

 

「くそっ、撤退だ!」

 

 形勢不利と見た海賊は散り散りになって敗走していくが、そこに航空隊が機銃掃射を加え、追い討ちを駆ける。

 

 

 ―――スカーバレルの連中には悪いけど、やるからには徹底的にやらないとね・・・ここは弱肉強食の宇宙なんだし―――

 

 

 その光景を見て同情を覚えない訳ではないが、この宇宙は弱肉強食の世界ゆえ、変に情けをかけては今度はこっちの身に返ってくるのだ。前世では情けは人の為ならずとは言ったが、この世界で返ってくるのは時としてナパームやブラスターの光なんだから、クルーの被害を減らすためにも、敵は降伏しない限り殲滅か撃破の方針を徹底しなければならない。

 

《艦長、友軍艦隊が合流しました。現在、宇宙港からそちらに向かっているようです。ショーフクさんの別動隊は上空の残存スカーバレル艦隊を掃討中です!》

 

 ここでノエルさんから、ユーリ君の艦隊が到着したとの報告が入る。

 

「分かったわ。こっちから、敵本部の位置情報を送信しておいて頂戴。」

 

《了解です。》

 

 そのも私達は向かってくる海賊を蹴散らしながら、敵本部へと進軍する。

 ちなみに途中で何人か捕虜をとって尋問した結果、アルゴンは敵本部にいると見て間違いなさそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【イメージBGM:無限航路より 「The great Evil」】

 

 

 

 

 〜ファズ・マティ スカーバレル本部前〜

 

 

 

 

 

 

 外にいる海賊を粗方掃討し終えた私達は、敵本部の前でユーリ君達と合流を果たした。

 

「霊夢さん、無事でしたか。」

 

「まあね。そっちもよく生き残ったわね。」

 

 挨拶代わりに互いの今までの働きを労い、私達はユーリ君達が連れてきたクルーと共に敵本部へと侵入する。

 航空隊と戦車隊に、保安隊や機動歩兵の大半は建物の外に警戒隊として残し、私とエコー、フォックスと保安隊員12名、それに治療班としてシオンさんに衛生兵のジョージが建物に入るために扉の近くに集合する。。

 ユーリ君の方はトスカさんとトーロ、それに酒場で見かけた女の子二人―――確か薄い緑色の髪をした空間服を着ている方がチェルシーで、ピンク色の長髪の子がティータだっけ―――に武器を持ったクルーが他に10名ほどの戦力で突入するみたいだ。

 

「突入準備は出来たわね。じゃあ行くわよ!」

 

「おーい、霊夢――――っ!」

 

 ―――って、この声は・・・霊沙の奴ね。

 

 これからいざ突入、って時に、なんか分からないけど霊沙が向かってくるので、私は一度足を止めた。

 

「何よ。あんたは周辺警戒でもしてなさいよ。航空隊でしょ?」

 

「いや、そうなんだが・・・それより私も混ぜろ!そっちの方が面白そうだ!」

 

 霊沙が着地して、私の前に立った。

 後ろを見てみると、こいつのYF-21はガヴォーク(鳥人)形態で着陸している。どうやら機体を放り出してこっちに来たみたい。

 

「はぁ―――まぁいいわ。ついて来なさい。」

 

「おう。久々に暴れるとするか!」

 

 と言うと霊沙は弾幕を放って、ロックを掛けられた扉を破壊し、敵本部へと雪崩れ込む。

 

「ちょっと、独断先行よ!ユーリ君、私達も行くわよ!」

 

「は、はいっ!」

 

 それに続いて、私達も敵本部の内部に躍り込んだ。

 

「グワーッ」

「アイェェェェッ!」

「あべしっ!」

 

 私達が建物の中へと突入している間に、前方から海賊らしき悲鳴が聞こえてくる。

 扉を抜けると、早速焼け焦げたような臭いが鼻につき、辺りには宇宙服を着た海賊の群れが床に伏していた。

 

「チッ、脆い連中だ。」

 

 その奥には、霊沙が一人立っている。どうやらあいつが全部片付けてしまったみたいだ。

 

「よう霊夢、遅かったな。」

 

「あんたが早すぎるだけよ!ったく、なんでこの人数をあんな短時間で始末できるのよ。」

 

 私でも20秒位はかかりそうなのに、あいつは私達もが扉を抜ける間に全部やってるんだから・・・こいつの戦闘力は私より上みたいね。

 

「んで、さっきから気になってたんだが、この子は誰だい?あんたの妹か?」

 

「はぁ!?誰が妹ですって?」

 

 トスカさんの質問に、思わずそう答えてしまう。

 

 ―――大体、こんな妖怪じみた(実際妖怪らしいけど)妹なんて要らないっての!

