夢幻航路   作:旭日提督

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 マゼラニックストリームを離れ、一路大マゼランを目指す『紅き鋼鉄』先遣艦隊。
 今や艦隊最古参の身となったコーディは、旗艦〈高天原〉の自室で懐かしい夢に浸っていた。


Intermission_101.5 (Case Cody)

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《我々は決起する! 共和国の旗の下に死んでいった兵士達に報いるために! 我々が3年間、祖国の旗に忠誠を誓いひたすらに戦い抜いたのは、(ひとえ)に共和国と民主主義を護らんがためである!! ……故に、帝国の存在を認めるわけにはいかない。このような茶番、決して認めてなるものか!!! 進め! 我が同胞よ! 今こそ我々を裏切った銃後に鉄槌を下す時だ…………!!》

 

 ホログラムから流れる、シャルロット統合作戦本部長の決起演説。

 多くの兄弟達が同調し、護る筈だった祖国に銃を向けている。仕方ない。確かに俺達は造られた命。見方によっては肉で造られたバトルドロイドだと言うこともできるだろう。

 …………だが、俺達だって人間だ。国のためと信じて3年間戦って、多くの┃戦友《兄弟》を喪った。オマケに、頭の中には得体の知れない抑制装置。気味が悪いどころか、真実を知れば祖国に憎しみすら抱くのも当然といえる。───俺達の犠牲は、一体何のためのものだったのか。

 

 溢れる慟哭。思わず天を仰ぎ見ても、そこにはクルーザーの冷たい天井が映るばかり。

 昔からむさ苦しいばかりのヘルメットだったが、今はコイツのお陰で周りから表情を窺われないのが有り難い。

 

「コマンダー、ウータパウからの撤退が完了しました。我々に付き従ったのは、全体の4割です」

 

「そうか。多いんだか、少ないんだか。───それで、ケノービ将軍は」

 

「いえ、それが……」

 

 ボイルの声が、途端に澱む。

 その一言だけで、察するには充分だった。

 

「わかった。───あの人のことだ。きっとどこかで生きているだろう。砲撃した阿呆はちゃんと"矯正"しておけ」

 

「イエッサー」

 

 慣れた手付きの敬礼の後、回れ右でブリッジを退出するボイル。

 さて…………先ずは何よりもカリダを目指さなくては。あそこは帝国に反旗を翻した共和国軍───救国軍事会議の拠点となっている場所だ。傷病兵を下ろすにも、敵か味方か分からない近場の医療ステーションに頼ることができない以上、必然的に行き先は限られてくる。

 

 ───突如、響き渡る警報。

 

 ブリッジが瞬く間に緊張で包まれ、兵士達が配置に就く。

 

「コマンダー、敵です」

 

「敵艦隊の規模は?」

 

 追手にしては、随分と早いな。

 あまりにも早い帝国の対応。準備されていたと考えるのが自然か。元々同じ軍だったのだ、情報の漏れ所など幾らでもある。

 

「ハッ、アークワイテンズ級が6、それに…………インペレーター級が4隻です」

 

「インペレーターだと? 馬鹿な」

 

 艦隊の後方にジャンプしてきた敵艦隊───真新しい灰白を全身に纏ったその姿は、彼等が最早共和国でないことを告げている。

 随伴のアークワイテンズ級の塗装はまだ変わっていないようだったが、何れ慣れ親しんだ共和国の赤色があれに塗り潰されるのかと思うと物悲しい。

 

「コマンダー、如何なさいますか」

 

 部下が、俺に指示を求める。

 この場では、少将(マーシャル・コマンダー)の俺が最上位。グランド・アーミーと宇宙軍の違いこそあれど、ケノービ将軍を含めたジェダイ将軍が艦隊から消えてしまった今ではトルーパーしかこの艦隊にはいない。必然的に、指揮官の席には俺が座ることになっていた。

 

