夢幻航路   作:旭日提督

101 / 109
第九五話 艦隊再建

 ~臨時旗艦〈ネメシス〉会議室~

 

 

 宇宙漂流に巨大船の発見、オーバーロード、そして予想外の知人の訪問と、ここ最近は色々な出来事がありすぎた。―――当面の目標は決まったからいいものの、未来は決して良いものではない。これらの要素は、誰が想像しても分かるぐらいに、私達を混迷の渦へ引き込むことを示唆していた。唯一私にとっての希望は、魔理沙や紫と再会できる可能性が見えたことか………だけどそれも、アリスがあんな形で接触してきたことは逆説的に向こう側からの物理的接触が難しいことを裏付けている。………彼女達と会えるのも、当分先のことになるだろう。

 

 そして今日は、その"当面の目標"である移民船と艦隊の復興に見通しがついたという話だった。いつも通り、会議の音頭はサナダさんが取ることになっている。私の仕事は最終的に判子を押すだけだから、大人しく説明が始まるのを待っていた。

 

 準備を終えたサナダさんは席を立って、プロジェクターを起動してホログラムを映し出す。同時に部屋の明かりが落ちて、いつものように会議が始まった。

 

「では艦長、始祖移民船の復興の件についてだが、知っての通り概ね見通しがついた。この宙域から移動できるようになる日も、そう遠くはない」

 

 最初の言葉は、挨拶のようなものだ。どうせサナダさんのことだからすぐに本題に入るだろうと思って、私は単刀直入に彼に尋ねる。

 

「それは朗報ね。で、どれくらい掛かりそうなの?」

 

「うむ。母船の機能は大部分が生きているから、航行可能状態に持っていくことはそう難しいことではない。あと一週間程度あれば、始祖移民船の試験航行には乗り出せるだろう」

 

「今まで維持してきた私に感謝して下さいね?艦長さん」

 

「分かってるわ。………で、あんたはいいの?あのフネを私達が使っても」

 

「はい、勿論ですよ~。………ただし、交換条件はちゃんと守っていただきますけどね」

 

 彼女、始祖移民船の統括AIであるブロッサムはいつものように挑発的な笑みを浮かべていた。

 最近彼女の姿を見ていないと思ったら、どうもマッド共と一緒に修理作業に勤しんでいたらしい。元々高性能AIを自称するだけに、彼等とは気が合うのだろう。

 

 ――彼女が提示した条件とは、"完全に自分の制御下に置ける戦艦クラスを一隻譲渡"と"義体の提供"の二点だ。………前者の要求は怪しさプンプンだけど、まぁ戦艦一隻くらいなら何とかなるでしょう。後者に関しては、サナダさんの義体技術に感銘を受けた結果らしい。元々義体のようなものは持っていたと思うのだが、それよりサナダさんが作ったやつの方が優れた点もあるということらしい。………そういえば、あいつ時々早苗の体をまじまじと観察していたけど、そういう意味だったのね。

 

 まぁ、この程度の要求であの始祖移民船団が丸々手に入るなら安いものだ。幸い母船のバイオプラントは維持されているので食糧生産も可能だし、資源もあるから艦隊の再整備もできる。これだけの優良物件を手に入れられるとは、正に僥倖だ。

 

 ―――あいつの性格を考えると、何か裏がありそうで怪しさはプンプンするけど。

 

「それで復興計画についてだが、調査の結果、母船以外にも数隻利用できる艦船が見つかった。軍艦及び各種兵器を整備、製造する工場艦が五隻、食糧生産プラント艦が一隻、海洋環境艦一隻が現在も稼働状態にあるらしい。これらの艦は最低限の整備で動かせるらしいから船団に加えたいと思うのだが、どうかな?」

 

「それでいいわ。艦隊も復興しなくちゃいけないんだし、大マゼランにもそう簡単に辿り着けそうにない現状じゃあ、足場を固めるのが先決だと思うからね。だから船団の復興計画については、あんた達に一任するわ」

 

「うむ、了解した」

 

「それなら任せて下さい☆」

 

 船団については、元から統括AIだったブロッサムの方が詳しいだろうし、なんだかんだでマッド共も乗り気だ。にとり達は既に〈アイランドα〉に乗り込んで色々やっているらしい。……最近あいつらの顔も見えないと思ったら、そういうことか。―――なにも騒ぎを起こしてくれなきゃいいんだけど。

