鋼鉄の迷宮(アンダーエリア)   作:魔人ボルボックス

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第二章 未知の迷宮(アンダーエリア) —1—

 翌日の朝。

 

 雲がほとんど見られず、遮るものがなくなった朝日が、さんさんと下界を照りつける。大仕事の始まりの日としては幸先が良い。

 

 いよいよ今日から迷宮(アンダーエリア)探索が始まる。しかもただの迷宮ではない。未だ誰も足を踏み入れていない未知の領域だ。

 

 そんな迷宮に対する期待と不安を抱いているであろう冒険者たちを乗せる大型石車が、獣の咆哮のような駆動音をけたたましく轟かせながら、凹凸の激しい山道を走行していた。

 

 オルカは、その座席の一つに座っていた。

 

 全長約三メートル弱、細長い底辺の長さは約一五メートル。車内を外へ露出するタイプの造りであるその大型石車は、推進と同時にやさしい風を冒険者たちに送り届けてくる。

 

 目的地までは少し距離があるためと、レッグルヴェルゼ家が運転手ごと貸し出した数台のうちの一つだ。

 

 この車両より先に、すでに他の冒険者を乗せた別車両が目的地へと向かって走っている。この車両は最後の一台だ。

 

 そんな中、

 

(き……気持ち悪い…………)

 

 オルカは座席で彫像のように固まったまま、懸命に深呼吸していた。

 

 これから向かうのは、発見された迷宮のあるアンディーラ北側の山岳地帯だ。

 そこへ至るまでの道は非常に凹凸が激しいため、その場所を通るたびに車体がぐわんぐわんと大きく揺れるのは必然であった。

 それによって、オルカは「石車酔い」をしてしまったのだ。

 

 スー、ハー、スー、ハー…………新鮮な外の空気を必死で肺に蓄える。それだけが唯一の慰めだった。

 

 この石車が外へ露出するタイプで本当によかった。もしも閉じこもるタイプだったら戻していたかもしれない。

 

 ガタガタと車体と胃を揺られながら、横から横へ流れる景色を眺める。

 

 端々にはゴロゴロとした巨大な岩が埋まっており、地面は深い窪みと砂利だらけ。そんな坂道が蛇の通った跡のように遠く上まで続いているのを見て、オルカはがっくりと肩を落とした。まだ距離がある…………。

 

 オルカはなるべく酔いを誤魔化すため、遠くに大きく翼を開いて飛んでいる鷹を目で追う。いいなあ、ボクも飛べたらこんな思いはしなくて済んだのかなあ…………ヤバい、また気持ち悪くなってきた。

 

 そんな酔いを覚ます試みを考えては失敗したりを繰り返している間に、山道の頂上がだんだん大きく見えてきた。

 

 それはどんどん視界の割合を占めていき、やがてすぐ目の前となる。

 

 やがて到着――今まで斜め下に向かっていた引力が真下を向いた。平地になったのだ。

 

 戻さなかったことに、オルカはひとまず安堵。

 

 そして――目の前に広がる光景を見渡した。

 

 広大な焦げ茶色の大地の上には、小さな――だが人間よりもずっと大きな――岩山がいくつか立っていた。

 その土地の右端には、半身を岩石に覆われたドーム状の巨大な白い物体があった。

 その身をツタのように覆う独特の幾何学模様と、ぽっかりと空いた出入り口の存在から、ソレが迷宮であると確信する。半分を岩石で覆われているのは、掘り返されたばかりだからだろう。

 そしてそのドームの前には、大勢の人々――冒険者だろう――がワイワイと集まっていた。

 

 おそらく、あれが今日から潜ることになる未踏査迷宮なのだろう。

 

 エフェクターを撫でながら探索開始の時を今か今かと待つ冒険者たちを見て、オルカも『ライジングストライカー』に包まれた拳を我知らず握り締める。

 

 いよいよだ。いよいよ待ち焦がれていた時が訪れた。

 

