夢幻航路   作:旭日提督

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第一九話です。いよいよ、原作突入が近付いて参りました。
無限航跡原作中の特殊兵装は完全にロマンでしかないのは残念ですね。ハイストリームブラスターでも、レベッカ級やガラーナ級程度じゃないと一度に殲滅できないという・・・・せめて威力が5000位あったらなぁ~
グランヘイムは、あの性能であの価格だと少々ぼったくりじゃあないですかね(笑)


第一九話 謎の艦隊

 〜七色星団宙域〜

 

 

 

 

 

 

 

 あの後、私達の艦隊はなんとかヴァランタインのグランヘイムから離脱することに成功し、今は艦体の応急修理を行いながら、一路小マゼランへと通じるボイドゲートを目指している。

 艦隊の被害は、〈グランヘイム〉と直に撃ち合ったこの〈開陽〉と重巡〈ピッツバーグ〉が中破判定、駆逐艦〈雪風〉が小破の損害を受けている。他の艦の損害が少ない分、そのしわ寄せが〈開陽〉と〈ピッツバーグ〉に来ている形だ。

 この〈開陽〉はクルーがいるお陰で、艦内の修理や装甲板の換装などはある程度自力で行えるが、無人艦である〈ピッツバーグ〉と〈雪風〉はそれができない。ここで、工作艦の出番となる訳だ。今まではろくに活躍していなかったうちの艦隊の工作艦だけど、流石に今回の損傷は工作艦抜きでは不味いものだ。この艦隊にある2隻の工作艦のうち、〈プロメテウス〉は両舷にそれぞれ〈ピッツバーグ〉と〈雪風〉を接舷させて、装甲板や武装の交換などの修理を行っている。〈サクラメント〉は横幅が広いのでそうした修理には向いていないため、現在艦内工場で消耗が激しい無人艦載機の生産を行っている。生産が完了した無人機は一先ず空母〈ラングレー〉に飛んでいくが、まだ補充できたのは5機程度だ。

 この〈開陽〉では、今は修理のためにサナダさん率いる技術班が艦内の修理や部品の生産を全力で行っており、エコー率いる保安隊は作業機械を駆使して、損傷した装甲板を取り換え、新しいものに交換してもらっている。しかし、相変わらず人手不足なうちの艦隊では、保安隊は僅か10名程度しかおらず、その作業効率は悪い。なので、霊沙にも、可変戦闘機で修理作業を手伝って貰っている。というか、サナダさんに強引に動員された、って表現のほうが正しかったかしら。『人型形態時のデータが不十分だから、修理のついでに収集して貰うぞ』とか言ってたわね。ほんと、あのマッドの犠牲にされたことには私でも同情するわ。

 んで、私は何をしているかって?今は特にやることがないから、艦内の巡回中。一応人も増えてきたし、顔見せ位は必用だろう。それに、ここは自分の艦なので、修理に何か手伝えることがあったら手伝っておくべきだろう。

 しかし、この1km以上ある艦に僅か100人程度しか乗り込んでいないので、中々人に会わない。これは無駄足だったかな、と思案を巡らせながら、私はヴァランタインが進入した通路に差し掛かる。

 ヴァランタイン一行に進入された通路は、他の箇所と違い、傷や煤など、戦闘の後が残っている。あのときは乗組員の死者は幸いにも出なかったが(人数が少ない上に、バイタルパート内にいたのが要因だろう。)、自動装甲服部隊などの防御機構との戦闘はあったみたいなので、それの名残だろう。

 

 ――けっこう、手酷くやられたものね。――

 

 通路の傷が示す通り、よほどここでの戦闘は激しかったのだろう。あのときもしクルーにも迎撃させていたら、間違いなくうちの乗員は半減していたことだろう。そう考えると、この宇宙の恐ろしさが改めて思い知らされる。

 私がしばらく通路を歩いていると、通路の先から、何人かの人の声が聞こえてくる。どうやら、なにか作業をしているらしい。さらに近付いてみると、それは科学班の人員だった。彼等は傷ついた壁を取り換えて、予備の壁を取り付けている作業をしているようで、作業員が壁に当てた道具からは火花が散っていたり、交換用と思われる資材が立て掛けられていたりする。

 

