夢幻航路   作:旭日提督

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イメージBGMは、主に東方、宇宙戦艦ヤマト、ガンダムシリーズ、エースコンバットシリーズ、無限航路などから選ぶ予定です。BGMの範囲は、基本的に大段落ごとです。


第一七話

【イメージBGM:機動戦士ガンダム めぐりあい宇宙より「サラブレッド」】

 

 

 

 

 〜七色星団宙域〜

 

 

  霊夢艦隊の艦載機隊は、〈開陽〉以下が位置する蒼い雲海の宙域を抜け、恒星の光でオレンジ色に染められた暗黒ガスの雲上を飛行する。

 

《・・・実際に操縦桿を握るのは久し振りだな》

 

 バーガーは、自機のコクピット内で、独り呟いた。

 

《なんだ、怖じ気付いたか?》

 

 その声を無線で拾ったタリズマンが、バーガーを茶化す。

 

《ハッ、誰が怖じ気付いたって?お前こそ、ビビって小便漏らすなよ?》

 

《ほぅ、言ってくれるな・・・なら撃墜数で勝負といこうか?負けた方は今日の飯奢りだ!》

 

 タリズマンは、バーガーの挑発に対して、勝負を持ち掛ける。

 

《おう、いいぜ。・・・言い出しっぺの法則、分かるよな?墜とされるんじゃねぇぞ!》

 

《ああ、こんなとこで死ぬ気はねぇからな。お前こそ、墜とされるなよ!》

 

 タリズマンとバーガーは、互いの無事を祈って言葉を投げ合う。

 

《おっと、レーダーに反応だ。敵さんのお出ましだ。数は、68機だな》

 

《こちらよりも多いな》

 

 タリズマンが敵編隊を補足し、バーガーに伝える。霊夢艦隊の迎撃機は全部で44機であり、敵編隊の方が5割増しだ。

 

《よし、なら行くか。各機散開、全兵装使用自由!》

 

 バーガーは隷下の無人機に命令し、編隊は一気に散開する。

 

《こちらガルーダ1、敵機を補足した。これより交戦する。》

 

《了解です。健闘を》

 

 タリズマンの報告を受けて、ノエルが返答する。

 

《ガルーダ1、交戦!》

 

《グリフィス1、交戦!》

 

 2機の戦闘機は、我先にと敵編隊へと向かう。

 

《グリフィス1、FOX2!》

 

 バーガーは敵機をロックオンすると、ミサイルの発射ボタンを押す。

 バーガーのSu-37Cの両翼からミサイルが切り離され、ロケットエンジンを噴射して敵機へと向かう。

 ミサイルの発射を見た敵編隊は散開し、攻撃態勢を取る。ロックオンを受けた機は、フレアをばら蒔いて、回避機動に専念する。だが、バーガーが放ったミサイルは真っ直ぐ敵機を目指し、命中した。

 

《Nice kill!》

 

 バーガー機のコクピットで、撃墜を知らせるAIの音声が響いた。

 

《まだだ。次!》

 

 バーガーは次の獲物を求めて、機体を敵編隊の中へ滑り込ませる。

 だがやられたままで黙っている敵ではなく、敵機はバーガー機や周囲のF-17戦闘機に対して背後を取ろうと加速し、旋回する。

 

《チッ!》

 

 バーガーは操縦桿を引き、機体を上昇させて回避を試みるが、数機の敵機はバーガー機の背後につき、レーザー機銃を連射する。

 

《クソッ、鈍ったか!》

 

 バーガーは己の腕が予想以上に落ちていることを悟り、コクピットで呟いた。そこに、一機の敵機がバーガー機の後方へ躍り込む。

 

《ガルーダ1、FOX3!》

 

 バーガーが回避に専念していると、突如背後の敵のうち1機が爆散した。タリズマン機がレーザーガンで撃ち落としたのだ。

 

《・・・すまねぇ、助かった》

 

《気にするな。次にいくぞ》

 

 バーガー機とタリズマン機は再び散開し、敵機を狙う。二人はカーソル内に敵機を捉え、ミサイルのトリガーを押した。

 

《グリフィス1、FOX1!》

 

《ガルーダ1、FOX1!》

 

 2機は敵機の背後につき、敵機との距離が近かったため、短距離ミサイルでこれを撃墜する。

 

《今のところ、スコアはタイか》

 

《ああ、そのようだが・・・》

 

