建国祭三日目。
昨夜なら朝までをギルドのベッドで過ごし、今は何とか歩けるまでに回復したので家に戻ったところである。
どうやら我が家への被害は少く、どこも破損してるところはなかった、よかった。
ちなみに何故か帰るときミカが顔を真っ赤にしてスゲェ睨んできた、何故だ、一体何に怒っていたんだ!?
そんなわけで俺は今自宅に帰ってきて風呂を沸かしている、早く入りたい。
昨日の怪我が完治したわけではないが、傷は全部塞がったため染みることもないから心置きなく入浴できる!
マクベス先輩が言うには気には自己再生能力を高めるタイプもあるらしい。
そこで気をなんとか体の周囲に放出ができるようになった俺の回復力が向上したとかなんとか、他にも何やら聞いたことない専門用語がたくさん羅列していた気がするが半分以上聞けてない!
だってわかんないし、無理に理解しようとする必要もない!
でも本当に気って応用が利くし汎用性高いし知らないこととかわかんないことが本当に多い。
昨日の奴なんか爆発みたいに使ってたし、あんな使い方もできるんだなぁ、実際。
もしかしたら俺にもできるかもしれないな、建国祭が終わったら色々と試してみよう。
お、お湯が沸いたな!
いやっほーい!風呂だ風呂だー!
服を脱ぎ捨てて右足からゆっくりと入っていく。
ぐぁー、この感じが癖になる!
酒持ってこればよかったなぁ、一杯欲しくなってくるぜ!
やっぱりほぼ丸一日入らないだけでここまで汚れるもんなんだなぁ、水も高いけど必要なことだから出費は仕方ないし。
この国が砂漠地帯にあるため、水の物価は正直いうと高い。
建国祭の出店で売ってる子供のお小遣いでも買うことのできる食べ物よりも五倍近くはするんじゃないのかな?
まぁ、でも傭兵してたら稼ぎはそこそこだから今は安定してる。
この星にやってきて三ヶ月ちょっと経つけどだいぶここでの生活も慣れてきた。
しかし、一体俺はいつまでここにいるんだろう、エーナさんの話によると不死の肉体で星々を旅するんだからいつかここから旅立たなきゃならない。
そんな日が本当に来るなんてとても思えない、実感も湧かない。
−−−やめだ、やめやめ!
先のこととかわかんねーことをうだうだ考えたって仕方ねぇ!
重要なのは今だ、今オヤジの元で先輩達と傭兵をしている!
それが楽しい、充実してる、それでいいんだ。
過ぎたことやこれからのことを考えると身動きが取れなくなっちまう、そう、今はこの風呂の気持ち良さを身にに染み込ませることが最重要事項なんだ!
はぁー、気持ちいぃ...
もう少しこの感覚を楽しんでいたいが、長風呂も健康にゃよくない。
適度に済ませるか。
「.....酒切らしてたか」
そういえば建国祭前に彼女に振られたとか言うパイル先輩が我が家に突撃してきて自棄酒じゃー!とか言ってウチの酒を朝まで飲んだんだっけ?
俺も一緒に飲んだからあれなんだけど、あの後の二日酔いは酷かったな。
っしゃーね、買いに行くか。
建国祭真っ只中だというのに昨日の事件のせいで人の数はかなり減っていた。
まぁ、それでも来てる人達はよっぽどの祭り好きなんだろうな。
ていうかこんな渦中に祭りを続行するっていう王も王なんだけどな。
ギルドに行けばそこそこの酒買えるか、いやダメだ!
今ギルドに行ったらパイル先輩に絡まれてミカにイチャモン付けられてオヤジにいじられる(気がする、多分)!
それに療養だって帰ったのにウロついてたら何してんだってマクベス先輩とアレンに説教されそうだ。
もうほとんど治ったてのに、念に念を押しすぎなんだよ。
−−−ま、その前にさっきからついてきてる奴の話も聞かないといけないんだけどね。
「俺になんか用?」
「えぇ、私自身はあなたにこれっぽっちの興味もございませんが。あなたはホクヤ・フェルダントで間違いありませんね?」
「だったら?」
この様子だと誰かの差し金か。
ていうかハッキリとモノを言う女性だことで、ちょっと傷ついたぞ。
「我らが王、アーサー王十二世がディハルド宮殿であなたをお待ちです。ご同行願います」
.....え、俺なんか悪いことしたっけ??
「なぜ身構えてるのですか?」
「い、いや、免罪で捕まるのはごめんだぜ」
「王はあなたを客人としてお呼びなのですが、もしあなたがそれを望むのであればビスティーブ牢獄の署長とお話しして入獄も可能ですが」
「え、何で可能なの!?」
「私の気分です」
「気分で国一番の牢獄に入れられてたまるか!とりあえず俺は客として呼ばれてるってことでいいんだよな!?」
「はい」
なんか疲れた、ていうか何であの人が俺を?
