フェバル〜青年ホクヤの軌跡〜   作:Cr.M=かにかま

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62.ホクヤ、英雄になる

 

さっきの狙撃手、ピンク髪の女が言うにはプラトーって名前の機械人間を撃退して、さっきの村の熱反応を頼りに移動を始めた。奴にはもう一度聞きたいことができたし、あと何発かぶん殴ってやりたい。何故俺を狙ったのか、尾行はいつからしてたのかを聞こうと思ってたのに聞くことが増えてしまった。

しばらく歩き、ウィリアムと血気盛んな黒髪の女がこっちまで来た。二人とも息を切らしている。

 

「ホクヤ君、無事か!?」

「あぁ、問題はない」

「まったく、君はなんという無茶をするんだ!」

 

お、おう。説教ですか、長いのは勘弁ですよ。アルドニモーでミカに何時間も正座させられたときは怖かったなぁ、うん。思い出すだけで背筋がゾクゾクする。

とても心外なことにウィリアムが呆れ顔で溜息を吐いている横で、黒髪の女が何かを構えてる。俺の目が正常であるならそれはビームサーベルと呼ばれる、かつて故郷の悪友達と実際にあるのかないのかの議論を三時間ほど交わしたことのある近未来兵器のはず。

 

「説教はそろそろいいだろ、隊長。早く私はこいつと手合わせがしたい」

「.....全く、ラスラはどうしてそんなにも短絡的なんだ」

「だって仕方ないじゃないか!マイナを助けてくれた礼もせねばならん!」

「それは礼になってないよ」

 

どうやらラスラって女はとにかく理由を付けて試合をしたいらしいな、バトルジャンキーってやつか。

 

「−−−とにかく一度戻ろう。すまないホクヤ君、戻ってラスラと一戦してやってもらってもいいだろうか?この戦闘バカは一度でも戦わないと気が済まないらしい」

「いいけど、あんたも苦労してるんだな」

 

うん、ルナトープのメンバーはたしかに実力者揃いみたいだけど、同時に曲者揃いでもあるみたいだ。さっきから血気盛んなラスラは嬉々とした表情だし、本物だコイツ。終始俺の命を狙ってたシャナ並みにタチが悪い。

とにかく、今は情報を集めてプラトーって奴ともう一回会って知ってることを聞かなきゃならない。何であいつからメノ部族って単語が出てきたか気になる、この世界じゃ無縁、いや、もう俺がフェバルとして旅立った時点で聞くことはないと断言できる名前を。

 

ウィリアム、ラスラに連れられてまたヒュミテ達の暮らす村に戻ってきた。すると、今度は歓迎ムードだった。ルナトープのメンバー達もいる。

 

「おかえり、隊長、副隊長!皆待ってるぜ!」

「ロレンツ、これは一体?」

「あぁ、実はな−−−」

「村長さんがここを守ってくれて、マイナのことを救けてくれた礼にとアスティ達が張り切ってしまってな、そこの英雄さんに礼をしたいらしい」

 

そう言ってルナトープのメンバーの一人である青髪の青年は俺のことを指差す。あれ、もしかして英雄さんって俺のこと?

ていうか、ラスラの奴副隊長だったのかよ。

 

「ちょ、デビットォ!?俺が説明しようとしたよね、俺普通に喋ってたよね!?何で俺の役割取っちゃうの!?」

「うるさい」

 

オレンジ髪の男と青髪の青年が言い争いになってるし、なんかタイプが違う感じだから揉めることも多いんだろうな。

 

「ヤッホー!ホクヤ君!」

「やっほー、君はルナトープの誰だ?」

「私はアスティ!マイナ姉のこと助けてくれてありがとうね!握手握手」

 

おおう、勢いが凄いなコイツ。とりあえず握手握手。ちょっと小柄な奴なのに元気だけは一番って感じだ。

アスティの後ろにいる俺が咄嗟に押し倒、いや、救けた金髪の姉ちゃん、多分あの人がマイナに当たる人物。

 

「ど、ども」

「どうも〜」

 

うん、天使のような笑顔だ。癒し系といった感じだろうか。同じルナトープの女でも三者三様でここまで変わるものだな。

 

「ていうか、アスティよ。いくらなんでも英雄は言い過ぎじゃね?」

「あー、それは村長さんが張り切っちゃって−−−」

「どうも!村長のラビルドです!改めて英雄さんのお名前は!?」

「あー、ホクヤ・フェルダントと申します」

「ホクヤさん!ではうちの村にボラミット製の彫刻を用意させてもらいます!あのディーレバッツの副隊長を撃退した実力、英雄と称すに相応しい!」

「ちょっと待て!?あんた詳しすぎないか!?」

 

そもそもディーレバッツって何!?