 敵機を撃墜して少し余裕があったタリズマンは、空戦場を俯瞰する。

 味方の無人機部隊は確かに善戦し、敵機は着実に数を減らしているが、それ以上に味方の消耗が早い。敵の数が多いのに加えて、敵の練度も高いからだろう。こうしている内にも、味方のF-17がまた一機、撃ち落とされた。

 

《くそっ、敵に押されているな》

 

《防空網を突破されるかもしれん。艦隊に連絡する》

 

 タリズマンは味方の劣勢を受けて、本隊に敵機襲来の可能性を伝えようと通信回線を開く。

 

《おい、あれを見ろ!》

 

 何かを発見したバーガーは、無線越しにも分かる大声でタリズマンを呼んだ。

 バーガーが指した宙域には、空戦場を避けて真っ直ぐ艦隊を目指す20機近い敵機の編隊があった。

 

《あれは、攻撃機か!》

 

《クソッ、やらせるかよ!》

 

 2機はアフターバーナーを焚いて加速し、敵機をミサイルの射程に捉える。

 

《ガルーダ1、FOX2!》

 

《グリフィス1、FOX2!》

 

 2機の発射した4発の空対空ミサイルは、半分が散開した敵機がばら蒔いたチャフに吸い込まれて爆散する。だが、2機の敵機はそれを躱しきれず、火達磨となって撃墜される。

 

《よし、撃墜だ》

 

《しかし、ミサイルが足りん!》

 

 時間が経つにつれて味方の劣勢は目に見えるほど悪化しており、その分だけバーガー達が落とすべき敵機の数は増えていく。

 

《だか、やるしかないな》

 

 バーガー達は、敵編隊の艦隊到達を組織せんと、敵編隊に突撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 七色星団宙域の蒼い雲海を進む霊夢艦隊は、敵機の襲来を警戒しつつ、航行を続ける。

 

「艦長、わが方の艦載機隊は、かなり苦戦しているようです」

 

 オペレーターのノエルさんは、航空隊と無線を交わしつつ、戦況を伝える。報告によれば、バーガー達は敵に対して劣勢らしい。バーガーの報告によると、敵は数もあるが、何より質の面でも侮れないということだ。その報告に、私は改めて気を引き締めた。

 

「直掩機を前に出して。敵の襲来に備えて」

 

「了解!」

 

 防空隊は抜かれるだろうと踏んで、直掩のスーパーゴースト隊を前に出す。今回の敵は、今までのようにはいかないみたいね。

 

「レーダーに感あり。11時の方向より、敵編隊接近。数25!」

 

 しばらくすると、予想した通りに、敵機の編隊が襲来したようだ。レーダー手のこころが、敵編隊接近を報告する。

 

「対空ミサイル、発射!それに続いて直掩機は敵機を排除!」

 

 艦隊各艦は各々VLSから対空ミサイルを発射し、敵機を迎撃する。しかし、その大半は敵機の回避機動に躱され、またはチャフやフレアといった妨害手段に捉えられて撃墜は4機に留まった。

 

「クソッ、何て練度だ!」

 

 ミサイルが悉く躱されたことに、砲手のフォックスが悪態をつく。そりゃ、あんなに躱されちゃ無理もないわ。

 

「敵は今までのヤッハバッハより遥かに強敵だわ。心して掛かれ!主砲、敵編隊を狙え!」

 

「了解!主砲、対空散弾、撃て!」

 

 〈開陽〉の前甲板の3連装主砲3基が敵編隊を指向し、対空散弾を発射する。だが、既に散開した敵編隊にはあまり効果はないようで、敵機はバラバラに散開した対空散弾の弾幕の中を悠々と潜り抜けてくる。

 

《無人機隊、接敵します!》

 

 早苗が直掩機と敵編隊が交戦したことを告げる。戦場の様子を表示するメインパネルを見上げると、味方の直掩機を示すアイコンと、敵編隊と示すアイコンが衝突し、双方のアイコンが次々と消えていくのが見える。艦橋の外に目を移すと、双方の機体が火球となって爆散していく様子が見えた。

 

「直掩隊の被害甚大!敵機、半数余りが残存!」

 

「何!奴らスーパーゴーストの機動に追随しているだと!」

 

 ミユさんの報告を受けて、サナダさんは驚愕の表情を浮かべる。自らの手掛けた魔改造仕様の機体が押されているのに驚いていのだろうが、何が起こるか分からないのが戦場だ。だが、スーパーゴーストと互角に渡り合い、あるいは凌駕する敵パイロットの腕は脅威であることに違いはない。

 

「敵機、ミサイル発射、数20!」

 

「CIWS、パルスレーザー、即座に目標を追跡しなさい!」

 