「―――おや、艦長?こんなところで、どうしたんです?」

 

 私が彼等に声を掛けようとすると、彼等の指揮を執っていた少女と目が合い、声を掛けられた。

 

「艦内の見回り、ってとこかしら。それと、私には別に敬語を使わなくても大丈夫よ。」

 

 目の前の少女は「そうかい、なら次からはそうさせて貰うよ。」と呟いている。彼女もビーメラで雇ったクルーのうちの一人で、山城にとり、という。迷彩柄の空間服を、上の部分を腰に巻き付けていて、上半身は黒いタンクトップのような服を着て、緑色の帽子を被っている。青い肩ぐらいまである髪はツーサイドアップに纏められていて、顔はやや幼い印象を受ける。(ただ、さっきは少女と言ったが、実際はそこまで幼い訳ではないらしい。)

 ここまで言えばわかると思うが、あの河童の河城にとりとそっくりだ。名前も一文字違いだし。服は迷彩だし、あれが山童になった感じのような人だ。ただ、あいつと違って、背丈もそこそこあって、胸もある。あれが成長したら、きっとこんな感じなんだろう。

 

「しかしまぁ、派手にやられたねぇ。うちらは人が少ないから、直すのも大変だ。」

 

 にとりが独り言ちる。

 科学班も人手が豊富という訳でもないし、現にここで修理作業に当たっているのはにとりを含めて3人だけだからね。

 

「ねぇ、なんか手伝えることとかあったりする?」

 

「え、艦長が?―――う~ん、ここの作業は配線とか、結構専門的なこともあるからねぇ~、わざわざ艦長に手伝ってもらうほどでもないかな。まぁ、気持ちだけでも嬉しいぞ。」

 

 うーん、そうかぁ。まぁ、必用ないならそれで良いかな。あんまり邪魔しちゃあ悪いし。

 

「じゃあ、私はそろそろお邪魔しようかしら。お疲れ様。」

 

「ああ。艦長もな。」

 

 そうしてにとり達と別れたのだが、私は完全に失念していた。―――――河城にとりは、兎に角マッドな奴だったということを。なら、こちらのにとりも・・・・・という事だ。後で早苗から通路の防御機構の仕様が変更されたことを聞いたときは、思わず絶句したものだった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの後もしばらく艦内を周っていたのだが、特に異常はなく、やることもなかったので、私は艦橋に戻って、各部署からの報告に目を通していた。

 

「艦長、間もなくボイドゲートに到着します。」

 

 艦隊は修理を続けているうちに、目的地のボイドゲート付近の宙域に到着した。

 

「艦外作業員を直ちに収容して。」

 

 ワープ前に、艦外で作業をしている保安隊の人達を収容するように指示する。艦外に残したままボイドゲートに突入するのは不味い。

 

「はい。エコーさんに連絡しておきます。」

 

 命令を受けたノエルさんが、エコー達を通信で呼んでいるようなので、こっちは大丈夫だろう。

 

「艦長、保安隊の撤収までは、凡そ15分ほどかかる予定だそうです。」

 

「分かったわ。ボイドゲートまでの時間は?」

 

「約25分といったところかな。」

 

 コーディの報告通りなら、保安隊の撤収は十分間に合いそうね。

「早苗、艦隊に異常はない?」

 

 《はい。各艦、航行には問題ありません。〈ピッツバーグ〉、〈雪風〉は一度工作艦より離舷し、陣形に加わっています。》

 

 艦隊の方も、問題はないみたいね。なら、あとはボイドゲートを通るだけね。

 

 

 

 

 

 

 

 〜小マゼラン近傍宙域〜

 

 

 

 ゲートを通った私達は、すぐにワープに入り、ハイパースペースに突入した。この宙域には何もないばかりか、目的地のボイドゲートまでは約900光年の距離があるためだ。このワープで一一気に向かいのボイドゲートまで飛んで、そこから小マゼラン・エルメッツァ宙域へと進む予定だ。

 

「・・・むっ―――?」

 

 ハイパースペースにいる間も、特にやることがないので艦長席でくつろいでいると、サナダさんがなにやら難しい顔でモニターを睨んでいるのが見えた。

 

「なに、サナダさん、何か異常でもあるの?」

 

「?、ああ―――」

 

 私はサナダさんに問い掛けたが、返ってくる返事は曖昧なものだった。

 

《艦内には、特に異常は見られませんが・・・》

 

 早苗の報告では何もないらしいけど、一体何かしら?

