フェバル〜青年ホクヤの軌跡〜   作:Cr.M=かにかま

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一言だけ、 ど う し て こ う な っ た !?
(更新お待たせしました)


23.内乱

 

翌日。

俺はどこからともなく聞こえた怒号で目を覚ました。そうか、今日は自宅じゃなくて遠出してたんだったな。

昨夜は内乱の気配なんて全然なかったけど、今聞こえた怒号と破壊音は確実に何か起こった音だ。

どうやら内乱が活発になってきているという話は本当みたいだな。

さて、とりあえず俺は起きたけどオヤジ達は起きてるのか?アッシュさん曰くここは王宮に近く安全といえば安全みたいだが、逆に危険でもある。

とりあえず服を着よう、着替えを済ませていつでも動けるようにする。まずはそこからだ。

 

「おい!起きてるか...」

 

スパーン!と俺が着替えてる途中にシャナがノックもせずに扉を開け放った。顔真っ赤じゃねぇか、おい。

 

「.....おいシャナ、せめてノックくらいしてくれ」

 

「し、失礼した!」

 

全く、タイミング最悪だろ。こういうのをラッキースケベって言うんだったかな?

.....何か扉の向こうからガンガンと何かを打ちつける音が響いてるんだけど、あいつ何してるんだろ?

とりあえずシャナは起きたようだ。部屋はそれぞれ一人ずつ別のところで寝泊まりしたから確認が取りにくいな。気でも起きてるか寝てるかまではわからないし。

 

「シャナ、他には誰が起きてるかわかるか?」

 

「し、知らん!」

 

何か怒られた、理不尽すぎやしないか?

着替えを終え、扉を軽く叩いてシャナに扉から離れるように合図する。

 

「準備は済んだの?」

 

「.....何でデコから血流してんの?」

 

「邪念を払ってた」

 

訳がわからん。廊下から外を見てみるとあちらこちらで気のぶつかり合いによる爆発が発生していた。

この辺りまで届いてはなかったが、少しずつ、少しずつとこちらに向かってきているようにも思う。

 

「シャナ、お前はオヤジ達を起こしてくれ。俺はちょっと、殴り込みに行ってくる」

 

「いや、あそこに行くとか馬鹿でしょ」

 

「うるせぇ、馬鹿でいいよ。あぁいうのは力づくでもしなきゃ止まらないんだよ」

 

そう、ここも俺の故郷みたいにするわけにはいかない。あの戦争だってほんの些細なきっかけが原因だったんだ。

思い返してみればくだらないと思えるほどの、馬鹿馬鹿しい理由。

ここでの内乱の理由はわからない。だけど、止めれるものは止めてやる。

何をしてでも、絶対に!

 

「じゃ頼んだぜシャナ!」

 

「ったく、これだから単細胞は!」

 

階段から行ってたら時間がかかる、もうこっからでいいから行こう!

窓を開いて飛び降りる、屋根から屋根を飛び気のぶつかり合いの激しいところにまで一気に移動する。

こんなの、ディハルド王国外周マラソンに比べたら大した距離じゃない!

 

−−−そこか!

見れば五人くらいの男女が殴り合いをしていた。もちろん、気を纏わせた全力の状態で。

しかも、相手を全力で殺そうと本気の殺意を持って武器まで使ってやがる!

もう既に倒れてる人もいる、犠牲になった人達もいる。

これ以上はさせねぇ、俺がこいつら倒しても結果は同じかもしれねぇが。少なくとも波は止まるはずだ!

 

「−−−らぁ!」

 

「ガッ!?」

 

「サラド!?」

 

「テメェ、何者だ!?」

 

さて、何と名乗ろうか。

できる限り怪我をすることなく倒したかったため、一人一撃で沈めたが見つかってしまった。

まぁ、元から隠れるつもりなんてなかったんだけどね。こうでもしないとこいつらは止まらない、こいつらの向ける殺意がそれを物語っている。

しかも君たちさっきまで殴り合ってたのに何で両陣に睨まれて敵意剥き出しにされなきゃいけないのかなぁ?

