フェバル〜青年ホクヤの軌跡〜   作:Cr.M=かにかま

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77.誘爆

 

「くどい」

「ハァ、ハァ、ハァ...ッ!」

 

左腕を斬り飛ばされ、男に変身するタイミングをも失い、頼みの綱のスレイスも根元から切断された。

血も絶えず流れてる、止血をする暇もなくリルナの攻撃を避け続けているのだ、意識を保ててることが奇跡に近い。

体力の限界も訪れ、片膝をついてしまう。

だが、あのリルナがこちらの体力がある程度回復する時間なんて与えてくれるはずもない。

 

「–––最期に言い残すことはあるか?」

「.....せめ、て、この姿の、時くらいは、君とはい、い関係でありたかった」

「.....!」

 

右腕に力が込められる、込められた力がインクリアの刀身からわずかに火花が散る。

––−リルナの瞳から光が消え、刀身がユウの首に迫る。

 

(–––まだ、右手は動く!)

 

せめて、テオが安全な場所に移動してホクヤが戻って来るまでの時間は稼ぐ!

一時的にでも動きを止めることができるのならば、とかつて旅した世界の友人が作ってくれた電磁ボール。利き腕がないため、不慣れな右腕でポーチから目的のアイテムを取り出す。

二度目が効くかはわからないけど、何もせずに首を斬られるよりかはマシなはずだ。

 

「が、また、か.....!?」

 

–––隙が出来た、今のうちに男へ変身し応急手当をする。

残った気でその場を一旦離れ、女に変身して身を潜める。

荒い呼吸を整えながら、意識だけは手放さないようにと気だけをしっかりと持たせる。

男になれば止血は続けられる、しかし場所を特定されてしまう可能性がある。

 

–––無限ポーチに念のために入れておいた医療道具箱の中を取り出して、利き手ではない右手で苦戦しながら左腕に包帯を巻いてる時だった。

ディースナトゥラ全体に変化が表れ、要塞のように変化し始めたのは。

そして、空を見上げるとテオの乗った車に向けて気を感じられない二人、おそらくナトゥラが向かっていることを。

 

「ユウー!無事かー!?」

「ろ、ロレンツ!」

 

–––しかし、悪いことばかりではない。

ユウの元に戦場のラッキーボーイが現れた。

 

 

 

ジードは油断していた。目の前の男、デビットの実力に。

ルナトープという今や少数のレジスタンスに所属しているスレイス使い。それがジードがデビットに抱いていた印象だった。

しかし、実際に戦ってみればどうだ。たしかに体に傷は付けられてはない、肉質の硬度を変えることのできるジードは防御に関しては絶対の自信を持っている。

もう一つの自信、ボラミットも溶かす熱光線。まさか、一度ならず二度も躱されるだなんて思いもしなかった。

 

かつてのデビットならば既に決着はついていたであろう。ホクヤとの出会いが、彼との訓練、ライバル意識がデビットを強くした。

 

「–––お前さん、名は?」

「デビットだ」

「そうか、覚えておこう」

 

ジードの腕が伸び、蛇のような動きでデビットに迫る。

デビットはそれを二本のスレイスで受け止め、滑らかに受け流す。怯むことなく、ジードは五指を伸ばして先端を硬化させる。

 

「がっ.....!?」

「む?」

 

三本、残りの二本はアスティの撃った弾が弾いた。

 

「–––忘れるなよ、俺には、俺たちには背中を預けてる仲間がいるってことをな!」

 

体に刺さった指を抜き、再度スレイスを構える。自分からは攻めには行かない。

もし、至近距離で熱光線を撃たれれば避けることは難しいからだ。しかし、ジードと戦うには距離を置くのは危険だということもわかった。

 

–––互角にも見えるが、この戦闘においてデビットは押されている。

 

(くそ、どうする!?)