 

「!っ、不味い、何かに掴まれ!!」

 

 突然、サナダさんの大声が艦橋に響く。

 

「ちょっと、いきなり何――って、ぅわぁぁっ!」

 

 ドォン――――と一度大きく艦が揺れると、艦橋の外の景色が青白いハイパースペースから、通常の宇宙空間へと変化する。

 

「ワープが中断された模様です!」

 

 ミユさんの報告の声がが響く。

 

「ワープが中断って、一体どうして―――」

 

「霊夢、今航海記録を確認したんだが、我々は856光年進んだところでワープが中断した。この位置に、未確認の障害物があるのかもしれない。」

 

 そういえば、ワープは障害物を感知すると自動で停止する仕様だったことを、コーディーの言葉で思い出した。

 

「確かに、一理あるわね。ミユさんとこころは直ちに空間スキャニングに取り掛かって。」

 

「はい。」

 

「了解。」

 

 ミユさんとこころが空間スキャニングに取り掛かる。まずは、この航路の安全を確かめるのが先決だろう。

 

「サナダさんは、艦内に異常がないか確認して頂戴。」

 

「わかった。」

 

 こんな乱暴なワープアウトをしたのだから、艦内の何処かに異常が出ているかもしれない。

 

「か、艦長―――。」

 

「今度は何?」

 

「あの、この宙域全体に、強い空間歪曲波を感知しました。」

 

 こころの報告では、どうも空間歪曲波というものがこの宙域に充満しているらしいが、一体それはどんなものなのかしら。字面で意味は大体分かるけど。こんな時はサナダさんね。

 

「空間歪曲波は、文字通り空間そのものを歪める波のことだな。我々が用いているワープも、基本的にこの空間歪曲の原理を使用している。我々のワープは、出発地と目的地との間の空間を歪めて、近道をしているようなものだ。丁度一枚の紙を折って、2つの点の距離を強引に近づけるような形だな。なるほど、それが強制ワープアウトの原因か・・・」

 

 サナダさん、解説ありがとね。ちなみに、一般的に用いられるi3エクシード航法もワープの一種なのだが、こちらは空間を歪めて近道をする訳ではなく、私達の宇宙に下位従属する子宇宙を形成して、そこを通り抜けることで超光速移動による相対理論的時間(ウラシマ効果というらしい。まぁ、字面でどんなものか想像できるでしょう。)のギャップを調整しているらしい。といっても、私も何だかさっぱり分からないんだけどね。平たく言えば、時間の流れが違うトンネルの中をくぐり抜ける感じかしら?合ってるかどうかは知らないけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

【イメージBGM:宇宙戦艦ヤマト完結編より「抜けるヤマト」】

 

 

 

 

 

 

突然、ヴィー、ヴィーと艦橋に警報が鳴り響き、赤いランプが点灯する。

 

「!?、艦長!前方より高エネルギー反応、多数接近!」

 

「えっ―――!?」

 

 いきなり、ミユさんの報告が耳に響いて、はっと前方を見てみると、数本のレーザーのようなものが、こちらを目掛けて飛んでくるのが見えた。

 

「かっ、回避して!」

 

「駄目だ、間に合わない!」

 

 慌てて回避を命令するが、レーザーはそれを上回る速度で艦隊に接近してくる。

 

「着弾します!」

 

 こころの報告を聞いて、衝撃に備えて、艦長席に掴まる。

 

 ―――ぐうっっっ!!―――

 

 着弾の衝撃で、艦が大きく揺れる。

 

《APFシールド、出力15%減衰!》

 

 どうやら、今の一撃はシールドのお陰で防げたらしい。

 

「艦隊の損害は?」

 

《はい―――駆逐艦〈ヘイロー〉、〈バトラー〉に被弾、〈ヘイロー〉は装甲板の一部が剥離、〈バトラー〉は艦内で火災が発生しています。》

 

 先程の攻撃を受けた前衛の駆逐艦2隻の損害が激しいわね。脆い駆逐艦は何度も被弾すると危ないから、一端下げさせましょう。

 

