俺の蹴りとあの女の薙刀がぶつかる、なるほどな。ただの女と思って舐めてたらこっちがやられる、な。
あいつも相当な気の使い手か。こういうアプローチも嫌いじゃねぇよ、彼女にしてもいいくらいだ。
だけど、どうもやり方が好みじゃないんだよな。見た目もタイプじゃないし。まぁ、贅沢は言えるだけ言わせてもらうか、言うだけならタダだ。
脱出の方もオヤジがいれば大丈夫だろ、あの人の爪ならばここの床ぶち抜くくらい簡単にやってのけそうだ。
そうなると、俺は目の前のこの女を止めておくことが俺の役割。
マクベスの方にも敵が行ってる可能性がある。あいつなら心配いらない、と思いたいが雑魚いからな。まぁ、シャナちゃんが行けば状況は少し変わるだろう。
「あんた、やるな。俺の蹴りを止めれる奴なんて中々いないよ」
「その程度の蹴りをか?ディハルド王国はその程度のレベルなのか?」
「言うねぇ」
皮肉に挑発で返す、か。
口喧嘩での勝負なら確実に負けてたろうけど、試合や殺し合いでは負けるつもりはないな。
俺の戦闘スタイルは脚に気を纏わせて蹴り主体、腕は支えにして滅多に使うことはない。
再び女が薙刀を振るう、俺はそいつを避けることなく片足で防ぐ。どうってことない、たしかに気は相当だが筋力が足りてない。
気で威力は増加させることはできる。だが、人間の筋力そのものは筋トレでもしないと強化はされない。俺とあの女の差はそこにある。
そのまま薙刀を蹴り弾く。女はそれでも薙刀の先に気を込めてブンブン振り回すが、俺はただひたすらそいつを受け止める。
「貴様、何故受けるだけで攻撃に出ない?」
女は不愉快そうに下唇を噛みながらこちらを睨む、まぁ、そうしわ寄せるなよ。可愛い顔が台無しだぞ。
「そうカッカすんじゃねぇよ。俺はあんたを倒す気なんてないだけだ」
「ふざけるな!」
ブォン!と勢いよく振るわれた薙刀は一瞬だけだがリーチが伸びた気がした。その証拠に刃の届いてない壁に切り傷が入ってる、怖い怖い。
多分ホクヤのパンチと同じような原理だろうな。素手よりも武器の方が容易くできるってことか、このことはあいつには黙っておこう。嫌がらせだ。
「戦え!戦う気がないのなら、私の前に立ち塞がるな!」
「ッ!」
女が勢いよく放った突きが俺の眼前に、刃が迫る!
こいつはヤバイ!避けられない!
※
「それでこれはどういった歓迎だ?」
「そのまんまの意味だよ。テメェはここで死んでもらう」
さて、どうしたものかな。俺は怪我人の治療に来たはずなのに殺気立った連中と案内してくれたガラと頭の悪そうな男から敵意と殺気を向けられている。はぁ、とりあえず煙管でも吸っておこう。
「ここに怪我人は腐る程いる。だが、全員俺たちに逆らった反乱分子のゴミ共だ!ゴミを治す必要はねぇぜ、ディハルドのクズ野郎ォ!」
「なるほど、お前が内乱を起こした犯人の一人ってわけか」
「そうだと言ったらどうなるんだ?戦闘もできないクズ野郎が!お前が補助専だってことは知ってんだよォ!」
ふむ、既にバレているということは俺たちの素性は一通り調べたということか。なるほど、それでこれだけの人数で俺を囲ってると。
「それで、その補助専を倒すだけがためにこれだけの人数を集めたのか?」
「あン?」
「あれだろ、お前はそんな補助専の俺よりも弱いってことをわざわざ教えてくれてるんだろ?そうじゃなかったらわざわざこんなに人数を揃える必要なんかないだろ?」
「.....ブッ殺されたいみたいだな」
「−−−さっさとやれよ、雑魚」
煽るだけ煽ったのはいいけど、さて、これからどう出るかな。
奴は青筋をこれでもかと言わんばかりに全身から剥き出してるし、正直勝てるかと言われたら微妙だ。まぁ、ちゃんと煽ったからには相手するし、俺が意味もなく煽ったと思ってるこの馬鹿の負けはもう確定してる。
−−−さて、そろそろやって来てくれるよね。さっきから気配も近づいてきてるし。
「−−−挽肉にしてやるよォ、クズがァ!」
案の定奴はブチ切れた。さて、俺の役目はここまでだ。
向かってくる奴に向かって俺も歩き始める。目指すは建物、中に怪我人と治療を依頼した人が待っている。
迫り来る拳、だが、俺に当たることはない。グッドタイミング、シャナ。
「が!?」
「−−−全く、無茶しすぎです。アタシが間に合わなかったらどうしてたんだか」
全て計算通り。さて、非常に申し訳ないが後はシャナに任せて俺は俺の仕事を全うしよう。俺は俺のできることをこなす、でも、できないことは押し付ける嫌らしく汚い人間なんだ。
俺は静かに建物に入り、扉をゆっくりと閉めた。
※
「さて、と」
ふぅ、意外と時間かかっちまったな。思ってたよりもこのダグルダって野郎が強かったんだ。たしかに他の奴らとレベルは違ったが、師匠とマラナ王妃に鍛えられた俺はとうに人間をやめてしまったらしい。
こいつの動きが止まって見えた。多分師匠と出会えてなかったら俺ここで死んでたな、うん。
「−−−で、お前らはまだやるの?」
俺はさっきから突っ立てる鉄棒野郎とその取り巻き達に尋ねる、そう警戒してんじゃないよ。
俺だって極力荒っぽいことはしたくないんだからさぁ。なるべく平和的にピースフルな解決が望ましいと思ってる人間だし。平和主義者だし。
鉄棒野郎はアイデンディティである鉄棒をカランカラン、と地面に落として両手を上げる。戦意はないということでいいのだろうか?