 

実力的にも技術的にも足りてない。

エネルギー切れを狙うにしても、そううまくいくものじゃない。

 

–––デビットが考え、ジードがアクションを起こそうとした次の瞬間、一つ決着が着いた。

 

「が、ぐァァァァァぁぁぁぁァァァァァぁぁぁぁあア!!?」

「ステアゴル!?」

 

–––ステアゴルの右腕を粉砕したホクヤが、だらんと右腕を垂らしながら息を切らしていた。

 

「ホクヤ!」

「ハァ、ハァ、チクショ、ウ。やっぱ持っていかれるなぁ....」

 

「ステアゴル、大丈夫か!?」

「ぐ、ガハ、ハハハ!見ろよ、ジード、俺の自慢の腕が、粉々だぜ」

「–––ッ!!」

 

ステアゴルのアイデンティティであり力の象徴、全てを粉砕するパワーアームに彼には絶対的な自信があったはずだ。

それを打ち砕かれた、それなのに笑うステアゴルの表情はどこか悲しげで悔しげにジードの目に映った。

 

「–––おのれ、ヒュミテがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

友のために敵を討つ、ジードが今まで起こしたことのない方法で戦闘の火蓋を切らした。

得意の熱線を固まってる三人に向けて放つ、全力の最大出力で。

 

「–––チッ!」

 

–––バチィ、と同じ性質のものでしかぶつかることがあり得ない熱線が何かとぶつかった音がした。

 

「ホクヤ君!」

「俺のことはいい!早くユウさん達と合流するぞ!」

「お、お前腕が!?」

「気にして、られるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

–––ジードの熱線は、ホクヤの気合いと拳で跳ね返された。

 

「ッ!」

 

射出し終えた熱線は既にジードの口内からは分離している。

だが、弾かれはしたもののそっくりそのまま跳ね返されるなんて思いもしなかった。

ホクヤも咄嗟に取った行動だった。ここで弾いて分散させれば周囲に被害が及ぶ、特に近くにいるデビットとアスティに当たる可能性だってある。

片腕しかまともに動かせない、視界も半分遮られた状態である。正確に弾き飛ばせない、ならばそのままそっくり返せばいいと気と【テンション】で熱線の方向を無理矢理変えた。

しかし、それには一度ジードが全て射出しきらなければならない。

 

危険な賭けではあったが、上手くいった。

 

「–––お、ぉ、オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!」

「ステアゴル!?」

 

ここで立ち上がったのは、ステアゴルだった。

 

ジードの盾になるように仁王立ちをして、その強固な肉体に熱線が直撃した。

 

「ステアゴル、お主!?」

「ガ、ガハハ!お前の熱線はこんなもんじゃねぇよ、ジード!痛くも痒くもねぇ!!」

 

とは言いつつもステアゴルは片膝をついてしまってる。無理をしてるのは明らかだった。

 

また、無理をしてるのはホクヤも同じであった。【テンション】の反動であるオーバーヒート状態による高熱が発症している。片目を失い血を流しすぎたせいで症状はさらに悪化していると言っても過言ではない。

 

「ホクヤ、お前大丈夫なのか!?」

「顔色が悪いよ、ホクヤ君」

 

–––次の瞬間、特別収容所全体、いや、ディースナトゥラそのものが大きく揺れ始めた。

 

「ついに始まったか、まさかこちらにとっても障害になりかねん事態になるとはな」

「そう言うな!あとは隊長たちが何とかしてくれるさ、俺たちは一旦退こう、このままじゃ分が悪いからな!」

「.....儂はまだやれる、お主をここの兵舎にまで連れて行った後に必ずヒュミテ共を仕留めると約束しようぞ!」

 

 

 

『緊急セキュリティシステム作動中。全ドライヴ、及びギースナトゥラとの連絡路は一時使用不能となります。ギースナトゥラ在住の皆様には大変ご迷惑をおかけ致します。繰り返し申し上げます–––』

 

「ホクヤ君!デビット兄、急がないと!嫌な予感がする!」

「俺、もだ」

 

ホクヤはもう立っているだけで精一杯、デビットに肩を借りてる。

警報が鳴り響き特別収容所全体が揺れている。振動の影響で上の階から瓦礫が落ちてくる。

 

「あいつら!」

 

デビットは背を向けるジードとステアゴルに目を向けるが、ホクヤが止める。

 