「早苗、その2隻を下げて頂戴。」

 

《了解しました。》

 

 損傷を負った2隻の駆逐艦を艦隊の後方に下げて、次の攻撃に備える。

 

「空間スキャニングの結果は出た?」

 

「はい・・・・長距離レーダーに反応あり、本艦前方、距離40000に複数の艦影確認!」

 

 こころが報告する。距離40000だと、メインレーダーの最大探知距離外か・・・・・・こっちの主砲の最大射程は確か18000・・・だいぶ離れた所から攻撃されてるわね。

 

「画像データは出せるか?」

 

「はい、今メインパネルに転送します。」

 

 ミユさんが操作して、空間スキャニング画像がメインパネルに表示される。

 

「本艦前方、距離約40000の地点に、複数のエネルギー反応が見て取れます。数は6。何れもエネルギー反応は同一で、巡洋艦クラスと思われます。さらにその後方、距離55000の位置に、巨大なエネルギー反応が一つ確認できます。」

 

 ミユさんの報告と共に、敵艦隊の布陣が表示される。

 敵は前方に6隻程度の艦を展開し、その後方に旗艦と思われる艦が展開しているようだ。

 

「むぅ―――敵の後方の旗艦は、やけにエネルギー反応が大きいな・・・こいつが、空間歪曲波の親玉かもしれない。」

 

 サナダさんの見立てでは、どうやら後方の敵旗艦に空間歪曲装置があるらしい。

 

「なら、そいつを撃沈しないと私達はこの宙域から出られない訳ね。」

 

 この艦隊のワープには空間歪曲の原理が使用されているので、この干渉波をどうにかしないことにはワープが使えない。

 

「・・・敵艦の光学映像は出せるか?」

 

「はい、前方の巡洋艦クラスなら、何とか捉えました。今出力します。」

 

 ミユさんが敵艦の画像をパネルに表示する。

 

「おっ、なんかデカブツ積んでやがるぞ!」

 

 霊沙の言う通り、まずは全長の過半ほどを占めている、上甲板の巨大な主砲が目につく。恐らく、これが先程の攻撃の正体だろう。敵の艦容は、中央の箱形の主艦体に、両舷と艦底部にそれぞれエンジンらしき物体が接続されているのが見える。もしくは、何らかの武装ユニットか、それらの複合ユニットかもしれない。長距離砲の背後には背の高い艦橋が立っていて、レーダーやアンテナ類も豊富に見られる。恐らく、あの長距離砲の管制のために、高性能のレーザー類を搭載しているのだろう。探知距離と精度は、こちらとは比べ物にならないかもしれない。さらに、艦首には四角形の開口部があり、何かの発進口に見える。艦載機の搭載能力もあるのかもしれない。

 

「艦長、先程の攻撃と画像データから推測すると、敵は、超遠距離射撃砲を搭載しているようだ。この宙域にはろくな遮蔽物がない。どうする?」

 

 確かにファイブスの言う通りだ。こちらの主砲が届かない以上、このままでは一方的に攻撃されることになる。

 

「―――背に腹は変えられないわね・・・総員、戦闘配備!全艦、前方の敵艦隊に向け、〈グラニート〉の発射準備!」

 

 となれば、現在この位置から撃つことができる唯一の武装である〈グラニート〉対艦弾道弾を使用する他ない。このミサイルの最大射程は約45000・・・充分届く距離だ。空間通商管理局で補給が効かないため、一発あたりの単価は高いが、仕方ないだろう。

 艦内に、戦闘配備を告げるサイレンが鳴り響く。

 

「了解しました。上甲板VLS、1番から4番まで開口、敵艦隊、本艦から見て右から順に狙撃戦艦α~ζのコードネームで呼称します。本艦は、目標γに照準。」

 

「おう、VLS1番から4番、目標敵艦γ、発射用意!」

 

 ミユさんが目標を指示して、ファイブスはそれに従って射撃諸元を入力する。

 

「〈ピッツバーグ〉は目標α、β、〈クレイモア〉は目標δ、〈ケーニヒスベルク〉は目標ε、ζに照準!」

 

《了解、指示伝達します!》

 

 早苗が艦隊に指示を伝達して、各重巡洋艦がその指示を実行し、各艦のVLSが開口する。

 

