野次馬が退き、ある程度落ち着いたギルドに俺とマクベス先輩は戻ることにした。
ジョーは何か気がついたらいなくなってた、ホントあいつは自由で羨ましい。
まず俺たちが目にしたのは入り口の左横に開けた大きな大きな穴だった。
しかも、これは蹴り破った跡なのかな、それとも殴り飛ばした跡なのかはわからないが多分王妃様のやったのだろう。
こんな姫様攫おうとする魔王とかいるなら見てみたい、勇者とか必要なさそうだ。
「おぅ、ホクヤにマクベス!戻ったか、ドーバスさんまだいるぜ!」
俺たちを迎えたのはパイル先輩、既に出来上がっておりノリが完全にそれそのものだった。
あれか、あのやたらデカくて存在感のあるあの人がドーバスさん。
長い髪に顎髭、ていうかマジでデカイな、二メートルはあるぞ。
もちろん獣の耳と短いようで長い尻尾も生えていた。
今はオヤジと二人で飲んでいるようだ。
「ったくいつも悪いなオヤジ。マラナ様がまた迷惑かけちまってよ、ていうかあの女の嗅覚はいつも思うがおかしいぜ」
「気にすんなドーバス。そのお陰で宮殿の奴らはオラ達に下手な手出しはできない、多少無茶しても許してくれんのよ。毎回壁に穴が空くのは敵わんがな」
え、まさかあれって結構頻繁にあることなの?
ていうかドーバスさん、あんたそれ樽だよ樽!
樽を器にしてそのまま飲むとかどんだけだよ!
「あ、おかえりホクヤにマクベスさん!何か飲む?」
「あー、じゃあ酒。マクベス先輩とパイル先輩もどうですか?」
「なら俺も少しもらおうか」
「俺はもう飲んでるけどなー!」
「りょーかい、適当に座って待ってて」
ミカに言葉に適当な席に座り、一人飲んでるパイル先輩は一人で勝手に楽しくやっており、俺とマクベス先輩は再び巨大な穴の空いた壁に目を移す。
うむ、あれってホントに人間業なのかな?
「−−−で、お前は何しに急に戻ってきたんだドーバス。お前ほどの奴が武道大会以外の日にここに来るなんて余程のことがあったんじゃないのか?」
「−−−大したことじゃないですよ、昨日興味深い気をここから感じることができたんでね。そいつを探しに来たんですよ」
この位置だとオヤジとドーバスさんの会話が聞こえてくる。
なるほどね、昨日は俺途中で寝ちゃってたからよくわかんねーんだよね。
俺が起きてる間はそんなことなかったから、そいつが現れたのは俺が意識を失う前になるわけだ。
あ、ミカが飲み物持ってきてくれた、いつもありがとう。
そう言うとミカは嬉しそうに体をくねくねさせる、どうした?
「心当たりないかなぁ、オヤジ。あんな特徴ある気を出す奴には一度会ってみたいものでね」
「心当たりと言われてもなぁ、昨日は建国祭真っ最中、しかも人は多いわ、ローグ街からゴロツキが暴れるわでそれどころじゃないっての」
「だよなぁ、特定なんてできるわけないよな。誰か探知に優れた奴いないの?」
「あのな、ドーバス。お前が感じた気をどうやって他者が同じように感じるんだ?名前とかはわからないのか?」
「あ、名前なら知ってるぜ」
うむ、やはりこの酒は美味いな。
何というか、癖が強すぎず弱すぎずにキンキンに冷えててアルコールが喉にしっかりと通ってくる。
「そうそう、思い出したよ!偶然それを感知した奴と会えて名前だけ聞いたんだよ、たしかホクヤとかって奴だ!」
ふんふん、ホクヤねホクヤ。
.....ん?ホクヤ??
「ホクヤならウチのギルドにいるぞ、ちょうどそこに座ってる白髪の」
「おぉ、あいつか!」
ちょっと待てー!?
「お、おいホクヤ?」
「マクベス先輩、俺なんかしました、ホント俺なんかしましたかぁ!?」
「え、あ、いや、何もしてないと思うが」
いやだっておかしいだろ!!
今代のアーサー王レオナルドさんに俺が予選落ちしたディハルド武道大会のチャンピオンドーバスが俺に用事あるとか、どゆことなのよ!?
いや、ホントにちょっと待ってほしいんだよ、心の準備というか何というかね、ホントにタンマ!
