剣技で桜が落とせたならば   作:阿部高知

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みんなおき太好き、はっきりわかんだね。

因みにウェイバーちゃんは第四次聖杯戦争終結後五年後には、既にエルメロイ二世という設定。エルメロイ教室を三年間続けた時点でライネスにエルメロイ派を任されているので、まあ無理があるけどまだマシかと。


第3話

 ――――――――五年前。

 

 

 

 

 

 英国(イギリス)の首都ロンドン郊外に存在する学園都市――――そこは魔境だ。常識からかけ離れた知識と人間が数多く点在する、世界から隔離された魔界。大規模な施設と敷地を誇るその学園都市を、彼らは『時計塔』と呼んでいた。

 認識阻害と人避けが刻まれた結界を越えて、時計塔の敷地内へ入る。周囲を見渡せばぽつぽつと学生の姿が見える。学園都市なのだからそれは当然だが、やはり人影はとても少なかった。昼前でまだ授業を行っているとしても、些か少な過ぎる――――否。此処ではこれが()()なのだ。彼らに友情を深めるような精神や信条は無い、あるのは自分を高めようという闘争心に似た欲求のみ。他人の研究の内容が全く判らない事すらざらにある世界で、昼食を共に食べる仲間が居る方が異常なのである。

 街の中に存在する商業施設さえ、従業員の一人一人に魔術の効果が及んでいる。外界との接触を断ち、内部だけで経済を回すようにした結果がこの大規模洗脳である。生涯を全うするまで彼らはこの街の異常に気付かないのだ。それが哀れと言えば哀れだった。

 表向きにはイギリスでも有名な学園都市、しかし裏では世間には公表出来ないような研究(神秘)を取り扱っている者共が集う巣窟なのだから、驚かざるを得ない。街全体を魔術の研究や保護の為に改造するのは良案だと思うが、規模が大きくなればなる程隠蔽は難しくなってくる。しかしそれでも西暦が始まってから今日まで、魔術という神秘が露見していないのは時計塔、敷いては魔術協会の影響力故だろう。

 なんせ神秘の漏洩を防ぐためなら、街ごと痕跡を消しかねない集団だ。そんな組織と敵対したいとは思わない筈。抵抗出来るのは同規模の組織(聖堂教会)や権力自体が通用しない狂人ぐらいだろう。それ程までに時計塔の力は圧倒的なのである。まさか、ロンドン市民も切り裂きジャックよりも遥かに恐ろしい存在が間近に生活しているとは夢にも思うまい。

 

 学園都市を探索する事三十分。一際大きな建物が正面に広がっていた。空を仰ぐようにそれを見た後、迷う事なく一直線に目的の建物へ入る。

 受付嬢(魔術師)の適当な挨拶を流して、上階へ続く階段を守っている警備員(魔術師)へパスポートを見せた。先代から引き継がれている、時計塔に所属している魔術師である事を証明するパスポートだ。書かれている学科は全体基礎科であり、結界と強化を修めている彼の家系に相応しい学科だった。

 警備員はパスポートに貼られている写真を確認し、パスポートに魔術による工作がされていないか確認した後、受付嬢を手招きして一つの瓶を持ってこさせた。中身は翡翠色に光る怪しい液体。彼は何の躊躇も無く指を風の刃で斬り、滴り落ちる血液を瓶の液体へ落とした。

 翡翠色に赤が混じった直後――――液体の色が青色に変わる。それをしっかりと確認した警備員は固定電話で報告を入れて、階段を開けた。普段は日本に住んでいるが故に確認しなくてはならず面倒だが、それも致し方なし。母国で勉強する方が何倍も効率が良いのだから。

 先程の液体は指定された血統を血液によって判別する魔術道具。登録されているものだったら青色に変わり、そうでない場合は橙色に変わる仕組みとなっている。

 

「ようこそ時計塔へ――――お待ちしておりました、Mrアスカ」

「私のような若造にそんな大層な事を…………それで、ロード・エルメロイ二世はいらっしゃいますか」

「勿論ですとも。さあ、此方へ」

 