 20発のミサイルなら充分迎撃できると思うけど、まさかこれで終わりって訳にはいわないわよね。

 

《〈クレイモア〉、〈ヘイロー〉、〈雪風〉、迎撃開始しました。》

 

 艦隊の左前方に位置する3隻は対空砲火を以て、敵のミサイルを迎撃する。

 

「敵ミサイル、撃破!」

 

 ミユさんが、ミサイルの全弾撃墜を報告した。しかし、20発か。敵の機数にしては、随分少ない数だったわね。

 

「敵機、反転していきます。」

 

「追わなくていいわ。直掩隊の収用と再展開を急いで」

 

 こころが敵の反転を報告するが、深追いは危険だ。直掩隊のスーパーゴーストは、25機中17機が撃墜され、敵の攻撃で破損している機もある。なので、〈ラングレー〉に損傷機を収用させて修理し、同時にまだ格納庫にあった機体のうち30機を交代で直掩機として発艦させた。

 

「艦長、3時の方角より、新たな艦載機隊の反応を感知!反応から、攻撃機の大編隊だと思われます!」

 

 敵が引いて一息ついたと思ったら、こころが新たな敵の存在を報告した。3時の方角って、さっきの敵とは随分違う方角からね――――まさか、別動隊!?

 

「クソッ、別動隊か!」

 

「狼狽えないで。バーガー達は?」

 

「現在も敵機と交戦中です」

 

 フォックスが声を上げるがこれを諫めて、迎撃の策を練る。ノエルさんの報告によると、バーガー達の迎撃隊はまだ最初の敵に拘束されているようだ。なので、新たな敵編隊の迎撃には向かわせられない。

 

「おいサナダ、余りの機体はないのか!?」

 

 すると、霊沙がサナダさんに問い掛ける。

 

「確か私の開発ラボに、試作機があるが・・・まさか、お前が出るのか!」

 

「戦闘機が足りないんだろ?なら私が行く!今まで戦闘には何も役に立ってないんだから、そろそろ仕事しないと不味いだろ」

 

 艦隊の防空網の惨状を見てか、霊沙は自分も迎撃に出ると食い下がる。この状況の中で自分が何も出来ないというのは歯痒いのだろう。確かに、霊沙は今まで戦闘には参加していなかったわね。半分は碌に役職を見つけられなかった私の責任でもあるけど。

 

「シュミレータなら暇なときに散々やってきた!操縦なら大丈夫だ!」

 

 霊沙はサナダさんに詰め寄って、出撃を求める。これは相当思うところがあったみたいね。

 

「・・・私の開発ラボの位置は、格納庫の手前だ。そこに向かえば、機体はある。それを使え!」

 

「おう、分かった!よし、霊夢、迎撃には私が出るぞ!」

 

「分かったわ。生きて還ってきなさいよ」

 

「ここで死ぬ気なんてねぇよ。了解だ」

 

 霊沙は八重歯の覗く口元をつり上げ、にやりと笑って、艦橋を後にする。

 

「総員、気を緩めないで。次に備えて頂戴!」

 

 敵の次の一手に備えるため、私は艦内の士気を立て直し、襲撃に備えた。

 

 

 

 

 

【イメージBGM:エースコンバット04 シャッタードスカイより 「Aquila」】

 

 

 

 よし、やっと、戦闘に参加できる。

 私は、漸く自分に出番があることを内心喜んでいた。霊夢の奴に頼んでクルーにしてもらったのは良いが、今までは碌な仕事がなく、ただ乗りしているようで居心地があまり良くなかったのだ。

 

《サナダさんの開発ラボはこの先になります》

 

 端末から、早苗が報告する。

 

「ああ、分かった」

 

 私は開発ラボに急いで向かう。なにせ、今も敵が接近しているのだ。時間がない。

 ラボに着くと、私は扉を空けてそのままの勢いで中へ飛び込んだ。

 

 そこには、黒に近い灰色を基調として、赤いラインの入った戦闘機の姿があった。

 

《試作可変戦闘機〈YF-21 シュトゥルムフォーゲルⅡ〉です。操縦系統は他の戦闘機と異なり脳波コントロール方式を採用しています。また、本機は変形することにより、鳥人(ガウォーク)、人形(バトロイド)形態と、3つの形態を使い分けることができますが、戦闘機のシュミレータしかやっていない霊沙さんなら、通常の戦闘機として運用した方が宜しいかと》

 

 早苗が、目の前の試作機の使用を解説する。

 

「脳波コントロール、って事は、思った通りに機体が動くって訳か?」

 

