夢幻航路   作:旭日提督

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つい最近ニコニコにて未だ更新を続けている無限航路実況を見つけて、私も負けないように更新を続けようと思った次第です。

そして、評価を下さった皆様、どうも有難うございます。


第二四話 敵地進撃

 〜メテオストーム周辺宙域〜

 

 

 

 スカーバレル討伐のため、私達の艦隊はメテオストームを突破したのだが、一部の艦は装甲に損傷を受けたり、デフレクターユニットに不調が発生したりと、何かしらの被害を受けていた。

 

「これは・・・一度応急修理をやった方が良さそうね。」

 

 サナダさんから上がってきた艦隊の被害報告に目を通すと、やはりメテオストームの隕石群の楯になるように配置した大型艦の損傷が目立つ。

 装甲に損傷を受けているのはこの〈開陽〉だけだが、他の重巡洋艦もデフレクターにかなり負荷がかかっていたらしく、出力が不安定な状態だ。

 

「にとり、整備班の連中を総動員して、損傷艦の装甲の張り替えとデフレクターの応急修理をやったらどれくらい時間かかる?」

 

《そうだな、装甲の張り替えは工作艦に任せても、最低2時間といった所かな。》

 

「分かったわ。それじゃあ、適当な場所に停泊するから、その間に整備班を各艦に派遣して修理作業をやっておいてくれないかしら?」

 

《了解した。》

 

「それじゃあミユさんとこころは空間スキャニングを開始して頂戴。ショーフクさん、艦を11時方向の小惑星に向けてくれる?」

 

「了解です。長距離レーダー作動します。」

 

「各種センサー起動、情報をメインパネルに出力開始。」

 

「了解。機関微速前進。取り舵15。」

 

 にとりを呼び出して艦隊の修理作業を頼み、一度艦隊を付近の小惑星に停泊させる。ミユさんとこころには空間スキャニングを頼んで、海賊の襲撃に備えさせる。ここは既に連中の勢力圏なのだから、用心は越したことにはない。

 

「あと、〈プロメテウス〉をこっちに寄越して頂戴。」

 

《了解しました。》

 

 早苗に頼んで、〈開陽〉の装甲を張り替えさせる為に工作艦を派遣させた。こういう時に便利よね、工作艦って。

 

「ノエルさん、ユーリ君の艦に通信してくれる?一応こっちの方針を伝えておきたいからね。」

 

「分かりました。今通信を繋ぎます――――――回線繋がりました。」

 

 ノエルさんにユーリ君の艦と回線を繋がらせると、艦長席に備え付けられたモニターに、向こうの様子が映し出された。

 

《霊夢さん、どうかしましたか?》

 

「ああ、ちょっとメテオストームで艦隊に損傷を受けてね。今から少しの間応急修理をするから、ファズ・マティ突入はもう少し時間がかかりそうだわ。」

 

《そうですか・・・申し訳ありません。》

 

「いいのよ別に。それより、あんたの方は大丈夫なの?」

 

《はい、お陰様で。こっちの艦隊には目立った損傷はありません。》

 

 ユーリ君が謝ったのは、私の大型艦を彼の艦隊に対して楯になるように配置したことが原因だろう。だけど、あれはメテオストームを突破するのにそっちの方が被害を押さえられると考えて陣形を組んだだけだから、私はそこまで気にしてはいない。

 それよりも、ユーリ君が大人しくしている方が以外ね。彼なら今すぐファズ・マティに突撃する位のことは言いそうだと思ったけど。

 

《それで、修理にはどの程度かかりそうですか?》

 

「そうね、最低2時間ってところかしら。」

 

《2時間ですか・・・分かりました。》

 

 まぁ、時間を聞いてくる位だから、内心は早くミイヤさんを助けに行きたいんでしょうね。

 

「ああ、それと今後の打ち合わせとかもしておきたいから、会議とかできるかしら?」

 

《会議ですか・・・それなら僕達がそちらに向かいます。》

 

「そうね、なら40分後にこっちに来て頂戴。」

 

 《分かりました。40分後ですね。》

 

「ええ。よろしく。」

 

