「...こ、こは?」
「テオさん!目ぇ覚ましたか、よかった!」
「バルナド!王様の意識が戻った!」
朦朧とした意識でゆっくり目を開けたテオの周りには見知った顔もいれば、初めて見る顔もいた。
見知った顔はもう既に死んだと思ってた者たちばかり、ここはもう死の世界、つまりテオは死んだのかと悟った。
「テオ!良かった、意識が戻って!」
「バル、ナド?久しぶりだね、僕は、死んだのか?」
「馬鹿なこと言ってんじゃねぇッスよ!ホクヤの兄貴が体張って助けてくれたんだから!」
ホクヤ、そういえばリルナと対峙していた男の名前だ。辛うじてあった意識下で一番最近聞いた男の名前。
まさか、自分の知らぬヒュミテであれほどの強者がいるなんて思いもしなかった。
「へへ、俺たちが脱獄できたのもホクヤの兄貴のお陰だ!このまま外を目指すぞ!ピスケス、次はどっちだ!?」
「このまま真っ直ぐよ、地上に繋がってるエレベーターがあるわ」
「あなたは、まさか、ナトゥラ!?」
「そうよ、不満?」
バルナドと同じ囚人服を着た女性が明らかなふくれっ面をする。
「いや、そういうわけじゃなくて」
「まぁ、驚くのも無理ないッス。この人元々ここの警備員で中の構造には滅法詳しい人なんですよ!」
「.....そう、じゃなくて」
まさか、ヒュミテとナトゥラがこんな風に会話してるなんて。
殺伐とした様子もなく、お互いに仲間であると信頼し合っている。
テオはそのことに戸惑いと感動を覚えた。
(近い未来、こんな景色が一般的になればどれだけいいことか)
「ここよ、この荷物運搬用の大型リフトに乗って全員で外へ一気に行く」
ピスケスが手慣れたようにボタンを操作する。ヒュミテ感知センサーにも反応しない彼女はとても心強い、バルナドが信頼を置いてるのもよくわかる。
「そういえば、僕たちにセンサーが反応してないけど」
「あぁ、それはこの囚人服のお陰ッス!何でかわかんないですけど、こいつはセフィックと同じ素材で作られてるんですよ!」
「まぁ、この特別収容所は何故か脱獄犯よりも外部からの侵入対策の方が強いからね。監獄内で間違って囚人でセンサーに反応しないための仕様よ」
テオは何故自分がここに収容されたのか納得がいった。同時に彼の収容されていたフロアにはセンサーがない、つまりあそこまで侵入者が辿り着くことを想定していない、否、辿り着かせないと言った方が正しいのかもしれない。
ポーン!とリフトが到着し扉がゆっくりと開く。
–––そのリフトの中央にはリルナが静かに佇んでいた。
※
「内通者、だと?」
–––左目を潰された。
そのことを確認するまで時間はいらなかった。眼球弾け飛んだし。
プラトーはまだ何か話すつもりなのか、急いでリルナを追いたいところだが、今は左目だったところの止血が先だ。どこを刺激すれば血が止まり、治りが早いかは大体わかる。頭蓋骨を貫通しなくてよかった。
「そうだ、貴様が今所属してるレジスタンスグループ、ルナトープだったか?そのメンバーの一人から定期的に報告を受けているのさ」
「.....いいの、か?俺にそんなこと言ってよ」
「–––あぁ、貴様を帰すつもりはないからな」
–––だと思ったよ、コンチクショウ!
左目の止血はまだ時間がかかりそうだ、視神経は完全に死んでるから左側が全く見えない。
それを知ってか、プラトーは俺の左側へわざわざ移動してそこから攻撃を飛ばしてきやがる。
クソ!痛みのせいで【テンション】が上がらねぇ、中途半端に熱ばっか出てきやがる!入り口で思いっきり出したつもりだったんだが、やっぱり使いすぎたか!
幸い、熱感知はまだ生きている。プラトーが撃った弾に熱は籠ってる。
–––三発。
それぞれ頭、首、足を狙ってきてる。あぁ、こんな時にリルナのパストライヴ使えたら便利なんだろうけどな。
気震気声!
