夢幻航路   作:旭日提督

108 / 109
第一◯一話 新たな力

 ~〈アイランドα〉研究室~

 

 

 

「本当に、これで奴等と渡り合えるのかい? シオン」

 

 〈アイランドα〉に敵…………マリサと寝返った霊沙が送り込んできた偽物の幻想少女が侵入してから、《紅き鋼鉄》は各地で敗退を重ねていた。ブロッサムとサナダ謹製のセンチネルや機動兵器は役に立たず、逆に穴だらけにして地に倒れ付していた。

 そんな戦場を辛くも離脱した整備班武装隊のリーズバイフェは、後方の拠点で待機していた友人兼艦隊の頭脳(マッドサイエンティスト)が一人、シオンと合流を果たしていた。

 

 ただ彼女と合流できたのはいいのだが、そこで怪しげな新装備を着せられたリーズバイフェは困惑半分、シオンにその意図を尋ねる。

 

「ええ、性能には問題ありませんよ。何せ、艦長を解析して作った逸品です。戦えない訳がない」

 

「そうかぁ…………なら、使ってみるしかないな」

 

 観念したように、リーズバイフェは大人しく新装備を持ち上げる。

 

 要は、自分に人柱になれと言いたいらしい。

 

 整備班に所属していた都合上、シオンからは以前から色々と怪しげな発明を受け取っていたのもあって、今回のもその延長線上に過ぎないのだろうと自らに言い聞かせる。

 

 そもそも、この〈アイランドα〉で敵が暴れている以上、何らかの対抗手段は必要だ。無力なままより、力のある方が生き残る確率も上がる。

 

 そうして自分を納得させたリーズバイフェは、装備品の起動スイッチに手を伸ばした。

 

「いいですか? 稼働時間は15分が限界です。それも、攻撃にエネルギーを割きすぎればより短くなる。その間に、最低でも敵1体、できれば2体以上の撃破をお願いします。私も後から試作装備で駆けつけますから、その間、前線の構築と維持を頼みます」

 

「ああ、分かった。――――いくよ、オルテナウス」

 

 起動スイッチを、力強く切り替える。

 

 左手に把持した盾状の装備の外郭に、紫色のエネルギーが迸る。

 

「既に、同じコンセプトの装備を受け取っているシュテルさんとレヴィさんは前線に向かっています。先ずは彼女達と協力して、敵の足止めと撃破を頼みます」

 

「了解。…………全くいつもシオンは無茶ばかり言うね。まぁいいけど!」

 

 一通り装備品の作動チェックを済ませると、一直線に、撤退してきた筈の方角に視線を向けるリーズバイフェ。

 

 直後、アーマーの力を借りて力強く地面を蹴り、我が物顔で暴れまわる偽りの幻想少女達の元へと駆ける。

 

 その手に幻想を破る力、科学の結晶――境界逆転兵装(アンチ・ファンタズム・アーマー)を携えて―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………見えた。敵を捕捉、これより突入する」

 

 シオンから装備を受け取り、移民船の艦内で暴れる"敵"を再度その目に捉えたリーズバイフェは、一直線に突撃する。

 シールド状の装備に取り付けられたブースターは全開にされて、猛烈な勢いで彼女の身体を前へ、前へと奮進させる。

 

 しかし、派手に炎を撒き散らしながら突撃するリーズバイフェの存在は、ある程度距離が離れていても容易に捕捉できてしまう。

 敵はそうして彼女の接近を感知したのか、自身に向かう無人兵器郡の排除を中断して、空から彼女を見下すようにその無機質な瞳を向ける。

 

 敵は手に取った扇子を振り上げ、無数の光弾を生成する。

 

「!? っ…………来るか!」

 

 それが攻撃の予備動作であることは、既にリーズバイフェも知っている。あの扇子が降り下ろされた瞬間には、自らを死に至らしめる光弾の雨が頭上に降り注ぐことになるのだ。その弾幕から辛くも逃げ延びてきた彼女には、その恐ろしさが身に染みている。―――あの攻撃の前に、一体何人の仲間が倒れたのだろうか。

 

 …………だが、今の彼女は先程までとは違う。

 幻想と神秘を打ち破る新たな力を手にした彼女は、迷うことなくその盾を掲げ、敵に向かって吶喊した。

 

「いくぞ―――バンカーボルト、起動!」

 

