私はいま、何故か宇宙船の船内にいるようだ。そして私の目の前にいる男―コーディは、どうやら私を助けてくれた………らしい。助けられたといっても実感がないから、どこまで本当なのか分からないけど。
「ところで、お嬢さんはどうして救命ポッドに乗っていたんだ?何があった?」
コーディが、私に尋ねる。
さて、困ったものだ。いきなり「実は私一度死にました」なんて突拍子もない話、信じてくれる訳がない。それに、今までの状況から考えると此処は幻想郷どころか、地球の外側なのだろう。幻想郷のことを話しても、コーディと名乗るこの男は理解してくれないだろう。
しかし、目が覚めたばかりの私には巧い作り話ができる自信もない。私は駄目元で、本当のことを話すしかないと思った。
「その、信じ難い話かもしれませんが、実は私、一度死んでると思います。気づいたら此所に━」
「ああ、宇宙船でトラブルがあって、死ぬほどの地獄を見た訳か。だが安心しろ。お嬢さんはちゃんと生きている」
勝手に納得した様子のコーディさんは勝手に自分の常識からストーリーを組み立てたみたいで、勝手に話を進めようとする。だけど勝手に進められては困る。後々面倒にならない為に、私はちゃんと続きを話した。
「あのコーディさん、そうじゃなくて………私、ここじゃない場所から来た人間なんだと思います」
話の続きを聞いたコーディは、訝しげな表情を浮かべる。―――やっぱりそう簡単には信じてくれなさそうな雰囲気だ。……まぁ、それも無理もないことだけど。
「私が元々いた場所は幻想郷っていう所なんですけど、こんな宇宙船を実用化出来るほどの技術は有りませんでした。それに、私は最後は病没した筈です。それが、気付いたら此所に寝かされていたんです」
兎に角私は自分の記憶を頼りに、コーディに本当のことを話した。向こうもとりあえず話だけは聞いてみようという魂胆なのか、真剣に聞いてくれている。
「信じられなくても構いません。異世界なんて、非常識でしょうし………」
私は最後にそう付け加えた。確か時々幻想郷に迷い込んできた外来人も、最初は異世界なんて言っても信じてはくれなかった。だから、この男にこんなことを話しても簡単には信じてはくれないだろうと思ったからだ。
「そうか━。確かに信じ難い話だが、俺にはお嬢さんが嘘をついてるようには見えない。医療ドロイドの分析結果を見ても、記憶障害か妄想癖という訳でもなさそうだな。脳に損傷は無いという結果が出ている。そんな結果が出ている以上、取り敢えずは信じることにする他無いな」
驚くことに、コーディさんは私の話を信じると言った。一体何故か――と私が問うと、コーディは躊躇い無く答えてくれた。
「実は俺も似たような感じでね。俺が古代の宇宙人だと言ったとしたら、果たして君は信じてくれるかい?」
コーディさんが私に問いかける。―――その例え話からすると、どうやら彼も訳ありらしい。宇宙人、なんて表現を使うぐらいなら只ならぬ理由がありそうだ。―――尤も、月の例があるだけに私は信じたかもしれないけど。
「俺は大昔に兵士として産み出された。だが、仕えた国の政体が変わって俺は命令違反を理由に追われる身となった。俺は何とか宇宙船で逃げることには成功したが、追手に宇宙船が破壊されて、俺は救命ポッドで宇宙を漂う羽目になったんだ。それ以来、俺はコールドスリープについたまま、ここの船長に拾われるまで誰にも気づかれなかったという訳だ。……どうだ、信じるかい?」
話は所々要領が掴めないが、どうやらそれが彼の"訳あり"の内容なのだろう。そんな過去があるからこそ、胡散臭い私の話も信じると言ってくれたのかもしれない。
「そう………貴方も大変な事情があったんですね。あの………、私のほうからも一つ訊かせていただきますが、此処は何処なんですか?━━宇宙船の中ってのはもう理解しましたが、具体的に私達は宇宙の何処に居るのか―――」