ウィリアム達にも状況説明したのさっきなのに、なんでこんなに詳しいのこの人!?

 

「てへ☆」

「お前かアスティ!!」

「狙撃手は目が命!」

「いや、目視できる距離じゃなかったはずだぞ」

 

さすがのラスラも呆れてた。ていうかラビルドさんも準備早いよ!

ていうかあんたが造るのかよ、ていうかデカイな!目測で10メートルくらいはあるぞ、どこから用意したんだよ。

 

「.....騒がしくて済まないね、主にうちの者が」

「.....苦労してるんだな、あんた」

 

どうやらこの世界も一筋縄ではいきそうもないな。知らない単語も増えてしまったから、覚えることも多そうだ。せめてこの世界の一般常識は頭に叩き込んでおきたい。いつまで滞在するかわからないが、ないよりはある方が圧倒的にいい。

ボロをこぼして非常識人扱いされるよりは、うん、ある意味慣れたけどさ。

 

 

 

一度、ルナトープのメンバー全員とプラトーの熱光線で穴があいてしまった住居へと移動する。

改めて自己紹介と情報の共有、といっても俺から提供できるものは少ないんだけどね。ラスラは今でもうずうずしてるし、めっちゃ落ち着かない。

 

「ホクヤ・フェルダント、訳あって世界を旅してる。出身は孤児だったから覚えてない、これでいいと思うか?」

「うん、それで通そう」

「.....隊長、そんな堂々と身分捏造されても」

 

適当な自己紹介をしてウィリアムに確認を入れたらオッケー出ました。

うん、今思えばウィリアムにもはぐらかしてるけど、それ以外のメンバーには他の世界から来たってことは言ってないからな。また説明するのも面倒だし、俺は孤児で出身がわからず旅をしてるということにしよう、うん、これでいこう。

 

「−−−改めて、ウィリアムだ。ルナトープの隊長をしている」

「ラスラ、ルナトープの副隊長をしてる」

「.....ネルソン、参謀とかと思ってくれたらいい」

「戦場のラッキーボーイこと、ロレンツだ!趣味は−−−」

「強姦」

「そう!間違ってないがこの場で言うことじゃねぇ!!いや、間違ってる!そういう誤解生むことやめろよな!」

「デビットだ。この自称ラッキーボーイ(笑)とは腐れ縁みたいなものだ」

「(笑)をつけるな!!」

 

ネルソン、さんはどこか寡黙な、それでいて判断力に優れてそうだ。まだ微妙に警戒心持たれてるし。ピリピリしてるのはこの人のせいか。

ロレンツとデビットは仲が良さそうだな。仲睦まじきことはいいことだ、そういやあのバカ共元気かなぁ。ていうかロレンツよ、否定したはいいけど否定するなら初めからしっかり否定しとけ、女性陣ドン引きだぞ。

 

「はい!アスティです!銃メインです、銃メインの最年少です!ホクヤ君は何歳?」

「俺?多分26、7とかそのへん」

「ハッキリしてよ!?私より年上だってのはわかったけど!」

 

だってしょうがないじゃん。途中から数えるの面倒になったし、行く世界それぞれ時間の流れの概念違うから計算めんどくさいんだもん。全宇宙共通の時計とかあったら別だけどさ。

 

「私はマイナ、さっきは助けてくれてありがとうね。主に武器やらの道具のメンテなんかをしてるけど、銃も使いま〜す」

「.....よ、よろしく」

 

なんだろう、あの時は咄嗟に体が動いたけどすっごい今は緊張してしまう。

ホクト姉と雰囲気が似てるからかな、いや、でもマイナさんとホクト姉は別人だ、その辺しっかりしないと失礼だ!