 リーズバイフェは既に敵と交戦していた味方の前に、ブースターの加速を生かして瞬時に躍り出ると掲げた盾を勢いよく振り下ろし、杭を打ち付けて固定させる。

 

 

「!? 援軍か!」

 

「君達は…………エコーとファイブスか。…………すまない、遅くなった」

 

 庇った味方の方向を振り向くと、遮蔽物に身を隠しながらブラスターを敵に向ける海兵隊員のエコーとファイブスの姿があった。

 

 その直後、敵から無数の光弾がリーズバイフェ達に降り注ぐ。

 不気味に輝く蝶形の弾幕を前に、リーズバイフェは境界逆転兵装の真価を発揮させる。

 

「シールド起動……出力、最大!!」

 

 オルテナウスは紫色に輝き、魔方陣のような幾何学模様を伴うエネルギーシールドを発生させる。

 

 光の蝶はそのシールドに衝突したとたんに崩れ、内臓するエネルギーを霧散させた。

 

「よし今だエコー、グレネードを!」

 

「言われなくても……!」

 

 リーズバイフェが攻撃を防いだことで敵にわずかな隙が生まれる。

 そこにすかさずエコーがグレネード―――サーマル・デトネーターを投擲し、それは空中に佇む敵の眼前で炸裂した。

 その力を解放したサーマル・デトネーターは敵に向けて蒼白の電撃を放ち、電撃を受けた敵は砂のように崩れて消えた。

 

「すまん、助かった」

 

「ああ―――君達が無事で良かったよ」

 

 エコーが救援に謝意を表し、改造型フェーズⅡクローン・トルーパー・アーマーのヘルメットを脱ぐ。

 声こそ平常であったものの、その顔には汗がびっしょりと吹き出しており、苛烈な戦闘の経過を物語っていた。

 

「しかし、とんでもなく強い敵だったな」

 

「全くだ。科学者連中がくれたあのサーマル・デトネーターがなければどうなっていたことか…………」

 

 エコーとファイブスは今までの戦いを回想し、改めて今回の敵の強大さに戦慄した。

 

「科学者? もしかして君達も、シオンに新装備を貰っていたのかい?」

 

「ああ。何でも今回の敵は"今までと違う"らしいからな。普通の装備じゃ太刀打ちできないからと、アーマーと武器を改良してくれたんだ」

 

「シールド付きのアーマーに特殊素材でできたグレネード……貰ったときは過剰装備に思えたが、敵の強さを思えばむしろ足りないぐらいだったな。連れてきた機動歩兵(ドロイド)共は全部スクラップになっちまった」

 

 彼等は新装備を貰った経過をリーズバイフェに話す。

 彼等も彼女と同じようにシオン達マッドサイエンティストから新装備を受け取っていたが、空中から無数の弾幕を放つ霊夢が作り出した影―――幻想少女の幻影が相手では分が悪かった。

 ガンシップの上位互換のような性質を持つ幻想少女(幻想郷の住人)、その影が相手ではエコー達歩兵は太刀打ちできず、ピカピカだった改良形フェーズⅢトルーパー・アーマーは泥だらけになり、通常の歩兵10人分にも相当する力を持つ機動歩兵も、敵に向けて携行対空ミサイルを発射するも全弾撃墜された挙げ句に反撃で全て破壊されていた。

 

「新型のブラスターは効果はあったが、敵の回避力が化け物じみていたからな。あまり当たらん。一番役に立ったのはグレネードだ」

 

 彼等が装備するブラスターとグレネードも共に新型―――というより特殊なものであり、サバイバルナイフと一体化した構造のブラスター「EC-15A エクリプスブラスター」は銃内部に"博麗の血"を封じ込めたリアクター"封印晶"を内蔵することにより幻想少女への対抗を可能とした銃だ。しかし、元より"弾幕ごっこ"で回避能力が鍛えられていた幻想少女―――その幻影に対しては、直線的な攻撃しかできないブラスターは今一つの評価だった。

 対して新型グレネード「EC-11 エクリプス・デトネーター」はEC-15Aと同じく博麗の力を封じ込めたグレネードで、封印晶をそのまま爆薬とすることにより幻想少女への効果的なダメージを狙った武器だ。

 このグレネードはブラスターと違い爆発によりダメージを与えるものなので効果範囲が広く、局面によっては効果的な活用が可能なのでエコー達はこのグレネードを高く評価した。

 

「…………だが、今ので貰ったグレネードは使い切っちまった。一度補給に戻ろう。装甲服の調子も確認したい」

 