 そして移民船そのものについても部品さえあれば管理ドロイドが破損箇所の修理をしてくれるらしいし、工場艦が復帰したら資源から部品を製造することも出来るようになる。母船でもある程度の工場能力はあるから、復興作業は比較的スムーズに進みそうだ。

 

 ………ブロッサム先生(自称)の態度は不安だけど、まぁ何とかしてくれるでしょう。

 マッド共と気が合うなら、騒ぎはすれど裏切りはしない筈だ。(その"騒ぎ"のレベルが心配なんだけど……)

 

「そして次は艦隊の再建についてだが、暫く旗艦はこの〈ネメシス〉でやり過ごすとしてもやはり護衛艦艇は必要だ。工厰艦の修理が完了次第取り掛かろうと思うのだが、どうかな?」

 

「それで良いわ。ここまで目減りしちゃったんだから、こっちもいつかは建て直さないといけないんだし。そもそもオーバーロードのことを考えたら、戦力なんて幾らあっても足りないぐらいよ」

 

「そうですねぇ~。だとしますと、どのフネを量産するかですね。整備効率なんかを考えたら、できるだけ同型艦を揃えたいですし」

 

 早苗の提案に対して、私は心の中で頷いた。

 

 ヤッハバッハ戦で壊滅する前の艦隊は遺跡で発掘したデータ由来の艦艇の他にエルメッツァ・スカーバレル系統の艦、カルバライヤ系統、ネージリンス系統の艦なんかが雑多に集まった艦隊だった。艦隊を増強するときは整備面はあまり考えずに戦力価値だけで図っていたから、いざ運用してみるとそれぞれの系統ごとに違う部品を要求されたりで苦労した記憶がある。だから艦船の系統を統一するという案には賛成だ。

 

「それは私も考えていたことだ。確かに我々の艦船は優れた性能を持つ。だがそれは小マゼランでの話であって、大マゼランでも一線級の艦艇は限られている。改造スカーバレル艦の系統を取っても小マゼラン艦としては突出して高い性能にあると自負できるが、大マゼラン艦には幾つかの性能で互角という程度でしかない。それに艦隊を構成していた艦艇のベースは殆ど小マゼラン艦だ。これを機に、配備する艦艇を一新するべきだろう」

 

「話の方向はまとまったみたいね。なら、どの国の艦艇をベースにするかだけど………」

 

「霊夢さん霊夢さん、やはりここは遺跡からの発掘艦艇で統一しましょう!」

 

「さ、早苗……?」

 

「やっぱり古代兵器ってそれだけでロマンだと思うんです!この時代にはない幻の艦隊ですよ!?興奮するじゃないですか!どうですか霊夢さん!!」

 

「ど、どうって言われても………」

 

「分かってるじゃないですかぁ緑色。やっぱりロマンですよねぇ~。あ、そういえば私のデータベースに昔の艦の設計図とか入ってるんですけど、どうします?使っちゃいますかぁ~?」

 

「えっ、本当ですか!?それなら是非是非!」

 

 ―――駄目だ、こいつらのノリについていけないわ……

 

 いきなり我を全面に押し出すように遺跡艦艇をプッシュしてくる早苗を扱いかねていると、ブロッサムの奴まで悪ノリするかのように……というか悪ノリして話に混ざってきた。まさかこんなところでこの二人が協力するなんて。普段は水と油みたいに犬猿の癖に。

 こいつが混ざってやらかすと、碌なことになりそうにないんだけど………

 

 彼女達二人の態度に、頭を抱えた。

 

 今更でもないが、この早苗を紫色にして100倍濃縮したような破綻AI、性能はともかく性格が絶望的なのだ。カオスの権化である。

 

「はーい、毎度ありー♪ちなみに使用料は一タイプにつき10000Gでお願いします♪」

 

「金取んの!?ってか高ッ!!」

 

「ちょ………何ですかそのボッタクリー!」

 

「うふふふっ、当然じゃないですかぁ~~。ロマンの古代艦艇ですよ?これぐらいして当然です♪」

 

 コイツ、別途使用料金を請求するなんて、河童並にがめつい奴じゃない………。この調子だと、工厰艦の使用にもボッタクリ料金吹っ掛けてきたりなんかしないでしょうね?悪徳商法は退散よ!

