フェバル〜青年ホクヤの軌跡〜   作:Cr.M=かにかま

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30.バーミリオン王女

 

俺が跳び上がると同時にレオナルドさんが黄金にも似た色の気を纏ってボールに向かう。凄い、凄まじい気に圧倒されそうになる!けど、ここで怖気づいてしまえば前には進めない!

−−−むしろ、テンション上がってきた!

 

「お、おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

俺とレオナルドさんの腕が振り上げられ、ボールに向かって振り下ろされる。パワーの強い方が勝つ、気の総量というよりも地力の勝負になるだろう。ボールと一緒に叩きつける!

バチバチと迸る薄い赤紫色のオーラと轟々と厚みのあるそれでいて滑らかな黄金の気がボールに向けられ、衝突する!

−−−ボールは跡形もなく弾け飛び、俺とレオナルドさんの拳と拳が激突する!

激突した地点から衝撃波を生み、中心を覆うような球状の何かが見えた気がした。ビキビキビキビキ、と拳と拳の激突。つ、強いな!さすがは歴戦の戦士だ!師匠にも匹敵するんじゃねぇか、この力!?

−−−これ以上まともに対峙するのは危険か、一度離れて体勢を整えよう!

 

拳を引いて激突の衝撃で生まれた風に乗って一気に後退する。足場の悪い砂浜になんとか着地して激突したせいで若干煙が出てて痛む右手を抑える。ちょっと赤くなってる。

面白い、これでこそやりがいがあるってもんだ。今の俺がどこまでやれるか試すいい機会でもある。レオナルドさんもいい笑顔だ、同時に次で仕留めるという野獣の眼光も向けてきてる。

 

−−−来る!

さっきよりも強い一撃が、これからが本番ってことか!やってやろうじゃねぇかぁ!!!

無謀上等、次で確実に−−−

 

「「「このアホ!」」」

 

−−−仕留めようとしたら、拳骨された!何でや!?

 

「何すんだお前ら!?」

 

「うるせー!お前はアホなのか!?馬鹿だろ、これはビーチバレーだぞ!!何でアーサー王とのガチンコバトルに種目変えてんだ!」

 

「あ」

 

−−そうだ、これビーチバレーだったんだ。シャドルの言葉で思い出したけど、俺たちビーチバレーしてたんだったな。一撃でボールが弾けたから忘れちゃってたよ。根性のないボールめ。

向こうでもレオナルドさんはたくさんの息子娘に抑えられていた。やはり俺たちが勝手に熱くなってしまってたようだ。

 

「ホクヤ様〜!カッコよかったですよー!」

 

「いいぞ!もっとやれ!!」

 

ナナと師匠はどうやら違うみたいだけど、特にナナはいつも通りとして師匠は色々と本気だからな。

一人めっちゃ楽しそうに大笑いしてるし。

ちなみに俺とレオナルドさんが生み出した衝撃波のせいで砂浜が軽く凹んでしまったため、海は一時的に閉鎖されることになったとさ。めでたしめでたし。

 

 

 

ナナがローグ街に戻って一週間が経ったある日、俺はまたしても王宮に行くことになった。あの砂浜の件だろうか、依頼先で護衛対象があまりにもムカつくから嫌がらせしてたのがバレたのか、ローグ街にたまに出入りしてるのがバレたのかわからないが、今回俺を呼び出したのはバーミリオン王女様だ。レオナルドさんの妻であの王子達や王妃達の母親。

まだあまり話したことがないから性格とかはわからないけど、厳しそうな人だなという印象はある。特にあの他を圧倒するような真っ赤な瞳、あの瞳は不思議と魅力を感じてしまう。

シャナとミョルド王子の案内でバーミリオン王女の部屋の前まで来たはいいが、緊張する。

 

「じゃ、ホクヤ。我らはそろそろ行くぞ」

 

「うん、ありがとう」

 

ミョルド王子はホントフランクだな、同い年とわかってからはこんな感じだ。シャナは一礼だけして投げナイフを投げてくる。

 

「シャナちゃん、こ、これから我と食事でも」

 

「せっかくですが仕事がありますので、アタシと違って日々暇してる兄でも誘ってやってください」

 

「え、遠慮しときます」

 

そんな会話を聞きながら俺は目の前の扉をコンコンコン、とノックする。

すると、半開きになり中からいつしかのメガネをかけた女性が出てくる。

 

「あ、あんたは!」

 

「お久しぶりですねホクヤ様。改めまして私バーミリオン王女の側近と暗部部隊隊長をしております、ヤエと申します」

 

そう、このヤエさん俺を最初に王宮に連れてきて案内してくれた張本人だ。あまりにも久々だったので驚いてしまった。とりあえず握手を求められたので交わしておこう、礼儀である。

 

「バーミリオン様は中でお待ちです。私は席を外しますのでお二人でごゆっくり」

 

「は、はぁ」

 

否応なく強引に中に入れられてしまった。ヤエさん、前もそうだったけど強引なんだよなぁ。

部屋の中はレオナルドさんのいる王の間とは違い、思いっきり私室って感じだ。全部が全部高級そうな品ばかりだけど。バーミリオン王女はその中でベッドの上に半裸の状態で待っていた。

...........いや、ちょっと待て!?