 そこで通信を終えて、私は意識を艦隊の状況に向けた。

 艦橋の外には、左舷側に近づく工作艦〈プロメテウス〉の姿が見える。〈開陽〉の装甲を修理させるのに寄越した艦だ。

 ふとモニターを見ると、サナダさんからメッセージが届いていたみたいで、未読のメッセージが示されている。

 

《艦長?》

 

「うん・・・なんか、頭が痛いわね。」

 

 サナダさんのことだから、また何か勝手に開発したから使えみたいな事だろうと思ってメッセージを開くと、案の定そんなものだった。

 メッセージの内容は、どうやらサナダさんが偵察機を作ったらしく、それの情報だった。

 その偵察機はF/A-17を元にしているらしく、機体上面には大型のレドームが装備され、下部には機体から垂直に延びる安定翼が装備されている。さらにメッセージの文書に読むと、これは既に10機ほど生産されているらしい。

 

「・・・・・早苗、サナダさんに、これは使えるか聞いておいて頂戴。」

 

《了解です。》

 

 まぁ、作ったなら作ったで使い倒してやるつもりだ。手数は多いに越したことはない。

 早苗がサナダさんに問い合わせたところ、案の定もう使えるようにしてあるらしいので、周辺の警戒のために6機ほど偵察機として放っておいた。

 

 

 

 

 

 

 

 近くの小惑星に艦隊を停泊させた後は、本格的に修理作業を開始した。〈開陽〉は〈プロメテウス〉に横付けして装甲板を張り替えて、整備班は3班に別れて、デフレクターに不調を来している〈ピッツバーグ〉、〈ケーニヒスベルク〉の修理と、〈開陽〉の修理をさせている。

 にとりから上がってきた損害報告では、〈開陽〉のデフレクターは完全に復旧させるには一度宇宙港で本格的な整備が必用らしい。しかし、今は宇宙港まで戻る余裕はないので応急修理で済ませるが、それだと最大でも出力が万全な状態と比べて12%ほど落ちるらしい。元の出力が強力なのでそこまで問題ではないが、ミサイル等の実体弾を多用する海賊を相手にするには少し不安が残る。ゲル・ドーネ級は最優先で潰す必用がありそうだ。幸い、他の艦のデフレクターはうちの予備部品だけで修理できそうとの事だ。

 

 艦隊が修理作業を行っている間は警戒以外は私達は暇になるので、この〈開陽〉の会議室ではユーリ君の幹部クルーも交えて作戦会議を行うことにした。

 私達はもう会議室に到着しているので、会議はユーリ君達の到着をもって始められた。

 

「――――全員揃ったわね。それじゃあ、会議を始めるわ。」

 

 私は室内を一瞥して、メンバーが全員揃っているのを確認した。ちなみにメンバーは、私の艦隊からは、私とコーディ、サナダさん、フォックス、ショーフクさんの5人、ユーリ君の艦隊からは艦長のユーリ君と、副長のトスカさん、それに海賊に囚われていたイネス君に酒場で見かけたトーロっていう少年の4人だ。

 あと、メンバーは会議室の中央にある机を囲むように座っている。

 

「では、まずはこいつを見て欲しい。」

 

 サナダさんが会議室の卓に備え付けられたコンソールを操作すると、机の上に宙域図が表示された。それと同時に、各々の席の小型モニターにも、同様のものが表示される。

 

「これは我々の空間スキャニングによって得られたデータを宙域図として示したものだ。」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 宙域図には私達の艦隊の位置が青色のアイコンで示され、周辺の小惑星とメテオストームに、目的地であるファズ・マティの位置が示されている。

 

「見ての通り、ファズ・マティ周辺は小惑星に囲まれ、接近は困難だ。しかし、画面右上、ちょうど我々のいる位置の前方には、小惑星が比較的少ない場所が存在し、それはファズ・マティ方面まで続いている。ここなら、艦隊の通行も可能だ。そうだな、俗にファズ・マティ回廊とでも呼んでおこう。」

 

 サナダさんが示した通り、右上の場所は小惑星を示すアイコンが少ない。普通に考えれば、ここを通ることになるだろう。

 

「じゃあ、そこを通ってファズ・マティに向かおうっていうのかい?」

 

「常識的に考えればそうなるな。」

 

 トスカさんが質問して、サナダさんがそれに答えた。同時に、宙域図に侵攻ルートを示す矢印が表示される。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

