フェバル〜青年ホクヤの軌跡〜   作:Cr.M=かにかま

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67.ヒュミテ王救出作戦会議

 

「オイラの番か、オイラはリュート!足の速さにはここの誰にも負けない自信あるぜ!」

 

「レミと申します。上司のクディンと共に後方支援を担当させてもらいます。よろしくお願いします」

 

「アウサールチオンの集いの代表、クディンだ。皆さん遠路はるばるこのギースナトゥラまで足を運んでくれたことに感謝します。こうして我々が無事に合流できたことにも感謝を」

「そういうのは止そう、クディン。我々にも今回のことは感謝しているんだ」

「そう、だな」

 

ウィリアムから時計回りで始まった自己紹介はクディンまで回り、ひとまず終わった。

アウサールチオンの集いの連中もかなり癖が強いみたいだ。さっきからレミって女にガン付けられてるし。

途中、俺とマイナでロレンツに茶々を入れたり、デビットがロレンツに肘鉄を食らわしたり、アスティがはっちゃけたり、とルナトープメンバーが好き勝手やったが支障をきたすことなく進めることができた。これもウィリアムの手腕だとすると、あいつは相当な苦労人なんだなと改めて思わされる。

 

–––さて、これでこれから共に戦う仲間の顔と名前はぼんやりだけど頭に入れることができた。

次にウィリアムが紙資料を取り出して全員に配る。ここに作戦内容が簡潔にまとめられているようだ。

 

目的は第八街区四番地にあるディースナトゥラ第一刑務所、そこに囚われているヒュミテ王テオの救出。

割と細かい内部構造まで記載されているが、これを覚えれる気はしない。要点だけ目を通しておこう。

結構時間は人気のない深夜、ナトゥラには活動エネルギーを補充するために必要な充電時間がある。それはヒュミテにとって、俺たち人間にとっての睡眠行為だ。だからこそ、深夜を狙う。

 

「可能性があるとすれば、地下の収容施設。もしくは警備が厳重なところと考えられる」

「でもよ、そう見せかけて別の場所だってことも考えられるぜ。第一刑務所以外にも刑務所はあるんだ」

 

ロレンツが早速配られた資料とウィリアムの言葉に対して指摘をする。ネルソンさんも思うところがあるのか、頷いている。

指摘に対しての言葉を投げたのはクディンであった。

 

「その点に関しては僕とレミが保証させてもらう。彼女に備わってるヒュミテ感知センサーがテオの反応らしきものを確認している。ほぼほぼナトゥラしかいないこの街でヒュミテの反応があったのは第一刑務所だけだ」

「それにね、ロレンツ。あそこは絶対に破れない、という自負と実績の塊でもあるの。これまで特別収容区画まで辿り着けた者も脱獄できた者も誰一人としていない」

「連中が絶対の自信を持ってるなら可能性は高いか、クディン殿も嘘を吐くメリットはない、か」

「デビット、あまりそう言うこと言わないの」

「.....はいはい」

 

次にマイナ、デビットが言葉を紡ぐ。

知らない用語が多いな。下手に口を挟まない方が良さそうだ、あのロレンツでも議論に参加できてる。

そのロレンツの言葉の意味や専門用語を知らないようでは、俺の言葉は雑音でしかない。あんまり難しいこと考えるのも得意じゃない。

 

「向こうの体制は万全。戦力はディーレバッツがいる、こちらが圧倒的に不利というわけか」

「だな、せめて奴らの機能がわかりさえすれば対策くらい立てれるだろうに」

「まぁ、俺たちに有利な点があるとすれば俺たちがここに来たことを知られてないのとホクヤが加わったことくらいか」

「あと、ユウ君もね」

 

デビットがこっちに目を向けてくる、おいおいやめてくれよ。そんなに期待されても何もできやしないぞ。

 

「期待してくれてるところ申し訳ないが、できることは少ないぞ?」

「謙遜は止せって、俺の見立てじゃこの場でホクヤより強い奴なんていないと思うし!」

 

痛ーよロレンツ、背中をバシバシ叩くな!ラスラもあまり睨むな、あとで試合に付き合ってやるから!

 

–––それに、もう一人注目されてるユウさんは俺よりも強い。

実際に戦ったわけじゃないけど、そんな気がする。本能、第六感でそう感じる。

アスティに絡まれて若干迷惑そうなユウさんが立ち上がり、全体を見渡しながら一言宣言する。

 

「–––話の腰を折るようなことで申し訳ないけど、私は戦闘ではなるべく誰も殺さないようにする」

「は?」

 

その呆れるような一文字を出したのは誰かはわからない。

俺はユウさんの言葉を重く深く受け止めた。フェバルである以上、強すぎる力を振るえば世界の概念をも変えることができてしまう。

だからこそ、ユウさんは殺生を極力しない。そういうことなのだろう。

 