「シールド出力は、敵弾に備え、艦首に集中!」

 

「了解。」

 

 敵の攻撃は基本的に艦首方向から飛んでくるので、艦首にシールド出力を集中させておく。これで先程よりは幾らかマシになるだろう。

 

「〈グラニート〉、射撃諸元入力完了!」

 

 ファイブスが、発射準備完了を告げる。あとは、撃つだけだ。

 

《各艦、発射準備完了しました。》

 

 早苗から、艦隊の方も準備完了との報告が寄せられる。

 

「よし、全艦、〈グラニート〉発射!!」

 

「了解、発射!」

 

 上甲板VLSが激しく光を放ち、その中から巨大なミサイルが姿を現す。ミサイルは垂直に艦から撃ち上げられると、スラスターを稼働させて方向転換し、敵艦隊目掛けて飛翔する。3隻の重巡洋艦からも、同じようにミサイルが発射され、排煙に包まれる。

 

「各ミサイル、正常に飛翔中、着弾まであと280秒!」

 

 ミサイルの飛翔時間は凡そ5分だ。敵艦隊との距離が離れているため、着弾までは時間がかかる。

 

「!?、敵艦隊に、高エネルギー反応!」

 

 こころの報告を受けて、艦の前方を睨む。

 パネル上には、敵艦が長距離砲をチャージし、その砲身にオレンジの光が灯る様子が写し出されている。

 

「っ―――、T.A.C.マニューバパターン入力、全艦、回避機動を取れ!」

 

 私は咄嗟に回避機動を命じ、コーディーはそれを受けて、T.A.C.マニューバパターンを入力、艦は進行方向を変え、複雑な航跡を描いて回避機動を実行する。

 T.A.C.(Tactical.Advaoced.Combat)マニューバパターンとは、T.A.C.マニューバスラストを駆使して、艦隊戦時の回避機動に使用される回避パターンで、小型核パルスモーターなどを使用して機敏な動きを実現する―――って、今はこんな場合じゃないわね。

 

「敵艦隊、α~γ、発砲!」

 

 右側の敵狙撃戦艦3隻が長距離砲を発射し、赤いレーザー光が此方に延びてくる。

 

「敵の攻撃、わがミサイルに着弾!」

 

「何、最初からそれが狙いか!」

 

 敵が放ったレーザーは、艦隊ではなく、発射した〈グラニート〉対艦弾道弾の群れに命中する。敵のレーザーは、それぞれ1発ずつ〈グラニート〉に命中し、その爆風が周りのミサイルを巻き込んで、計13発のミサイルが撃墜された。

 

「〈グラニート〉、残り3発です!」

 

「おい、あれってステルス機能があるんじゃないのかよ!?」

 

 霊沙がサナダさんを問い詰める。確かに、霊沙の言う通り、あのミサイルにはステルス性が備わっていた筈だ。この距離でここまで正確に狙撃されるなんて・・・

 

「―――敵のレーダーは、此方の予想を遥かに上回る精度を持っているようだな。」

 

「そんなの言われなくても解るわよ。兎に角、此方の攻撃が悉く迎撃されるようじゃ―――」

 

「敵狙撃戦艦δ~ζに高エネルギー反応、第3射、来ます!」

 

 こころが再び敵艦隊の主砲発射を報告する。くそっ、調子に乗って―――

 

「回避機動続行!」

 

 私は回避機動の続行を命じて、敵弾に備える。先程の攻撃で此方のミサイルを殆ど撃墜されたため、次の目標は艦隊の可能性が高い。

 予想通り、敵のレーザーは残りのミサイルを通り越して、真っ直ぐ艦隊に向かってくる。

 

《――っ!、駆逐艦〈ウダロイ〉に命中3・・・ああっ、〈ウダロイ〉のインフラトン反応消滅!》

 

 ――――何ですって!