 未だかつて誰も入ったことのない、謎という危険に満ちた空間。そこへ今日、足を踏み入れるのだ。

 

 中には、一体どんなゴーレムが待ち受けているのだろうか。

 

 自分の実力は、そいつらにどこまで通用するのか。

 

 そんな解決されない疑問ばかりが頭に浮かんでは消える。

 

「……ん?」

 

 ふと視界の左側に、オルカはあるものを発見した。

 

 その土地の左端にはドームと対をなすように、同じく幾何学模様の入った白い六角柱状の物体が地面から伸びていた。

 

 人間を超えるその大きさからして迷宮の入口かと最初は思ったが、ドームと違って人の集まりがない。全く関心の対象に入っていないようだ。

 

 なら、アレは一体なんだろう?

 

 だが、今回のメインはあくまで反対側にある迷宮だ。そう思考を切り替え、オルカは他の乗員の流れに乗って石車を降りた。

 

 落ち着いた歩調でドームまで歩み寄ってから、すぐにあるメンバーと遭遇する。

 

「……オル君?」

 

 マキーナをリーダーとして含めた、四人組のパーティだった。

 

 ドキン、と胸が高鳴る。だがそれは動揺のようなものであり、恋情では断じてない。

 

 彼女は自分を見とがめると、その凛とした表情を「にへらー」とでも擬音化できるほどの笑顔に崩し、

 

「おはよー。いい天気だね。絶好のお洗濯日和になりそうだよー」

 

 駆け寄って来て、そう自分に語りかけてくる。

 

 今度は胸がズキリ、とした。

 

 昨日の夜といい、なんでそんな笑顔が浮かべられるんだ。自分にされたことを忘れたとでもいうのか。

 

 記憶喪失か――いや、この娘は自分のことをしっかり覚えていた。「あの日のこと」だけを忘れるような都合のいい記憶喪失があるとは思えない。

 

 だったら、なんでそんな風に笑える? なんでなんだよ。

 

 不可解な気持ちは徐々に苛立ちのようなものへと変わり、

 

「……おはようございます、クラムデリアさん」

 

 昨日と同じ、他人行儀な返し方を自分にさせた。

 

 一瞬、マキーナはひどく表情を曇らせたが、すぐに取り繕うような笑みへと切り替えて返事した。

 

「う、うん。おはよ……」

 

 また心がズキリ、と痛んだ。

 

 彼女ともう同じ関係に戻らないと昨日決めたばかりなのに、そんなリアクションをさせてしまった事に対して負い目を感じている自分がいる。

 

 マキーナは続けて、やや申し訳なさそうな顔をしながら、

 

「え、えっと……昨日はごめんね」

「……なんで謝るんですか」

「だって昨日の夜、私が余計なこと口走ったから、オル君、大勢の前で笑い者にされて……」

「いいんです」

「え、でも……」

「あなたは悪くないです。ボクが身の程知らずの半人前だったから笑われたんです。だから気に病まないでください」

「オル君……」

「――そう思うんなら、とっとと依頼を取り消して、荷物まとめてアンディーラから出て行ったら?」

 

 刺を持った女の子の声が、割って入ってくる。

 

 声の主は、不機嫌を絵に描いたような顔をしたシスカだった。

 

 シスカは追い討ちとばかりに言い放ってきた。

 

「分かってんの? これから入る迷宮は、まだ誰も足を踏み入れたことのない伏魔殿よ。あんたみたいなアイアンの未熟者はハッキリ言って足手まとい。弱い奴のせいで迷惑被るのなんてあたいは真っ平御免よ」

 

 薄々感じていたが、彼女は自分の事をひどく嫌っているようだ。

 

 理由は分からないが、嫌われていい気分でいられる人間はほとんどいないと思う。オルカも彼女の刺々しい言い方も込みで多少傷ついた。

 