 アスカと呼ばれた男、明日香鏡治(あすかきょうじ)は事務員に連れられとある個室を目指す。

 二十を過ぎたばかりの若輩である鏡治が丁重に扱われるのは、ひとえに彼の父である五代目が優秀だったからである。時計塔を隠蔽する結界を任され、固有結界に至ったとも言われた逸材――――それが五代目明日香だ。東洋の魔術師が重宝されるのは珍しい事であり、アオザキに匹敵する程の権力があったとか。位階は典位(プライド)と高く、彼が生きていた頃には所詮基礎魔術でしかない筈の結界がブームになったらしい。

 時計塔は家柄を大事にする貴族が集まっている。故に典位の子息である鏡治への対応も丁寧なのだ…………最も、田舎である東洋を嫌うロード達には嫌われているようで、この事務員が()()()()()()()()()()()()()()適当に扱われていた事だろう。

 

 時計塔の構造は至って単純――――アリの巣だ。倫敦の地下をどんどん掘り進めて今の時計塔が形成されている。地下に行けば行く程狂気度が上がって行き、取り扱う神秘の濃さも増える。言わば漏洩しづらくしているのだ。

 今回目指しているのは現代魔術科、別名「エルメロイ教室」だ。第四次聖杯戦争にて命を落としたケイネス・エルメロイ・アーチボルトの跡を継いだ、ロード・エルメロイ二世(本名をウェイバーと言った)が開いている教室。何でも教え子の中には位階を持っている者が居るとか。あまり時計塔の事情に詳しくない自分でも、思わず驚いてしまった。

 時計塔で位階を授かるのは相当な才能を持ったひと握りの魔術師のみ。そんな位階をまだ座学を修め切っていない教え子が授与される――――ロードエルメロイ二世の才能は計り知れない。成程、道理で祭位(フェス)を与えられている訳だ。

 

「ロードは此処に居られますが…………その、多忙故に手短にお願いします」

「判りました。案内お疲れ様です」

「ああ、それと一つ――――何故か伝承保菌者(ゴッズホルダー)が随伴しておりますので、怒らせないよう注意してください」

「伝承保菌者――――? まあ、判りました」

 

 適当な挨拶を済ませて――――エルメロイと書かれている看板を掲げた扉を叩く。

 ノックをして数秒後、「入れ」と言う渋い声を確認してから室内へ入った。既に自分が来訪しているという情報は伝わっているだろうが、ノックするのは礼儀である。そこら辺は英国紳士なら厳しいだろう…………まあ、ロンドンスターが英国紳士だとは思えないが。

 部屋に入ってまず感じたのは煙草の香りだった。市販のモノとはまた違う、自作の品だからこその独特の香り。喫煙者の知り合いが一人しか居ない鏡治にとっては煙草の違いは判らないが、臭いで品種が違う程度は判る。知り合いの喫煙者は希少価値の高い、職人手作りの品を吸っていたか――――。

 そう広くは無い部屋に、鏡治を含めて三人の人間が居る。一人は鏡治、一人は部屋の主であるロード・エルメロイ二世――――そして、スーツで男装している長身の女性。何処か見覚えがあるような気がしたが、純日本人である彼にとって外国人の違いはイマイチ判らないので思考を放棄した。いずれは自己紹介がされるだろう…………そんな思考停止にも近い考えに至った結果である。

 

「お初にお目にかかります。『典位』明日香鏡夜(きょうや)の息子、明日香鏡治です。よろしくお願い致します、ロード・エルメロイ」

「丁寧な挨拶ご苦労だが、ロード・エルメロイは止めろ。せめて二世を付けてくれ。只でさえロードの名は重圧だというのに、エルメロイまで付くと押しつぶされそうになる。それに――――同世代から敬語を使われるのは虫唾が走って仕方がない」

「いやあ良かった良かった。俺も位階が上とは言え、同世代に尊敬語使うのは吐き気がするからさ」

「幾らなんでも瞬時に適応しすぎだろ…………」

「私、鏡夜の息子ですから」

 

 暫く睨み合って――――不敵に笑い、お互いに握手を交わした。

 ロード・エルメロイ二世は日本人嫌いだと聞いていたが、英語を話せる者は別らしい。或いは先程の会話が面白かったのか。特に無粋な対応をする事も無く、鏡治とエルメロイ二世は手を交わす。あまり強く力を込めておらず、只添えるだけのような握手。魔術師らしいと言えば魔術師らしい非力さだった。

