建国祭は無事に終わり、現在俺たち「鬼の双牙」のメンバーは全員で打ち上げを行っている。
師匠も参加し、便乗しメンバーではないがジョー、ゲルターさん、ラナさん、マラナ王妃、さらには俺のことを狙ってシャナが外野から混じってきた。
マラナ王妃の話によるとレオナルドさんも来ようとしたらしいが、大臣であるバルダーさんに騒ぎになる可能性が高くなるから止められたとか、ナイス判断です。
マラナ王妃だけでも大騒動になり兼ねないのはこの際置いておこう。
またギルドに穴が空いてしまったが、そんなことなど気にせずにはしゃぎまくった。
ゲルターさんはマラナ王妃の護衛(という名目の監視)と何とジョーの父親らしいから子守とでやって来ていた。
五日目の警備には師匠も参加して関所という国の入り口を鉄壁の壁が守っており心強さは半端なかった。
師匠といえば、あの日はもう遅いからと言って何もせずに終わり翌日も仕事があったため、明日から稽古をつけてもらえることとなった。
そのことでギルドの皆から色々と聞かれたり絡まれたりと面倒なことが続いた。
シャナはあれから暇があれば一日一回は襲撃してくる、仕事時間に来ないあたりは律儀でありありがたい。
バルダーさんの話だとシャナは王に仕える暗躍部隊の隊員で暗殺などに秀でてるとか、怖いよ、俺そんなのに狙われてんのかよ。
まぁ、今の彼女は酒飲まして潰したからしばらくは襲ってこないだろう。
なんか腹踊りしてるし、見てられん。
打ち上げは真夜中を告げるカルデラの鐘が鳴るのを目処にして続いたが、二次会とか行って八割形皆さん飲んでらっしゃる、俺はもちろんそろそろ限界というか風呂に入りたいので帰る。
楽しいと言えば楽しいのだが、そこまで酒を飲めるわけではない。
酒豪ではないのだ、ちょっとお付き合い程度に飲めるレベルである。
あまり飲みすぎると次の日がしんどいし、朝起きられない。
夜風が気持ちいい、砂漠地帯にあるディハルド王国は夜になると涼しいくらいに冷える。
この国の服は本当に都合がいい、環境に適していて熱を逃がしたり吸ったりが昼夜できちんと対応してる。
世界は本当に広いなぁ、これからもっと色んな星々を旅することになる。
その先では一体何が待っているのだろうな、っと。
−−−まったく、わざわざこんな日にやって来なくてもいいのによ。
ていうかさっき酔い潰したはずなのにもう復活したのかよ。
ここ二、三日で敵意や殺意に敏感になってしまった俺自身が恐ろしいよ。
これはシャナに感謝すべきなのか、それとも恨み言の一つや二つくれてやるべきなのか、な!?
「ッ!」
上空から受けた襲撃、俺は即座に右腕を振るって反応するが、避けられる。
この避け方、シャナじゃない?
ていうか飛んでる、あれは羽か?
羽を生やした小さな襲撃者は二つの眼光を光らせてこっちへ再び向かってきた、そんな単調な動き避けられんわけがない。
「−−−−ッ、ッッ!」
う、頭が、割れ!?
クソ、ったれがぁ!!
「い、っ!?」
頭を割るような音は収まる、こいつが出してやがったのか。
まさに超音波だ、こんな攻撃をしてくるやつがいるとはな。
俺は思いっきり叩きつけた羽を生やしフードを目深く被った襲撃者のフードを剥がす。
「ぅ、くっ!?」
「女!?」
しかも小さいぞ、色々と。
それに何だ、本来白目であるはずの部分が闇夜のように黒く黒い眼球のあるはずの場所が光沢と光彩を放っている。
「こん、のォ!」
「とりあえず黙れ!」
もうあんな音出されたらたまったもんじゃない!