《はい。操縦者の脳波を感知して、操縦者のイメージを直接機体制御に用いるシステムです。ですが、予備として、通常の操縦系統も備えています霊沙さんは艦長と同じような能力を有していると伺っていますから、弾幕戦の要領で機体を動かしてみてはどうでしょうか》

 

 成る程、面白そうだ。

 

 早苗の話だと、弾幕戦の要領で飛べばいいらしい。

 

 私は、目の前の機体に飛び乗り、能力を発動する。この能力があれば、空間服は不用だ。あいつ(霊夢)と同じっていうのが気に食わないが、こうしてみると便利なものだ。

 私が機体のコクピットに座ると、装甲キャノピーが閉まり、外の映像が映し出される。

 

「へぇ、良くできてるんだな」

 

《これより、カタパルトに移動します》

 

 早苗の声と共に、機体がクレーンに掴まれて、開発ラボからカタパルトまで移動させられる。

 

《そういえば霊沙さん、コールサインはどうしますか?》

 

「え?う~ん、どうしようか?」

 

 早苗にコールサインをどうするか問われた私は、順当にシュミレータで使っていたコールサインに決めた。

 

「じゃあ、アルファルド1でいいや。」

 

 コールサインの由来?適当に星の名前をつけただけだ。

 

《了解。コールサイン登録します。アルファルド1、YF-21 シュトゥルムフォーゲルⅡ、fastパック装備での出撃を許可します!》

 

 出撃を許可する早苗の声が響き、リニアカタパルトが起動する。

 

「よし、アルファルド1、出るぞ!」

 

 私はアフターバーナーを焚いて発艦する機体のイメージを浮かべる。すると、機体はその通りに動き、ノズルを最大まで開くと一気にリニアカタパルトから射出された。発艦による急速なGが身体に襲い掛かるが、こんなものは大したことない。

 

《霊沙、こいつは私からの土産だ。自由に使え!》

 

 通信にサナダが割り込む。すると、〈開陽〉の格納庫のハッチから、3機のスーパーゴーストが発進した。

 

《こいつはその機体の僚機だ。お前の機体がお前のイメージを受けとると、それがこいつらに転送されて、その通りに動くようになっている》

 

 サナダはそのスーパーゴーストの仕様を説明する。スーパーゴーストとやらもこの機体と同じ要領で動かせば良いらしい。

 

「ああ、分かった。ありがとな」

 

 私はスーパーゴーストに続くように指示して、機体を敵編隊に向けた。

 

 

 レーダーの示す方角に飛ぶと、当たり前だが、敵を射程に捉える。私は、敵機をロックオンして、翼下のミサイルを発射した。

 

「アルファルド1、FOX2!」

 

 ミサイルは敵編隊に向かって飛んでいき、1機を撃墜する。続いてもう一機の敵機もロックオンして、こちらにもミサイルをお見舞いしてやる。

 

《敵編隊、散開!》

 

「よし、ゴースト、行け!」

 

 私のイメージを受け取った3機のスーパーゴーストが、その通りに敵に突撃し敵編隊を撹乱する。

 私は敵の放つミサイルをチャフ、フレアで撹乱し、レーザー機銃で撃墜する。次は複数の敵機がレーザー機銃を雨のように放ってきたが、私はそれを弾幕を躱す要領で機体を操作して躱しながら、すれ違い様に機体に格納されたマイクロミサイルを発射して、敵を撃墜する。敵編隊とすれ違うと、即座にスプリットSを行い、敵機の背後を取ることを試みる。だが、敵もそう簡単には背後を渡してくれないようで、中々照準が合わない。

 そうしているうちに、背後に他の敵機が群がり、レーザー機銃で攻撃してくる。

 

「くそっ、こうなったら・・・」

 

 私はこの機体の変形機構を思い出し、すかさずガウォーク態型に変形させ、急上昇する。敵から見ると私の機がいきなり消えたようで、敵機は私がいた場所を素通りする。それを機体を戦闘機に戻して追撃し、レーザーで撃墜した。

 

「よし、もう1機・・・くそっ、1機やられたか!」

 

 どうやら、私が自機のマニューバに集中している間に、僚機のスーパーゴーストが一機墜とされたようだ。

 

 ―――流石に、4機同時の並列思考はきついな・・・

 

 私の才能ではまだ並列思考はかなり厳しいようだ。なので私は他のスーパーゴーストをAIによる自由操縦に切り替えて、自機の操縦に専念した。

 

 

 

 

 

 

 