 

 ――――鏡治は知り得ぬ事だが、エルメロイ二世は明日香鏡夜に借りがある。

 それはまだ彼がウェイバー・ベルベットと呼ばれていた頃。ケイネスが運営していたエルメロイ教室にて、ウェイバーはケイネスと敵対していた。最も敵対していると思っていたのはウェイバーだけであり、ケイネスからすれば意識すらしていなかった視線だろう。

 三代目という歴史の薄いベルベット家出身のウェイバーは、血脈など関係無いという価値観を持っていた。しかし名門アーチボルト家出身のケイネスがそれを理解する筈も無く、ウェイバーの価値観を真っ向から否定。結果若かったウェイバーはケイネスを敵視するようになった訳だが――――唯一その価値観を認めたのが、明日香鏡夜である。

 東洋の田舎出身である鏡夜だからこそ、ウェイバーの思考は手に取るように判った。その思想に共感し共鳴した。彼自身はウェイバーよりも歴史の深い家出身だが、扱い自体はウェイバーとそう大差無い。味方は多いが敵も多い――――明日香鏡夜はそんな人間だった。

 自分の思想を認めてくれる相手を見つけて、当然だがウェイバーは喜んだ。鏡夜は講師故に対話する時間は少なかったが、それでも青々しい会話には心躍ったものだ。

 

 当時の経験を思い出して、思わずエルメロイ二世は苦笑する。今となっては苦々しい記憶だろうと――――かなり有意義なものだった。

 故に。鏡治の()()を聞いたのも、その時の恩義があったからだろう。

 

「ロード・エルメロイ二世だ。あの忌々しい義妹が居ない今では本名を名乗りたいが、エルメロイを背負った以上此方で名乗らせてもらう」

「よろしく二世」

「よろしく――――それで、此方が」

 

「バゼット・フラガ・マクレミッツです。一応貴方の先輩に当たるのでしょうか」

 

 エルメロイ二世の手招きと共に、男装の麗人は自己紹介を始めた。

 バゼット・フラガ・マクレミッツ。フラガは確か神代から続く田舎の名門だったの記憶しているが、その末裔が時計塔に居るとは驚いた。フラガ家は時計塔の権力争いを避け神代の武器を守り続けている――――そう鏡夜は言っていた。そんなフラガ家の令嬢が時計塔に通っているとは…………はっきり言うと意外だったりする。

 宝具を護るのが使命である彼らが、外部に身内を出す理由が無いからだ。それはフラガ家の衰退を表している。時計塔に頼らければならない程、フラガ家の血脈は薄くなっているらしい。

 しかし神代から続く血脈は、薄くなろうと尋常ではない神秘が宿っている。魔術回路も段違い。ルーン魔術も堪能で、稀代の人形師以上の練度を誇るとか。一度手合わせを願いたいものである。

 先程の挨拶で、彼女は自身の事を()()と名乗った。つまり――――

 

「――――執行者への要望が、通ったのか」

「…………まあ、な。本来自分から望んで執行者になるような馬鹿者は百年に居るか否からしいが、見事に君はその百年に一度の人間に選ばれたらしい」

「私も最初は驚きましたが、ロードに許可が出たとは言え気安く話し掛ける辺りに納得しました」

 

 執行者。簡単に言えば魔術協会が定めた封印指定を捕らえる役職だ。

 封印指定の魔術師が神秘を漏らすような事態を起こした際、彼らは派遣され()()()()封印指定を捕らえる。聖堂教会からの代行者や妨害を退け、生きた状態で回収する――――それを果たす為に必要とされるのは魔術師としての気質ではなく、戦闘力だ。

 自身の鍛錬の為…………などと言う執行者に任命されたものが聞けば憤死しかねない理由で立候補した鏡治だが、どうやらエルメロイ二世の後押しや父の名声の御陰で無事に任命されたようだ。