私は、コーディさんにそう尋ねた。取り敢えず、まずは情報収集からだ。勝手も知らぬ異世界に放り込まれたなら、何も知らないままでは生きていけない。
「此処はM33、さんかく座銀河の辺境にある宙域―――ヤッハバッハ帝国領、惑星ジャクーの軌道上だ」
コーディさんが答える。なんとか帝国とやらは知らないが、さんかく座銀河は聞いたことがある。確か、魔理沙がパチュリーから借りてきた宇宙の本を見せびらかされたときに、そんな名前の銀河があった筈だ。―――とすると、幻想郷があった地球からは大分離れた場所まで飛ばされてしまったことになる。これは………帰るにしても、かなり大変そうだ。そもそも、死んだ人間が帰ったところで、私の居場所なんて、もう………
「ああ、お嬢さんには言っても詳しくは分からないだろう。ヤッハバッハ帝国ってのは、この辺りの銀河一帯を納める巨大帝国だ。なんでも宇宙に出る連中は徹底的に取り締まられるらしい。とんでもない専制国家だ」
コーディさんは私の事情を察してくれたのか、そのヤッハバッハ帝国について解説する。
彼が言うには、そのヤッハバッハ帝国とやらはヤバい国らしい。―――国なんてものが身近になかった私には分かりかねるが、コーディさんの嫌そうな顔からすると、やっぱり悪いものなのだろう。
―ヤッハバッハ・・・何処か引っ掛かるわね――
何故か、ヤッハバッハという帝国の名に覚えがあるような気がした。しかし、上手く思い出せない。
「………大体の事情は分かりました。ありがとうございます」
わざわざ私の疑問に応えてくれたコーディさんに、私は一礼して謝意を伝えた。
「ああ―――しかし、嬢ちゃんも運が良かったな。拾ったのが俺達で。ヤッハバッハや悪い連中が拾っていたら、今頃こうはならなかっただろう」
「確かに、そうですね……」
―コーディさんの言った通り、確かに私は運がいい。
ヤッハバッハとやらなら確実に一悶着ありそうだし、―――不埒な連中というのも、やはりどの時代にも存在する。そうした連中に拾われなかったことは、中々に幸運なことかもしれない。
「今はその幸運に、存分に感謝しておけ。それと、俺のことはコーディでいい。暫く世話になるんだ、あまり堅いのは、嬢ちゃんにとっても落ち着かんだろう?」
コーディさんは私のことを案じてか、そんな提案を投げ掛けてきた。――確かに、敬語なんてあまり使わなかった私には、今までのやり取りには息苦しさを感じていたのも確かだ。彼がそれでいいと言うならば、ここは甘えてもいいだろう。
「………分かったわ」
「ああ、嬢ちゃんのうちはそれでいい。あんまり堅苦しいと、こっちまで気が固くなっちまう」
彼は脱いだ兜を抱えたのとは逆の手で、短い黒髪に包まれた頭を掻いた。
私からしてみれば同じぐらいの年齢か、むしろ年下だというのに、彼から見ても、今の私は明らかに年下の子供なのだ。―――あまり年下の子供に堅苦しくされるのは、好かない人なのかもしれない。
「ま、そんな訳で、これから暫くよろしくな、嬢ちゃん。これからは連中から逃げる日々が続きそうだが、まぁ気楽にしてくれて。―――ただ、ヤッハバッハついては俺も詳しくは答えられん。あいつらに関しては、サナダから聞いたことしか知らないからな」
肩の力を抜いた私を見て、コーディは満足気に頷いた。話の流れからするとしばらくお世話になるのは確実そうだし、それを考えれば、あまり堅苦しくするよりは多少砕けていた方が過ごしやすい。
それと、ヤッハバッハとやらに関する情報は、これ以上は入手のしようが無さそうだった。彼も私と似たような事情なのだから、これも仕方ないのだろう。
ところで、彼が口にしたサナダという名前の人は、果たして誰なのだろう?