「お前がホクヤか、たしかにここまで来れば僅かにあの時の気を感じるな」
これは詰んだな、目の前にドーバスさんが仁王立ちしていた。
レオナルドさんとはまた違った圧迫感、気迫、そして戦闘用に鍛え抜かれた肉体はまさに本物。
チャンピオンの称号に相応しい男であった。
「お、俺に何か用ですか?」
「いや、用ってほど用じゃないんだけどさ。あの時の気をもう一回感じたいだけだ」
「あの時、の?」
「ん?もしかして自覚ないのか、あれだけ異質な力を持ってる奴なんてそうそういるもんじゃねぇってのに」
どういうことだ、俺にはドーバスさんが何を言っているのか全然理解することができなかった。
そういえばもう一つ不思議なことがあった、何故レオナルドさんは俺がフェバルであること、そして俺を見つけ出すことができたのだろう?
もしかして、昨日我武者羅になってわからなかったが何かをしたのか?
それがもしかして俺のフェバルとしての能力であり、ドーバスさんの言う異質な気の正体。
「そうか、ならこうしないか!俺からの提案だ!」
「て、提案?」
「おう!ホクヤ、俺がお前のその力を引き出してやるよ!」
.....え、それってつまり、え?
「お前を俺の弟子にしてやる!お前は強くなれるし、俺はあの時の気を目の前で見てみたい、利害は一致してるだろ?」
言っちゃったよ、え、チャンピオンが師匠に!?
いや、そりゃ強い人に教えてもらえるならそれでいいけどさ、酒場が何か騒然としてるんですけど!?
色々と急展開すぎてついていけない、ドーバスさんはニヤリと笑みを浮かべる、あ、嫌な予感がする。
「そうと決まりゃさっさと行くぞー!オヤジ、コイツ借りるぜ!」
「おっけー!」
「軽いな、オイぃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
そういうことで俺はドーバスさんに連れられてギルドを後にした。
数分後、国を出てドーバスさんの自宅にまで拉致された俺は初めて出る国外に驚きを隠せなかった。
「おし、とりあえずお前のことはホクヤと呼ばせてもらう!ホクヤは俺のこと師匠って呼んでくれよ!」
「は、はぁ」
一旦状況を整理したいのだが、どうもそんな雰囲気ではない。
「それで一つ聞きたい、皆の前だから言いにくかったとかそんなことはなくホクヤは本当にあの気について心当たりはないんだな?」
ドーバスさんが尋ねてくるが、これは果たして言っていいのだろうか?
レオナルドさんも知っているからジルフって人も話したんだしいいと思うけど、まぁ、この人なら大丈夫かな。
「できたら誰にも言わないでほしいです、俺自身も不確定なことが多すぎるので」
「任せろ、口は堅い!」
ホントかよ。
「実は、俺異星人なんです。ここの星とは違うとこから来て、フェバルって言葉に聞き覚えは?」
「ない」
「とりあえずそのフェバルになった者は星々を渡り歩く代わりに不死の肉体と強力な能力が与えられるみたいで。その強力な能力による作用なのかもしれないです」
「.....なるほど、わからん!」
えぇー!?
そりゃないっすよ、ドーバスさん!
俺もどこまでが本当かわからないから頑張って思い出しながらわかりやすく説明したつもりなのに!
「ま、とりあえずあれだ。ホクヤはまだその能力による力を引き出せずにいるわけだ」
「まぁ、そうですね」
「そうか、俺にはどうしようもないか!なら仕方ないな、だが一度弟子にしてやったからには戦い方はしっかりと教えてやる!」
「ドーバスさん」
「師匠って呼べって言ったろ!とにかくあまり難しいことは教えられないが次のディハルド武道大会でいい線いけるようにまではしてやる!」
な、マジっすか!?
たしかに気の扱いに関してはこの人の方が上手い、そして何より大会二連覇の実績もある。
色々と勢いとかで動く人みたいだけど悪い人ではなさそうだ。
それに、あの大会では絶対にぶちのめしたい奴もいる。
今は手段を選んでられない、それにドーバスさんから教えてくれると言ってくれてるのだ。
これ以上のチャンスや幸福はない。
「お願いします師匠!来年こそは本戦に出たいです!あいつを倒すためにも!」
「.....いい心意気だ!気に入った、ビシバシ鍛えてやるから覚悟しろ!」
「はい、お願いします!!」
というわけで俺はこの国最強の男に弟子入りすることとなった。
強くなれるかは自分次第、そして己を見つめ直してフェバルとしての能力を見つけるための一歩。
テンション、上がってきたぜ!
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