とりあえず俺は腰に付けておいたポーチの中身を確認する。
あまりにも突然のことでいつも持っているものしか持ってこれてないが、ないよりはマシだ。
中身は相棒のオカっち(オカリナの名前)、愛用武器であるスーパ君(スパナの名前)とドラちゃん(ドライバーの名前)、視力補強用のメガたん(眼鏡の名前)、故郷の紙幣少々と姉貴が作ってくれた弁当という名の兵器、そしてあいつのくれたバンダナ。
紙幣はもう使えないだろう、さっきのアレンとラナさんの会話を聞く限りこの世界の通貨の単位はdr(ドルド)で故郷の通貨は円(ウェイ)だった。
覚悟はしていたが、一文無しスタートである。
まぁ、姉貴の弁当はあとで食べるとして少しでも物資があっただけで助かる。
オカっちとスーパ君とドラちゃんとメガたんを連れてこれたのは大きい、寂しさも紛れるし俺にとっては必需品だ。
今はアレンの案内してくれた空き部屋にいるが、いつまでもここにいるわけにもいかない。
二人の愛の巣の中に正直居づらい。
というわけでこれからアレンが教えてくれた仕事を募集しているという掲示板がアルドニア広場と呼ばれるところにあるらしいので行ってみようと準備してたのだ。
ディハルド王国、それがこの国の名前らしい。
歴史は古く900年近く栄えている大国家で俺みたいな純粋な人はいないようだ。
皆が皆獣の特徴のある人間かTHE☆獣!って方々しか街にはいなかった。
アレンも仕事があり、ラナさんも家事があるので一緒には行けなくて申し訳ないと言ってくれたが、そこまでしてもらうわけにもいかない。
いくら好意や善意を素直に受け取る俺でも受け取りすぎるのはよろしくない。
とりあえず地図に従って雑貨屋や食料品、武器屋などが並ぶハーレー街を抜け階段を上がってアルドニア広場に到着する。
広場の中心には「アーサー王1世」と書かれた立派な石像があった。
がやがや、と広場は賑わっており誰も彼もが俺にはない獣耳や尻尾、鱗を持っていた。
これほどまで特徴が顕著になるものだな、と感心していると目的の掲示板に辿り着いた。
掲示板の看板には「ジョブボード!!」とでかでかと書かれていた。
俺の他にも何人か先客がいた。
「何々、[迷子の捜索][ビスティーブ牢獄看守、強い人求む!][一緒に山を掘らないか?][ズーマコロシアム修復お手伝い][隣国への護衛傭兵求む]って、結構あるな」
他にも気になるものは結構あった。
どうやら気になった仕事は自分で引き剝がし、そこに暇そうにして座ってるお兄さんに渡す形式のようだ。
注意しないといけないのは、傭兵のみとかの注釈が書いてある紙だな。
今更なのだが、字が普通に読める。
字体は初めてみるものだらけなのだが、自然と昔から知っていたかのように読めてしまう。
自分で言ってて矛盾してるのはわかってるが、実際にそうなのだ。
言葉もきちんと聞き取れるし、こちらの言葉も向こうに伝わる。
まぁ、そんなわからないことを考えても仕方ない。
俺はとりあえず気になった[一緒に山を掘らないか?]の依頼書をビッと破り手に取った。
鉱山で金銀銅を掘り出す体育会系のモノだった、ちなみに時給は800dr。
これが高いか安いかはわからないが今は稼げるだけ稼いでおこう。
ジョブボードの傍に座る煙管を加えたお兄さんのところに行くとまず年齢を聞かれ、20歳だと答えた後承認印を押してくれた。
もしかして、この星にも労働は何歳からって決まりがあるのだろうか?