「そういう訳だ。俺達とは一時お別れ…………といきたかったとこだが、どうも間に合わなかったようだ」

 

 しかし、その効果的なグレネードを使いきり、装甲服もダメージを受けている状態では、エコーやファイブスに幻想少女へ対抗する術はない。

 そのためエコーは一時帰還を提案したが、状況はそれを許さなかった。

 

 上空に仁王立ちする水色の人影―――それを認めたファイブスは舌打ちした。

 

 ―――なんてタイミングの悪い、と。

 

「…………あれは私が引き受けよう。君達は基地まで戻るんだ」

 

「だが、あんたにはシールドしかない。どうやって倒す」

 

 新たな敵を引き受けると宣言したリーズバイフェだが、エコーがそれに待ったをかける。

 リーズバイフェの境界逆転兵装、オルテナウスにはシールドと近接格闘兵器であるパイルバンカーしか装備されていない。中距離での弾幕戦を得意とする幻想少女が相手では、些か分が悪すぎた。

 

「だが、今この中で一番戦えるのは私だ。殿になるなら私だろう」

 

「ならチームワークで戦えばいい。俺達にはまだブラスターがある」

 

 リーズバイフェが反論する。

 エコー達では幻想少女を倒せる望みがない以上、残って戦えるのはリーズバイフェしかいない。だが、仲間を見捨てられるほど薄情ではないエコーとファイブスは、チームワークで戦い続けようとする。

 

 しかし、幻想少女にそんなことは関係ない。

 上空に佇む彼女は巨大な氷塊を作り出し、それを地上の三人目掛けて撃ち下ろす。

 

「不味い、不味いぞ…………!」

 

「ちっ―――オルテナウス「その必要はありませんよ」何―――?」

 

 リーズバイフェが盾を起動しようとしたその瞬間、彼女の頭上に影が差す。

 彼女を飛び越えた影は氷塊とリーズバイフェ達の間で急制動し、その手に携えた銃口を氷塊に向けた。

 

「ルシフェリオン、カートリッジリロード!!」

 

 右腕に備えた巨大で鋭角的な銃剣―――ストライクカノンに"霊力"が充填される。

 

 だが水色の幻影は乱入者を気にも留めず、腕を振り下ろしもろとも氷塊で圧殺しようと試みる。

 氷塊は自由落下し徐々にその速度を早め、遂には人影に差し掛かろうとするが―――

 

「フォートレス、展開―――!」

 

 人影の背後から、4枚のシールドビットと1枚の大型シールドビットが飛び出し、強引に氷塊を押し止める。

 その隙に充填を終えた人影は、シールドビットの隙間に銃口を構えた。

 

「ディザスター…………ヒーート!!」

 

 銃口から充填された霊力の奔流が飛び出し、炎を纏って氷塊を打ち砕く。

 炎はその勢いのままに水色の幻影までもを飲み込み、一瞬にして溶かし尽くした。

 

「…………ふぅ、間に合いましたか。三人とも、無事ですか」

 

「ああ、すまない。君は――」

 

「スタークスか。だが何故ここに? 君は航空隊だろう」

 

「ええ。ですが今は、この装備を任されて敵の迎撃に出ています。司令部に向かう敵は粗方排除しましたが、まだ残っていたようですね」

 

 人影の正体は、リーズバイフェと同様境界逆転兵装を任されて、幻影を排除していたシュテルだった。

 

 彼女は相方のレヴィと別れて幻影を狩っていたところ、水色の幻影に襲われる三人を発見して介入した、という形だ。

 

「だが、これで幻影も狩り尽くされただろう。一先ずは安泰だな」

 

「ええ。ですが――――」

 

 当面の脅威が去ったことに安堵するエコーとファイブス。

 だが、シュテルが睨んだ空の先には、未だに"元凶"が残っている。

 

「裏切り者の嬢ちゃん、か」

 

「―――元は仲間とはいえ、敵ならば討たねばなるまい。この艦を、守るためにも」

 

 彼女達が見上げる虚空―――その先では、未だに戦いが繰り広げられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

「あんたは……確かに殺した筈だ。何故ここにいる――!?」

 

 有り得ざる来訪者を前に、悪鬼の如く峻険な剣幕で睨む魔理沙。

 

 それをアリスは、あたかも取るに足らない些細なもののように受け流し、いつもの澄まし顔で応じた。

 

「死んだ? 何の冗談? 死体も確かめずに判断するなんて、貴女らしくもないわね」

 

「…………一体、どんなカラクリ」

 

 目の前の人形師は確かに魔理沙が艦ごと沈めた筈。

 にも関わらず、五体満足で健在な彼女の存在は、益々不自然だ。

 霊夢は魔理沙の影から、アリスを遠巻きに観察するが、そこに何ら不自然さはない。

 

「…………人形よ、人形。身体なんて幾らでも用意できるもの。ほら、この身体だって、ね」

 

 訝しむ霊夢と魔理沙をよそに、アリスは二人の前でゆらりと身体を一回転して見せる。

 

 ―――っ、まさか…………! 