 

「話の方向が決まりかけてる中で申し訳ないが、遺跡艦艇だけというのはどうかと思うぞ」

 

 ………と、話がろくでもない方向に向かい始めたところで、半分蚊帳の外になっていたサナダさんが介入してきた。ブロッサムは露骨に嫌な顔をしてそれを非難する。

 普段は混沌(カオス)サイドのこいつだけど、それを上回るカオスの権化がいる状況では頼もしい味方に見える。助けてサナえもーん!

 

 ………ところでサナえもんだと、サナダさんか早苗かどっちなのか分からなくなるわね。………まぁいいや。

 

「はぁ?この私が提供する完璧な艦船では駄目だと―――そう言いたいんですか?」

 

「まぁ、直訳するとそうなるな」

 

「それは残念です………貴方も同志だと思っていたのに………しくしく、私悲しいです」

 

 サナダさんにボッタクリ販売プランを粉砕されたブロッサム先生はあからさまな嘘泣きを始める。可愛らしく泣いたところで私の心には響かない。

 サナダさんの心にも当然響かなかったみたいで、淡々といつものサナダさんタイム(解説)が始まった。

 

「それは済まない。だが今後を考えると、古代兵器由来だけでは整備面に支障を来す恐れがある。それでは本末転倒だ。何せ古代艦艇の部品は現代の宇宙港では入手不可能だからな。私がしたように現代規格に適合させる手もあるが、やはりオリジナルの部分は残る。昔は少数精鋭だったからいいものの、量産するとなったら話は別だ」

 

「えっ、ですけど部品なら工厰艦が使えるようになったら問題ないんじゃ………」

 

「そうですよ!私の工厰艦ならどんな部品も製造できます!そんな批判当たりませんよーだ」

 

 サナダさんの反論に対して早苗とブロッサムからシュプレヒコールが飛び交うが、彼はそれも意に介さず淡々と解説を続ける。

 

「確かにそう考えることもできるが、問題は航海中だ。当然一般の宇宙港ではそんな部品置いていない。だから補充部品は予め詰め込んでおくことになるが、それも予想外の事態や大規模な損傷で枯渇、紛失しないとも限らない。そうなったら作戦遂行能力に支障が出る。独自部品はあっても構わないといえば構わないが、長距離作戦能力を考えるとできるだけ減らしたいというのが設計担当としての意見だな。加えて我々は、オーバーロードにも対抗しなければならない。たかが一0Gドックに何ができるのかはこの際考えずとも、戦力はやはり多い方が良い。ならば、できるだけ低コストで調達、運用できる艦が望ましいのは言うまでもないことだ」

 

「成程ねぇ………なら、私もサナダさんと同意見かなぁ。できるなら部品は安くて補充しやすい方がいいもん。艦隊経営とか大変だったし、早苗も色々手伝ってたんだからそこは分かるでしょ?」

 

「ううっ………確かにそうですけど……やっぱりロマンが………ああでも霊夢さんにあまり負担をかける訳にもいかないですし………」

 

「ちょっと緑色!なに日和ってるんですかー!お前もかブルータスな気分なんですけど!」

 

「え?いつから私が味方だと思ってたんです?趣味は確かに似ているかもしれませんけど、大体貴女私達にボッタクリ料金提示したじゃないですかぁ。それなのに味方だと考えていたんですかぁ~?フフッ」

 

「なっ………言ってくれますね緑色の……!」

 

 ………よし、成功だ。

 

 元から早苗とブロッサム先生は仲が悪い。キャラ被りしててお互い煽り合う関係だから、罅さえ入れてやれば急ごしらえの統一戦線なんてあっという間に瓦解だ。

 それに早苗は元々私のことを好いているみたいだから、私がサナダさんの方に転んだら葛藤するにしても最終的には私の方にきて3対1だ。これで悪徳破綻AIのビジネスプランを葬り去れる。何せ過半数を抑えたも同然だ、選挙なら勝てるって偉い人が言っていた。

 

「ふむ。では決まりだな。では手始めに建造する艦艇はできるだけ大マゼラン諸国の規格に合致したものとしよう。………なに、その間遺跡由来の艦艇の改設計も進める。単に順序の問題なのだよ、余裕のない今はあまり贅沢なことは言っていられないからな」

 

「まぁ、それなら妥協できますけど………」

 