「そう、常識的に考えれば、ね。」

 

 そこで私も口を開いた。

 艦隊が通れるのはこの場所しかないという事は、必然的にここで海賊の主力艦隊と激突することになる。いくら海賊とはいっても、あれほどの人工惑星を擁している輩だ。自分達の裏庭とも呼べるこの宙域には、いくらかはセンサー類も設置されているだろう。私達がここを通ろうとすれば、必然的にそれは海賊の知る所となる。

 

「じゃあ、他に通れる場所があるってのか?」

 

「それを考えるのがこの会議の目的よ。他に通れる場所があるか、ファズ・マティ回廊を通るならどう戦うかを考えるのはこれからよ。」

 

 トーロの質問を一蹴して、私は言葉を続ける。

 

「幾ら私達の方が性能で上回るといっても、ここは海賊の本拠地よ。恐らくこっちとは文字通り桁違いの艦隊を持ち出して来るでしょう。普通にやりあったら、物量に押されるだけよ。」

 

「確かに霊夢さんの言う通りだ。なら、まずは此方の戦力の把握から始めよう。戦略を立てるにも、互いの戦力は把握しておいた方がいい。」

 

 確かにイネス君の言う通り、自分達の戦力をまず把握しておくべきだろう。昨日ゴッゾで会ってから、ユーリ君とは碌に打ち合わせなんかできる時間がなかったので、あっちの戦力はまだきちんと把握できていない。それは相手も同じだろう。

 

「ではまず僕達の戦力ですが、サウザーン級の巡洋艦が1隻にアーメスタ級の駆逐艦が2隻です。一応改造はしてありますから、基本性能はそれなりに上がっているとは思います。これはそのデータになります。」

 

 ユーリ君が説明すると、モニターには宙域図に加えて、ユーリ君の艦隊を構成する艦艇の性能が数値化されて表示された。

 そのデータに一度目を通してみるが、私の艦艇と比べたら、各性能の数値はやはり劣っている。しかし少マゼランの艦としては、スカーバレルの同クラスの艦艇と比べたら格段に高性能だ。もう少し分かりやすく言えば、私の艦隊にある改造サウザーン級に一部を除いてやや劣るか同程度と言ったところだ。

 

「――――そっちの状況は分かったわ。じゃあ、こっちの戦力の概要データを送るわ。サナダさん、よろしく。」

 

 私がサナダさんに指示すると、サナダさんは自分の席にあるコンピューターを操作して、ユーリ君達に此方の戦力のデータを送った。すると、予想通り、あちらのメンバーは目を丸くしてデータを凝視しているのが見えた。

 

「おいおい、これってマジかい?」

 

「数値の算出は空間通商管理局の基準に基づいているから、間違いはないと思うわよ。」

 

 私がトスカさんの疑問に答える。一応こういった艦船の性能のパラメーターは、全て空間通商管理局の基準で算出しているから、他の艦船とも単純比較もできる筈だ。これは設計図の性能評価にも使われている基準なので、ふつうは艦船の性能値はこの基準が使用されている。

 

「ははっ、これだとあんたの艦隊だけでスカーバレルを全滅させられるんじゃねぇか?」

 

「な訳無いでしょ。幾らこっちが高性能でも、物量には叶わないわ。」

 

 トーロの言葉を適当にあしらって、私は話を続ける。

 

「敵の戦力は不明だけど、私達は軽く見ても250隻程度はいると考えているわ。こっちのインフラトン観測機で大まかに算出した値だけどね。」

 

「に、250・・・」

 

 私が伝えた数値に、ユーリ君達は息を飲んだ。

 いくらサナダさん謹製の観測機器とはいえ、正確な測定は難しいので、ファズ・マティ方面で観測したインフラトン反応を全てガラーナ級として数値を算出している。なので、水雷艇等も含めれば、これよりも実際の数は多いだろう。

 

「回廊の大きさから推測すると、ここは駆逐艦クラスの艦隊なら最大で200隻ほどの戦力を投入できると考えられる。それを念頭に戦略を考える必用があるな。」

 

「対して此方は戦艦1隻に空母1、重巡洋艦2、巡洋艦4、駆逐艦5隻の13隻が戦力ね。」

 