「傷病兵を乗せている上にオーダー66で傷付いた〈ガーララ〉は何としてでも逃がすんだ。その他の艦は全艦反転! 敵艦隊を牽制するぞ」

 

「イエッサー! 全艦戦闘配備!」

 

 大きく舵が右に切られ、〈ヴィジランス〉の艦体が慣性で傾く。

 

「敵を一時的にでも怯ませればいい。その隙にカリダに向けて脱出する。───どでかい花火を上げに行くぞ、野郎共」

 

 

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 ────いつも通りの、無機質な天井。

 

 共和国時代から変わらない。星の海を旅するフネの屋根の色。

 あれから、凡そ2ヶ月経っただろうか。

 かつて旅した小マゼランの淡く赤い輝きは遥か一万光年以上も彼方、眼前には、蒼輝の大マゼラン雲が横たわる。

 

 ~ヴェネターⅢ級艦〈高天原〉~

 

 そろそろ、交代の時間か。

 マゼラニックストリームに残り、ヤッハバッハを食い止めた居残り組からの連絡は、未だない。

 コマンダーショーフクとは何度か方針について話し合ったが、現状では大マゼランに向かうのがベストだ。残してきた仲間のことは気にかかるが、我々には託された仕事がある。それを放り出すことはできないし、何より艦長の命に反する。───全く、我ながら軍人根性はこれっぽっちも抜けていないらしい。

 

ガァン!! 

 

「っ、何だ!」

 

 突如激しく揺れ動く艦体。続いてけたたましく鳴り響く警報。クローン戦争で幾度となく経験した"日常"だ。

 俺は手早く着替えを済ませて使い古したフェイズⅡクローン・アーマーを着込み、ブリッジに上がる。

 

「コマンダーショーフク、何事です」

 

「エンデミオン艦隊だ。───奴等、いきなり撃ってきおった」

 

「エンデミオン? 確か、大マゼランの大国だった筈だな。海賊が騙っているだけの可能性は?」

 

「いや、IFFは正常だ。間違いない」

 

 艦隊指揮官のコマンダー・ショーフクと二、三言の現状把握を通して大体の事情は理解できた。どうやら俺達は、"政治"の対象になってしまったらしい。

 

「……不味いな。奴さん、小マゼランの事情を知っている奴等をタダでは済ましておかんつもりらしい。コマンダー」

 

「承知した。戦うしかないか…………全艦、戦闘配備だ!」

 

 コマンダーの号令で、艦内は一気に引き締まる。

 戦闘に向けて忙しなくクルー達が手を動かし、準備を進める。大半が軍隊経験もない民間人の集団であるが、修羅場を幾度も潜ってきた彼等の動きは本職のそれにも引けを取らない。

 

「全主砲、目標前方のエンデミオン艦。艦種識別……アリーデン級巡洋艦」

 

「標的を目標Aとなせ。撃て」

 

「了解、主砲発射!」

 

 エンデミオン側に負けじと砲撃を返す〈高天原〉。ここに、両軍は本格的な戦闘に突入した。

 

「…………コマンダー」

 

「うむ。手筈通りにいこう。彼女達を〈イサリビ〉に移すんだ」

 

 そして、俺は"依頼完遂"のために更なる一手を打つ。

 

「チーフ、聞こえるか。プランΣだ。彼女達を連れて〈イサリビ〉に移乗しろ」

 

《イエッサー》

 

 恐らく待機していたであろう海兵隊の指揮官、チーフにコムリンク……のような通信機で指示を送り、再び戦闘に意識を集中させる。

 

 全く、今朝の夢と殆ど変わらない状況だなんて、一体どんな導きなんだ。ジェダイが言っていたフォースの導きとやらが本当にあるのではないかと思えてくるぐらいの偶然だ。

 

 だが、俺のやることは今も昔も変わらない。

 仲間のため、任務のため。そして忠誠を誓った旗のため。俺は戦いを続ける。

 

 さあ、戦争の時間だ、CC-2224(コーディ)

 

 

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