原点にして頂点とか無理だから ~番外編置き場~   作:浮火兎

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本編07-7の後のお話。


SIDE:タケシ①

 試合を終え、バトルフィールドから出たその足でタケシは事務室へと向かった。

 いつものように職員に報告を済ませ、自分のデスクから荷物を取って部屋を出るところで振り返る。

 

「言い忘れてました。すみませんが、明後日から二日間有給でお願いします」

「それはまた、突然ですね。鉱物調査の急務でも入りましたか?」

「いいえ。本業とは関係ありませんよ」

「では何故?」

「ただの修行です」

 

 疑問符を浮かべている職員を笑ってかわしたタケシは、早足でその場を去っていった。

 明日はジムの定休日、さらに明けて二日間の休みを取ったタケシの行動はただ一つ。

 

(今日中に荷物を用意して、明日の朝一から向かえば山中で二泊三日。その間にどれだけ修行できるか)

 

 自宅へ向かう足取りが、どんどんスピードを増す。その胸中を占めるのは先ほどのバトルだ。

 敗北。それもルーキーに、ジムリーダーの俺が手も足も出なかった。しかも、手持ちで一番のポケモンで。

 その前の一戦でも負けているが、あれは納得できたものだった。だが、レッドとのバトルは一線を画する。

 本音を言えば、レッドとの戦いは降って沸いた水のようなものだった。グリーンとの戦いで久々に手応えを感じる勝負ができたので、体に火がついてしまった。タケシはポケモンが好きだ、勿論ポケモンバトルも大好きだ。もっと戦いたい。だが、今日の挑戦者はもういない。ジムリーダーたるもの、あまり野良試合は良くないとわかってはいても、この昂ぶりを収めるためにバトルがしたい。そこで目を付けたのがレッドだったという訳だ。

 レッドから見ればただの八つ当たりだろう。バトルの質にも拘らず、とにかく戦いたいと願ったタケシは、結果的に高揚していた気分を一気に地の底にまで沈めることとなる。

 これほど圧倒的に叩きのめされたのは、どれだけぶりだろうか。ジムリーダーになってから数年、挑戦を受ける側になってようやくわかったことが、自分と周囲のトレーナー達の差だ。自分も最初はこうだったとわかりつつも、やはり皆弱すぎるというのが本音だった。勿論、時々は腕のあるものもやってきた。それでもタケシの心は乾いていくばかりだった。

 だが、今のタケシは違う。久々に現れた強敵、壁を目の前にして彼は奮わずにはいられない。こんな気持ちはジムリーダーになって以来、初めてだった。

 

(あいつは絶対にリーグを勝ち抜く強さを持っている。必ずまた再戦することになるだろう)

 

 次こそは負けない。今度バトルする時には、きっと心が燃える熱いものになるに違いない。

 考えれば考えるほど鼓動が激しくなっていく。沸き立つ心が溢れ出し、今や全力疾走をするほどタケシの表情は輝いていた。

 自宅が見えるころになると息が辛くなり、玄関に到着した途端に膝を折って呼吸を整える。そこでようやくタケシは自分のポケギアが鳴っていることに気がついた。

 発信者を見れば、同じ世代のジムリーダー仲間からだった。

 

「はいっ、もしもし」

『ようやく出たわね! 何回鳴らしたと思ってんのよ!?』

「悪い、ははっ……全然気がつかなかった」

『なんか苦しそうだけど大丈夫?』

「気にしないでくれ。で、どうかしたのか?」

『それはこっちの台詞よ。あんたの様子が変だって、心配した事務員さんから相談されたの。何かあったんでしょ?』

「…………そうだな。良いことがあった」

『はぁ?』

「きっとお前のところにも行くと思うから、楽しみに待ってるといいよ」

『ちょっと、いきなりどうしちゃったの? ほんとに大丈夫?』

「まさかあんなダークホースが現れるなんてな。お前もうかうかしてると、あっという間に伸されちゃうから気をつけろよ」

 

 訳がわからないと電話口で怒鳴る友人に、なぜか笑いがこみ上げてくる。きっとその内わかるさ。

 今思えば、あいつはいつの間にか俺たちに掛かっていた目に見えない霧を晴らしてくれたんだ。モンスターボールを握り締めて、タケシは誓う。

 

「俺たちは、どこまでも上を目指していくぞ」




タケシさんマジわかんねー。

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