「そうだねぇ、あんたの重巡洋艦を戦艦として数えても、数の差は20倍以上か・・・こりゃ頭が痛いね。」

 

 此方の戦力分析を聞いたトスカさんが愚痴を溢した。そりゃあ、こっちだって同じ気持ちよ。私だって20倍以上の数の艦隊なんて相手にしたくないわ。

 

「ファズ・マティ回廊で戦闘するとしたら、回廊の太さから考えて敵艦隊を突破するのは難しい。ある程度は撃ち減らす必用があるな。」

 

「それなら、あんたのとこの戦艦で遠距離から仕掛けられないのか?」

 

 コーディの指摘を受けてトーロが提案するが、残念ながらそれだけではこの数は遠距離から仕掛けても、突破出来そうにない。

 

「生憎、そのデータにあるハイストリームブラスターは故障中よ。それに、主砲で撃ち減らそうとしても相手の数が多いし、いくらかは避けられるでしょうね。ただ遠距離から撃ち合うだけじゃ、懐に飛び込まれてお仕舞いよ。」

 

「そうですか・・・じゃあ、そちらの艦載機を上手く使えないでしょうか?」

 

「それはこっちも考えていたわ。」

 

 次はユーリ君が艦載機の活用を提案するが、私としては微妙なところだ。というのも、此方の艦載機の数は未だヴァランタインとの戦いから回復しきっていないのだ。

 

「艦長、こっちの艦載機は、あとどれ位残っているんだ?」

 

「え~っと、確か可変機はYF-19とYF-21が2機ずつ、他はF/A-17が16機、Su-37Cが4機にT-65Bが7機、スーパーゴーストは22機ね。」

 

 フォックスに艦載の数を聞かれて、端末からデータを引き出しながらそれに答えた。こうしてみると、やはり定数を大幅に下回っている。この数だったら、全て〈ラングレー〉に積んでもまだ格納庫に余裕がある。

 

「合計で53機か。敵がゼラーナ級を6隻以上持ち出してきたら、数では簡単に上回られるな。」

 

 スカーバレルのゼラーナ級駆逐艦は、駆逐艦の癖に9機程度の艦載機を搭載できる。当然今後に予想される艦隊戦でも複数の艦が参戦するだろうから、此方の防空にも艦載機を割かなければならない。ただでさえ少ない艦載機を攻撃と防空に分けて運用すれば、戦力の密度が大幅に低下して此方の損害が増えてしまう恐れがある。

 

「確か、F/A-17にはステルス機能があった筈だ。なら、この機体を小惑星帯に隠して、敵艦隊の通過と同時に奇襲させたらどうだ?奇襲で一気に敵の中枢を狙えば、奇襲効果も相まって混乱が狙える。この一撃で敵の旗艦も落とせたら万々歳だな。」

 

「私は専門は水雷戦なので上手く言えませんが、敵の旗艦は通信量などから特定が可能です。ならば、奇襲で敵の旗艦を落とすというのも、あながち無理な話ではありません。」

 

 ショーフクさんが、フォックスの提案に賛同する。

 

「そうだな、私もその案には賛成だ。しかし、F/A-17のステルス性を損なわない為には、武装は全て胴体の弾倉に装備する必用があるな。翼下のペイロードは使えんぞ。」

 

 ここでサナダさんが注釈を付け加える。

 

「それだと、打撃力という点では心許ないわね。この奇襲は、敵の旗艦を狙った一撃離脱にしか使えなさそうだし、継続的に戦闘させるのは無理かしら。」

 

「だな。しかし、仮に敵の旗艦を落としても、まだ敵の数は多いだろう。こいつらの対処も問題だな。」

 

 サナダさんの指摘通り、敵の旗艦を撃沈しても、敵艦隊が壊滅する訳ではない。残った敵も、じきに統率を取り戻す可能性だって考えられる。

 

「遠距離から頭数減らすのに専念しても、それだと長期戦になる。そうなったら拠点が近い連中の方が有利だし、第一ミイヤって娘が危ないね。」

 

 トスカさんの言う通り、長期戦は得策ではない。それに、私はどうでも良いんだけど、ユーリ君達はミイヤさんの救出って目的もあったわね。それなら、彼等は尚更短期決戦で片付けたいのだろう。

