フェバル〜青年ホクヤの軌跡〜   作:Cr.M=かにかま

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86.白い軍勢

 

紅蓮気爆拳とステアゴルの拳がぶつかり、爆ぜる。 さっきからその繰り返しになっている。

気が昂り【テンション】が上がってる俺の拳なら決着は既に着いているはずだった。 そう、今までのステアゴルだったなら。

 

「.....チッ」

 

メーヴァの街の崩壊が進む、いや、進めているといったほうが正しいか。

それほどにステアゴルの攻撃範囲が増えた、あの煙から生成された拳による攻撃が二次災害を生んでいる。

手数ではこちらが完全に負けているが、威力は圧倒的に上だ。 質よりも量、溜まった熱を一気に射出させながらステアゴルとの距離を詰める。

 

バチバチ、と紫電が走り全身に力が流れる。 右脚に熱が篭る。

 

─紅蓮気烈脚!

 

「ッハッハァ! いい蹴りだ!」

「頑丈になりすぎだろ、お前!」

 

ステアゴルの豪快な笑いが激突音を掻き消す。 耳障りな金属音がステアゴルの声量に負けたのだ。

熱の籠った俺の右脚から一気に放出され、爆発を起こす。

 

一瞬、ステアゴルが怯んだ。

 

ガラ空きになったボディに右ストレートを叩き込む。 ナトゥラの身体構造は個体によって異なるため、頑丈な部分が共通してるかなんて俺にはわかりはしない。

けど、師匠によって洗練させられた俺の拳には関係ない。

 

だが、貫けない。

 

あの白い武装。 これまで相手にしてきたナトゥラとは違う。

いくら俺が未熟といえど、傷がつくかつかないかぐらいの結果に終わってしまう。 今までとは明らかに違う。

 

「─どういう構造、してんだかよ!」

「っはぁ!」

 

ここでこいつを再起不能にしておいて、追撃を避けたかったが難しそうだ。 力加減を間違えたらメーヴァそのものを瓦礫の山に変えちまう。

それでも構わないが、もし避難し遅れた奴らがいたと思うと後味が悪い。

一旦、ステアゴルを足止めするための決定打を打たないと、熱も溜まりだしてきたし、俺もユウさん達と合流できない可能性も出てくる。

 

─それに、だ。

 

「─リルナか、悪いが手を出すなよ。 これは漢と漢のケジメだ」

「心配するな、私はこの先にいるヒュミテ共、ユウを殺しに行く」

 

こんな状態でリルナの足止めってのもハードルが高い!

 

─気声波!

 

「ぐっ.....!?」

「うが、うっせぇ!」

 

一瞬でもいい、少しでもユウさんやテオ達が先に行けるように!

俺がここで少しでも時間を稼ぐ!

 

それに、俺は今一人じゃねぇ!

 

「─ホクヤさん!」

「よっしゃ!」

 

事前に打ち合わせてたマイナとの合図!

『メーヴァの奴らが全員街を出て無人になったら俺に教えてくれ、この街沈めるから』

 

マイナの援護で散弾がリルナとステアゴルに無差別に放たれる。 その弾はもちろん奴らにダメージを与えることはできないが、不意をつければ充分だ!

 

「─っせや!!」

 

弱所はステアゴルが武装で殴った大地近辺。 そこから街は蜘蛛の糸を巡らせるように脆くなる。

あとは俺が【テンション】を込めた一撃でキッカケを与えればいいだけのこと!

メーヴァの街は大きく揺れ、ヒュミテ第二の都市は崩壊を辿っていく。 地盤が崩れ足場を無くしたステアゴルはかつてアンダーグラウンドの張り巡らされていた空洞へと落下していく。

 

「ステアゴル!?」

「─余所見、してんじゃねぇぞ」

 

リルナとの距離を詰め、一撃を叩き込む。 崩落の止まった鉄盤に叩きつけられ、バウンドする。

 

「お前をユウさんの元へは行かせない!」

「抜かせ!」

 

ジジジジジ、とリルナがユウさんの左腕を斬り飛ばした斬撃を放つ。

気を纏った右脚で弾き、そのまま左腕のアッパーで顎を狙う。

しかし、ここで簡単にやられる相手ではない。 むしろ肉弾戦ではリルナの方に分がある。 ある程度の人体構造とはいえ構造自体は機械。

俺の頭の中に植え付けられた医者としての知識がそこで邪魔をする。 可動箇所が常人から多少離れていようとも、本来であれば曲がるはずのない向きからの攻撃が飛んでくる。

 

「なるほどな、貴様らヒュミテではこのような芸当はできないのだな。 少し勉強になったよ」

「ったく、人間ベースにしてもデタラメなことには変わりなしか」

 

鍔迫り合いが続く。 肉弾戦の応酬、ある程度【テンション】によって肉体を強化していても機械と生身ではそこに違いが生まれてくる。

リルナにとっても俺との戦闘は二度目、油断なんてするはずがない。

 