 …………まあ、彼がここまで簡単に選ばれたのには理由がある。執行者は体のいい便利屋と呼ばれる程度には過酷だ。研究に没頭したい魔術師からすれば面倒以外の何物でもない。故に人気が無いのだが…………自分から志願するような馬鹿がいるのなら、利用しない手はない。

 そんな経緯があって鏡治は選ばれた。無論本人の戦闘能力も高いのだけれど――――。

 

「と言ってもあくまで候補だ。実際に出動した際の功績で、本当の執行者と認められるらしい」

「成程――――了解した」

「丁度最近、封印指定が起こしたと思われる事件が南米の方で起こっています。恐らく近日中に出動することになるかと」

「それは良い。ならこれからよろしく、先輩?」

「…………普通にバゼットで良いです。貴方に敬語を使われると違和感がある」

 

「……………………。よろしくバゼット」

「ええ。よろしくお願いします、キョウジ」

 

 

 苦笑を浮かべてバゼットの手を握る。その力強さはエルメロイ二世よりも遥かに高いものだった。

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

『――――――――はい、此方伽藍の堂です。本日は依頼等は受け付けておりませんので、また後日連絡をお願い致します』

「ん、ああ…………橙子か。口調が違い過ぎて別人かと思った」

『見知らぬ番号だと思ったら鏡治(きょうじ)だったか。それで何だ、依頼なら先程言った通り受け付けていないぞ』

「俺だと判ったら人格替えるの辞めてくれませんかねえ」

『仕方ないだろう。お前と対話する時は常に眼鏡を外しているし、此方の方が()()()()()()()のだから』

「まあ俺も慣れている方が話しやすいけどさぁ。つまり、俺に素を見せたいって事か?」

『…………まあ、そうなるな』

「キャートウコちゃん可愛いー」

『切るぞ』

「待った。悪い、悪かったからそう拗ねるな――――もっと好きになる」

『…………思ってもいない言葉がよくもまあスラスラと出てくるな』

「無駄に女性経験はあるからな」

『ふん、女の敵め』

「ある意味褒め言葉だよ」

 

『まあ良い…………それで、用件は何だ? 只の世間話だったらさっさと切るぞ』

「いやな、遺物の件だ。加州清光を送ってくれてありがとう」

『そんな事か。お前が私に依頼し、私がその依頼に応えた。ただそれだけの事だろうに』

「俺も普段なら連絡しないんだが――――もしかしたら、()()()()()()()()()()()と思ってな。感謝の意ぐらいは伝えてから死のうかと」

『縁起でも無い事を言うな。お前にはこれからも伽藍の堂を支えてもらわねばならん』

「…………完全に金を毟る気満々だよな? ええ? 毎回大金を落とす俺から毟る気だろお前」

『ハハハ、馬鹿な事を――――心配しているのは本当だ。まあ最も、お前が死ぬかと言われれば応とは言えんがな』

「別に不死身って訳じゃないんだがな――――単純に生存能力が高いだけだ」

『それが戦士に必要な最優先事項だろう? 高い戦闘力でもなく、優れた技術でもない。真の戦士に必要なモノは()()()()()()()()()()だ。例え一度は敗退しようと、次に勝てば良い。何処かの軍人も言っていたな――――帰ろう、帰ればまた来れるから、と』

「まあ執行者なんてやっていれば嫌でも生存能力は上がるよ。死人を傀儡に変える魔術師と戦った時なんて、四方八方敵だらけ。その中で封印指定を()()()捕らえなければならない。おまけに敵対勢力(聖堂教会)も居た…………聖堂教会の神父の力を借りてようやく打破したぐらいだからな」

『神父が協力したのは興味深いが、やはり執行者は人外ばかりだな。まともに(封印指定)が相手しても敗北するだろう』

「稀代の人形師が何を言っているのやら…………それに、お前が死んでも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

『それもそうだが』

 

「それでまあ、話を戻すけど――――加州清光が思った以上に素晴らしくてな、五百万程度じゃ報酬不足だろうから、追加で送る事にした。何かリクエストとかある?」

『そうだな…………ならば令呪を一画貰おうか』

「切るぞ」

『冗談だ。いいか、切るなよ? 絶対に切るなよ…………ふぅ。わざわざ送らなくてもよいのだがな…………まあ好意はありがたく受け取っておくとしよう。強いて言うなら――――

