ユウさんの左腕の止血を済ませ、ウィリアムとマイナの治療を進める。
『エクリサリテル』で培った治療技術は宇宙随一である。 様々な人種の身体構築パターンからどのようにして治療を施せばいいのかは身体が覚えてる。
(.....こいつは)
治療を進めていく中で改めてヒュミテの特異性がわかってくる。 いくら機械技術の進んだこの惑星でもウィルスの一つや二つは存在するはずだ。
それなのにウィルスに対抗する抗体と呼べるものがほとんどと言ってもいいくらい構築する力がない。
それはウィリアムもマイナも共に言えることであった、フェバルであるユウさんの身体は至って普通だった。
ウィリアムの治療は気で自己再生を促進させる治療で済んだが、マイナの身体はウィルスが身体を蝕んでいた。
中々にタチの悪い潜伏型のウィルスだった。 ユウさんから採取した血清の中に抗体がなければ彼女の治療はウィリアム以上に荒いものとなっていたかもしれない。
ユウさんの血清から抗体だけを抽出してマイナの身体に移す作業が一番難航した。 細かい作業は苦手なんだ。
「ホクヤ、三人の様子は?」
「一通り診た。 意識は失ってるけど、命に別状はない」
「.....まさか、お前が医者だったとはな。 未だに信じられんぞ」
なんか失礼なこと言ってるぞ、この脳筋副隊長。
「そこはいい、俺はマイナがどうしてこんなことになってるのか気になる。 それと、俺の独断でこうなってしまったことは本当に申し訳ねぇと思ってる」
「.....お前にも考えがあったのだろう? そのことについてロレンツ達と話し合うからお前も来い」
「あぁ、わかった」
俺たちを乗せた列車は地下の道を辿りながらメーヴァへと向かっている。
そこで物資の補給しながら身を潜める予定だ。 ディースナトゥラとの道は俺が地下を崩落させといたので時間稼ぎにはなるはずだ。 そうそう簡単に追手は来ない。
揺れる列車の中、一番広い場所にルナトープメンバー及びギースナトゥラの中心メンバーが集まることになった。
ロレンツ。
ラスラ。
アスティ。
レミ。
テオ。
そして、俺。
「テオさん、あんた本来なら寝とけと言うところなんだけどな」
「ハハハッ、そういうわけにもいかないよ。 なにせ、僕が寝てしまえばこの会議を仕切る人物がいなくなる。 これだけは許可してほしい、ドクター」
「.....体に負担かけないように、特に叫ぶとか厳禁な」
まぁ、戦闘ではないのだからそこまで大きな負荷にはならないと思いたい。
他に生き残ったギースナトゥラのチルオン達数名、見た限り数は半分ほど減ってしまっている。
「さて、まずは僕を助けるために全力を尽くしてくれたことに感謝する。 ドクターホクヤも、旅人の身分であるにも関わらず危険を冒してまで力になってくれたことに礼を尽くしたい」
「.....いえ」
今は眠ってるユウという者にもね、とテオは付け足す。
「じゃあ、いいか? まずは俺が聞きたいことは一つ。 ホクヤ、どうして勝手に一人で動いた?」
「.....相談せずに俺の判断で動いたことは悪いと思ってる。 だからこそテオさん、あんたに確認したいことがある」
「なんだい?」
「–––あんたはなんであそこに捕らえられていたんだ? それと二日後にあんたが処刑されるって公表されてた情報は事実なんすか?」
俺が疑問にずっと疑問に思ってたことだ。
仮にも対立してる相手の主導者を捕らえる必要があったのか、わざわざ情報を掲示してまでも処刑する必要があったのか。
そもそも公表された処刑日というのは本当に正しいのか。
「なるほど、それが君が動いた理由かい?」
「.....察しがいいんですね、エスパーかなんかですかい?」
「えす? その言葉の意味はわからないが、君の質問に答えよう」
「–––まず、捕らえられていた理由としてはヒュミテのレジスタンスの生き残りを誘き寄せるため。 これは見張りの看守が雑談をしていたからたしかだね。