本当に身に覚えがない上に接点もない、こちらが一方的に知っているだけで向こうが知る機会はなかったはずだ。
ディハルド宮殿、今まで何度か宮殿街にまでなら来たことはあったが宮殿に入るのは初めてだ。
ていうか地下なの、なんかさっきから階段ずっと下りてる気がする。
「.....その割には階段一つ一つ短いな」
「初代アーサー王が極度の高所恐怖症であったがための設計です。宮殿が地下構造になってるのもその為です」
女性がわざとらしく舌打ちをする、それでいいのか初代アーサー王。
ていうか怖がりすぎだろ、さっきから区切り多いし、階段も十段もないぞ。
それなのに下層部に続いてるとか舐めてるとしか言うしかない。
あの建国祭一日目で見たアーサー王の印象しかなかったので、イメージが変わってしまった。
「この先の大扉の先で王がお待ちです。私の案内はここまでとなりますので、くれぐれも無礼のないように」
と、言って女性は足早に去っていった。
どんだけ俺から離れたかったんだよ、とりあえずこんな大きい扉でもノックはしないとな。
コンコン、っと。
「誰だ?」
「ホクヤ・フェルダントです、何か呼ばれたらしいので来ました」
「おぉ、ようやく来たか!入るがいい!」
あれ、この中にいるのってアーサー王だよね?
あの建国祭一日目で気迫凄かったあのアーサー王だよね?
まぁ、開けてみればわかるか。
ドアノブを思いっきり引いて扉を開く、その奥に堂々と座るアーサー王十二世。
あの時見た人物そのものが凄い間近にいた。
「お前さんがホクヤか、そんなとこでじっとしとらんでこっち来い」
「は、はぁ」
たしかに気迫は本物だ、あのときと全く変わりない。
でも、何だろう、何かが違う気がするのは気のせいだろうか?
とりあえず用意された椅子に座りアーサー王と向かい合う。
よく見てみるとこの人相当デカイな、それに年を取っている。
それでいてまだ凄まじい量の気が漲っているのがわかる。
俺は思わず固唾を飲んでしまう。
「どうも、初めまして」
「うむ、そういえば初対面であったな」
そういえばって、あんた。
「やはり我の目に間違いはなかった。あの男そっくりだ」
あの男?
アーサー王が勝手に一人頷いて納得してしまっているが、俺は全然話についていけない。
「なぁ、星々を渡り歩く旅人フェバルよ」
.....は?
え、今この人なんて言った?
「な、なんでそのことを...」
「見ればわかる。主がこの星の者でないことなどな、それにこの星を訪れたフェバルは主だけではない」
マジか、ここに俺以外のフェバルが来たことあるんだ!
想像もしてなかった、まさかアーサー王からフェバルの言葉を聞くことになるなんて。
「あの男、名をジルフ・アーライズと名乗っておった。我の友にしてかつて戦争を共にした仲だ」
ジルフ、聞いたこともない名前だ。
だけど、この人はフェバルについて何かを知っている。
俺が知らない何かを知っている、そんな気がする。
「アーサー王十二世さん、質問があるのですが」
「むぅ、何だか堅っ苦しいな。我のことはレオナルドと呼べ、本名だ!」
「レ、レオナルドさん。質問があるのですがよろしいですか?」
「許可する!」
「で、では、フェバルのことについてどの程度ご存知なのですか?俺はフェバルになって日が浅く、まだわからないことがたくさんあるんです」
「.....そうか、すまぬがあまり多くのことは知らぬ」
だよなぁ、俺も周囲に自分が異星人でーす!とか言って情報ぶちまけてるわけじゃないし。
知らない土地で過ごすこと自体がプレッシャーというか、落ち着かないのも事実だ。
そのジルフさんにもそんな余裕なかったんだろうな。
「−−−だが、フェバルは何か特異な能力が宿るとジルフから聞いたことはある」
「特異な、能力?」
「奴は【気の奥義】と言っておった。詳しくは語らなかったが、気に関するあらゆる理を覆すようなことを言っておったな」
何それ!?凄いのかわかんないけど、凄いのか?
でも、気ならフェバルでない人でも扱えてるから、他にない何かがあるんだろうな。
それに能力なんてそうそう他人に教えるものではないし、まぁ仕方ない。
ん、待てよ?
「じゃあ、俺の能力って何だ?」
唯一会ったフェバルであるエーナさんの言ってた【星占い】があの人の能力だとすれば、俺は一体何なんだ?
まだ全然わからない、もしかしてないとか?
そんなはずはないよな、でも思い当たる節が全然ない。
「主の能力は主自身が見つけるべきだ、主がわからぬことが我にわかるわけもないからな」
そうなんだけど、何だ?
この、モヤモヤというか落ち着かない感覚は?
「我はフェバルではない、だから何も助言することはできぬが焦る必要はなかろう」
「レオナルドさん」
「自分をしっかりと見つめなおして、自分と向き合えば然るべき形が見えてくるだろう。我が言えることはこれしかないがな」
自分と、しっかりと向き合う。
そうだ、別に焦る必要はないんだ。
見つけられなくとも何も不自由があるわけじゃない、生きていけないわけでも死ぬわけでもない。
「ありがとうございます、レオナルドさん。参考になりました」
「そうか」
レオナルドさんも笑みを浮かべる、そこからは二人で他愛もない話を続けた。
建国祭初日のアーサー王十二世としてではなく、レオナルドさんという一人の男と俺は距離を縮めることができた、そんな気がした。
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