~〈開陽〉艦橋~

 

 

「敵別動隊、6機撃墜、8機ほどがアルファルド1と交戦中、本艦隊に20機あまりが向かってきます」

 

「直掩機を差し向けて」

 

「了解です」

 

  レーダー手のこころが戦況を報告する。報告を聞くには霊沙はなかなか頑張っているようだ。だが、たかが4機では敵編隊を足止めできないのは明らかで、多くが艦隊に向かってくる。

 

「対空戦闘用意!」

 

 私は新たに襲来した敵別動隊に備えて、対空戦闘を命ずる。前甲板の3基の主砲塔が、敵機の群を捉えようと旋回を始めた。

 

《艦長!本艦左舷後方に、ゲートアウト反応が!》

 

 突然、早苗が驚いた様子で報告する。

 は?ゲートアウト?

 

「おい、何事だ、そんな場所にボイドゲートはないぞ!」

 

 普通ではあり得ない報告にサナダさんが反論するが、現にその場所に反応があるのだ。何かがいるのは間違いない。

 直後、輪形陣左側後方の駆逐艦〈リヴァモア〉がビーム攻撃を受け、被弾した。

 続けて、2、3発とビームが〈リヴァモア〉に撃ち込まれ、ついにAPF(アンチエナジー・プロアクティブ・フォース)シールドが耐えきれず、〈リヴァモア〉は直にビーム攻撃を浴び、装甲の薄い駆逐艦では耐えきれなかったのか瞬く間に蒼い火球となって、爆散した。

 

「り・・・〈リヴァモア〉、インフラトン反応消失、轟沈しました!」

 

 ミユさんは、驚きのあまり一時呆然としていたが、すぐに職務を思い出し、報告する。

 

「全艦、TACマニューバパターン入力、回避機動!急いで!」

 

「了解、回避機動実行!」

 

 突然のことに、私も驚きのあまり、指示が遅れてしまうが、すぐに全艦に回避機動を命令する。

 コーディが入力したTACマニューバパターンに従って艦は回避機動を取り、全力で小型核パルスモータを噴射して敵の攻撃を躱さんとする。

 

「艦長、敵の映像、出ます!」

 

 ミユさんが操作すると、メインパネルに〈リヴァモア〉を撃沈した敵の姿が映し出される。

 それは、宇宙に溶け込むような黒い色をした艦で、艦首には大きな開口部があり、〈開陽〉と同じような砲身付き3連装砲塔を上甲板と両舷に1基ずつ備えて龍の頭のような艦橋をもった戦艦だった。

 

「こいつが敵の旗艦かしら?」

 

 状況からみて、こいつが敵の親玉に違いないだろう。

 そこで私はサナダさんに何か知っていないか尋ねようとしたが、サナダさんだけでなく、ミユさんやノエルさんも、画面の戦艦の前で、呆然と立ち尽くしている。

 

「ぐ・・・」

 

 ―――ぐ?

 

「グラン・・・ヘイム」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【イメージBGM:無限航路より 「ヴァランタインのテーマ」】

 

 

 

 

 

「グラン・・・ヘイム」

 

 サナダさんは、画面の前に立ち尽くしたまま、そう呟いた。

 

「グランヘイムって、あの艦の艦名?」

 

「ああ、そうだ。あれは・・・宇宙最強の0Gドッグ、ヴァランタインの愛艦、この宇宙で最も優れているとされる艦だ・・・」

 

 サナダさんが、いつになく震えた声で解説する。

 最初は怖がっているのかと思ったけど、その後に「ああ、生きている間に見られるとは・・・」とか言っていた辺り、感動しすぎて声がうまく出せないだけだろう。あの人らしいと言えばらしいわね・・・って、ヴァランタイン・・・?

 

「って、ああーっ!ヴァランタインって、あのヴァランタインな訳!」

 

 以前、0Gドッグのランキングとやらを見た時、確か一位の奴の名前が、そんな奴だったけど、まさか・・・

 

「何を言おうと、ヴァランタインはヴァランタインだ。泣く子も黙る大海賊、万年ランキング一位の0Gドッグの頂点に立つ男、ヴァランタインそのものだ」

 

 ははっ・・・・・私達も大した奴に目を付けられたものね。光栄と言えばいいのかしら?