次に処刑日、これに関しては誤報だ。 僕は明日処刑されると聞いていた」
「なっ.....!?」
大きく息を呑んだのはラスラだ。
今の今まで信じてた情報が虚偽だと知ったのだから当然のことだと言える。
「この情報はどこから?」
「.....ディースナトゥラで報道されていた。 クディン達もマイナやネルソンだって裏を取っていた」
「.....なんだよ!? つまり俺たちは作戦決行どころか、誤報に踊らされて、大前提から間違ってたってことかよ!?」
しかも彼らは見事に誘き寄せられた。
今回テオさんを救い出せはしたが、被害状況から見るに彼らは負けたも同然ってわけだ。
「ホクヤ君、このことに気付いて」
「正直俺も不確定要素は多かったから確信を持ってたわけじゃない。 もし、俺がナトゥラなら同じことをするって考えたんだ」
「.....あんた、脳筋じゃなかったのね」
「うっせぇ」
だが、俺の独断で皆を巻き込んでしまったのは事実だ。
「ホクヤ.....」
「急いだ方がいいって思ったけど、一言連絡すればよかったと思ってる。 悪かった」
「.....その話を聞かなきゃ俺はもう片方の目も抉り取ってた」
「せめて脚か腕にしてくれ」
「デビットが、あいつが逝っちまったのがお前の勝手な行動があいつを殺したって考えたら仲間なのにお前を恨んでしまった。 けど–––」
「–––ここでホクヤを恨んでもあいつもあいつらも帰ってこない。 俺たちは前に進むしかないんだ」
「ロレンツ」
「だーかーら! そんな顔すんな! 俺たちルナトープは全滅したわけじゃない! まだ俺たちが生きてる、あいつらの為にも俺たちがこの戦いを終わらせるんだ!」
.....ロレンツ。
俺は知ってる、ロレンツとデビットの仲の良さはルナトープの中でも折り紙付きだ。
割り切れてるはずないのに、それなのに俺のことを仲間と呼んでくれるお前が俺には眩しすぎる。
「戦場のラッキーボーイの俺を連れてけばよォ、結果は変わってたかもしれねぇのによ、あいつ、デビット、う、ぐ、先に、逝きやがって.....!」
「.....辛いと思うが、被害状況の確認といこうか」
「そう、だな」
デビットは戦死。
ネルソン、クディン、リュート、はマイナによって射殺。
ギブルとアムダ、パルナドは生死不明。
「.....まさか、ネルソンさんが」
「マイナ姉、に?」
–––マイナの裏切り。
プラトーの野郎の言ってたことが繋がった、内通者はマイナだったのだ。
俺が奇襲を仕掛けたにも関わらず、対応が迅速だったり警備が強くなったりと何者かが情報を流しているということはあり得ることだ。
おそらく作戦決行日と処刑日がズレていたのも彼女が情報を操作していたからと思われる。
「洗脳か?」
「.....私も最初はそう考えたんだけどね、マイナさんの身体を診たホクヤが真偽はわかるんじゃないの?」
「.....あったといえば彼女の身体を蝕んでいたウィルスだ、けど直接洗脳に関わっていたとは考えにくい」
あれは病原体の類だ。
あんなもので他人のことを操るなんてことはできない。
不自然なくらいの感染具合だったため人為的なウィルスの可能性も捨てきれない、洗脳でなくてもあれで動きを制限されてたことは考えれる。
「そん、な.....」
「落ち着けアスティ」
「.....ひとまずこの話は置いておこう。 マイナが目を覚まさないと聞くことも聞き出せない」
「そうだね。 僕も少しドクターに聞きたいことがある」
「.....なんすか?」
「まず、左目は本当に平気なのかい?」
「えぇ、止血も済んでます」
あとは適当な眼帯を見繕えればいいだろう。
いつまでもバンダナを巻いとくわけにはいかない。
「で、本題は?」
「–––君の目から見て、僕たちの世界はどんな風に映る?」
感想、評価、批評、罵倒、その他諸々お待ちしてます(^^)