フェバル〜青年ホクヤの軌跡〜   作:Cr.M=かにかま

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22.ベヘモン国

 

「おう、ホクヤ!ちっと邪魔するぜ!」

 

「お、お邪魔します」

 

「ちょっと待て、少し待て。この流れは何かおかしい」

 

いや、ホントにちょっと待ってくれ。

何で寝ぼけ眼のナナと朝飯食って駄弁ってるこんな時間にオヤジとシャナが一緒にウチに来たんだ?

ていうかどういう組み合わせだよ、一体。何があって二人が一緒になってるかすら全然理解できない。

シャナは普段の様子とは違う人見知りモードだし、嫌な予感しかしない。

絶対に何か巻き込まれるとしか思えない。

だって、オヤジは大体一ヶ月前にタルカッタ山で巨大UMAの巣を掘り当ててしまい死にかけてたし、シャナに至っては俺の命を兄共々しつこく狙ってきやがる物騒な奴だ。

トラブルメーカーである二人が出会ってしまい、ウチに来る時点で何もないことなんてあるわけがない。

 

「おう、うまそうだな。とりあえずオラももらうぞ」

 

「いや、もらうぞってあんたな。別にいいけど」

 

「ア、アタシはここにいてもいいのだろうか?」

 

「とりあえずその武器を仕舞え、それで空いてる椅子でいいから座れ!」

 

仕方ない、この二人にも用意するしかないか。

というかシャナよ、たしかに空いてるところに適当に座れといったが、何故ナナの真横を陣取ったし。

ほらそんな睨むんじゃねぇよ、ナナ怯えちゃってるじゃんかよ。

オヤジは飯にありつくのが早いよ。俺が動くまでもなかったよ、この人。

まぁ、多めに作っておいてよかった。最近食欲と空腹が凄いから多めに作っちゃうんだよね。

 

「ほいじゃ、本題な」

 

「やっとか」

 

何故だろう、オヤジが何かちょっと顔青くしてる気がする。

 

「あ、あぁ。実はアーサー王から直々に依頼が来てな」

 

レオナルドさんがオヤジに依頼?

いや、これはディハルド王家がギルドに依頼したという解釈でいいのかな。

あの二人なら直接的な関係もありそうだけど。

とりあえずは話が進まないからツッコミは入れないでおこう。

 

「ディハルド王国の属国にあたるカスティルアって小国、といっても属国じゃ一番デカイんだけどな」

 

「そのカスティルアの隣国にあたるベヘモンで内乱が起こったんだ」

 

「内乱」

 

うわー、思ってた以上にめんどくさそうな案件だな。

たしかにこれは実力だけが取り柄で暇してる俺たち傭兵に頼むにはうってつけの仕事ってわけだ。

レオナルドさんしっかり国王してるね。

 

「ホントなら、ギムさんの護衛にはお兄ちゃんが行く予定だったんだけど」

 

「シャドルに何かあったのか?」

 

もうあの時ゲルターさんに止められたときの謹慎は既に解けてるはずだけど。もしかして延長になったとか、そうだとしたらいい気味だ。ザマァ。

 

「.....その、なんというか、ね」

 

「言いにくいなら別にいいよ」

 

なるほど、それで兄が使えなくなった代わりに妹のシャナがオヤジの護衛につくことになって一緒にいるわけだ。

まぁ、そういうことか。何故ウチに来たのか何となく察しはついた、シャナはたしかに強いが護衛というには少し向いてない。

どちらかというと闇夜に忍びそのまま一撃必殺決めちゃうタイプだからな。

乱戦は不得意なのだろう、そこで護衛人数を少しでも増やすためにこっちに来たってとこか。

 

「それでオヤジ、出発はいつですか?」

 

「察しがいいな。飯食ったら出発だ、パイルとマクベスも連れて行く」

 

「そういえばホクヤ様。ドーバスさんとの修行はよろしいのですか?」

 

「あ、そうだった!」

 

師匠のメニューは最低毎日一回行う必要がある。

護衛中にするわけにもいかないし、何日かかるかわからないから今回は無理か?

 

「安心しろ、もう事前に話してある」

 

「早いな」

 

「言ったらオッケーもらえたで。だから安心してオラを守れ!」

 

やれやれ、何でこの人が堂々と威張ってるんだか。

仕方ない、な。

 

「じゃあ、俺は飯食ったんで準備しますわ。悪いなナナ、しばらく家空ける」

 

「いってらっしゃいませ!私としてはついていきたいくらい寂しいですが、今回はホクヤ様のために自重させていただきます!!」

 

「うん、ありがたい。俺が留守の間頼むぞ」

 

「.....これって夫婦のやり取りと捉えてもよろしいですか?」

 

「何でそうなるんだよ」

 

ハァ、何か朝から疲れたな。

ていうかオヤジ、ニヤニヤするのやめてくれません?あと、全部食べないなら最初から食える量取ってくださいよ。

そしてシャナ、貧乏揺りが激しくなってるぞ。床抜くんじゃないぞ。

何事もなく終われば、そんなわけにはいかないか。

 