俺はただ単純に平和的解決をだなぁ!

 

「聞いてんのか、コラァ!?テメェは何者だ!?」

 

「−−−ホクヤ。通りすがりの旅人だ」

 

悩んだ結果そう名乗ることにした。イライラして鈍器で殴ろうとしてきた短気ちゃんの顔面にパンチをプレゼントしてね。

二人目、あとは、両陣合わせて大体そうだな、十人ちょっとかな?

 

「ムレアジナ!」

 

「よくもムーを!」

 

今度は一気に二人か。ていうかホントはこれ以上怪我人増やしたくないんだけど、向かってくるなら仕方ないな。

こいつら聞く耳なんて持ってなさそうだし、叩き潰す!

ゴォォォォ!!と俺は気を爆発的に高めることで周囲に衝撃波を打つ。気絶させるまでにはいかないけど、大人数とやり合うときには丁度いい。

−−−背後から奇襲。大きく硬い鋼の棒状のモノで俺の顔面を横殴りにしようとしてくる。

とりあえず少しスライドするように動いて、気を纏わせた肘で受け止める。

 

「おいテメェ、何が目的だ!?何故俺たちを、仲間たちを攻撃する!?」

 

それはお前らが攻撃してくるから、何て俺から攻撃しといて言えるわけもない。今度は背後から三人!

クソ、この状況での不意打ちはちょいとしんどいな。さっさと答えて動かないと!

 

「−−−止めるためだ。この戦いをな」

 

めっちゃ咄嗟に答えてしまった、しかもわりかし適当に。

そのまま鉄棒を払いのけて背後から来る三人には回し蹴りでまとめて吹っ飛ばす!あれじゃ気絶はさせられねぇな、中途半端に意識残しちまった。

残りは、八人か。もう俺にはどっちがどっちか判別できねぇな。もう俺蚊帳の外になりかけてるし。だってこいつら勝手にやり合ってる。

いや、このドサクサで潰そうとしてるのか。まぁ、この距離ならパンチも届くからやらせはしないけどな!

 

「がっ!?」

 

「お、お前!」

 

「言っとくが、俺にはどっちが正しくて間違ってるかなんてわからねぇ。だけど、お前らが無駄に戦って血を流すってんなら俺は無理矢理でもしてお前らを止める!」

 

「ふざけるな!事情も知らないくせに何勝手なことを!」

 

「事情は知らないし勝手だが、お前らの勝手な都合で関係ない奴らまで怪我してんだ!」

 

「ッ!」

 

「−−−それでもお前は、胸張って戦いを続けることが正しいと言えるのか?」

 

対話してるのはさっきの鉄棒野郎。どうやらあいつは片陣のリーダー的存在らしいな。あいつ陣営の奴らと思える連中は攻撃の手を止めた。

−−−それでも、向かってくる馬鹿な五人はぶっ潰すけどな!

まずは一人目、バック転の要領で顔面に蹴りを入れる。二人目、腹部を思いっきり殴る。三人目、頭を全力で蹴り飛ばす。四人目、背中を拳で叩きつける。五人目、右ストレートで顔面を−−−ッ!

 

「.....そう簡単にはやられんぞ」

 

−−−受け止められた。

コイツがあっち陣営の仕切り屋か。中々に強い、今までやってきた奴らとは違って圧倒的に。

今までの奴らとはレベルが違うな。少し面白くなりそうだ。

 

「俺はダグルダ。倒れた仲間たちの為にもここでお前を潰す!」

 

 

 

「え、マクベスさんはもう既にいない!?」

 

「あぁ、どうやら朝早くから本来の依頼先に向かったみたいなんだ」

 

まさかもう既にアタシよりも早く起きてる人がいたとは。ギムさんとパイルさんにあの馬鹿が先走ったことを伝えるとパイルさんが大笑いしはじめた。何が面白いんだろうか?