 

「何で脱いでるんですか!?」

 

「男はこっちの方が興奮するだろ?わっちの若い頃の癖でもあるから気にせんといてな」

 

いや、意味がわからん!この人は見てきた王族の中じゃまともだと思ってたのに!

身長低くて赤い目なのは変わらないけど、女性として大事な何かを失っちゃってる気がする!

 

「まぁ、とりあえずわっちの隣で寝るかえ?」

 

「寝ません!」

 

アクティブすぎる!あのナナでもここまで積極的じゃないぞ!?

 

「まぁ、ええわ。適当に座んなさい」

 

「.........はい」

 

何か話す前に疲れちゃったな、とりあえず近くにあった椅子に腰掛けさせてもらった。

 

「今日はわざわざすまんの、わっちの呼び出しに応えてもろうて」

 

「気にしてませんよ、レオナルドさんなんか愚痴るために俺呼び出したことあるんですから」

 

「.....随分レオ君と仲がよろしいことで」

 

「お気に障りました?」

 

「いや、嬉しきことなんじゃが、嫉妬してしまったんや」

 

めっちゃお気に障ってるじゃん。

 

「−−−最近レオ君はお前さんの話を楽しそうにしてくるからの、ジルフと同じ異星の者と会えたと言ってな」

 

「..........」

 

「そこで、わっちも少し昔話を聞いて欲しくなっての。いわゆる愚痴というやつになるの」

 

やっぱか。まぁ、何となくわかってたからいいけど。半裸なのはいただけないが。

 

「それと、昨日のお前さんの実力を見込んで頼みたいこともできたしの」

 

「頼み?」

 

「まぁ、順を追って話すさかい、ちょい待ちな」

 

まず聞かされたのがバーミリオン王女がレオナルドさんと結婚する前の話。身寄りのない彼女はローグ街の生まれで身体を売っては生活費を稼いでたらしい。そこで現れたのが若き日のレオナルドさん、一目惚れして身分を偽って結婚までしたそうだ。ていうかすごいな、そんな簡単に身分って偽れたっけ?

 

「そこからわっちらの夜は楽しかった、幸せじゃった。子供もたくさん生まれてこの日常が永遠に続けばいいと思えた」

 

そう話すバーミリオン王女は本当に楽しそうだった。当時のローグ街は今よりも犯罪が蔓延していた危険地域だったらしい。身寄りのない捨て子がいたことに変わりはないが、今はカイヤさんがいるから治安は良くなってるのかな。

 

「−−−ローガ・アスキルト。奴に息子と娘、さらには義父を殺されるまではな」

 

「.....え?」

 

話は一転した、いや、空気が一転した。バーミリオン王女の声に重々しい、殺意が芽生えた。

 

「アーサー王十二世就任以来の史上最悪の犯罪者。今はビスティーブ牢獄の地下深くに幽閉しとるらしいが、わっちは奴を許すことはできない」

 

バーミリオン王女の体が微かに震えている、思わず固唾を呑んでしまった。

 

「ヘンリーとリスティーネ、ガイアス義父様を殺した男、さらにはヘンリーが死んでサガトは心を殺してしまった、今も部屋に閉じこもったまま何年も姿を見せてくれん」

 

ローガ、史上最悪の犯罪者としてここにやってきて日の浅い俺でも名前なら聞いたことはある。

だけど、まさかそこまでの奴だったとは。王族を殺害するなど並みの奴じゃできることじゃない。

 

「十年、奴は十年もビスティーブ牢獄にいるが恐ろしいんじゃ。奴がこのままおとなしくしとるとはとても思えんのじゃ。わっちの思い過ごしかもしれん、それでも恐ろしくて敵わん!」

 

「バーミリオン王女」

 

「−−−だから、もし奴が再び悪事を働くようなことがあったらお前さんが遠慮なく奴を殺してくれ!子供達の仇を取ってくれんか!?」

 

.....これが頼みごと、か。

 

「それで、あんたの子供達が喜ぶってならね」

 

「な」

 

「俺もさ、姉貴が二人いたんだ、仲間もいた。それで故郷はとんでもない戦争をしてて、終わっても火種は消えなかった。俺は人を殺したくない。何も満たされなかった、目の前で仲間を殺されてそいつを衝動で殺したけど何もなかった。虚しさしかなかったんだよ」

 

あの時の感覚は今も覚えてる。生きるのに必死で、それでも生きるためには殺さなきゃならなかった故郷での日々。

アッシュのときもそうだ、自滅に近い形だったが結果的にあれは俺が殺したようなもんだ。

 

「だからさ、あんたの頼みを聞くわけにはいかない」

 

「.....お前さん、立派よの」

 

「そんなことないですよ」

 

.....やっぱ柄じゃないな。こういう雰囲気は苦手だ。俺には似合わない、もっと前向きになろう。

 

「バーミリオン王女、もし辛かったら言ってください。レオナルドさんも頼ってやってください、あの人結構寂しがり屋なんで」

 

「ふふ、そうだな。わっちもそれは承知してる。そうそう、あれは−−−」

 

バーミリオン王女は笑顔になってくれた、そうこれでいい。皆が笑顔で、楽しく過ごせる世界。

ディハルド王国は俺の故郷よりは平和なんだ、絶対にこの平和は崩させやしない。

 

−−−だから俺は油断してたのかもしれない。二日後、あんな身を震わすような大事件が起こるなんてこの時の俺は思いもしなかったんだ。




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