 

 早苗の悲鳴に近い報告を聞いて、右舷前方の駆逐艦〈ウダロイ〉に目をやると、既に同艦はシールドを貫かれて、艦体のあちこちが爆発し、蒼いインフラトンの火球となり果てるところだった。

 

「馬鹿な、全弾命中だと!此方は回避機動中だぞ!!」

 

 サナダさんが驚いた様子で立ち上がる。気持ちはこっちも同じよ。くそっ、これじゃあジリ貧だわ。

 

「重巡洋艦を前に出して。駆逐艦と工作艦、空母は退避!」

 

 今は、装甲の厚い重巡洋艦を盾にして高価値目標と脆い駆逐艦を守り、時間を稼ぐしかない。

 

「艦長、〈グラニート〉1基、さらに撃墜されました!」

 

 ミユさんが、さらにミサイルが墜とされたことを告げる。これで残り2発か。

 

「本艦のミサイル、敵狙撃戦艦γに命中、目標のインフラトン反応拡散中、撃沈です!」

 

「よっし、これで1隻撃沈だ!」

 

 ファイブスが、ミユさんの報告でガッツポーズを取る。

 

「まだ気を抜かないで。あと敵は6隻残っているわ。第2射用意!次は1番から6番まで発射!」

 

 命中率は6%とかなり低いが、取り合えずあの狙撃戦艦にもミサイルが効くことが分かったので、次は発射弾数を増やして、命中率を上げることを試みる。

 

「了解、上甲板VLS、1番から6番まで〈グラニート〉装填、発射諸元入力!」

 

 ファイブスがミサイルの装填を命令して、艦はそれを実行し、空いたVLSにミサイルを再装填する。

 

「艦長、敵旗艦より通信です!あっ、今パネルに映像が出ます!」

 

 ノエルさんが、敵からの通信を報告する。

 はぁ?、いきなり奇襲仕掛けといて、今更通信?一体相手はどんな面してるのか。

 私は内心で敵艦隊の親玉に悪態を吐きながら、メインパネルを見上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【イメージBGM:東方夢時空より「Dim.Dream」】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 メインパネルに映し出されたのは、紫色の艦長服と軍帽を被った、赤髪の少女の姿だ。

 

「―――あんたが、博麗靈夢か?」

 

 少女が、私の名前を呼ぶ。

 

「・・・そうだけど、あんたは何なのよ。んで、なんで私の名前を知っている訳?」

 

 今、私は非常に機嫌が悪い。いきなり攻撃仕掛けてくる癖に、なんでもう私の名前まで知ってるのよ。別に私、ランカーでも何でもないんだけど。

 

「うふふふっ―――それは企業秘密、ってやつよ。おっと失礼、私はマリサ。以後、お見知り置きを。」

 

 マリサと名乗った少女は、帽子を取って一礼する。というかこいつ、魔理沙と同じ名前なのね。なんだか不愉快だわ。

 

「なにがお見知り置きを、よ。で、あんたの目的は一体何なの?」

 

 私は、低い声でマリサを問い詰める。

 

「おお、怖い怖い。そうだな―――――それも企業秘密―――」

 

 ヒュッ・・・と、一枚の札がパネルに突き刺さる。無論、私が飛ばしたものだ。

 

「ふざけないで頂戴。こっちはあんたの都合なんかに付き合ってる暇はないの。理由も知らずにダークマターにされるのは勘弁だわ。」

 

「ほう・・・・・そうだねぇ、なら少しだけ、情報開示といこうか。まぁ、こっちはお前達のことが気になってねぇ、ちょっとここらで一丁仕掛けてみたんだよ。」

 

 マリサは、話を続ける。

 

「そりゃ、"普通じゃない人間達"に"普通じゃない艦"の組み合わせだ。気にならない方が可笑しい。」

 

 !?っ―――

 艦橋の空気が変わり、静寂に包まれる。

 私や霊沙は確かに、元々この世界の人間ではないし、コーディーやファイブスも、色々普通じゃない事情がある。それを初見の人間に指摘されたのだから、驚くのも当たり前だ。

 

「お前、俺達のことを知っているのか?」

 

 ファイブスが、威圧感のある声で問い詰める。

 

「まあね。多少は。」

 

 マリサは、飄々と答える。

 

「・・・なら、ヤッハバッハの追手か?」

 

 次は、コーディが尋ねた。

「う~ん、ヤッハバッハか―――ちょっと違うかな。」

 

 マリサは、曖昧な態度でそれを躱した。

 

「―――理由はそれだけかしら?」

 

 私はもう一度、マリサを睨む。

 

「今は、ね。」

 

 どうやら、これ以上情報を明かすつもりはないらしい。

 

