フェバル〜青年ホクヤの軌跡〜   作:Cr.M=かにかま

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16.百聞は一見に如かず

.....あれ、俺いつ寝たっけ?

ていうかここどこだ、家でもないしギルドでもない。

初めて来るところ、だよな?

そもそも来る、って表現が正しいのかもさえわからない状態だ、ガチャッと扉が開き二人の顔見知りが入ってきた。

 

「ホクヤ様!」

 

「.....ナナ」

 

「呆れたぜ、もう目を覚ましやがったのか」

 

「カイヤさん!?」

 

そうだ、たしか昨夜この人と思いっきりやりあったんだった。

それで意識を失って、道理で体が怠くて動かしにくいわけだ。

ん、昨夜で合ってるよな?あれ、何か感覚とかが全然わかんねぇ。

俺は一体どれだけの間気を失っていたんだ?ここに俺はどのくらいの間いたんだ?

 

「そう身構えんな、もうお前と戦う気なんてねぇよ」

 

あれから俺はどうなったんだ、まさかここはまだローグ街で俺は人質としてここに捕らえれてるのか!?

それとも違う目的が、なんて考えてたらナナが思いっきり抱きついてきた。

 

「よかったッスよホクヤ様、ボスのアホゥが手加減もなしにこんなにするからもう、心配で心配で」

 

「誰がアホゥだ、こら、クソチビ!ってなわけだ、ホクヤ。どーやら俺の勘違いだったみたいだわ、なんか悪いな」

 

「あ、いえ、俺はいいのでとりあえずナナの頭から手離してやってください。変な音してますし」

 

「チッ」

 

いや、気を抑えるだけじゃ意味ないと思いますよ、ていうかあんたさっきまで気使ってたのかよ!?

「あうあう」と頭を押さえながら涙目でナナはふらふらと安定しない足取りで部屋をウロウロしている。

 

「とにかくだ、侘びと言っちゃなんだが、風呂入ってくかい?あの馬鹿が言うには元々それが理由なんだとか」

 

「マジっすか!?」

 

そうだった、俺たしかナナにローグ街一の風呂に入らせてもらえるという約束で来たんだった、しかも大浴場!

これは期待できる、疲れ切った体にはちょうどいい。

そういえば、傷が治ってる。

あれからどれだけ時間が経ったかわからないけど、かなりボコボコにされたのにもうほとんど痛くないし目だった傷もない。

もしかしたら傷は初めからなかった、いや、そんなはずねぇし。

まぁいいや、とりあえず風呂に入れるんだ!

 

「ウチの地下に偶然あったんだ!天然の大浴場さ!」

 

「ぐぬぬぬぬ、私も行きたい、行きたいけどこのホクヤ様の汗と涙と血と成分の混じった布団から離れられない!!ていうか離れたくないッス!!」

 

「一緒に入るつもりだったのかよ?」

 

いくら小さいといえど、混浴はさすがにマズイだろ。

何故か涎を垂らして幸せそうなナナを放置して部屋を出る。

ていうかここナナの部屋だったんだ。

 

俺はカイヤさんに案内される形で家の中を歩く。

しばらくするとそこそこ広い脱衣所に到着し、二人で服を脱ぐ。

 

「おめー、中々イカすモン体に描いてるな。イイね!」

 

「あ、これ俺の一族の印みたいなもんです」

 

そうだ、いつだったか忘れたがこの世界に刺青の文化がないらしく俺の左胸から二の腕の刺青に対してはこういう反応が多い。

まぁ、故郷じゃ成人したら家族のシンボル、いわゆる家紋を体に刻みつけて家族を支え代表するという文化があったからな。

大抵の人は何らかの刺青を挿れている。

 

重い鉄の扉を開いた先には大量の湯気、そして目の前に広がるのはこの国に来て一番デカイサイズの風呂!!

まさに大浴場!!

 

「お、おぉ!!」

 

「スゲーだろ!俺が整備する前まではここまで綺麗じゃなかったが、今じゃ金取れるレベルになっちまったわけだ!今回は特別に無料だ、存分に浸かれホクヤ!」

 

「ありがとうございます!!」

 

ヒャッホー!テンション無駄に上がってキタァ!!

しかし、マナーは守らないといけないので走りたい気持ちを抑える。

体を軽く流して足からゆっくりと全身を浸ける。

あぁ、こりゃ快感だわ、めっちゃ気持ちいい。

やっぱ天然モノは比べものにならんくらいにイイ、ただひたすらにイイ!

