フェバル〜青年ホクヤの軌跡〜   作:Cr.M=かにかま

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連続投稿です(^^)


31.ホクヤ、歴史を動かす

 

ある日、タルカッタ山の麓。

いつものようにオラが山を掘って金銀銅、ついでに色々と掘り出してる途中に事件は起こった。

いつしかの巨大UMAよりも大きな存在を前に、オラたちはどうすることもできなかった。逃げる、ただ本能がそう告げており逃げる以外の選択肢が遮られたんだ。

 

「これどーするんですか、オヤジ!?」

 

「とてもじゃねぇが、俺らの手に負えねぇぞ!」

 

「仕方ねぇか、誰かホクヤを呼んでこい!あいつなら何とかしてくれる、むしろ事情話したら来てくれる!絶対に!」

 

「どっから湧いてんだその自信!?」

 

クソ、とにかく早く来てくれホクヤ!

今はお前だけが頼りなんだ、この事態の収拾をつけれるのはオラ達じゃ無理だ!お前の力が必要なんだ!

 

 

 

天気のいい炎天下の昼下がり、久々に予定のない今日はこっそり改築した自宅の庭で【テンション】の性質を研究していた。いくら強くてもその性質を見極められないと使いこなしているとは言えないからな。

思えば発覚してから色んな意味で怒涛の日々だったから、ゆっくりと向き合うこともできてなかったし。

この二日で【テンション】についていくつか改めてわかったことがある。

 

まず、発動時に出現するオーラは気に近い性質はあるが、根本的に違うということ。空気中に分解されることもない。だが、形を形成させることはやはりできなかった。気と混ぜ合わせることができたので、これを応用すればできるかもしれない。

そして、身体能力の異常ともいえる強化。倍になるというよりも二乗しているという方が近い気がする。

これは戦闘中に何度も実感してるからわかってたが、改めて思うととんでもないなと思う。さらには感覚の一部が鈍くなるということ、これにより痛覚が鈍くなり発動時は痛みをほとんど感じない。体を騙しているようなものだから解除したときの反動が凄まじい。だが、気合で傷がふさがるとかもあった。この辺はまだ研究が必要となる。

地力を鍛えれば鍛えるほど通常時に二乗、三乗、四乗と上昇の原理はわからないけど、多分気合だ。うん、それか感情の昂り方によっても変わるのかもしれない。

 

つーか、暑いな。武道大会が近づいてきたからかな?そう考えると俺がディハルド王国にやって来てもう一年経とうとしてるのかぁ。

早いものだよなぁ、ていうか色んなことありすぎて一年以上経ってるようにも思えるな。とりあえず水飲もう、これは死ぬわ。そっからの風呂がまた気持ちいいんだよな、これが!

作ったばっかの庭も小っちゃい穴ぼこクレーターでボコボコにしちゃったし、ご近所さんから苦情とか来ないよな?

 

「ホクヤ君!」

 

−−−さっそく来たか。

ん、違う。あれはビト先輩だ。

 

「どうしたんですか?そんなに慌てて」

 

「急いでタルカッタ山に来てくれ、オヤジさんが!」

 

−−−何?オヤジにまた何かあったのか!?

 

「わかりました、急ぎます!ビト先輩は先に戻ってオヤジの援護を!」

 

「わ、わかった!」

 

とりあえず上着を着よう、さすがに上半身裸で街中を走り回るわけにはいかない。何があったかは知らないけど、あのビト先輩が俺の家にまで来るなんてよっぽどの非常事態なのだろう、気を引き締めていかないと!

【テンション】を発動し、一気に加速する。タルカッタ山の方角からは白い煙が、あれか!一体何があったかは知らんが、上等だ!

 

........ちょっと待て、これは!?

 

「マズイ!」

 

「ホ、ホクヤ!来てくれたか!」

 

「オヤジ、あれは」

 

「掘ってたら出てきたんだ、オラじゃどうしようも−−−」

 

「−−−あたり一帯を封鎖しろ!今すぐ!」

 

「.....え?」

 

なんてことだ、まだ時間は浅いはず!間に合うか?