 

「ああ、紹介が遅れたな。私は博麗霊沙だ。今はコイツの下で一乗組員をやってる。よろしくな。」

 

 霊沙はトスカさんやユーリ君に向けて不敵な笑みを作って挨拶する。

 

「ま、あんたの仲間なら問題ないね。そんじゃあ、さっさとアルゴンを締めるとするか!」

 

 そんな感じで私達とユーリ君達はスカーバレル本部の建物内を進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 入口で敵を(霊沙一人が)排除した後、私達は建物の奥へと進んでいったんだけど、敵があれ以来一人も出てこない。建物内にはただ私達の足音が響くだけだ。

 

「―――なんだか不気味だな。敵一人も出てきやしねぇ。」

 

 エコーがそう呟く。正直、罠か何かあるのではと勘繰りたくなる程だ。

 

「ここは敵の本部だ。何があってもおかしくないよ。子坊、気を付けな。」

 

「はいっ・・・。」

 

 トスカさんも、ユーリ君に警戒するよう促す。

 

「ほんと、静かすぎて気味が悪いわ・・・。」

 

 ユーリ君のとこのクルーの、ティータが呟く。

 見た目からして、こういうことには不馴れみたいだ。

 

「俺がついてるって。安心しろ。」

 

 そんなティータを気にかけたのか、トーロが声をかけるが、同時に彼は手をティータの後ろに回した。

 

「・・・や、バカっ!どさくさに紛れてどこ触ってんのよ!」

 

「痛えっ・・・!」

 

 そんなトーロは、手をティータに叩かれ、手を引っ込めた。

 

 ――緊張感のない連中ね・・・

 

 私もトーロの行動にはなんか腹がたったので、足下に札を飛ばしておはいた。

 

「うおっ、何だこれ!?」

 

「・・・・」

 

 トーロ君、時と場は考えることね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこから2階ほど上のフロアに上がって、しばらく進むと、廊下が行き止まりのようになっているのが見えた。

 

「あれは・・・エレベーターだな。」

 

 フォックスが廊下の先を指して言った。そこは一見すると行き止まりのように見えるが、廊下の先端がエレベーターになっている。

 確か前の階でも、同じようなエレベーターがあったわね。

 

「まーたピストンかい。面倒臭いねぇ。」

 

「仕方ないわ。先ずは私とユーリ君に、トスカさんとトーロ、それに霊沙とフォックスで行くわよ。」

 

 このエレベーターはどうも1階分しか移動しない仕組みらしく、一つ上の階にしか行けない。敵が侵入したら一方通行になるみたいな仕組みがあるようね。それに重量制限もあり、一度にクルー全員を運び込むこともできない。なので、大体私が先行して上の安全を確保するようにしている。

 

 先発組がエレベーターに乗り込み、駆動音が響いてエレベーターが動く。

 上の階に移動すると、先ずは私が先行して、周囲を見渡す。

 

 ―――――ッ!!

 

「来たか、小僧!」

 

 そこには、幹部らしき一人の海賊に、その部下らしき連中が20人ほど待ち構えていた。

 

「バルフォスっ!」

 

 その幹部の姿を見たユーリ君が叫んだ。どうやら、この幹部とは因縁があるようだ。

 

「バルフォス、これから僕は初めて人を斬ることになるけど・・・・それが貴方で良かった・・・・心の痛みは少ないよ、多分ね。」

 

 そう言うと、ユーリ君は前に出て、腰に下げたスークリフブレードに手をかけた。彼の声からは、怒りの感情が伝わってくるようだ。

 

「艦長、エレベーターはロックされているようです!」

 

「チッ、仕方ないわ。フォックス、ここは私達で何とかするわよ!」

 