周音波による振動破壊!俺が使える攻撃の中で一番範囲の広いやつ!
「ぐ、ぁ!?」
うし、ちゃんと効いてるな!
プラトーのさっきの言い分から、テオは既にあいつらが連れ出した。それなら俺がやるべきことはリルナを止めること、そして俺自身の安全確保だ。
多分だが、あいつらにリルナを止めることはできない。せめて足と手を破壊できればいいんだが...
(左目が潰されて視界がハッキリしない今、あいつと戦えるのか?)
けど、戦わなければならない!
脚に気を纏わせ、上階へと移動する。目の止血に気を使っているせいか、それともこの世界の許容性の低さのせいか、いざって時に気が思ったよりも外に出すことができない。
プラトーの体に何か異常が起こったのか、動く様子はない。
と、最後のダメ押しだ!まだ力は少しだけなら残ってる!
体の何百倍もの瓦礫を上からプラトーに向けて投げつけた。
(ダメだ、血を、流しすぎた。気も【テンション】も、使いすぎた、か。これ、以上は.....)
※
ホクヤからの連絡があってから四十二分。
ユウとアスティ、ウィリアム、デビットは第八街区の特別収容所に辿り着いていた。
ユウは男になり、内部の情報を探ろうと気を探知しようとするが、ほとんどの気が感じることができない。
「.....ここからじゃ中の様子がわからない。やっぱり中に行くしか」
「待て、あの水色の車はリルナの乗っているモノだ。つまり、あいつもここに来ている!」
一階部分が焼け爛れ、それでいてとんでもない重量の弾が撃ち込まれたようになっていた。大地は削れており、とてもではないが何をどうしたらあんなことになるかわからない状態だった。
ユウは即座にホクヤがやったと確信を持つことができた。
「それでも、行かなきゃ!」
「待てユウ。一人で行っても危険なだけだ、もしホクヤが本当に中で暴れてるなら尚更な」
「でも...」
「時間がないことはわかってる、だが、遅かれ早かれ俺たちは乗り込むつもりだったんだ。ちょっと事が早くなっただけさ」
「デビットの言う通りだ。ホクヤ君が作戦外行動に出た時は焦ったけど、それは向こうも同じはずだ」
「そうだな、仮に情報が向こうにいっていた場合だと向こうにとっても番狂わせなわけになる」
「だったら!」
「お前も落ち着けアスティ、それにお前が前線にいっても仕方ないだろ」
デビットがアスティの頭をわしゃわしゃと掻き分ける。
「で、どうする?隊長」
「.....行こう、ここでじっとしていても何もできやしない」
ウィリアムの言葉に三人は静かに頷く。
デビットを先頭に左右にユウとウィリアム、三人のちょうど中間に位置するところにアスティが張り付いた。
一階の警備は手薄、というよりもほとんど皆無に近い。手足を切断された者、強打して意識を失った者が主に倒れてる。
少し進んだところで悲鳴が聞こえた。
それと同時にユウは背筋に冷たいものを感じた、この殺気を、知っている!
「.....リルナ!」
道の角から人が走ってきた。全員が同じ服装をしている。
何かに追われている。必死の形相で逃げている様子からそのことが窺える。
「テオ!?」
「まさか、ウィリアムか!?」
ウィリアムの声を聞いてハッとなった。今し方、走ってきた赤い髪の青年に背負われた男こそが今回の救出対象であるヒュミテ王テオだった。
–––その後ろからは返り血を浴びたリルナが両手にインクリアを握りしめてこちらに迫ってきていた。
「逃がさん」
「マズイ!リルナだ!」
「ぐっ...ッ!」
–––この場において、誰よりも早くユウは駆け出していた。
リルナに向かって、自慢の気剣を左手に携えながら。
「ッ!お前は!?」
「リルナ、できるなら、こんな形で会いたくなかったよ!」
–––ユウとリルナが、激突した。
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