それが気になった私は、件の人物についてもコーディに訊いてみる。
「ねぇ、そのサナダってのは誰?」
「ああ、すまない。まだ話してなかったな。サナダはこの船の船長―――俺の命の恩人さ」
どうやら、サナダという人物はコーディの話からすると、彼を拾った人物らしい。
「もしかして、私を拾ってくれたのもその人?」
「ああ、俺とサナダの二人がかりだ」
「やっぱりかぁ。後でちゃんとお礼言っとかないと―――ところで、ヤッハバッハ帝国、だっけ?そいつらって宇宙に出る連中は許さないんじゃないの?此所にいて大丈夫なの?」
サナダという人のことも気になるけど、ひょっとしなくても自分達が宇宙に居るのは、その帝国からしたら不味いことなのではないのだろうか?
コーディの帝国に関する説明を思い出して、その可能性に行き当たった。―――こんなところで見つかってお陀仏なんて、それこそ御免被りたい。
「その心配はない。此処ジャクーは帝国領でも辺境中の辺境、空間通商管理局の宇宙港には警備隊すら常駐していない。なんでも、此処は通商路からはかなり外れた位置にあるからな」
コーディとは別の声だ。
部屋の扉の方を見ると、別の男が語りながらこの部屋に入ってくるのが見えた。
「どうも初めまして、お嬢さん。私はこの船の船長をしているサナダという者だ。御気分は如何かな?」
この男が、どうやらコーディの話にあったサナダという人物らしい。
「サナダさん、でしたね。―――私は、博麗霊夢といいます。助けて頂いたことには感謝しています。」
私はサナダに救助してくれた事に御礼をすると共に、自己紹介をした。人間関係はまず挨拶から。これは基本だ。忍者も戦いの前にはちゃんと挨拶するって、紫だって言ってたもん。
「博麗霊夢、か………。覚えておこう。ああ――敬語はいらんよ。部屋の中では、自由にしてくれて構わない」
「―――わかった。世話になるわ」
コーディと同じように、サナダさんも敬語は不要だと言う。どうしてだか分からないが、大人の人は、昔の私にも似たような態度を取ることが多かった。依頼のときはともかく、買い出し先の店主さんなんかは特にそうだ。その記憶にあった大人達が、二人に被って見えてくる。
だけど私としても、あまり敬語なんて使ってこなかったから、こっちの方が気が楽なのは確かだった。なので、ここはコーディのときと同じように、有り難くサナダさんの好意に甘えた。
「うむ。此方こそ、宜しく―――」
━━━ドゴォォォン━━━
サナダさんが言い終わらないうちに、突然船が大きく揺れた。
「何!」
突然の振動に、驚いて私は思わず飛び起きてしまう。
「チッ・・・ヤッハバッハの警備艇か!コーディ、ブリッジに行くぞ。この宙域を離脱する!」
「イェッサー。まったく、こんな辺境まで、わざわざ仕事熱心な連中だ。それとお嬢さん、これから少々荒事になる。そこで待っていろ!」
サナダさんとコーディは、急いで私がいる部屋を後にする。
―――何よ、やっぱり安全じゃないでしょ。
先程この宙域は安全だ、と言ったのは果たして誰だっただろうか。安全だと言い切ったサナダさんに、恨み言の一つや二つはぶつけたくなる。
だけど私には宇宙での戦闘なんてド素人もいいとこだ。経験はあるにはあるが、それもただロケットに乗ってただけ。宇宙で弾幕勝負みたいな戦闘の経験などあるはず無い。
ここは素直に、慣れているであろうあの二人が上手くやってくれることを祈った。
この作品では、スターウォーズシリーズの舞台相当の惑星はM33にあると設定しています。スターウォーズ本編ではもっと遠くの銀河を想定されていると思いますが、そうすると無限航路の話に絡められないので、地球から比較的近いこの銀河に設定しました。
そしてサナダさんの外見は2199の真田さんです。
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