「じゃあ、今回はここまで。しかしまぁ、こっちの狙撃戦艦を1隻沈めるとは流石だよ。大体の連中は手も足も出ないからね。それじゃ、健闘を祈るよ。こんなとこで沈まれたら興醒めだ。」

 

 マリサはそう言い残すと、パネルから姿を消した。

 

「通信、途切れました。」

 

 静かな艦橋の中で、ノエルさんの声が響く。

 しかし、あれは一体何なのよ。いきなり攻撃を仕掛けられたと思ったら、何故かこっちの情報まで持ってるし・・・それに、今思えば、顔の造形は魔理沙になんとなく似ていたような気もする―――――ああもう、考えても無駄ね。兎に角、今はこの現状を乗りきらないと。

 

「戦闘はまだ続いているわよ。気を抜かないで、ミサイルの再装填を急いで!」

 

「了解!」

 

 私は意識を改めて、戦闘に神経を集中させる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから20分、戦闘はまだ続いているが、此方の損害は増すばかりだ。〈グラニート〉の第2射は敵狙撃戦艦全艦の迎撃を受けて、何の戦果も挙げられず、残弾全てを使った第3射でやっともう1隻(目標β)を撃沈できたが、今度は敵の旗艦も戦闘に参加してきて、相変わらず此方は長距離砲の洗礼を受け続けている。敵の旗艦も、その黒色の艦体の下に長距離砲を搭載していて、さらに出力は他の狙撃戦艦と比べて段違いなので、ますます此方が不利になるばかりだ。

 敵の旗艦が参戦してから、こっちは駆逐艦〈バトラー〉が沈み、空母〈ラングレー〉も一発被弾して、ただでさえ少ない艦載機がさらに減少し、飛行甲板も大破した。ヴァランタインに撃ち減らされたのでしばらく艦載機の温存を図っていたのが裏目に出た形だ。こうなるなら、いっそ飛ばしてしまった方が良かったかもしれない。まぁ、あの狙撃の精度を考えると、敵に向かううちに撃ち墜とされてたかもしれないけど。

 さらに、この〈開陽〉も何発か被弾して中破の損害を受けている。敵狙撃砲の矢面に立った重巡洋艦の損害はさらに激しく、〈ピッツバーグ〉、〈クレイモア〉が大破、〈ケーニヒスベルク〉も中破した。

 

「本当に、そろそろ不味いわね・・・」

 

 空間歪曲波のお陰でワープして奇襲という手は使えず、此方の射程に捉えようとも敵はこっちが加速すると後退するという動きを見せ、常に距離を保たれており、中々接近できない。

 

 万事休すか―――――いや、まだよ。

 

 私はついにここまでかと一瞬思ったが、この艦に搭載されている最強の兵器の存在を、完全に失念していたようだ。まったく、我ながら情けない。

 

「―――サナダさん、ハイストリームブラスターは使えるかしら?」

 

 そうだ、この艦の艦首には、2門のハイストリームブラスターが装備されている。これなら、あの狙撃艦隊を粉砕できるのではないか。

 

「そうか、その手があったな!まだテストはしていないが、いける筈だ。」

 

 よし、これで突破口が見えてきた。

 

 

 

 

【イメージBGM:宇宙戦艦ヤマト2199より「元祖ヤマトのテーマ」】

 

 

 

 

「ユウバリさん、艦首インフラトン・インヴァイダー起動、ハイストリームブラスターのエネルギー充填を開始して。」

 

「了解しましたっ!」

 

 艦首に備え付けられた、ハイストリームブラスター専用のインフラトン・インヴァイダーが起動し、駆動音が響く。

 

「エネルギー弁閉鎖、充填開始します!」

 

 インフラトン・インヴァイダーからハイストリームブラスターへとエネルギーが充填され、艦内は小刻みに振動を始める。

 すると、艦長席の手前のデスクから、ターゲットスコープとトリガーがせり上がってきた。

 

「これは・・・」

 

「ハイストリームブラスターはこの艦最強の兵装だ。発射には、艦長の権限が必用だろう。」

 

 艦長席のデスクを指して、サナダさんが説明する。なるほど、私に撃てという訳か。

 私は艦長席に深く腰掛けて、トリガーを掴む。

 