 

「ああもう、こうなったらルーの爺さんを呼びたいくらいだぜ。」

 

 ここでトーロが言ったルーの爺さんとは、彼等が以前エルメッツァ領内の自治星系同士で起こった紛争を鎮圧する際に頼った老軍師のルー・スー・ファーのことだ。ユーリ達は、その紛争が終わった後、彼とその弟子を、彼等の要望もあって艦から下ろしていた。彼ならこの状況を何とかできると考えたトーロだったが、彼等を艦から下ろした今では、もはやそれは後の祭りだった。

 

「今はいない人を頼ってもどうしようもないだろトーロ。そう騒ぐくらいなら、案の一つ二つ考えてみたらどうだ?」

 

「な、なんだとイネス!?」

 

 イネス君の言葉にトーロが反応して、その場に険悪な雰囲気が漂った。

 まったく、今はそんなことしてる場合じゃないってのに・・・

 

「トーロ、イネス、二人とも止めるんだ。」

 

「―――チッ、仕方ねぇな。」

 

「失礼したね。」

 

 ユーリ君の仲介でその場は収まったが、これでは会議の流れが途絶えてしまった。

 しばらく沈黙が続き、私も思考を巡らす。

 

 

 ―――奇襲で敵の混乱を誘うなら、その間に何隻の敵艦を落とせるのかが肝心ね・・・

 

 

 奇襲を狙うなら、その間に一気に攻勢に転じて畳み掛けるのが定石だ。しかし、そのための戦力には不安が残る。

 

 

 ―――ここでハイストリームブラスターを使うか・・・いや、あれはエネルギー反応が大きいし、いくら敵が混乱していても、相手は俊敏な駆逐艦や水雷艇だ。混乱を立て直した艦には躱されてしまうわ。それに出力の落ちたハイストリームブラスターでは、そこまでの有効被害直径は望めないか・・・

 

 

 一度ハイストリームブラスターの使用も検討に入れたが、相手にするのが足の速い駆逐艦や水雷艇なのに加えて、そもそもの有効範囲が狭い。派手な見た目なので混乱を継続させることはできそうだが、エネルギー消費と戦果という点では釣り合わないだろう。

 

 

 ―――う~ん、どうしたら良いかしら―――

 

 

 思考に行き詰まって、頭を抱える。

 

 

 ―――ん、ちょっと待った。別にハイストリームブラスターを敵に向けてぶっ放す必要は無いわ。・・・よし、これだ。

 

「ちょっと良いかしら?」

 

 私が声を発して、ざっと注目が集まる。

 

 それから作戦の概要を説明すると、多少の反論はあったが、最後は概ね私の作戦に同意する形で会議は幕を閉じた。

 

 会議を終えた私達は、艦隊の修理が済み次第出港して、ファズ・マティ方面に向けて舵を切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜スカーバレル海賊団本部・人工惑星ファズ・マティ〜

 

 

 

 

 

 

 

 エルメッツァ宙域の辺境の小惑星帯に浮かぶこの灰色の人工惑星こそ、この宙域全体を荒らし回る海賊団の住処、ファズ・マティである。直径300km程の球体の人工惑星は、とても一海賊が作れるようなものではないが、彼等がそれを保有しているという事実は、海賊団の規模と、この海賊団が如何に略奪を繰り返してきたかという事を如実に示していた。

 そんなファズ・マティにある海賊団のボス、アルゴン・ナラバタスカが居を構える司令塔で、拠点周辺の警戒を担当する監視係の海賊は、ファズ・マティからメテオストームを繋ぐ唯一の航路、ファズ・マティ回廊に設置されたセンサー類に一際大きな反応があったことを捉えた。

 その反応をキャッチした下っ端の海賊は、自分の想像を越えた規模の反応を目にして飛び上がり、早速自分達のボスであるアルゴンに報告する。

 

「アルゴン様、"回廊"のセンサー群に反応です!それもかなり大きい奴です!!」

 

「ホゥ、それは一大事だ!直ぐに艦種の特定をしたまえ!」

 

