フェバル〜青年ホクヤの軌跡〜   作:Cr.M=かにかま

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4.アレンの憂鬱

 

ホクヤがウチに居候し始めて六日になる。

どうやらオヤジさんの管轄であるタルカッタ山で仕事をしているようだけど家にいる時間はほとんどない。

まぁ、あそこの労働時間凄いからなぁ。

多分ディハルド王国で一番ブラックな職場じゃないかな、仕事の割に給料もそこまでいいわけじゃないし。

そこにまだ始めたばかりとはいえ六日も連続で行くって素直に凄いと思う。

帰ってきて、風呂に入って、調理の手伝いをしてもらって(以前ホクヤに全部任せたらとんでもないものができあがったため、それ以降は手伝いだけにしてもらってる)一緒に飯食べて寝る。

そんな日々が続いていた。

正直ホクヤがどこからやって来てどのくらい稼いでるのかわからないし、何を考えてるのかもよくわからない。

たまに尻尾とかを凝視されてる気もする、彼には尻尾がないのだ。

正直珍しいなぁと思ってる、尻尾が短い種族はよく見るが、ない種族はあまり見ない。

それに耳の位置と形も変わってる、小さくて皮膚だけで毛が少ないし目の横にあるのだ。

あまり深く詮索をするわけにもいかないし、ラナも楽しそうだから別に問題はないんだけど単純に気になる。

 

これは俺の勝手な好奇心だ、オヤジさんとも仲がいいみたいだし悪い人じゃないってのはわかる。

それはあの時助けて話した時からわかってる、しかしあまりにも謎が多いのだ。

気の保有量といい左胸と腕にあるマークといい風呂好きなところといい、まるで違った文化で育った別の世界の人みたいだ。

まぁ、そんな非現実的なことはありはしないけど、気になる!

というわけで俺は今ホクヤの部屋の前にいる。

ラナも寝て一人ベッドからわざわざ抜け出てきたのだ、あいつは真夜中を指す英雄の導きのあとも長い間起きてるみたいだしな。

扉だと気づかれる可能性が高いから壁に耳を当ててみる。

 

「.....」

 

「はぁ、今日も疲れたなぁオカっち。最近構ってやれなくてごめんな」

 

オカっち?

どういうことだ、あの部屋に他に誰かいるのか?

それにしては人の気配はホクヤ一人だけだが。

 

「スーパ君、ドラちゃん、お前らもいつか一緒に活躍できる日があるといいな。山じゃつるさんしか使えないからしばらく出番はないのが残念だよ、ホント」

 

.....えっと、ホクヤさん?

あんた一体何人その部屋に連れ込んでるの、しかもこんな時間に。

知り合いが増えたのはいいことだと思うけど、そういう知り合いは違うと思うんだ。

え、何、あいつ毎晩俺とラナに隠してそんなにいっぱい連れ込んでるの??

ていうかいつの間に、あの部屋の窓ってたしか人一人入れるかどうかの小さな窓だったよな?

もしかして、あいつロリコンなの?

幼い少女を連れ込んで何かしてるの、壁伝いだけど声がハッキリ聞こえてしまうのが原因なのだろうか、それともあいつ元々の趣味なのだろうか?

 

壁伝いに聞こえることに関しては関係ないか、ここを建設した人と盗聴してる俺が悪いんだから。

でも、一線越えて犯罪者ってのはやめてほしいな。

初めて会ったときから少しおかしな奴だなとは思ってたけど、うーむ。

 

「メガたん、何かここに来てから調子いいからお前もしばらく休んでてくれよ。出番の時はまた呼ぶからさ」

 

また一人増えてる!?

どゆことなの、え、今俺が思考の海に行ってる間に一体何があったの!?

混乱してる俺を置いてけぼりに会話は気にせずに進んでいく。

.....寝よう、これ以上はダメだ。

ものすごい気になるけど、ここらへんは俺の踏み込んでいい領域じゃない。

俺は静かにラナの元へと戻って行った。

 

「アレン、どこ行ってたの?」

 

「ラ、ラナ!?起きてたのか、いや別に大した用事じゃ」

 

「トイレ?」

 

「いや、違−−−」

 

「じゃ、正座!」

 

「え、ちょ」

 

「正・座」

 

「は、はい」

 

 

 

翌日。

目を覚ました俺は散らかった部屋を片付けていた。

そうだ、昨夜ついつい癖でオカっち達と話し込んじゃったんだった。

いつも一方的なのは仕方ないが、こいつらが言葉とか話せるようになったらどれだけいいことか。

それは故郷にいることから考えていたことであるが、まぁ、そんな非現実的なことが起こるわけもない。

とりあえず俺は昨日給料で買ったこの国の服を着込む。

ズボンは尻尾の穴を塞いである、置いてある履物の大半が尻尾穴があったから塞ぐのに昨日はカルデラの鐘が鳴っても起きてて、その作業中に話し込んでしまった。

次からは気をつけないとな、今ここはアレンとラナさんの住んでるところなんだから。

ズボンは夏の気候に合わせているのか通気性が良く、長ズボンでも快適に過ごせる。

素材がすごい気になる、見た目ジーンズなのに動きやすいし半ズボンを穿いてるような感覚だ。

ノースリーブのシャツと薄着の半袖ジャッケットが最近のお気に入りのコーディネートだ。

髪型を整え、リビングに向かうと何故かアレンが正座しており、ラナさんが仁王立ちしていた。

え、何この状況??

