フェバル〜青年ホクヤの軌跡〜   作:Cr.M=かにかま

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58.出会いがあれば別れもある

 

決勝戦が終わり、表彰式と賞金授与が行われた。新チャンピオンこと俺にディハルド王国はしばらく盛り上がってたけど、割と早くほとぼりは冷めた。

賞金である50億drは全額お世話になったアレンとラナさんに支払った。アレンは受け取るの拒んだけど、ラナさんの説得に渋々といった感じだった。

元々俺が大会に出るキッカケだったわけだし、問題はないだろう。

 

後日、去年通り建国祭が行われた。新アーサー王ミョルドの演説はめちゃくちゃ面白かったけど、笑ってしまっては失礼である。

ジョーとも会う機会が増えて、稽古をつけてほしいと頼まれた。将来は鬼の双牙に入りたいらしいが、それ聞いたら多分父親泣くぞ?

これといった事件もなく、日々は過ぎ去っていった。あ、そうそうバッツ陛下のところのムレアジナとマクベス先輩が結婚することになって挙式が大々的に行われた。なんか俺たちカスティルア王国に行ってる間に色々あったとか、パイル先輩泣いてたけど。

 

ミョルドもシャナに対するアタックが強くなって二人して追いかけっこしながらうちによく来るようになったし、イビルタ王妃から逃げるシャドルとマラナ王妃から逃げる師匠もよくうちに来るようになった。

うちは避難所じゃないんだよ?

フェルダント温泉も好調だ、拡張に拡張を繰り返して今ではお泊りまでできてしまう。女将であるラナさんの手腕みたいだけど、恐ろしい。

 

−−−そんな感じで一年。

何の変哲もない日々を暮らしていた。そして、次のディハルド武道大会があと数日に迫った頃に、別れの日がやってきた。

 

 

 

夜、一人でオカっちと共に黄昏ていたときのことだ。空に俺の体が引っ張られる感覚、最初に故郷を離れた時と似た感覚がこの世界と別れを告げるのだと感じた。

突然のことだったけど、俺は冷静だった。いつか来るとわかっていたから、体が徐々にキラキラと淡い光で輝き始める。

 

「ホクヤ?」

 

「シャナ、か」

 

振り返らなくてもわかった。この声は、足音はシャナだ。

 

「それ...」

「あぁ、もう旅立たないといけないみたいだ」

「そんな、突然」

 

振り返らない。俺は絶対にここで振り返っちゃダメだ。

 

「俺だってもう少しここで風に当たっていたいよ、だけどそれは許されないみたいだ」

「皆を、呼んでくる!」

「待ってくれシャナ!」

 

なんで引き止めたんだ、わからない。

 

「お前だけでも、いてくれないか?一人は寂しい」

 

適当な理由を並べても、それでも旅立つということは変わらないというのに。

一緒にいれば辛いだけなのに!

 

「あんた、本当にそれでいいの?」

「.....シャナ?」

「いつもみたいにさ、抗わないの!?あの時みたいに、あんたらしく抗ってよ!常識なんかぶち壊す勢いでさ、不可能を可能にするくらいの勢いで、何で今日のあんたはそんな大人しく従おうとしてるんだ!?」

 

わからない、シャナの言葉が深く突き刺さる。

 

「あのとき、あんたからいつか旅立たないとって聞かされてたけど、あたしは納得してないよ!あんたが好きだ、せめてこの答えだけでも聞かせてよ!それだけじゃない、ミカやナナにも、中途半端にして逃げてるんじゃないよ!!」

 

違う、違うんだシャナ!

 

「頼む、もうこれ以上何も言わないでくれ!現実を受け止められなくなる!」

「だったら、抗ってよ!」

 

「ホクヤァァァァァァ!!お前、勝ち逃げするつもりか!?」

 

し、師匠!?

 

「ったく、お前が羨ましいぞコラー!世界ってのはもっと強いやついるんだろ!?俺も連れて行ってほしいぜ!」

 

あんたならついてきそうで怖いよ。

 

「ホクヤ!せめてこっちに顔見せろ!弟子の門出は派手に祝いたい!」

 

「ホクヤァ!シャナを泣かせてんじゃねぇぞ、旅立つ前にぶっ殺すぞ!」

「ホクヤ様ー!ナナはあなた以外を愛するつもりはありませんよー!」

「フェルダント温泉の経営は俺たちに任せとけ!ていうか、行くな、ん?引き止めていいんだよな?」

「アレン、貴方は本当に」

「ホクヤー!楽しかったよ!また来なよ、新メニュー開発しとくから!駄目父が!」

「オラがかよ!?ったく、行ってこい息子よ!お前なら大丈夫だ!」

「ホクヤ兄!俺強くなるからな!ドーバスさん倒せるくらい強くなるからな!!」

「ジルフに会ったらよろしくなー!」

 

.....ったく、お前ら引き止めてんのかそうじゃないのかハッキリしろよ。

 

「ホクヤよ」

 

ミョルド.....

 

「我はいつでもここで待っている。友のために、いや、このディハルド王国国王として国民の場所を守り国民のためになるのは当然のこと。いつでも戻ってくるといい」

 

肩に手を置かれた、クソ。ミョルドのくせにいいこと言いやがって。

 

「ホクヤよ、別れは涙ではなく笑顔でいこうじゃないか。せっかくのイケメンが台無しだぞ」

「う、うるぜぇ...」

 

泣いてねぇし、泣いてねぇし!

体がどんどん光に包まれていく、多分もうそろそろ離されるんだろうな。

最後、か。

別れは笑顔で、そうだな。

 

「ありがとうな!ディハルド王国!!また来る!」

 

俺は振り返った。そこには皆がいた。三年、ここで過ごした三年はとても大きなものだ。

人が、皆知ってる顔がいる。光に包まれてて良かった、泣き顔を見られずに済んで良かった。

 

言いたいことはある、でも、それはまた再会したときに取っておこう。

ここで言ってしまえば、本当に二度と会えない気がするから。

なら、これだけは伝えておかなきゃな!

 

「−−−行ってきます!!」

 

いってらっしゃいを聞く前に、俺はディハルド王国を飛び立たされた。

久しぶりだな、この道も。故郷を離れて二度目、また次の星までお世話になるわけか。

 

−−−またな、ディハルド王国。

次の世界はどんなところだろうな、全然予想がつかないけど、旅立ちはわくわくする。

いつまでも別れを引きずるわけにはいかない。旅に別れはつきものだ、気持ちを切り替えろ、前向きに生きるんだ!

 

行こう、次の世界へ!




第1章、完。

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