フェバル〜青年ホクヤの軌跡〜   作:Cr.M=かにかま

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65.ホクヤとルナトープ

 

翌日、俺は朝からロレンツに捕まっていた。ここを出発するのは明日、それまでは自由にしてていいらしい。

 

「で、何の用だよ」

「へへへ、じゃあホクヤも来たことだし、お披露目といこうか!」

「そうだな」

 

先客としてデビットがいた。彼も何だかそわそわしている。普段の冷静な様子とは少し違う、ロレンツはいつも通りだ、ドヤ顔をしながら顎髭を撫でてる仕草が妙にうざく感じられるのは何故だろう。

ここはクルトーリアにある空き家の裏、人目のつかないような暗い一角である。わざわざこんな場所にまで来てやることがあるんだろうか、それに何故俺が呼び出されたのかいまいちわからない。ルナトープの中でもフランクな奴だとは思ってたが、ロレンツは持ってきた鞄の中から数冊の本を取り出す。

 

「–––男の聖典よ、ここに顕現せよ!」

 

エロ本かよ。

 

「さすがロレンツだ。中々いい品が揃ってる」

「だろ?へへ、この俺をあまり甘く見ないでもらいたい!」

「.....ていうか、お前どうやって調達したんだよ、紙の書誌なんてもうほとんど残ってないだろうに」

 

そう、この世界ではもう本は扱われていない。少なくとも機械人間であるナトゥラには必要なく、情報を直接頭にインストールする方法が使われているらしい。ヒュミテはまだ必要らしいけど、エロ本って。

これがもっと貴重な情報源だったら素直に喜べたかもしれないが、エロ本って。あ、この表紙の子可愛いな。

 

「こいつは、いいな」

「お、わかってるな!さすがデビットだ!このぷるんぷるんとしたおっぱいの本は結構高値でな、値切るのが大変だったんだぜ、貸そうか?」

「ぜひ」

 

この二人は、と思いながら俺もロレンツの持ってきた本を漁る。全くけしからん、興味がないわけないじゃないか。巨乳モノが多いな。

 

「お、やっぱホクヤも興味ある?」

「あるけど、脚はないのか?こう、太腿とかすらっとした脚線美的な」

「んー、今回はないな。また今度探してきてやるよ!」

 

そうか、ホクヤは脚派か!とかデケェ声で言ってんじゃねぇよ!

ま、まぁ、胸も悪くはないけどさ、にしてもすっごいぷるんぷるんだな。おぉ、今にも動きそうだ。多分モデルの人はヒュミテなんだろうな。ナトゥラだとこんなシチュエーションの撮影なんてできないはずだ。そもそも紙文化廃れてるみたいだし。ん、ということはナトゥラは直接脳内に.....

 

–––これ以上考えるのはやめよう。

 

「そういや、デビット!スレイスってさ威力固定なの?」

「ん、まぁな。だが、ナトゥラの体を形成してるボラミット製の金属を斬れる威力はあるぞ」

「へぇ」

「それにしてもホクヤも二刀流を扱うなんて思ってなかった、徒手空拳専門じゃないのか?」

「まぁ、ちょっとかじった程度だけどな。基本は素手だよ」

 

主に見様見真似なんだけどな、ホクエ姉の。ドラちゃんとスーパ君の二つを使ってたときもホクエ姉の動きを参考にしたし。

 

「今度オレとも手合わせしてくれないか?オレも二刀流なんだ」

「そうなの?わかった、やろう!」

「お互いに学ぶべき点があるといいな」

 

おっと、意外な共通点。だけど見様見真似の俺の二刀流よりもデビットの方がいい動きをしそうだ。

昨日ラスラと斬りあったときもわかったけど、どうも体術メインで戦ってきたからリーチの感覚がまだ掴めない。

スレイスの刀身の長さはドラちゃんやスーパ君を越えてる、早く慣れないと実戦で足を引っ張っちまう。

 

「–––おいおいおい!お前ら、俺の成果を差し置いて試合の約束とかいい度胸じゃねぇか!貸してやらんぞ!」

 

「「すみません、それは勘弁してください」」

 

今のロレンツには逆らうことができなかった、エロは偉大なり。

 

その後、尻派のラビルドが乱入してきて楽しく猥談をした後にロレンツが資材調達という名目でエロ本を探しに行ったため、その場はお開きとなった。

 

現在俺はルナトープのメンバーと親睦を深めるべく、携帯食料を食べながら適当な雑談をする。現在この場にいるのアスティとマイナとラスラとデビットだ。

ウィリアムとネルソンさんはラビルドのところへ、ロレンツは戻ってくる様子なし。

 

「そういえばマイナ姉、ホクヤ君のセフィックどうするの?」

「どうしましょ?高価なものだしねぇ、急には無理ね」

「え?もしかしてないと困る感じ?」

「少しね、ディースナトゥラには私たちヒュミテの生命力を感知するセンサーがあるところにはあるから」

 

マジか、だけどなるほどな。道理であの時警備隊、ディークランだっけ?連中がいち早く俺の所に来たわけだ。

ということは、ナトゥラ達自体に気を感知することはできないってことか。あくまでも街にあるセンサーに頼ってるってことなのだから。もぐもぐ。

 

「誰かの使い回しでも問題ないぞ」

「え、私の使った後のをそのまま使うの?ホクヤ君のエッチ〜」

「自分のサイズ自覚してから言え、それじゃあ厳しいのかマイナ?」

「え、えぇ、そうね。基本的にサイズはしっかりしたものを着ないと機能しないこともあるの。それに余りもなくて...」

 

マイナが申し訳なさそうにする。なるほど、ちゃんと機能しないのは困る。気でも隠せる力があればいいんだけど、俺の場合は気を無駄に感知しやすくするだけだからなぁ。もぐもぐ。