 

 

二時間後。

準備を終えて俺たちはとてつもなく暑い砂漠のど真ん中を歩きながらベヘモンへと向かっている。

どうやらこの世界には乗り物という概念がないらしく、基本的に移動手段は徒歩となっているようだ。

先頭をシャナ、その後ろにオヤジを囲うように右翼がパイル先輩、左翼には俺、最後尾にマクベス先輩というフォーメーションだ。

所々にUMAが掘ったような大穴があり、いつ飛び出してこちらを襲ってくるのかと警戒しながら先を急ぐ。

 

「オヤジ、今回の目的は内乱を食い止めることでいいのか?」

 

「いんや、そっちはついでなんだ。ベヘモンの王からアーサー王への献上品があるらしい。それを受け取るのが最優先だ」

 

「献上品?」

 

「詳しいことはオラも知らん。だが、オラ達が行く時に都合よく敵さんが現れるとも限らない、だからそっちのことはホントについでなんだわ」

 

なるほど、たしかにそうだ。

そもそも国の内乱なんて毎度毎度血を流して争ってるわけでもない。

隠密にやることが多い、もしかしたら暗殺などを中心として堂々と表舞台でやっているとも思えない。

一言に内乱といっても様々なことを考えることができる。

 

「だが、一泊はする手筈だ」

 

「そうなんですか?」

 

「あぁ、俺は怪我人の治療をメインに動くことになるだろう。こっちの受けた依頼も同時並行ができるから俺は今回同行したんだ」

 

煙管を吸いながらマクベス先輩は空を見上げる。たしかに国がそんな状況なんだったら怪我人も多いか。

 

「パイル先輩は?」

 

「俺はオヤジに頼まれて護衛と案内だ!ベヘモンには何回か行ったこともあるからな!!」

 

「え?パイル先輩が道案内?」

 

「喧嘩売ってんのかテメェ!」

 

だって、ねぇ。あのパイル先輩が人に道を案内するだなんて。

てっきりシャナの役割だと思ってたからな。

とりあえず各々の役割が何となく見えてきた。俺自身ベヘモンに行ったことがないから何とも言いようがないが、とりあえず今は目の前に現れた三メートルクラスのUMAを倒すことが先決だな。

大地に四肢をしっかりと張り、唸り声を上げてこちらを睨みつけている。

 

−−−道を開けてもらうぜ、化け物!

 

「ッラァ!」

 

「てい!」

 

俺のパンチとパイル先輩のキックがUMAの額に直撃する。

俺のパンチはUMAとの間に1.5メートル離れたところから師匠直伝の飛来パンチ!

パイル先輩は素早く移動し、そもそも前衛だったから俺よりもいい位置なのは当たり前か。そのまま跳び上がり一回転して蹴りをぶつけた。

UMAは怯み、一瞬隙が生じる。

その隙を狙って、まず俺がUMAの懐に潜り込んで蹴り上げる。

軽く浮いたUMAをパイル先輩がタックルで遠くへと吹き飛ばす。

よく飛ぶなぁ、五メートルくらい飛んだか?

 

「じゃ、先急ぎますか」

 

「だな」

 

「では、このまま向かおう」

 

このペースで歩き、俺たちがベヘモンに辿り着いたのはこの地点から四時間後の出来事であった。

もうすっかり日は沈み、星の周囲を軌道線上を移動する小惑星(俺がこの世界に来る時ぶつかりかけたあの塊)がよく見える。

ディハルド王国ではあれのことをルートストーンと呼ぶらしい。

 

ベヘモン国、52年前の戦争でアーサー王十二世率いる部隊に敗北し、属国となったカスティルア国の傘下にあたる小国の中の小国。

一目見ただけでは内乱が起こっているような国には見えないが、本当にここであっているのだろうか。

 

「お待ちしておりました」

 

城門を潜るとその先には一人の男が笑顔を浮かべながら壁にもたれていた。

 

「お前さんがベヘモンの主か?」

 

「とんでもない。僕はしがない考古学者ですよ、アッシュと申します。三年ほど前からゲリアノート王の側近もしております。以後お見知りおきを」

 

「アーサー王の代理で来た、ギムだ」

 

「王の遣いのシャナです」

 

俺たちはどうやら蚊帳の外、当たり前か。

あくまでも俺とパイル先輩の仕事は護衛である。

ここから先はオヤジとシャナの仕事、中に入ればマクベス先輩にも仕事があるのか。

 

「遠路はるばるお疲れ様です。お部屋を用意しておりますので、どうぞこちらへ」

 

「王は不在なのか?」

 

「いえ、おりますがもう時間も時間ですのでお休みになっておられます。お会いするのでしたら後日でお願いしたい」

 

「承知した」

 

俺たちはアッシュさんの案内に従って今晩一泊する宿へと向かった。




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