壁を見てみると外へ通じる小さな空気口のようなものがいくつか設置されていた、おそらくあれが湯気を外に出し湿度をいい感じに保ってるんだろう。

そのあとにカイヤさんも浸かる、さすがに風呂ではサングラスをしていないようで、真っ赤になった鋭い眼光が露わになる。

全身も傷だらけで引き締まった筋肉が凄まじい威圧感を与えているようにも思える。

頭に可愛らしい獣耳、背骨から生えてる尻尾のせいであまり威厳があるように思えないが、それはあくまでも俺の故郷のはなしだ。

カイヤさんは右腕を抑えながら端に背を預ける、よく見ると抑えた右腕は腫れていた。

昨日まではあんなのなかったのに。

 

「時にホクヤよ、ちと提案があるんだ。もし住居がなかったらここに住まないか?」

 

カイヤさんが真面目な表情で告げる、そのまま俺の返事を聞かずに続けて言葉を投げかける。

 

「まぁ、無理にとは言わねぇけどな。ナナの奴があんなに嬉しそうにしてるのを見てると、ついな。あいつ小さい頃に両親にここに捨てられたんだよ」

 

「え」

 

「両親の行方はわからねぇ、時期は何年か前の建国祭の時だったからその時に来た国外の奴かもしれない。どちらにしろ俺が拾っちまったからには責任持つ必要がある」

 

知らなかった、いや当たり前か。

俺とナナが知り合ってからまだ時間は全然経ってない。

俺はあいつのことを何も知らないしあいつも俺のことを何も知らない。

 

「俺も二十年くらい昔はハーレー街に住んでたんだが、親と喧嘩してな。それでここに来て自分より年下のガキどもを放っておけなくなってここに住んでる。あの人の恩恵もあったし、強くもなれた」

 

「あの人?」

 

「ローガさん、俺の恩人だ。ま、今はここにはいないけどな」

 

この人にも色々あったんだな、しかもこのローグ街は来てみるとさっきから印象が変わりっぱなしだ。

スラム街っていうから悪人が自然と集まってるのかと思えば、身寄りのない子供や訳ありの人たちばかり。

綺麗な国ほど闇が深いという誰かの言葉を思い出した、どうやらディハルド王国も何か深い闇がありそうだ。

 

「嬉しい申し出ですが、俺はもうハーレー街に家があるんで。友人や師匠達もいます、あの関係を絶つわけにはいきません」

 

「.....そうか」

 

カイヤさんは一瞬だけだが、視線を動かした。

心底残念そうな、そんな感じだ。

 

「ま、無理は言わん。来たくなったらいつでも来い、風呂も開放してやるし、ナナの奴も喜ぶ。俺もお前を気に入った、いつか酒でも飲もうや」

 

そう言葉を残してカイヤさんは大浴場から先に出て行った。

俺も後に続くようにして風呂を後にした、もう少し入っていたい気持ちもあったのだが、気分が変わった。

もう少しここを知りたい、実際にローグ街を歩いて人と話してみたい。

アレンから聞いた話と食い違いがある、そこに大きな溝を感じてしまうのだ。

決して埋まることのない大きな大きな溝を、長い歴史の溝があるような気がしてならない。

 

俺が脱衣所を出るとナナが笑顔で待っていた。

 

「ホクヤ様!」

 

「ナナ」

 

「でゅふふ、風呂上がりのホクヤ様だ。中に入りたかったけど、私我慢しましたよ、決してボスが怖かったとかおやつ抜きを避けたかったとかそんなんじゃないッスよ〜、でゅふふ」

 

俺は嬉しそうに抱きついてくるナナに何て声をかければいいのかわからなかった。

なのでとりあえず頭を撫でる、なんか小動物に見えてきた。

 

「はわぁ〜」

 

「なぁナナ。またさ、今度ここを案内してもらっていいか?」

 

「へ?」

 

そう、さっきまで忘れてたのだが師匠と特訓をするという約束を思い出した。

なので俺はとりあえずギルドに行かないといけない、どのくらい寝てたがわからないが早く行くことに越したことはないし。

 

「は、はい!!」

 

ナナは元気に返事をする。

こんな明るい子が、ねぇ、俄かに信じがたいかあまり詮索するのもよくないからな。

今はこれでいい、今はギルドの皆と楽しく過ごして俺の思うがままに生きればいい。

そう思わされたのだった。

 

あと、俺はどうやら昨夜から昼まで寝てたらしく戻ったらちょっと心配された。

ミカに至ってはおろおろの度合いが越えてしまっており、テンパってた。

シャナはどうやら朝から俺の家に張り付いてたらしく(ストーカーかよ!)何故家にいないかと問われまくれ、師匠はやっと来たかとめっちゃ嬉しそうだった。

これからはきちんと時間の配分に気をつけよう。

俺は師匠に連れられて国外の師匠の家に向かった、いよいよあの最強の男による師事(という名の地獄?)が始まる!




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