 珍しく浪漫を粉砕したサナダさんだけれども、浪漫への道筋をちゃっかり残しておく点はやはりマッドらしいと言えばマッドらしい。

 ―――そういえば、こいつのモットーは"使えるものを作る"だっけ。実利を取りつつも浪漫も同時に追及する、というのがサナダさんの立ち位置だった。やることは頭痛の種だけど、その発明品が使えるものだけに、やはりサナダさんを無下にすることはできない。………その過程で産み出される膨大な産業廃棄物と予算の虚偽申告に着服は別途、追及させてもらうけど。

 

「さて、そうと決まったら"どの国の規格に合わせるか"が重要だな。」

 

「規格?」

 

「ああ。大マゼランとはいっても、そこには複数の国家が存在する。それぞれの国ごとに当然仕様は異なるから、どの国の仕様を取り入れるかは慎重に吟味したいところだな」

 

 なるほど、どうやら向こう側も小マゼランのように国ごとで仕様が異なるらしい。私としては、できるだけ安くていいフネを大量生産できる仕様が好ましいのだけれど………

 

「へぇ………なら、とりあえずその、各国の仕様の違いってのをまず聞かせてくれない?」

 

 このあたりの知識は、完全にサナダさんの専売特許だ。餅は餅屋に、専門的な情報を持つ人に聞くのが回答への近道。というわけだから助けて、サナえもん。

 

「うむ。大マゼランで広く普及している艦艇は大きく分けて4カ国の系統に別れる。順を追って説明するぞ」

 

「まず一つ目はアイルラーゼンだ。我々がヴィダクチオ自治領の戦いやマゼラニックストリームで共闘した国だな。この国の艦船の特徴は、何といっても長射程のリフレクションレーザーにある。この兵装の特徴は、1サイズ上にあたる通常のレーザーと同程度の有効射程を持っていることだ。そのため遠距離砲戦での制圧力に優れ、ビームの収束率も総じて通常のレーザーに勝るため、貫通力の面でも優れた兵装だ。ただし欠点として、この兵装を搭載するために艦の拡張性が若干損なわれている点があるな。この武器システムは多大な容量を必要とするため一般的な武装のようにモジュール化するのが難しい。なので予め艦の設計に組み込まれているのだが、それが原因で艦船設計の柔軟性は他国艦船に劣ると言わざるを得ない。そしてもう一点、欠点として複雑な艦体機構が挙げられるな。この国の艦船はやたらと分離機能を付けたがるが、それが原因で必要とされる専用部品の割合が高い。確かに戦場におけるサバイバビリティの向上や戦術の幅が広がるという利点もあるが、無人艦隊前提の我々では前者の利点は全く役に立たず、後者も艦の耐久性とトレードオフという点を考えると一長一短だ。私から見たアイルラーゼン式艦艇の利点と欠点は、こんなところだろう」

 

 サナダさんは淡々と、早口でアイルラーゼン艦船の特徴と、それらに対する評価を述べる。

 彼は確かに天才だが、選定に当たっては他の機械オタク(マッド)共の意見も参考にしたいところだ。だが肝心の彼女達は新しいオモチャに夢中でこの場には居ないので、サナダさんの評価を元に判断を下さなければならない。

 

 話を聞く分には、アイルラーゼンの艦船は性能が悪い訳ではなさそうだけど、うちで導入するには余分な機能が多いというのが印象だ。だけど、判断するには他の国の解説も聞いてからの方がいいだろう。一旦保留。

 

「次は……ネージリッドだな」

 

「ネージリッド?」

 

 サナダさんは続いて、二つめの国の説明に入る。

 

 が、既視感のあるようなその名前に、頭の片隅が引っ掛かるような感じを覚えた。何処かで聞いたことがあるような気がするが、何となく違うような気もする。

 

「艦長が既視感を覚えるのも無理はない。この国は、小マゼランにあったネージリンスの源流にあたる国だからな」

 

「ネージリンス………ああ、道理で。何処かで聞いたことがあるような名前だと思ったわ」

 

 ネージリンスとネージリッド……うん、確かに響きは似ている。両者の関係性を窺えるぐらいには、発音の響きが一致していた。

 

「ここでは余談になるから詳細は省くが、ネージリンスはネージリッド人が小マゼランに移住して建国した国だ。だから、両国の技術的特性もよく似ている」

 