 

 ――――お前が無事に帰って来るのが、追加報酬だ』

「…………………………橙子も、結構クル台詞を吐くよな。目の前に居たのなら抱きしめたいぞ」

『仕返しだ。…………全く、言った此方が恥ずかしいぞ…………』

「……………………………………」

『……………………………………』

「お互い痛み分けって事で、そろそろ切るか。電話受信されている可能性もあるしな」

『了解した。それでは――――()()()

「…………ああ、()()

 

 

 

「はぁ――――生き残る理由が増えてしまった」

 

 受話器を置いてそう呟く。頭を掻き毟りたくなった。

 聖杯戦争は()()()()だ。名目上は魔術師らしく魔術戦となっているが、聖杯を手に入れる為ならば手段すら問わない外道すら出てくる。恐らく正面からの魔術戦など起こる方が珍しいに違いあるまい。

 殆どの死合が闇討ちや不意打ち、罠を張った状態での一方的な戦闘になる。自分を除く全員が手加減無しの戦闘を仕掛けてくる状態で――――弱気な発言をすると、自分が生き残れるか判らなかった。

 戦闘経験は執行者時代に嫌という程積み、魔導経験も生きた瞬間から重ね続けている。自信と実力は備わっているつもりだが…………それを覆す事の出来る存在を知っている。英霊(サーヴァント)共からすれば神秘の薄いこの時代に産まれた自分なんて、そこらの雑兵よりも弱いのだろう。

 まあ、勝てるかどうか判らないのはサーヴァントと敵対した場合だ。マスター戦なら確実に勝てる自信がある。音を立てずに相手へ近付く歩法“絶歩”からの一撃――――この流れなら現状判明している敵対マスターの殆どを葬る事が出来る筈だ。アインツベルンとバゼットには通用するか怪しい(特にバゼットには手の内がバレている。此方も同じだが、バゼットの宝具は初見だろうと既知だろうと関係ない)が、沖田と共に仕掛ければ問題あるまい。

 

「おーい、おきたー。団子でもつまんでいかないかー?」

「あ、はーい。すぐ行きます」

 

 縁側まで移動してから、屋上で霊体化しつつ監視を続ける沖田へ声を掛けた。

 音も無く傍に現れ、お盆からみたらし団子を一個取り頬張る姿は可憐そのもの。年相応の可愛らしさとでも言おうか、思わず愛でたくなる。桜を連想させる彼女がみたらし団子を食べる姿は、正しく大和撫子。気品さと優雅さに溢れていた。

 これが俺の召喚したサーヴァント、アサシンのクラスにて現界した剣士――――沖田総司。史実では新選組一番隊隊長であり、男性と言われていた筈だが…………どう事実が曲解したのか、召喚された沖田は女性だった。大方沖田総司のイメージの一つである「美形で色白な好青年」は女性の顔付きや白い肌から来ているのだろう。

 召喚した当初は女性である事に驚いたが、所詮はそれだけ。実際に刀を交わせば性別を超えた実力がしっかりと見れた。スキルも宝具も申し分無い、自分に相応しいサーヴァントだ…………まあ、彼方が満足しているかは判らないけれど。

 縁側に腰を下ろし、もきゅもきゅと団子を頬張る沖田をなぞって三色団子を食べる。もちもちとした食感や喉触りが素晴らしい。それと共に飲む抹茶こそ至高の一品――――単純故に究極の組み合わせだった。

 

「やっぱり甘味は素晴らしいものです。京に居た頃も仕事の合間によく甘味処で食べていました」

「へぇ、ここ数日ずっと見回り見回りばかり言っていたから一日中仕事するような真面目だと思っていたけど…………案外、その辺りは普通だな」

「うぐっ…………。まあ、京都も一日中物騒という訳では無かったので。昼間の内はあくまで偵察や諜報、夜間に襲撃が基本でしたからね。昼間にするのは見回りぐらいでして、それも時間交代だったので、その隙に甘味を頂いていた――――という訳です」

「何と言うか、女子らしい」

「そうですか? イマイチ女性らしさというモノは判りません」

 