 

《〈グランヘイム〉より、砲撃来ます!》

 

 呆然とするクルーに変わって、早苗が鬼気迫った声で報告する。

 

「くそっ、直撃コースだ!」

 

 コーディは懸命に砲撃を躱そうと舵を切るが躱しきれず、〈グランヘイム〉の砲撃が艦を直撃し、〈開陽〉は大きく揺れる。

 

「APFシールド、出力20%低下!」

 

《艦体に目立った損傷はありません!》

 

 どうやら今の砲撃はシールドのお陰で何とか耐えきれたらしい。だが、あんなものを何度も食らえば危ないだろう。何せ一撃でシールド出力の20%が持っていかれたのだ。

 

「艦長、〈グランヘイム〉が接近してきます!」

 

 〈グランヘイム〉は雲海から上昇すると、輪形陣中央の〈開陽〉をめざして接近してくる。輪形陣の内側に入られたら、敵味方識別信号が被ってしまい、外側の艦が攻撃できなくなってしまう。これは不味い事態だ。

 

「全艦、〈グランヘイム〉に砲火を集中!敵を近付けるな!」

 

 何とかして〈グランヘイム〉を撃退しなければ。私の命令で、射撃可能な位置にいる〈トライデント〉、〈ピッツバーグ〉、〈ケーニヒスベルク〉の3隻の重巡洋艦が、〈グランヘイム〉に下部3番主砲を指向し砲撃する。しかし、〈グランヘイム〉のAPFシールドが余程硬いのか、効果的にダメージを与えられない。そうしているうちに、〈グランヘイム〉は悠々と輪形陣の内側に入り込み、〈開陽〉に接舷を試みる動作を見せる。

 

「クソッ、奴ら乗り込んでくる気か!」

 

「慌てないで!主砲、徹甲弾装填、目標〈グランヘイム〉!」

 

「了解、主砲、徹甲弾装填!目標〈グランヘイム〉、発射ァ!」

 

 今〈グランヘイム〉は丁度〈開陽〉の左舷側に位置している。この位置なら〈開陽〉の全主砲で砲撃が可能だ。それに、いくらAPFシールドが硬くても実弾は防げない。〈グランヘイム〉の方が図体がでかいので、この距離なら外さないだろう。必中距離だ。

 〈開陽〉の主砲は徹甲弾を装填すると、5基の主砲全てを〈グランヘイム〉に指向し、爆炎を吹き上げて一斉射する。主砲の実弾一斉発射の轟音が艦内に響いた。

 その砲撃をもろに受けた〈グランヘイム〉は、一時煙に包まれる。しかし、そこから現れたのは殆どダメージが見られない〈グランヘイム〉の姿だった。

 

「う、嘘でしょ・・・」

 

 ―――ヤッハバッハの戦艦とも互角に渡り合える、この〈開陽〉の主砲斉射を受けて無傷?冗談も程々にしなさいよ!何であれが効いてないのよ!

 

《よう、そこの艦、今のは痛かったぜ・・・》

 

 突然、回線に男の声が割り込む。同時に、メインパネルに、金髪の黒い艦長服を着た男の姿が映し出された。

 

《俺は〈グランヘイム〉の艦長、ヴァランタインだ。今の一撃は中々だったぜ。お陰で装甲板を何枚か張り替えなきゃならなくなった》

 

 実は〈開陽〉の一撃は、〈グランヘイム〉の外見には表れていないが、〈グランヘイム〉の装甲にかなりのダメージを与えていた。しかし、バイタルパートは貫通しておらず、〈グランヘイム〉本体は未だ無傷のままだ。

 

《そこの艦、艦長は誰だ?》

 

 ヴァランタインは、威圧感をもった声で、艦長を訊ねる。

 

「―――〈開陽〉艦長の、博麗霊夢よ」

 

 私は、艦長席を立って、ヴァランタインを睨む。

 

《ほぅ、お前のような小娘が・・・》

 

 ヴァランタインは私の姿を見て、呆気にとられているようだ。―――小娘って何よ。これでも40年は生きてるわよ。幻想郷時代も含めてだけど。

 

「人を見掛けで判断しないことね。小娘と侮っていると、痛い目見るかもよ?」

 

 小娘扱いになんだかイライラするので、私はヴァランタインに言い返す。彼の方から見たら、今の私はさぞ邪悪な笑みをしていることだろう。

 

《ハッ、この俺を前にしてそこまで言えるか、小娘・・・さて、その態度いつまで持つかな?》

 

 私の態度が癪に障ったのか、ヴァランタインは眉を吊り上げて私を睨む。まぁ、そんなので物怖じする私ではないけど。

 

《小娘、そこにエピタフがあるのは分かっている。今からお前の持つエピタフ、この俺が貰い受けてやろう!奪われたくなければ守って見せろ!》

 