「やめろ、俺たちの目的はあいつらを倒すことじゃない。テオの救出、今ウィリアム達が動いてくれてるんだろ?上に行って合流すんのが先だ。それに、あいつらも」

「けど、あいつらに、何人の仲間達を、あいつが殺された!油断してる今が好機–––」

「う、ぐっ!?」

「ホクヤ君!デビット兄、無理だよ!ホクヤ君もう限界だよ!」

「ホクヤ.....」

 

アスティが涙ぐみながら訴えてくる、しかしここは戦場。目の前の二人は完全に油断している。

だが、テオを救出するという目的は達成している。

デビットは静かに拳を握りしめて、意識がもう朦朧としているホクヤをアスティに預ける。

 

「.....デビット兄?」

「–––お前はホクヤを連れて上に行け、どちらにせよ殿は必要だ」

 

–––俺は兵隊。目的を達成するために死を厭わない。

アスティの制止の声を無視して、友のスレイスを力強く握りしめて、ステアゴルを背負うジードに急接近する。

 

(–––悪いなロレンツ、マイナ、ホクヤ!先に行く!)

 

この瞬間をどれほど待ち望んでいたことか。友の仇をこの手で取ることができるとは、ホクヤには感謝しなければならない。

 

–––デビットのスレイスはジードの身体を勢いよく貫いた。

 

「が、ばっ!?」

 

あくまでジードの軟硬化は彼の意識下で行われるもの。不意をついた一撃に対応できるはずもなかった。

ましてやステアゴルを背負ってる状態、反応できたとしても動くことができるかわからない。

 

「貴、様...ッ!」

「やっと、やっと一矢報いることができたぜッ」

 

そのままスレイスでジードの身体を斬り裂こうと振り上げたが、肉体を硬化したためスレイスが動くことはなかった。

ジードが振り返り、カパッと口を大きく開く。

 

「ッ!?」

 

デビットがスレイスを手放して勢いよく後方へ回避するが、ジードの伸縮自在の両腕で全身の動きを封じられてしまう。そして、手繰り寄せられるようにして、ジードに近づく。

 

(–––ここまで、か)

 

デビットはもう片方の手に持ったテールボムと呼ばれる超合金のボラミット製金属をも粉々に吹っとばせる爆弾を可能な限りジードに近づける。

 

「ッ!?」

 

–––ジードの熱線が放たれると同時にテールボムも大爆発を引き起こした。

爆風によってステアゴルは吹き飛ばされ、直撃したコアがスレイスによって貫かれて、エネルギーの半分を失ったジードと熱線で頭を貫かれたデビットは相討ちとなることで決着がついた。

 

 

 

「.....!」

「ロレンツ?どうしたの?」

 

その頃、ロレンツが来たことによって応急手当を受けて移動が可能になったユウはロレンツの肩を借りてギースナトゥラを目指していた。

 

「いや、なんでもねぇ」

 

いつになく真面目な表情で突然特別収容所の方へ視線を向けたが、すぐに移動を再開する。

 

「ごめんね、ちょっと無茶しちゃって」

「ったく、本当だぜ。ホクヤもそうだが、お前らは本当に無茶ばっかりだ!いくらリルナとタメ張れるからってよ、限度はあるだろ!」

「.....うん、そうだね」

 

ユウの胸がロレンツの背中に当たってる状態なのに、軽口を叩くことはなかった。それだけ彼もこの作戦に真剣になっている。

 

「そういえば、どうしてここに?ギースナトゥラで待ってたんじゃ」

「今更かよ、お前らが頑張ってんのにおとなしく待ってれるわけねぇだろ!ったく、この戦場のラッキーボーイ様を置いて作戦決行とか、どうかしてるぜ!」

 

ユウはそんなロレンツに安心しながら、ロレンツと歩調を合わせる。

 

「–––それに、来たのは俺一人じゃねぇ!ラスラはもう隊長達と合流してる頃だろ!」

 

 

 

「ウィリアム!ウィリアム、しっかりしろ!」

 

その頃、テオを乗せた車はザックレイによってハッキングされ、ウィリアムも瀕死の状態だった。

現在ラスラの前に立ちふさがっているのはディーレバッツの一人、ブリンダだ。

 

「–––このまま全員、お休みしちゃう?」




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