 

 まるで見せつけるかの如きアリスの行動に、霊夢は己の不覚を悟った。

 

 直後、彼女が浮かんでいた場所目掛け、緋色の雷球が突如として飛来する。

 

「ちぃ…………っ!?」

 

 結界――――

 

 紙一重で結界を幾重にも張り付けて、己と相棒を守る霊夢。

 

「おっと――危ない危ない。助かるぜ、霊夢」

 

「…………」

 

 着弾の衝撃で生じた煙が晴れ、徐々に空が群青へと戻る。

 

 霊夢は煙の先へ眼光を向け、この事態を引き起こした犯人を睨んだ。

 

 霊夢が振り返って睨んだ先には、宇宙港区画を飛び出して居住区内部へと進入する、一隻の宇宙船。

 

「―――巡洋艦ブクレシュティか」

 

「成る程ね、他人の空似じゃなくて、本物だった訳か」

 

「今更気づいたの? "艦長"ならともかく、貴女ならとっくに感付いているものだと思っていたのだけれど」

 

 言外に"気付けないお前は盲目だ"と挑発するアリスを前に、歯噛みしかできない霊夢。

 

「―――チッ、それじゃああんたも私も死んでないってことか。……お前らを探すのは大変だったんだぞ」

 

「どうも。ビーコンがないんだから苦労したでしょ?」

 

「ああ。お陰で身体を一つ持ってかれたよ」

 

「それはお互い様でしょ。貴女の人形、お気に入りだったのに。よくも壊してくれたわね」

 

「おぉ、気持ち悪いぜ。流石は都会派魔法使い様だ」

 

 一方で、魔理沙は敵のペースに乗せられてたまるものかと、アリスに軽口を叩きつける。

 しかし火力はともかく、悪口(ブレイン)では何年経ってもせいぜい互角止まり。奪われた主導権を取り戻すには至らない。

 

「さて――私は"霊夢"が来るまでここで待っていてもいいのだけれど、貴女達はどうする? 先に私を殺す? それとも―――」

 

 妖しく微笑むアリスを前に、仄かな悪寒を悟る魔理沙は、即座に自身の背後を撃ち抜く。

 

「仲良くお人形になって暮らしたい? ――ッ!」

 

 光弾で撃ち抜いた先には、半身が抉れた西洋人形。

 身体の半分が吹き飛んでも尚槍を片手に突撃するそれを、八卦炉であしらう魔理沙。

 直後、自爆した人形の爆炎が彼女を襲うが、片方で振り払えば直ぐに晴れた。

 

「誰が、人形なんかに―――!」

 

 振り向き直り、光線を放つ魔理沙。

 だが盾を持った人形に阻まれて、黄金の光は届かない。

 

 アリスの背後から霊夢が放った悪性の札も、不可視の魔力糸の一閃で叩き落とされる。

 

「あら、残念。でも―――嫌がる"魔理沙"を無理矢理人形にするっていうのも、それはそれで乙なものね」

 

「お前っ…………どこまで変態なんだ、この野郎っ!」

 

 彼女が別の"自分"にした所業を想像し、自棄になって攻撃を叩きつつける。

 

 そんな魔理沙が放つ光弾を、アリスは一発、二発と、火の粉を払うように易々と叩き落とした。

 

「仕方ないでしょ、そうしないとあの子はあんたに殺されてたんだから。……まぁ、"移し替える"ときはできるだけ楽しんでもらったけどね」

 

「…………やっぱり変態じゃないか! このっ……」

 

「どう? 貴女もさっさと人形にならない? 魔理沙にしたことは全部してあげるけど」

 

「私は…………霊夢一筋だ……ッ!」

 

「一途ね、お可愛いこと」

 

「ッ、このアマ……っ!!」

 

