明日はディハルド武道大会。
俺は夜空を照らす月と、夜空を駆けるルートストーンを見ながらオカっち(オカリナ)を吹く。久々の演奏だが、腕は衰えていなかった。
なんて、思ってたけど思いの外指が動かなくなっていた。やっぱり続けていないとこうなってしまうか。わかっていたことだけど、ここ最近修行に修業の日々だったからなぁ、どうしても時間が取れなかったんだよな。
一ヶ月、この一ヶ月でやれることは精一杯やった。シャナとナナ(それぞれ何故かミョルドとカイヤさんが同席してたけど)に俺の想いと答えを伝えた、毎日のようにマラナ王妃のところに通いボコボコに叩きのめされた。
【テンション】と気をそれぞれ使い分けて臨機応変の戦略を作ることもできた。これはマラナ王妃が提案したことで、もし仮にこれからどちらかしか使うことのできない状況になったときの対策とかいって気だけを使う日と【テンション】だけを使う日の二種類、それぞれ交互に行った。
シャドルとも師匠とも一度も会うことはなかった。そうそう、シャナは話をして以来きちんと俺の命を狙いに来ている。シャナの動きも日々機敏になっている気がする、誰かに師事してもらってるのだろうか。
−−−とにかく長かった、この一年。
最初は生活費目当てで出場したが、呆気なく予選敗退。そこからオヤジからギルドに誘われ師匠とマラナ王妃に出会いレオナルドさんに出会いシャナから命を狙われるようになった。ナナと会ってローグ街でカイヤさん、そこからシャドル、ベヘモンに行ったときはバッツ王子(今は王)とその取り巻き達。
一年前よりも遥かに強くなった。自分でもわかるくらいには、フェバルとしての能力も確認しある程度は使いこなせるようにもなった。
だけど、俺の力が本当にシャドルや師匠に果たして通用するのか?師匠は規格外、シャドルには二度も負けている。だから、これ以上負けるわけにはいかない。届かなくても伸ばしてやる、今あるこの力で!
そうだ、風呂入ろう!
※
同時刻、王宮ではシャドルが一人ワインを飲みながら黄昏ていた。根を詰めるのはよくないが、大会前日であるにも関わらず根を詰めており今も上半身裸でいる場所はトレーニングルームである。これが今まで通り、例年ならばここまで根を詰めることはなかっただろう。しかし、今回はホクヤとシャナの二人のことにケジメを付けなければならない。
−−−ちょうど一ヶ月前、王宮にやってきたホクヤとシャナ(とミョルド)の会話を偶然聞いてしまった。というよりも部屋の前で盗み聞きしてた。
内容は端々しか聞き取れなかったが、まさかホクヤがあのフェバルだったことに驚きを隠せなかった。まだ俺とシャナが幼かった頃酔ったアーサー王から耳にタコができるくらい聞かされた武勇伝に必ずといってもいいほど登場する異星からやってきた存在フェバル。名をジルフ、この国に住む者ならガキでも知っている五人の英雄の一人だ。
−−−俺は嬉しかった。アーサー王から聞いてた疑うしかない絵空事の存在が驚くほど身近におり、本気でぶつかり合えるかもしれないということに。前回やったときは俺の一方的な私情による喧嘩だったが、次は試合、正式な場での勝負。
これ以上はオーバーワークかもしれない、明日のコンディションに支障が出るかもしれない。だが、何もせずに過ごすなんてごめんである。シャドルはワインのグラスを握りつぶしてもうひと頑張りするのだった。
ちなみに握りつぶしたワイングラスはシャナのお気に入りのもので後日めちゃくちゃ怒られた。
※
ディハルド王国外にある小さな小屋でドーバス・ウーバーは夜酒を飲んでいた。途中までマラナ王妃がいたのだが、王族様がこんな時間までいては色々と問題になりそうなので強制送還させた。明日は待ちに待った大会、ここまで胸躍るのは初めて優勝した二年前以来かもしれない。彼の師が隠居し、それから自立する生活費を得るために大会に出て優勝。未だにあの人には勝てるかわからないがそれでも、今は自分の弟子と本気で戦えるかもしれないことに興奮を隠せずにいた。
−−−フェバル、突如現れた謎の存在。自分でも説明できないほどでこれいかにと思ったが、まぁそんなところはどうでもいい。ホクヤの【テンション】と呼ばれる能力には興味がある。フェバルという存在が全員あのような能力を持ちホクヤ以上の存在がいるならば是非とも一戦交えてみたい。
溢れ出る気を抑えられず、一つ大きなクレーターを生み出してしまった。しかも結構大きな音が鳴ってしまった、後々文句を言われるかもしれない。
そんなことはどうでもいい、チャンピオンとして挑戦者は大いに歓迎する。大会三連覇とかには興味ない、ただ強い奴と戦いたいだけ、それがドーバスの望みであり彼が強くあり続ける理由。
−−−そう簡単に負けるわけにもいかない。愛弟子だからって容赦はしないぞ、ホクヤ!
※
ディハルド王国のある惑星、アルドニモー周囲をグルグルと軌道線上に乗る小惑星、通称ルートストーン。
大きさはそれほど大きくないが、村一つすっぽり入るくらいのサイズだ。
−−−そんな小惑星に一人、異質な存在が佇んでいた。
容姿はどちらかというと少年の部類、真っ黒な髪に全てを見下すかのような冷え切りながらも猛禽類よりも鋭い無機質な瞳。少年以外に何も存在しないそこで、少年は静かに立ち上がる。
気が変わった、座るのが飽きたとかそんな雰囲気だった。本当に何気ない動作ではあるが、ここにおいては異質。
−−−異質な少年は言葉を紡ぐ。
「見に来るまでもないと思ったが、これは少し興味深いものが混じってるな」
異質な少年の視線の先はアルドニモー、もっと正確に言うならばホクヤ・フェルダント。異質な少年は小さく不気味な笑みを浮かべる。
「−−−僕とは相性が悪そうだ。地力と魔法があれば瞬殺可能だろうが、あれはこちらからの【干渉】は難しそうだ、問題はないがな」
異質な少年の一人語りは続く。
「見届けてやろうじゃないか。どうせ目的地に行くついでに寄った縁だ、僕の仕掛けがどこまで上手くいくのか、あの男が壊れていく様を」
クックックッ、と笑いを堪えながら異質な少年は掌をアルドニモーに向ける。
そして、そのまま拳を握り締めて冷え切った無機質な瞳から更に闇を深めて、声のトーンを若干低くして一言。
「−−−僕が手を出す必要はない。あの星は自ら壊れていく、あいつの儚き夢、野望はここで絶える」
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