そこのところまた調べたほうがいいかもしれないな。
それから作業場であるタルカッタ山の場所と依頼主であるギムなる人物の名前を教えてくれた。
タルカッタ山はディハルド王国の領土内にある大きな山でここアルドニア広場の東にあるカルデラの鐘のある道の途中にある階段を下ることで行けるらしい。
ちなみにここは広場の西なので反対方向だ。
さっき手に取ってみてわかったのだが、この国の紙は布製のようだ。
よくある木材を加工して作る紙とは違い、若干モコモコしていて気持ちよかった。
でも、性質は紙と同じのようだ。
(にしても、砂漠と海と山に囲まれた国か。改めて考えるとすごい立地だな)
そんなことを考えながら広場の中央を目指し、そこから東へ向かう。
ハーレー街やアルドニア広場には水路も流れており、水に困るような貧相な国でないことは見てわかる。
国の大きさからしてもかなり大規模、余程王の人徳と信頼が厚いんだろうな。
そんなこと思いながら歩くこと数分、俺はタルカッタ山に来ていた。
まぁ、西側からも山の存在は見えていたが、近づいてみるとまたデカイ。
とりあえずギムさんを探すべく作業している一人に話しかけてみる。
「すみません、ギムさんいらっしゃいますか?」
「ギム、あぁ、オヤジさんね!オヤジさんはそこの穴の中だよ」
と、指さされたのは本当に山を貫いている穴。
人一人がギリギリ入れるサイズだ。
「ここっスか?」
「そうそう、穴に向かって叫べば聞こえるよ!」
ハハハ、と豪快に笑いながら作業を再開してるし、早いな。
とりあえず俺は穴に顔を入れて、叫んでみることにした。
いつまでも突っ立ってるわけにもいかないからな。
「すみませーん!ジョブボードの貼り紙見てきたんですけど、ギムさんいますかー!?」
「おー、いるよ、ちょい待ちー!」
声が返ってきた。
同時に穴の奥から凄まじい速度で何かがこちらに向かってきているのがわかった。
俺は咄嗟に穴から体を引いて勢いよく飛び出してきたガテン系のゴーグルをした茶髪の男性。
男性の全身には茶色い体毛、鼻先は少しとんがっていた。
「よう、新入りだな。オラがギムだ。よろしくな」
「は、初めまして、ホクヤです」
俺はとりあえず持ってきた承認印付きの紙をギムさんに渡す。
ギムさんは紙をクシャクシャにしてポケットに詰めると、どこから取り出したのか俺にヘルメットとつるはしを差し出した。
「とりあえずこれがお前さんの分だ。ここでやることは山を掘って金や銀、銅を掘り出すこと。掘り出した金銀銅は硬貨に変わって金になる、オラ達はそれを掘り出すのが仕事、つまりオラ達がここで汗水たらして頑張るから金は回ってるんだ」
「おぉ!」
何かすげーカッコいいこと言ってる気がする!
ギムさんはへへ、と鼻を鳴らして得意げな様子だ。
「とりあえず掘ったらここに持ってこい、あの大穴の奥に行けば行くほどたくさん出てくる!それにまだ手も付けてない場所はたくさんあるからな!」
「はい、行ってきます!!」
「水分補給も忘れるなよー!」
あの大穴だな、よーし!
俺はヘルメットを装着してつるはしを持って意気揚々として走った。
途中、注意もされた気もしたがこの時の俺の耳には入らなかった。
※
5時間後。
一日に二度鳴り正午と真夜中を告げるカルデラの鐘が鳴ってからしばらく作業は続いた。
そして夕刻時にやっと作業は終わりを告げた。
「そんじゃ、お疲れ様!!また明日もよろしくねー!!」
「「「お疲れ様です!!」」」
気合の入った解散で皆はギムさんから給料を受け取って帰宅する。
もう、俺の全身バッキバキである。
うわ、すっげー数の豆もできてるし!!
結構楽しかったからしばらく毎日続けてみようかなって思ってみたけど結構しんどいぞ、これは。
ちょっと体を動かすだけでポキポキ鳴るし、何より疲労が半端ないわ。
金稼げるからいいけど、掘って運んで掘って運んでの作業が意外としんどかった。
奥の方に行くほどたしかに人は少なかった、でも運ぶのがめっちゃ大変だったんだよ!
そりゃ奥の方に行こうって人は少ないわな!
それまでの道も舗装とかほとんどされてない獣道だから足場も悪い、一部ぬかるんでいるところもあった。
足の裏にかかる負担も半端なく、こんなに全身使うことになるなんて想像してなかった。
と、考えていたら俺の順番が回ってきたようだ。
「お疲れさん、どうだったよ初仕事は?」
「すげー大変でした、ギムさ、オヤジさんは毎日してるんですか?」
「まぁな!これでも傭兵ギルドのマスターもしてるんだ、体も鍛えれるし一石二鳥よ!」
なるほど、つまり作業のほとんどの人が特訓とか言われて付き合わされてるんだな。
これを毎日か、たしかに体鍛えられそうだけど壊れてしまいそうだ。
オヤジさんに直接手渡された給料の中身は4000drだった。
1000dr銀硬貨4枚がしっかりと入っていた。
「また明日も来ていいぜ!お前さんは中々素質がある!」
「ははは、前向きに検討してみます!」
ガクガク震える体を動かしながら俺はアレンとラナさんの家に戻っていった。
ラナさんに頼んでみて風呂に入りたい、超汚れたし何よりここの風呂の湯加減や気持ちよさを直に確認してみたい。
疲れた体にはやっぱり一風呂!
俺は太陽が沈む様子を見ながらハーレー街を抜けて住宅地へと進んで行った。
そして.....
「ラナさん、風呂入ってもいいですか?」
「いいわよ」
「ちょ、ラナ!?俺とも一緒に入ってくれたことないのに!?」
「え、俺一人だけだけど?」
「え?」
「え」
「ふふふ、アレンは早とちりのド畜生ね」
「(グサッ!)」バタッ
「あ、倒れた」
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