原点にして頂点とか無理だから ~番外編置き場~   作:浮火兎

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この小説は、活動報告3/11のものに加筆修正を加えたものです。


ささやかな攻防の結果

 くそう、やられた……!

 洗面台に取り付けられた鏡を見て、私はうな垂れた。本来ならそこに映る姿は、寝癖の酷いボサボサ頭のはず。しかし現実に見えているのは、毛先が綺麗に巻かれてゆるふわなセミロングヘアの私。

 怒りよりも敗北感が勝った私は、仕方なくそのまま歯を磨いて、なるべく髪のセットを崩さないように洗面所を出た。寝巻から着替えようと居間を通り越して自室に入れば、扉を開けてすぐ前に陣取っていた相棒に通せんぼをされる。その表情は期待に満ちていた。暫くの間、じーっとそのまま睨み合うも互いに一歩も引かない姿勢のまま。

 はぁ、とため息を一つ吐いて私の方が先に折れた。何を言いたいかなんてわかりきった仲である。

 

「……で、どれを着ればいいの?」

「ピッカー!」

 

 ハイテンションで箪笥から服を取り出すジャンボを、私は生暖かい目で見つめていた。

 相棒は人を着飾ることが好きだ。リーフなどはその恩恵を受けている代表とも言えるが、ジャンボの場合は些か度が過ぎているのだ。

 暇さえあれば女性誌を読み、気に入った服をネットで探していたりする。それに似合うアクセサリーが見つからない時などは自作するほどだ。そんな彼のコーディネート作品は勿論、着用してこそ意味のあるもので。自ら着てくれる人がいる場合はいい。が、そんな都合よく私以外の女の子が普段いる訳もなく。今回のように相棒は私の油断を狙って着飾らせようと常に目を光らせているのだ。

 普段からジャンボの好きにさせる隙を与えないように気をつけてはいるが、稀に今日のような被害に私も合うことがある。滅多にさせないんだが、今朝は久々に長時間の睡眠が取れたからつい警戒を緩めてしまった。

 どうやら今回は、うとうとしながらコーヒーを啜ってニュースを見ていた時にやられていたようだ。気づかない私も悪いが、気配を消して忍び寄るあいつの手際の良さも大概じゃなかろうか。変な技仕込むなよアンズ!

 

 ジャンボはれっきとした雄である。男の子。ボーイ。

 私の言動は前世のものを引きずっているせいで大分粗暴である。そのことを吟味しても、凛々しくなりはすれ何故女々しくなるのであろうか。

 趣味もそうだ。相棒と私は真逆の好みをしている。ジャンボは甘いものが好き、私は辛いものが好き。相棒が暖色系の色を選べば、私は寒色系の色を選ぶ。かといって、お互い反対の物が嫌いという訳ではないので特に問題はない。ジャンボほどまではいかないが、私だって可愛いものは素直に可愛いと思うし、時には甘いものが食べたくなる。

 しかし、やはり全体的に見ても相棒からは雄雄しさというものを感じない。どうしてこんな乙女ちっくに育ってしまったのか。

 私の影響では決してない。それは断言できる。両親も至って普通に接していた。となると、元凶で考えられるのは――

 

「怨むぜ、ほっちゃん……」

 

 ジャンボによって寝台に並べられていく服を見て、私は復讐を決意する。どれも私が購入した覚えのないものばかりだ。相棒が使った今月のカード明細に服はなかったはず。となると、誰かが手を回したに違いない。

 ジャンボに問いただしても、どうせ「貰った」としか言わないだろう。事実そうなのだろうし。何故あいつらはそこだけ妙に結束しているんだ。

 見事に選ばれたのは見るからに若い女の子が好みそうな服が一式。年に数回しか穿かないスカートも勿論あったが、これも相棒のためだと割り切って渋々穿いていく。

 化粧はさせません。顔に何かついてるのって凄い違和感あるんだけど、私だけ? 化粧していると顔が気になって仕方ないんだ。

 だから絶対に必要な時以外はしないと約束をしている。これにはうちの母親からも一言貰っているので安心だ。

 

「子供の頃から肌を隠す必要なんてありません。そんなものは大人になってからにしなさい。さもないと、老後の肌が酷いことになるだけよ」

 

 言葉に重みを感じました。いやあ、女性って大変だね。私も数年後はそうなるのかな。それでもやっぱり特には気にしなさそうだけど。……まてよ、逆にジャンボがお手入れしてくれる予感がするぞ。嫌だ、さすがにそこまでされたくない。

 

 ジャンボに姿見の前に連れて行かれ、全身コーディネートの結果を見る。

 うん、別人がいたね。こんなの私じゃない。つまり、満点だ。

 お見事と褒めれば、相棒は喜んで飛び跳ねる。嬉しいのはわかったから落ち着け。

 んー……今日の休みは一日中家でゴロゴロする予定だったんだけどなあ。相棒のためだ、仕方がない。私は今思いついたとばかりに口を開く。

 

「せっかくお洒落をしたのに、休みを家の中で過ごすのは勿体無いな」

「ピ? チャー!」

 

 ちょっと待ってろとジェスチャーで伝えたジャンボが、走って居間からチラシを持ってきた。

 なになに、タマムシデパートにて本日限定シンオウ地方物産展とな?

 

「それは行くしかあるまい」

「ピッピカチュ!」

 

 二人して家の戸締りを確認。天気は快晴、お出かけ日和なり。私は鞄を手に、ジャンボはデジカメを首に下げて出発だ。

 

「お昼のランチはちょっと贅沢しよっか」

「ピッチャー!」

 

 機嫌のいい相棒に釣られて、私も気分よく一日を過ごすことが出来た。

 後日、この時に撮られた写真が万葉経由でグリーンの手に渡るとは思いもしなかったが、そこは割愛。




Q,ジャンボ経由でブルーさんにはいかないんですか?

A,レッドは女装(笑)をしている姿を知人に見られることを極端に嫌がります。家族ぐらいならいいだろうとお許しをもらっているので、見せる相手は大抵がリーフになってしまいます。他の人に見せたりしたら、女装自体を二度としてくれなくなるだろうと彼もなんとなく分かっていることでしょう。

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