 下っ端の海賊が浮き足だった態度で報告するので、アルゴンの対応も真剣なものになる。

 アルゴンの頭の中では、2種類の可能性が浮かんでいた。一つはたまたま迷い込んだ0Gドックの船団の可能性だ。事実、年に数回は資源等を求めて採掘業者や他の0Gドックがメテオストームを越えてくることがある。今回捉えた反応も、このような船団なら"美味しく頂く"腹積もりであった。

 しかし、もう一つの可能性なら、それはアルゴンを含む海賊団にとって死活問題だ。それも、討伐艦隊の進入である。

 アルゴンは過去に一度エルメッツァの海賊対策艦隊にファズ・マティ宙域に進入されていた。そのときは相手の練度もあって、討伐艦隊を倒すのにそれなりの犠牲を強いられたアルゴンは、それ以来、以前から行っていたエルメッツァ軍への浸透工作を強め、軍高官に"山吹色のお菓子"もバラ蒔いた。さらにそうして懐柔した高官を通して海賊討伐に積極的な指揮官を失脚させ、自分達の領域に侵攻されないように工作を仕掛けていた。

 しかしそうした工作も万全とはいかない。事実、隣のラッツィオ宙域の拠点に侵攻した中央政府軍のオムス・ウェル中佐は、自らの諜報部隊を軍内部にも放って自らの失脚を目論む高官の不正を暴き、それを楯に海賊対策に戦力を割くことを容認させていた。

 だが、そうした指揮官が部隊を動かせば、それは直ちにアルゴンの耳に入るように"お願い"してあるのだが、今回はそうした報告は入っていない。

 さらに、アルゴンは自身の居城たるファズ・マティ周辺には、可視光や赤外線などを観測したり、インフラトン反応を捉えるタイプなど、様々な種類のセンサーを無数にばら蒔くことで、万が一アルゴンの目を掻い潜って艦隊を動かしてファズ・マティ討伐に現れる軍の艦隊を警戒していた。これらのセンサーは廃品を流用したものも多々あり、お世辞にも精度は良いとは言えないが、進入者の規模を探知するには充分な性能を有していた。そのセンサー群は、万が一の備えという側面もあるが、普段は"獲物"を探知するために使われている。なので、普段なら反応があった程度では騒ぎにならないのだが、今回はその反応がかなり大きいとのことなので、アルゴンも真剣になっていた。

 

 一方、艦種の特定を担当した海賊は、表示された艦種を目にして再び驚愕して目を丸くしていた。

 センサーに捕らえられたのは1000m程度の戦艦クラスの反応が3隻ほどで、通常ならそのクラスの反応となればエルメッツァが売り出しているグロスター級戦艦かビヤット級輸送艦の2種類なのだが、グロスター級は保有している0Gドックの数が少ないので、普通は後者のビヤット級が普通だ。ビヤット級とは、エルメッツァの隣国カルバライヤ星団連合が売り出している大型貨物船で、そのペイロードの大きさと耐久性から官民問わず愛用されている艦種だ。勿論、海賊にとっても獲物という意味ではこの上なく最高の存在である。しかし、照合で表示された艦種はそれではなかった。

 

「アルゴン様、艦種の特定が完了しました!」

 

「読み上げたまえ。」

 

「へい!艦型不明の戦艦クラスが3隻、サウザーン級巡洋艦が3、それに駆逐艦クラスが5隻、後続に大型艦が2隻です。内サウザーン1隻と駆逐艦2隻は、外見からラッツィオをヤった連中の艦です!」

 

「何だと、あの小僧の艦か!」

 

 アルゴンの隣に座っていた元ラッツィオ宙域のスカーバレルのトップ、バルフォスは下っ端の報告を聞いて立ち上がる。彼は、自らの拠点を中央政府軍のオムス艦隊と組んだ若い0Gドック、ユーリによって壊滅させられ、このファズ・マティまで逃げ延びてきた"落ち武者"だった。なので、その0Gドックに対する恨みも相当なものだ。

 

「それに、大型艦の艦影を照合したら、例の"海賊狩り艦隊"の連中のものです!」

 

「ホーホーイ、そりゃ大変だ!全艦隊出撃じゃよ!出せる艦は全て出せ!!」

 