「まあまあ、そのへんにしておいてやりなよシスカ。経験積まなきゃ人は成長できないぜぃ。今はゴールドな君の姉弟子だって最初はアイアンだったんだぜ? そこから経験値稼いで今に至ってるんだ。それを知ってる人間が他人のそういうチャンスを潰そうとするなんて、ちといかがなものかと思うぜぇ?」

 

 そう、やや咎めるような口調を混ぜて言ってきたのはパルカロだった。

 

「っ……わ、分かってるわよ」

 

 シスカは軽く舌打ちし、そっぽを向く。

 

 会ってまだ半日ほどしか経っていないが、オルカはパルカロを好意的に思っていた。軽そうな言葉遣いに反して親切だからだ。

 

 オルカは後ろに立つセザンを背景にしているパルカロの顔を真っ直ぐ見つめ、

 

「あの、昨日はありがとうございます。ロディルエトゥンさん」

「パルカロで構わないよ。言いにくいだろぉ?」

「えっと……じゃあ、パルカロさん」

「はいよくできましたぁ。それで、どうだいオルカくん、調子は?」

 

 オルカはやや逡巡混じりで、

 

「……可もなく不可もなく、って感じです。特別調子が良いわけじゃないけど、代わりに問題もないです」

「そうかい。まぁ、構えず気楽に行こうぜ、兄弟」

「は、はい……」

 

 オルカは小さく頷いた。

 

 そこで、気がかりだったことを一つ思い出す。

 

 ドームの向かい側にある六角柱状の物体を指差しながら、

 

「あの、パルカロさん。アレって何か分かりますか?」

「アレかぁ……俺が聞きたいくらいかな」

「え?」

「なんでも、今回潜るドーム状の迷宮とセットで発掘されたらしいぜ。最初はそれも迷宮だと思ったらしいんだけど、それらしい入口がどこにもないんだ。おまけにどんな爆薬やエフェクターを使っても傷一つつかないらしくてね、ドームの外壁と同じ模様と材質だから先史文明の遺物であることは間違いないみたいだけど、ソレそのものの正体については考古学博士のスターマン氏も小首をかしげてる様子だったよ」

 

 そう二人で話していると、集まりを成した冒険者たちの向こう側から「そろそろ始めますので、冒険者の皆様、集合してくださーい!」と、誰かが声高に告げてきた。

 

 声は若い男のものだった。

 

「お? 噂をすれば影、だね」

 

 パルカロは得意げにそう言うと、パーティメンバーとともにその声のした方へ歩いて行った。

 

 オルカもそれに続き、どんどん塊を大きくしていく冒険者たちの中へ入った。

 

 やがて周囲の人間がすべて集まると、先ほど聞こえたものと同じ声が耳に届いた。

 

「――冒険者の皆様、今回はお忙しい中お集まり頂き、誠にありがとうございます! 僕が今回の依頼者、スターマン・レッグルヴェルゼです!」

 

 その声の主の姿形は、人垣の隙間から視認することができた。

 

 男臭さを感じさせない、清潔感と気品の漂う美青年だった。サファイアブルーの瞳はまばゆい金髪と優雅にマッチしており、スラリとした体躯はおろしたてのような綺麗さと上品さを持つ正装に包まれていた。

 

 まさしく、貴公子といった感じだった。

 

「姓の通り、僕はレッグルヴェルゼ家の三男坊という立場ですが、権力者風を吹かすのは好きではありませんので、御用のある方はどうぞお気軽にお声をかけてください」

 

 その青年――スターマンが柔和な笑顔でそう告げる。

 

 昨日、街の住人から聞いたとおりであった。

 

 スターマンは貴族の中では良い意味で変わり者だという。

 

 全員が全員ではないが、貴族というのは基本的に自尊心が強く、平民を大なり小なり見下げるきらいがあるものだが、スターマンは階級によって態度を変えるようなことはせず、分け隔てなく接してくる。そのため、街の人たちからの人気も高いらしい。

 

 加えて、彼を語る上で欠かせないのが――

 