「–––正直、私はこのヒュミテとナトゥラがぶつかり合ってる現状でさえ納得がいってない。いずれは手を取り合って欲しいと思ってる。だけど、これは私個人の意見、誰かに強要するとかそういうのは一切しない」

「.....本気、なのか?」

「本気」

 

デビットが恐る恐る尋ねる。ユウさんは強い意志を持って肯定した。

さっきまでの重苦しかった雰囲気が一気に沈下してその場にいる全員が呆気に取られていた。

沈黙が場を支配する。

 

「甘い、な」

「.....ったく、どういう育ち方したらそうなるんだか」

「そうかな?私はそういう考え方もありだと思うけど」

「オイラもオイラも!ユウの考え方素敵だと思うよ!」

 

理解者はいた、か。正直俺もフェバルとして色んな世界を巡ってなかったら、故郷で過ごしていたままの俺ならばユウさんの考えを一蹴していただろう。

 

「俺もいいと思いますよ、それは実力が伴ってないと言えないようなことだ」

「ホクヤ!?」

「–––だからこそ、あんたには期待してますよ。ユウさん」

 

–––けど、ちょっとテンション上がってきた。

俺は戦闘狂ではないと自負してる、だけどここまで言う人物がどれほどの実力者なのか。ユウ・ホシミというフェバルがどこまで理想を現実にしてしまうのか。

ただ単なる興味、雰囲気と物腰からは図り知れない実力に俺は心躍っていた。

 

「二人とも、その辺に。そろそろ会議を進めたいんだけど、いいかな?」

 

おっと、そうだった。

 

「すみません、話の腰を折ってしまって」

「悪い、進めてくれ」

 

ウィリアムに促されてユウさんは席に座る。席に座る際、こちらに向かって何か言いたげな表情を浮かべていた気がするのは気のせいだろうか?

こほん、とウィリアムが咳払いを一つして会議を再開させる。

 

「–––先ほどの続きから始めよう。たしかにディーレバッツは脅威だ、こちらにも二枚のジョーカーはあるがそれでも未知数なことに変わりない。だからこそ、スピードが重要になってくる」

「その通り。だからこそ、ディーレバッツ、特にリルナがやって来るまでにテオを救い出さねばならない」

「–––そこで、奇襲及び先行はラスラにデビット、ホクヤ。それからユウ君に任せたい。頼めるか?」

「大丈夫だ、問題ない」

「わかった」

 

ラスラとデビットが返事をし、俺が縦に頷く。ユウさんも肯定の意を表したようでウィリアムが話を進める。

 

「それから第一刑務所内部での援護、陽動は私とネルソン、ロレンツでやろう。外部への脱出ルートの確保、都市部における陽動に関してはアスティとマイナ。地の利に詳しいリュート、キブル、アムダに頼みたい」

 

クディンの傍に待機してたキブルとアムダと思わしきチルオン二人が静かに頷く。

アスティも敬礼のような仕草と共に返事を返した。

 

「敵の動き、特にディーレバッツの動きの捕捉はクディンとレミに頼みたい。支給する無線で何かあれば即座に伝えてくれ」

「わかりました」

「すまない、僕らはあまり役に立てなくて」

「気にすることはないさ、それぞれできることに全力を尽くせばいい。下手に大勢で動き回るのも危険だ、それにクディン達の役割は犠牲を減らすために最も重要な役割だ」

「.....そう、だな。わかった、僕たちは全力で後方支援に務めることにしよう!」

 

ウィリアムが頷く。

 

「さて、無事にテオを救出した後はギースナトゥラからルオンヒュミテに向かう。それまでにもディーレバッツは攻めてくることも考えられる、エルン大陸を抜けるまでは気が抜けないと思っておいてくれ」

 

部屋を見渡す、全員が覚悟を決めた表情を浮かべている。

 

「–––以上だ。他に何か言うことのある者は?」

 

ウィリアムが部屋を見渡す、誰も何もないようだ。話すべき点は終わった、あとは当日を待つのみ、ということか。

 

「–––では、作戦会議は以上とする。これより一週間は休養、及び合同演習に充てることにする。旅の疲れと連携の確認を取る必要性がある、時間はないが焦らず確実に作戦を成功させるため、万全な状態で挑むぞ!テオは我々で必ず助け出す!」

 

–––ウィリアムの号令に決意を固め、会議は終了した。

 

 

 

皆がバラバラに会議室を後にする中、俺は会議室の出口付近でユウさんを待った。

あの人とは話したいこと、聞きたいことが山ほどある。今はロレンツが絡みに行ってる、あ、殴られてる。

デビットが回収してこっちに来た。

 

「お疲れ」

「まったくだ、この馬鹿のお守りは疲れる」

「.....うぐ、やっぱ女ってサイコー」

「ったく」

 

サムズアップしたロレンツを引きずってデビットは部屋を出て行った。

やれやれ。もう見慣れた光景だがどうしても溜息が出てしまう。

 