 

「いいから急いでここ一帯を封鎖!ビト先輩達は砂を取り除いてなるべく綺麗な石をここに!オヤジは工具一式ここに持ってきて!今すぐ!」

 

「「は、はい!!」」

 

間に合え!俺はさっき着たばっかの服を脱ぎ捨てて飛び込む、暖かい。よし、まだ温度は生きてるな。どこかに穴が、そこか!

やったぜ、ナイスだオヤジ!こいつは、まさしく!本物の!しかも天然の!

 

「温泉だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!テンション上がってきたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「ホ、ホクヤが今までにないくらいのハイテンションに!?」

 

キタキタキター!いつか出るかもと淡い期待をしたこともあったけど、まさか本当に出るなんて!さっさと行動!整備!成分調査!全て済ませて天然温泉にいつでも浸かれるようにやるぞー!

オヤジの持ってきた工具を受け取ってやることは一つ、温泉を二分割する!ラナさんとも一緒に語り合いたいからな!そこからビト先輩達の持ってきた石を敷き詰めて、石を適切な形に変えて、不要な砂を取り出して!【テンション】で身体能力が跳ね上がってるこの俺に不可能はないぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!

 

こうして、ものの数分で整備が済んだ。タルカッタ山の炭鉱場との隔離もバッチリである。

 

「さて、せっかくの温泉だが定期的に整備しないと。そこから通うにしても少し距離があるから、ここに家を持ってきて住むべきか?いや、でもそれだとありがたみがなくなるからやっぱ家はあの場所のままにしてここに一軒作って」

 

「ホ、ホクヤさん?」

 

「オヤジ!温泉経営しよう、何人かスタッフが欲しい!とりあえず男女それぞれ五人ずつで!」

 

「一旦落ち着け!話が飛びすぎて何が何だかついていけねぇ!」

 

というわけで、「鬼の双牙」の全面協力の下、俺が店長を務めることとなった「フェルダント温泉」の小屋が完成し、女将さんとしてラナさんを迎えて俺たちの経営が始まった。

金?仕事とか王族からの迷惑金とかで銀行に山ほどあるよ。

スタッフの募集はこれからやるとして、俺たちの最初の仕事は道具の設計作成だった。アレンをも巻き込み、色々と思案し、とりあえず基本の掃除用具は完成した。そこから男女の湯の仕切り、さらにはもう一つポツンと中途半端に湧き出てるところがあったのでそこを混浴用に設けることにした。

 

「それで、女湯の方はラナさんにお任せしていいですか?」

 

「えぇ、大丈夫ですよ〜。中々いい湯だったから皆さんで楽しまないと損ですからねぇ」

 

「ホントですよ!できれば入浴料は無料にしたいのですが、今後のことと給料のこともあるのでいくらくらいがよろしいと思います?」

 

「そうですねぇ、天然で湧き出てるから水を買う必要もないですし、300drでいかがですか?」

 

「では、とりあえずその方針にして覗きをした輩と迷惑かけた輩には出禁と5000万drほど払ってもらいますか」

 

「そうですね!まだまだ搾り取りたいですけど、干からびちゃいますから妥協点ということで」

 

そんな感じで経営話は進んでいった。ちなみに一番風呂は俺とラナさんだ。感想は普通に気持ちよかった、独占したい気持ちもあったが、それではダメだ。これは皆で共有しないといけない。あくまで俺が整備するという名目で店としてやってるのだから勘違いはしないでほしい。天然とはいえ定期的に掃除は必要だし、色々とやることはある。

雄大なタルカッタ山をバックに眺めながら温泉に入れるとかマジ幸せだ。

 

一週間後、経営は思ったより上手くいきスタッフも目的である人数揃った。

女将であるラナさんの人気も出てきて大繁盛である。

ちなみに源泉自体はオヤジが掘り出したので分け前の二割を「鬼の双牙」にきちんと払ってる。

 

こうして俺はディハルド王国に新しい観光名所を作ってしまった。




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