 ヴァランタインは挑発的な笑みを見せてそう言い残すと、ガチャリと通信を切った。パネルの映像も、彼がマントを翻す姿を映した後砂嵐の画面となり、ぷつりと切れた。

 

「か、艦長・・・今のはいくらなんでも言い過ぎなのでは?あ、相手を考えて下さいよぅ・・・」

 

 緊張の糸が切れたのか、ノエルさんがぐったりした様子で私に抗議する。

 

「何よ。嘗められっぱなしじゃ格好悪いでしょ。それに、乗り込んでくるならまだこっちに勝機があるわ」

 

 ノエルさんだけでなく、他のブリッジクルーも一様に、「は?」と言いたげな顔を浮かべている。

 

 ―――ああ、そうだった。私の力、こっちに来てから碌に見せたことなかったからね。

 

「勝機と言っても、こちらは保安員2人に自動装甲歩兵がたかだか6、70体ほどしかいないぞ。それも恐ろしく広い艦内に分散している。どこに勝機があるんだ?」

 

 確かにサナダさんの言う通りなんだけど、私を忘れてもらっちゃ困るわね。

 

「あら、頭数に私が入っていないみたいだけど?」

 

「なに?」

 

 サナダさんも、どうやらいまいち分かっていないみたいだ。まぁ、見ていれば分かるでしょう。

 

「あら、私の話は忘れたのかしら?まぁいいわ。その時になれば分かるから。」

 

 サナダさんは、難しい顔をしたままだ。確かにサナダさんに私の前世の話は多少しているけど、実力を生で見ている訳じゃあないからね。

 

《〈グランヘイム〉、接近してきます!》

 

 どうやら〈グランヘイム〉はこちらに接舷するつもりのようで、艦を〈開陽〉に寄せてくる。

 

「あ、ああっ・・・か、艦長・・・!」

 

 ノエルさんは怯えた様子で私を見つめる。ミユさんやユウバリさんも、声には出さないが、額には冷や汗が流れている。

 まぁ、仕方ないわよね。話を聞けばここの大妖怪みたいなものだし、あいつ。

 

「大丈夫よ。この艦のクルーは、私が護るから」

 

 今は私が余裕を見せて安心させることしかできないが、何とかなるだろう。

 

「〈グランヘイム〉、本艦に接舷します!」

 

 ミユさんが報告すると同時に、艦が大きく揺れる。

 

《敵、左舷第11ブロックに強制接舷、エアロックが乗っ取られました!》

 

 早苗が敵の進入を告げる。さて、これから歓迎の準備をしないとね。

 

「敵は何処に向かっているの?」

 

《はい・・・進入した生命反応は凡そ200ほど・・・全て第3倉庫に向かっています!》

 

 ―――第3倉庫・・・確か、エピタフを保管していた倉庫ね。

 でも、ヴァランタインは何で私がエピタフを持っていることを知っているのかしら。何か特殊な機材があるとか・・・いや、今考えても無駄なことね。

 

「早苗、第11区画から第3倉庫までの通路上に、集められるだけの自動装甲歩兵を配備して。あと、保安隊のエコーとファイブスには、装甲歩兵一個小隊と共に、万が一のために機関部への通路を守護するように命じて。それと、他の乗組員には、敵が進入している区画には近付かないように警告して」

 

《了解です!》

 

 早苗が私の命令を乗組員に端末を介して連絡する。これで、敵が進入した区画に足手纏いは居なくなるだろう。

 

「それと早苗、私が留守の間、艦隊を指揮しなさい。何か不味いことがあったら、すぐに私に知らせなさい!」

 

《はい。指揮権を譲り受けました!》

 

 私は早苗に艦隊を任せると艦長席を降りる。

 

「艦長、どちらに?」

 

 私の行動に疑問を持ったのか、ユウバリさんが問い掛けてくる。

 

「ちょっと、海賊退治にね。」

 

 私はそう言い残して、第3倉庫へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〈開陽〉艦内通路〜

 

 

 

 〈開陽〉に乗り込んだヴァランタイン達は、〈グランヘイム〉のレーダーが示したエピタフの位置を真っ直ぐ目指して進む。途中で彼らは何度かごつい警備ロボットか何か(自動装甲歩兵)と会敵したが、それらはヴァランタインとその部下が、難なく撃破していった。

 

 ――あの霊夢とかいう小娘が"アレ"なら、間違いなくエピタフを守ろうとするだろう。

 