 団子で頬を膨らませる姿は可愛らしいというのに…………本人にその自覚が無いのだから残念だ。

 茶を啜りながら思う――――まともに聖杯戦争をしていないなあ、と。一応沖田を召喚してから数日の間に新都や深山町へ使い魔は放っており、設置物に偽造された感知型のマジックアイテムも張り巡らした。サーヴァントのような高貴な霊格を感知すれば魔力を飛ばし、受信元である俺に来るようになっているが、少なくとも設置してから一度も魔力が飛んできた事は無い。

 破壊されていないのは明朝直に確認している。つまり現在サーヴァントを召喚しているマスターは少ないのだ。只穴熊を決め込んでいるだけかもしれないが、それはそれで都合が良い。此方にも準備期間はある方が、おまけに長い方が良い。

 姉妹館の掃除とか、男に任せる仕事じゃないでしょ。断らない俺も俺だけど。

 

「おや? 何見ているんですか、マスター」

「ああコレ――――聖杯戦争に参加するであろうマスターを纏めた表」

「ちょっと見せてくださいよ。どれどれ…………ほう」

 

 団子も食べ終わり茶も飲み干した。一息吐いた所で改めて対策を練ろうとした所で、沖田が顔をずいと寄せて来る。くせっ毛が鼻に当たり何とも言えない芳香が覆う。それは決して不快ではなく、寧ろ女性らしさを感じさせる甘美なものだった。

 手元にあるリストには、時計塔の知人やエルメロイ二世に調べてもらった成果が綴られていた。自分を除くと五人のマスターの情報が書き綴られている。五人の内の一人は見知った人物なので除外しても、既に四人の情報を得ているのは相当なアドバンテージになる。

 

 三人は聖杯戦争の基盤となった御三家――――アインツベルンのホムンクルス(名称不明。情報が少な過ぎる)、時計塔でも有名だった遠坂時臣の娘遠坂凛、他の二家に比べれば影の薄い間桐臓硯だ。

 アインツベルンは只でさえ引き篭っている上に、まともに情報が無い。どうやらよっぽどの()()()()を投入してくるらしい。遠坂凛は何度か時計塔を訪れているので情報が多く、何よりエルメロイ二世と関わりがある故に魔術属性までもが漏れている。最も、二世も自身の生徒の情報は容易く教えてくれなかったが。間桐臓硯も情報は少なく、第三次聖杯戦争に参加した際は蟲を使用したらしい。数での暴力が懸念される。

 後一人は中東の石油王の息子、アトラム・ガリアスタ。練度自体は若い遠坂凛と同等だが、財力に物を言わせて超特大級のサーヴァントを召喚してくる可能性がある。時計塔の知人が察知した情報では竜殺しの英雄の聖遺物を捜していたらしいが断念。同じく竜関連の聖遺物を捜索しているらしい。竜――――と言えば幻想種の最上級。それに関連するサーヴァントなのだから、手綱を握るのは大変だろうが強力な力を有するに違いあるまい。

 そして五人目がバゼット・フラガ・マクレミッツ。背中を預けた戦友にして今回の同盟相手だ。戦闘能力は心配していないが、召喚するサーヴァントが気になる。契約でサーヴァントの真名については尋ねない事になっているが、いずれ戦わねばならぬのだから調査はする。何でもケルト神話に関連する聖遺物を準備した、との事だが…………ケルト神話を始め、神話を基準とした英雄は多すぎるから困る。有名なのはクー・フーリンやフィン・マックールだが、別の英霊の可能性だって否めない。

 

「まあ()()()()()()()()んだけど。斬って殺せば良いだけだし」

「何を考えていたかは判りませんが、その考えには同意します。サーヴァントとて生者――――斬って命を断てば死ぬ」

「やべえ、気持ちが激ってきた。ちょっと打ち合わないか?」

「良いですね、私も食後の運動と洒落込みたい所でした」

 

 そうなれば刀を交わすとしよう。サーヴァントとの交流の為に、実力の把握の為に――――自身の研鑽の為に。

 いずれにせよ時間はある。その間に色々と準備を進めるとしよう。




執行者関連はガバガバ。独自設定ってことで許してくだしや。

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