「イエッサー!」

 

 フォックスがブラスターを構え、霊沙も戦闘態勢に入る。私もスークリフブレードを構えて、目の前の幹部と対峙する。

 

「ふん、小僧に・・・小娘か。それでわしを斬れるつもりか!」

 

 幹部―――バルフォスは、挑発するように語気を強める。

 

 同時に、ユーリ君も腰のスークリフブレードを抜いた。

 

「ああ、斬るさ―――ティータの兄さんに、今まで貴方の犠牲になった人達の為に・・・!」

 

「あら海賊さん、私を甘く見ない方が良いわよ。」

 

 私は刀の鋒をバルフォスに向け、挑発した。

 

「行くよ、子坊!」

 

 トスカさんの号令で、戦闘が始まる。

 

「夢想封印ッ!」

 

 早速霊沙が弾幕を放ち、敵が何人か吹き飛んだ。

 

「小僧、物陰に隠れて撃て!」

 

「お、おう!」

 

 フォックスとトーロは、廊下の柱の陰に身を隠して、そこから海賊と銃撃戦を挑む。

 

「邪魔よっ!」

 

「ぐはぁっ―――!!」

 

 私も進路上の海賊を刀で何人か斬って、ついでに弾幕をぶつけて突破口を形勢する。

 

「バルフォスっ!覚悟!」

 

 そこにユーリ君が飛び込んで、バルフォスに斬りかかった。

 バルフォスは鞭のような武器をユーリ君に向けるが、ユーリ君がスークリフブレードを降り下ろすと、その鞭は切り裂かれ、そのままの勢いでバルフォスの体を一閃する。

 

 

「ス・・・・スークリフ・ブレードだとぉ!?」

 

 

 バルフォスは目を見開いたまま、その場に倒れ伏した。

 

 他の海賊も粗方片付き、敵は全員倒れているみたいだ。

 

「はぁ、はぁ・・・っ」

 

 ユーリ君は肩で息をしながら、倒れたバルフォスを見下ろす。

 

「やったぜ、ユーリ!――――って、どした?顔が青いぞ?」

 

 トーロが勝利に喜びユーリ君に駆け寄るが、彼の様子を見て心配そうに声をかけた。

 

「こんな・・・イヤな感触・・・僕は・・・」

 

 ―――ああ、成程、直接やるのは初めてな訳ね。

 

「いいんだよ、あれで。敵は確実に仕留めておく――――それが星の海で長生きする秘訣さ。」

 

 そこに、トスカさんが労いの声をかけた。

 

「しっかし、そっちの艦長さんはだいぶ慣れてるみたいだね。」

 

「まあね。先を急ぎましょう。」

 

 トスカさんは私が(見た目は)若いのに、慣れた手付きで海賊を斬っていたので、それをユーリ君と比べたのかもしれない。

 

 ―――まぁ、慣れないのはあっちと変わらないけど。

 

 以前にも、幻想郷では妖怪になりかけた、もう助かる見込みのない人間を何度か手にかけたことがあるが、人を斬る感触は何度やっても慣れるものじゃない。そいつらは、なまじまだ人の領域にいるお陰で、物理的に殺さないと退治できなかった。

 

 ――いつぞやの易者の方が、全部妖怪になってる分ましね。

 

 完全に妖怪になった奴はお払い棒で適当にやれば退治できたから、いくらか気は楽だったけどね。

 

「そうだね、まだアルゴンが残ってる。急ぐよ!」

 

 私達は下の階からピストン輸送で仲間を運んだ後、さらに奥へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バルフォスの襲撃の後、もう一度海賊の襲撃があったのだが、散発的なものだったので一瞬で制圧できた。ついでに敵が落としていったクレジット用データカードが落ちていたから、有難く頂戴したわ。中身はたった300Gとかいうはした金だったけどね。

 

 

 そこからさらに上の階へと進むと、廊下の突き当たりに、いかにもボスの部屋って感じの邪悪な装飾が施された扉が見えてきた。

 

「大将首はあそこだな!御用改めだ、覚悟っ!」

 

 なんか無駄にテンションが高い霊沙が突進して扉を蹴り飛ばし、続いて私達も扉の内側へと突入する。

 

