夢幻航路   作:旭日提督

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 「The Bad Batch」公開を記念してのクロス企画です。
 弊作「共和国の旗の下に」とのクロスになりますが、IFストーリーではなく本編の時系列の中での幕問という形です。

 時系列としては第一◯一話の直前になります。


Intermission_100.5 (Case Echo)

「シャトルを守る! ファイヴス、援護を頼む」

 

「エコー待て! 危険だ!!」

 

 敵の砲台がシャトルを向く。

 あれを喪えば、脱出の手段が無くなってしまう。

 俺は足元に落ちていたシールドを拾い、シャトルの前に躍り出ながらブラスターの引き金を砲台に向けた。

 

 だが、それが運の尽きだった。

 

 直後、背後で炎が膨れ上がる。

 それがシャトルの爆発だと気付いた時には、もう全てが手遅れだった。

 

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 次に俺が目を覚ましたのは、得体の知れない灰色の部屋だった。

 身体には幾つものチューブが繋がれ、思うように動かない。食い物すらろくに出されず、栄養は血管に直接繋がれたパイプを通して補給されているようだ。

 ようは、ただのモノ扱い。

 共和国軍ではありえない待遇だ。

 

「検体ガ目ヲ覚マシマシタ」

 

「眠らせろ。実験を続ける」

 

「ラジャラジャ」

 

 耳障りな、ブリキ野郎共の声。

 俺が敵の捕虜になっているのは一目瞭然だ。…………いや、捕虜という言葉すら生易しい。俺は尊厳なんてものは全て奪われ、今や分離主義者共の道具扱いだ。先程の会話で察するには充分だった。

 

 ああ、なんて地獄だ。

 

 これなら、あの時焼かれて死んでいた方がずっとマシじゃないか、クソッ。

 

 声にならない悪態を吐き出すも、それが届くことはない。

 ドロイド共は無慈悲に機械を操作して、俺の意識をあっという間に沈めていきやがる。配管から気持ち悪い感覚が注入されて、身体がどんどん凍りつく。

 

 ………………すまない、ファイヴス。

 

 あいつは今も、銀河のどこかで必死に戦っているのだろう。一方俺は、こんなところで生き恥を晒している。

 なにが兵士だ、なにがARCトルーパーだ。

 

 ――――畜生。

 

 慟哭は、届かない。

 

 

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「――――エコー?」

 

「…………なのか?」

 

 瞼に差し込む、一筋の光。

 懐かしい声が脳裏に響く。

 

 まさか。

 

 まさか、そんな奇跡があるのだろうか。

 恐る恐る、瞼を開ける。

 朦朧とする意識に鞭打ちながら開いた世界の真ん中には、確かな青と白のコントラスト。

 

 ――――ああ。なんて幸運。

 

 夢ではないかと、何度もわが目を疑った。

 だが、そこにあるのは確かな現実。

 

「彼を下ろすんだ!」

 

 スカイウォーカー将軍の声が頭に響く。

 彼等がいるならまさかとは思ったが、そのまさかだ。将軍まで、駆け付けてくれたらしい。

 

「大丈夫か、エコー!!」

 

「う…………あ、ああ…………」

 

 長いこと喋らなかった影響か、はたまた身体をいじくり回された影響か、思うように声が出ない。

 

「! ―――よかった。お前が、生きているなんて…………」

 

「エコー。もう大丈夫だ。まずはここから脱出する。もう少しの辛抱だ」

 

 ファイヴスは俺を拘束していたパイプを強引に引きちぎり、レックスが肩を回して俺を支える。

 

「…………衰弱しているな。メディックを呼べ。可及的速やかに彼を運び出す」

 

 聞き慣れない若い女の刺々しい声。恐らく、指揮官なのだろう。矢継ぎ早に指示を飛ばしながら、冷静に状況を注視している。

 

「分離主義者め、やってくれましたね。我が軍の兵をここまで…………」

 

 ついさっきまで俺が囚われていたチューブのコフィン。それを睨みながら呟いた彼女の横顔は、気のせいかひどく無機質なものに見えた。

 その美しい絹のような銀色の髪も凍てつく美貌も、纏わりつく黒い空気が全てを反故にしている人形のような女。

 だがそれを、何故だか美しいと感じてしまった。

 聳える氷山のごとく孤高な高嶺。それが、彼女―――シャルロット統合作戦本部長に俺が抱いた最初で原初の印象だった。

 

 

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「エコー、時間だ。起きろ」

 

「ん―――すまない。少し寝込んでいたか」

 

 ファイヴスに身体を揺さぶられて、意識が現実に引き戻される。

 

 ――――ひどく、懐かしい夢を見ていた。

 

 俺が再び銃を取ることができた、その直前の記憶。

 ローラ・サユーで倒れた俺を、見つけてくれた兄弟達。

 

 ふと、視界に一枚の写真立てが映り込む。

 俺と、ファイヴス、コーディ。そしてレックス。

 俺達三人は故あってこの遥か未来に生きているが、唯一死んだ彼のことは、未だに忘れることはない。

 

 ―――〈トライビューナル〉の事故調査結果だ。結論から言おう。コマンダー・レックスは同艦の墜落に巻き込まれ行方不明(MIA)。タノ将軍も同様だ。

 

 ―――そんな! 彼が死ぬなんてあり得ない!! なにかの間違いではありませんか、ブリュッヒャー本部長!…………

 

 ―――残念ながら事実だ。そしてもう一つ重要なことだが、我々統合作戦本部は同艦の事故が"違法に発令された"緊急指令第66号にあると見ている。

 

 ―――何が言いたいんです、本部長。

 

 ―――どうか、"我々の側"についてはくれないか。共に、君の兄弟達の無念を晴らそう。

 

 懐かしい、記憶だ。

 ほんの1年前の筈なのに、どこか遠い昔のことのようにすら感じる。

 あの後、共和国軍はどうなったのだろうか。果たして、彼女は兄弟達の誇りを護り通してくれたのだろうか。

 今は全て、遥か遠い彼方の過去。

 記録すら残っていない今となっては、確かめる術すらない。

 

 だから俺は―――この新しい家に全てを捧げる。

 あの自然体でありながら何処か危うげな少女の艦長、博麗霊夢。彼女が今の俺の主。彼女は"もう軍人でなくていい"とは言ってくれるが、生憎刻み込まれたこの性分が消えることはないだろう。必要ならば、犠牲になることも厭わない。

 全ては、この新たな家――『紅き鋼鉄』の為に。

 

「…………エコー、ブロック98に敵が侵入した」

 

「わかった。3分で支度する。ファイヴス、お前は機動歩兵(ドロイド)共を準備してくれ」

 

「了解だ。急げよ、エコー」

 

 けたたましくアラームが響く。

 携帯端末には、警告画面と情報の嵐。

 

 やれやれ、一難去ってまた一難か。あの可愛い艦長さんの為にも、一肌脱ぐと洒落込もう。

 

 アーマーに袖を通し、銃を手に取る。

 馴染んだ改造型フェーズⅡヘルメットを最後に被り、準備は万端。

 

「行くぞ、ファイヴス」

 

「ああ」

 

 

 

 いまや、二人だけの海兵隊。いや、第501大隊。

 迎え撃つは、幻想少女を象った偽りの幻影。

 遠い未来、遥か隣の銀河系。

 共和国の旗が燃え付きようと、兵士の伝統は喪われず。

 いまや僅となったクローン・トルーパーの誇りを胸に、彼等は幻想に立ち向かう。

 

 彼等が死霊桜の幻影と対峙するのは、その僅か後のことだった。

 

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