 

「急に押しかける形になっちまったからな、すまない」

「そういうのはやめよう、もう私たちは仲間だろ?」

「ラスラ...」

「そうだよ、ホクヤ君!マイナ姉も助けてくれたし、プラトー撃退しちゃうし、ラスラ姉とは互角だし!すごいよ!」

 

近い近い、どうでもいいけど顔が近いアスティ。めっちゃ目輝かせてるし、ぐいぐい来る奴だな、本当に。

 

「–––はいはいはい、アスティそこまでね。ホクヤさん困ってるでしょ?」

「ちょ、マイナ姉、引っ張らないで!服が伸びる!」

「ふぅ」

 

ナイス、マイナ。あれ以上迫られてたら後ろに携帯食料落としちゃうとこだったよ、なんでラスラは赤面してんの?デビットもデビットで複雑そうな表情しちゃって。もぐもぐ。

ていうかこの携帯食料って素材何なんだろ?結構おいしい、うん、ホクト姉の料理よりも何倍も美味い。

 

「早くて六日、遅くても作戦決行までにセフィックは調達できるから心配しないでいいわよ」

「そ、そうか」

 

まぁ、あったことには越したことはないか。もしかしたら他でも役に立つことがあるかもしれないしな。

 

「ホクヤ、食後の運動にでも一戦やらないか?今ならお前を容赦なくやれそうなんだ」

「い、いいけど俺何かした?」

「別に」

 

何だろう、デビットから今まで感じたことのない殺意を感じる。スレイス、もといスレ吉とスレ助を両手に握る。頼むぜ、相棒達よ。

 

 

 

「世話になった、ありがとうラビルドさん」

「気にするな、こちらもルナトープの力になれてよかった。武運を祈る」

 

翌日、俺たちはクルトーリアを出発することになった。移動手段はもちろん徒歩である、一人だけ飛んで先に行くわけにもいかない。

 

「ディースナトゥラには六時間後に到着予定だ」

 

.....六時間の距離を俺は二時間半で移動していたのか。やっぱフェバルの能力っておかしいんだな、うん。

ていうか、またあそこに戻るってなると少し憂鬱な気分だな。街一つに追いかけ回されたようなものだし、あまりいい思い出があるわけじゃない。思い入れもないけど。

 

「隊長、ホクヤのセフィックはどうするんだ?このままではディースナトゥラに入れないだろ」

「え、街の中入るの?」

「そりゃ入るよ、そうしないとギースナトゥラに行くことができない」

「–––いや、今回は外の抜け道を使う」

 

外の抜け道?

 

「クディンには私から連絡を入れておいた、話は通ってる」

「.....問題はなしか」

 

ネルソンさんも納得しちゃったけど、俺は全然納得できない。

 

「えっとね、ホクヤさん。ディースナトゥラの地下にギースナトゥラっていう場所があるの、そこに今回の作戦に協力してくれる人たちがいて彼らに合流する。そのためにディースナトゥラに入る必要があったんだけど–––」

「さっき言ってた抜け道が関係してるのか?」

「そう、そのギースナトゥラのアウサールチオンの集いの人たちが外部から資材を取り入れたり、いざという時のための逃げ道がいくつかあってその一つを使う。常に開いてたら危険があるから、開くには内側から誰かに開いてもらう必要があるの」

 

隣にいたマイナが説明してくれた。ありがとう。

ギースナトゥラ、か。ある一種のスラム街っていうのは聞いてる。そこで暮らしてるアウサールチオンの集いのこともウィリアムから話は聞いたけど彼らはナトゥラながらも現在の状況に不満を持つレジスタンス、らしいな。

なんでもナトゥラには大人と子供が存在しており、機体更新と呼ばれる儀式みたいなもので大人になれなかった子供、子供の形態をチルオンというらしく、そのチルオンや社会不適合者が集まったのがギースナトゥラで今回協力するグループがアウサールチオンの集いになるようだ。ディースナトゥラ以外にも色んな所に支部があるらしい。

 

「ま、元々物資は上から補給してるらしいけどね」

「形としてはうまく機能してるみたいだな」

 

話を聞いた限りだとな。見た目が子供でも頭脳は大人なんだろうな、挨拶するときは気をつけよう。

 

「クディンが言うには、あちらにもかなり強い助っ人がいるそうだ」

「へぇ」

「フン、うちのホクヤよりかは劣るんだろうがな」

「お前は何様だよ」

 

副隊長、とりあえずスレイスを構えるのはやめてもらいたい。不意打ちだと結構心臓に悪い。

 

「–––だが、今は少しでも戦力が欲しいところだ。申し分ない」

 

ウィリアムの言葉にネルソンさんとデビットが頷く。

 

–––これが、俺にとって運命と呼べる出会いになるなんて、この時は知る術もなかった。




おまけ
その頃、ユウは...②

アウサールチオンの集いのアジトで生活をしつつ、ヒュミテ用に設計されたコンピュータを使って情報を集める。ナトゥラ用だと右手の人差し指を差し込んでプラグインして使うようだけど、もちろんそんな芸当この世界においては分類上ヒュミテであるユウにできるはずがない。
世界の歴史から基本知識、そんなことをしてるとある記事が目に入った。指名手配犯の写真である、最初は自分と思ったが、違った。
まず、髪はこんなに長くないし白くない。ガタイもここまでよくない、何しろユウは言ってて悲しいが男よりも若干女寄りだ。

懸賞金百万ガル、死のみ。

そう、大きな違いはここだ。ユウの場合は十万ガルで生死問わず、だが、この男は百万ガルで死限定。
余程のことをしたのだろうか、どこか引っかかるが何かはわからない。

–––あと、一日ほどで出会うことになるなんて思いもせずに。

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