「ここまでだ、アルゴンっ!」

 

「神霊 「夢想封印」!」

 

 奥にはスカーバレル海賊の頭領であるアルゴンの姿(手配書で顔は覚えたから、間違えはしないわ)と、部下数人の姿が見えたので、手始めに弾幕で彼の部下を吹き飛ばした。

 

「ホヒィ―――ッ!ま、参った!降参だよ・・・い、いや停戦だ!もうお互い手を出さないということにしようじゃないか。」

 

「なに虫のいいこと言ってんのよ。あんたが対等な立場でうちと講和できるとでも思ってるの?」

 

「おう、大人しくブッタ斬られちまえよ。それとも俺のブラスターで撃ち抜いてやろうか?華麗にヘッドショット決めてやるぜ。」

 

「ホ、ホヒィ―――ッ!」

 

 私とトーロがそんな感じで恫喝すると、アルゴンは後退りして、尻餅をついた。

 海賊団の頭領って聞いていたからもっと大物かと思ったけど、案外臆病者なのね、こいつ。ま、その性格のお陰でここまで成り上がったのかもしれないけど。

 

「ま、待て待て!分かった・・・・引退!私は引退する!余生をどこか静かな星でのんびり暮らすから、どうか命だけは―――ッ!」

 

「はァ?海賊のドンが命乞いかよ。滑稽だねぇ?」

 

 必死に命乞いをするアルゴンの様子を見て、霊沙がそれを嗤いながら、腰のブラスターを抜いて、その銃口を向けた。

 

「ボスの誇りがあるんだったら、ここで私らに一矢報いようとか思わないのかねぇ?ああ、安心しろ。どう転んでも愛しの部下には会わせてやるからよ。」

 

「ホアアア――――ッ!! そりゃ殺生というもんだ!こんな老人を撃ち殺そうとは、あんまりじゃあないかね!お嬢さ―――」

 

 その台詞を聞いた霊沙が、表情をしかめた。

 

 

 すると、バシューン、と、ブラスターの音が響く。

 

 

 ブラスターの弾はアルゴンの目の前の床に着弾し、煙がゆらりと立ち昇っていた。

 

「次は当てるぜ?」

 

「そ、そんな・・・・・まさか本気じゃあないだろう?この通り土下座でもなんでもするから、どうか命だけは・・・・」

 

 アルゴンはその場で土下座すらして、必死に命乞いを続ける。その姿を見る仲間達の瞳は、なにか哀れなものを眺めるような、冷たいものだった。

 

「そうですね・・・貴方をどうするかは後で決めるとして、先ずはゴッゾで攫った女の子を返してもらおう。」

 

 ユーリ君が、低めの声でアルゴンに告げた。

 

「ゴッゾで・・・おおっ、ミィヤとかいう酒場の娘かね?」

 

 その台詞に、どこか希望を見出だしたのか、アルゴンの台詞は先程と比べて、必死さはあまり感じられない、というか、さっきの命乞いはどうも演技だったようだ。

 

「彼女なら、上の階の牢屋に閉じ込めてある。ほれ、これが牢屋のカードキーだ。受けとりたまえ。」

 

 アルゴンはそう言うと、立ち上がって懐からカードキーを取りだし、ユーリ君に向かって投げた。

 

「勿論、あの娘には傷一つつけておらんよ。だからこれで――――」

 

 そう言いながら、アルゴンはジリジリと後退りしていく。

 

 ―――っ、あの動きは―――!

 

「ユーリ君ッ、それを捨てて!」

 

「えっ・・・!?」

 

 

 事態に気付いた私はユーリ君の下に移動して、まだ困惑している彼の手からカードキーを奪い取り、それを投げようとしたが―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドオォォォォォン!!!