「ということは、ネージリッドも空母技術が発展しているんですね?」

 

「うむ、その通りだ。重力カタパルトや高性能な艦載機など、目を見張るべき技術はある。しかし、通常の艦船については良くも悪くも普通だと言うべきだな。汎用性は高いが、それといって特徴はない。ただ巡洋艦クラスまでなら設計図の入手難易度も低く、海賊に広く流通しているぐらいだ。我々もネージリンス製艦船を運用した経験があるし、技術や艦船を取り入れるとすれば一考に値する国だな。―――これは私個人の提案だが、最終的に基幹技術を他国のものに設定するとしても、重力カタパルトは何とかして取り入れた方がいいだろう」

 

 サナダさんが語った、ネージリッドの技術の概要は以上の通りだ。

 

 空母以外はこれといって尖った部分のない国だそうだが、ネージリンスと近しいこともあってこの国の艦船の運用には困らないだろう。技術体系が同じならある程度流用できる経験もあるだろうし、攻撃力は結局どの国を選んでもマッド共がどうにかしそうなので、あまり考える必要もなさそうだ。その点を踏まえると、中々魅力的な提案に見える。

 

「では次に行こう。三番目はエンデミオンだ。この国は…………まぁ、技術力については特徴がないのが特徴だな。艦船の汎用性は高いが、それだけだ。これといって尖ったものを持っている訳ではない。それ故に、0Gドックからこのの艦船は一定の需要を得ているがな。ほら、小マゼランにも居ただろう?エンデミオンの艦船を使っている奴が」

 

「えっと………誰だっけ」

 

 三番目に語り始めたのは、エンデミオンという国の艦船の特徴だ。

 サナダさんも何を話したらいいのか悩んでいるみたいで、前二つの国より話す速度も澱んでいる。

 ところで、そんな話を私に振られても、覚えていないものは覚えていない。元から関心なんて無いんだし。

 だが流石と言うべきか早苗は別なようで、サナダさんが挙げた例に心当たりがあったようだ。

 

「あー居ましたね!確か、ゼーペンストで遭遇した巡洋艦がそうでしたっけ」

 

「その通りだ。まぁ、アレは私の見立てでは相当に弄られていたみたいだがな。とまぁ、国の技術力自体はこんなものだが、かの国にはオズロッソ財団という優れた造船企業が存在する。この国の艦船が持つ高い汎用性も、彼等の技術貢献があってこそのものだな。低コストで入手しやすく、かつ弄りやすい。尖った部分こそないものの、逆にそれが利点とも言える。一考の価値はあるだろう」

 

 サナダさんは、そう言い切って解説を締めくくった。

 

 話を聞く限りでは、そう悪い選択では無さそうだ。攻撃力ならどうせマッド共が(以下略)………だし。時代は安さと汎用性なのよ。

 

「最後はロンディバルトだな。名前ぐらいは、艦長も聞いたことがあるだろう」

 

「えっと………確か、〈ブクレシュティ〉の基になった船を設計したとこだっけ?」

 

「その通りだ。結論から言うと、私はこの国の艦船設計を、今後の我々の艦船設計の基礎とするべきだと考えている」

 

「大胆ですねぇ。貴方が褒めるなんて、そこまでのものなんですか?」

 

 ヒュー、と口笛を鳴らしながら、ブロッサムの奴が彼に尋ねた。

 私もサナダさんがそこまで褒めるのは予想外で、理由が気になると言われたら気になる。

 

「以前にも何処かで話したとは思うが、ロンディバルト艦船の設計は高い拡張性と汎用性、そして豊富なバトルプルーフの蓄積に裏打ちされた戦闘能力にある。前者はネージリッドとエンデミオンも備えているが、後者はロンディバルトの特権だ。それ故に、稼働率といったカタログスペック以外の部分も非常に優れている。最近はあのオズロッソ財団も技術支援しているという噂もあるからな。その完成度は、非常に高いものになっているだろう」

 

 これでもかと言わんばかりに、サナダさんはロンディバルトの艦船設計を誉めちぎる。どこでそんな知識を手に入れてくるのかは謎だけど、そこまでサナダさんが誉めるのなら………と私の思考も引き摺られてしまう。

 