しばらくして、ユウさんがこちらに向かってきた。

 

「えっと、ホクヤ、だっけ?」

「えぇ、まぁ、そうッスね」

「.....ちょっと聞きたいことがあるんだけど、時間大丈夫、です、か?」

「–––大丈夫、こっちも聞きたいことあるので。あとで部屋に迎えばいいですか?」

「あ、ううん!アスティのところに行ったらそっちに行くので!」

 

なるほど、俺が行けば気まずくなるのは確実って感じだな。女二人いる空間に土足で行くほど俺も無粋じゃない。大人しく待つことにしようか。

 

「わかりました、では後で」

「う、うん」

 

そそくさとユウさんは部屋を後にした。さて、先約があるのなら仕方ないな。

待ってる間クディンのところへ挨拶に行こう。まだ話してないし、共闘するにあたって情報は共有しておきたい。この世界のことも少しでも多く、チルオンの視点から知りたいってのもある。

 

「あれ、マイナ?」

「ホクヤさん、どしたの〜?」

「いや、クディンに一声挨拶しとこうと思って、まだ面と向かって話したことないからさ」

「なるほど、私は今回持ってきた物資の補充結果を伝えに–––」

 

途中で合流したマイナと他愛ない話をしながらクディンの部屋へと向かった。

そういえばルナトープがここに来た目的の一つとしてアウサールチオンの集いに必要物資の運搬ってのがあったな。クルトーリアに立ち寄っていた理由の一つでもある。

 

クディンの部屋の前に辿り着くと、マイナがコン、コン、コンと三回ノックをして、扉を開いて入室する。

 

「失礼します」

「マイナ、とホクヤ君か」

「ども」

 

クディンの部屋にはレミとキブルにアムダがいた。レミにはもちろんのこと睨まれてるし、見た目の平均年齢が低いことにまだ慣れない。

 

「二人揃って、何か用かい?」

「俺はあんたに挨拶を、まだきちんと話してなかったし。ホクヤ・フェルダントです、よろしく」

「これはご丁寧に、アウサールチオンの集い代表のクディンだ。プラトーを退けたという功績の持ち主だ、実力と活躍を期待してる」

「.....ちょうど良かった、あなたに私からも聞きたいことが一つ、いや、いくつかあって」

 

明らかな警戒心を剥き出しにしてるレミ。聞きたいこと、か。

そう言ってレミはディスプレイを取り出し、ある画面をこちらに向けてくる。

 

「–––この写真と貴方は同一人物よね?懸賞金百万ガル、しかもONRY DEADなんて、一体何をしたの?」

 

うわ、見当もつかない上に賞金首になってることも今初めて知った。

しかも、死のみって。生け捕りは許されないようだ、連中というより十中八九プラトーの仕業だな。

 

「それに、あなたが突然上に現れたことも気になるわ。ヒュミテが堂々と何の前触れもなくディースナトゥラの街中に現れるなんて、馬鹿なの?」

「んだと、コラ?」

「ていうか、どうやって現れたのよ?ユウはわかったけど、あんただけはどうしてもわからないの」

 

うー、怒涛の質問攻めだ。

さて、どう説明したものかな。どうやらプラトーのように俺のことを知っているという雰囲気ではない。

となると、やはりプラトーには色々と問い質すべき必要があるな。

このレミって幼女、見たところ賢そうで動きもそこそこだ。じりじりと周りが不審に思わないレベルで距離を詰めてきてる。

 

「どうしたの?だんまり?」

「おい、レミ.....!」

「クディンは下がってて」

 

「ホクヤさん.....」

「大丈夫、このガキに気圧されるなんてマヌケな事はしない」

 

不穏な雰囲気を感じ取ったクディンとマイナが動く、でも制止させる。

実際こんな幼女に動揺させられるほど、俺だってガキじゃない。

 

「質問が多いから手短に応えるぞ」

「助かるわ」

「一つ、この写真と俺は同一人物。二つ、心当たりは一つだけあるが、理解されないだろうから話す気はない。三つ、俺だっていきなりあんな扱い受けてビビった。四つ、空から降ってきた」

「.....一つ目の応え以外納得できない」

「それ以上の詮索は不要だ」

 

そう、俺は事実しか言ってない。

何一つ間違いは言ってないのだから何の問題もない。

 

「.....わかった、仕方ないから納得する。最後に一つだけ教えて」

「.....何?」

「–––プラトーの、機能」

 

あ、そういえばプラトーに関する情報を会議で言うの忘れてた。

 

「.....機能は知らない。けど、奴は狙撃手だ」

「それくらい知ってる、私が聞いてるのは機能よ機能、どぅーゆーあんだすたん?」

 

–––よし、喧嘩だコノヤロー!

数秒後、スレ吉とスレ助を携えた俺とガンを飛ばしてくるレミはマイナとクディンによって激突寸前のところで止められた。

 




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