 

「あら、おはようホクヤさん。そこに朝ごはんあるからどうぞ、私はアレンとちょっとお話があるので」

 

「は、はぁ。ご、ごゆっくり?」

 

「ちょ、ホクヤ!助けてくれ、ていうか助けてください!!昨夜あったことを説明してください!!」

 

「昨夜?俺ずっと裁縫してたけど」

 

どういうことだろう、ていうか飯を食べた後は自室にいたからアレンと会ってないはずだが。

 

「そうだった、忘れてた!」

 

「ア、アレン??あんた一体何言ってんだよ」

 

「アレン?ホクヤさんまで巻き込もうとしちゃいけませんよ」

 

もう意味がわからなかった、助けを求めていたアレン(恩人)もあんな状態だし飯が冷めてもいけないため俺はとりあえず頂くことにした。

アレンの悲鳴が木霊するが、気にしちゃいけない気がする。

うん、美味しい。

 

俺が飯を食い終わる頃にようやくアレンがやって来た。

何でも昨夜からずっと正座させられていたらしい、よく歩けるな。

 

「ってて、さっきはすまない。ちょっと混乱してた」

 

「そ、そうか」

 

「.....なぁ」

 

「ん、何?」

 

「いや、何ていうか、俺もいつまでもヘタレてたらダメだなって思って」

 

「.....どうしたの突然?」

 

何か今日のアレンはおかしかった、昨夜に一体何があったのだろうか。

でも、確実に何かあったんだろうなぁ、と思わされた。

 

「で、今日もまた行くのか?」

 

「あぁ、今日は銀行に行ってから−−−」

 

「早まるな、貢ぐんじゃねぇ!」

 

「誰にだよ!?」

 

やっぱ今日のアレンおかしい!!

何でそんな必死なの、普段細い目を大きくするぐらい必死なの!?

ていうかまだ俺口座作ってないからそろそろ金貯まってきたから作りに行くだけなんだけど!?

とりあえずアレンを落ち着かせてから皿とコップを流し台にまで運ぶ。

ここに居候してから一週間が経とうとしているが、いまいち性格がわからない。

ラナさんが昼食の仕込みをしていたのでちょうどいいし、ちょっと聞いてみよう。

 

「ラナさん、アレンっていっつもあんな感じなんですか?」

 

「えぇ、ホント馬鹿みたいでしょ?」

 

フフフ、と笑うラナさん。

この人結構軽くえげつないこと言うんだよなぁ。

今でも耳と尻尾が楽しそうにぴょこぴょこしてるし。

 

「じゃあ、俺そろそろ行ってきますね!」

 

「行ってらっしゃい、頑張ってくださいね〜!」

 

ラナさんの言葉を受け取り俺は荷物を持って宮殿街にある銀行へと向かった。

アルドニア広場から北へ階段を登れば王の住まう宮殿を囲む宮殿街へと行くことができる。

宮殿と隣接する形で作られた宮殿街は高級感溢れる超リッチな所で本来なら俺みたいな庶民とは無縁の所なのだが、王の厚意により宮殿も一部は一般向けに開放されており、誰でも入ることができる。

その代わり警備も厳しいため、あちこちに兵たちがいる。

堅苦しいこと極まりないが、一般人がここまで宮殿に近づけること自体が異例なので仕方ないことだろう。

事前に発行しておいた身分証を持って宮殿街にある銀行へ辿り着き、手続き諸々を済ませてしまう。

そこまで人がいたわけではないので、とんとん拍子で話は進んだ。

身分証のことはオヤジさんに教えてもらった、もちろん銀行のことも教えてくれた。

 

オヤジさんにも恩返ししないとな、アレンとラナさん並みにここに来てお世話になってる。

まだわからないことはたくさんあるけど、何とか生活できてる。

そして、銀行から帰りにジョブボードをチェックすると一つデカデカと気になるものがあった。

それは剥がせるようにはなっておらず、広告のようなものだった。

 

内容は[ディハルド武道大会開催のお知らせ]

開催日は今から一ヶ月後、優勝賞金は50億dr!!

 

「.....テンション上がってきた!」

 

イヒヒ、やってやろうじゃん。

俺は拳を握りしめて静かに闘志を燃やしながら、タルカッタ山の作業場へと向かった。




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