 しかし、あの小娘には驚いたものだ。この俺がヴァランタインだと知ってなお、あの物言い。相当自信があるか、ただのバカか・・・恐らく前者だな。このフネ自体は中々良いもののようなので、大方高性能なフネを手に入れて舞い上がってる餓鬼なのだろう。だが、その自信もいつまで続くか。この俺にあんな態度を見せたんだ、精々楽しませて貰おう。俺に負けて挫折するようなら、所詮その程度の餓鬼って事だ―――

 

 ヴァランタインは通路を進みつつ、霊夢について考察を続けていた。

 

「お頭、この先でっせ!」

 

 部下の一人が、1枚の扉を指して言う。彼が言うには、この先がレーダーが示した区画なのだろう。

 

「ようし、突っ込むぞ、続け!」

 

 先頭に出たヴァランタインは、スークリフ・ブレードを抜くと扉の前に立ち、その扉を一刀両断する。

 ヴァランタインに斬られた扉は音を立てて倒れ、そこから彼の部下が、雄叫びを上げながら一斉に室内に雪崩れ込む。

 だが、部下達はある程度進んだところで一斉に立ち竦み、雄叫びも止んでしまう。

 

「どうした、お前ら!」

 

 ヴァランタインはそんな部下の態度を叱咤し、自らも室内に入って部下の前に出る。

 そこで彼は、倉庫の奥に、一人の人影を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、随分遅かったじゃない。待ち草臥(くたび)れたわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【イメージBGM:西方秋霜玉より 「二色蓮花蝶〜Ancients」】

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 そこに立っていたのは、彼がモニター越しに会話したこの艦の艦長、博麗霊夢の姿だった。

 

 だが、互いの艦の艦橋で会話していた時とは異なり、彼女の服装は紅白のひらひらした空間服から、いわゆる巫女服と呼ばれる古代の祈祷衣装となっており、彼女の周囲には得体の知れない陰陽の球体と、頭上には数多の何かが書かれた紙切れ(御札)が浮かんでいる。彼女の瞳は通信越しに会話していた時とは異なり、茶色から冷酷ささえ感じる紅い色に変化し、その手には、刀身が赤い、怪しげなスークリフ・ブレードと思われる刀が握られている。

 ヴァランタインが、目の前の霊夢は、果たして通信越しに会話した本人なのかどうかすら分からないほど、彼女の雰囲気は変わっていた。

 

 

「土足で他人(ひと)の艦(ふね)に乗り込んだんだから、覚悟は出来ているんでしょうね―――?」

 

 

 霊夢の姿を前に、ヴァランタインは久しく忘れていた感情を思い出す。

 

 

 ――ははっ・・・・・面白い。まさかこの俺を"恐怖"させちまうなんて、こいつはとんでもない"大当たり"かもな・・・―――

 

 

 彼は、全ての生物が持つ本能―――得体の知れないものに対する恐怖を感じたが、その感情を押し留めて、霊夢と対峙する。

 

 

「ああ、弱肉強食がこの宇宙の掟。お前こそここに来て―――ビビるんじゃねぇぞ?」

 

 

 霊夢は、ヴァランタインの醸し出す雰囲気が、一気にがらりと変わったのを感じた。

 

 

 ――研ぎ澄まされた、剣(つるぎ)のような殺気・・・やっぱり、只者じゃあないわね。伊達に宇宙一に君臨している訳ではない・・・か。―――

 

 

 霊夢は己を律し、刀を構え、真っ直ぐヴァランタインを睨む。

 

 

 

 

 

「さぁ、来なさいヴァランタイン・・・!私のエピタフが欲しければ、力尽くで奪ってみなさい――――!!」

 

 

 

 

 




本気モード霊夢ちゃん降臨。
本気モードでは、旧作に近い巫女服の姿になります。
綺麗だけど、怖く見えるように描きました。今思えば、目閉じver.の方が雰囲気出ていたかも。


次回、ヴァランタインvs霊夢!
流れ出す二色蓮花蝶、ラスボスにしか見えない霊夢。本気霊夢の鬼畜弾幕の前に、ヴァランタイン一行は生き残れるのか?次回、ヴァランタイン死す!? お楽しみに!

・・・半分くらい嘘です。主人公は霊夢ちゃんですよ。いくら鬼畜弾幕を放とうがちゃんと主人公ですから。
でも二色蓮花蝶から漂うラスボス臭・・・。


今話から本格的にバルキリー登場ですが、私の腕で空戦をどこまで描けるか不安です・・・
バルキリーの機種は今後増えていく予定です。早くVF-27を出したい。
あと今話で何気に初の一万字越えです。疲れた・・・

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