 魔理沙が構えた八卦炉から、一条の光線が迸る。

 

 紫色に光る極太の光線は、されど七色の人形遣いには届かない。

 ひらり、と蝶のように舞う七色の人形遣いを相手にして、感情に任せて撃っただけの雑な弾幕が当たる筈もない。光線は彼女を掠りもせず、遥か遠く、彼女の背にある森の一部を焦がして果てた。

 

「あら、そんなもの? 幾千年の怨恨とやらはその程度なの? 興醒めね」

 

「興味なんて…………持って貰わなくて結構だ…………!」

 

 魔理沙の背から、数多の黒い筒状の弾幕。

 

 ―――マジックミサイル。

 

 かつて彼女が駆っていた、通常弾幕の一つ。

 しかし、今や変貌を重ねたそれは、ただの弾幕と言うには余りにもおぞましい。

 

 齢十四、五に辛うじて届くかというレベルの華奢な身体から、全長数百メートルにも達する宇宙艦から撃ち出されるようなミサイルが、数十と飛び出してくる。

 

 発射した直後には届くのではと思わせるほどの巨大なミサイルが、人形遣いを目掛けて一気に殺到する。

 

「ちっ…………厄介ね!!」

 

 アリスはミサイルの間に出来た絶妙な空間に身を捻り込ませ、魔理沙の弾幕を躱す。

 

「避けたか。だが、その先には」

 

「残念。もう"視えている"わ」

 

 アリスに向けて放たれたと思われた数多のマジックミサイルは、彼女を過ぎると偽りの空の最奥部―――艦橋などの重要区間へと続く隔壁を目指す。

 

 しかし、ミサイルは蒼白の光線と相討ちになり、全てが残らず迎撃された。

 

「この身体、元は何なのかも忘れたのかしら。火力馬鹿さん」

 

 宇宙港付近に佇む巡洋艦ブクレシュティから放たれた迎撃用パルスレーザーは正確に、変貌したマジックミサイルを撃墜する。

 一秒にも満たない僅かな時間で果たされた一連の戦闘は、今のアリスの身体―――巡洋艦ブクレシュティの統括AIが導き出した未来予測に基づいている。

 

「ちっ、ずる賢い奴め」

 

 今の彼女が"只のアリス・マーガトロイド"ではなく、"巡洋艦ブクレシュティの統括AI・アリス"も兼ねていたことを失念していた魔理沙は、してやられたと舌を巻いた。

 

「だけどなぁ…………お前もお前で、忘れてる訳じゃないだろう!!」

 

「!? っ…………」

 

 背後に感じる、仄かな殺気。

 

 妖気を滅することのみを目的とした鋭い殺気が、彼女を貫かんと四方から迫る。

 

「そう言うあんたは、いつまで経っても七色魔法馬鹿から変わらないわ」

 

 霊夢の放った封魔の針が、アリスの妖力を目印に殺到する。

 今のアリスは、身体こそ科学世紀の産物だが、中身は完全に魔法遣いだ。魂魄から迸る魔力は妖怪の証、博麗の力相手にはすこぶる相性が悪い。

 

 …………任せたわ。

 

 …………えっ、ちょ―――突然過ぎない!? 

 

「ッ―――!?」

 

 だが、彼女の中身は、アリス・マーガトロイド一人ではない。

 一つの器に二つの意識というイレギュラーを存分に活用して、アリスはアリス(ブクレシュティ)を意識の表層へと引き起こし、自身は潜水艦の如く急速潜航。博麗の力をやり過ごす。

 

 一瞬で"妖怪"から"機械"に成り代わったアリスには、封魔の針もただの金属片でしかない。

 

 アリス(人形師)の機転で突如戦闘に引き摺り出されたアリス(巡洋艦)は、なけなしの演算力を振り絞って全周にナノマシンから成るシールドを構築、霊夢の針を吹き飛ばす。

 

 ―――ご苦労様。"本体"に戻っていいわ。

 

 ―――元はこの身体も私のものよ。履き違えないで。

 

 用を済ませたアリス(巡洋艦)は、再び身体の主導権をアリス(人形師)に譲り渡し、700mの巡洋艦の艦内へ還る。

 

「…………咄嗟に意識を交代したわね」

 

「当たり前でしょ。妖怪の私が貴女の力を受けたらひとたまりもないもの。有るものは存分に使わないとね」

 

「…………厄介な奴」

 

 心底面倒そうに睨み付ける霊夢の視線を、飄々とあしらうアリス。

 