「紙にも記入してあった通り、迷宮で獲得したアルネタイトやその他の物品は獲得者本人の物となりますが…………その………………何か面白い物が見つかったら、僕の所へ来てちょっとでも拝見させてもらえると嬉しいです。ご本人に差し支えがなければ、損をしないだけの額で買い取らせていただきますので、遠慮なくいらして下さい」

 

 今度はもじもじと、少し照れくさそうにしながら告げるスターマン。

 

 それを見聞きした一部の冒険者はクスリと笑みをこぼす。おそらく、彼の人物を知っている者たちだろう。

 

 スターマンは筋金入りの先史文明オタクであるらしい。

 

 とにかく歴史的遺品が大好きで、それを見つけた冒険者の家まで押しかけては、度々べらぼうな金額と引き換えにその遺品を譲ってもらっているそうだ。とある冒険者から一軒家が建てられるほどの額で古文書を買い取ったという話は、街の人たちの間で語り草になっている。

 

 そんな彼にとって考古学者という職業は、まさしく天職といえるだろう。オルカは少しだけそれが羨ましかった。

 

 スターマンはこほんと咳払いすると、改まった風に口を開く。

 

「本題に入りましょう。皆様も冒険者であるならご存知でしょうが、ほとんどの迷宮は複数の階層で構成されています。トラップの有無、ゴーレムの出現状況など、未解明な点の多い未踏査迷宮の調査では、冒険者の体力的な問題を考慮し、一日に踏査できる階層は一階層までと法律で定められています。次階層へと続くルートまで至らずとも、危険であると判断した場合は速やかに退避して構いませんので、どうか無理はなさらぬようお願い致します」

 

 もしも、この人員だけで手に負えない迷宮だったら――オルカはそこから先がどういう流れになるのかを知っている。

 

 迷宮は世界に数多存在するが、中には非常に危険な場所も存在する。それこそ、自分のようなアイアンクラスでは数メートル進むにも命懸けと呼べるような所が。

 そういった迷宮を最初に調査した冒険者が「この迷宮は自分たちの能力では手に余る」と判断した場合、王都からクリスタルクラスの冒険者数人が派遣され、代わりに調査へ向かうのだ。

 クリスタルクラスを呼んだ時点でその迷宮は「危険地帯」と認定され、クリスタルクラスの面々が判断した特定のランク以下の冒険者は立ち入りを禁じられる。

 

 ――といった具合だ。

 

「未踏査迷宮の調査は、その迷宮の最下層へ達した時点で終了となります。冒険者の皆様、ここから先は何が起こるか分からない未知の領域です。油断はなさらぬように。皆様のうち誰一人として欠ける事なく調査が終了することこそが、どんな金銀財宝の山にも勝る最良の結末なのですから」

 

 スターマンの弁舌によって警戒心を喚起された冒険者たちは――シールド装置の電源を付けた。

 

 オルカもつられるように、ベルトのスイッチを入れる。

 

 蚊が飛ぶようなシールド装置の起動音が周囲から一斉に鳴る。それが冒険者たちの士気を示しているかのようだった。

 

「それでは皆様―――ご武運を」 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かくして、探索は始まった。

 

 ドームの入口を塞ぐ両開きの扉は、人が近づくと勝手に両側の壁へ引っ込んで開くようになっていた。このような扉は迷宮のあちこちにあり、珍しいものではない。

 

 中に入り、広がっていたのは白い半球状の空間。そこには外壁同様に幾何学模様がツタよろしく広がっており、そこから発せられる淡い光が空間を薄く照らしていた。 

 

 そしてその奥には、広い階段が下へ続いていた。そこから地下へ降り、正方形にくりぬいたような通路をしばらく進むと、今度は大きく長方形に開けた空間へ到着する。

 

 前後左右の壁面と床はすべて灰色で、その表面を謎の幾何学模様が這うように彩っている。

 天井が優しく発光しており、やはり光源には困らない。入って来た面を除く右、左、前の合計三面には、それぞれ一つずつ扉がある。分かれ道だった。

 