 

 

 

 カチッ、という音がして、目の前のカードキーが爆発した――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒィィィィィホオォォォォォ!!、引っ掛かった、引っ掛かりおったわああっ!!!」

 

 爆発の様子を見たアルゴンが、今までの態度とは一転して、罠にかかった2人を嘲笑うように、高笑いを続ける。

 

「れ、霊夢っ―――!!」

 

 

「ユーリッ、ユーリィィッ――!」

 

 

 それに衝撃を受けた霊沙とチェルシーが、今だ煙が晴れない2人がいた位置に向かって叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったく――――五月蝿いわね。ギャアギャア騒がしいわ―――」

 

 

 そこに、霊夢の声が響いた。

 

 

 煙が晴れると、お払い棒を持った右手を前に突き出して、障壁のようなものを張っている霊夢と、その後ろには殆ど無傷のユーリの姿があった。

 

 

 ―――なんとか、結界は間に合ったようね―――

 

 

 しかし、ユーリとは対照的に、霊夢は額から血を流し、左腕の空間服の袖は焼け焦げて、腕自体も火傷を負っている。

 

「な・・・あの爆発を耐えただと・・・!」

 

 2人が生きていることに驚いたアルゴンが、その場に立ち竦んだ。

 

 

「・・・さっきはやってくれたわね・・・これはそのお礼よッ―――――神霊 「夢想封印 瞬」ッ!!」

 

 

 霊夢がアルゴンの視界から消え、次の瞬間には、アルゴンの周りに大量の札と光弾が現れる。

 

 

「ホ、ホギャァアァァァッ!!」

 

 

 それを一身に受けたアルゴンは、断末魔のような叫び声を上げると、そのまま気絶して、バタンと床に倒れ伏した。

 

 

「はぁっ、はぁっ・・・これで―――――っ・・・」

 

 

 元の場所に戻った霊夢も、アルゴンと同じようにその場に倒れ、気絶した。

 

「れ、霊夢っ、大丈夫か!?」

 

「霊夢さんっ!」

 

「っ、ジョージ、担架を!」

 

「了解っ!」

 

 倒れた霊夢の下に、霊沙とユーリが駆け寄り、シオンは部下のジョージに命じて、担架を用意させる。

 

「2人とも、どけっ!」

 

 そこに担架を運んできた衛生兵のジョージが2人を退かせて、霊夢を担架に乗せる。

 

「おい、フォックスだ!今すぐガンシップを一機寄越せ!艦長が敵にやられて重症だ!!」

 

《えっ、か、艦長が・・・りょ、了解ッ!!》

 

 事態を悟ったフォックスは直ちに〈開陽〉に連絡し、強襲艇を手配させる。

 

「・・・大丈夫です!まだ息はあります!艦の治療ポッドならまだ間に合う筈・・・!」

 

 霊夢を診たシオンは、彼女の息がまだあることを確認し、棺のような構造になっている機械の担架の蓋を閉じた。

 

「くそっ、艦長を早く下に降ろさないと―――」

 

「そんな時間はねぇ、ここをぶち抜くぞ!」

 

 霊沙は一刻も早く霊夢を医務室に運び込むため、弾幕で部屋の壁を破壊し、外に繋げた。

 

「こちらエコー、ガンシップを建物の穴に横付けさせろ!おい、聞こえるかガンシップ、本部に空いた穴から艦長を渡すぞ!」

 

《了解しました!》

 

 強襲艇を操作する早苗がエコーの通信を拾い、艇を建物に空いた穴の位置に横付けした。

 

「シオン、艦長は頼んだ!」

 

「分かりました。必ず助けます!」

 

 シオンが担架を押して、強襲艇に乗り込み、それを確認すると、強襲艇は〈開陽〉へと急いで帰艦する。

 

 

 

「霊夢―――――っ。」

 

 

 その光景を霊沙は見送り、霊夢の無事を祈った。

 

 

 

 

 




今回でファズ・マティ攻略は終了となります。最後は原作では爆発されるのはユーリなんですが、ここで倒れるのは霊夢に変更しています。
ちなみに原作では、アルゴンと対峙したところでアルゴンを許すか許さないかの選択肢が出るのですが、ここで選択を誤ると・・・・これは実際にやって確かめてみて下さい。
それとイメージBGMにある「The great
Evil」は英語版の曲名です。日本語版のサントラは持っていないので、こちらの曲名は分かりません・・・


あと陸戦兵器についてですが、強襲艇はクローンウォーズに登場するガンシップを現代風にアレンジしてみたもので、オリジナルにハインドDとオスプレイ風味を足してみました。M61はそのまんまガンダムの61式戦車5型です。

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