「面倒だ。火力で一気に押し潰す」

 

 魔理沙の宣言に、僅に顔を強張らせるアリス。

 

 元来技巧派の彼女にとって、単純な力押しは嵌めやすい格好の標的ではあるのだが、それも火力が高すぎると逆に天敵と化す。高すぎる火力が、策を洗いざらいに焼き尽くしていくからだ。

 そして目の前の魔理沙は、オーバーロードの尖兵。謂わば"上位存在に祝福された存在"だ。幻想郷時代の彼女とは訳が違う。

 

 外面こそ飄々とはしているものの、内心では冷や汗だ。

 

 ―――念には念を入れて。ブクレシュティ、シールドを強化して。

 

 ―――了解。そもそもアレ(幻想)に、APFSが効くかどうか分からないけどね。

 

 身体の持ち主たるアリス(巡洋艦)に指示するアリス。

 状況はよくないとはいえ、自負は所詮時間稼ぎ役と認識している彼女には、まだまだ勝算があった。

 

 霊夢が放った幻影は一先ず、この艦のクルー達に任せるとして、自負は霊夢と早苗が戻るまでこの戦線を支えていればいい。相手を焚き付けて力を無駄に消耗させれば尚良い。

 霊夢と早苗の二人が戻れば、現状の2対"2"から2対4だ。数の上でも二倍の戦力、加えてこちらの霊夢はあちらと違って健全だ。

 

 アリスは戦力を冷静に分析して、自身の役割を再定義する。

 後は魔理沙の攻撃に備えるだけ―――と思われた矢先だった。

 

「先ずは…………面倒な巡洋艦から片付けさせて貰うぜ」

 

 ずっとアリスに向いていた八卦炉の砲口が、ふいにブクレシュティを指向する。

 

「―――ダークスパーク」

 

 放たれるは、漆黒の砲撃。

 戦艦の主砲に匹敵するエネルギーを帯びた幻想の暗黒は〈ブクレシュティ〉のAPFシールドに衝突し―――貫いた。

 

 !? ッ―――! 

 

 ダークスパークに艦体中央を貫かれて、鯖折りになりながら炎上して墜落する〈ブクレシュティ〉を前にして、アリスの目は驚愕に溢れ見開かれる。

 

 ―――なっ、どうして…………〈ブクレシュティ〉のシールドなら、数発なら十分に耐えられる筈…………

 

 事前情報とは違う結果を前にして、演算処理が追い付かずフリーズする。

 

 何故だ、何処で戦力評価を間違えた。

 

 ―――通信回線は―――切断。義体側の回路を予備回線に切り替えて…………繋がった。ブクレシュティ、聞こえる? 

 

 ―――…………やられたわ。あいつ、APFSを貫通してきた。…………だから言ったのに。

 

 ―――御宅はいいから、今は一先ず全力で本体(コントロールユニット)を守って。貴女(アンカー)に消えてもらうと困るのよ。

 

 ―――了解。消えないように頑張るわ。

 

 巡洋艦〈ブクレシュティ〉の喪失により、一気にパワーバランスの天秤が傾く。

 

 所詮自分は足止めに過ぎない、主役に過ぎない。

 そう考えていたアリスだが、遂にはそうも言っていられなくなった。

 

 ―――ちっ、いつまで待たせる気なのよ、あの二色。全く…………早く来ないと、こっちの身が持たないわ。

 

 変わりゆく戦局のなか、アリスは未だに姿を現さない知己を呪い、面倒そうに敵を見据えた。

 




今回は新キャラとしてメルブラのリーズバイフェに登場していただきました。シオンがいるならこのコンビはやはり欠かせません。
彼女の装備については、原作衣装の上にマシュのオルテナウス装備を着込んでいます。武器についてもガマリエルではなく、オルテナウスのシールドです。

シュテルんの衣装については「Detonation」のバリアジャケットを大人サイズに拡大したものを着ています。
装備は「Force」のAEC装備の色違いを装備しています。

トルーパー達のアーマーは「HALO」のスパルタンアーマーですが、共和国軍時代のベルトとカーマ、ポールドロンを装着しています。
ヘルメットの形状は、エコーがシーズン7のクローン・フォース99加入時のもの、ファイブスは通常のフェーズⅡアーマーのヘルメットになります。

本作の何処に興味がありますか

  • 戦闘
  • メカ
  • キャラ
  • 百合

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。