 

「まぁ行っちまったんなら仕方ねぇ、オラ達は王の所へ行こう。さっさと目的だけでも済ませる」

 

「ま、それが妥当ですね」

 

「内乱の方はホクヤ、マクベスは個人で受けた依頼、パイルとシャナはオラについて来てくれ」

 

「うっす」

 

「はい」

 

この辺りはまだ内乱の勢いがなく、特に何事もなく王宮にまでたどり着くと昨夜と同じようにアタシ達を待っていたかのようにアッシュと名乗る男が立っていた。

 

「お待ちしてました。そろそろ来る頃だろうと思ってましたよ」

 

「そいつはご苦労なこった。ずっと待ってたのかい?」

 

「とんでもない、僕だってそんな暇じゃないですから。こちらへ、ゲリアノート王の元へご案内致します」

 

アッシュが先導してギムさんが続き、アタシとパイルさんがその後に続く。

ディハルド王国の宮殿とは異なり、上り階段が多く、地下を中心とした作りにはなっていないようだった。

そこまで大きくはなかったが、王の住まう宮殿なだけあって荘厳で美しく、金がかけられていることがよくわかる。余程の権力者でないとここまでのことはできないだろう。

 

「人は一人もいないんだな」

 

「えぇ。皆内乱の鎮静に向かっておりますので。一国民の起こした暴動とはいえ中々収まらないもので」

 

−−−あれ?何だろう、何か違和感を感じる。

もうすぐ王の待つ王座に近づくっていうのに、何なんだろう?何か、何かがおかしい気がしてならない。

アタシの思い過ごしだといいんだけどこの宮殿に入って歩いてから気になることが多すぎる。

アッシュが王座の間の扉を開いてアタシ達を入れる。

 

そこには首を斬られた王が玉座に座っていた。

 

「なっ!?」

 

「チィ!」

 

扉が閉められた!やられた、まさかあの男が!?

パイルさんは無理矢理にでも扉をこじ開けようと力づくで引いたり押したりしてるけど、開く気配はない!

 

「落ち着け!今オラ達がどうにかするのは扉じゃねぇ。玉座にいるあの女だ」

 

ギムさんに言われて玉座に目を移すと、そこにはゲリアノート王と思われる男の頭をポンポンと投げてはキャッチを繰り返してる女が玉座の肘掛に優雅に座っていた。

アタシが抱いていた違和感、それは内乱が起こっているというのに関わらずあっさりこの国への入国と王宮への進入があっさりと、上手くいきすぎたこと。

そして、内乱が起きてるのに王が無事だと断定できるあの男の存在。王の側近と自称しながら王と共に行動をしていないアッシュそのもの。

アタシが思考の海に入っているとパイルさんが玉座にいる女に声をかけていた。

 

「こっから出たいんだが、どうすればいい?」

 

「私に殺されればいいと思うよ?この愚かな王のように」

 

「ハハ、中々熱烈なアプローチだな。悪くない」

 

この人は、こんな状況なのに何を言ってるんだか。

 

「−−−だが、残念ながらあんたは俺の好みじゃない」

 

「そう、それは残念」

 

「パ、パイルさん」

 

「シャナ。あんたはオヤジと一緒に何とかここから脱出してくれ。マクベスの野郎が心配だ」

 

そうだ、マクベスさんも一人!しかもあの人はあの馬鹿やパイルさんと違って戦闘が得意ではない。

 

「わかりました、気をつけてください」

 

「おうよ!」

 

ビキビキビキ、とパイルさんから気が放出される。呼応するようにあの女からも気が放出される。

 

「ギムさん!」

 

「あぁ、オラに任せろ!」

 

−−−瞬間、玉座の間の中央で二人が激突した。




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