「やめておきますよ、あなたには敵いそうにない」
「それが賢明な判断だ」
「ちょっ、こんな奴に負けを認めるのかよバッツ!サラドとムー、タザニア、ランバーがやられたんだぞ!」
こんな奴とか言うんじゃねぇよ。
「落ち着けラグナ。なぁ、あんた。えっと」
「ホクヤだ」
「ホクヤ、少し話をしないか?こいつらがまだ気絶してる間に」
なるほど、たしかにこいつらが起きたら俺は襲われる。特に最初に気絶させた奴の敵ー!とか言って俺に向かってきた女なんて特に厄介そうだ。
「わかった。俺も聞きたいことがあるんだ、情報を共有しよう」
「わかりました。僕はバッツ、こいつはラグナです」
「よろしくな」
「よろしくしたくねーよ!」
どうやらラグナの心はまだ開けないようだ。まぁ、こんな内乱の起こってるようなところで見ず知らずの奴に心開けとか無理な話か。
その分バッツはリーダーをやってるだけあって、その辺の割り切りと適応力はさすがというべきか。
「敵さんも目が覚めたら面倒だ、少し移動しないか?」
「わかりました、じゃあこいつら運ぶの手伝ってもらってもいいですか?」
「わかった」
そんな感じで俺たちは移動を始めた。彼らのアジトとしている場所が近くにあるということなのでそこに案内してもらうことになった。
ラグナは最後の最後まで反対していたが俺はそこをノリと勢いで何とかした。
「−−−じゃあ、まずは俺からいいか?」
「はい、どうぞ」
今ここには俺とバッツしかいない。ラグナは倒れた(というか俺が倒した)仲間達の看病をしている。
まぁ、腹割って話すなら二人だけの方が都合はいいからいいけど。
「この国の内乱だが、キッカケとかわかるか?」
「はい、この国は−−−」
バッツが言うにはこの国の王であるゲリアノート王は人望はあったのだが、どこか小心的で頼りない王だったらしい。そこでまず王を交代させるようと過激派が生まれた。そして王の保守派も同時に生まれた。バッツ達が保守派でダグルダ達が過激派、及び排斥派だったらしい。
「排斥派の代表はアッシュ・エクスクラメッション。最近王を殺したことでわかったことなんです」
「待て、アッシュってあの王の側近の?」
「はい、三年前から排斥派の代表だったらしいのですが誰一人気がつくことなく!四日前、王が殺されて初めて気がついたんです!」
何てことだ、となるとオヤジ達も危ないじゃないか!
あの男がまさか全ての主犯だったなんて、俄かに信じ難いがなるほど。道理で入国があっさりできたわけだ。
「今は王宮の兵士達までもを味方につけて、実質この国の実権は四日前から奴の物です!」
まさか、マクベス先輩に依頼を持ちかけたり、王の遣いとしてオヤジとシャナを招いたのも全て奴の?
だが、何の得があるんだ?そこがまだわからない。全貌は見えてきたが、どこか釈然としない。まだ、まだ何か足りない。
「そして、ダグルダは言ってました。僕達王の保守派を殺した暁には力が献上されると」
「力?」
「おそらく地位が与えられるのでしょう、この国が生まれ変わったときに」
そうか、これはアッシュによる下克上のようなもの。もう内乱の域を出てしまっているのか。
マズイな、オヤジ達は無事かな?敵の勢力がわからないから心配だ。
アッシュもどこにいるのかわからない。だが、何とかするしかない。
片足突っ込んじまったんだ、俺が見届けなきゃいけない。
−−−俺が顔を上げた瞬間だった。
バッツ達しか知らないはずのアジトの入り口に一つの人影があった。
それは昨夜見たあの男そのもので、今ぶっ飛ばすべき人物!
「見〜っけ☆」
「アッシュ!」
「ちょうど良かったぜ、アッシュさん」
やるしかねぇ、な。要はこいつをぶっ飛ばして全部終わらせればいいんだよな?
−−−テンション、上がってきたぜ!
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