─不意に背後から複数の熱反応を感知する。

 

「.....なんだ?」

「─あれ、は、ジード...?」

 

そこには白い集団がいた。

姿形は人間、否、リルナが反応したということはナトゥラだ。

ナトゥラの集団が口から白い熱光線をこちらに向けて放ってくるのだ。

 

「チィ!」

 

両腕に熱を溜め込み、乱暴に弾き飛ばす。 相手が高熱であれば対処は簡単だ、問題はリルナをどう相手するか、だが─

 

「あれ?」と間抜けな声が出てしまう、振り返ればリルナはいなかったのだ。

ユウさん達を追いに行ったんなら、急がないとマズイな。

 

「マイナ! 聞こえるか!?」

「ホクヤさん、あれどういうこと? なんでジードがあんな複数!?」

「知らん! けど、お前がここにいてもどうしようもねぇ! なんとかユウさん達と合流して俺のことは大丈夫だって伝えてくれ!」

「なんとか、ってどうやって!?」

「なんとかはなんとかだ!! 俺も気合いでこの場を乗り切る!」

 

わらわらと白いジードの集団はどんどん溢れてくる。

片や腕を伸ばしてき、片や白と紫の熱光線を撃ってくる。 熱光線の飛んでくる方向を調整し白い集団に向けて誘爆させてはいるものの、数は一向に減る様子がない。

 

「.....あのビーム、口から出してんのか」

 

もしかしたら、真似できるかもしれない。 そんな考えが頭を過ぎった。

白いジードが腕を伸ばして俺の動きを止めようとしてきた、その腕を掴みハンマー投げの要領で振り回す。

 

「クソ、キリがねぇ!」

 

 

 

ホクヤから戦力外通告を受けたマイナは凹んでた。 そして、場を速やかに離れてた。

あの場にいても彼女にできることは何もない。 それはマイナ本人も自覚していた。

 

(あれは一体、ジードはたしかに死んだはず)

 

バックアップのデータがあったとしてもだ、ナトゥラとて一個体の生命体なのだ。 蘇生なんてもっての他である。

それも複数体、あんなことは初めてである。

だからこそ、マイナにとっては違和感でしかなかったのだ。 突然現れたジードの集団、そう、現れ方もどこか不自然だった。

ホクヤがメーヴァの地盤を崩して地下へステアゴルを落としてから突然現れたのだ。 これまでに何度でも現れる機会があったのにも関わらず。

それにあれだけの数をトライヴしようとしたら相当の時間が必要だ。 メーヴァそのものがナトゥラに情報を売っていたということは考え辛い。

 

ジードは死んだ。 正確にはデビットと相打ちになった。

 

(.....デビットの、犠牲を無駄になんて、したく、ない!)

 

止める、今も増え続けているジードはマイナが止めなければならない。

それがルナトープへの、デビットに対しての裏切りを償うためのマイナの責任だ。

 

ステアゴルとの遭遇を避けながら、ジードの出現した地点周辺を観察。

今も増え続けるジードはどこから現れているのか。

半壊したとはいえ、メーヴァの土地勘は残っている。 トライヴを仕掛けるにしても何日も前から仕掛けられていたはずだ。

マイナは今持てる知識を最大限に活用しつつ、時には危険を冒して上空から増え続けるジードを観察、ホクヤを援護しながら出所を探る。

 

「マイナ! 援護はいらねぇぞ!!」

「ありがたく受け取っときなさい!」

 

あれだけの軍勢を相手にしながらマイナに返事できるホクヤが羨ましい。

全力を出すとは言っていたものの、マイナが逃げるまで力を抑えているホクヤなのだが、そんなことはマイナが知る由はない。

 

(.....ん)

 

そこに感じた違和感。

ホクヤがジードの頭を砕いて再起不能にするたびにある場所からジードが溢れ出している。

 

(ジードの中にある成分がジードを、増やしている、の? それじゃあジードを倒しても増え続けるんじゃ─)

 

まさかと思った。

しかし、結論付けるのはまだ早い。 マイナは高所から移動して戦場を同じ目線から目を凝らす。

 

「あ」

 

そこで気がついた。

ホクヤが気づけないにも無理がないくらいの簡単な結論。

倒れたジードがジードを増やしてるんじゃない。 倒れたジードが地下へ吸い込まれて新しいジードが地上へと這い出てるんだ。

あの場所の近くにホクヤが穴を開けた場所があったのが幸運だった。

 

地下を覗き込むと白い筒状のものがジードを生み出していた。

 

(あれは、何?)

 

考えてる暇はなかった、否、必要なかった。

マイナは躊躇いなく筒状の物体に引き金を引いたのだった。

 

結果的にジードが増えることはなくなった。

ホクヤが最後のジードの頭を拳で貫いたことで勝負はついたのだった。




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