 下っ端の報告を聞いたアルゴンは、直ちに全艦隊の出撃を命じる。報告にあった"海賊狩り艦隊"とは、つい最近現れた謎の超弩級戦艦を中心とする10隻程度の艦隊で、その全てが小マゼランの如何なる艦船とも異なる姿をした艦船で構成され、さらに性能も大マゼラン並という、この近辺の宇宙島では、0Gドックとしては間違いなく最強の部類に属する艦隊のことだ。彼等はつい2週間ほど前にオズロンド周辺で活動していた仲間を屠ったのを皮切りに、数十隻の水雷艇や駆逐艦を撃沈または鹵獲し、10隻以上のオル・ドーネ級巡洋艦と、スカーバレルでも貴重な実弾搭載型の巡洋艦ゲル・ドーネを葬っていた。その噂は瞬く間に海賊団全体に広がり、それはアルゴンの耳にも入っていた。彼は下っ端のいう"海賊狩り艦隊"の強さが本当なら生半可な戦力では太刀打ちできないと考え、持てる全戦力をぶつけて性能の差を覆そうと考えた。さらに、相手は高度な技術の下で建造された高性能艦の可能性が高いと考えたアルゴンは、"海賊狩り艦隊"の技術を奪うことで、自らの海賊団をさらに発展させようという野心も抱いていた。大マゼラン製に匹敵する性能の艦船なら、例え残骸レベルのものでも、この小マゼランでは貴重な資源となったりもする。性能で上回る大マゼラン製の艦船には、往々にして小マゼランよりも精度の高い部品が使われているからだ。

 

 そして、彼の命令で、怠惰な雰囲気の漂うファズ・マティは臨戦体勢に早変わりし、各々の海賊達はでかい"獲物"の存在に浮き足立っていた。彼らとて、正体不明な"海賊狩り艦隊"に恐れを感じている訳ではない。しかし、敵はたかが10隻程度、この数百の海賊船を擁するファズ・マティの手にかかれば撃沈も時間の問題だと考えていた。さらに、彼等の艦船に白兵戦を挑み、大将首を討ち取ることで、海賊としてさらに名声を高めようと目論む海賊すら存在したほとだ。

 自分達のホームグラウンドであることで強気になった海賊達は、自分達の艦のエンジンに火を入れ、慌ただしく飛び立っていく。

 

 その最終的な内訳はジャンゴ級水雷艇が26隻、ジャンゴ/A級水雷艇が40隻、フランコ/A級水雷艇が72隻、ガラーナ/A級駆逐艦が28隻、ゼラーナ/A級が13隻、オル・ドーネ/A級巡洋艦が7隻、ゲル・ドーネ/A級ミサイル巡洋艦が3隻、総計196隻の大艦隊だった。

 

「兄弟、ワシも出るぞ、あの小僧にこの怨念、返させて貰う!」

 

「おう、吉報を待っておるよ。」

 

 かつて自分の拠点をユーリに潰されたバルフォスも、復讐のために自身の新たな乗艦に足を運んだ。

 

 スカーバレル主力艦隊が抜錨して程なくした後、ファズ・マティからは、黒い塗装をした鋭角的な三胴型の重巡洋艦が出航した。バルフォスの座乗するカルバライヤ製の強力な重巡洋艦、バゥズ級だ。

 そのバゥズ級に従うように、彼と同じようにラッツィオから落ち延びたガラーナ級駆逐艦2隻、ゼラーナ級駆逐艦2隻、ジャンゴ級水雷艇3隻とフランコ級水雷艇5隻が続く。

 

 

 

 

「ふははっ、待っていろ小僧!今度こそ、このワシが叩き潰してやるわ!!」

 

 

 

 復讐に燃えるバルフォスの高笑いが、バゥズ級の艦橋に響いた。

 




次回はいよいよ艦隊決戦になります。本作で初めての大規模な艦隊戦なので、気合い入れていこうと思っています。


それと今後出してほしい兵器、艦船の要望などありましたら、感想欄のほうに遠慮なく書き込んで頂いて構いません。今後の出演は100%の保証はできませんが、できるだけ要望には応えるつもりです。筆者はマクロスとガンダムはそこそこ知っているので、それらの作品からいくつか新兵器を投入しようと考えています。

本作の何処に興味がありますか

  • 戦闘
  • メカ
  • キャラ
  • 百合

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