 周囲の冒険者たちは、早速どの道へ進むべきかとパーティ間で話し合っていた。

 

「ボクはどうしようかな……」

 

 オルカも考える。

 はっきり言って、自分にはまだ経験が足りない。なので格好悪いが、ここは自分よりもランクが上の冒険者の後に便乗することにしよう。用心に越したことはない。

 その相手として最適なのは言わずもがなマキーナたちなのだが、他のメンバーはともかく、彼女と一緒に行動するのは気が引ける。決して嫌いではないが、彼女が隣にいるだけで「罪悪感」に苛まれる気がしてならない。

 

 全員ブロンズクラスで固めているパーティを見つける――ブロンズでも自分よりもランクは上。ここは彼らについて行くことにしよう。

 

 そう思った矢先――

 

「ねえねえオル君、私たちと一緒に行かない?」

 

 またしてもマキーナが声をかけてきた。

 

 ……なんでいつもこっちに来るんだ?

 

 そんな自分の気持ちなどお構いなしに、マキーナは嬉々として続ける。

 

「私たち、左に行くんだ。オル君も一緒に行こ?」

 

 マキーナから数歩離れた所で立っているシスカが、苛立った様子で爪先をカツカツ鳴らしながら「来るんじゃないわよ」とでも言いたげな目でこちらを睨んでくる――一緒に行きたくない理由に、彼女の存在も含まれた。

 

 オルカはうまい言い訳を考えてから、顔を背けながら、

 

「ごめんなさい。ボクはまだ半人前で、ここ以外に一つの迷宮しか入ったことないんです……きっと、クラムデリアさん達の邪魔をしちゃいます」

「だ、ダイジョブだよ。オル君は私が守ってあげるから」

「いいですよ……じゃあボク、別の方向から行くので」

「えーーそんなーーーー!! やだやだやだやーーだーーーー!! オル君と一緒がいいーーーー!! 一緒に行こうよぉーーーー!! ねーーいいでしょーーーー!? ねーーねーーねーーーー!! オーールーーくーーんーー!!」

 

 マキーナは自分の服を掴み、駄々をこねる子供のように涙目で喚きながら前後に激しく揺さぶってくる。

 

「あわ、あわわわわ!」

 

 オルカはされるがままになった。その細腕からは想像もつかない力だった。頭を揺らされているせいか世界がクラクラして見える。

 

「わ、分かりました! 行きます! 一緒に行きますから!」

 

 激しい振動に耐えかね、オルカは思わずそう口を開いてしまった。

 

 するとマキーナは揺さぶりを止め、

 

「ホント!? やったーーーー!!」

 

 その場でぴょんぴょん飛び跳ねながら、喜びを表現する。

 

 オルカは開放されてから、自分の言ってしまったことにハッとする。

 

 だが、もはや後の祭りだった。マキーナはこれでもかというくらい歓喜している。

 

 一方、他の三人――特にシスカは信じられないものを見るような目で、そんなマキーナを見ながらしばし絶句していた。

 

 もしかして、こんなマキーナの姿を見るのは初めてなのだろうか。

 

「ははっ、ま、今回はよろしくなぁ」

 

 いち早く沈黙から脱したパルカロは苦笑しつつ、オルカに手を差し出してきた。

 

「よ、よろしくお願いします……」

 

 オルカも疲れたように笑いながらその手を掴み、握手を交わした。

 

「よろしく、頼む、少年」 

 

 そう重低音な声をかけてきたのは、セザンだった。パルカロと同じように握手を求めている。

 

「は、はい、お願いします」

 

 オルカはやや遠慮がちにそれに応じた。自分よりも一回りほど大きな手だ。そういえば、彼とまともに話すのは今が始めてだ。

 

 最後の一人はシスカ。

 

 だが彼女は自分と目が合うやいなや、「フンッ」と不機嫌そうに鼻を鳴らしながらそっぽを向いた。

 

 ――なんでボク、ここまで嫌われてるんだろう。


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