 

「あれれ、もしかしてホクヤ君マイナ姉の魅力にころっとやられちゃった?やられちゃった?」

「そ、そんなんじゃねぇよ」

 

ヤバイ、顔真っ赤かも。駄目だ、美人さんの前だと緊張しちゃう。

 

「−−−そんなことより、ホクヤ!早くやるぞ!!」

 

ある意味ナイスだラスラ!煩悩を振り払えた!

 

「何、ラスラ姉また喧嘩吹っかけたの?」

「やめてやれアスティ、こんな体以外女の魅力の欠片一つも感じられないような戦闘バ−−−」

「ふん!」

「−−−おうふ!?」

 

ラスラの肘打ちがロレンツの溝に直撃する!ナイスブロー!

倒れたロレンツはデビットによってズルズルと引きずられながら回収されていってしまった。

 

「私からも頼みたい、君の実力を見ておきたいのは事実だし、もし良ければあの作戦にも参加してもらいたい」

「おい、本気かウィリアム!?」

「彼はヒュミテだ、我々の同志だぞ。何をそう警戒することないだろ、ネルソン」

 

ネルソンさんはまだ俺のことを警戒してるみたいだ。疑われる要素あるんだろうか、よくわからん。

 

「彼はあのプラトーを退けてる。実力的にも問題ないし、今は戦力を増やした方がいい」

「それはそうだが、信用できるのか?」

「それは君自身の目で確かめることだ、少なくとも私はルナトープのメンバーと同じくらい信用しているつもりだ」

「.........」

 

なんなんだろ、この空気。そんなこと露知らずと言った様子でラスラは俺の服の裾を引っ張ってくるし。

ハイハイ、行くから行くから!

 

「この機会を、何分待っていたことか」

「めっちゃ短いな、オイ」

 

ラスラは気剣、いや、あれは違う。

何か別のエネルギーがラスラの手に持つあれを介して放出している。

 

「ん?お前スレイスは持たないのか?」

 

−−−なるほど、あれはスレイスと言うのか。あれがあれば気剣を形にすることができない俺でも気剣術もどきができるだろうか、後でやってみよう。

 

「あぁ、俺の基本スタイルは体術だからな」

「そうか、こちらは遠慮なく使わせてもらうが後悔するなよ」

 

「−−−後悔どころか、負ける気もしないな」

 

「−−−ほう」

 

挑発には挑発を、さて、俺は【テンション】は使わないでおこう。手を抜くのは癪だが、気だけでどこまでやれるのかも知りたい。【テンション】に頼りすぎて本来の自分の力を忘れてしまいいざという時力が発揮できなかったら意味がないからな。

 

全身に水色の気を纏わせる、やっぱ許容性が低いせいかいつもより出力が抑え気味になってしまってるな。

でも、これだけ出れば十分だ。

 

「行くぞ」

「来い」

 

−−−互いに駆け出し、激突する一歩手前で拳と剣が交差した。

俺とラスラは互いの表情を確認する、お互いに笑っていた。

 

ラスラがスレイスを振り、俺が腕で受け止める。力を一点に集中させるように高速移動をさせることで無駄のない力を出すことができる。

エクリサリテルで気による治療を繰り返してるうちに気の操作に慣れた俺が応用しジャンプリアで実戦レベルに使えるまで訓練を繰り返した。

そのまま蹴りを入れる。ラスラは攻撃の姿勢から咄嗟に防御体制を取る、これを反応するか!

さすが、戦闘狂、ルナトープ副隊長を名乗るだけのことはある!ラスラはやはり、予想通り!といった表情で笑っていた。そうか、お前もこの高揚感を感じれる人種だったか!

 

「ふ、ふ、はははははは!楽しいな、ホクヤ!」

「そうだな、テンション上がってきたぞ!」

 

ラスラがスレイスを上段から振り下ろす、迎え撃つ!

俺は中段から上段へ右の拳を伸ばす。もう、周囲への被害も影響も、周りが何か騒いでる気もするが気にすることなく自分の世界に入ってしまった!

こうなってしまえば自分でも止めることは難しい!

 

「−−−せや!」

「はぁぁ!」

 

この楽しい時間が永遠に続けばいい、俺とラスラはウィリアム達に止められるまで思いのままに力をぶつけ合った。




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