「加えて、我々には〈ブクレシュティ〉の運用、改造の経験がある。艦船設計や運用に関する知見なら、かの国が最も蓄積されていると言っても過言ではないだろう。それにロンディバルトは大国だ。それだけにこの国の艦艇も広く流通している。部品には、余程のことがない限り困らない。補給面も心配ないな」

 

 続々と、ロンディバルト艦船を採用したときのメリットが挙がる。それだけ誉められたら今度は逆に、何か欠点は無いものかと気になってしまうのだが、サナダさんが語った言葉にはそれらしいものは見当たらなかった。

 ………まぁ、〈ブクレシュティ〉を運用していてなにか困ったことがあった訳でもないし、欠点を洗い出すには充分な期間、彼女を運用している筈だ。その上でサナダさんはロンディバルトを推しているのだから、本当に大きな欠点は無いのだろう。

 

「…………よし、決めた」

 

「決めたって………何がです?」

 

「これからの艦隊再建の方針よ。ロンディバルトでいいわ。サナダさんがあれだけ推すんだから、それでいいわよ」

 

 私は即断で、決定を下した。

 

 アイルラーゼンは面倒くさいし、エンデミオンは特になし。ネージリッドとは一長一短だけど、やはりここは経験があるロンディバルトに軍配が上がる。

 

「感謝する、艦長。では早速、新造艦船の手配に取りかかるとしよう。期待して待っててくれ」

 

「はいはい、程々に期待してるわ」

 

「それじゃあ私も彼の手伝いがありますので、この辺りで失礼しますね~」

 

 サナダさんは早速、艦船設計のためか、席を立ち上がってそそくさと部屋から出ていってしまった。ブロッサムの奴も、最後にそれだけ言うとサナダさんと一緒に部屋を出ていく。

 

 会議室には、暇を持て余した私と早苗だけが取り残された。

 

「………良かったんですか?あれで」

 

「いいも何も、私は専門家じゃないんだし、ただ話を聞いて判子を押すだけでいいのよ。詳しい人に任せた方が、何事も上手くいくものなのよ。素人の浅知恵なんて、所詮付け焼き刃でしかないんだから」

 

「それはそうですけど………」

 

 早苗は何処か不満げに、あっさりとサナダさんの案を承認した私をじーっと見つめていた。

 

「―――もしかしたら、遺跡船艦隊のロマンを潰された怒りとか?」

 

「……そんなんじゃないですよーだ」

 

 ぷい、と顔を背ける早苗は、明らかに拗ねているように見える。早苗が拗ねる理由なんて、それぐらいしか思い付かないのだけど………

 

 そもそも、ロマンなんてあの移民船だけで充分だ。実用品にまでロマンを求められていたら、今は良くても本格的に再起したときのお財布の紐が危ない。狂った蛇口の如く、じゃぶじゃぶと電子マネーが溢れ落ちてしまうだろう。

 

 ………と、早苗への抗議を心の中で並べていたら、いつの間にか拗ねた彼女は何処かへ言って、品定めするようにじーっと私を見つめる彼女の姿があった。

 なにかを考えているのか、難しい顔をしながら若干眉間に皺を寄せている彼女の仕草は、なんだか愛玩動物を思わせられる。

 

 だけどコイツがそんな可愛い存在に収まる筈もなく、次の瞬間にはぶっ飛んだ言葉が彼女の口から吐き出された。

 

「そうだ霊夢さん!――――ここでいつもの!やっちゃいます?」

 

「いつもの?―――って、はぁ!?」

 

 いつものって、アレ?もしかして、ここで!?

 

「い、嫌よそんなの!部屋ならともかく、誰かが入ってくるような場所でだなんて」

 

 何を考えているのか―――と続けようとしたところで、ぐいっと身を乗り出した早苗に覆い被られて、耳元で妖しく囁かれる。

 

「………いいでしょう?霊夢さん。誰もいない会議室、残されたのは二人だけ。これで何も起こらない筈がありません。――――さぁ!観念して霊夢さん(の力)を私に捧げてください!!」

 

「いいも悪いも、そこまであんたに気を許した覚えは…………っ、ちょっ………ぎゃああああぁぁぁ!?」

 

 

 

 …………この煩悩巫女、いい加減何とかしないといけないかもしれない………




――しばらく霊夢は、早苗に口を聞かなかったそうな。

本作の何処に興味がありますか

  • 戦闘
  • メカ
  • キャラ
  • 百合

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。