原点にして頂点とか無理だから ~番外編置き場~   作:浮火兎

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技考察②

「え、空を飛びたい?」

 

 私が問い返すと、ジャンボは躊躇いながらも頷いた。

 マサキの小屋に来てから数日。ようやく仕事も落ち着いて健康診断も終えて、パーティまでのんびり過ごすかと思った矢先の出来事だ。

 私は突然の要望に驚きを隠せなかった。自他共に認める賢い相棒が、まさかの夢見発言。咄嗟に正気を疑いそうになったが、寸でのところで思い留まった。

 

 まてよ、そういえば確か――彼は一度空を飛んでいた(・・・・・)んだっけ。

 

 つい先日のことだ。

 私たちがお月見山で遭遇した、ピッピとロケット団に纏わる事件でのこと。詳細は省くが、どうやらジャンボはピッピたちの不思議な力によって『空を自由に飛ぶ』という有り得ない体験をしたらしい。

 らしいと疑問系で答えるのは、その場にいた私の記憶が曖昧だからだ。しかし記録媒体にはしっかりと相棒が宙を泳いでいる姿が残っていて。

 証拠があるにも関わらず否定的なのは、大前提としてピカチュウが空を飛ぶというのが科学的に考えて有り得ないから。

 本気かと再度訊ねれば、首は縦に振られる。私は頭を抱え込んだ。

 彼自身もそれが如何に途方もない発言か解った上での申し立てだろう。

 

「先に言っておくけど、期待するなよ……」

「ピカピー……!!」

 

 策はある。

 といっても、私のほうこそ夢見がちなことを言うのだが。

 

 

 ◇

 

 

 私の前世――『俺』が遊んだことのあるゲームの中に、ピカチュウが空中を自在に動くゲームがあった。といっても、羽を持つ鳥のように空を自由自在に動き回るといったものではなかったが。

 それはとある大乱闘のゲームで、ピカチュウは高速移動といった技を駆使して宙を蹴り空中戦を行っていた。

 すごく無理やりな考えだが、ジャンボは空を飛んだ経験がある、宙を踏む感覚を知っている、空気蹴って二段ジャンプできるんじゃね? という筋道を立ててみた。

 仙人が使うとされている縮地と呼ばれるもの。ぶっちゃけたことを言うなら、どこかの武闘派魔法使いたち――これも前世の漫画のことだ――が使うような虚空瞬動である。

 つまり、一般的な「飛ぶ」ことからはかけ離れたものになるのだが。

 すまんジャンボ。私の貧相な頭ではどう足掻いてもお前を飛ばすことはできなかったよ……。

 説明すれば「それでもいい。むしろ絶対に無理だと思ったいたから可能性があるだけ嬉しい」と相棒は舞い上がってくれた。

 

 それからすぐにイメージトレーニングを説明して、ジャンボにはこれを常に行ってもらうことにした。出来る出来ると想像しながら念じる、暗示をかけると言った方がいいかな。これはとても大事なことだ。

 人間のアスリートもそうだが、私の持論から言わせてもらえばポケモンは総じてESP能力を持つことからして、この暗示が非常に大きく成功に関わってくる。

 

 実はちょっとした実験結果がある。昔、ジャンボに協力してもらいスプーン曲げを試してもらったのだ。

 絶対に力を入れないように私がスプーンを持って、柄の部分を人差し指だけでひたすら擦ってもらった。延々と念じながら連日試した結果は、しっかり首を90度傾けたスプーンの姿だ。

 タイプとか関係なく、頑張れば結構色々できるんだよ。これだからポケモンって凄いよね。それ相応の努力は必要だけどさ。

 

 次に高速移動の改良を試行錯誤しつつ、並びに下半身強化プログラムを実行。なによりも瞬発力が大事だからね。

 後はただひたすら思い通りに動けるまで練習あるのみ。重要なのは挫けない心。絶対にやれる、できるんだという意思が大切だ。

 その点は心配ない。うちの子はああ見えて頑固なのだ。これと決めたら梃子でも動かない。

 私に出来ることは全てやりつくした。何も手伝えることがなくなったところで、相棒からの朗報を信じて待つこと一週間。

 嬉しい声を上げながら抱きついてきた相棒の姿に、私は成功を知った。

 おめでとうと祝う気持ちと同時に沸き立つ思いのまま、私はジャンボの顔を覗き込んだ。

 

「ねえ、好奇心から言わせてもらうけどさ」

「ピ?」

「飛んでる時ってどうなってんの?」

 

 研究者の探究心は常に燻り続けているのさ! という訳で、検証してみました。具体的にはカメラを装着したジャンボに空を飛んでもらいました。

 勿論近くで見てたんだけどさ。いやー、さすがにいきなり姿を消したと思ったら上空から声がするもんだからビックリしたよ。

 ついでにどこまで高く飛べるのかも試してみたら、酸欠になったジャンボが空から落ちてきて心臓が止まるかと思った。お前どこまで上ってきたの?

 

 部屋で相棒を休ませつつ、早速映像を再生する私。わくわくしながら画面を覗き込んだのも束の間、すぐに気分は最悪のものになる。

 それを見越してか、回復したジャンボが盥を持って様子を見に来てくれた。彼は今、呆れた様子で私の背中を摩ってくれています。

 

 ただ空を飛んでいるだけの映像を見て何故こんなにも気持ち悪くなるのか。

 ジャンボの空を飛ぶは高速で宙を蹴り続けること。それも平行に進み続けることはできない。地面がある訳じゃないからある程度画面が揺れるのは仕方ないとしても、そのスピードがまた異常な速さを出しているのもあって。

 つまり、見ているだけで酔うのだ。超特急のジェットコースターに乗っているかのような視界が映っているとでも言えようか。いやあれは直線な分まだマシだ、これはそんなものを遥かに超越している……!!

 画面越しでこれほどまでの威力だというのに、生身でこれを受けるジャンボの三半規管は一体どれだけ頑丈にできてるんだ。

 

 私は思う。まじジャンボさんパねぇっス。




この小説は、本編12-3と一部リンクしています。

そろそろジャンボがピカチュウの域を超えたかもしれない。

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