《艦の位置を修正します。》

 

 ターゲットスコープに、敵艦隊の位置が表示され、それが丁度的の中央に来るように、早苗が微調整を行って修正してくれた。

 

「敵第16射、来ます!」

 

 こころが敵弾の接近を告げる。

 

「おい、〈クレイモア〉が!」

 

 敵弾を前にして、大破した重巡〈クレイモア〉が〈開陽〉の前に躍り出て、敵の攻撃を一身に受け止めた。

 

「く、クレイモア、轟沈ッ!」

 

 だが、流石に大破状態では受けとめ切れず、〈クレイモア〉は蒼いインフラトンの火球となって轟沈した。

 

「狼狽えないで、発射準備続行!」

 

 〈クレイモア〉の犠牲を無駄にしない為にも、この一撃は必ず命中させなくちゃ。

 

「ハイストリームブラスター、エネルギー充填80%――――――90%――――――――――100%。」

 

「いや、まだだ。」

 

 ユウバリさんの報告で、私はトリガーを引こうとしたが、サナダさんに制止される。

 

「エネルギー充填110%―――――――――――120%!」

 

「よし、今だ!」

 

 サナダさんが、勢いよく告げる。

 あのマリサとかいう子には悪いけど、私達が生き残るためにはこうするしかないのよ―――――――

 

 

 

「艦首ハイストリームブラスター、発射ッ!!」

 

 

 

 〈開陽〉の艦首がピンク色に発行し、眩い閃光を放つと、その2門の砲口から、極大の赤いレーザーが放たれる。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 レーザー光は真っ直ぐ直進し、狙撃戦艦の隊列を呑み込んで、次々と狙撃戦艦が爆発四散する。狙撃戦艦を呑み込んだ極光は、そのまま敵旗艦に迫る。

 敵旗艦は回避を試みようと上昇するが、レーザー光から逃げ切ることは遂に叶わず、ハイストリームブラスターの赤い極光の波に飲み込まれた。

 

「ハッ、中々やるじゃないか、靈夢。―――――nach,senden・・・・・」

 

 敵旗艦の艦橋内で、マリサは目を閉じて呟いた。艦は、そのまま音を立てて崩れ、青白い爆発の波に飲み込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「敵5隻のインフラトン反応拡散、撃沈です!」

 

 艦橋内で、ミユさんの報告が響く。

 この局面を切り抜けたことで、艦隊に安堵の雰囲気が広がる。

 

「ふぅ、何とかなったみたいだな。」

 

 コーディが、リラックスした様子で椅子に腰かける。

 

「ああ、一時はどうなることかと思ったが。」

 

 ファイブスの言う通り、私でもかなり不味い状況だとは思ったけど、ほんと、生き残れて良かったわ。

 

「サナダさんは被害状況の確認をお願い――――ああ、これはまた大修理が必用ね。」

 

 ヴァランタイン戦後からサナダさん始め科学班のみんなには仕方ないが、これはまた一働きしてもらう必用がありそうだわ。

 

 

 

 

 マリサの狙撃艦隊を撃破した霊夢艦隊は、一路小マゼランを目指し、ボイドゲートへと舵を切った。




今回は初ハイストリームブラスターです。イメージBGMでお分かりの通り、威力は波動砲並です。なにせ専用のインフラトン・インヴァイダーでエネルギー充填してますし、2門装備していますので。開陽のデザインベースはスーパーアンドロメダですからね。尚、まだ拡散はしない模様(笑)開陽の塗装は、スーパーアンドロメダに準じています。


今回の新キャラに東方のにとりを登場させましたが、新たなマッド要員です。彼女には、いろんなメカを作って頂きます。本文中では成長したにとりと表現しましたが、背はそこまで高くないです。今の霊夢と同じか、より少し低い位です。(でも一部分は霊夢よりあります。)

もう1人、今回は新キャラを登場させました。謎の艦隊司令マリサちゃんの元は封魔録魔理沙ですが、性格はオリジナルです。なお主は東方旧作を持っていません。それと、マリサちゃんは出落ちではありませんので、皆様ご安心下さい。世の中には波動砲に焼かれても死なない青い総統閣下なども居られますので(笑)

あと1話程度で、いよいよ小マゼラン編突入になります。

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