口を塞いで少女の腕を後ろに組ませて身動きを取れないように関節技をかける。
背中に生えた羽がバサバサと動いてるが大して痛くもないからいいだろう。
俺はとりあえずこいつを手近な路地裏に連れ込んで事情を聞くことにした。
「ったく、お前は一体何なんだ?子供はもう寝る時間だぞ」
「こ、子供じゃないし」
「じゃ、チビ」
「チビって言うな!」
ったく、めんどくせー。
さっきの音出されても、あ、そうだ。
耳を気で覆っておけば防げるかもな、ちょっと試しに後でやってみよう。
「じゃ、何て呼べばいいんだよめんどくせぇなぁ」
「な」
「ん?」
「な、ナナって呼んで、いいよ」
.....何だろ、すげーめんどくさそうなことになりそうだ。
だって何でそんなにキラキラした目でこっち見てるわけ、さっきと明らかに態度豹変させやがって。
胡散臭すぎる、無理に事情を聞くよりも放置しておいた方がいい気がしてきた。
「あ、あの待って!」
「何でだよ!ていうかコロコロ態度変えやがって、俺は騙されないからな!」
「そ、それはもういいじゃん!とりあえず私の話聞いてよ!」
手をはーなーせ!
もうホントに何なんだよ、こっちとらさっさと帰って風呂に入りたいってだけなのに何で真夜中に見ず知らずの少女に絡まれなきゃいけないんだっての!
「お、お願い!私の家まで来て、それでボスと一回会って!」
「家?ボス??」
「そ、私の家はローグ街!」
「ローグ街...」
聞いたことある、ならず者や社会不適合者の住むディハルド王国の闇。
この少女がそこの出身、で今も住んでる、こりゃ完全にヤバイ奴ですな。
関わらない方がよさそうだ。
「お願い!ローグ街一の大浴場のある住処に案内するから!」
「よし、行こう!今すぐ行こう、君の名前は?」
「な、ナナです!」
「俺はホクヤ、よろしくね!」
俺ってチョロい!
だって入ってみたいじゃん、ここに来て大浴場なんて行ったことないし!
うむ、実に楽しみだ!
※
本来なら私は王国に行くはずじゃなかったのに、ボスがどうしてもっていうから仕方なく偵察に行った。
ま、目的は他にもあるんだけどそっちは終わらしたからついでよついで。
そこで事情を聞くに丁度いい、一人で夜道を歩く男に襲ったんだけど、これが強くて!
相手は酔ってる、完璧な奇襲!のはずだったのにあっさり防がれて捕まって!
くっ、殺せ!と言いたかったがよくよくその男の顔を見て体が火照っていくのがわかった。
−−−超私好み!
ヤバイ、まさかここまでイケメンだったなんて!!
ヤバイヤバイ、髪乱れてないよね、目はパッチリ開いてるよね、服変なとこないよね、胸は、初めから大してなかったんだ。
ていうか壁に押さえつけられてこんなことしか考えれないとかちょっとヤバイ?
男は帰ろうとする、え、帰さないわよ!
こんなイケメン逃がす手あるものですか!
とりあえず適当にボスと会ってとか口実使って家に招待しなきゃ、あとは自慢の風呂とか他にも自慢のことをって風呂で食いついたー!?
ヤバイ、イケメンは風呂を好むのか!
とにかくさっきから心臓がバクバク鳴ってるのが止まらない、聞こえたらどうしよう、羽まで動きおかしなことになってるし!
超恥ずかしいよぅ!
とにかく掴みは完璧、名前はホクヤ様!名前までイケメンなんて神様ってのは存在したのね!
私は生まれて初めて神様という存在に感謝したかもしれない!
もうとにかくどうでもいい!この人とならゴールインしちゃってもいいや!
表情に出てないかな、目泳いでないかな、ローグ街に戻るまで耐えきれるかわかんないけど、ナナは大人の階段を登るために頑張ります!!
長いようで短い道のり、ローグ街に何とか到着して一直線でボスのいるところまで向かった
そして扉を開いて、葉巻を吸ってるボスの前にまで連れてきた、一応そういう口実だったからね!
そして私の華麗なる偵察報告!!
「ボス!イケメン一人連れてまいりました!!」
.....あれ、もしかしてなんかやっちゃった?
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